忍者ブログ
Admin*Write*Comment
うろほろぞ
[51]  [52]  [53]  [54]  [55]  [56]  [57]  [58]  [59]  [60]  [61
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

q12







 

             『地平線の向こうへ』<12>


--------------------------------------------------------------------------------


  







「チェリは、――墓泥棒の村です」





言って、カシムはアルフレッドに黒い皮の手帳を差し出した。
それを聞き、彼は一瞬息を呑んだ。

あの後、彼等は適当な場所でアーメッドを下ろした。
そしてそのまま路傍に停車した車中で、ようやくカシムから詳しい事情を聞く事になったのだが。


「…墓泥棒の村?」

言って、運転席のメリッサは訝しげに眉を寄せた。
しかし、アルフレッドは厳しい表情で手帳をめくり、――しばらくして、天を仰ぐ仕草をする。

「…本当のようだね」
「…はい」
「ねえ、一体どういう事?」

そのメリッサの問いかけに、アルフレッドは一つ大きくため息をつき、複雑な表情になった。






「…古来より、身分の高い人間の墓には遺体と共に大量の副葬品――簡単に言うと、宝物が埋められていたんだ。
死者の眠る神聖な場所――といっても、何しろ埋まってるのは金銀財宝だからね。当然墓を暴いてでもそれを手に入れようとする人間もでてくる。そういう奴らを、墓泥棒というんだ」


「それは判るけど…」


「エジプトには古代文明があるから、宝物が埋まっている立派な墓が多い。それに比例して、墓泥棒も多かったみたいだね」



そう、大昔の墳墓や遺跡は、発見された時、既に盗掘に遭っていることも少なくない。

あの有名な、ギザのピラミッドも王の墓だと呼ばれている。
けれど、学者が初めて調査しようとした時には、もう既に墓泥棒の手に落ちていた。



「…僕等は今までにいくつもの宝を発見する事が出来た。
でも、それは本当に幸運が重なっただけだ。
本来なら一つの手付かずの遺跡を発見する事でさえ、奇跡に近いことなんだよ」


言って、アルフレッドは腹立たしそうに頭を掻いた。
彼等考古学者も、ある意味死者の墓を暴く、という点では墓泥棒と変わらないかもしれない。
けれど、人類史の再構成者である考古学者のプライドにかけて、金銭の為に貴重な墳墓を破壊することも辞さない墓泥棒は許すことの出来ない存在なのだ。

それに、メリッサは大きく首を傾げた。







「で?それがチェリ村とどう関係があるの?」


「つまり……村の人間全員が墓泥棒なんだ。村の周囲にある墓を盗掘して生計を立てている」


「!」



アルフレッドの言葉に、メリッサは息を呑む。


「そんな、この現代に?!」
「ゼロ卿みたいな例もあるだろう?あれは個人的な趣味の為にやっているみたいだけど、生活の為に今だ続けている人間も居るんだ」

「犯罪よ!?村ぐるみで、だなんて」
「実際は犯罪だけど、彼等にとっては農業や金属を採掘する感覚と同じだなんだろうね。
おそらく村の人の感覚としては、近くに埋まっている鉱脈の金銀を掘り出して売り飛ばす、…それだけなんだよ」


たしかに貧しい村にとって金銀財宝は何にも変えがたい収入になるだろう。
…手に届く範囲にそれがあるなら言わずもがな。
けれど、それは貴重な考古遺物を二度と光の当たらない世界に流すことでもある。







「……先祖代々、ずっとそうやってました。近くの遺跡の宝物を売って、最近ではオークションに流して高く売り払って…。
考古局の役人には、賄賂を渡して捜査の手を緩めさせています。
…それでも気付かれたら、村の人たち、気付いた人を皆、殺してしまいます。…それが、村の昔からのおきてだから」

