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うろほろぞ
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vm


ズルイ男  

「て、手当てしてくれて……ありがとお。アハハ」
「何をおっしゃいますの~お気になさらないで下さい~」
「あ、そそそそ、そお?」
「ええ、このくらい。行方も知れぬ誰かさんを探して砂漠を彷徨う苦労に比べたら全然~」
「……ご、ごめん……」
「さっきからそればかり。全く。鈍い所もお変わりなくて安心しますわ~っ」
 消毒液の染み込んだガーゼを盛大に傷に押し付けられ、ヴァッシュは悲鳴を上げた。
「も……も少し優しく!」
「あらあ、ゴメンアソバセ。おほほ」
 にっこり上品に微笑むメリルに、思わずヴァッシュは額の冷や汗を拭う。
 シップ内。担ぎ込まれて二回目の晩である。寝室代わりの病室で、メリルはヴァッシュの二の腕の包帯を取り替えていた。ジェシカが料理当番で五分前に泣く泣く出て行って、今は再会して以来、初の二人きりである。
 ベッドに腰掛けて床に足を下ろしたヴァッシュは、そっと溜息をついた。脇の丸椅子で、澄まし返って救急箱を覗き込むメリルをこっそりと見る。二人きりになった途端、先程のようなちくちく攻撃が延々と続いている。会話の糸口を探し笑顔で皮肉られおずおず謝ってぴしゃりと遮られ、の繰り返しである。遠まわしに嫌味をまぶし、ちらりとも「謝る隙」を見せず、目すらきちんと合わせてはくれず。ぴりぴりと、小さな体で冷たく雰囲気を尖らせているのである。
 これではヴァッシュの大きい図体も縮こまる、というものである。
(謝るいいチャンスだと思ったのになぁ……)
 彼女が怒るのは恐ろしいまでに当然である。だがしかし。
 救いを求める様に見た隣のベッドにウルフウッドの姿はない。お目付け役のジェシカが出て行った途端、「煙草喫うてくる~」と鼻歌混じりに出て行った背の高い後姿を思い出す。
(ウルフウッドの馬鹿~!)
「あ……あの、ミリィは?」
「経費請求書のまとめをやってます。ああ大変でしたわぁここまで来るの。請求書も山の様になりましたからね。あの子も苦労してるんですのよ~」
 またしても薮蛇である。ひきつった笑顔でヴァッシュは頭をかいた。そんな彼を満足そうに横目で見て、メリルは包帯の留め金を親の敵の様にぎゅうぎゅうと止めた。
「い、いてて……」
「はいできた。じゃあ次は太股」
「へ」
「ズボン、お脱ぎになって下さいな」
「ええっ!ちょ、ちょっと君」
 容赦なくジーンズのベルトに手をかけられ、反射的に華奢な右手を上から押さえた。
 途端、ぱちん、という乾いた派手な音が、静かな病室に響いた。
「……え」
「あ」
 事態が飲み込めずに目を丸くしたヴァッシュを見、メリルは酷く狼狽して俯いた。メリルの左手が、平手打ちの勢いで、ヴァッシュの右手を払いのけたのである。
「……」
「ご、ごめんなさい……つい」
 下りた静寂にぎこちなく笑うと、メリルは彼女らしくない慌てた仕草で腰掛けていた椅子を引いた。乱暴に道具を救急箱の中に押しこむ。
「あ……後はルイーダさんかジェシカさんにやって貰って下さい」
 蓋を閉じ、救急箱を掴んで立ち上がる。表情を見せない様に急いで背を向けて、
「私はちょっと、やらなければならない事を」
 その細い腰を、後ろからヴァッシュは乱暴に引き寄せた。
「きゃ……!?」
 苦もなく腕の中に抱き締めて、開いた太股の上に横抱きに座らせる。
「ちょ、何をなさるんですの!」
 必死で暴れる彼女の顎を強く掴んで上向かせ、薔薇色の唇を奪った。
