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うろほろぞ
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アルベルトに。セルバンテスが甘えたりすんのはアルベルトがサニーだけだろな。サニーの膝枕大好きだといいな!
「重くないかな、大丈夫かい?」
「もう、大丈夫ですってば、バンテスおじさま」
って二人でお花畑でね…。
前に打った、大作が去った時にサニーが佇んだ花畑でね。セルバンテスはさあ、自分がその役目にされちゃったから、ちょっとだけサニーに顔向けできない時期があるんよ。罪悪感とは違うけど、悲しませてしまったなて、あれ、それってやっぱ罪悪感? なんか違うような気もする。
でもセルバンテス、サニー大好きだからさあ!サニー不足でキュウキュウしちゃうんだよ。アルベルトはどっかいってるし。
「でもどうしよう、…ああっ 私は何をしているんだ!」
眩惑のセルバンテスも一人の少女にかなわない部分があるのは可愛いよね。
一週間ばかりサニーと顔を合せないようにして、部屋でもんどりうってると、月が出始めた頃、部屋のドアを遠慮がちにノックする音が。無論サニーです。
サニーはセルバンテスがそういう仕事にまわされたってもう知ってるんだよね。で、
「おじさま、毎日顔を見せにきて下さったのに、あの日から顔を合わせて頂けないのはもしかして私のせい
「そんなワケがあるものか!…あ、いやそうじゃないよサニー」
ただでさえ悲しみの底にいたサニーなのに、自分の所為でますます悲しませていたのか!?と慌てるセルバンテス。
大きな声を出したせいでビクッとしてしまったサニーの小さな両肩を優しく手で包み込みます。
「私が大作君と草間博士をここから追い出してしまったのだよ、サニーには悪い事をしてしまったね」
「…おじさま、謝らないでください」
「どうしてだいサニー。サニーはとっても悲しいんだろう」
「おじさまは、…おじさまはお仕事でそうしただけです。大作は…いえ、彼は敵なんですもの、だから…」
小さいなりに一生懸命セルバンテスに言葉を紡ぐサニー。内容は辿々しく幼いものでしたが、このようなか弱い少女が自分を励まそうとしている姿に胸打たれるセルバンテス。
どうしてだろう。私なんかに?
そう思いつつもサニーを抱きしめるセルバンテス。
「ありがとう」
さあ、もうすぐ晩ご飯の時間だね、一緒に食べようかサニー。おじさんとサニーと一緒ならご飯がとってもおいしくなるよ。楽しみだなあ。
サニーにそう声をかけると二人は手をつないで食卓へ向かう。