カシムは俯き、きゅ、と唇を噛む。

「さっきの、アーメッド…彼が危険だ、と言っていたのは、チェリ村に不用意に近付いた人間が何人も帰ってこないことがあるからだと思います」



たどたどしい、カシムの告白。
しかし、その内容はとんでもないもので。






「…じゃあ、この手帳をギルト博士に渡せば」
「…本当は、そうです。けど、…今、Dr.タラールが、村の人に捕まってしまって」
「え…」


「お願いです、助けてください!」
「け、警察は」
「…多分駄目です。根回しがしてあるので、多少の事件では動きません」


「それはいつの事だい?」
「昨日の、夜です。Dr.はこの事件の詳細を書いた、この手帳を僕に渡して、逃がせてくれました」
「ちょっと、それじゃあ」



メリッサとアルフレッドの顔からさ、と血の気が引く。

外部に自分たちの犯罪行為がばれたなら、―― 一時も置かず、その裏切り者のタラール医師の命は無いだろう。
それに、彼はひとつ大きく首を横に振った。





「違います。ばれたのは――村の近くに在る、『隠れ家』の事です。今まで、僕と、Dr.タラールしか、知りませんでした」
「かっ『隠れ家』!?…そ、それは本当かい!!本当にあるのかい!?」
「はっ、はい!」

カシムの言葉を聞き、アルフレッドは目をむく。
勢い込んで少年の顔を覗き込んでしまい、カシムは驚いて一歩後ろに後じさった。





「アルフレッド、『隠れ家』って」
「…さっき、エジプトには墓泥棒が多かった、って説明したよね?
でも、同時に墓を守ろうとする人間――その家に代々仕える墓守たちも居た」

墓を見守り、その永の眠りを妨げる者を排除する。

「僕等が良く冒険で見るトラップも、むやみに踏み込む連中から墓を守ろうと作られたんだ。
けど、…そのトラップも所詮、人間の作ったものだ。
突破できない事は無いし、どんなに複雑な迷路だって、どんなに恐ろしい仕掛けだって、作った人間を買収すれば、それで終わりさ」
「まあ、そうね」



アルフレッドの言葉を聞き、メリッサはひとつ頷く。
実際、彼等はいくつもの遺跡のトラップを見てきているが、最終的にはそのどれもをくぐりぬけてきた。

人の作ったものには完璧の文字は無い。





「だから、墓自体を引っ越すこともあった。
…そして、色んな場所を墓泥棒の手から逃れるために転々とし、行き場を無くした死者達やその副葬品をいくつも集めて、目立たない場所にひっそりと隠す事がある」


墓の住人の眠りを守る為に、こんな所に墓があるとは思わない場所を選び、こっそりと隠しておく。地下に穴を掘って、わざわざ埋め戻して何もなかったかの様に見せかけることすらあるのだ。



「行き場を無くした、死者たちの『隠れ家』、というわけさ。
だから、『隠れ家』は今まで見つかっていない、貴重な考古学上の資料になるんだ」

言って、アルフレッドは興奮したように目を輝かせる。
無傷の『隠れ家』が見つかる、と言うのはそれほど凄いことなのである。






「…僕が、2年前に村はずれの岩山の割れ目に誤って落ちた先が、『隠れ家』と繋がっていたんです」

カシムは言って、目を伏せる。


「けど、Dr.はその頃から村の行為を良く思ってなかったので、村の誰にも言わなかった。
村がそれを知れば、『隠れ家』のミイラや副葬品は、ごっそりと闇に流れてしまいますから。

けど、…それを隠していた事が、ばれて。多分、今はその場所を喋らせようとしていると思います」
「…――」



それを聞き、アルフレッドは、深い安堵と、まだ逢ったことの無い医師への感謝の念を憶える。

そして、暫し考え、顔を上げた。



「とりあえず、この手帳をギルト博士宛てに郵送するよ。…流石にチェリ村の人間も、郵便局までには手を回していないだろうし、僕が持っているより安心だ。

そして、急ぎ電報でギルト博士の方から、エジプト考古局に、チェリ村へ警察を動かしてもらう様に働きかけてもらおう。…早くとも、明日の朝になるだろうけど。
それから僕達は今から――」


「Dr.タラールを助けに、チェリ村に行きましょう」



メリッサの毅然とした言葉に、アルフレッドは一瞬戸惑ったような顔になったが、――すぐに頷いた。
このまま明日の朝を待っていたら、『隠れ家』も、人一人の命も危ない。

それに――親友の手がかりも、途切れてしまう。




「ありがとう、ございます…」
「大丈夫よ。…貴方とDr.しか知らない、って事は、逆を言えば、まだ喋っていなければDr.タラールは無事よ」

カシムは俯いて、唇を噛んだ。今にも泣きそうな表情で、ぎゅう、と拳を握り締めている。
メリッサは優しく肩を叩くと、柔らかく微笑んだ。
それに、カシムも顔を上げる。――と。








