秋の柔らかな陽光が大きな窓から差し込んでいる。
この部屋の主である樊瑞は会議中で今はいない。
退屈なサニーは陽光の匂いに惹かれて部屋へと入り込んだ。
本日は正装で出かけているのか、樊瑞のトレードマークでもあるピンク色のマントが掛けられている。
「おじさまのマント」
サニーは誰に言うでもなくつぶやき、その大きなマントを手にした。
樊瑞の真似をしてマントを羽織ってみる。
秋の陽光とともによみがえる過去のこと…。
この窓から見える庭で、大作と一緒に遊んだ。
「大作君…今、なにしてるのかしら…」
そう言って目を閉じた瞬間、マントはテレポーターと化した。
包まれていたサニーを消し、マントはその場にふわりと舞い落ちる。
あとには何事もなかったかのように秋の陽光が満ち溢れていた。
サニーが現われたのはどこかのドックのような場所。
「ここは…どこかしら…」
心細さを必死にこらえ周囲を見回すが、あいにく誰も見当たらない。
BF団の本部とも思えないし…ではここはいったいどこなのだろう。
樊瑞に助けを求めたいが術はない。
アルベルトならテレパシーに気づいてくれるかもしれないが、おそらく無視されるのがオチだろう。
半分ベソをかき始めたとき、不意に声をかけられた。
「おや、お嬢ちゃん、いったいどこから入ってきたのかな」
振り向けば呉学人が立っている。
「ここは子供の遊び場ではないよ。さ、向こうへ…」
優しい声音に安心したのか、サニーは上手に答えることもできず泣き始めてしまった。
これにあわてたのは呉学人のほうである。
「お、お嬢ちゃん、いい子だから泣かないで…よ、弱りましたね」
なんとかなだめようとしているところへ、中条に戴宗、鉄牛までもがやってきた。
三人三様に驚くが、その中身は違う。
「…呉くん…いつの間に私の知らないところで隠し子など…」
「ちょ、長官、違います! このお嬢ちゃんは私の子では…」
衣の袂で顔を覆ってヨヨと泣く。
「俺ァ、知ってるぜ。このお嬢ちゃん、衝撃のおっさんの娘だ…そうだろ、お嬢ちゃん」
戴宗のにやけた顔を近づけられ、サニーは反射的にうなずいていた。
そしてここが国際警察機構の中だと気づく。
(さ、サニーどうなってしまうのかしら…樊瑞のおじさま、助けて…)
この部屋の主である樊瑞は会議中で今はいない。
退屈なサニーは陽光の匂いに惹かれて部屋へと入り込んだ。
本日は正装で出かけているのか、樊瑞のトレードマークでもあるピンク色のマントが掛けられている。
「おじさまのマント」
サニーは誰に言うでもなくつぶやき、その大きなマントを手にした。
樊瑞の真似をしてマントを羽織ってみる。
秋の陽光とともによみがえる過去のこと…。
この窓から見える庭で、大作と一緒に遊んだ。
「大作君…今、なにしてるのかしら…」
そう言って目を閉じた瞬間、マントはテレポーターと化した。
包まれていたサニーを消し、マントはその場にふわりと舞い落ちる。
あとには何事もなかったかのように秋の陽光が満ち溢れていた。
サニーが現われたのはどこかのドックのような場所。
「ここは…どこかしら…」
心細さを必死にこらえ周囲を見回すが、あいにく誰も見当たらない。
BF団の本部とも思えないし…ではここはいったいどこなのだろう。
樊瑞に助けを求めたいが術はない。
アルベルトならテレパシーに気づいてくれるかもしれないが、おそらく無視されるのがオチだろう。
半分ベソをかき始めたとき、不意に声をかけられた。
「おや、お嬢ちゃん、いったいどこから入ってきたのかな」
振り向けば呉学人が立っている。
「ここは子供の遊び場ではないよ。さ、向こうへ…」
優しい声音に安心したのか、サニーは上手に答えることもできず泣き始めてしまった。
これにあわてたのは呉学人のほうである。
「お、お嬢ちゃん、いい子だから泣かないで…よ、弱りましたね」
なんとかなだめようとしているところへ、中条に戴宗、鉄牛までもがやってきた。
三人三様に驚くが、その中身は違う。
「…呉くん…いつの間に私の知らないところで隠し子など…」
「ちょ、長官、違います! このお嬢ちゃんは私の子では…」
衣の袂で顔を覆ってヨヨと泣く。