いつだって彼と彼の娘は私を癒すんだ。
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小さい大作とサニーのお花畑での結婚式とかいいよね。
二人は幼なじみで、他に子供が居ないので必然的に良く遊ぶようになる。大作も学校行ってなさそう。だからサニーと一緒にBF団の中で英才教育されていそうだよね。
でも二人は遊びたい盛りなんだよね。いつも一緒にいる。サニーは大人しそうに見えて、大作と一緒に川で遊んだり入っちゃダメだよって所に入ったり、そういう活発な部分もたくさんある子だと良いなあ。
そして二人は子供っぽい感情で、離れたくないなら結婚すれば良いんだよって言い出すんだよね。
「サニー、大きくなったら僕と結婚してくる?」
「うん大作、大きくなったら私をお嫁さんにしてね」
サニーは大作を大作と呼んで欲しい。
お花畑でお花を集めて白詰草で花の冠を二人分作ってさ。セルバンテスが牧師さんの役でね。あれ、やっぱ神父の方がセルバンテスらしいかな?セルバンテスは結婚しないから神父で良いか。
神父、セルバンテスでさ。仲人はなくていいよね、三人だけの結婚式だから。アルベルトも草間博士もいつもいない。子供を構ってくれるのはセルバンテスだけだから。あのBF団の島に居る時に、二人が一番お世話になったのはセルバンテスだと思うので、そうする。大作とサニーが手を繋いでセルバンテスのところへ遊びにいくのが二人の日課。
時々お仕事で遊べないときもあるけどセルバンテスさんはいつも後でちゃんと遊んでくれる。この時もそうだった。サニーと手をつないで二人、花園を出てセルバンテスさんの部屋にいくと、セルバンテスは困ったようにいった。
「これから仕事なんだよ、ごめんね二人とも」
大人はいつも忙しそうなんだ。僕とサニーはいつもおいてけぼりなんだ。サニーの手に力が籠る。僕も手に力を入れて返事をする。セルバンテスさんはそれに気が付いたみたいだ。
「本当にごめんよ、でも帰ってきたら何日かまた仕事は入らないから、そうしたら一日中だって一緒だよ。その時は二人とも僕を仲間に入れてくれるかい?私もサニーちゃんや大作と何して遊ぼうか考えておくよ!」
僕にもサニーにも分かる。セルバンテスさんはほんとうは忙しいんだ。でも僕たちをとっても可愛がってくれてるのが僕には分かる。だからセルバンテスさんは大好きだ。
お父さんも、…こうなってくれたらいいのに。
セルバンテスさんに我侭言っちゃダメだ、きらわれちゃう。でも帰ってきたら遊んでくれるって。僕とサニーはセルバンテスさんに抱きついて、いっぱいちゅーをした。ちゅーは好きな人にたくさんしてあげるといいよって教えてくれたのはセルバンテスさんだ。
だから僕もサニーもちゅーをするようになった。サニーは可愛いけど、そう言う時のサニーはとっても可愛くて僕はよくわからない。よくわからないけど、ドキドキする。サニーと結婚したいってそう言う事なのかな。
セルバンテスも僕とサニーに一杯チューをしてくれた。良い子だね、じゃあおじさんの帰りを待っていとくれと言うので、三人で指切りをして部屋から出た。
////////////////