「そうですね。…それに、彼も居ますから」
「え?」










「少し前、発掘をしていた谷に、外国の飛行機が落ちました。

本当なら、盗掘現場を見た人は、殺されるはずなんですが…幸い、Dr.と僕が最初に見つけたので、操縦をしていた人を、飛行機から運んで村の人たちから隠したんです」











ばさっ。

手の中にあった、黒い手帳が地面に音を立てて落ちた。


























「村の人は『操縦者は死んだ』というDr.の説明に、最初は訝っていましたが、今は飛行機を修復して売る方が重要のようで、何とかごまかせました」






















「――…」




「優しくて、頼りがいがあって、飛行機と空と、冒険が好きな人です。沢山、いろんな国の話をしてくれました」


























口の中が、乾いていた。








「彼はDr.を守ってくれると、約束してくれました。…だから、大丈夫です」


























「…彼の」
「――――彼の」


――アルフレッドの言葉を遮り。










































「――――彼の名前は?」






メリッサが、カシムに問うた。
























振り向かなかったアルフレッドには、彼女の表情は見えなかった。











だが―――――その声は震えていて。












































それにカシムは、にこり、と微笑った。




































「Mr.モンタナ・ジョーンズ」









 
 

next back












広告 ■★ 給料カット!借金どうしょ?副収入探し! ★■ 通販 花 無料 チャットレディ ブログ blog

PR







 

             『地平線の向こうへ』Interval4(2)


--------------------------------------------------------------------------------


  




「なーるほどな。…それで、カシムの『この村からは出られない』発言か」








全ての詳しい話を聞き終わり、モンタナは深い息をついた。
それに、目の前の眼鏡をかけた中年男は、すまなそうに顔を伏せる。
その横顔には深い皺が刻まれ、髪の毛にも白いものが混じっていた。




「…どうにか、貴方の存在は家に隠す事が出来ました。そろそろ動けるようになりましたから、逃げることは出来るでしょう。
けれど、飛行機までは。…すみません、こんなことになって」

彼の教養の高さが伺える、流暢な英語での謝罪の言葉。
それに、モンタナは慌てて頭を振った。



「いや、命を助けて貰っただけでも感謝しても仕切れない。先生とカシムに非はねえよ」
「今、飛行機は村の技術者が修理しています。…売るにしても動かなければ、話になりませんから」
「ありがたいやら、ムカつくやらだがな」

イラついたように目を伏せ、彼はぼりぼり、と頭を掻く。そして、タラール医師の方を向いた。


「…まあ、それはともかく。タラール先生、このまんまでいいのか?俺を助けたこと見つかったら」
「………実は、君が来る前から考えていたんですが、…私は、この村を告発しようと思ってるんです」
「告発…って、役人に話しても無駄だって、さっき」
「ええ。でも、それは国内末端の役人です。
ですから、先月、海外の考古学の権威と連絡をとりました。その人を通じ、国外から政府に直接告発すれば、きっと」
「内から駄目なら外から、って訳だ」

彼の言葉に、タラールは頷く。


「そして明日、――私が先日『隠れ家』から幾つか証拠の品を持って、その人物の代理人との接触をする予定です。
そして、情報提供の見返りに、――カシムと私のアメリカ亡命の援助を約束してもらっています」
「なるほどねえ」


その言葉に、モンタナは感心しきりの表情になった。
タラールはそれに複雑な笑みを浮かべる。








「…自分の生まれ育った村を裏切る、というのはいい気分はしませんね」
「先生は間違っちゃいないさ。こんな事、続けていい訳がない」

「ええ、でも…先祖代々、我々がこんな愚かな事を続けていたのも理由があるんです」
「…え」
「……これが公になれば、この村の困窮は更に大きくなるでしょう。大きな収入源の一つがなくなるんですから」

それに、モンタナははっと顔を上げる。
病院も無いこの辺境の村では、日々の暮らしがやっとの人間も多い。
続けて良い訳は無い――それを簡単に言えたのは、モンタナが異国の人間だからだ。
気まずそうに、軽々しく物を言ってしまった口を押さえた。しかし、タラールはそれを見、静かに微笑する。