「俺ァ、知ってるぜ。このお嬢ちゃん、衝撃のおっさんの娘だ…そうだろ、お嬢ちゃん」
戴宗のにやけた顔を近づけられ、サニーは反射的にうなずいていた。
そしてここが国際警察機構の中だと気づく。
(さ、サニーどうなってしまうのかしら…樊瑞のおじさま、助けて…)
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BF団本部内の大回廊を、十常侍は時折後ろを気にしながら歩いていた。
さっきから視線を感じる…振り向けば隠れてしまうその影に、聞き覚えはあった。
愛らしい巻き毛の少女…確か衝撃のアルベルトの娘…。
ほかの十傑集がどうかは知らないが、十常侍自身は子供が大好きだった。
生と死を自在に操る彼にとって、子供とは生命力にあふれたすばらしい存在だ。
少女は十常侍に気づかれていないと思っているのだろう。
それが可愛らしく思え、彼は角を曲がったところで少女を待ち伏せた。
「ばあ」
とおどけた顔をした先には…
「十常侍殿、なにをやっておられるのです…」
いつの間にすりかわったのか、少女ではなく困惑した表情で羽扇をはためかせる孔明の姿があった。
実際のところ、サニーは十常侍が好きで追いかけていたのではなかった。
まだ5歳のこの少女は、見慣れない服装の十常侍を子供心に訝しんでいたのだ。
父親も後見人の樊瑞も、あのレッドでさえスーツ姿だというのに、この小父さんはサニーが見たこともない異国の服装でいる。それにあの大きく膨らんだ袖の部分には、なにかがたくさん入っていそうだし…だからこそりと追いかけていたのだ。
思い切って声をかけるには十常侍の顔はおっかなそうで、さらに十常侍のしゃべる言葉はサニーには難しかった。
この埒の明かない展開を先に破ったのは、十常侍のほうだった。
「小姐、小姐」
大きな衣の袂にいっぱい入れたお菓子を見せてサニーを誘う。
だがサニーはその呼びかけが自分に向けられたとは思わず、駆けていってしまった。
十常侍は少しがっかりしてお菓子をしまい、いつもの執務に戻った。
「どうしたサニー、息など切らせて」
執務室の樊瑞は書類から目を上げ、不安そうなサニーを見た。
サニーは息を整えると先ほどのことを話す。
樊瑞は笑ってサニーの頭を撫でてやった。
「ああ、それは“お嬢ちゃん”くらいの意味だ。別に十常侍はお前になにかしようとしたわけではない」
そこでようやくサニーは自分にマジナイをかけられたのでないとわかり安心したようだった。
しかしそうなると、十常侍に対しての自分の態度が気まずく思えてくる…サニーは樊瑞の執務室を出、意を決して、だがおずおずと十常侍の執務室を目指して歩いていった。
さっきから視線を感じる…振り向けば隠れてしまうその影に、聞き覚えはあった。
愛らしい巻き毛の少女…確か衝撃のアルベルトの娘…。
ほかの十傑集がどうかは知らないが、十常侍自身は子供が大好きだった。
生と死を自在に操る彼にとって、子供とは生命力にあふれたすばらしい存在だ。
少女は十常侍に気づかれていないと思っているのだろう。
それが可愛らしく思え、彼は角を曲がったところで少女を待ち伏せた。
「ばあ」
とおどけた顔をした先には…
「十常侍殿、なにをやっておられるのです…」
いつの間にすりかわったのか、少女ではなく困惑した表情で羽扇をはためかせる孔明の姿があった。
実際のところ、サニーは十常侍が好きで追いかけていたのではなかった。
まだ5歳のこの少女は、見慣れない服装の十常侍を子供心に訝しんでいたのだ。
父親も後見人の樊瑞も、あのレッドでさえスーツ姿だというのに、この小父さんはサニーが見たこともない異国の服装でいる。それにあの大きく膨らんだ袖の部分には、なにかがたくさん入っていそうだし…だからこそりと追いかけていたのだ。
思い切って声をかけるには十常侍の顔はおっかなそうで、さらに十常侍のしゃべる言葉はサニーには難しかった。
この埒の明かない展開を先に破ったのは、十常侍のほうだった。
「小姐、小姐」
大きな衣の袂にいっぱい入れたお菓子を見せてサニーを誘う。
だがサニーはその呼びかけが自分に向けられたとは思わず、駆けていってしまった。
十常侍は少しがっかりしてお菓子をしまい、いつもの執務に戻った。
