大遥です。
既にご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、2009年春コミにて配布しましたペーパーSSでございます。
いえ、コレくらいしか更新できるブツが無くてね…。
大遥、可愛くて大好きなかぷなんですよ~。
こんなに不安なのは自分だけ
さらりと吹き抜けていく夜の海風に、遥は縁側に立って海岸へと顔を向けた。
しんと静まり返った中、小さく聞こえるみんなの寝息といびき、それからこの沖縄に来てアサガオに住むようになってからもうずっと聞いている波の音に柔らかく笑ってから側の柱にとんと寄り掛かった。
見える限り何処までも広がっている海は、ずいぶんと高くなった丸い月の灯できらきらと輝いている。穏やかに波だけが繰り返し砂浜に寄せて返りって月灯りの名残ごときらめく砂浜は、真っ白でとても綺麗だ。
「……おじさん、今晩は遅いのかなぁ…」
遅くなるなら先に寝てて構わないと、そう言って出て行った姿を思い出して、きっと遅いんだよね。と納得する。
咲ちゃん、大丈夫かな。
力也さんすごく心配してた。幹夫さんは、どうしてるんだろう。
名嘉原さん…そんなに暴れてるのかなぁ。
ぼんやりと思い出して、遥はくすりと目を閉じる。
ああなんだか、こういうのってすごくおじさんらしい。
だって昔から、自分と初めて会ったあの時だってああやって誰かの為に走ってた。
それが世界で一番大好きな桐生一馬というおとこのひと。
「怪我なんてしてないと良いんだけどな」
何時もいつも、こうして誰かの為に走り回っているのを心配するたび、どうかおじさんが怪我なんてしませんようにと願ってしまう。でも危険な事や危ない事をしないでねなんて、言うだけ無駄だとも良く分かっているから自分は言わない。
自分が死ぬかもしれないと、分かっていたって行ってしまう。
そういう時、本当は少しだけ寂しい。
また自分は置いて行かれちゃうんじゃないのかな。
もしもおじさんが居なくなっちゃったら、また私は一人だけなのかな。
そうなったら、どうしよう―――
「………そんな事、無いのにねぇ…」
浮かんでしまった馬鹿な考えに、静かに目を開けてしゃらしゃらと引いては返す海を眺めてまた遥は小さく笑う。
戻ってきてくれた。
何時だって、帰ってきてただいまって笑ってくれる。
あの大きな手で頭を撫でてくれる。
凄く、嬉しい、安心する。
私はおじさんと一緒に居られて、本当に幸せだと思う。
だから、神室町を離れるって聞いたとき沖縄で孤児院をやるって聞いたとき、ちょっとだけ嫌だなって思った。
みんなのおじさんになったら、私だけのおじさんじゃなくなっちゃう。
我侭だったんだな、と少しだけ凹んだ。
「内緒だけどね…」
くるりと振り返って、居間のテーブルに置いた自分の携帯を取って縁側に戻ると、遥は腰を下ろして両足をぶらりとたらした。裏を返して目を向けるとそこにはずっと前に神室町で取った二人のプリクラが一枚と、この沖縄に来て初めて取ったプリクラが並んで張ってある。どちらもぎこちない桐生と笑顔の遥の写真。
――こういうのはどうしていいか分からないんだ――
「笑わないんだよなぁ」
もっと何時ものように静かに笑って写れば良いのに。
見ている私が幸せをもらえるような、あの顔で笑ってくれれば良いのに。
るるるると、不意に手の中でメールの着信を伝えて震えた携帯に遥は首を傾げてそれを開いた。ぱかりと開いた中の、液晶画面の右下には、アサガオの全員と写ったプリクラ写真が貼ってある。けれど、やっぱりその中でも桐生は笑っていない。いっそう戸惑うように視線が泳いでいるのが見て分かる。
それにくすりと遥は笑って着信を示すアイコンを押した。
差出人表示は真島のおじさん。
「…え?、何だろう…」
たまにそっちはどないや?と真島からはメールが送られてくる。
神室町は相変わらずや。
嬢ちゃんの顔が見たいわ。沖縄の海は綺麗なんやろな?