「いえ、貴方のいう事はもっともです。…こんな事、続けてはいけない。
養子にしたカシムの将来の為にも、…今後の村や、わが国そのものの為にも」





「…」


言って、壮年の医師は微笑んだ。その物柔らかな笑顔の中には、堅い意思が感じられる。
それに、彼は尊敬の念を込めた息を吐いた。


「その時に大使館に掛け合って、貴方も何とかアメリカに帰してさしあげますから」
「…ケティは」
「心配要りません。村の人たちはいつもの裏オークションで売却する予定のようですから、告発が上手く行けば、訴えて一緒に取り戻してさしあげます」
「そうか」



その言葉に、モンタナは安堵の表情になる。














――と。











『~~~~!!』

聞き覚えのある声が聞こえ、彼らは慌ててドアの方を振り返った。

『カシム!?~~』
『~~~』

息せき切って走ってきた少年は、非常に慌てた様子で何かをまくし立てる。
残念ながら会話は現地語で、モンタナは聞き取る事が出来なかったが、何か抜き差しならぬ事態が起きたことだけは理解できた。

「先生、カシム、どうしたって言うんだ」
「村の人間に、『隠れ家』の存在が知れたらしいんです。
明日証拠品として持って行く物を、カシムに持ってきて貰ったのですが。それを見られて、取られたと」
「何だって!」




「…村長が、どこからとってきたか場所を教えろ、と。言わなかったら、…殴られた。だから、逃げてきた」

よく見ると、カシムの顔には薄く痣が出来ていた。それに、モンタナは舌打ちする。
同時に、ドンドン、と家のドアが乱暴に叩かれた音がした。




『タラール、~~~!!』
『~~』

外から響く怒鳴り声に短く応え、タラール医師はカシムの頭を優しく撫でた。
そして、彼の手に一つの黒い手帳を落とす。




「カシム、これを持って裏から空港に行きなさい。歩いて行っても、明日の朝には着く筈」
「Dr!?」
「博士の代理人に逢いなさい。時間は私が稼ぎます」

言って、タラールはカシムを裏口の方に押しやった。
彼は戸惑ったようにタラールとモンタナを交互に見やる。

「こっちは大丈夫だ。先生は俺が守ってやるから」
「モンタナ」


ウインクをしてカシムの肩をたたく。
それに、少年は一瞬逡巡したものの、すぐに頷き走り出した。





少年の小さな背が見えなくなり、ドアを叩く音が激しくなる。
それに、彼等は顔を見合わせた。



「モンタナさんは――」
「どっちにしろ、踏み込まれたら俺が居るのはバレるだろ。それに、こういう荒事には幸か不幸か慣れてるんでね」

言って、彼は傍にあった天秤棒を掴み、ドアの脇に身を潜める。
相手が銃を持っていたならかなり心もとないが、不意をつけば2・3人はなんとかなるだろう。
彼が目線でドアの方を示し、一呼吸置いて同時に二人は頷く。






――そして、タラール医師はノブに手を掛けた。





 
 

next back












広告 ▲▽▲ 夢のよう! 自宅で毎月7ケタの副業収入!? 通販 花 無料 チャットレディ ブログ blog








 

             『地平線の向こうへ』Interval4(1)


--------------------------------------------------------------------------------


  



