01*「ポニーテール」
「そういやお前っていつもは髪おろしてんのな」
頬杖をつきながら、チップはメイに話しかける。
「ンー?何、急にー」
最近来る回数が増えたメイシップ。
メイはといえば、チップに背を向けたまま何かごそごそと探している。
「や、別になんでもねぇんだけどよ」
と言いつつ、いつもは見えない彼女のうなじをなんとなく見つめる。
メイの背中で揺れるポニーテールが、時々うなじを遮る。
「お前けっこう髪長いよなーと思って」
くん、と自分の髪が持ち上げられるのがわかった。
「うなじとか初めて見た」
「んなッ・・・離してよ、ヘンタイ!」
何故か顔を少し赤くして、メイが騒ぐ。
「あァ!?誰がヘンタイだ、誰が!」
「アンタのことに決まってんでしょ!離してってば!」
「・・・・・テメー」
髪をつかまれている手を振り解こうと、
メイが自分の手をふりあげる。
チップはメイの髪から手を離し、代わりに降りかかってきたメイの手首を掴んだ。
「うひゃ」
そのままうなじに唇を落とすと、メイが変な声をあげた。
「・・・お前もうちょっと色気のある声出ねぇの?」
「・・・・・!!」
うなじに手をあてて、メイが顔を真っ赤にする。
・・・・・怒りで。
メイの妙な奇声と、ばきぃっ!という派手な音がメイシップに響き渡った。
---------
「行くなよ」
懇願する訳でもなく、淡々と。
怒っても、笑ってもいない、無表情なチップの顔。
立ち上がり、その場を去ろうとしたときに、手首を掴まれた。
振りほどけないほど強く掴まれてはいなかった。
でも、振りほどくことができなかった。
「・・・ダメ、だよ。ジョニーが待ってる」
チップはそれ以上、何も言わなかった。
ただ、メイから顔を逸らすこともなく、先ほどの表情のままに、
メイを見ていた。
「行くなよ。」
さっきそう言われたとき、
メイの心臓がドキリとはねた。
-----------
「なァ、梅喧って『キツケ』出来るよな?」
「まぁな。なんだい、着物でも着たいのかい?」
煙管を口から放し、煙がくゆる。
「着物じゃなくてユカタ。あれ着せたい奴がいるんだけど」
俺も着たいけど。とチップは付け加えた。
「お前は闇慈のとこにでも行きな。そん前に、嬢ちゃんを連れてきな。俺からは動かねぇぞ」
ぱ、とチップの表情が明るくなるのを見て、なんとなく梅喧は笑みをこぼした。
「どこで手に入れてきたんだか」
梅喧はそうつぶやいた。
「ボク浴衣なんて初めて着るよ~」
メイはうれしそうにくるりと回ってみせた。
「披露してきな」
「うん!」
近くに止まっているメイシップから、隊員たちが降りてくる。
「わ、メイ可愛い~」
「エヘヘ~、ありがと」
「ジョニーってばどこいったのかな?」
「・・・ね、ちょっとボク探してくるよ。みんなはここで待ってて!」
「ここで待ってた方がいいんじゃない?」
そう声をかける隊員もいたが、エイプリルが口を出した。
「行ってきなよ。伝えとくから」
「??」
他の隊員は訳が分からず首をかしげた。
「闇慈さん、チップ来てる?」
「よぉ、嬢ちゃん。奥にいるぜ・・・って転ぶなよー」
闇慈が言い終わらないうちに、たかたかと小走りで奥の部屋に向かった。
「微笑ましいねぇ」
普段着よりずっとずっと走りにくかったが、それでもメイは小走りで続く廊下の角を曲がる。
「あ、チッ・・・うきゃ!」
部屋からチップがひょいと顔を出したところに遭遇する。
声をかけようとしたが、裾を踏んづけてしまい、前のめりになる。
「・・・っと!」
チップの腕がメイを支えた。
・・が、勢いが殺せずそのままチップを下敷きにして倒れこんだ。
「ご、ごめ・・・大丈夫?」
「・・・重い」
「!!!」
むきゃ、とメイが手を振り上げた。
が、言葉に反して笑顔だったチップを見ると、行き場のない手が空を仰いだ。
メイの顔にさわる。
「・・・ぜってぇ似合うと思った」
子どもみたいに嬉しそうに笑って、メイを抱き寄せた。
------------
一つの場所に留まるような人物ではない、
それは重々承知していたことだった。
それでも、かなりのあいだ会っていなかった。
自分を探そうと思えば、探せるはずだった。
「なんてったってお尋ねものなんだから!・・・ジョニーが、だけど」
チップはボクに会いたくないワケ?