神室町は、相変わらずネオンしか綺麗やないで。
そのたび、昔からよく交わしたメール同様、写真を添付して送り返している。
沖縄の海、空、市場の賑わい、桐生と二人で写した写真。それから、アサガオの誰かとの写真。
真島のおじさんも、きっと沖縄が好きになるよ。
それに返されるメールは何時もこんな感じだ。
なんや、そないのもええなぁ。
今度遊びに行くわ。
けれどまだ真島は沖縄の地を踏んでいない。その理由を、遥は分かっている。
自分には話さないけれど、神室町は大変なんだ。
大吾さんも、きっといろいろ難しい事がたくさんあるに決まっている。
だから自分は、そういうみんなが自分に言わない大人の世界の事を尋ねないようにしている。言ってくれる時まで、分かっているんだよという事を胸の中に仕舞っておく。
言ってくれたなら、そのときは自分を同じだけだって、思ってくれる時だと信じてるから。
そうなれるまで、私は精一杯大人になる準備をしておかなきゃ。
画面に表示されたメールに目を落として、その内容に遥は驚いて月明かりだけのアサガオの庭と門へと急いで顔を向けた。
『タイトル:申し訳ないけどなぁ
本文:嬢ちゃん、もう大吾はそっちに行っとるか?なんや今回のは急でなぁ。わし、沖縄土産を頼むの忘れてしもたんや。会ったら黄金アグーを買うて来るよう言うてや。買ってこんかったら、東城会の敷居跨がせんて言うといて(笑)。ああ、せやせや。ほんまそのうち、嬢ちゃんと桐生ちゃんに会いにわしも沖縄行くでぇぇぇぇ!!只今 \( ̄^ ̄)/ 参上!!』
きょろきょろと見える限りの全てを探すけれど、見慣れたものばかりで人影もまして車の音すらしない。
浮かしかけた腰をもう一度下ろして、遥は真島からのメール画面を見つめた。
「大吾おにいちゃん…沖縄に、来てるんだ」
何の用事だろうと思って、ああでもきっと仕事なんだろうなと答えに行き着く。
おじさんも何も自分に話さなかった。それならきっとこの事は知らなかったんだ。ああだったら、私が知らなくても仕方ないか。
大吾おにいちゃんも、やっぱり何処かで自分に話さないという選択をしている。
真島のおじさんもそうだ。
「優しくしてもらってるんだから、不満じゃないよ」
みんな優しい。だから、私は子供な自分をまだ演じて居られる。
また不意に震えた携帯に、遥は新しく着信したメールを開いた。
「…あれ、大吾おにいちゃんまた…」
『タイトル:沖縄に来てる
本文:沖縄は、綺麗だな。でもまだ海とか見れてない。飛行機の窓からちょっと見ただけだ。まぁ音だけは聞きっぱなしだけど。あと琉球街も回りきれなさそうだ。お袋に買って来いって言われた土産の、なんだっけしーさーの置物だけどうにか買って帰る。ってか、何処で売ってんだ??ったく、初めて来た場所だってのによ。お袋は人使いが荒いよな?遥もそう思うだろ?次に来る時は、アサガオにも行くから沖縄案内してくれよな』
目を通した文面に思わず笑いが込み上げて少しだけ遠い場所に居る相手を思う。
なんか嬉しいなぁと、じんわり感じる。
おじさんみたいに安心させる言葉を言うんじゃない。何時もと変わらない、まるで自分も相手も何一つ変わらないままだと言っているような気軽さを向けてくる。
いろいろがな事がたくさん動いているのに。
それでも大丈夫だと言われているんだ。
すぐに次のメールの着信を知らせる振動が続き、それがまた大吾からだと分かると今度は何だろうと遥はまたメールを開いた。
『タイトル:追伸
本文:アサガオは大丈夫だからな。買収の件、心配するなよ。俺と桐生さんが居る限り、何も心配いらねぇからな。あああと、名嘉原ってのとも大丈夫だ。一応、これ報告しとくぜ』
「大吾おにいちゃん…」
驚いた。
大吾おにいちゃんとおじさんは会ってるんだ。そして、全部が巧く行ったんだ。
「もしかして、これを私に言うため…」
きっとそうだ。間違いない。
「……あ、私…」
瞬間、泣きたくなるくらいに嬉しくなって遥はぎゅと携帯を握る。
