この度山本家の養女となった私リツには、悩み事がございます。
私自身はあくまでも山本家に『嫁入り』したつもりです。
何しろ甲斐のお舘様直々に、
「リツと申すのか…良きおなごじゃ。お主、勘助の子を産んでくれんか?」
と命ぜられた身でございます。
旦那様その人も、隻眼破足の爺と本人は仰いますが
どうして中々良き殿方です。
私に押されてあたふたしている所など、とてもお可愛らしくて
「戦の鬼」「謀を好む血も涙もない男」などという世間の評判は
本当に当てになりませぬ。
というわけで旦那様の子を産む気満々の私ですが、
当の旦那様ににその気がございません。
ならばその気にさせて見せましょう、と寝所に忍んでもここで問題が一つ。
私は武家の娘です。末娘として、父鬼美濃に大事に育てられて参りました。
いくら好奇心旺盛とは言え、閨事にはとんと縁がなかったのです。
もちろん、何処か他家に嫁ぐ際の嗜みとして一通りの作法は
年頃に母上に教わりはしたものの、作法は作法です。
積極的でない相手をその気にさせる方法など、あるわけもございません。
よって目下私の悩みは、
「いかにして旦那様をその気にさせる術を知れば良いか。」
に尽きていたのでございます。
「リツ、あまり元気が無いようですが何かありましたか?」
貝合わせの最中だというのに、無意識に溜息を漏らしていたようです。
於琴姫様に心配そうに声をかけられ、私は慌てて笑みを浮かべました。
「いいえ姫様、左様な事はございませぬ。」
「そうですか、私はてっきりあの山本殿と何かあったのかと。」
姫様はふんわりした方ですが、意外と鋭い所がお有りになられます。
ですが、閨事の事など姫様にお聞きするわけには…。
「山本殿は、中々寝所に誘って下さらぬのですか?」
突然悩みそのものを言い当てられ、驚いて姫様を見ますと
口に手を当てられ、ころころと笑っておいででした。
「まぁリツ、そんな顔をして。
私とて一児の母、それなりの推量はできますわ。
それにお舘様が『勘助は頑固でいかんな、あれでは少々リツが不憫じゃ』
と先日仰っておりましたゆえ。」
すっかりしてやられた私は、素直に心中を姫様にお話申し上げました。
すると姫様は小首を傾げられて、
「そうですね…いくら言葉や書物で知ろうとしても、
中々解りづらいものですから。あ、そうですわ!」
妙案が閃きましたわ、と姫様が嬉しそうに話された内容に
私は目が回りそうになりました。
「今宵丁度お舘様が、お渡りになられます。
百聞は一見にしかず、と言いますもの。
用意は致しますから、お舘様との閨事をこっそり見せて差し上げますわ。」
とんでもない!と必死にお断りしたのですが、
姫様は一度思い込まれたら聞いて下さらなくて。
その夜、私はお二人の睦言を拝見する事になったのです…。
翌朝、眼が真っ赤になった私を見て
心なしか艶が増された姫様は嬉しそうにお笑いになりました。
「どうでしたか?何か聞きたい事があれば、遠慮せずとも良いのですよ。」
「あの、姫様。その、御口で…」
「尺八のことですね。殿方を喜ばせて、
その気にさせるには良い方法だと思いますよ。
笛を縦に吹くようにすると良いようですね。歯は立てないで…」
姫様にみっしりと教えを受けた私は、その教えと
昨夜眼に焼きついた光景でふらふらの頭を抱えつつ屋敷に帰りました。
門をくぐると、おくまが気づいて駆け寄ってきます。
「リツ様、おかえりなさいませ!
今小県から、真田様ご夫妻がこられておりますだ。
旦那様は夜帰ってくるだに、リツ様がお相手してくだせい。」
真田様は、旦那様の昔からのご同輩でいらっしゃいます。
小県から泊りがけで、尋ねてこられることもよくあるのだそうです。
私は急いで、ご夫妻をお待たせしている客間に向かいました。
「おお、リツ殿。どうじゃもう山本家には慣れられたか。」
「本日はお世話になります。」
真田幸隆様と奥方の忍芽様。城下でも評判の鴛鴦夫婦でいらっしゃいます。
「お蔭様で、旦那様をはじめ皆に良くして頂いております。」
私がそうお返事致しますと、お二人は揃って不思議そうな顔をされ…
真田様は大笑いされ、忍芽様は苦笑いされました。
「旦那様、か!これは勘助の奴、未だに梃子摺っておるようじゃのう!」
「貴方、失礼ですよ。」
いつも中がよろしくて、羨ましい限りです。
いつも通りの私なら、この様な事は到底口に出せませぬ。
ですが今は、昨夜拝見した光景と於琴姫様の御指南で頭が一杯でした。
それ故、ついつい…。
「お二人はいつも仲がよろしくて、羨ましゅうございます。
なにか夫婦仲の秘訣はございますか?例えば閨事など…っ!」
途中で気がついて、口を押さえても後の祭り。
一瞬固まられた後、真田様はさらに大笑い。
忍芽様は、私を窘められるようなお顔をなさいました。
「そ、そうじゃなぁ。夫婦仲が良くないと閨事も上手くいかんものだからのう。」
「…リツ殿。勘助殿もお年ゆえ貴方を養子になされたのですよ?
そのお心を汲んで、婿をとられるまで良き娘であるべきです。」
母上の様な忍芽様にそう言われては、私も何も言えませぬ。
やがて日も暮れ、お二人は当家に宿をとられたのでございます。
その夜更け。どうにも寝付けずにいた私は、水を飲みに中庭の井戸へおりました。
冷たい水を口に含んで、寝所へ戻ろうとすると
何やら低く抑えたような声が致します。良く聞くと悲鳴のようです。
(まさか、お屋敷に賊が?)
それなら真っ先に、太吉達が起きてそうなもの。
真相を確かめる為、私はこっそりと声の聞こえる方へ向かいました。
どうやら庭に面した客間の辺りから、声は聞こえてきています。
そこまで近づけば、昨夜の経験上嫌でも声が男女のものとわかりました。
これはいけない、気づかなかったふりをして戻ろう…と踵を返した時。
「…あなた、何も山本殿のお屋敷でこんな…」
「リツ殿にあのような事を言われてはな。
きちんと道具も持ってきておる、案ずるな。」
己の名前が聞こえ、思わず振り返ると
月明かりの下うっすらと、障子にお二人の影が映りました。
「その様なこと案じては…んっ、あ…」
「違うのか?申してみよ忍芽…。」
足に根が生えてしまったかのように、私はそこから動けなくなってしまったのです。
翌朝、夜更けに長く屋外にいた為か私はどうやら風邪を引いてしまったようです。
真田ご夫妻をお見送りすることも出来ず、頭痛の為床についておりました。
風邪といっても頭痛の原因は、専ら昨夜見た影にございます。
その、影という形でもはっきりと、忍芽様のお身体に縄が掛かっているのが
見えてしまったのでございます。
(お二人は長く連れ添われ、忍芽様は真田様の為に
命をかけて敵陣に行かれたこともあるとか。
左様に信頼関係があるのなら、緊縛も愛情表現ということなのでしょうか)
閨事は奥が深い、深すぎます。
ここ数日で得た知識で頭が沸騰しそうになっていると、音も無く襖が開いて
「リツ様、薬が出来ましたので持ってきました。」
と真田の喇叭、葉月が入ってきました。
「葉月?わざわざありがとうございます。」
「山本様が『風邪に良く効く喇叭の薬は無いか、リツに飲ませてやってくれ』
と血相変えてまして、ひきとめられました。義娘思いの良い義父殿ですね。」
真田様に同行されていた葉月に、旦那様がその様な事を…。
やはり旦那様はお優しい方です。忍芽様にああは仰られましたが、
義娘として諦めることはできそうにありませぬ。
決意を再度固めていると、ひょいと葉月が覗き込んできました。
「ところで、リツ様。昨夜はまたどうして
真田様の御寝所を覗かれていたんですか?」
「…ゴホゴホッ!!」
頂いていた薬湯を思わず喉に詰まらせ、咳き込んでいると背中を叩いて頂きました。
「ご安心ください、真田様にも報告してませんから。
そりゃあ、あれだけ寒い中外にいれば風邪も引いて当たり前です。」
葉月は真田様の身辺警護をしている身、
昨夜の私の行動を知っていて当前と言えばその通りです。
観念して、私は経緯を全て葉月に話しました。
一通り話し終えると、葉月は腕を組んで軽く唸りました。
「真田様のあれは、確かに愛情表現だけど…あ、どうか他の方には御内密に。」
「はい、黙っています。」
頷くと、葉月の眼がきらきらと好奇心に輝きだしました。
「で、リツ様は於琴姫様にご教授された技で、山本様に挑まれるので?」
あからさまにそう口に出されると、やはり恥ずかしさが先にたちます。
それに実行に移すには、一つ問題が残っていたのです。
「それが…旦那様は私が寝所に入ってもお目覚めになりませんけれども、
お身体に少しでも触れるとすぐ眼を覚ましてしまわれるのです。」
どう考えても、教わったことを致す前に突き飛ばされてしまいます。
「成る程…山本様らしいっちゃらしいけど。」
私自身はあくまでも山本家に『嫁入り』したつもりです。
何しろ甲斐のお舘様直々に、
「リツと申すのか…良きおなごじゃ。お主、勘助の子を産んでくれんか?」
と命ぜられた身でございます。
旦那様その人も、隻眼破足の爺と本人は仰いますが
どうして中々良き殿方です。
私に押されてあたふたしている所など、とてもお可愛らしくて
「戦の鬼」「謀を好む血も涙もない男」などという世間の評判は
本当に当てになりませぬ。
というわけで旦那様の子を産む気満々の私ですが、
当の旦那様ににその気がございません。
ならばその気にさせて見せましょう、と寝所に忍んでもここで問題が一つ。
私は武家の娘です。末娘として、父鬼美濃に大事に育てられて参りました。
いくら好奇心旺盛とは言え、閨事にはとんと縁がなかったのです。
もちろん、何処か他家に嫁ぐ際の嗜みとして一通りの作法は
年頃に母上に教わりはしたものの、作法は作法です。
積極的でない相手をその気にさせる方法など、あるわけもございません。
よって目下私の悩みは、
「いかにして旦那様をその気にさせる術を知れば良いか。」
に尽きていたのでございます。
「リツ、あまり元気が無いようですが何かありましたか?」
貝合わせの最中だというのに、無意識に溜息を漏らしていたようです。
於琴姫様に心配そうに声をかけられ、私は慌てて笑みを浮かべました。
「いいえ姫様、左様な事はございませぬ。」
「そうですか、私はてっきりあの山本殿と何かあったのかと。」
姫様はふんわりした方ですが、意外と鋭い所がお有りになられます。
ですが、閨事の事など姫様にお聞きするわけには…。
「山本殿は、中々寝所に誘って下さらぬのですか?」
突然悩みそのものを言い当てられ、驚いて姫様を見ますと
口に手を当てられ、ころころと笑っておいででした。
「まぁリツ、そんな顔をして。
私とて一児の母、それなりの推量はできますわ。
それにお舘様が『勘助は頑固でいかんな、あれでは少々リツが不憫じゃ』
と先日仰っておりましたゆえ。」
すっかりしてやられた私は、素直に心中を姫様にお話申し上げました。
すると姫様は小首を傾げられて、
「そうですね…いくら言葉や書物で知ろうとしても、
中々解りづらいものですから。あ、そうですわ!」
妙案が閃きましたわ、と姫様が嬉しそうに話された内容に
私は目が回りそうになりました。
「今宵丁度お舘様が、お渡りになられます。
百聞は一見にしかず、と言いますもの。
用意は致しますから、お舘様との閨事をこっそり見せて差し上げますわ。」
とんでもない!と必死にお断りしたのですが、
姫様は一度思い込まれたら聞いて下さらなくて。
その夜、私はお二人の睦言を拝見する事になったのです…。
翌朝、眼が真っ赤になった私を見て
心なしか艶が増された姫様は嬉しそうにお笑いになりました。
「どうでしたか?何か聞きたい事があれば、遠慮せずとも良いのですよ。」
「あの、姫様。その、御口で…」
「尺八のことですね。殿方を喜ばせて、
その気にさせるには良い方法だと思いますよ。
笛を縦に吹くようにすると良いようですね。歯は立てないで…」
姫様にみっしりと教えを受けた私は、その教えと
昨夜眼に焼きついた光景でふらふらの頭を抱えつつ屋敷に帰りました。
門をくぐると、おくまが気づいて駆け寄ってきます。
「リツ様、おかえりなさいませ!