「ん・・・!!!」
 貪る様に、深く、強引に、容赦なく。熱い舌で無茶苦茶に口腔を犯す。歯をぶつけ、獣の乱暴さで噛み付く様に。わざと下品な濡れた音を立てて唾液を吸ってやると、腕の中の細い体は大きく震えた。息継ぎを赦さない激しいキスは、昔、彼女が好んだそのままである。
 広い背中を精一杯叩いていた細い腕が弱々しく落ちるまで、思う存分に貪って、唇を離してやる。目を開けると、睫毛が触れる至近距離の真っ白な頬はもう上気していた。おずおずと開いた紫の瞳を覗き込み、ヴァッシュは笑った。
「さっきからさ。何だよ、その態度。誘ってるの?」
「な……!」
「そそるんだよな、冷たい君。でもさ」
「……」
「もうちょっと優しくしてよ。久しぶりに会ったってのに酷くない?」
「……酷いのは!」
「ん」
「酷いのはそっちですわ!」
 ついに激情を迸らせて、メリルは拳で目の前の厚い胸を叩いた。大きな目から涙を零し、眉を寄せて叫ぶ。
「置いて行った癖に!私の事なんてどうでもよかった癖に!生きてたならどうして……!」
 しゃくり上げてそれ以上は声にならなかった。胸が苦しくて息が上手く出来なくて、ただただびくともしない広い胸を両の拳で叩く。彼を失って二年間決して流さなかった熱い涙が、とめどなく溢れた。困った様に背中を撫でる大きな手に、感情がどうしようもなく渦巻く。
「忘れようと……したのに……!大嫌い!馬鹿!大好き!」
「これは……もしかしたら、男冥利に尽きる、ってやつかな……」
「うるさい!!」
 メリルは大きくしゃくり上げ、ずず、と鼻水をすする。湧き上がる嬉しさを苦笑で誤魔化し、ヴァッシュは涙でぐちゃぐちゃの可愛い顔をパーカーの袖でごしごし拭ってやった。真っ赤な目で見上げる額にそっと唇を落とし、壊れ物を扱う丁寧さで胸に抱き締めた。
「そうやって、最初から思い切り怒ってよ。謝れないじゃない。
  ……連絡しないでごめんね。会えて……嬉しいよ。本当に。
    嘘じゃない。二年間、思い出さない日はなかった」
「……絶対」
「?」
「こうやって、誤魔、化すから」
「だからあんな態度とってたの?」
 ヴァッシュの胸に顔を埋めたまま、こくりと頷く小さな頭に愛しさが募る。黒い髪に頬擦りをして、ヴァッシュは細い背中をぽんぽんと叩く。子供をあやすように。
「誤魔化すつもりなんてないさ。ごめん。俺が悪かった」
「……」
「でもさ、君ならきっと、他にもっと」
 小さな指に唇を塞がれて、ヴァッシュは言葉を止める。
「聞きたく、ありませんわ」
「……うん。ごめん」
 全力で抱いたら折れてしまいそうな細い体は、二年前抱いた時より少し軽くなっていた。柔らかな体を強く抱き締める。感触を確かめる様に。久しぶりの暖かな体温は、例え様もなく幸せで優しい匂いがした。微かに苦笑して、ヴァッシュは自分の胸にすがりつく小さな白い手を見下ろした。
(資格なんてないのにね。もう終わりにしなきゃいけないのにね)
 何も言えなくなってしまった。
 しゃくり上げる声が落ち着くまでそうしていてから、頃合を見計らって、ヴァッシュは小さな耳朶にちゅ、と唇を押し当てた。
「……あ」
 驚いた様に肩を竦め、体を離そうとする腰を、やんわりと掴む。
「でもさ。誤魔化されないようにがんばってた……って事は。すぐ誤魔化されちゃいそうだって事だよね?」
 答えずにもがき始めた小さな体を、乱暴にベッドの上に押し倒した。頭上で細い腕を一まとめに右手で戒めてやる。背けた顔に顔を寄せ、耳元でいやらしく囁く。
「可愛いねメリル。そんなに弱いんだ、俺に触られると。何も分からなくなっちゃって,何でも赦しちゃうんだ?」