自分が子供だなんてよく知ってる。昔からずっと解かってる。
だけど、と少しだけ俯いて暗くなってしまった液晶画面に目を向けながら遥は首を振った。
少しだけなのかもしれないけれど、この人は私を大人と扱ってくれていた。
自分と同じ立場だって思ってくれている。
真実を伝えられるだけの強さがあると思ってくれていた。
ゆっくりと遥は携帯の返信のボタンを押す。
「ありがとうね、大吾おにいちゃん」
ぴぴぴと鳴った携帯に、大吾はちらと顔を向け胸ポケットに手を入れるとそれを取り出す。隣を歩く富眞が一瞬だけどうしたんですかと視線を向けた事は知らん振りをした。
開いた画面にメールの着信を知らせるアイコンが点滅している。それを選んで開いて、差出人の名前に大吾はふふと小さく笑う。
『タイトル:大吾おにいちゃん
本文:ありがとう。そして沖縄は本当に綺麗です。他にも素敵な処はたくさんあるんだよ。今度はゆっくり遊びに来てね。おじさんも、私もアサガオの皆も待ってるよ』
「おじさんも、自分も、か…」
呟いて閉じようとした携帯が再び鳴った事に、また大吾は二通目を受信した画面に目を落とす。誰からだと僅かの訝む目をそれを開いて、差出人に驚いたように目を瞬いた。
『追伸:
本文:琉球街とか沖縄の素敵な場所、私が案内するね(∇≦d)(b≧∇) 』
進めていた足を大吾はふいと止める。
「…六代目、どうされましたか?」
「ん?ああ、ちょっと…今から沖縄観光したくなった、かな」
「今ですか?それはちょっと、案内人もおりませんし何より時間が」
「解かってる、冗談だ冗談」
携帯を胸ポケットに仕舞ってまた歩き出しながら、大吾は天空高く光る神室町では見る事の出来ない眩い星々目を細めた。
「次に来たときにって話だ。それに、案内人はもう居るから必要ねぇさ」
「先ほどの、桐生一馬ですか?」
「……いや、別の相手だな」
誰ですかと言いたげで言わない相手にくすりと笑って大吾は足を速めた。
終わり
既にご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、2009年春コミにて配布しましたペーパーSSでございます。
いえ、コレくらいしか更新できるブツが無くてね…。
大遥、可愛くて大好きなかぷなんですよ~。
こんなに不安なのは自分だけ
さらりと吹き抜けていく夜の海風に、遥は縁側に立って海岸へと顔を向けた。
しんと静まり返った中、小さく聞こえるみんなの寝息といびき、それからこの沖縄に来てアサガオに住むようになってからもうずっと聞いている波の音に柔らかく笑ってから側の柱にとんと寄り掛かった。
見える限り何処までも広がっている海は、ずいぶんと高くなった丸い月の灯できらきらと輝いている。穏やかに波だけが繰り返し砂浜に寄せて返りって月灯りの名残ごときらめく砂浜は、真っ白でとても綺麗だ。
「……おじさん、今晩は遅いのかなぁ…」
遅くなるなら先に寝てて構わないと、そう言って出て行った姿を思い出して、きっと遅いんだよね。と納得する。
咲ちゃん、大丈夫かな。
力也さんすごく心配してた。幹夫さんは、どうしてるんだろう。
名嘉原さん…そんなに暴れてるのかなぁ。
ぼんやりと思い出して、遥はくすりと目を閉じる。
ああなんだか、こういうのってすごくおじさんらしい。
だって昔から、自分と初めて会ったあの時だってああやって誰かの為に走ってた。
それが世界で一番大好きな桐生一馬というおとこのひと。
「怪我なんてしてないと良いんだけどな」
何時もいつも、こうして誰かの為に走り回っているのを心配するたび、どうかおじさんが怪我なんてしませんようにと願ってしまう。でも危険な事や危ない事をしないでねなんて、言うだけ無駄だとも良く分かっているから自分は言わない。
自分が死ぬかもしれないと、分かっていたって行ってしまう。
そういう時、本当は少しだけ寂しい。
また自分は置いて行かれちゃうんじゃないのかな。
もしもおじさんが居なくなっちゃったら、また私は一人だけなのかな。
