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mo3
冒険航空会社モンタナ(モンタナ・ジョーンズ)同人小説
「 故宮の東・西太后の財宝を追え! 」
第3章  中国へ


 ごつんという重い音がした。
 ドアは開きかけたところで折り返し、モンタナの方へ跳ね返ってくる。
「ふん・・・」
 手でそっとドアを受け止め、今度はゆっくり開けてみる。
 相手はまだ立ち上がらなかった。いや、立ち上がる事ができなかったという方が正しいようだ。
 ちらと見てみると、ゼロ卿配下の手下の一人、スラムという細身の男が鼻を押さえてしゃがみ込んでいる。顔面にドアの直撃を受けた事は、相手の様子から想像に難くない。
「へへっ、お先に!」
 ドアを閉め、モンタナはスラムの気を引こうと、嫌味たっぷりに帽子を取って挨拶する。
「こら! 畜生、待ちやがれ!」
「誰が待つかい、ここまでおいで!」
 モンタナは散々ちらついてから、駐車場までの道程を走り出した。
「こんにゃろー!」と叫びながら、スラムがやけくそになって追ってくる。
 まずは一人と、モンタナは笑った。これで、見張り役の数が減った。
 裏通りを行くモンタナに、血相を変えスラムが迫る。わざと間近まで引き寄せてから、モンタナはポーチからビー玉を取り出した。
「ほら!」
 スラムの足元に景気よく蒔き散らす。親指の先程もあるガラス玉が、カチカチと勢いよく路上に散らばった。
 モンタナしか見ていなかったスラムは、たまらない。異変に気づいた時には、既に靴がビー玉を踏んでいる。
「わっわわっわーっ!」
 バランスを崩した体が前にのめる。スラムはもんどりうって、顎から石を敷きつめた通りへと叩きつけられた。
「足元に御注意ってな!」
 一度だけ振り返ってから、モンタナはスラムを撒いてメリッサの車と再会を果たす。運転席にするりと滑り込んで、エンジンをかけ出発させた。スラムはすぐに来るだろう。
 走り出す車のバックミラーに、両腕を振り回して地団駄を踏むスラムが映っていた。大層な剣幕で、頭から湯気を立ち昇らせる様がモンタナにも確認できそうな雰囲気がある。スラムはしばらく車を追いながら、何かをしきりに怒鳴っていた。
 表通りに回り、モンタナはクラクションを短く三度鳴らす。気付いた歩道の通行人が、一斉に注目した。
 博物館前には車はなく、そのまま徐行をさせながら正面の出入り口に車を寄せる。が、車を停めず、片足はアクセル・ペダルにかかりきりだ。
 中から、メリッサを先頭にチャンとアルフレッドが走って来る。慌てふためくその走り様で、周囲の人々が足を止めた。
「モンタナ!」
 しんがりを守るアルフレッドが、助手席に転がり込む。後席には、メリッサとチャンがほぼ同時に飛び込んでいた。
「全員揃ったな、行くぞ!」
 発進際に、モンタナは目一杯クラクションを押し鳴らした。耳が痛くなる程の大音量が、ビルの壁に跳ね返って鼓膜を更に振動させる。
 モンタナが横目で睨むと、通行人に混じって、スリムが耳を塞いだまま足踏みを繰り返していた。
 スリムは、スラムの弟分で巨漢を誇るゼロ卿の手下だ。もし一対一でまともにやり合えば、華奢なモンタナなどひとたまりもない。
 しかし、スリムはおたおたするばかりで、何をするという風でもなかった。スリムはスラムと異なり、只従うだけというタイプの男だ。孤立してしまうと、スリムは身動きが取れなくなる。
 親指と人差し指でスリムにさよならをすると、モンタナは車を海へ向けた。飛行艇ケティに乗り込んで、取り敢えず空に逃げてしまおうという算段だ。
 車は快調にボストンの町を滑る。陽射しと風が、4人には心地よい。
「な、上手くいったろう、アルフレッド」
 角を幾つか曲りながら、前方を見据えモンタナはしたり顔を作った。
「ちょっと乱暴ではあったけどね・・・」
「なーに、あの2人もしばらくは追いついてこられねぇだろうし、上出来さ」
「だと、いいんだけど・・・」
「ま、確かに急ぐに越した事はねぇけどな。これで諦める連中じゃなさそうだし」