カーテンを閉め切った、暗い土壁の部屋の中で。





「モンタナ、この単語はなんという意味ですか」
「ん?」

首をめぐらすと、そこにはくしゃくしゃになった紙切れのようなものを見つめているカシムが居た。
それに、モンタナは一瞬瞠目する。






「…それは」
「はい、モンタナの上着のポケットに入っていました。アメリカの新聞の記事ですよね」


にっこり、と笑い、カシムはモンタナを見上げた。
しかし、彼の強張った表情を見てしまい、その笑みはしぼんでしまう。



「…読んでは、いけませんでしたか」
「いんや…そうじゃないさ。貸してみろ」


困ったようなカシムの目に、彼は慌てて笑みを作った。そして、カシムの褐色の指が押さえていた単語を読んでやる。かさり、と乾いた紙の音がした。




「『engagement(婚約)』――結婚の約束、だな」
「アルバート氏とこの写真の女性、がですか」

訊かれ、彼はぐ、と唸って口を引き結ぶ。
それに、カシムはいよいよ訝しげに眉を寄せる。彼は暫し宙に視線を泳がせた後、搾り出すように息を吐いた。



「…似合いだろうぜ、名家のお嬢様と実業家」
「そうなんですか?」
「ああ」

言って、面倒くさそうに彼は手を振った。
カシムは暫く記事とモンタナの顔とを試すがめつ見比べていたが、やがてううん、と唸る。


「その人たちの相性もありますし、一概にはそういえないと思いますけど」
「…」
「大事なのは本人達の気持ちだと思います」






正論過ぎる正論。
幼さゆえか、何の衒いもなしに真面目に言うカシムに、彼の胸の底はぴり、と痛んだ。


たしかに、その通りなのだ。
その通り、なのであるが――









「……」






駄目だ。
どんどん自分が思考の泥沼に嵌っていくのを感じ、彼は頭を抱える。


ああ、格好悪い。悪すぎる。

結局、自分は馬鹿げた嫉妬とちっぽけな自尊心を守る為に、彼女から逃げ回っていただけなのだ。
その結果が、今回の事故。…情けなすぎることこの上ない。







どんなに、言い訳をつけて突っ張ってみても。
どんなに、逃げ回ってみても。

最終的に彼の心は、いまだ『恋』という悪魔の手の中で、何の解決もしていない。

こんな風に、何気ないカシムの言葉で不必要に苛立つ程。




事実――言い訳の仕様が無いほど、ふとしたことで彼女が頭に浮かぶ。





質素な部屋の隅に紅茶の缶を見つければ、いつぞや彼女が淹れていたものだ、と思い出す。
窓の隙間から入って来た砂を見れば、いつか砂漠で死にかけた時の事を連想する。

――情けないほどに。


…自分がここまで、どっぷりと泥沼に入り込んでいるとは思わなかった。







それでいて、ぐだぐだ慣れない理屈をこねてみた挙句、この様だ。
「彼女の為に」――そう、呪文の様に唱え続けていたのは、結局「自分の為に」という醜い思いを隠す為で。


この数週間の自分の所業の所為で、得たものは、額と左肩の怪我だけだった。

地位や、名誉や。
それ以前の問題で…自分は、自分が思っていたよりずっとちっぽけで、――馬鹿な男だったらしい。











あれから何日も経ち、ようやく冷えてきた頭で理解できてきたこと。
でも、――それは自分で認めるには、あまりに痛い事実でもあった。



























――――と。







「『いずれすべては砂の下』」
「?」
「Drタラールの口癖です」

言って、カシムはにこり、と笑った。










「確かに、先人は素晴らしい文明を築きあげ、富を得ました。…けれどどんな権力も金銀も、今では砂の下」




名誉より、金より。
誰にも恥じることなく胸を張って生きる。それに勝る宝は無い。










「だから、結局は、人間の心が一番大事だと、僕は思います」















真っ直ぐな、言葉。
まるで眩しい、空のような。

彼が焦がれて止まない――地平線の色。
























『いずれすべては砂の下』。
彼の苦手な、学術的で哲学的な色を帯びた言葉。
しかし、その言葉は、――彼にも理解できる気がした。




飛行機に乗っているとき、眼下の都市がまるでミニチュアのように見える。
N.Y.の自由の女神も、パリのエッフェル塔も、手に乗るような小ささで。

あの、世界の全ての色を集めた様な綺麗な空の上に居る時は、――人間の作り出したものなんて、酷くちっぽけなものに見える。

それでも、あの一つ一つの灯りに価値があると思えるのは、そこに人が住んでいるからだ。
そこに住む人間がどう生き、どう死んでいくか。
それが一見無機質な都市に、酷く美しい煌きを与えている。

























あの、――恐ろしいほど美しい、天と地の狭間の世界で見える煌き。




…いつか、野垂れ死にしそうになった砂漠で見たひかりの様な。


































「…――」







すとん、と。
何かがささくれ立った心の中に、落ちてきた気がした。






























「…そうか」




「モンタナ?」
「いんや…」

訝しげに首を傾げるカシムに、彼はようやく柔らかく微笑う。
それに、カシムも表情を緩めた。

カシムから記事を受け取り、彼は薄くその空色の目を細める。
彼は手の中のそれを一瞥すると、くしゃり、と丸めて、それをゴミ箱に投げ捨てた。












――久々に、彼はあの青い空の上に居る気がした。











 
 

next back












広告 子育てしながら、在宅であと5万円ほしい! 通販 花 無料 チャットレディ ブログ blog

q11







 