今小県から、真田様ご夫妻がこられておりますだ。
旦那様は夜帰ってくるだに、リツ様がお相手してくだせい。」
真田様は、旦那様の昔からのご同輩でいらっしゃいます。
小県から泊りがけで、尋ねてこられることもよくあるのだそうです。
私は急いで、ご夫妻をお待たせしている客間に向かいました。
「おお、リツ殿。どうじゃもう山本家には慣れられたか。」
「本日はお世話になります。」
真田幸隆様と奥方の忍芽様。城下でも評判の鴛鴦夫婦でいらっしゃいます。
「お蔭様で、旦那様をはじめ皆に良くして頂いております。」
私がそうお返事致しますと、お二人は揃って不思議そうな顔をされ…
真田様は大笑いされ、忍芽様は苦笑いされました。
「旦那様、か!これは勘助の奴、未だに梃子摺っておるようじゃのう!」
「貴方、失礼ですよ。」
いつも中がよろしくて、羨ましい限りです。
いつも通りの私なら、この様な事は到底口に出せませぬ。
ですが今は、昨夜拝見した光景と於琴姫様の御指南で頭が一杯でした。
それ故、ついつい…。
「お二人はいつも仲がよろしくて、羨ましゅうございます。
なにか夫婦仲の秘訣はございますか?例えば閨事など…っ!」
途中で気がついて、口を押さえても後の祭り。
一瞬固まられた後、真田様はさらに大笑い。
忍芽様は、私を窘められるようなお顔をなさいました。
「そ、そうじゃなぁ。夫婦仲が良くないと閨事も上手くいかんものだからのう。」
「…リツ殿。勘助殿もお年ゆえ貴方を養子になされたのですよ?
そのお心を汲んで、婿をとられるまで良き娘であるべきです。」
母上の様な忍芽様にそう言われては、私も何も言えませぬ。
やがて日も暮れ、お二人は当家に宿をとられたのでございます。
その夜更け。どうにも寝付けずにいた私は、水を飲みに中庭の井戸へおりました。
冷たい水を口に含んで、寝所へ戻ろうとすると
何やら低く抑えたような声が致します。良く聞くと悲鳴のようです。
(まさか、お屋敷に賊が?)
それなら真っ先に、太吉達が起きてそうなもの。
真相を確かめる為、私はこっそりと声の聞こえる方へ向かいました。
どうやら庭に面した客間の辺りから、声は聞こえてきています。
そこまで近づけば、昨夜の経験上嫌でも声が男女のものとわかりました。
これはいけない、気づかなかったふりをして戻ろう…と踵を返した時。
「…あなた、何も山本殿のお屋敷でこんな…」
「リツ殿にあのような事を言われてはな。
きちんと道具も持ってきておる、案ずるな。」
己の名前が聞こえ、思わず振り返ると
月明かりの下うっすらと、障子にお二人の影が映りました。
「その様なこと案じては…んっ、あ…」
「違うのか?申してみよ忍芽…。」
足に根が生えてしまったかのように、私はそこから動けなくなってしまったのです。
翌朝、夜更けに長く屋外にいた為か私はどうやら風邪を引いてしまったようです。
真田ご夫妻をお見送りすることも出来ず、頭痛の為床についておりました。
風邪といっても頭痛の原因は、専ら昨夜見た影にございます。
その、影という形でもはっきりと、忍芽様のお身体に縄が掛かっているのが
見えてしまったのでございます。
(お二人は長く連れ添われ、忍芽様は真田様の為に
命をかけて敵陣に行かれたこともあるとか。
左様に信頼関係があるのなら、緊縛も愛情表現ということなのでしょうか)
閨事は奥が深い、深すぎます。
ここ数日で得た知識で頭が沸騰しそうになっていると、音も無く襖が開いて
「リツ様、薬が出来ましたので持ってきました。」
と真田の喇叭、葉月が入ってきました。
「葉月?わざわざありがとうございます。」
「山本様が『風邪に良く効く喇叭の薬は無いか、リツに飲ませてやってくれ』
と血相変えてまして、ひきとめられました。義娘思いの良い義父殿ですね。」
真田様に同行されていた葉月に、旦那様がその様な事を…。
やはり旦那様はお優しい方です。忍芽様にああは仰られましたが、
義娘として諦めることはできそうにありませぬ。
決意を再度固めていると、ひょいと葉月が覗き込んできました。
「ところで、リツ様。昨夜はまたどうして
真田様の御寝所を覗かれていたんですか?」
「…ゴホゴホッ!!」
頂いていた薬湯を思わず喉に詰まらせ、咳き込んでいると背中を叩いて頂きました。
「ご安心ください、真田様にも報告してませんから。
そりゃあ、あれだけ寒い中外にいれば風邪も引いて当たり前です。」
葉月は真田様の身辺警護をしている身、
昨夜の私の行動を知っていて当前と言えばその通りです。
観念して、私は経緯を全て葉月に話しました。
一通り話し終えると、葉月は腕を組んで軽く唸りました。
「真田様のあれは、確かに愛情表現だけど…あ、どうか他の方には御内密に。」
「はい、黙っています。」
頷くと、葉月の眼がきらきらと好奇心に輝きだしました。
「で、リツ様は於琴姫様にご教授された技で、山本様に挑まれるので?」
あからさまにそう口に出されると、やはり恥ずかしさが先にたちます。
それに実行に移すには、一つ問題が残っていたのです。
「それが…旦那様は私が寝所に入ってもお目覚めになりませんけれども、
お身体に少しでも触れるとすぐ眼を覚ましてしまわれるのです。」
どう考えても、教わったことを致す前に突き飛ばされてしまいます。
「成る程…山本様らしいっちゃらしいけど。」
PR
二十年ほど前に赤部守を討ち取った葛笠村の離れ、花畑の中に勘助は座り込んでいた。
朧月がぼんやりと、白く小さな花達を照らしている。
何故己は此処にいるのか、甲斐の屋敷からどうやって此処まで来たのか…。
真っ当な疑問は浮かぶものの、形にならず緩やかに吹く風と共に四散していった。
さわさわと揺れる花達に視線を落とす。
これらの名は何と言うのだろう、と他愛も無い疑問が脳裏を掠めた時、
不意に現れた人影に勘助は視線を上げた。
「誰じゃ、っな?!」
「勘助っ!」
何の躊躇いもなく飛び込んできた身体を、慌てて受け止める。
古く擦り切れた着物越しに若く瑞々しい女体を感じて背筋がぞくり、と震えた。
この身体を知っている、忘れるはずがない。
しかし、今生で二度と抱ける筈がないことは勘助がその眼で確かめたはず。
勘助、会いたかっただ。」
胸元からぐいと顔を上げ、にぱっと微笑むのはやはり亡き妻。
「…某にもとうとう迎えが来たか?しかしまだ景虎と雌雄を決しておらん上、
四郎様の行く末も定かでは無いのにおめおめと逝く訳には…」
「何言ってるらに、相変わらず小難しい事ばかり考えてるだか?」
混乱する余り、思考をそのまま口に出してしまい早速突っ込まれる。
我が城じゃ、己が守るべきはお主とその腹の子じゃと誓ったはずが
守ること適わず、死に目にすら会えなかったミツ。
言いたい事伝えたい事は山ほどある筈なのに、
軍略にかけては滑らかな己の舌は今ぴくりとも動いてくれぬ。
「本当に変わってねえだな、勘助。
そういう時は黙って抱きしめるもんずら。」
いつぞやの指南を再度口に出し、からからと笑うミツにつられて
しっかりとその身を抱きしめてみた。
日焼けした首筋に顔を寄せる。ふと、違和感に勘助は眉を寄せた。
ミツの匂いは、大地に根付く今正に周りに咲いている花そのものだった。
しかし今首筋から香るのは、同じ花でも野に群生する物ではない。
例えるなら、庭で丹精込めて育てられた山茶花のような…。
「どうかしたのけ?」
強張った身体を感じ取ったのか、不思議そうな声が耳朶を打つ。
幽谷にいた者とて多少の変化はあるだろう、そう驚くこともあるまいと
思い直して勘助は再びミツの首筋に唇を落とした。
甘やかな花の香りに誘われるように、幾度となく口付ける。
ふぁ、と小さな嬌声を零して腕の中の身体が身じろぐ。
己でもそうは残っておるまいと思っていた劣情が、
その媚態に突き動かされるように湧き上がり熱をもたらした。
それに気づいたミツに下帯の上から撫で上げられ、生じる快楽に息を呑む。
もはや先程感じた違和感や、ミツは己を迎えに来たのでは…
という疑問は勘助の脳裏からすっかり消えていた。
「ん…ミツ…」
首筋を舐め上げ耳朶を甘噛みしながら、
勘助は腕の中の妻の名を柔らかく囁いた。
その途端、甘く鳴いていたミツの身体が先程の己より顕著に強張る。
驚いて腕の中を覗き込むと、明らかに眼を潤ませながら睨みあげてくる視線。
「ミツ、どうした?」