 モンタナの運転する車はボストンの中心街を抜け、潮の香りがする海辺の商圏へと入ってきた。
 アガサの店に車を停め、モンタナ、メリッサ、チャンがケティ号に乗り込む。アルフレッドは3人と別れ店に入ると、いつもの鞄を掴んで出てきた。
「これがなくっちゃね」
 大きな鞄を大事そうに抱え、喜々としてアルフレッドがケティに搭乗する。
 双発のプロペラが回り出し、機体が微かな振動を受けた。操縦席についたモンタナは、溌剌とした表情できっと前方を見据えている。
「それでは皆様、当機はこれより離陸いたします。どなた様も御着席の上、シート・ベルトを締めて下さい」
 窓外のチェック、追跡者の確認は怠らないが、声が少々おどけている。
「楽しそうよね、モンタナは」
 客席では、床を見回しながらメリッサがぽそりと呟く。
「何をしているのですか、メリッサさん?」
 チャンがシート・ベルトを締め、心配そうに首を捻った。
「前、ここにイヤリングを落としたの。それを探さないと・・・」
「離陸だそうですよ。私も後で手伝いますから、今はモンタナさんの言う通りに・・・」
 機体の振動が一段と大きくなってきた。流石にメリッサも一度は諦め、慌てて客席のシートに身を委ねる。
 ケティがゆっくりと桟橋から離れた。スピードが上がるに従って、水上のケティは揺れが激しくなってゆく。
 モンタナは操縦桿を引いた。
 機体は傾斜し、ふっと浮き上がって水上を離れる。翼端を伸ばした白い飛行艇は、斜度をかけたまま更に高度を上げた。
 メリッサの前の席では、チャンが口の中で何がしかを盛んに唱えている。肩が震えているその様子から、チャンが何を祈っているのかメリッサにはわかってしまった。
 やがて機体が水平になると、チャンが眼下の景色に目を奪われる。
 何処を見渡して見ても、最早ボストンの姿はない。窓外に見えるものといったら、下には海、そして空には青い空間と眩しい太陽だけだった。
 メリッサが客室を見回すと、光を受けて輝くものが隅にある。それをそっと拾い、操縦室のドアを叩く。
「ようやく見つけたわ。ちょっと傷がついてたけど・・・」
「それは、よござんした」
 空の上では障害物も滅多にない。モンタナは前方から目を離し、ほぼ真後ろへ体を捻った。
「ところで、これから中国へ行くって言っていたわね」
「ああ」と、アルフレッドは大きな地図を膝上に広げた。陸と海が色分けされたそれには、東アジアの国々が1枚の紙に纏めて描かれている。
「故宮に行くんでしょ。でも、北京に直接降りる事はできないわよ」
「できないって・・・でも、どうして?」
 オウム返しに、アルフレッドが問う。
「新聞、読んでないの?」
「そりゃ読んでるけど」
 メリッサが、優雅に両手を広げた。
「考古学には詳しいけど、現在の世界情勢には疎いのね。つまり、あの国は今とても政情が不安定なの。革命と戦争がいっぺんに起きているようなものね」
「革命と戦争だぁ?」
 モンタナは、間の抜けた声を上げた。
「北京に降りるんじゃなかったら、何処に行きゃぁいいんだよ?」
「うーん、そうだな・・・」
 地図を見ながら、アルフレッドが眉間に皺を作る。
 そこへ別の声がした。
「念壇の北に行って下さい」
 操縦席にいた3人が、一斉に振り返る。
「チャンさん・・・」
 客席から話し声を聞き取ったのか、チャンがいつの間にやらメリッサの後ろに立っていた。
「念壇というと?」と、アルフレッド。
「北京の南にある町です。北京の中心からは20キロ程離れているので、その外れに降りれば北京程人目にはつかないでしょう。小さな湖もあるので、この飛行機にはうってつけかもしれません」
 アルフレッドが地図の上で、場所について大体の見当をつける。念壇は地図にはなかったが、北京から離れているのは都合がよかった。夜、密かに北の外れへ着地できれば、北京まで目につかない陸路を行く事ができる。
「そいつぁ、都合がいいや」と、モンタナ。
「決まりだね」
 アルフレッドが地図を畳む。
「ああ。・・・ところでチャンさん、ギルト博士のレコードにあった短剣の秘密って何なんスか?」