「どうしたサニー、息など切らせて」
執務室の樊瑞は書類から目を上げ、不安そうなサニーを見た。
サニーは息を整えると先ほどのことを話す。
樊瑞は笑ってサニーの頭を撫でてやった。
「ああ、それは“お嬢ちゃん”くらいの意味だ。別に十常侍はお前になにかしようとしたわけではない」
そこでようやくサニーは自分にマジナイをかけられたのでないとわかり安心したようだった。
しかしそうなると、十常侍に対しての自分の態度が気まずく思えてくる…サニーは樊瑞の執務室を出、意を決して、だがおずおずと十常侍の執務室を目指して歩いていった。
トントンと小さなノックの音に
「誰何」と十常侍は声をかけた。
しかしドアが開く様子はない。
十常侍はめんどくさそうに自らドアを開けた。
そこに小さなサニーが申し訳なさそうに立っている。
「あの…この間はごめんなさい。サニー、おじさまがなにをおっしゃってるのか、わからなくて…」
十常侍はすっかりうれしくなって、サニーの頭を撫でてやり袂から渡したかったお菓子を取り出した。
「これ、サニーにくださるの?」
十常侍が満面の笑みでうなずく。
それから十常侍は楽しくて仕方なかった。
ぬいぐるみや人形に命を吹き込んでサニーと遊ばせたり、一緒にかくれんぼをしたりした。
サニーは今までの警戒はどこへいったのやら、十常侍の執務室いっぱいに拡げられたオモチャと戯れ、十常侍の不思議な袂から出てくるお菓子を食べた。
楽しい時間はすぐに過ぎてしまう…。
十常侍の執務室を夕焼けが染めるころ、樊瑞が迎えにきた。
「サニーここにいたか。もうすぐ夕食だぞ」
「はあい」
遊び疲れたサニーが樊瑞の手を取る。
ぬいぐるみを持っていた十常侍の表情が沈んだものとなり、彼はそっとサニーに背を向けた。
サニーは樊瑞から手を離すと、とことこと十常侍に近づき大きな袂に隠された十常侍の手を取った。
「おじさまもいっしょに」
小さな手の温もりに触れ、十常侍はサニーを抱きしめる。
「愛々」
そうして大きな袂で少しだけ浮かんだ涙を隠すと、再び樊瑞と手をつないだサニーの、もう片方の手に引かれて部屋を出た。
きっと今夜の夕食は忘れられないものになると思いながら。
「誰何」と十常侍は声をかけた。
しかしドアが開く様子はない。
十常侍はめんどくさそうに自らドアを開けた。
そこに小さなサニーが申し訳なさそうに立っている。
「あの…この間はごめんなさい。サニー、おじさまがなにをおっしゃってるのか、わからなくて…」
十常侍はすっかりうれしくなって、サニーの頭を撫でてやり袂から渡したかったお菓子を取り出した。
「これ、サニーにくださるの?」
十常侍が満面の笑みでうなずく。
それから十常侍は楽しくて仕方なかった。
ぬいぐるみや人形に命を吹き込んでサニーと遊ばせたり、一緒にかくれんぼをしたりした。
サニーは今までの警戒はどこへいったのやら、十常侍の執務室いっぱいに拡げられたオモチャと戯れ、十常侍の不思議な袂から出てくるお菓子を食べた。
楽しい時間はすぐに過ぎてしまう…。
十常侍の執務室を夕焼けが染めるころ、樊瑞が迎えにきた。
「サニーここにいたか。もうすぐ夕食だぞ」
「はあい」
遊び疲れたサニーが樊瑞の手を取る。
ぬいぐるみを持っていた十常侍の表情が沈んだものとなり、彼はそっとサニーに背を向けた。
サニーは樊瑞から手を離すと、とことこと十常侍に近づき大きな袂に隠された十常侍の手を取った。
「おじさまもいっしょに」
小さな手の温もりに触れ、十常侍はサニーを抱きしめる。
「愛々」
そうして大きな袂で少しだけ浮かんだ涙を隠すと、再び樊瑞と手をつないだサニーの、もう片方の手に引かれて部屋を出た。
きっと今夜の夕食は忘れられないものになると思いながら。
サニーはいつだってお人形を持っている。
それも普通のお人形ではない。
十常侍が命を吹き込んでやった、ちゃんとおしゃべりもできる。
十傑集全員が忙しくなってしまうと、誰もサニーと遊んでくれる者がいなくなる…それをかわいそうに思った十常侍が、樊瑞がプレゼントした中で一番気に入っているお人形に命を吹き込んでくれたのだ。