訳もわからず訊ねると、ますます視線には棘が混ざり
とうとう零れた涙がつう、と頬を伝って。
「…嫌っ!!」
突然両の手で力一杯胸を突かれ、受身も取れず勘助は
強かに後頭部を地面に打ちつけた。
痛む後頭部を抑えながら起き上がってみれば、
そこは葛笠村の花畑ではなく、甲斐の己の屋敷。
日の光が差し込む中、またもやリツの顔が視界に入る。
「リツ、お主また某の寝所に…!」
慌てて眼帯を着けつつ、この嫁希望養女をどう諭すべきかと
向き直った勘助は言葉を失った。
どこか拗ねた様にじっとこちらを見つめてくる棘のある視線は、
先程まで己が見ていた夢の中のミツとそっくりで。
背筋をぞくり、と嫌な汗が伝い二の句が告げない勘助。
リツはしばらくそんな勘助を無言で見ていたが、不意ににっこりと笑って
「『旦那様はもうお年で、役に立たないから鬼蓑の娘を養女にした』
等という不埒な噂も城下に流れておりまする。
でもそんなことは根も葉もない噂、私安心致しました。
これでいつでも、旦那様のお子を産んで差し上げられます。
ですが、旦那様が起きておられる時にお願いしますね。」
立て板に水のようにすらすらと述べると、笑顔のまま
「おくまが、朝餉の支度が出来たと呼んでおりまする。」
と固まる勘助を置いて寝所から出て行った。
「『起きておられる時にお願いします』だと?」
他にも色々聞き捨てならないことを聞いた気もするが、
謎かけのようなリツの言葉に頭を抱える勘助。
ふと、リツの残り香であろう花の香りが鼻を掠めた。
そう、例えるなら先程勘助を魅了した山茶花のような香りが…。
呆ける勘助の寝所に、太吉の
「だんなさま~、飯の支度ができたでごいす~。」
という暢気な呼び声がむなしく響き渡った。
後日、勘助は晴信改め信玄の出家に伴い、道鬼と名を改めた。
むろん計略的な意図もある。
信玄の領民を思う気持ちに、素直に感動したのも理由の一つ。
しかし最大の理由は、相変わらず嫁志望の養女に
図らずとも手を出しかけた己に対する戒めであった。
(あの夢は恐らく、ミツからの警告でもあったのだろうな)
高野山で、清胤和尚に言われた事を思い出す。
死者は何かしら生者に遺していく者。きっとミツは幽谷から
「勘助もいい年して、若い者を誑かしてるんじゃねえだに。」
と苦笑交じりに勘助に伝えに来たに違いない。
いずれにせよ出家という節目を持って、養女と己の間に
きっちりしたけじめが出来る、はずだったのだが…。
「道鬼様、おはようございます。」
「…リツ!お主また寝所に!!」
「お酒も少しなら問題ないのでしょう?
でしたら女人も、少しなら問題ないではありませぬか。」
今朝も山本家の寝所から、賑やかな言い争いが聞こえてくる。
リツに婿が来るまで、果たして勘助改め道鬼の理性が持つか。
マリシテンのみぞ知る所である。
朧月がぼんやりと、白く小さな花達を照らしている。
何故己は此処にいるのか、甲斐の屋敷からどうやって此処まで来たのか…。
真っ当な疑問は浮かぶものの、形にならず緩やかに吹く風と共に四散していった。
さわさわと揺れる花達に視線を落とす。
これらの名は何と言うのだろう、と他愛も無い疑問が脳裏を掠めた時、
不意に現れた人影に勘助は視線を上げた。
「誰じゃ、っな?!」
「勘助っ!」
何の躊躇いもなく飛び込んできた身体を、慌てて受け止める。
古く擦り切れた着物越しに若く瑞々しい女体を感じて背筋がぞくり、と震えた。
この身体を知っている、忘れるはずがない。
しかし、今生で二度と抱ける筈がないことは勘助がその眼で確かめたはず。
勘助、会いたかっただ。」
胸元からぐいと顔を上げ、にぱっと微笑むのはやはり亡き妻。
「…某にもとうとう迎えが来たか?しかしまだ景虎と雌雄を決しておらん上、
四郎様の行く末も定かでは無いのにおめおめと逝く訳には…」
「何言ってるらに、相変わらず小難しい事ばかり考えてるだか?」
混乱する余り、思考をそのまま口に出してしまい早速突っ込まれる。
我が城じゃ、己が守るべきはお主とその腹の子じゃと誓ったはずが
守ること適わず、死に目にすら会えなかったミツ。
言いたい事伝えたい事は山ほどある筈なのに、
軍略にかけては滑らかな己の舌は今ぴくりとも動いてくれぬ。
「本当に変わってねえだな、勘助。
そういう時は黙って抱きしめるもんずら。」
いつぞやの指南を再度口に出し、からからと笑うミツにつられて
しっかりとその身を抱きしめてみた。
日焼けした首筋に顔を寄せる。ふと、違和感に勘助は眉を寄せた。
ミツの匂いは、大地に根付く今正に周りに咲いている花そのものだった。
しかし今首筋から香るのは、同じ花でも野に群生する物ではない。
例えるなら、庭で丹精込めて育てられた山茶花のような…。
「どうかしたのけ?」
強張った身体を感じ取ったのか、不思議そうな声が耳朶を打つ。
幽谷にいた者とて多少の変化はあるだろう、そう驚くこともあるまいと
思い直して勘助は再びミツの首筋に唇を落とした。
甘やかな花の香りに誘われるように、幾度となく口付ける。
ふぁ、と小さな嬌声を零して腕の中の身体が身じろぐ。
己でもそうは残っておるまいと思っていた劣情が、
その媚態に突き動かされるように湧き上がり熱をもたらした。
それに気づいたミツに下帯の上から撫で上げられ、生じる快楽に息を呑む。
もはや先程感じた違和感や、ミツは己を迎えに来たのでは…
という疑問は勘助の脳裏からすっかり消えていた。
「ん…ミツ…」
首筋を舐め上げ耳朶を甘噛みしながら、
勘助は腕の中の妻の名を柔らかく囁いた。
その途端、甘く鳴いていたミツの身体が先程の己より顕著に強張る。
驚いて腕の中を覗き込むと、明らかに眼を潤ませながら睨みあげてくる視線。
「ミツ、どうした?」
訳もわからず訊ねると、ますます視線には棘が混ざり
とうとう零れた涙がつう、と頬を伝って。
「…嫌っ!!」
突然両の手で力一杯胸を突かれ、受身も取れず勘助は
強かに後頭部を地面に打ちつけた。
痛む後頭部を抑えながら起き上がってみれば、
そこは葛笠村の花畑ではなく、甲斐の己の屋敷。
日の光が差し込む中、またもやリツの顔が視界に入る。
「リツ、お主また某の寝所に…!」
慌てて眼帯を着けつつ、この嫁希望養女をどう諭すべきかと
向き直った勘助は言葉を失った。
どこか拗ねた様にじっとこちらを見つめてくる棘のある視線は、
先程まで己が見ていた夢の中のミツとそっくりで。
背筋をぞくり、と嫌な汗が伝い二の句が告げない勘助。
リツはしばらくそんな勘助を無言で見ていたが、不意ににっこりと笑って
「『旦那様はもうお年で、役に立たないから鬼蓑の娘を養女にした』
等という不埒な噂も城下に流れておりまする。
でもそんなことは根も葉もない噂、私安心致しました。
これでいつでも、旦那様のお子を産んで差し上げられます。
ですが、旦那様が起きておられる時にお願いしますね。」
立て板に水のようにすらすらと述べると、笑顔のまま
「おくまが、朝餉の支度が出来たと呼んでおりまする。」
と固まる勘助を置いて寝所から出て行った。
「『起きておられる時にお願いします』だと?」
他にも色々聞き捨てならないことを聞いた気もするが、
謎かけのようなリツの言葉に頭を抱える勘助。
ふと、リツの残り香であろう花の香りが鼻を掠めた。
そう、例えるなら先程勘助を魅了した山茶花のような香りが…。
呆ける勘助の寝所に、太吉の
「だんなさま~、飯の支度ができたでごいす~。」
という暢気な呼び声がむなしく響き渡った。
後日、勘助は晴信改め信玄の出家に伴い、道鬼と名を改めた。
むろん計略的な意図もある。
信玄の領民を思う気持ちに、素直に感動したのも理由の一つ。
しかし最大の理由は、相変わらず嫁志望の養女に
図らずとも手を出しかけた己に対する戒めであった。
(あの夢は恐らく、ミツからの警告でもあったのだろうな)
高野山で、清胤和尚に言われた事を思い出す。
死者は何かしら生者に遺していく者。きっとミツは幽谷から
「勘助もいい年して、若い者を誑かしてるんじゃねえだに。」
と苦笑交じりに勘助に伝えに来たに違いない。
いずれにせよ出家という節目を持って、養女と己の間に
きっちりしたけじめが出来る、はずだったのだが…。
「道鬼様、おはようございます。」
「…リツ!お主また寝所に!!」
「お酒も少しなら問題ないのでしょう?
