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春まだ来たらずの頃。


世界はまるで災厄のように降りかかった先年の「惨劇」による爪痕深く、今だ立ち直れないでいる。恐らく・・・今日のような寒さに凍えて死ぬ者は想像を超える数だろう。


そう、思わせるほどにその日は一段と冷え込みが厳しかったが樊瑞の屋敷、特にその一室はよく暖められ、普段はそこまでしないはずなのに十分に加湿もされていた。


「サニーは本当によく笑う子だ」

樊瑞はアルベルトから預かってかれこれ二ヶ月になる乳飲み子のサニーを見る。
産籠の傍によって赤く色づいた頬を指の背で撫でればそれは実に柔らかい。
無骨で骨ばり、幾多の血を流してきた自分の手であるはずなのに・・・サニーは心地良さそうに受け入れてくれ笑う。
それは・・・二ヶ月前初めて腕に抱いた時と同じ微笑み。

「泣くことも多いがそれ以上にとにかくよく笑う」

自分も知らず微笑んでいることも気づかず樊瑞は藤でできた産籠からサニーを取り出した。優しく丁寧に、逞しい腕で抱き広い胸に寄せてみる。最初は恐々(こわごわ)であったはずなのに今ではすっかり様になっていた。

茶を口にしつつその様子を見守っていたカワラザキは「まるで本当の親子のようじゃな」と苦笑する。血の繋がらない情愛の存在を知る老兵は2人に目を細めた。

「しかし、アルベルトは何故この子を手放したのだ・・・子を養うことを毛嫌いしたか?」

「さて・・・のう・・・セルバンテスから話を聞けばサニーとの親子の縁は腹にいる時から既に切ったらしいが」

「なに!!!?」

樊瑞は思わぬ事実に目を見開いて大きな声を上げてしまい、腕にいるサニーがぐずりだす。慌ててあやしながら言葉を続ける。

「親子の縁を切るなどと・・・何を考えているのだあの男は。しかも腹にいる時点でなどと」

勝手な奴だ、と口に出そうになったが・・・あの嵐の夜、預かった時の事を思い出しつぐんだ。口や態度には出さないが子への想いがまったく無いわけではない。しかし・・・ぐずるのを止め再び笑い出したサニーを見ると余計に「どうして」というやり切れない気持ちが湧き上がる。

自分は今この子を手放せと言われたら・・・もう、できないだろう。
なのに親であるはずのアルベルトは・・・手放した。

「切った理由は本人しかわからん。子を疎んじたか、それとも・・・我々が勝手に想像してもキリが無い。だがサニーをこの先養育するお主は知っておいた方が良いとワシは思うが・・・なんなら任務から戻り次第アルベルト本人に確かめてみたらどうだ樊瑞」

カワラザキは飲み干した湯飲みをテーブルに置いた。

「・・・もっとも聞いたところで話すような男とは思えぬが・・・」












「だからといって私を呼び出さなくてもいいじゃあないか」

翌日。

セルバンテスは不機嫌そうに屋敷の来客用のテーブルに頬杖を付き、アーモンドスライスが乗ったクッキーを口に放り込んだ。早朝に任務が終わって一息つけると思った矢先、樊瑞に彼の屋敷に呼び出されてしまったのだ。

「お主なら知っておるのだろう?何故アルベルトが親子の縁を切ったのかを」

「親子の事情まで私が口にするべき事では無いと思うが」

不機嫌をそのままにクッキーを噛み砕く。

「そう言うな、私がアルベルトに聞いたところで無視されるのがオチなのはお主もわかるだろうが。しかし私はサニーの後見人だ。この先サニーを見守っていくにあたって実の親子の関係を私は知る権利はあるはずだが?なぁサニー」

「いやぁサニーちゃん!久しぶりだねぇセルバンテスのおじ様だよ~」

「おいセルバンテス、話を聞けっ!・・・ああ!サニー」

抱かれていたサニーの姿を確認するや否や手にあった二枚目のクッキーを放り投げ、樊瑞の腕から半ばひったくるように奪ってしまった。ゴーグルを取り去り嬉しそうに彼はサニーの顔を覗きこむ。そしてだいぶ伸びたサニーのロイヤルミルクの巻き髪を優しく撫でてあの柔らかい頬をくすぐってやった。

「手袋でカサカサするかい?すまないねぇ手袋したままで・・・おじ様今ちょっとお手手が汚れてて・・・」

そう優しく語り掛けるセルバンテスが遂行した任務の最終日は派手な破壊活動で仕上がったはず。それに巻き込まれた一般人を含む死傷者が相当数出たが・・・張本人は今こうして穏やかな眼差しで小さな命に微笑みかけ、その手をサニーは笑顔で受け入れている。