・・・会わなくてもヘーキなワケ?
「・・・なんで?なんであんなのが気になるんだろ」
ジョニーより全然コドモっぽくて、
でもボクより年上で、
チップの、
ピアスの数とか、 目の色を近くで見るのが、好きだった。
「・・・別に会いたいワケじゃない」
けど、気になる。
外は雨だった。
「こーゆー気分のトキに雨だと・・・気分も晴れないなぁ」
ディズィーは雨だというのに出かけてしまった。
羽とか重くならないのかな。そんなことをふと思った。
「ボクも見習って散歩でも行こうかなぁ・・・」
ふらふらと外にでた。
大雨というわけでもないが、傘が必要でないこともない。
そんな中途半端な雨脚模様。
確信はなかった。
けれど、いつも自然と足が向く場所へ。
そこに、彼はいた。
「遅ェよ」
「・・・こっちのセリフだよ。どこ行ってたのさ」
「雨が悪ィんだよ」
「答えになってないよ」
「寒ィ。触らせろ」
「セクハラ」
「だから雨が悪ぃんだよ」
雨の日に出かけるもんじゃない
気分が 惑わされるから
---------
ふと 思い出す
怒った顔
物憂げな顔
眠そうな顔
笑った顔。
ガキくせぇ奴としか思ってなかったハズだったのに
ときたま、本当に時々、意外と大人びた顔をみせやがる。
家族連れの幸せそーなガキの顔を見て
お前のこと思い出したっつったら、
怒るだろうか。
笑うだろうか?
チップは少しだけ自嘲気味に、笑った。
「そういやお前っていつもは髪おろしてんのな」
頬杖をつきながら、チップはメイに話しかける。
「ンー?何、急にー」
最近来る回数が増えたメイシップ。
メイはといえば、チップに背を向けたまま何かごそごそと探している。
「や、別になんでもねぇんだけどよ」
と言いつつ、いつもは見えない彼女のうなじをなんとなく見つめる。
メイの背中で揺れるポニーテールが、時々うなじを遮る。
「お前けっこう髪長いよなーと思って」
くん、と自分の髪が持ち上げられるのがわかった。
「うなじとか初めて見た」
「んなッ・・・離してよ、ヘンタイ!」
何故か顔を少し赤くして、メイが騒ぐ。
「あァ!?誰がヘンタイだ、誰が!」
「アンタのことに決まってんでしょ!離してってば!」
「・・・・・テメー」
髪をつかまれている手を振り解こうと、
メイが自分の手をふりあげる。
チップはメイの髪から手を離し、代わりに降りかかってきたメイの手首を掴んだ。
「うひゃ」
そのままうなじに唇を落とすと、メイが変な声をあげた。
「・・・お前もうちょっと色気のある声出ねぇの?」
「・・・・・!!」
うなじに手をあてて、メイが顔を真っ赤にする。
・・・・・怒りで。
メイの妙な奇声と、ばきぃっ!という派手な音がメイシップに響き渡った。
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「行くなよ」
懇願する訳でもなく、淡々と。
怒っても、笑ってもいない、無表情なチップの顔。
立ち上がり、その場を去ろうとしたときに、手首を掴まれた。
振りほどけないほど強く掴まれてはいなかった。
でも、振りほどくことができなかった。
「・・・ダメ、だよ。ジョニーが待ってる」
チップはそれ以上、何も言わなかった。
ただ、メイから顔を逸らすこともなく、先ほどの表情のままに、
メイを見ていた。
「行くなよ。」
さっきそう言われたとき、
メイの心臓がドキリとはねた。
-----------
「なァ、梅喧って『キツケ』出来るよな?」
「まぁな。なんだい、着物でも着たいのかい?」
煙管を口から放し、煙がくゆる。
「着物じゃなくてユカタ。あれ着せたい奴がいるんだけど」
俺も着たいけど。とチップは付け加えた。
「お前は闇慈のとこにでも行きな。そん前に、嬢ちゃんを連れてきな。俺からは動かねぇぞ」