そうなったら、どうしよう―――
「………そんな事、無いのにねぇ…」
浮かんでしまった馬鹿な考えに、静かに目を開けてしゃらしゃらと引いては返す海を眺めてまた遥は小さく笑う。
戻ってきてくれた。
何時だって、帰ってきてただいまって笑ってくれる。
あの大きな手で頭を撫でてくれる。
凄く、嬉しい、安心する。
私はおじさんと一緒に居られて、本当に幸せだと思う。
だから、神室町を離れるって聞いたとき沖縄で孤児院をやるって聞いたとき、ちょっとだけ嫌だなって思った。
みんなのおじさんになったら、私だけのおじさんじゃなくなっちゃう。
我侭だったんだな、と少しだけ凹んだ。
「内緒だけどね…」
くるりと振り返って、居間のテーブルに置いた自分の携帯を取って縁側に戻ると、遥は腰を下ろして両足をぶらりとたらした。裏を返して目を向けるとそこにはずっと前に神室町で取った二人のプリクラが一枚と、この沖縄に来て初めて取ったプリクラが並んで張ってある。どちらもぎこちない桐生と笑顔の遥の写真。
――こういうのはどうしていいか分からないんだ――
「笑わないんだよなぁ」
もっと何時ものように静かに笑って写れば良いのに。
見ている私が幸せをもらえるような、あの顔で笑ってくれれば良いのに。
るるるると、不意に手の中でメールの着信を伝えて震えた携帯に遥は首を傾げてそれを開いた。ぱかりと開いた中の、液晶画面の右下には、アサガオの全員と写ったプリクラ写真が貼ってある。けれど、やっぱりその中でも桐生は笑っていない。いっそう戸惑うように視線が泳いでいるのが見て分かる。
それにくすりと遥は笑って着信を示すアイコンを押した。
差出人表示は真島のおじさん。
「…え?、何だろう…」
たまにそっちはどないや?と真島からはメールが送られてくる。
神室町は相変わらずや。
嬢ちゃんの顔が見たいわ。沖縄の海は綺麗なんやろな?
神室町は、相変わらずネオンしか綺麗やないで。
そのたび、昔からよく交わしたメール同様、写真を添付して送り返している。
沖縄の海、空、市場の賑わい、桐生と二人で写した写真。それから、アサガオの誰かとの写真。
真島のおじさんも、きっと沖縄が好きになるよ。
それに返されるメールは何時もこんな感じだ。
なんや、そないのもええなぁ。
今度遊びに行くわ。
けれどまだ真島は沖縄の地を踏んでいない。その理由を、遥は分かっている。
自分には話さないけれど、神室町は大変なんだ。
大吾さんも、きっといろいろ難しい事がたくさんあるに決まっている。
だから自分は、そういうみんなが自分に言わない大人の世界の事を尋ねないようにしている。言ってくれる時まで、分かっているんだよという事を胸の中に仕舞っておく。
言ってくれたなら、そのときは自分を同じだけだって、思ってくれる時だと信じてるから。
そうなれるまで、私は精一杯大人になる準備をしておかなきゃ。
画面に表示されたメールに目を落として、その内容に遥は驚いて月明かりだけのアサガオの庭と門へと急いで顔を向けた。
『タイトル:申し訳ないけどなぁ
本文:嬢ちゃん、もう大吾はそっちに行っとるか?なんや今回のは急でなぁ。わし、沖縄土産を頼むの忘れてしもたんや。会ったら黄金アグーを買うて来るよう言うてや。買ってこんかったら、東城会の敷居跨がせんて言うといて(笑)。ああ、せやせや。ほんまそのうち、嬢ちゃんと桐生ちゃんに会いにわしも沖縄行くでぇぇぇぇ!!只今 \( ̄^ ̄)/ 参上!!』
きょろきょろと見える限りの全てを探すけれど、見慣れたものばかりで人影もまして車の音すらしない。
浮かしかけた腰をもう一度下ろして、遥は真島からのメール画面を見つめた。
「大吾おにいちゃん…沖縄に、来てるんだ」
何の用事だろうと思って、ああでもきっと仕事なんだろうなと答えに行き着く。
おじさんも何も自分に話さなかった。それならきっとこの事は知らなかったんだ。ああだったら、私が知らなくても仕方ないか。
