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「…ッ!」
攻撃を受け流していたステッキを跳ね飛ばされた衝撃で床板に膝をついた瞬間、右肩に突き刺さった熱さに息が詰まる。
クナイだと気づいた時にはもう、眼前にレッドのお兄様の顔。
首筋にはうっすらと冷たさの伝わる切っ先があるはず。
「終わりだ」
ニヤリと笑う顔はおじ様の執務室で他愛なく笑うのものと同じすぎて、軽くめまいがした。
例え相手が誰であろうと、ためらいなくこの切っ先が押し当てられることを私は知っている。
その瞬間、ぬ、っと手のひらが目の前に突き出される。
伸びてきた腕の先を見ると怒鬼のお兄様。
「何だ怒鬼!茶々を…」
入れるな、と続けられるはずだったろうに、レッドのお兄様はすっと落とされた怒鬼のお兄様の視線を目ざとく辿る。
「…ほぅ?」
引き絞られた矢のごとく、音もなく指先に集めた衝撃波の強く赤い光にレッドのお兄様は目を細めた。本当に気づいていらっしゃらなかったのなら、私の力もそう捨てた物ではないかもしれない。
レッドのお兄様はようやく刀を引いてつまらなそうに「捨て身の相討ちか、つまらん!!」と唇を尖らせた。
だって、仕方ありませんわ。
それしか出来そうにないってようやく気づいたのですもの。
私にはレッドのお兄様をご満足させられる力はないのね。
…そう、今は、まだ。
思わず胸の上でぎゅっと手を握ると、怒鬼のお兄様が音も立てずに、座り込んだ私の側までやって来てかがみこまれた。
「…」
困ったような、諌めるような目で私を見て、クナイの突き刺さったすぐ側に布を当てると、クナイに手をかけ私を見つめた。
その意味を理解し、ようやく頷くと、灼けるような痛みと熱さとともに鉄の塊が取り除かれ、吹き出す赤が見る見るうちに白い布を染めていく。
私のもう片方の手を取り、怒鬼のお兄様はその布を私に握らせた。その上に自分の手を重ねて強く圧迫する。
問いかけるように見ると、真剣なお兄様の目に出会って、ようやく止血のためなのだと思い当たった。
…そんな事も知らずに、私は、真剣勝負をして欲しいなんてレッドのお兄様にお願いしてしまったのね。
なんて身のほど知らずで、愚かな小娘でしょう…!
「ご、…ごめんなさ…、申し訳ありません!わ、私…」
恥ずかしくてうろたえた拍子に涙がこぼれ落ちそうになって、声が震えてしまう。
と、ぼすん、と叩かれるような感触で重いものが頭に置かれる。
見上げるとレッドのお兄様の手。
私を観察するような興味深そうな目で見ると、一度頭に置かれた手が、べしべし、と頭を叩いた。
痛い…と言うほど痛くはないけど、重い。
「…、お、お兄様?」
「フム」
首を傾げて、レッドのお兄様は今度は両手でわしわしと私の髪を掻き混ぜる。
「きゃ!…お兄様!!ちょっと、おやめになって!」
怒鬼のお兄様はまだ手を放しては下さらないし、傷口が痛くて右腕は上げられないけれど、髪をぼさぼさにされるなんて…耐えられないわ!
ようやくレッドのお兄様の手が離れたから、怒鬼のお兄様はまだ手を放してくれないけれど痛むほうの腕で髪に手をやろうとしたら急に目の前が暗くなった。
かすかな汗の匂いと、オリエンタルな香が鼻先を掠める。
レッドのお兄様の胸に抱き込まれたのだ。
ぎゅっと、というか、やわらかな猶予を与えられながら、抱き締められているような気がする。
と、べしべし、と無造作に強く後頭部をはたかれた。
「サニー・ザ・マジシャン、今度つまらん真似をしたら尻を叩くからな!!」
だだを捏ねるように今度こそむぎゅーーー!!っと込められた腕の力に、必死で怒鬼のお兄様のほうを見ると、にこりと笑われる。
…こ、これこそが思い上がった私への罰なのかしら。
でも、お尻は未来永劫断固として拒否させていただくわ!!
ひとしきりレッドのお兄様の抱擁が済むと、怒鬼のお兄様が医療棟へ行くようにと促すように道場の出口へと腕を広げた。
「…このこと、おじ様に隠しとおせるかしら」
不安になってお二人を見ると、怒鬼のお兄様は目を逸らした。
「何故だ?樊瑞に教えてやったらきっと面白いことになるぞ」
意外だと言いたげに、レッドのお兄様はとてつもなく楽しそうにニヤリと笑う。
おじ様には内緒にしたいなんて、虫が良過ぎるわよね。
「…本当に、申し訳ありませんでした。私の我侭きいてくださってありがとうございます。とっても嬉しかった。できるだけ、ご迷惑のかからないようにいたします。私、もっと精進しますわ!」
相変わらず無言の怒鬼のお兄様に、レッドのお兄様は「樊瑞が泣いて取り乱すか俺の所へ怒鳴り込んでくるか、見物だな!」と楽しげに笑うと、また私の髪をがしがしと掻き混ぜた。
「んもう!お兄様ったら!!」
また髪の毛をくしゃくしゃにされてしまって、思わず頬をふくらませて見上げると、レッドのお兄様は何か言いたげに首を傾げた。
でも、何も言わないまま手を放すと、ぷいとそっぽを向いてしまう。
その代りのように、すっと怒鬼のお兄様が私の背を押す。
「え?…あ、あの、一人でも大丈夫ですのよ、止血もしていただいて…」
焦って言い募る私に、怒鬼のお兄様はゆっくりと首を振った。
「サニー・ザ・マジシャン、またな」
気のなさそうな声で、レッドのお兄様がニヤリと笑う。
自分にはそうする義務があるのだとでもいう風に、怒鬼のお兄様は提灯片手に私の背を押した。



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