そんでセルバンテスが帰ってきたら、お花畑で白詰草で結婚式だよ。セルバンテスに結婚式をしたいんだけどどうすれば良いの?ってきいたら驚くよなあ。でもすぐにニコニコして「うん、じゃあ僕が神父さんになって、二人を祝福してあげよう!色々準備するから、そうだなああとちょっとだけ待っててくれるかな」って聖書を持ち出してきて、指輪やちっちゃいドレスやダキシード用意させて超略式の結婚式ごっこがはじめるよ。
子供の手にあわせて派手なのは避けて、シンプルな趣味の良い指輪。ドレスはそうだなあ、用意させようかな。大作なんて生まれて初めて着る蝶ネクタイでさ!サニーも初めて着るドレスでね!ほんとにウェディングのだとあれだから、結婚式の時に女の子が着るよーな白いミニドレスね。ブーケも用意してあげる。セルバンテスはお膳立てが大好きです。アルベルトが戴宗を調教する時もお膳立てをするのが大好きだよ!
空に舞い散る花や紙吹雪やライスシャワーは当然眩惑の力です。こう言う時に私の能力は発揮するべきだろうって張り切るよね。
三人だけの結婚式。ほんとうはセルバンテスが二人にアルベルトや草間博士も呼ぼうか?って聞くんだけど、二人がしなくていいって断るんだよな。お父さんお仕事忙しいから、我侭言っちゃいけないって…とかけなげな事言うからセルバンテスの目から涙。なんていい子なんだ!あんの馬鹿野郎ども!(アル+草間)
そんでセルバンテス神父の前で大作とサニー(お互い6歳)は神様に永遠の愛を誓うんだよね。
「今日より善き時も、悪しき時も、富める時も、貧しき時も、病めるときも、健やかなる時も、死が二人を分かつとも、互いに愛し、慈しみあうことを誓いますか?」
「誓います」×2
チュー。セルバンテス内心、あ~子供の写真を見せびらかす親バカの気持ちがわかったよ私は!って思うよね。多分これ写真とってるよセルバンテス。隠しカメラかなんかで。誓いの言葉若干違うけどこっちの方が好きなんで一部変えてあるよ。
大作とサニーが、まだ小さくて世界の事なんて何にも知らなくて、そう言う時に遠い将来の事を約束するのがいいよね。
セルバンテスはその約束の儚さを知っている。守られる事もきっと出来ないだろうこともわかっている、分ってないのは子供達だけなんだよな。でもその無知さが今は愛おしいんだよ。夢を見ない子供なんて子供じゃあないだろう?ってさあ。まあ大作はその約束を守りますけどね!
大作がロボの主人となり、そのままBF団から消えたとき、無論本部は大騒ぎになるだろう。誰もサニーに真実は教えてくれないだろう。アルベルトは一言だけ「草間大作の事は忘れろ」というだけ。理由を尋ねたいのに、その背中は質問を許してくれない。小さいながらも聡明なサニーは聞いちゃいけない事なんだって分かる。でも、どうしてもそれがしりたくて、かなしくてたまらない。
そして走るうちにいつものお花畑に来てしまう。花園はいつでもサニーを暖かく迎え入れてくれる。
大作はどこへいったの。どうして皆、草間博士のことを裏切り者なんて呼ぶの。私の大好きな大作の、大作の大事なお父さんをそんな風に呼ばないで!
ひっくひっくと涙が出てくるのをとめられない。先程のアルベルトを思い出す。質問を許さない広い背中。
父様、忘れろなんて言わないで。私の大作を忘れろなんて言わないで。もう会えないなんて言わないで…
もう大作に会えないであろう事を察して、でも誰にもそんな事を言えないサニー。
きっと大作はもうここには戻ってこない、何があったのかは分からないけどもうここで遊ぶ事が出来ないのね。私の初めての友達。私の初めての好きな人。
スカートの裾をぎゅっと握ると、手に何か固いものの感触。探ってみるとそれはあの結婚式をした時にバンテスおじさまからいただいたエンゲージリングが一つ。そっと左手の薬指にはめてみる。
「やっぱり キレイ…」
夕暮れの空にうかぶ太陽の光に反射してきらきらと輝く指輪。また
悲しくなってきたサニーは目が潤んでしまう。
「大作に会いたい」
貴方はこの夕焼けをどこから見ているの? 私もそこにいきたいのに、きっと私は貴方と同じ場所には行けないんだわ。
ほろほろと涙が止まらない。ぎゅっと手を握りしめて、指輪にそっとキスをする。大作、私忘れないね。大作と一緒に約束した事。きっときっと迎えにきてね。
夕焼けが終わって、夜の闇がきてもサニーは座り込んでそこから動かない。今は何にも考えたくなかった。
「お風邪を召してしまいますよ マドモアゼル」
頭上からふわりと暖かいものがサニーを包んだ。なじみのある匂い。セルバンテスが迎えにくる。サニーをクフィーヤでくるんで、後ろから抱きしめるんだよ。
サニーは黙ったまま背中の暖かさを感じている。バンテスおじさんは優しい。でも今何か口に出したら、それはすべてバンテスおじさんに向けてひどいことを言ってしまいそうで怖かった。
セルバンテスはそのままサニーをお姫様だっこしてすたすたと帰り道を辿る。スーツの前を握りしめながら震える身体をセルバンテスは優しく包む。クフィーヤがサニーの顔を隠してくれているのは有り難かった。こんな顔を見られたくなかった。
…分かってるの、自分が我侭してるだけなのは。迎えにきてくれて本当はとっても嬉しいのに、ごめんなさいおじさま。