 方位と高度を確かめてから、モンタナは再び真後ろへ上体を回す。
 が、チャンは質問に答えてくれない。それどころか、先程までの即答ぶりを期待していたモンタナは、チャンの意外な表情に目を丸くした。
 青い空をキャノピー越しに、チャンが黙して見上げている。唇を噛んだ表情は沈痛そのもので、何か間違えたかとモンタナはアルフレッドに無言で問うた。
 そのチャンが、片手で頭を抱えながらふと苦笑いを零す。
「秘密は漏れてしまうものなのですね」
 チャンの心中を察し、副操縦席でアルフレッドがにこりとした。
「ギルト博士なら信用できる方です。中国の不利益になるような事はしません。故宮の財宝と奪われた短剣は、必ずや中国側にお帰ししますよ」
「・・・それを聞いて安心しました」
 若者はそう口にはしたが、言葉面程目が笑っていなかった。アルフレッドとメリッサは、どちらからというのでもなく顔を見合わせ、それとわからぬよう小首を傾げる。
「そこで相談なんですけど、チャンさん。短剣の謎解きと財宝探し、ちょっくら俺達にやらせてもらえませんか?」
「モンタナ・・・」
 メリッサが、頭を手で押さえ目をつむる。アルフレッドもモンタナの肩を肘で小突いたが、モンタナは一向に意に介さない。
 モンタナは2人の懸念など何処吹く風、信用は勝ち得るものとして、多少強引な押しも通す。
 そんな態度に折れた訳でもないのだろうが、チャンは意外にもあっさりとモンタナの申出を受け入れた。
「是非、お願いします。私もずっと考えていたのですが、どうしても短剣の謎は解く事ができませんでした。皆さんにお任せしたいと思います」
「ラッキー!」
 すっかり御機嫌のモンタナは、右手を振り上げた。
「あの・・・チャンさん。本当に我々に任せていただけるのですか?」
 チャンの真意を計りかね、アルフレッドが眉をひそめる。
「それは構いません。私は、あなた方を信用するに足る人物と思っています。ただ」
「ただ?」
「もし故宮で財宝が発見できた時、私の願いを1つだけ叶えて下さい」
 今度はモンタナが、肘でアルフレッドを小突く。
「別に構わないだろ? な!」
「あ、ああ・・・」
 釈然としないものを感じながらも、アルフレッドが承知した。チャンの口調には、控え目な彼にしては決然とした何かが含まれている。とはいえ、今のアルフレッドにはチャンの物思いなど知る由もない。
「んふぅ! 何だか、たまらないぜ!」
 一方のモンタナは、新しい冒険に胸ときめかせ、ギルト博士のメッセージを盛んに反芻し始めた。
「西太后の財宝か・・・。そういえばアルフレッド、ギルト博士の言っていた西太后って何者だ?」
「モンタナ・・・」
 シートで、アルフレッドが髭を垂らした。
「清の第7代皇帝であった咸豊帝の妻だよ。そして、自分の息子、第8代皇帝・同治帝を生んだ人でもある。更には同治帝の死後、光緒帝を担ぎ出した張本人で、同治帝・光緒帝、2人の摂政でもあったんだ」
「なぁメリッサ、摂政って何なんだ?」
 小さな声で、モンタナは後ろに控えるメリッサにそっと尋ねる。
「摂政っていうのは、まだ幼い帝を助けて政治を行う人の事よ。補佐するといっても、結局はその人がすべてを執り行なう事になるの」
「その通りだよ、メリッサ」
 出来のよい聴衆に、アルフレッドがさも満足そうに頷いた。
「これから行く故宮というのは今の呼び方で、さっきも言ったけど、昔は紫禁城と呼ばれていたんだ。清とその前に中国で君臨していた明、両方の中枢として機能し、帝の住まうところでもあった。清朝が滅んだ後は博物館として国の様々な宝物を保管している。・・・そうでしたよね、チャンさん」
「はい、その通りです」
 チャンが相槌を打った。
「じゃあ、これから探そうっていうのは、その博物館に保管されてる宝って事か?」
「い、いえ! そうではありません」
 慌ててチャンが否定する。
「私が父から聞いたところでは、故宮の人知れぬ何処かに西太后が隠した宝物が眠っているとの事で、光緒帝がその在処を二振りの短剣に記したとあるのです」
「へぇー、そりゃまたスゴイや。国の権力を握ってた摂政のお宝てぇと、値打ちなんかつけられないんじゃねェの」