             『地平線の向こうへ』<11>


--------------------------------------------------------------------------------


  






「その質問にはお答えしかねますな、ゼロ卿」




粗末な土壁の屋敷の中で対面した、慇懃に微笑む褐色の肌を持つ壮年の男の言葉に、ゼロ卿は不愉快そうに眉を寄せた。


もともと彼は、商売人然、とした人間は好きでは無い。

あの手の人種は、知的探究心や芸術的な存在に意味を見出さず、しばしば損得勘定をすべての基準に考えるからだ。
そうでない人物も勿論居るだろうが、少なくともゼロ卿はそう思っていた。
目の前の男は、そういった彼の嫌いなタイプの男だった。



「答えかねるとはどういうことかね、ハシード村長」
「私は考古学的遺産に興味のある方は好きです。
わが村は、貴方様のような方を近隣の遺跡に案内することが、大きな収入源の一つなのですから」
「ならば、どうして」


「その土地の遺跡は、その土地の民のもの」



言って、ハシードと呼ばれた男は物柔らかに目を細める。



「我々は、それを管理する権利がある。あなた方にはその一端を公開しているだけ。
…当然、どれを直接お見せするか、というのも我々の判断ということです」

「…」



その慇懃無礼な態度に、彼は微かに鼻を鳴らし、唇を引き結ぶ。
コツコツ、と椅子の肘置きを神経質そうに人差し指で叩いた。

その様子を見、ハシードは肩をすくめ、笑う。それに、ゼロ卿はため息をついた。




「……まあ、我々を介して一部のみ、というのであれば話は別ですが」
「それも、収入源の一つですかな」
「ええ、そうです。先祖代々のね」


ゼロ卿の鋭い言葉に、彼は怯まず笑顔を崩さない。





狸め。
思って、ゼロ卿は舌打ちする。



「どうです?いい物をご紹介いたしますよ」
「…いや、結構」


息をつき、椅子の横に掛けておいたステッキを手に取り、彼は席を立った。
それに、ハシードは意外そうな表情になる。

「お帰りですか」
「ああ」
「それではお見送りを」
「結構だ」
「残念ですな。それでは、また今度、という事で」


気が変わるのを待っていますよ。
ハシードが背中にそう声を掛けるのを聞きながら、ゼロ卿は眉間に皺を寄せながらハシード家を出る。
その前には、一台の車が停まっていた。


「どうでしたか」


顔を出したのは、初老の眼鏡をかけた小太り男。
しかし、ゼロ卿の表情を見、今の交渉が決裂した事を知り、小さく肩をすくめた。


「しかし、なんでまた科学者の儂が運転手まがいのことをせにゃならんのですか。
…メカローバーの機器類点検がまだ終わっていないのですぞ」
「スリムとスラムがおらんのだ。仕方あるまい。そういえばあいつらの首尾は?」
「まだ連絡がきておりませんな」

ばたん、と乱暴にドアを閉め、ゼロ卿は更に渋面を深くする。

「やはりあの峡谷を虱潰しに探すしか無いようだ。メカローバーの調整を急げ」
「はっ」

内心、科学者の苦労も知らず勝手なことを、といつもの台詞をぼやいたニトロ博士だが、それを口には出さずにアクセルを踏み込んだ。
ぶるん、と大きな音を立て、車が発進する。


窓の外の先程まで居た土壁の粗末な屋敷をねめつけ、ゼロ卿はふん、と再び鼻を鳴らす。




「遺跡は我々の物、だと?」







ふざけるな。



「世界の考古学的遺産は、全て私のものだ」


呟き、彼は座り心地の良くないレンタカーのバックシートに背を預けた。








 
 

next back












広告 新車購入資金が出来ました、この副業で! 通販 花 無料 チャットレディ ブログ blog

q10







 

             『地平線の向こうへ』<10>


--------------------------------------------------------------------------------


  



