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明るい月の下で




「寒っ」
扉を開けたとたんに入りこんできた冷気に、体が竦みそうになる。
それでもかまわずに、開いた隙間から、甲板に出た。
夜だというのに外は意外なほど明るく、澄み切った冷気の中で、雲が月の光を受け、輝いている。
「きれい……」
その光に誘われるように、メイは、寒さも忘れて甲板の端に駆け寄った。
手すりから身を乗り出すようにして、下を見下ろす。
満月近い明るい月の光を受けて煙るように輝く切れ切れの雲と、ぽつり、ぽつりと光る星のような地上の明かり。
空の上でさえ稀にしか見ることのできない幻想的な光景に息さえも奪われて、メイはその場に立ち尽くした。




「風邪引くぜ、レイディ」
どのくらいの間そうやって立ち尽くしていたのか、後ろからかけられた声に、声も出せないほど驚いた。
「びっくりさせないでよ、ジョニー」
そう文句を言って、差し出されたマグカップを受け取る。彼女の手には少しばかり大きいそれには、熱いカフェ・オ・レがたっぷりと入っていた。
「ちゃんと砂糖も入れといたぜ?」
いくつになっても子供扱いをやめない彼にちょっと頬を膨らませてから、メイは手に持った甘いカフェ・オ・レに口をつけた。
「何見てたんだ?」
自分の分のコーヒーを一口飲んで、ジョニーが問うた。
「ん。月がね、きれいだったから」
そう言って、眼下を指差す。
「へェ、綺麗だな」
「うん」
そのまま二人並んで、雲を見つめる。




すぐ横に大好きな人のぬくもり、眼前には夢幻の光景
 (しあわせ、だな)
しばしその幸福感に、身を任せる。




 ヒュウ
突然吹き付けた冷気に、意識せずに身を震わせた。と、
 パサッ と、肩に暖かいものがかけられた。
「えっ」
「そんな格好じゃ寒いだろ?」
そういう彼は、一枚だけ着ていたコートをメイの肩にかけてしまった為、上半身裸だ。
「ジョニーの方が、寒そうだよ」
「平気さ。イイ男は寒さになんか負けないんだぜ」
そう言われてしまえば返す言葉もない。が、いくらなんでも寒そうで、見ていられない。
「そうかも知れないけど……見てるほうが寒いよ」
「そうか?」
「うん。だから、半分コしよ?」
そう言ってマグカップを手すりに置くと、メイは自分の肩にかかっていたコートを持ち上げ、隣にいる男の肩にかけようとする。
「サンキュー、メイ」
ジョニーは笑ってコートを受け取ると、自分の肩に引き上げた。
「ほら、もっとこっち寄れよ」
ジョニーの腕がメイの肩を引き寄せる。
「ジョ、ジョニー?!」
慌てて見上げたジョニーの表情には何の含みもなくて、それが残念なような、ほっとしたような、複雑な気持ちでメイは、隣のぬくもりに体を預けた。
「ったく、こんなに冷えちまって。お前さんが風邪なんかひいたら、シップ全体が困るんだぜ。わかってるのかい、レイディ?」
そんなジョニーの言葉さえ耳に入らずに、メイは、大好きな男のぬくもりに包まれ、月を見上げていた。
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