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うろほろぞ
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胸の奥に、柔らかいものが触れた気がした。
 ああもうそんな時間かと、壁の時計を見やる。バーには珍しく、振り子が揺れるアンティークな作りの時計だ。
 「だからね、…ってどうかしたかい、退屈?」
 グラスを手に熱弁を振るっていた盟友は目敏くその視線に気付いたらしい。
 「いや」
 唇から放した葉巻を軽く振って、話の続きを促す。
 今日限り親子の縁を切ると、言い渡したその時に娘は不思議そうに小首を傾げて言った。判りました、でも、それでもお父様はお父様ですわ、と。
 「それとももうお眠かい、アルベルト?」
 話の続きを聞きたくてそうした訳ではない事を感じ取ったのか、セルバンテスが身を乗り出す。
 「誰がだ」
 それはもう、当人は素直に言葉に従うつもりだったようだが、実質は真っ向から逆らっているようにしか思えない対応で。少女というのはこういうものかと。
 「ああそう。それで、っとどこまで話したかな?…えーと」
 いささか呆れている父親の目を、黒目がちの瞳で見上げ。
 だからいつでもご無事を祈っております、と宣言した。そうしてかつてその母がしていたように、眠る前の一時をその祈りに振り当てている。
 それがおよそ日に一度心に触れる柔らかな何か。今よりも遥かに幼い日、甘えて頬に触れてきたあの掌に似た、感触。規則正しい生活を偲ばせる、その祈りを感じる度に。
 夜まだ浅いあの島の有様を、思い出す。


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