 モンタナは含み笑いをし、「それなら尚の事、ゼロ卿なんかにゃ渡せねぇな」と声を低くした。
「でも、おかしいわね」
 イアリングを握りながら、メリッサが細い指を顎にやる。
「確か、西太后と光緒帝って、仲が悪かったんじゃないかしら。宝物の持ち主が西太后なのに、隠し場所を残したのが光緒帝なんて、何だか変だわ」
「ホント、メリッサ?」
 副操縦席に膝を突き、アルフレッドが半立ちになった。前方を確認するモンタナを残し、アルフレッドとメリッサはほぼ同時にチャンを顧みる。
「…おっしゃる通りです、メリッサさん」
 アルフレッドが溜め息を吐いた。
「チャンさん。もし宜しかったら、知っている事をもう少し教えてもらえませんか? 僕達が信用できないというのでしたら、御迷惑はかけません。龍の短剣を取り戻したら、この件からは手を引くようにします」
「い、いえ、そうではありません。余り・・・その、人の口に昇らせてよい話でもないので、つい・・・」
「それは、皇族の名誉に関わるという事ですね」
「はい・・・」
「決して口外はしません。話してもらえますか?」
 チャンが軽く咳ばらいをした。
「・・・光緒帝には皇后の他二人の后がおられ、帝は皇后ではなく、珍妃様をそれは愛しておいででした。しかし、御二人が今生で幸せになる事はできなかったのです。珍妃様は、帝が北京を離れておいでの間に、謎の死を遂げられたと言います。帝はその死を大変お嘆きになり、今生では遂に果たす事のできなかった帝と皇后の関係を二振りの短剣に託され、珍妃様への変わらぬ愛をお誓いになられました。・・・そして帝は、珍妃様を疎んじておられた西太后をお憎みあそばされ・・・」
「私財の在処をつきとめて、珍妃のたむけにと短剣にその場所を密かに記した、と・・・」
 チャンの後を取り、アルフレッドが深く頷いた。
「悲恋だねぇ・・・」
 モンタナは、ぽそりと呟く。
「まぁ」
 悲恋と聞いて青い瞳を輝かせたのは、メリッサだった。
「愛し合う二人が、運命に引き裂かれてしまったなんて。変わらぬ愛を誓う光緒帝。・・・何てロマンチックなのかしら」
「俺には残酷物語に聞こえるぜ、メリッサ」
 舞い上がるメリッサに、モンタナは彼なりの本音をぶちまけた。
 途端に、メリッサが頬を膨らませかわいらしく口を尖らせる。それを見たモンタナは、歯をむき出し下品に笑った。
「まぁまぁ2人共、喧嘩なんかしてないで・・・」
 アルフレッドが2人を見比べ、恐る恐るとりなしにかかる。
「とにかく、僕達はこのまま中国に急ごう。ゼロ卿から龍の短剣も取り戻す方法も考えなくちゃならないし、難問は山積みだよ」
「そのゼロ卿だけど、北京に行くまでに現れるかしら」
「勿論!」
 困惑ぎみのメリッサに、モンタナは即答する。
「随分と自信がおありね」
「そりゃあ、そうだろう。やっこさんにしても、短剣一つじゃ何もできない。必ず向こうから、ひょっこり現れるさ」
「その時には、僕達が向こうにある龍の短剣を取り戻さないとね」
 アルフレッドが付け足した。
「またへんてこなマシンに追い回されると思うと、何だかゾッとするわ」
「走るのは、健康の為にいいんだぜ、メリッサ」
 モンタナは、意地悪そうに半眼を作った。
「何が言いたいの?」
「ほら、いつも美容にいい事をしたいって言ってたじゃないか」
「ハイヒールで走るのは別よ! 足が痛くなるだけでしょ!」
「だったら、ケティで待ってるかい? ・・・勿体ねぇよなぁ、ここまで来て・・・」
 モンタナは、そこはかとなく悪意を見せた。底意地の悪い男ではないが、語尾には笑いさえ含ませている。
「んもぉ、モンタナったら!」
 踵を立てて、メリッサが前に進む。細い腕をさっと伸ばすと、モンタナの髭をかなり強く後ろへ引いた。
「痛い! 痛いよ、メリッサ!」
 ケティ号が左に傾斜し、乗っている全員が左側に大きく揺らぐ。
 ケティは、北極海上空を飛行してから日本の千歳で給油し、一路北京南部へと向かった。
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