でしたら女人も、少しなら問題ないではありませぬか。」
今朝も山本家の寝所から、賑やかな言い争いが聞こえてくる。
リツに婿が来るまで、果たして勘助改め道鬼の理性が持つか。
マリシテンのみぞ知る所である。
本から顔を上げた由布姫は上機嫌な声を上げた。
「おお勘助、待ちかねましたよ!」
(姫さま、今日はまた、なんとお美しい……)
まばゆい笑みに勘助は蕩けるような心地がした。
「して、どのようなご用事でござりますかな?」
急な用だと言われて飛んできた勘助である。
(此度はいったいどのようなわがままを……)
この姫のためならば、どんな無理も聞いて差し上げたいと思っている勘助であるが、
姫が口にする言葉は、しばし彼の想像する次元を凌駕する。
が、そこがまたこの姫のなんとも麗しいところでもあって、勘助の胸はときめいていた。
「まあお待ち。遠路呼び立ててそなたも疲れておりましょう。菓子をとらすゆえ、まずは一服なさい」
由布姫が「これ」、と一声発すると、その声を待っていたように志摩が次の間から姫の居室へと滑り込んできた。
小さな丸い餅がいくつか、それから白湯の碗の乗った盆を、勘助の前に進める。
「ご苦労でした。志摩、そなたはさがっていなさい」
「はい……」
下がりざまにちらりと己を見た志摩の視線が意味ありげで気になったが、その疑念は次の由布姫の言葉でたちまちいずこかに飛び去った。
「その餅には滋養のよい薬草がたんと入っておる。私自らが作ったのです。さ、早うお食べ、勘助」
「なんと、ひめさま御手ずから作られたものを、それがしに……」
あまりの喜びに勘助の目が潤んだ。緑色とも茶色ともつかぬ怪しげな色をした草餅を恭しく取り上げ、口に入れる。
それは諸国を行脚して様々なものを口にしてきた勘助ですら、これまで口にしたこともない、極めて面妖な味がした。
が、勘助はそれを天上の食べ物のように時間をかけて咀嚼した。
「まっこと、美味でござった!」
口の中に癖の強い味が残ったが、それを消してしまうのがもったいないので、勘助は白湯には手をつけなかった。
「おおそうか。それはよかった」
姫は艶やかに微笑んで勘助を見ている。
この姫がこのように上機嫌なのは珍しい。
幸福な勘助はふと、由布姫の膝元の本へ目を止めた。
「熱心にご覧でしたが。それはいかなる書物でござりまするか?」
「これか?これは、房中術の指南書じゃ」
さようでござりまするか、と満面の笑みでうなずきかけて、勘助は目を剥いた。
「ぼ、ぼうちゅうじゅつ……!?」
同じ武田家家中の小山田郡内などとは違い、その方面には極めて疎い勘助ではあるが、その意味することは知っている。
(男女の営みの、指南書……姫様が!?)
「お屋形様にお会いできない無聊を慰めるため、私はこのところ書物ばかり読んでいたのですよ勘助」
「は、はあ……」
「その中の一冊に、京のおなごは、幼い頃より殿方をたらしこむ術を習うと書いてあったのです」
そんないかがわしいことを、この姫はいったいどのような書物で読んだのだろうか。勘助は眩暈を感じた。
京のおなごといって真っ先に思いつくのは、お屋形様の正室の三条夫人である。
(怪しげな本の文言に、三条の方様への対抗心を煽り立てられたか)
見ると姫のくっきりとした蛾眉がキリリと吊りあがっている。
「私は諏訪総領家の娘として、俗なことより遠ざけられておりましたゆえ、よこしまなことなど知らず清く育ちました。
が、こうしてお屋形様の側室となったからには、お屋形様にもっと悦んでいただく術を学ぶのが側室たる私の務め。
そうではないか?勘助!」
歳若く美しい姫の口から発せられるには、とうていふさわしくない生臭い言葉の数々に勘助は固まった。
「それで志摩にいろいろ書物を取り寄せさせたのですが、……やはり書物だけではなかなか要領を得ぬのです」
じり、と姫が勘助に一膝近づいた。気おされた勘助が後ろへ下がる。
「勘助、そなたの体で試させておくれ」
勘助の体からどっと汗が噴き出した。
「ひ、姫様!それがしは急用を思い出しましたので、これにて失礼を!」
立ち上がった勘助の袖を由布姫がさっと捕らえた。
勘助の体が無様に床の上に転ぶ。
(こ、これは何事!)
思い通りに動かぬ体に狼狽する勘助を、由布姫が得意げに見下ろしていた。
「動けぬであろう?勘助。先ほどの餅には、痺れ薬が入っておったのじゃ」
由布姫が内掛を脱ぎ、床へと落とす。美しい織物がそこに花畑を作ったように床にふわりと広がった。
「それから、書物に書いてあった媚薬もたんと。のう、そなた、なんぞ体に変わりはないか」
屈んだ由布姫が手が勘助の袴の紐をほどき、布を掻き分ける。
「ひめはま、おゆるひくらはい……っ」
痺れる唇を必死に動かしたが、姫は意に介さずに勘助の下帯を取った。
「おお、これは見事。あの書物に書いてあった媚薬の処方は偽りではなかったのじゃな」
股間のものをまじまじと見られている気配に勘助は恥ずかしさで、消えたい気分になった。
「……そなたのは、お屋形様のものとは少し違うのう」
自身の股間を見下ろして、由布姫が無邪気な声を出している。そんな異常な状況に高ぶっている。
でも、それを差し引いても、股間がおかしな具合で脈打っているのがわかる。これは尋常ではない。
そういえばさっきから妙に体が暑かったのだ。
途方に暮れている勘助の竿を由布姫がたどたどしく握った。
強くしごかれて、勘助は悲鳴を上げた。
「ひ、ひめさま、い、痛うございまする!」
「そうか?おかしいのお。このようにするようにと、あの本には書いてあったが」
それから姫は勘助の股間のあちこちを触ったが、どの仕種も勘助には悲鳴を上げさせるだけだった。
「お許しくださいませぇ!」
なんの潤いもないまま上下に強くこすられては、痛いのは当たり前である。ただでさえ勘助のそこは薬で敏感になっているのだ。
つまらぬことを試みるのはやめて解放してくれるよう頼むつもりで勘助は思うように動かない首をもたげた。
姫は思い通りにならぬ勘助のものを持て余し、途方にくれていた。
そして、姫の首からさがる摩利支天の掛け守りに勘助の目は引き寄せられた。
──同これと、同じような光景を遠い昔に見たことがある。
『勘助、こうすると気持ちいいらに?』
腹が大きくて交われないミツが、自分にしてくれた愛撫を、勘助はまざまざと思い出した。
(ミツ……)
姫の顔に、微笑むミツの面影がうっすらとかぶる。
勘助の胸中に、姫をいじらしいと思う気持ちが湧き上がった。
思えばこのような常軌を逸した行動も、お屋形様を己に繋ぎとめたい一心から出たことなのである。
あまりにもけなげではないか。
(助けて差し上げたい)
勘助は大きく息を吸い込んだ。
「……姫様、口です。お口を使うのでございます」
はっと、姫の見開いた大きな目が勘助に向けられた。
「口か?」
「そうです。巷ではそれを口取りと申して、殿御をたちまち虜にする技にございます。
この技を身につけられますれば、お屋形様も飴のように蕩けること、間違いないと存じまする」
「おお、勘助、それを教えておくれ!」
「承知いたしました。姫様、まずは口中にたっぷりと唾をお溜めくださいませ!」
そして勘助は、由布姫に男の勘所を事細かに教えた。
始めはぎこちなかった姫だが、勘助の熱心な指導で次第にコツを掴んでいった。
「そう、お上手です。ひめさま、ひめさまあああっ」
ついに勘助は弾けた。
「やりました!私はやったのですね、勘助!」
うれしそうな姫とは逆に、美しい姫を己の精液で汚してしまった勘助は、泣きたい気持ちになっている。
「……申し訳ございませぬ、姫様」
「よいのです勘助。心地よさそうであったのう。私はこれを早くお屋形様にもして差し上げたい!」
口元といわず頬や鼻まで白濁した勘助のものでべとべとにしながら由布姫は笑った。
薬のしびれが消えた勘助は体を起こし、少しはだけてしまった懐中を探って懐紙の束を取り出し、
己よりもまず、由布姫の顔を清めた。
己の飛沫は姫の金色の摩利支天にまで散っている。それも丁寧に拭う。
「のう勘助!そなたの知謀で、お屋形様が一日も早く諏訪にお越しくださるようにしておくれ」
勘助にされるがままになりながら、由布姫が言う。
「頼みましたよ!」
美しく晴れ晴れとした微笑に、再び心が甘く蕩けるのを感じながら勘助は、深々と頭を下げ
「承知仕りました」
と言った。
──信濃で戦になれば、お屋形様は諏訪にお越しになる。姫様の御許に。
隻眼の軍師の頭の中で、伊那の高遠に兵を挙げさせる策謀が奔馬の如く駆け回っていた。
おわり
「おお勘助、待ちかねましたよ!」
(姫さま、今日はまた、なんとお美しい……)
まばゆい笑みに勘助は蕩けるような心地がした。
「して、どのようなご用事でござりますかな?」
急な用だと言われて飛んできた勘助である。
(此度はいったいどのようなわがままを……)
この姫のためならば、どんな無理も聞いて差し上げたいと思っている勘助であるが、
姫が口にする言葉は、しばし彼の想像する次元を凌駕する。
が、そこがまたこの姫のなんとも麗しいところでもあって、勘助の胸はときめいていた。
「まあお待ち。遠路呼び立ててそなたも疲れておりましょう。菓子をとらすゆえ、まずは一服なさい」
由布姫が「これ」、と一声発すると、その声を待っていたように志摩が次の間から姫の居室へと滑り込んできた。
小さな丸い餅がいくつか、それから白湯の碗の乗った盆を、勘助の前に進める。
「ご苦労でした。志摩、そなたはさがっていなさい」
「はい……」
下がりざまにちらりと己を見た志摩の視線が意味ありげで気になったが、その疑念は次の由布姫の言葉でたちまちいずこかに飛び去った。
「その餅には滋養のよい薬草がたんと入っておる。私自らが作ったのです。さ、早うお食べ、勘助」
「なんと、ひめさま御手ずから作られたものを、それがしに……」
あまりの喜びに勘助の目が潤んだ。緑色とも茶色ともつかぬ怪しげな色をした草餅を恭しく取り上げ、口に入れる。
それは諸国を行脚して様々なものを口にしてきた勘助ですら、これまで口にしたこともない、極めて面妖な味がした。
が、勘助はそれを天上の食べ物のように時間をかけて咀嚼した。
「まっこと、美味でござった!」
口の中に癖の強い味が残ったが、それを消してしまうのがもったいないので、勘助は白湯には手をつけなかった。
「おおそうか。それはよかった」
姫は艶やかに微笑んで勘助を見ている。
この姫がこのように上機嫌なのは珍しい。
幸福な勘助はふと、由布姫の膝元の本へ目を止めた。
「熱心にご覧でしたが。それはいかなる書物でござりまするか?」
「これか?これは、房中術の指南書じゃ」
さようでござりまするか、と満面の笑みでうなずきかけて、勘助は目を剥いた。
「ぼ、ぼうちゅうじゅつ……!?」
同じ武田家家中の小山田郡内などとは違い、その方面には極めて疎い勘助ではあるが、その意味することは知っている。
(男女の営みの、指南書……姫様が!?)