私は大作に迎えにきて欲しかった。
血の臭いがする。
おそろしくなどはないと、サニーは思った。
誰かの流した血も、自分の流した血も。自分が流させた血も、何もおそろしくはない。
どろりとしたゼリー状の黒っぽい赤。
ずるりと擦り付ければそれは鮮やかなくれないに染まる。
透き通る液体にとろけて赤はすぐさま不可視となる。
浮き上がる。
触れた先から流れ落ちる。
(いた...)
(痛い)
つっと線を引いて流れる。流れる。
(イタイ)
その目に涙はなかったが、多分それは慟哭なのだった。
まるで嗚咽なのだった。
嗚呼。
どうしたことだろう、これは。
何がこんなにも。くるしいというのだろう。
赤に指を浸して、唇に擦れば死に化粧。だが、死体は死体であってそれ以上でも以下でもなく、化粧なぞしたとて所詮それは朽ちるだけのモノ。意味はない。
意味はないから良いのやも知れぬと思った。
そもそも死に化粧とは、何処ぞの風習であったろうか。
ああ、それもいい。
そんなこと、本当はどうでもいいのだった。
ただ、赤。
赤が散る。
流れる。溶ける。揺れる。落ちる。濡れる。染まる。
ああ、嗚呼。
こんなに血が流れて。
サニーはうっとりと笑う。
いっそ殺意にその身を焦がせばいい。
それはなんと甘美な毒。
いっそ。
どうして。
心臓のある辺りがじくりと痛んだ。


あぁ、満たされないのは、
焦がれているのは本当は

けれど、うしなわれたものは今はもう遠く隔てられて戻ることはない。
分かっていた。
分かっていた。
分かっていたのだ。
滴り落ちる赤は涙の代わりに。



おなかが いたい


誰も救けてはくれないと分かっていた。
誰も彼も、サニーの前からいなくなってしまう。
どうせ短い永劫の内には何もかもすぐに失くなってしまうのだけれど。
ゆらり、ゆらゆら揺れる紅。
積み上げた屍の山は黒く霞む。
き え て な く な れ 。
どうして、人は誰も大人にならねばならぬのだろう。どうして、時間は無情にも流れ無常流転の世にあってまもりたいものでさえ必ずやうしなわれねばならぬのだろう。あかい。
それをあきらめるということが大人になるということであるならば、大人になどなりたくない。
「...厭」
軽く眉根をよせると、余計辛いような気がした。
ああ、だから笑っていなくては駄目なのだ。
くるしくとも、笑っていなければ。
苦しい顔をすれば余計苦しくなるのだ。哀しい顔をすれば余計哀しくなるのだ。
だから。
どろりと溶けてねとりと張り付く。
さらさらと流れる赤は確かに水のよう。
血液はもっと黒いものと思っていた。こんなに鮮やかな色をしているなんて、思ってもみなかった。
こんなにも赤は冷たくて。
拒絶、するのかされるのか。
指に絡ませれば薄く色づいて、酷く汚い。
嫌いだと思った。

ああ。
どうして、大人になんかならなきゃいけなかったんだろう?何も捨て去りたくなんか、なかったのに。




花冠





茶番だと、両陣営の人間が感じていた。
エキスパートと十傑衆の婚姻など―茶番以外の何ものでもあるまい。
それでも祝福しようという態度を見せた国警側はともかく、BF団側の不満は全て花嫁の後見人である樊端に集まった。
十傑衆の中には面白がって無責任に煽る者(当然、某仮面の忍者)もあったが、策士をはじめとした大抵の者はこの婚姻に対し否定的、更に云えばぶち壊そうという動きも少なくなかった。結局それがなされなかったのは、他ならぬBF様が妙にこの婚姻に乗り気であったからだ。多分、ほとんど睡眠装置の中で過ごす身には貴重な娯楽なのだろう。
ほとんどの十傑衆はこの件に関し口を閉ざしていたが、懐疑的であることに違いはなかった。
花嫁は...サニー・ザ・マジシャンは沈黙を守っていた。
そして―
樊端は。
安堵、していた。
いや、花婿が国警の人間であることについではない。けしてない。そうとも、サニー直々の願いでなければどうして許そうか、国警は敵ではないか。
サニーが結婚する、そのことについてである。
樊端は知っていた。
おのが娘ほどの年齢でしかないこの少女が、いつからか何より掛け替えのない存在となっていたことを。
それが―その愛しいという感情が、しかしサニーを一人の女性と見てのものであったことを。
そうして。
おそらくは、サニーもまた、同じだけの熱量で自分に好意を抱いているだろうことを。
それは。
それは駄目だと思ったのだ。
大体、自分は老い先短く、少女にはまだまだ広い未来がある。
だから。サニーが結婚すると云い出した時、何を思うよりまず安堵したのだ。
まさか、相手があの草間大作とは思ってもみなかったが。
だが、草間大作の父親は元々BF団で働いていた人物、あの当時同じ年頃の子供が周囲にいなかったサニーにとっては格好の遊び相手だったであろうことは想像に難くない。それなら旧知の仲というのも頷ける。そして。
考えてみればサニーの母親は元々国警側の人間である。親子二代に渡って因果なことだと残月が云った。
それでもいい。
サニーが幸せであるなら。
けれど。