もっとも、十常侍に時間ができてサニーと一緒に遊んでいるとき、お人形は命を奪われてただの人形になるのだが。
今日は樊瑞も十常侍もいない。
サニーはお人形と敷物を持って広い中庭で遊んでいた。
お菓子を持ってこようとちょっと席を外した際、中庭にやってきたのはレッドだった。
意味ありげに座っているお人形に近づく。
「フン、木偶人形か」
何気に手に取ろうとした瞬間、持ち方がおかしかったのかお人形の腕が取れてしまった。
いや、もしかしたら十常侍に命を吹き込まれたものだから、レッドに触れられるのをいやがったのかもしれない。
次には足が外れた。
いったいどんな仕掛けになっているのかと、レッドはお人形のスカートをまくってみる。
そこへ…タイミング悪くサニーが戻ってきた。
「いやああ! サニーのお人形さん!」
サニーはレッドの手からお人形をひったくり話しかける。
だがお人形はなぜか応えてくれなかった。
実のところ、レッドはサニーがあまり好きではなかった。
この十傑集のわずかな良心が凝固して生まれたのではないかと思える少女を、皆と同じようにちやほやできるほど、レッドは大人ではなかったのだ。
突然のことにレッドは驚いたが、相手がサニーということもあってついぶっきらぼうな言葉を発する。
「なんだ、そんなボロ人形。捨ててしまえ」
これにはサニーも我慢できなかった。
涙に濡れた目でキッとレッドを見上げる。
「…レッドさまなんか…だいきらい…!」
そうしてお人形を十常侍に見せるべく走っていってしまった。
さすがに言い過ぎたかとレッドの心の隅に少しだけ残っていた良心が痛む。だが追いかけていって詫びるほど素直ではなかった。
「フ、フン、なんだあんなガキ。あ、あんな小娘に嫌われても、い、痛くも痒くもないわ」
腕を組んで強がって見せた。
その目を覆うマスクの下を少しだけ涙が伝っている。
それも普通のお人形ではない。
十常侍が命を吹き込んでやった、ちゃんとおしゃべりもできる。
十傑集全員が忙しくなってしまうと、誰もサニーと遊んでくれる者がいなくなる…それをかわいそうに思った十常侍が、樊瑞がプレゼントした中で一番気に入っているお人形に命を吹き込んでくれたのだ。
もっとも、十常侍に時間ができてサニーと一緒に遊んでいるとき、お人形は命を奪われてただの人形になるのだが。
今日は樊瑞も十常侍もいない。
サニーはお人形と敷物を持って広い中庭で遊んでいた。
お菓子を持ってこようとちょっと席を外した際、中庭にやってきたのはレッドだった。
意味ありげに座っているお人形に近づく。
「フン、木偶人形か」
何気に手に取ろうとした瞬間、持ち方がおかしかったのかお人形の腕が取れてしまった。
いや、もしかしたら十常侍に命を吹き込まれたものだから、レッドに触れられるのをいやがったのかもしれない。
次には足が外れた。
いったいどんな仕掛けになっているのかと、レッドはお人形のスカートをまくってみる。
そこへ…タイミング悪くサニーが戻ってきた。
「いやああ! サニーのお人形さん!」
サニーはレッドの手からお人形をひったくり話しかける。
だがお人形はなぜか応えてくれなかった。
実のところ、レッドはサニーがあまり好きではなかった。
この十傑集のわずかな良心が凝固して生まれたのではないかと思える少女を、皆と同じようにちやほやできるほど、レッドは大人ではなかったのだ。
突然のことにレッドは驚いたが、相手がサニーということもあってついぶっきらぼうな言葉を発する。
「なんだ、そんなボロ人形。捨ててしまえ」
これにはサニーも我慢できなかった。
涙に濡れた目でキッとレッドを見上げる。
「…レッドさまなんか…だいきらい…!」
そうしてお人形を十常侍に見せるべく走っていってしまった。
さすがに言い過ぎたかとレッドの心の隅に少しだけ残っていた良心が痛む。だが追いかけていって詫びるほど素直ではなかった。
「フ、フン、なんだあんなガキ。あ、あんな小娘に嫌われても、い、痛くも痒くもないわ」
腕を組んで強がって見せた。
その目を覆うマスクの下を少しだけ涙が伝っている。
グスグスと泣きべそをかきながら歩いていたサニーの前に現われたのは、ちょうど任務を終えて戻ってきた幽鬼だった。