「お屋形様にお会いできない無聊を慰めるため、私はこのところ書物ばかり読んでいたのですよ勘助」
「は、はあ……」
「その中の一冊に、京のおなごは、幼い頃より殿方をたらしこむ術を習うと書いてあったのです」
そんないかがわしいことを、この姫はいったいどのような書物で読んだのだろうか。勘助は眩暈を感じた。
京のおなごといって真っ先に思いつくのは、お屋形様の正室の三条夫人である。
(怪しげな本の文言に、三条の方様への対抗心を煽り立てられたか)
見ると姫のくっきりとした蛾眉がキリリと吊りあがっている。
「私は諏訪総領家の娘として、俗なことより遠ざけられておりましたゆえ、よこしまなことなど知らず清く育ちました。
が、こうしてお屋形様の側室となったからには、お屋形様にもっと悦んでいただく術を学ぶのが側室たる私の務め。
そうではないか?勘助!」
歳若く美しい姫の口から発せられるには、とうていふさわしくない生臭い言葉の数々に勘助は固まった。
「それで志摩にいろいろ書物を取り寄せさせたのですが、……やはり書物だけではなかなか要領を得ぬのです」
じり、と姫が勘助に一膝近づいた。気おされた勘助が後ろへ下がる。
「勘助、そなたの体で試させておくれ」
勘助の体からどっと汗が噴き出した。
「ひ、姫様!それがしは急用を思い出しましたので、これにて失礼を!」
立ち上がった勘助の袖を由布姫がさっと捕らえた。
勘助の体が無様に床の上に転ぶ。
(こ、これは何事!)
思い通りに動かぬ体に狼狽する勘助を、由布姫が得意げに見下ろしていた。
「動けぬであろう?勘助。先ほどの餅には、痺れ薬が入っておったのじゃ」
由布姫が内掛を脱ぎ、床へと落とす。美しい織物がそこに花畑を作ったように床にふわりと広がった。
「それから、書物に書いてあった媚薬もたんと。のう、そなた、なんぞ体に変わりはないか」
屈んだ由布姫が手が勘助の袴の紐をほどき、布を掻き分ける。
「ひめはま、おゆるひくらはい……っ」
痺れる唇を必死に動かしたが、姫は意に介さずに勘助の下帯を取った。
「おお、これは見事。あの書物に書いてあった媚薬の処方は偽りではなかったのじゃな」
股間のものをまじまじと見られている気配に勘助は恥ずかしさで、消えたい気分になった。
「……そなたのは、お屋形様のものとは少し違うのう」
自身の股間を見下ろして、由布姫が無邪気な声を出している。そんな異常な状況に高ぶっている。
でも、それを差し引いても、股間がおかしな具合で脈打っているのがわかる。これは尋常ではない。
そういえばさっきから妙に体が暑かったのだ。
途方に暮れている勘助の竿を由布姫がたどたどしく握った。
強くしごかれて、勘助は悲鳴を上げた。
「ひ、ひめさま、い、痛うございまする!」
「そうか?おかしいのお。このようにするようにと、あの本には書いてあったが」
それから姫は勘助の股間のあちこちを触ったが、どの仕種も勘助には悲鳴を上げさせるだけだった。
「お許しくださいませぇ!」
なんの潤いもないまま上下に強くこすられては、痛いのは当たり前である。ただでさえ勘助のそこは薬で敏感になっているのだ。
つまらぬことを試みるのはやめて解放してくれるよう頼むつもりで勘助は思うように動かない首をもたげた。
姫は思い通りにならぬ勘助のものを持て余し、途方にくれていた。
そして、姫の首からさがる摩利支天の掛け守りに勘助の目は引き寄せられた。
──同これと、同じような光景を遠い昔に見たことがある。
『勘助、こうすると気持ちいいらに?』
腹が大きくて交われないミツが、自分にしてくれた愛撫を、勘助はまざまざと思い出した。
(ミツ……)
姫の顔に、微笑むミツの面影がうっすらとかぶる。
勘助の胸中に、姫をいじらしいと思う気持ちが湧き上がった。
思えばこのような常軌を逸した行動も、お屋形様を己に繋ぎとめたい一心から出たことなのである。
あまりにもけなげではないか。
(助けて差し上げたい)
勘助は大きく息を吸い込んだ。
「……姫様、口です。お口を使うのでございます」
はっと、姫の見開いた大きな目が勘助に向けられた。
「口か?」
「そうです。巷ではそれを口取りと申して、殿御をたちまち虜にする技にございます。
この技を身につけられますれば、お屋形様も飴のように蕩けること、間違いないと存じまする」
「おお、勘助、それを教えておくれ!」
「承知いたしました。姫様、まずは口中にたっぷりと唾をお溜めくださいませ!」
そして勘助は、由布姫に男の勘所を事細かに教えた。
始めはぎこちなかった姫だが、勘助の熱心な指導で次第にコツを掴んでいった。
「そう、お上手です。ひめさま、ひめさまあああっ」
ついに勘助は弾けた。
「やりました!私はやったのですね、勘助!」
うれしそうな姫とは逆に、美しい姫を己の精液で汚してしまった勘助は、泣きたい気持ちになっている。
「……申し訳ございませぬ、姫様」
「よいのです勘助。心地よさそうであったのう。私はこれを早くお屋形様にもして差し上げたい!」
口元といわず頬や鼻まで白濁した勘助のものでべとべとにしながら由布姫は笑った。
薬のしびれが消えた勘助は体を起こし、少しはだけてしまった懐中を探って懐紙の束を取り出し、
己よりもまず、由布姫の顔を清めた。
己の飛沫は姫の金色の摩利支天にまで散っている。それも丁寧に拭う。
「のう勘助!そなたの知謀で、お屋形様が一日も早く諏訪にお越しくださるようにしておくれ」
勘助にされるがままになりながら、由布姫が言う。
「頼みましたよ!」
美しく晴れ晴れとした微笑に、再び心が甘く蕩けるのを感じながら勘助は、深々と頭を下げ
「承知仕りました」
と言った。
──信濃で戦になれば、お屋形様は諏訪にお越しになる。姫様の御許に。
隻眼の軍師の頭の中で、伊那の高遠に兵を挙げさせる策謀が奔馬の如く駆け回っていた。
おわり
1
葛笠村は、夜である。
先ほどまで降っていた雨はあがり、今は冴え冴えとした満月が浮かんでいた。
村の奥の林のなかで、ふたつの呼吸が息づいている。男と女が、闇のなかで抱き合っているのである。
女はこの年で十八、男は三十五。美女と野獣といっていい。
男の体躯は隻眼破足、名を山本勘助という。先刻、侍をひとり殺していた。
女の名は、ミツ。抱きしめるとその倍の力で抱き返してくる。そういう女だ。
ミツが、勘助にささやく。
「うらには、勘助のこころに咲いてる花が見えるだよ」
それは愛の告白といってよかった。
……………
勘助は、ミツに覆い被さるように抱いている。
草の繁みが寝床で、月と星は天井だ。野の獣どもは寝静まって、ふたりの荒い呼吸だけが辺りに響く。
ふたりの横には屍体があった。
勘助が屠ったその骸は、首と胴に別れて転がっている。
その隻眼を骸のほうにを向けて
(わしも、いずれは、こうなる)
と思う。
寂漠としたものから逃れるように、ミツに優しくささやく。
「恐くは無いか」
「恐い、勘助の、顔」
そう言って笑った。
(ミツは、強い)
勘助が舌を差し込めば、ミツは答えるように絡んで来た。
離すと、透明な滴の糸が引いた。
「うら、もっとこうしていてぇずら」
ミツは不意にそうを言った。
瞬間、勘助を哀しいものが貫いた。
しみ入るような熱さが、躰の内奥を打った。
ミツを、ひたすらにいじらしく思ったのである。
勘助には、ミツの明るい強さが逆に彼女の厳しい宿命を裏付けるものだと思えてならない。
明日、自分はこの村を発つ。もう戻ってこないだろうという予感がある。
この女は、それを知っているのか?
知りながら、自分を求めているのか?