「誓えません」
きっぱりと、草間大作は云ってのけた。
「な...ッ!?」
思わず席を立つ。困惑と怒りとがない交ぜとなった樊端に、しかし草間大作は微笑んだ。
「誓えません。忘れられないひとがいるから」
何を、今更、国警側からもBF団側からも声があがる。野次が飛ぶ。中にはだから止すべきだったんだなんて声もある。孔明が横目に睨んでくる。樊端は針のむしろを体感した。
BF様だけが、全て分かっているように笑んでいた。サニーと草間大作と、全く同質の笑みだった。
そう、これは。
確信犯の笑みだ。
「でも、それは同じことなんです」
とにかく何か云ってやろうと口を開きかけた樊端に向かって、草間大作はなおも続ける。
「同じ?」
ひたり、と見据えられて居心地が悪いことこの上ない。
「はい。同じです。―僕たちは、契約したんです」
ふいに、場違いな言葉が飛び出した。

けいやく したんです

契約。何を。おそらく自分の予想は当たっているのだろうなと樊端は思った。それから、当たっていてほしくないとも思った。
「でも、駄目だった。それだけのことです」
さあ行って、と草間大作が微笑う。
「駄目だよ、サニーちゃん。君は、まだ遅くないんだから、ね?」
その一瞬、酷くかなしげな顔で。僕は今更だったからと笑うから、むかしに大切なものを失くしたのだと知れた。
ありがとう、ごめんなさいとサニーが涙を零す。
その背を草間大作がそっと押す。
そうして―
サニーと。
樊端の。
視線が交わる。
「おじさま」
あぁ。
いけない。
いけないと、思ったから。縁談を持ち込むつもりで、そうしてサニーに先手を取られたのだった。
そう。
樊端は多分、自分の手で縁談を進めずに済んだことにも安堵したのである。
サニーが歩を進める。
樊端は動けない。少女が目の前に立ち見上げてきてなお動けないままだった。
「おじさま」
ふいに。
いたずら気に微笑んだサニーが。
いきなり手をひいて駆け出したので。
樊端はもつれる足で転びそうになりながら、慌てて後を追った。
まったく不器用な男だとため息を吐いたのは誰だったか。





