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 窓辺にかかる朝日は、アラミスの目に眩しかった。昨日のことといい、アトスは、何を考えているのかさっぱり分からない。その上ガンガンと響く程の二日酔いだ。こんな二日酔いの日は、妙に朝早く目が覚めてしまうもの。アラミスは自分の酒臭さに辟易しながら服を着替え、トレヴィル隊長の屋敷へ向かった。

「ボンジュー」

「ボンジュール、アラミス! わぁ」

 誰にだって分かる不機嫌さは、みんなを遠ざけた。こういう日のアラミスは、気の荒いトレヴィル隊長の馬みたいなものだ。

「何だ。僕を見て『わあ』とは…。失敬な」

 文句を言ってもみても、大声では言えない。自分の声でますます頭痛が酷くなるだけだ。ぎろりと睨んでみるのが限界だった。と、屋敷の玄関先で意外な人物がアラミスに手を振っていた。

「いやぁ、いつにも増してご機嫌麗しいようで、アラミス殿」

「ローシュフォール…」

 トレヴィル邸の前になぜかローシュフォールと、ジュサックが立っていた。

 『どうして、ここにいるんだ?』

「朝から貴公の尊顔が拝めるとは、なかなか良い一日かもしれませんな」

「こっちは最悪だな」

「まあ、まあ、そう刺々しくされなくとも、銃士隊一の美しき方に似合いませんぞ。そうであろう? ジュサック」

「伯爵… 本気で言ってるんすか」

「もちろん本気だとも」

「迷惑だな。一体伯爵は如何な趣きでこちらに参られたのかな?」

「何、パリの治安について銃士隊長殿に少々ね」

「ほう? それで?」

 アラミスは尊大な態度でローシュフォールに向かった。

「もう、帰りましょうよぅ。用件は済んだのですから」

 ローシュフォールの代わりに側のジュサックが答える。その態度にアラミスはふふんと納得した。

「では、ご用件はお済みなのですね」

 さっさと帰れ、と言わんばかりのアラミスにローシュフォールは意味ありげに笑った。

「まあね、済んだことは済んだのだ」

「おや、ローシュフォール殿。何かお忘れ物ですか?」

 玄関の扉を開けてアトスが現れた。

「これは、アトス殿か。…忘れ物などではない。帰ろうとしていたら、アラミス殿にお会いしましてね。ところで、貴公に会うのは久方ぶりですな。そう、いつぞやの夜…以来でしょうか」

 アトスは釣り帯の位置を確かめつつ階段を下りてきて、アラミスの横に立った。アラミスは昨夜のことをかなり頭にきているので、憮然とアトスを睨むと、小声で朝の挨拶を述べた。アトスは機嫌良さそうに彼女におはようと、返してきた。そしてローシュフォールに向かい、

「いつぞやの夜ね…、ああ」

 思い出した、といった顔で見た。アラミスとの待ち合わせの夜のことを言っているのだ。

「パリの治安もだんだんと流れ者が多くなって非常に悪くなってきておる。枢機卿様はそのことを大変憂いておられてね。もちろん私もだが」

「そのことは今トレヴィル隊長から伺いました。その向きでわざわざこちらにお出でになられたとか」

「パリの治安については護衛隊は日夜奔走しておりますが、銃士隊にもご協力願いたいと思いましてな」

「ローシュフォール伯爵! いつだって揉め事を起こしているのはそっちじゃないかっ」

「銃士隊どもがならず者なのだ!」

 アラミスの怒声に、すかさずジュサックが答える。

「ジュサック、何もこんなところでもめる必要はない」

 ローシュフォールは彼を宥めながら、アトスを見やった。

「夜のパリは今まで以上に夜盗が増えておりましてね、報告によると一月前までに比べて格段に増えたんですよ」

「それは、こちらもよく分かっております。何も貴方にいわれなくても」

 アトスはやんわりと返した。

「…さすがは、アトス殿。しかし、貴公とて人間。取られて困るようなものは大切に保管せねばなりませんぞ」

 ローシュフォールはちらりとアラミスを見ていった。

「お言葉だが、私には取られて困るものなどない。この命さえも国王陛下の御為ならば厭わないのですから」アトスは続いて楽しそうに笑った。「伯爵の方こそ、色々とありそうですな」

「何、私とてリシュリュー猊下の御為ならば、この命惜しくもござらん」

「そうですか?」

「そう、私も取られて困るものなどありませんからな。もっとも…私はどちらかというと奪う方かもしれません」

「ほう、奇遇ですな。私もそれに近いものを持っております」

「では、お互い夜盗と間違われんように気を付けなくてはなりませんな」

 『アラミスは俺が頂く。アトス殿』

 『盗人猛々しいとは貴様のことだな、ローシュフォール』

 穏やかに進む会話の裏に、互いの思いを読んだふたりだった。

「伯爵! パリの安全は貴公たちには到底守れっこない。我々銃士隊には陛下、そしてフランスの名誉のために戦う使命がある。わざわざこちらまで来て無駄足だったな」

 アラミスはローシュフォールに軽快に言い放った。それを見てジュサックは顔を真っ赤にしたが、当のローシュフォールはにやりとしてアラミスを見つめ返した。

 『可愛いやつだ。俺が惚れるに値する女だ』

「では、戻るとするか、ジュサック。どうも銃士隊は気にくわんからな」

「枢機卿様によろしく」

 アトスは丁寧過ぎる程にローシュフォールに挨拶を返した。

「…失礼する。ではまた、アラミス殿。飲み過ぎはいかんですぞ。注意をした筈ですがね」

 ローシュフォールの言葉にアラミスの全身の血が下がっていった。

「大きなお世話だ!」

 震えながらアラミスは剣の柄に手を触れた。アトスが彼女の肩に手をやり、それを押し止めた。

 ローシュフォールはジュサックと共に馬車に乗り込むと、朝の賑いの街の中へと消えて行き、アラミスはアトスにうながされながらトレヴィル邸に入っていった。

 パリの騒々しい一日がまた繰り返される。


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