大吾おにいちゃんも、やっぱり何処かで自分に話さないという選択をしている。
真島のおじさんもそうだ。
「優しくしてもらってるんだから、不満じゃないよ」
みんな優しい。だから、私は子供な自分をまだ演じて居られる。
また不意に震えた携帯に、遥は新しく着信したメールを開いた。
「…あれ、大吾おにいちゃんまた…」
『タイトル:沖縄に来てる
本文:沖縄は、綺麗だな。でもまだ海とか見れてない。飛行機の窓からちょっと見ただけだ。まぁ音だけは聞きっぱなしだけど。あと琉球街も回りきれなさそうだ。お袋に買って来いって言われた土産の、なんだっけしーさーの置物だけどうにか買って帰る。ってか、何処で売ってんだ??ったく、初めて来た場所だってのによ。お袋は人使いが荒いよな?遥もそう思うだろ?次に来る時は、アサガオにも行くから沖縄案内してくれよな』
目を通した文面に思わず笑いが込み上げて少しだけ遠い場所に居る相手を思う。
なんか嬉しいなぁと、じんわり感じる。
おじさんみたいに安心させる言葉を言うんじゃない。何時もと変わらない、まるで自分も相手も何一つ変わらないままだと言っているような気軽さを向けてくる。
いろいろがな事がたくさん動いているのに。
それでも大丈夫だと言われているんだ。
すぐに次のメールの着信を知らせる振動が続き、それがまた大吾からだと分かると今度は何だろうと遥はまたメールを開いた。
『タイトル:追伸
本文:アサガオは大丈夫だからな。買収の件、心配するなよ。俺と桐生さんが居る限り、何も心配いらねぇからな。あああと、名嘉原ってのとも大丈夫だ。一応、これ報告しとくぜ』
「大吾おにいちゃん…」
驚いた。
大吾おにいちゃんとおじさんは会ってるんだ。そして、全部が巧く行ったんだ。
「もしかして、これを私に言うため…」
きっとそうだ。間違いない。
「……あ、私…」
瞬間、泣きたくなるくらいに嬉しくなって遥はぎゅと携帯を握る。
自分が子供だなんてよく知ってる。昔からずっと解かってる。
だけど、と少しだけ俯いて暗くなってしまった液晶画面に目を向けながら遥は首を振った。
少しだけなのかもしれないけれど、この人は私を大人と扱ってくれていた。
自分と同じ立場だって思ってくれている。
真実を伝えられるだけの強さがあると思ってくれていた。
ゆっくりと遥は携帯の返信のボタンを押す。
「ありがとうね、大吾おにいちゃん」
ぴぴぴと鳴った携帯に、大吾はちらと顔を向け胸ポケットに手を入れるとそれを取り出す。隣を歩く富眞が一瞬だけどうしたんですかと視線を向けた事は知らん振りをした。
開いた画面にメールの着信を知らせるアイコンが点滅している。それを選んで開いて、差出人の名前に大吾はふふと小さく笑う。
『タイトル:大吾おにいちゃん
本文:ありがとう。そして沖縄は本当に綺麗です。他にも素敵な処はたくさんあるんだよ。今度はゆっくり遊びに来てね。おじさんも、私もアサガオの皆も待ってるよ』
「おじさんも、自分も、か…」
呟いて閉じようとした携帯が再び鳴った事に、また大吾は二通目を受信した画面に目を落とす。誰からだと僅かの訝む目をそれを開いて、差出人に驚いたように目を瞬いた。
『追伸:
本文:琉球街とか沖縄の素敵な場所、私が案内するね(∇≦d)(b≧∇) 』
進めていた足を大吾はふいと止める。
「…六代目、どうされましたか?」
「ん?ああ、ちょっと…今から沖縄観光したくなった、かな」
「今ですか?それはちょっと、案内人もおりませんし何より時間が」
「解かってる、冗談だ冗談」
携帯を胸ポケットに仕舞ってまた歩き出しながら、大吾は天空高く光る神室町では見る事の出来ない眩い星々目を細めた。
「次に来たときにって話だ。それに、案内人はもう居るから必要ねぇさ」
「先ほどの、桐生一馬ですか?」
「……いや、別の相手だな」
誰ですかと言いたげで言わない相手にくすりと笑って大吾は足を速めた。
終わり
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