「・・・・・・・・・・・・」

その現実に樊瑞は例えようも無い気持ちになった。

「お父さんはあと二週間すれば帰ってくるよ?ふふふ彼は元気だから安心したまえ」

アルベルトもまた・・・ビッグ・ファイアの名の下、多くの破壊と死を築く。遂行中の作戦が成功すれば無差別に百単位の死者がでるのは確実で・・・それは彼が生きている以上、飽くことなく営みのように行われる・・・それもやはり現実だった。

そしてそれは自分も何ら変わりは無い。
ビッグファイアのご意志であれば明日にでも血の鉄槌を世に振り下ろすべく赴くであろう。その鉄槌に手心は存在しない、ボスの名の下であればたとえサニーのような赤子であろうと・・・

「ミルクはいっぱい飲んでるかい?んん、サニーちゃんまた笑った、はははは」

多くの命を刈り取ったその手でひとつの小さな命を慈しみ
頬を撫で
赤子は無垢な笑顔を向ける。


あまりにも矛盾している現実。何かがおかしい、歪んでいるはずなのに、何もおかしくなく、そして当然のように存在する現実。その現実の一部としている自分の中で「こんなことがあっていいのだろうか」ともう一人の自分が囁きかて・・・樊瑞は自然と口にした。

「私たちのような者がサニーを慈しんで・・・育てていいのだろうか・・・いや、許されることなのか?セルバンテス」

「おや、珍しいな。朴念仁の魔王がセンチになるなんて」

「わ、私とて・・・!私はただこうして我々のような者たちに囲まれるサニーが、何も知らぬうちにこのBF団にいることを・・・その・・・不憫だと思うのだ」

セルバンテスは自らも微笑んだままサニーの額に口付けをして丁寧に産籠に戻す。

「ふむ・・・許されることかどうか・・・か。じゃあ誰が許さないというのかね?神様か?君も私も含めてここにいる人間はそんなもの誰も信じちゃあいないのに?」

「別にそういった許しなどではない、ただ・・・自分自身が許さぬのだ・・・」

「そうかね・・・自分自身がか・・・・」

苦笑が混じった溜め息をもらし、おもむろに手袋に覆われた自身の手を見つめる。
外せなかった手袋は洗い立てのように汚れ一つ無い。

「・・・・・・・・・・・・」

何を考えているのかそのまま無言であったが彼はようやく口を開いた。

「私の口からアルベルトが我が子と縁を切った理由など聞くまでもない。なぜなら今そう想う心がある君がアルベルトと同じ立場であったならば、やはり腹にいる時点で親子の縁を切るからだ。私はそう確信するが・・・違うだろうか?混世魔王樊瑞」

「私が・・・・」

我が子である事実は変わりなくとも、自分のような人間を父とする罪悪。
罪というものがどういうものなのか、麻痺して久しい自分たちでも、確かにそれは罪だとわかる。人の子であっても腕に抱き、何を求めるわけでもなくただ自分に微笑み温もりを与えてくれるのをかけがえなく愛しいと思ってしまった自分だから、わかる。

樊瑞は目が覚めたような顔をセルバンテスに向け。
セルバンテスは笑みを潜めた顔を樊瑞に向ける。

「それと・・・私は不憫と思って欲しくない。それはサニーちゃんがアルベルトの娘であること自体が不幸だと言っているようなものではないかね」

「すまん」

あっさりと謝る十傑集がリーダーにセルバンテスは肩をすくめて笑い再びゴーグルを掛けなおす。「それじゃ、サニーちゃんをくれぐれもよろしく」と一言残しクフィーヤの裾を軽やかにして彼は屋敷を後にした。








「サニー、お前が不幸か不幸でないかどうか決めるのは私ではなかったな」

一人部屋に残った彼は産籠の中で寝息をたてるサニーを覗き込む。
父親が縁を切り、こうして自分のような男に預け、また同じ男たちに囲まれて・・・己の意思ではなく親の因果でこのBF団という場所に存在することを幸か不幸か・・・

「その答えははいつか自分で出すのだサニー」

眠るサニーの頬を触ればやはり拒むことなく柔らかく受け止めてくれる。

「お前が出す答えを・・・きっとアルベルトがそうするように、この私も甘んじて受けよう」




それは春まだ来たらずの頃。




「その日までお前を見守り、お前が微笑み絶やさぬのを願うのを・・・許す私を許してくれ」


懺悔のように膝を折り、彼はサニーの頬から伝わる温もりを指先に受け取る。

眠るサニーは何の夢を見ているのか、彼のその言葉に微笑みで返した。







END



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