「月」
「え?」
勘助が振り仰ぐと、満月だった。
「うらはこの格好だから、あのキレイなお月さまが見えるんだども、勘助はその格好じゃあ見えねえずらな」
ミツを下に敷いた格好なのである。
「今夜はとくにキレイずら」
「月が好きか」
「見とると、ぼんやりしてくるじゃ」
「わしはそなたの顔を見れれば、それだけでよい」
「…うれしい」
ミツは恥じ入るように顔を背ける。
その仕草が勘助を惑乱させた。
血が、どうしようもなく沸った。
(これは、止められぬ)
丸い首筋に強く吸い付くと、ミツはくぐもった甘い声を漏らした。
「勘助ぇ、そこがいい…」
せつない喘ぎを聴きながら、勘助は自分が欲望を止められぬ何者かになって落ちてゆくのを感じた。
2
ミツは土の香りのする女だった。
勘助の鼻腔は、ミツの躰の奥から発する土と汗の混じりあった臭いに満ち、そこに強烈な淫媚さを嗅ぎとると、自然に抱きしめる腕の力が強まる。
しなやかな筋肉の存在を、着物を隔てていてもありありと感じた。
もっと、直に感じたい。衣服など邪魔だ。
そう思うやいなや、勘助はミツを突き放して脱ぎ始めた。
「どうしたのけ?」
ミツは、勘助が急に離れたことに驚いて見上げると、もっと驚いた。
闇のなかに仁王立ちの勘助の裸身が浮かび上がっているのである。
怒張した摩羅が荒い呼吸とともに跳ね、汗が月明かりに反射して光った。
「おねしも脱げ」
ほい来た、とミツは敏捷に立ち上がり、するする帯を解く。橙色の着物がはらりと落ちる。
男の前に真裸を投げ出すと、全身に夜風を浴びて気持がよかった。
ミツの小柄な躰は筋肉が引き締まって、子鹿を連想させた。
お椀のような丸々とした乳房がふたつ、みずみずしい張りを保ちながら突き出ている。
乳首は固く尖って、それは夜風の冷たさのせいだけでは無い。
下腹の、黒々と生え揃った茂みには、硬質のちぢれ毛が手入れされないまま堂々と息づいている。
ミツは惜しげもなくそれらを晒し、草の上に佇んだまま動かない。
恥ずかしがる必要は無かった。お互いが下帯も何もつけない裸である。
闇のなかにぽっかりと浮かびあがるミツの肢体は、ますます妖しい光を放ち辺りを照らすかの如く艶やかに見えた。
勘助は衝動に突き動かされミツを荒々しく掻き抱くと、そのまま草むらに押し倒し、大地の上に伏せて口付けする。
剥き出しの肌に、同じ土の冷たさを感じながら。
勘助のぶあつい掌は、ミツの皮膚の上をまるで蝮のように這う。その肌はじっとりと汗ばんでおり、感触は唐磁器に似てなめらかである。
「んん……ぁぁん…」
いたわるように撫で、責めるように揉んだ。あたかも、ミツがそこにいることを確認するかのような手付きで。
事実勘助は、ミツの腰の丸みや肩や腕の骨の硬さ、若い肌の弾力などを掌に感じる時、女がそこに確にいるという実感を得た。
ミツもまた、触れられて快感を得ることによって、はじめて自分の肉体を得たような気がした。
勘助は、まるで職人のような手付きで、ミツの躰をかたち造っているのである。
やがて両の手は乳房に到達し、その柔かく白いものを揉みしだく。
「んっ…ぁはぁ……んんっっ!」
乳房に深く沈む指はその柔かさを感じながら、また寄せて返す反復運動、つまり若さゆえの弾力をも感じる。
当たり前のことだが、乳房から指を退ければ窪んだ跡はこんにゃくのように震えて、本来の形を回復する。
その当たり前のことが、ミツの水々しい若さを証明するようでもあり、生き物の神秘のようでもあり、勘助の興奮をさらに高めた。
「おぬしは、俺が抱いたどの女より、よい躰をしておる」
「うら以外の女のことなんか、思いだしちゃ嫌ずら」
ミツはむくれた声で言う。それは閨の睦事のようなふざけた感じでは無く、真実むくれたような声であった。
「機嫌を直せ」
人指し指で先端の蕾を奔びながら、耳たぶを口にふくむと
「ひぃあっ…!」
ミツの躰がびくんと跳ねて、大きな嬌声をあげた。
芯は通っているが外壁は柔かい、乳首にはそんな感想を持った。
「直ったかね」
「まだまだ」
「強情な女だ」
ならば、と云うように勘助は唇を左の乳首に宛てがう。
「ひぃあっっ!」
ミツが痺れたような声をあげる。勘助は赤子のよう乳首吸いながら、ミツの高まる鼓動を聞いた。
3
不意に、勘助の下腹にここちよい異変が起こった。
ミツの指先がふぐりをまさぐり、揉んでいるのである。
驚いて顔を見合わせると、ミツはすがすがしいくらいの笑顔で微笑みかけてきた。
(許してくれたか)
と安堵すると同時に
(けなげな、おんなだ)
との感慨をも抱く。
勘助はミツのしていることを、はしたない、とは思わない。
(わしを喜ばそうとしているのだ)
そう素直に思うことについて、この男はなんの躊躇いも無いのである。
(よし)
体位を素早く変え、ミツの足のほうに頭を向けた。そこには黒い繁みの一角がある。
(おんなとは、かようにも濡れるものか…)
ミツは
(あっ)
と思う間もない。既に、舌が侵入している。
「あ…はぁああ……ぁん……」
勘助のざらついた舌が、巧みに肉襞を掻き回す。
舌を出し入れし、なぞり、吸い付いたりして刺激を与え、ぷっくりとした肉の芽を舌先で器用に剥くとそれをちろちろと転した。
「ああっ!…んっ……あはぁぁ……」
「ここがよいか」
「はぁぁぁんっ…、そこ、いい…!」
それは洪水の光景を想起させた。
甘い酔いはミツの全身を浸し、舌が中を擦るたびに雷が走り、気を遣りそうになる。
ミツは、快楽の陶酔に支配された頭で考えた。
(うらも、なにかして勘助に答えにゃあ)
見上げれば勘助の男根が、ぶらぶら、揺れている。
(男など、こうしてみれば他愛もないものじゃな)
そんなことを思った。そして、こいつをどうにかしてやろうと考えが決まった。
(勘助、いくだよ)
ミツは野太い肉棒を根本からつかまえると、亀頭の先端へ接吻する。口中に唾液を蓄え、一気にそのものを頬張る。
固く凝った肉棒は、口には完全に収まりきらない。それでも、舌でなぞるようにして舐め回すと、勘助の呻きが聞こえた。
「かんしゅけぇ…きもふぃいいだか?」
「おぬし、どこで」
「…おくまに教わったんじゃ」
言いながら、ミツは額に汗を流し懸命な愛撫を続ける。
ふたつの陰嚢をしゃぶり、裏筋をしごきあげ、尿道口をほじくるなど、知っている限りのあらゆる手段を尽す。
亀頭の先端から染み出てくる汁をすすりながらしごくと、下品な音が発して、それが少し恥ずくもあったが、同時にますますミツを高ぶらせた。
(中が、じんじんして、せつないずら)
子宮が、男を求めて疼くのである。
「勘助、気持いいだか?」
「凄いことを聞くやつだな」
「ねえ、いい?」
「男子の鉄腸も蕩ける、というやつだな」
「うらはずぅっと蕩けっぱなしじゃ」
「はは」
(蕩けるどころの騒ぎでは無い。逝きそうだ)
勘助は泣きたかった。
4
「ねえ、勘助」
「ん」
「うら、おぼこで無ぇくてごめんな」
「そんなこと」
と勘助は笑って、顔を見合わせる体勢に戻ると、ミツは涙目になってこちらを見つめていた。
「な、ごめんな」
「どうした」
「なんか、急に情けなくなってきて……」
思えば、まだ十八の娘なのである。十以上も離れた男、しかも流れものの浪人と契ろうというのだから、度胸がある。
「勘助は、うらぁでええんか?」
「……女なら、誰でもよいのだ」
拙い答えを言ったと思った。幸いにもミツは
「馬鹿」
と呆れるように笑ってくれた。
「そういう時は、男は黙って抱きしめるもんずら」
指南までされてしまった。
しかしながら、やっぱりミツは強いおんなだ。勘助は己の年甲斐の無さに比べてみて、感心してしまう。
そんな場合では無いが、とりあえずミツを抱きしめてみる。
「遅い!」
ミツは、げらげらと笑った。勘助は苦笑する他ない。
「ついさっきまで、色っぽい顔して喘いでいたのはどいつじゃ」
「いい年なのに、おなごのあしらいが下手すぎるずら」
「……お前を抱きたいな」
何か、事も無げな調子で勘助は言った。
ミツは、今度は笑わなかった。黙って、膝を開いた。
「ぁぁああああッッッ!」
闇を、ミツの叫び声が切り裂く。
歓喜の呻きは辺りを満たす。
「ああっんっ……やっっ…ん…っあっああぁぁぁぁ!」
全身を貫く甘美な振動。
勘助が腰を打ちつけるたびに、強烈な愉悦の波紋は全身に広がって、指先まで痺れた。
皮膚も骨も肉もみな溶けてしまいそうな、熱い官能である。
「ああっ…勘助ぇっ、もっと…もっとっっっ!」
叫び声に呼応するように、勘助は激しく腰を振る。
肉の襞が、男根を強く締め付けるのに耐えた。突くたびに中が潤った。
ミツの表情を見ると、恍惚として美しい。
眉間には快楽のために皺が寄り、汗で黒髪が肌にまとわりついている。
その程よい厚みの眉毛、漆黒に光る瞳、形よく隆起した鼻梁、唇から漏れる白い歯……
全ての表情が美しく、なんと生き生きと輝いていることか!
喘ぐなかでミツが言った。
「上、いいだか?」
「?」
と、思うとミツの躰がせり上がってきた。
「勘助が、寝てくれろ」
ミツの躰が上になる。
(あっ)
「これで月、見えるだか?」
ミツは、自ら腰を振りながら、いたずらっぽく笑った。
勘助の頭上に、ミツの躰と重なって、満月がある。
「ああ、みごとじゃ」
5
ミツは髪を振り乱し、豊かな乳房を揺らして、豪快に腰を上下させる。
勘助がその動きに合わせて下から突き上げると、結合した部分が、くちゃくちゃ、粘液の音をたてる。
ふたりの快楽を貪ぼる運動は、音楽にも似た規律を示す。そして運動の音楽は、また官能の音楽でもあった。
演奏は、やがて激しく、終極の絶頂に向かって奏でられてゆく……
「あんっ!……はッ……あぁんっ!!……んんッ!!……」
「ミツっっっっっっ!ゆくぞッッッッッッ!!」
勘助の陶酔した思考のなかで、ミツと満月の形が重なって白く濁ると、そのいきりたった陽根は、勢いよく精液を吐き出した。
「ひゃぁっ!…あっあっっ!あぁぁぁー―――っっっっ!…イクぅっっ!」
ミツは子宮の奥にほとばしる精液を感じると、沸き上がるような快楽に躰がびくんと反り返った。
………
共に果てながらふたりは、ささいな優越感を感じていた。
──死者に、かような快楽は得られまい
横の草むらに、さむらいの生首が転がっているのである。
死者は、こちらを見透かして睨んでいるようにも思われた。
──いずれは、みな死ぬ、それまで、せいぜい楽しむことだ
………
ふたりは、荒い呼吸をととのえている。
(これで、よかったのか?)
勘助に、再び疑念が頭をもたげた。
しかしミツの顔を見れば、安堵しきった笑顔なのである。
(これで良かった)
そう思うことにした。
夜が明けるまでには、まだ時間がある。
気が付けば、ミツはまたしたくなっている。
勘助のそれを撫でると、まんざらでも無いようで、再び硬さを取り戻しはじめた。
その後、運命は変転し、勘助は村にもどることになるのだが、世のなかは一期一会なのである。
今契らずに、いつ契る?
了
葛笠村は、夜である。
先ほどまで降っていた雨はあがり、今は冴え冴えとした満月が浮かんでいた。
村の奥の林のなかで、ふたつの呼吸が息づいている。男と女が、闇のなかで抱き合っているのである。
女はこの年で十八、男は三十五。美女と野獣といっていい。
男の体躯は隻眼破足、名を山本勘助という。先刻、侍をひとり殺していた。
女の名は、ミツ。抱きしめるとその倍の力で抱き返してくる。そういう女だ。
ミツが、勘助にささやく。
「うらには、勘助のこころに咲いてる花が見えるだよ」
それは愛の告白といってよかった。
……………
勘助は、ミツに覆い被さるように抱いている。
草の繁みが寝床で、月と星は天井だ。野の獣どもは寝静まって、ふたりの荒い呼吸だけが辺りに響く。
ふたりの横には屍体があった。
勘助が屠ったその骸は、首と胴に別れて転がっている。
その隻眼を骸のほうにを向けて
(わしも、いずれは、こうなる)
と思う。
寂漠としたものから逃れるように、ミツに優しくささやく。
「恐くは無いか」
「恐い、勘助の、顔」
そう言って笑った。
(ミツは、強い)
勘助が舌を差し込めば、ミツは答えるように絡んで来た。
離すと、透明な滴の糸が引いた。
「うら、もっとこうしていてぇずら」
ミツは不意にそうを言った。
瞬間、勘助を哀しいものが貫いた。
しみ入るような熱さが、躰の内奥を打った。
ミツを、ひたすらにいじらしく思ったのである。
勘助には、ミツの明るい強さが逆に彼女の厳しい宿命を裏付けるものだと思えてならない。
明日、自分はこの村を発つ。もう戻ってこないだろうという予感がある。
この女は、それを知っているのか?
