028「抱擁
― ところかわればしなかわる。 ― 」
たとえ心と身体に消えない傷を持とうとも
その細腕で刀を操ろうとも
本質はひとりの娘にすぎない・・・―――
とはいいつつも梅喧にも苦手なものはある。
たしかに何度も手合わせをしている関係がてら顔見知りも増えた。
友人とは彼女自身が認めようとしないがそれに近い存在もたくさんできたように思える。
ただ"普通の友人"とちがうのは決してなぁなぁな間柄ではないこと。今でもこうして時折剣を交えること。そういったことだろうか。
ただ、ジャパニーズである梅喧にとって日本文化は馴染みがあるのだが、どうしてもこの外国の慣習だけは苦手なのだった。
「あーっ梅喧さんだ~!わ~いっ!!」
と、久々に会ったメイが顔見知りの側にかけよってきた。
「・・・おう、ちんくしゃ・・・」
「ひっさしぶり~っ!!」
と言うが早いが再会の抱擁。
思い切り抱きしめられて「ぐえ」と梅喧が変な声を上げた。
それから両頬の近くでキスをするのだ。言われるまでもなく西洋流友人同士の挨拶。
「・・・わわっ!?あのなぁ、それやめろといってるだろうが!」
「え~?だって久しぶりに会ったんだからいいじゃない~!?」
とは口で言っているもののまだメイはいい。
まだ女同士抱きつかれても所詮はお遊戯のようなもの。気安いものである。
問題はそれ以外だった。
「こまんたれぶ、まどもあぜる?」
例えばスカしたフレンチとか。
「ないすつーみーちゅー、まいきてぃ?」
例えばお調子モノのイングリッシュとか。
「はうづゆどぅー、ぷりんせす?」
例えば能天気なアメリカンとか。
「う・・・うわぁっ・・・!!?」
しかも揃いも揃って<見た目"だけ"なら>(強調)イイオトコ揃いである。
そんなのが満面の笑みをたたえて両腕を広げて迫ってくるのだ。
「来るんじゃねぇー・・・っ!!」
その上こちらが悲鳴を上げているにも関わらず思い切り抱き寄せて頬、耳の側で口付けのような音をたててくれるのだ。
「きゃぁぁっ!?」
お、本邦初公開的女性らしい悲鳴!!
「やめろってんだ、この変態!!」
軽やかな音が青空に響いた。
「・・・いたた・・・だからって張り手はないんじゃないですか、張り手は?」
「そうだよ、再会を祝してハグしてほっぺにビンタなんてワリにあわねぇぜ?」
「右に同じだ。もうすこし歓迎してくれても撥は当たらないと思うがな?」
と、殴られた男共ことカイ、アクセル、ジョニーが頬を押さえながら文句を言っていた。
「やかましい!てめぇら日本語話せ、日本語!!」
そういえばなぜかひらがな発音で話してたな。
しかもこちらの動悸がおさまらないうちに。
「ま、そりゃともかく。そんじゃ、はじめようか。」
なんて試合開始になられたって。「ちょっと待て!」
「ん?だってそのつもりなんだろ?」
「この状況で集中できるか!!」
これじゃぁ実力が出せるようになる前に時間もかかるというものだ。
というわけで。
「やっぱ貴様が一番組みやすいな!」
と梅喧が珍しく笑いかけた。「さ、はじめようぜ?」
「あ゛?」
ソルが不満と不可解といった表情でたずねかえした。
「どういう意味だ、おい?」
「そのまんまの意味さ。」
再会しても挨拶もロクに返さない男。
抱擁されないぶん気が楽だ。
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