あれから七年の歳月が流れた。大阪の、郷田龍司の自宅には、一人の少女が訪ねてきていた。
夏の終わりの暑い季節。彼女は縁側に座って、紅く燃える空を見つめ、冷たい麦茶を一口飲んだ。
「今日で、大学見学も終わりよ」
見事な東京の言葉。それもそのはず、彼女は生まれも育ちも東京だ。名前を、澤村遥という。
「そうか」
隣では、近江連合六代目会長の郷田龍司が、同じように麦茶を一口飲んだ。
「で、遥は、こっちの大学を受験するんか?」
低い声で聞かれて、彼女はニコッと微笑んだ。
「うん。そのつもり」
「桐生のオッサン、がっかりするで?」
龍司は正面を見つめたまま言う。トンボが、すっと庭を横切った。
「うん。でも、これ以上おじさんと一緒にいたくないから」
手の中で、ガラスのコップを揺らしながら彼女は言った。
「一緒に居ったらええやん」
「ううん。もう駄目なの」
遥が俯き、龍司は初めて遥を見た。長く伸びた髪が頬にかかる。まだ若いはずの横顔に憂いが走る。
「お兄ちゃん。私、もう駄目なの」
「何でや?」
「・・・もう、おじさんと一緒にいるのが辛いの」
小さな肩が小刻みに震える。
「お兄ちゃん。私、もう駄目なの。おじさんが好きなの。どうしても、おじさんが好き。もう、どうしていいか解らないの」
上げた顔は微笑もうとしていたが、黒い瞳には涙が溢れる。
「だから、おじさんと離れるの。苦しくて苦しくて、仕方がないから」
「そうか」
龍司の太い腕が、彼女の体を引き寄せる。胸の中に仕舞い込む様に、大きく強く抱きしめた。
「遥。そんなに辛いんやったら、ワシの側に居ればええ」
小さな体を包み込み、龍司は長い髪に触れる。腕の中で、彼女は震えながら涙を堪えていた。
「人の子の世は、儘ならんモンや」
本当に欲しいものは、何時だって手に入らない。龍司はそう思う。今こうして彼女を抱きしめていても、この輝く宝石は、決して自分を振り返ってはくれないのだから。
「今日は、思いっきり泣けばええ。オッサンの前では笑ってられるようにな」
小さく言えば、彼女が頷く。もう一度宝物を抱きしめて、龍司は沈む夕日を眺めた。
夏の終わりの暑い季節。彼女は縁側に座って、紅く燃える空を見つめ、冷たい麦茶を一口飲んだ。
「今日で、大学見学も終わりよ」
見事な東京の言葉。それもそのはず、彼女は生まれも育ちも東京だ。名前を、澤村遥という。
「そうか」
隣では、近江連合六代目会長の郷田龍司が、同じように麦茶を一口飲んだ。
「で、遥は、こっちの大学を受験するんか?」
低い声で聞かれて、彼女はニコッと微笑んだ。
「うん。そのつもり」
「桐生のオッサン、がっかりするで?」
龍司は正面を見つめたまま言う。トンボが、すっと庭を横切った。
「うん。でも、これ以上おじさんと一緒にいたくないから」
手の中で、ガラスのコップを揺らしながら彼女は言った。
「一緒に居ったらええやん」
「ううん。もう駄目なの」
遥が俯き、龍司は初めて遥を見た。長く伸びた髪が頬にかかる。まだ若いはずの横顔に憂いが走る。
「お兄ちゃん。私、もう駄目なの」
「何でや?」
「・・・もう、おじさんと一緒にいるのが辛いの」
小さな肩が小刻みに震える。
「お兄ちゃん。私、もう駄目なの。おじさんが好きなの。どうしても、おじさんが好き。もう、どうしていいか解らないの」
上げた顔は微笑もうとしていたが、黒い瞳には涙が溢れる。
「だから、おじさんと離れるの。苦しくて苦しくて、仕方がないから」
「そうか」
龍司の太い腕が、彼女の体を引き寄せる。胸の中に仕舞い込む様に、大きく強く抱きしめた。
「遥。そんなに辛いんやったら、ワシの側に居ればええ」
小さな体を包み込み、龍司は長い髪に触れる。腕の中で、彼女は震えながら涙を堪えていた。
「人の子の世は、儘ならんモンや」
本当に欲しいものは、何時だって手に入らない。龍司はそう思う。今こうして彼女を抱きしめていても、この輝く宝石は、決して自分を振り返ってはくれないのだから。
「今日は、思いっきり泣けばええ。オッサンの前では笑ってられるようにな」
小さく言えば、彼女が頷く。もう一度宝物を抱きしめて、龍司は沈む夕日を眺めた。
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