知りながら、自分を求めているのか?
「月」
「え?」
勘助が振り仰ぐと、満月だった。
「うらはこの格好だから、あのキレイなお月さまが見えるんだども、勘助はその格好じゃあ見えねえずらな」
ミツを下に敷いた格好なのである。
「今夜はとくにキレイずら」
「月が好きか」
「見とると、ぼんやりしてくるじゃ」
「わしはそなたの顔を見れれば、それだけでよい」
「…うれしい」
ミツは恥じ入るように顔を背ける。
その仕草が勘助を惑乱させた。
血が、どうしようもなく沸った。
(これは、止められぬ)
丸い首筋に強く吸い付くと、ミツはくぐもった甘い声を漏らした。
「勘助ぇ、そこがいい…」
せつない喘ぎを聴きながら、勘助は自分が欲望を止められぬ何者かになって落ちてゆくのを感じた。
2
ミツは土の香りのする女だった。
勘助の鼻腔は、ミツの躰の奥から発する土と汗の混じりあった臭いに満ち、そこに強烈な淫媚さを嗅ぎとると、自然に抱きしめる腕の力が強まる。
しなやかな筋肉の存在を、着物を隔てていてもありありと感じた。
もっと、直に感じたい。衣服など邪魔だ。
そう思うやいなや、勘助はミツを突き放して脱ぎ始めた。
「どうしたのけ?」
ミツは、勘助が急に離れたことに驚いて見上げると、もっと驚いた。
闇のなかに仁王立ちの勘助の裸身が浮かび上がっているのである。
怒張した摩羅が荒い呼吸とともに跳ね、汗が月明かりに反射して光った。
「おねしも脱げ」
ほい来た、とミツは敏捷に立ち上がり、するする帯を解く。橙色の着物がはらりと落ちる。
男の前に真裸を投げ出すと、全身に夜風を浴びて気持がよかった。
ミツの小柄な躰は筋肉が引き締まって、子鹿を連想させた。
お椀のような丸々とした乳房がふたつ、みずみずしい張りを保ちながら突き出ている。
乳首は固く尖って、それは夜風の冷たさのせいだけでは無い。
下腹の、黒々と生え揃った茂みには、硬質のちぢれ毛が手入れされないまま堂々と息づいている。
ミツは惜しげもなくそれらを晒し、草の上に佇んだまま動かない。
恥ずかしがる必要は無かった。お互いが下帯も何もつけない裸である。
闇のなかにぽっかりと浮かびあがるミツの肢体は、ますます妖しい光を放ち辺りを照らすかの如く艶やかに見えた。
勘助は衝動に突き動かされミツを荒々しく掻き抱くと、そのまま草むらに押し倒し、大地の上に伏せて口付けする。
剥き出しの肌に、同じ土の冷たさを感じながら。
勘助のぶあつい掌は、ミツの皮膚の上をまるで蝮のように這う。その肌はじっとりと汗ばんでおり、感触は唐磁器に似てなめらかである。
「んん……ぁぁん…」
いたわるように撫で、責めるように揉んだ。あたかも、ミツがそこにいることを確認するかのような手付きで。
事実勘助は、ミツの腰の丸みや肩や腕の骨の硬さ、若い肌の弾力などを掌に感じる時、女がそこに確にいるという実感を得た。
ミツもまた、触れられて快感を得ることによって、はじめて自分の肉体を得たような気がした。
勘助は、まるで職人のような手付きで、ミツの躰をかたち造っているのである。
やがて両の手は乳房に到達し、その柔かく白いものを揉みしだく。
「んっ…ぁはぁ……んんっっ!」
乳房に深く沈む指はその柔かさを感じながら、また寄せて返す反復運動、つまり若さゆえの弾力をも感じる。
当たり前のことだが、乳房から指を退ければ窪んだ跡はこんにゃくのように震えて、本来の形を回復する。
その当たり前のことが、ミツの水々しい若さを証明するようでもあり、生き物の神秘のようでもあり、勘助の興奮をさらに高めた。
「おぬしは、俺が抱いたどの女より、よい躰をしておる」
「うら以外の女のことなんか、思いだしちゃ嫌ずら」
ミツはむくれた声で言う。それは閨の睦事のようなふざけた感じでは無く、真実むくれたような声であった。
「機嫌を直せ」
人指し指で先端の蕾を奔びながら、耳たぶを口にふくむと
「ひぃあっ…!」
ミツの躰がびくんと跳ねて、大きな嬌声をあげた。
芯は通っているが外壁は柔かい、乳首にはそんな感想を持った。
「直ったかね」
「まだまだ」
「強情な女だ」
ならば、と云うように勘助は唇を左の乳首に宛てがう。
「ひぃあっっ!」
ミツが痺れたような声をあげる。勘助は赤子のよう乳首吸いながら、ミツの高まる鼓動を聞いた。
3
不意に、勘助の下腹にここちよい異変が起こった。
ミツの指先がふぐりをまさぐり、揉んでいるのである。
驚いて顔を見合わせると、ミツはすがすがしいくらいの笑顔で微笑みかけてきた。
(許してくれたか)
と安堵すると同時に
(けなげな、おんなだ)
との感慨をも抱く。
勘助はミツのしていることを、はしたない、とは思わない。
(わしを喜ばそうとしているのだ)
そう素直に思うことについて、この男はなんの躊躇いも無いのである。
(よし)
体位を素早く変え、ミツの足のほうに頭を向けた。そこには黒い繁みの一角がある。
(おんなとは、かようにも濡れるものか…)
ミツは
(あっ)
と思う間もない。既に、舌が侵入している。
「あ…はぁああ……ぁん……」
勘助のざらついた舌が、巧みに肉襞を掻き回す。
舌を出し入れし、なぞり、吸い付いたりして刺激を与え、ぷっくりとした肉の芽を舌先で器用に剥くとそれをちろちろと転した。
「ああっ!…んっ……あはぁぁ……」
「ここがよいか」
「はぁぁぁんっ…、そこ、いい…!」
それは洪水の光景を想起させた。
甘い酔いはミツの全身を浸し、舌が中を擦るたびに雷が走り、気を遣りそうになる。
ミツは、快楽の陶酔に支配された頭で考えた。
(うらも、なにかして勘助に答えにゃあ)
見上げれば勘助の男根が、ぶらぶら、揺れている。
(男など、こうしてみれば他愛もないものじゃな)
そんなことを思った。そして、こいつをどうにかしてやろうと考えが決まった。
(勘助、いくだよ)
ミツは野太い肉棒を根本からつかまえると、亀頭の先端へ接吻する。口中に唾液を蓄え、一気にそのものを頬張る。
固く凝った肉棒は、口には完全に収まりきらない。それでも、舌でなぞるようにして舐め回すと、勘助の呻きが聞こえた。
「かんしゅけぇ…きもふぃいいだか?」
「おぬし、どこで」
「…おくまに教わったんじゃ」
言いながら、ミツは額に汗を流し懸命な愛撫を続ける。
ふたつの陰嚢をしゃぶり、裏筋をしごきあげ、尿道口をほじくるなど、知っている限りのあらゆる手段を尽す。
亀頭の先端から染み出てくる汁をすすりながらしごくと、下品な音が発して、それが少し恥ずくもあったが、同時にますますミツを高ぶらせた。
(中が、じんじんして、せつないずら)
子宮が、男を求めて疼くのである。
「勘助、気持いいだか?」
「凄いことを聞くやつだな」
「ねえ、いい?」
「男子の鉄腸も蕩ける、というやつだな」
「うらはずぅっと蕩けっぱなしじゃ」
「はは」
(蕩けるどころの騒ぎでは無い。逝きそうだ)
勘助は泣きたかった。
4
「ねえ、勘助」
「ん」
「うら、おぼこで無ぇくてごめんな」
「そんなこと」
と勘助は笑って、顔を見合わせる体勢に戻ると、ミツは涙目になってこちらを見つめていた。
「な、ごめんな」
「どうした」
「なんか、急に情けなくなってきて……」
思えば、まだ十八の娘なのである。十以上も離れた男、しかも流れものの浪人と契ろうというのだから、度胸がある。
「勘助は、うらぁでええんか?」
「……女なら、誰でもよいのだ」
拙い答えを言ったと思った。幸いにもミツは
「馬鹿」
と呆れるように笑ってくれた。
「そういう時は、男は黙って抱きしめるもんずら」
指南までされてしまった。
しかしながら、やっぱりミツは強いおんなだ。勘助は己の年甲斐の無さに比べてみて、感心してしまう。
そんな場合では無いが、とりあえずミツを抱きしめてみる。
「遅い!」
ミツは、げらげらと笑った。勘助は苦笑する他ない。
「ついさっきまで、色っぽい顔して喘いでいたのはどいつじゃ」
「いい年なのに、おなごのあしらいが下手すぎるずら」
「……お前を抱きたいな」
何か、事も無げな調子で勘助は言った。
ミツは、今度は笑わなかった。黙って、膝を開いた。
「ぁぁああああッッッ!」
闇を、ミツの叫び声が切り裂く。
歓喜の呻きは辺りを満たす。
「ああっんっ……やっっ…ん…っあっああぁぁぁぁ!」
全身を貫く甘美な振動。
勘助が腰を打ちつけるたびに、強烈な愉悦の波紋は全身に広がって、指先まで痺れた。
皮膚も骨も肉もみな溶けてしまいそうな、熱い官能である。
「ああっ…勘助ぇっ、もっと…もっとっっっ!」
叫び声に呼応するように、勘助は激しく腰を振る。
肉の襞が、男根を強く締め付けるのに耐えた。突くたびに中が潤った。
ミツの表情を見ると、恍惚として美しい。
眉間には快楽のために皺が寄り、汗で黒髪が肌にまとわりついている。
その程よい厚みの眉毛、漆黒に光る瞳、形よく隆起した鼻梁、唇から漏れる白い歯……
全ての表情が美しく、なんと生き生きと輝いていることか!