「おや、お嬢ちゃん。なにを泣いているのかな」
サニーは少ししゃくりながら、事の次第を話す。
「どれ、ちょっと見せてごらん」
幽鬼は差し出されたお人形をしばらく弄繰り回していたが、そこは手先の器用な彼のこと、お人形の手と足を元通りにしてやった。
「ほら直った」
「…でも…」
サニーはお人形が話さなくなったのは、レッドがお人形を死なせてしまったからと考えているらしい。
「ふむ…」
ややあってから幽鬼はしゃがみこんでサニーに目線を合わせて言った。
「お嬢ちゃん、どうやら十常侍はお人形に命を吹き込むのを忘れたようだ…きっと忙しかったんだろうな」
「ほんとう?」
「ああ、あとで十常侍に聞いてみるといい」
サニーはようやく笑顔になった。
「ありがとうございます幽鬼さま」
サニーが去ったあと、幽鬼は少し考えていたがレッドを探すべく中庭へと向かった。
厄介事はあまり好きではないが、フェミニストの彼としてはいたいけな少女を泣かせるような男は許せない。
「おいレッド」
「なんだ幽鬼か」
いつものように薄笑いを浮かべているが、レッドの心中にかすかな動揺があることを幽鬼は見逃さない。
「貴様、お嬢ちゃんを泣かせただろう」
「さてなんのことかな」
「さっきひどく泣きながら歩いていたぞ」
とぼけてみせたが幽鬼の言葉に引っかかり、一瞬たじろいだ。
「フ、フン。私の知ったことではない」
「たったひとり、心を許せる人形を壊されてしまったのだ、さぞかし悲しんでいることだろうな」
レッドの心にくないが刺さる。
さらに幽鬼は追い討ちをかけた。
「お嬢ちゃんを悲しませたとあっては、十常侍、樊瑞は元より、眩惑や衝撃も黙ってはいないだろうな…おっと白昼の、もか」
いつまでも幽鬼と話していては分が悪いと感じたのか、レッドは素早く姿を消した。
数日後のこと。
樊瑞の執務室がノックされた。
あいにく樊瑞がいないため代わりにサニーが出、ノックの主を見て表情をこわばらせた。
レッドが立っている。
レッドは黙ったままで、愛らしい日本人形を突き出した。
おずおずとサニーが受け取る。
「フン」
「おや、お嬢ちゃん。なにを泣いているのかな」
サニーは少ししゃくりながら、事の次第を話す。
「どれ、ちょっと見せてごらん」
幽鬼は差し出されたお人形をしばらく弄繰り回していたが、そこは手先の器用な彼のこと、お人形の手と足を元通りにしてやった。
「ほら直った」
「…でも…」
サニーはお人形が話さなくなったのは、レッドがお人形を死なせてしまったからと考えているらしい。
「ふむ…」
ややあってから幽鬼はしゃがみこんでサニーに目線を合わせて言った。
「お嬢ちゃん、どうやら十常侍はお人形に命を吹き込むのを忘れたようだ…きっと忙しかったんだろうな」
「ほんとう?」
「ああ、あとで十常侍に聞いてみるといい」
サニーはようやく笑顔になった。
「ありがとうございます幽鬼さま」
サニーが去ったあと、幽鬼は少し考えていたがレッドを探すべく中庭へと向かった。
厄介事はあまり好きではないが、フェミニストの彼としてはいたいけな少女を泣かせるような男は許せない。
「おいレッド」
「なんだ幽鬼か」
いつものように薄笑いを浮かべているが、レッドの心中にかすかな動揺があることを幽鬼は見逃さない。
「貴様、お嬢ちゃんを泣かせただろう」
「さてなんのことかな」
「さっきひどく泣きながら歩いていたぞ」
とぼけてみせたが幽鬼の言葉に引っかかり、一瞬たじろいだ。
「フ、フン。私の知ったことではない」
「たったひとり、心を許せる人形を壊されてしまったのだ、さぞかし悲しんでいることだろうな」
レッドの心にくないが刺さる。
さらに幽鬼は追い討ちをかけた。
「お嬢ちゃんを悲しませたとあっては、十常侍、樊瑞は元より、眩惑や衝撃も黙ってはいないだろうな…おっと白昼の、もか」
いつまでも幽鬼と話していては分が悪いと感じたのか、レッドは素早く姿を消した。
数日後のこと。
樊瑞の執務室がノックされた。
あいにく樊瑞がいないため代わりにサニーが出、ノックの主を見て表情をこわばらせた。
レッドが立っている。
レッドは黙ったままで、愛らしい日本人形を突き出した。
おずおずとサニーが受け取る。
「フン」