「おーい、こっちこっち!」
「アーメッド!」




翌日、降り立ったエジプトの空港で手を振っていたのは、小さな商売人アーメッドだった。



彼の姿を認め、アルフレッドはメリッサと共にそちらに歩いていく。彼も小走りに人の波を器用に掻き分け、彼らの元にやってきた。




「どうしたのさ、一体。急に車用意しておいてくれ、なんて。
今回もギルト博士の指令?…にしちゃあ、なんでケティで来てないんだよ?」



彼は開口一番当然、といえば当然の疑問を二人にぶつけてくる。
しかし、何から話していいものやら。
思って、アルフレッドは困ったように曖昧に微笑んだ。


「それが、…、いや、それより、人を探しているんだ。Dr.タラールって人物で…ここで待ち合わせているんだけど」
「医者?何でお医者が?」
「さあ…ギルト博士のレコードではその人に会えって」

ふうん、と頷き、アーメッドは辺りを見回す。それに伴い、アルフレッドも一通り、周辺に目を配る。




しかし、彼らを探しているようなめぼしい人物はどこにも見当たらない。
相手はギルト博士と連絡を取っているはずだ。当然、待ち合わせ相手のアルフレッドたちの特徴も聞いているはず。
なのに、彼らを探していそうな人物も、彼らの元にやってくる人物もどちらも見当たらない。
それに、アルフレッドは不思議そうな顔になった。


「うーん、困ったな。彼に会わないと」
「で?今回のお宝は一体なんなのさ!うう、わくわくするなあ」
「ああ…今回はお宝じゃないんだよ」

言って、アルフレッドは苦笑する。この小さな商売人は、何度も彼らの冒険についてきては自分の商売のタネにしようと狙っているのだ。
まあ、何度もその要領のよさと、エジプト周辺の地理の詳しさに助けられたこともあり、それを頭からとがめる事は出来ないのだが。



「え?じゃあなんなのさ?」
「なんでもその人がチェリ村の秘密を告発したいって――」




瞬間、アーメッドの笑顔が凍った。




「!」
「?アーメッド?」
「ちょ、ちょっちょっと二人ともこっち来て!!」
「きゃあ!」
「な、なんだい、一体!」

二人の抗議も聞かず、アーメッドは二人をずるずる、と手を引き、空港の隅に連れて行く。
それに、アルフレッドは大きくその目を見開いた。

「ちょ、ちょっと、Dr.タラールに会わないと――」
「とりあえずこっち!」




手を引く彼に、アルフレッドは慌ててアーメッドに声を掛ける。
しかし彼は有無を言わせぬ真剣な態度でアルフレッド達を引っ張っていった。


そして、人気のないことを確認し、アーメッドは二人に向き直り、声を潜めて話し出す。





「い、今チェリ村って言ったかい!?」
「うん、それがなにか――」
「あそこはやばいんだよ!いくらギルト博士の指令だって無茶だ!」
「?」

アーメッドの言葉に、彼らは思わず顔を見合わせる。それに、アーメッドは厳しい表情で二人を見た。

「どういうこと?」
「どうもこうも!あそこは――」

聞くメリッサに、アーメッドは大きく手を振り――







「まてっ!このクソガキっ!!」
「待つんだもんね!」



聞き覚えのありすぎる男たちの怒鳴り声に、彼らははっと顔を上げた。

その視線の先には、痩せ型と太目の二人の男に追い回されている、褐色の肌の少年の姿があった。


「――す、スリムとスラム!」

『~~~~!!』

アルフレッドの判らない現地の言葉で何事かを叫び、彼は必死でその小柄な身体を利用して人ごみを縫い、彼らの手から逃げようとしている。


「た、助けて、って言ってるよ!」
「な、なんとかしなきゃ」
「え、ええ!」
「二人とも、あっち!あの子を誘導してくるから、車宜しく!」


アーメッドが投げてよこしたキーを受け取り、アルフレッドはメリッサと二人、慌てて彼がの用意してくれていたレンタカーのある入り口を目指す。
そして、アーメッドは大急ぎで少年の元に駆けて行った。



『助けてやる!こっちだ!!』
『!』


現地語でそう叫び、アーメッドは少年に大きくこちら側へと手招きをする。
それに追い詰められかけ、絶望感が漂い始めていた少年の表情が、ぱっと明るくなった。


「あっ!アイツ前にもギルトの弟子どもと一緒に居た!」
「両方掴まえろ、スラム!」


スリムの言葉に頷き、スラムはその大きな腕をアーメッドの方に伸ばす。それを通行人の間に滑り込むよう、紙一重でアーメッドはかわした。


大体、ここは空港。小柄な少年たちの身体はごったがえす沢山のモノと人で紛れ、大人とはいえ、たった二人で掴まえるのは至難の業。
先刻からこの凸凹コンビが褐色の肌の少年を結構長い間追いかけているのも、その所為である。