喘ぐなかでミツが言った。
「上、いいだか?」
「?」
と、思うとミツの躰がせり上がってきた。
「勘助が、寝てくれろ」
ミツの躰が上になる。
(あっ)
「これで月、見えるだか?」
ミツは、自ら腰を振りながら、いたずらっぽく笑った。
勘助の頭上に、ミツの躰と重なって、満月がある。
「ああ、みごとじゃ」
5
ミツは髪を振り乱し、豊かな乳房を揺らして、豪快に腰を上下させる。
勘助がその動きに合わせて下から突き上げると、結合した部分が、くちゃくちゃ、粘液の音をたてる。
ふたりの快楽を貪ぼる運動は、音楽にも似た規律を示す。そして運動の音楽は、また官能の音楽でもあった。
演奏は、やがて激しく、終極の絶頂に向かって奏でられてゆく……
「あんっ!……はッ……あぁんっ!!……んんッ!!……」
「ミツっっっっっっ!ゆくぞッッッッッッ!!」
勘助の陶酔した思考のなかで、ミツと満月の形が重なって白く濁ると、そのいきりたった陽根は、勢いよく精液を吐き出した。
「ひゃぁっ!…あっあっっ!あぁぁぁー―――っっっっ!…イクぅっっ!」
ミツは子宮の奥にほとばしる精液を感じると、沸き上がるような快楽に躰がびくんと反り返った。
………
共に果てながらふたりは、ささいな優越感を感じていた。
──死者に、かような快楽は得られまい
横の草むらに、さむらいの生首が転がっているのである。
死者は、こちらを見透かして睨んでいるようにも思われた。
──いずれは、みな死ぬ、それまで、せいぜい楽しむことだ
………
ふたりは、荒い呼吸をととのえている。
(これで、よかったのか?)
勘助に、再び疑念が頭をもたげた。
しかしミツの顔を見れば、安堵しきった笑顔なのである。
(これで良かった)
そう思うことにした。
夜が明けるまでには、まだ時間がある。
気が付けば、ミツはまたしたくなっている。
勘助のそれを撫でると、まんざらでも無いようで、再び硬さを取り戻しはじめた。
その後、運命は変転し、勘助は村にもどることになるのだが、世のなかは一期一会なのである。
今契らずに、いつ契る?
了
ぐっちゅ、ぐっちゅ。
「ホホ、よいのうよいのう」「うっ、うっ……」
公家の屋敷の寝間。そこでは中肉中背に白顔と、異様な様で知られる義元が一人の女を正上位の形で繋がっている。
繋がっている女の名前は稲姫。
本田忠勝の娘にして、戦では鬼のごときもののふとして誉れ高い武将。
しかしその彼女が今は一糸纏わぬ姿で義元に弄ばれている。
先の城攻めで稲姫は義元を降伏寸前にまで追い詰めたのだ。
だがその際に命だけは助けてほしいと泣きながら懇願され、稲姫はその哀れな義元を討つ価値も無しと言い放ち見逃そうとしたのだが、背を向けた稲姫に突如義元が粉状の眠り薬を浴びせた。
そして眠り落ちた敵の大将の命をダシに優勢であった敵を退かせた。
敵が完全に退き、それから数刻して目を覚ました稲姫は両手を後ろで縛られ、さるぐつわをされて義元から屈辱を受けていた。
「ほっほ、本田の娘は男よりも男らしいと聞いていたが、使い心地は誠によいのう」
義元はリズミカルに腰を振り、稲姫は顔を苦痛に歪めてそれを受ける。
子宮を重点的に攻め抜いていた義元はふいにGスポットをモノで強く擦った。
「!?」
突然の衝撃に稲姫は身体を強張らせ、声にならない音を発してしまった。
「なんじゃなんじゃ。いかに強いもののふといえども、女子は女子か」
稲姫の反応に満足気な笑みを浮かべ、義元はGスポットを激しく攻めた。
「……ぁっ!……ぁっ!」
さるぐつわをされて鮮明には聞き取れないのだが、頬を紅潮させてつつ身をよじらせ始めた姿から、ここが弱く、そして感じ始めたのだと容易に想像がつく。「締め付けるのぉ。そんなに一物が好きでおじゃるか」
スラングを浴びせながら、膣の入り口まで亀頭を持ってきてGスポットから膣の最奥まで一気に貫く。
「……ぅっ!」
稲姫は女の快楽と卑怯者の凌辱に必死に耐えようとするが、声が漏れてしまう。
義元はしばらくそのスタイルで稲姫を攻め遊んでいたが、突如稲姫の中にモノを佇ませながら動きを止め呟く。
「今川と徳川のよしみか。……いいかもしれぬのっ!」
その言葉を皮切りに、義元は稲姫を怒涛の勢いで攻め立てる。
それは先程みたいに屈辱を味合わせるものとは程遠い、一方的な暴走。
それを稲姫は一身に浴びせられた。
「稲よ……くれてやるでおじゃる」
激しく腰を降りながら義元は息荒く呟く。
「まろのかわいい子種をのう!稲、お前はまろの赤子を孕むでおじゃる!」
その言葉に稲姫は今までにない動揺を顔に表す。
そして今出る力いっぱいに義元から逃れようとする。
だが稲姫は義元に腰をがっちりと掴まれているため、脱することはできない。 それどころか、限界近く高ぶった義元が醜い贅肉を稲姫の整った身体に押し付け、更に深く稲姫の中に入りこんで腰を打ち付け、両の手で持て余すほどの巨乳を力いっぱいに歪ませる。「おおっ……!」
子宮を貫かんばかりの勢いで稲姫の最奥を突き上げ、上体をのけ反らせて低く獣のように醜い声を上げ、膨張する。
信行様……!
見事なまでの艶やかな肢体をうねらせ、必死に抵抗する稲姫は心の中で叫ぶ。
出会った時から慕い、やっと夫婦の契りを認められ、数日後には祝言を迎えられるはずだった。
それなのに自分は今醜い獣に蹂躙され、汚されようとしている。
信行様以外の子は嫌。
助けて信行様……助けて!
「うぅーーーーーー!」
稲姫は信行の名を叫んだ。
……義元は息を一つついた。
表情は開放感に満ち溢れ、目線を下に向ける。
そこには眼からは大粒の涙を、秘部からは大量の子種を垂れ流し、もののふでもなく、徳川の将でもない、いち女性のとしての稲姫が小さく泣いていた……。
…続き読みますか?
凌辱だけど
「ホホ、よいのうよいのう」「うっ、うっ……」
公家の屋敷の寝間。そこでは中肉中背に白顔と、異様な様で知られる義元が一人の女を正上位の形で繋がっている。
繋がっている女の名前は稲姫。
本田忠勝の娘にして、戦では鬼のごときもののふとして誉れ高い武将。
しかしその彼女が今は一糸纏わぬ姿で義元に弄ばれている。
先の城攻めで稲姫は義元を降伏寸前にまで追い詰めたのだ。
だがその際に命だけは助けてほしいと泣きながら懇願され、稲姫はその哀れな義元を討つ価値も無しと言い放ち見逃そうとしたのだが、背を向けた稲姫に突如義元が粉状の眠り薬を浴びせた。
そして眠り落ちた敵の大将の命をダシに優勢であった敵を退かせた。
敵が完全に退き、それから数刻して目を覚ました稲姫は両手を後ろで縛られ、さるぐつわをされて義元から屈辱を受けていた。
「ほっほ、本田の娘は男よりも男らしいと聞いていたが、使い心地は誠によいのう」
義元はリズミカルに腰を振り、稲姫は顔を苦痛に歪めてそれを受ける。
子宮を重点的に攻め抜いていた義元はふいにGスポットをモノで強く擦った。
「!?」
突然の衝撃に稲姫は身体を強張らせ、声にならない音を発してしまった。
「なんじゃなんじゃ。いかに強いもののふといえども、女子は女子か」
稲姫の反応に満足気な笑みを浮かべ、義元はGスポットを激しく攻めた。
「……ぁっ!……ぁっ!」
さるぐつわをされて鮮明には聞き取れないのだが、頬を紅潮させてつつ身をよじらせ始めた姿から、ここが弱く、そして感じ始めたのだと容易に想像がつく。「締め付けるのぉ。そんなに一物が好きでおじゃるか」
スラングを浴びせながら、膣の入り口まで亀頭を持ってきてGスポットから膣の最奥まで一気に貫く。
「……ぅっ!」
稲姫は女の快楽と卑怯者の凌辱に必死に耐えようとするが、声が漏れてしまう。
義元はしばらくそのスタイルで稲姫を攻め遊んでいたが、突如稲姫の中にモノを佇ませながら動きを止め呟く。
「今川と徳川のよしみか。……いいかもしれぬのっ!」
その言葉を皮切りに、義元は稲姫を怒涛の勢いで攻め立てる。
それは先程みたいに屈辱を味合わせるものとは程遠い、一方的な暴走。
それを稲姫は一身に浴びせられた。
「稲よ……くれてやるでおじゃる」
激しく腰を降りながら義元は息荒く呟く。
「まろのかわいい子種をのう!稲、お前はまろの赤子を孕むでおじゃる!」
その言葉に稲姫は今までにない動揺を顔に表す。
そして今出る力いっぱいに義元から逃れようとする。
だが稲姫は義元に腰をがっちりと掴まれているため、脱することはできない。 それどころか、限界近く高ぶった義元が醜い贅肉を稲姫の整った身体に押し付け、更に深く稲姫の中に入りこんで腰を打ち付け、両の手で持て余すほどの巨乳を力いっぱいに歪ませる。「おおっ……!」
子宮を貫かんばかりの勢いで稲姫の最奥を突き上げ、上体をのけ反らせて低く獣のように醜い声を上げ、膨張する。
信行様……!
見事なまでの艶やかな肢体をうねらせ、必死に抵抗する稲姫は心の中で叫ぶ。
出会った時から慕い、やっと夫婦の契りを認められ、数日後には祝言を迎えられるはずだった。
それなのに自分は今醜い獣に蹂躙され、汚されようとしている。
信行様以外の子は嫌。
助けて信行様……助けて!
「うぅーーーーーー!」
稲姫は信行の名を叫んだ。
……義元は息を一つついた。
表情は開放感に満ち溢れ、目線を下に向ける。
そこには眼からは大粒の涙を、秘部からは大量の子種を垂れ流し、もののふでもなく、徳川の将でもない、いち女性のとしての稲姫が小さく泣いていた……。
…続き読みますか?
凌辱だけど