ぱ、とチップの表情が明るくなるのを見て、なんとなく梅喧は笑みをこぼした。
「どこで手に入れてきたんだか」
梅喧はそうつぶやいた。
「ボク浴衣なんて初めて着るよ~」
メイはうれしそうにくるりと回ってみせた。
「披露してきな」
「うん!」
近くに止まっているメイシップから、隊員たちが降りてくる。
「わ、メイ可愛い~」
「エヘヘ~、ありがと」
「ジョニーってばどこいったのかな?」
「・・・ね、ちょっとボク探してくるよ。みんなはここで待ってて!」
「ここで待ってた方がいいんじゃない?」
そう声をかける隊員もいたが、エイプリルが口を出した。
「行ってきなよ。伝えとくから」
「??」
他の隊員は訳が分からず首をかしげた。
「闇慈さん、チップ来てる?」
「よぉ、嬢ちゃん。奥にいるぜ・・・って転ぶなよー」
闇慈が言い終わらないうちに、たかたかと小走りで奥の部屋に向かった。
「微笑ましいねぇ」
普段着よりずっとずっと走りにくかったが、それでもメイは小走りで続く廊下の角を曲がる。
「あ、チッ・・・うきゃ!」
部屋からチップがひょいと顔を出したところに遭遇する。
声をかけようとしたが、裾を踏んづけてしまい、前のめりになる。
「・・・っと!」
チップの腕がメイを支えた。
・・が、勢いが殺せずそのままチップを下敷きにして倒れこんだ。
「ご、ごめ・・・大丈夫?」
「・・・重い」
「!!!」
むきゃ、とメイが手を振り上げた。
が、言葉に反して笑顔だったチップを見ると、行き場のない手が空を仰いだ。
メイの顔にさわる。
「・・・ぜってぇ似合うと思った」
子どもみたいに嬉しそうに笑って、メイを抱き寄せた。
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一つの場所に留まるような人物ではない、
それは重々承知していたことだった。
それでも、かなりのあいだ会っていなかった。
自分を探そうと思えば、探せるはずだった。
「なんてったってお尋ねものなんだから!・・・ジョニーが、だけど」
チップはボクに会いたくないワケ?
・・・会わなくてもヘーキなワケ?
「・・・なんで?なんであんなのが気になるんだろ」
ジョニーより全然コドモっぽくて、
でもボクより年上で、
チップの、
ピアスの数とか、 目の色を近くで見るのが、好きだった。
「・・・別に会いたいワケじゃない」
けど、気になる。
外は雨だった。
「こーゆー気分のトキに雨だと・・・気分も晴れないなぁ」
ディズィーは雨だというのに出かけてしまった。
羽とか重くならないのかな。そんなことをふと思った。
「ボクも見習って散歩でも行こうかなぁ・・・」
ふらふらと外にでた。
大雨というわけでもないが、傘が必要でないこともない。
そんな中途半端な雨脚模様。
確信はなかった。
けれど、いつも自然と足が向く場所へ。
そこに、彼はいた。
「遅ェよ」
「・・・こっちのセリフだよ。どこ行ってたのさ」
「雨が悪ィんだよ」
「答えになってないよ」
「寒ィ。触らせろ」
「セクハラ」
「だから雨が悪ぃんだよ」
雨の日に出かけるもんじゃない
気分が 惑わされるから
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ふと 思い出す
怒った顔
物憂げな顔
眠そうな顔
笑った顔。
ガキくせぇ奴としか思ってなかったハズだったのに
ときたま、本当に時々、意外と大人びた顔をみせやがる。
家族連れの幸せそーなガキの顔を見て
お前のこと思い出したっつったら、
怒るだろうか。
笑うだろうか?
チップは少しだけ自嘲気味に、笑った。
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