「ほら見なさいー!それが誤魔化してるって言うんですわー!!男っていつも……あっ!」
 透き通るような喉元に開いた唇を熱っぽく押し付ける。久しぶりのその感触に、一瞬動きの止まった自分を恥じるように、メリルは一層激しく身を捩った。いなす必要もなくそれを無視し、ヴァッシュは右手を下に伸ばした。
「答えになってないよ、それ」
「きゃ……!」
 フレアスカートを持ち上げてするりと忍び込んだ手に、メリルは思わず悲鳴を上げる。
「二年間、他の男にここ、いじらせてないよね?」
 容赦なく下着に手を差し込んで、ヴァッシュはにっこり笑って見せる。可憐に震える熱いそこは潤んで淫らにヴァッシュを誘っていた。触れた途端、激しくメリルの体は跳ねた。
「あ……あん、は……!嫌……!」
「嘘ばっかり。凄いよこっち。ねっとり絡み付いてくる。久しぶりの俺の指、とっても美味しいって言ってるけど?」
「や・・・止めて、お願い……!あ、あっ!」
「お詫びに気絶するまでイかせてあげる。ぐちゃぐちゃになっちゃうまで二人で気持ちよくなろ。俺も君の体が欲しい。覚えてるよ、その胸も腰も……これも」
「ひゃ……っ!」
 深く探られて、頭の芯が痺れた。びくびくと体を震わせてメリルは喘ぐ。両手を押さえつける手は、あの時月に穴をあけたあの腕。それを知って尚この男にこうして抱かれている自分は……もう戻れないと、思った。愛しく見下ろす目を見上げ、薄く唇を開いて求めると、熱い唇が強く重ねられた。二年間、求めずには居られなかった、奪うような溶ける口付け。戒められた手首が解かれるのももどかしく、太い首にすがりついた。
「好き……好き、大好き……!ヴァッシュさん……!」
 熱に浮かされた様に、掠れた声でピアスの左耳に囁く。目尻を下げて笑い、ヴァッシュは優しく白い頬にキスする。
「ヴァッシュでいいって言ったの、忘れちゃった?」
 そのまま左手をブラウスのボタンにかけ、ヴァッシュはそっと

「ただいまぁ」
 大声と共に、自動でぎごちなく開いたドアをくぐる。ベッドの脇に立ち上がったメリルと、ベッドに横たわったヴァッシュがゆっくり振り返った。その視線に何となく気圧されて、ウルフウッドは思わず一歩下がった。
「……ん?何や」
「いいえ、何もありませんわ。それでは私はこれで。お二人ともお大事に」
 操り人形の様な動きでぎくしゃくと、メリルは救急箱を下げて出て行った。よろよろとドアの向こうに消える小さな背中を見送ってウルフウッドは立ったまま首を傾げた。
「何や、おかしな姉ちゃんやなあ?」
「……この部屋、ちょっと暑ない?」
「そんな事は全然ないと思うけど」
きっぱりと言い切るヴァッシュの髪の毛がぼさぼさな事に、ウルフウッドは気がつかない。
「ふうん。ならええねんけど」
首を捻りつつ、自分のベッドに歩み寄り、どさっと腰掛けて、にこにこと笑う。
「ああ煙草旨かった。やっぱアカンな、ヤニないと」
「へーそうー」
「ここは全禁煙やもんな~……って」
ふ、とヴァッシュのベッドを見て、ウルフウッドは目を見開いた。
「トンガリ」
「何ですか」
「……それ」
指差した先にあったのは。どうみても女性用の下着。続に言うぱんてぃー、である。
「……」
「……」
触れれば切れそうな恐ろしい三分間の静寂の後に、ヴァッシュは重々しくそれを取り上げて風の様に部屋を走り出て行った。ああ、と赤い顔で溜息をついて、ウルフウッドはがくりと頭を落とす。
(どうやって手渡すかが問題やなあ……)
この後間違いなく起きるであろう大騒動に、ウルフウッドは少々同情した。

<完>
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