『あの車に乗るぞ!友達の車だ!』


どうにかこうにかスリムとスラムの追撃を回避し、二人は空港の入り口までやってきた。


その向こうには、自分が手配しておいた青いバンが止めてあり、後部座席を空けて、中からメリッサが手招きをしている。
荷台に乗せた彼らの荷物と、運転席に着いてキーを回しているアルフレッドを見留め、アーメッドは車を目指して少年の手を引いた。


「急げ!」
「あーーーー!ギルトの弟子どもだもんねっ!!」
「ちっくしょう!よくも俺たちを騙しやがって!この上、チェリのお宝の手がかりまで掻っ攫っていかれてたまるか!!」

叫んで、スリムは手近にある観光客の台車着き荷物を奪い、アーメッドの方に投げつける。
荷物は弧を描き、勢い良く彼らの前を遮った。

「うわっ!」
「掴まえたもんね!!」

瞬間足を止めてしまい、スラムに少年の二の腕を掴まれる。その力の強さに、少年の足が宙に浮いた。

「離せ!」
「無駄だぜ!」

アーメッドがその足を蹴るも、子供の力ではびくともしない。
スリムはそれを見、安心したように笑い――



パコーン!!


刹那、景気のいい音がし、スラムの顔面にメリッサが投げた本がクリーンヒットした。

『二人とも!早く来なさい!!』
「メリッサさん、ナイスフォロー!!」
「ああっ、僕の本が!!」
「つべこべ言わないで!!車出しましょう!」


喜色満面で、アーメッドは顔の痛みに思わず手を離してしまったスラムから少年を奪回し、一目散に車の荷台に駆け上がった。

途端、車が急発進する。その勢いの良さに、彼らは思わず荷台に転がった。


「待てーーー!!」

背後で凸凹コンビが喚く声が聞こえる。しかし流石に相手が車には追いつけない。
彼らが遠ざかっていくのを見、アルフレッドは安心したように息をついた。


「…ああ、あの本最新刊だったのに」
「もう、今度弁償するから!…大丈夫?二人とも」


メリッサの言葉に、二人は肩で息をしながら頷いた。
そして、追いかけられていた少年は彼らをかわるがわる見、困惑したような顔になる。それを見留め、メリッサはにっこりと微笑んだ。

『ああ、私達は怪しいものではなくてよ。彼らを完全に撒いたら、家に連れて行ってあげるから』

「…どうも、ありがとうございました!」



彼女の言葉に安心したのだろう。表情を緩めた少年はカタコトの英語で礼を言い、ぺこり、と頭を下げる。
それに、彼らはきょとん、とした顔になった。


「あ、あんまり、早口では無理ですが、すこしなら」
「そっか。でもどうして君はあいつらに追いかけられてたんだい?」

当然といえば当然のアルフレッドの疑問。
しかし、それを聞いた少年の表情はやや曇るのを見、彼は目を瞬かせた。



「ねえ、僕は一介の考古学者だけどさ、できることがあれば力に――」
「…考古学者?」
「うん。紹介がまだだったね。僕は、アルフレッド・ジョーンズっていう考古学者で」
「!!」
「?どうしたの」
「――ジョーンズ博士ですか!?ギルト博士の弟子の!!」

突然の少年の言葉に、彼らは思わず息を呑む。

「あ、ああ。そうだよ」
「僕、あなたたち、まってました。――僕が、Dr.タラールの代理人です」
「ええっ!」

三人の驚いた声に、少年は一つ頷く。
そしてその黒い瞳で、彼らを真っ直ぐ見据えた。





「僕は、カシム。……チェリ村の人間。
――ジョーンズ博士、…Dr.タラールと、あの人を助けてください」






 
 

next back












広告 <☆幸せになる♪自宅deお仕事☆彡> 通販 花 無料 チャットレディ ブログ blog

  • ABOUT
うろほらぞ
Copyright © うろほろぞ All Rights Reserved.*Powered by NinjaBlog
Graphics By R-C free web graphics*material by 工房たま素材館*Template by Kaie
忍者ブログ [PR]