ようやく息を継いだのはちょっとした土手。この辺りの地理が全く分からないが、帰りはどうすればいいのだろう。...否。帰れるのだろうか、あんな騒ぎを起こしておいて(実質的には騒ぎを起こしたのは草間大作なのだが)。
少なくとも孔明にちくちくちくちく厭味を云われることは決定したと云っていい。樊端はため息を吐いた。気が重い。
「これで全部おじゃんですわね」
何処か楽しげにさえ少女が云う。はっとした。そうだ。サニーは。
「サニー」
「なんですか?」
いたずらっぽく微笑む少女に、
「戻りなさい」
云った。
今なら、後戻りもできるから。
戻れるなんて、自分は思ってもいないのに。
云った。
本気で、云った。
「嫌です」
「しかしだな、サニー。儂はお前の...」
なおも云い募ろうとした樊端は、しかし。
「ほんとうに、わたくしのためを思うのでしたら、おじさま」
あまりにも真摯な眼差しに、一瞬、言葉をなくした。その手を、とって。
「手を、放さないでくださいまし」
微笑んだ、姿が。
いっそ、神々しいほどで。
思わず抱き寄せた体は羽根みたいに軽く、どこへなりと飛んでいってしまいそうで、素直に愛おしいと思った。
「ああ」
そうか。
自分からその手を放すことなど出来なかったのだと―否。その手を放したくなどなかったのだと、樊端は気付いてしまった。
「そうだな」
抱きしめる腕に少しだけ力をこめた。
どうしてか。
こんなにも愛おしいと、思うのだろう。
最初で最後の恋なのだと、多分、はじめから知っていた。
「ベールを。落としてきてしまったな」
「あら本当。でもおじさま、それならいいことがありますわ」
云うが早いか、真っ白なドレスで土手に座り込んで。
借り物が汚れると青くなる樊端には構わず、シロツメクサを摘み始めた。
「ああ...花冠か」
なつかしい。
いつかは自分が作ってやった。
白い冠を花嫁のベールになぞらえて、ままごとをした。
あの春の庭から、一体どこまで来てしまったのだろう。いくら後悔してもしたりない。
それでも。
ほかの何より、後悔するというなら、つないだ手を放してしまった未来だから。
シロツメクサを摘んで指輪を作った。
金より銀より、宝石よりも。大切なものは。
白い、小さな手。
「サニー、手を出しなさい」
はい、と差し出されたその細い指に、急ごしらえの指輪をはめる。
「その、なんだ。今はこんなものしかないのだが」
いいえ、サニーが首をふる。
「いいえ、十分すぎるほどですわ」
きれいな、なみだ が。つと少女の頬を流れた。
腹でも痛いのかと慌てれば、おじさまは本当におじさまですわねと意味不明の返事。何となくなくむすっとする。
流れた涙はそのままに、少女がころころと笑う。
「拗ねないでくださいまし、それが悪いと云っているのではありませんわ」
ええ、むしろ、そんなあなただからこそわたくしは、と微笑むから、ああ勝てるわけなどないのだこの少女には。
「ほらおじさま、花冠ができましたわ」
頭上に掲げられた白い花冠。
あの日のベールが、今ここにある。
「おじさま。ままごとをいたしましょう?」
考えることは同じ、か。
同じ。それだけの長さを、共有してきたのだから。
誰が何と云おうと、共にいた時間が長すぎた。離れることなど、今更できるわけがない。
だから。
「そうだな」
祝福などなくていい。
誰の理解がなくてもいい。
ただ。
生涯をただ一人の上に縛り付けるためのままごとを。

命つきるまでこの者を愛することを、
「誓います」




「さあ、サニー。全部君にあげよう。まずはどれがいいかな?」
邪気は無いのだろうが、染み付いてしまったそれが滲み出る満面の笑顔でセルバンテスが言う。
約束通り、眩惑のセルバンテスは上等の甘いお菓子をサニーへの欧州土産に買ってきた。
チョコレート、クッキー、砂糖漬けの薔薇、ケーキ、タルト。
要するに、山ほど。
あさっての方向を見たままのアルベルトの口からは溜息のように紫煙が吐き出された。
大理石のバルコニーにしつらえられたテーブルには白と緑のテーブルクロスがかけられ、大輪の紅薔薇が白い花瓶に生けられている。
その花瓶を取り囲むように、紅茶の注がれたマイセンのティーカップは4つ置かれていた。
そして、甘い物の山。
「まぁ、こんなに?ありがとうございます、セルバンテスのおじ様!」
お菓子の家が目の前に現れたかのような心地でサニーはセルバンテスに抱きついた。椅子へ座っていてもまだ少し背伸びしないと届かない彼の首へ抱きつき、その頬へ感謝のキスを送る。
他愛ない言葉に、これほど沢山の”甘さ”で返してくれる人を他には知らない、とサニーは思う。
「私だけではとても食べ切れませんわ!」
「ふふっ、サニーが一人で全部食べたら、ちょっとおデブちゃんになってしまうね。でも抱っこしたらきっとフカフカして気持ちいいよ!」
「もう…、私、ぬいぐるみではありませんことよ?」
目つきだけはそのままだが、緩み切ったセルバンテスの口元から出てくる茶化す言葉すらも甘い。
「…セルバンテス、馬鹿な事を言うでない!」
サニーとセルバンテスを見、何も言う気配のないアルベルトを見、仕方なくといった風情の渋い顔で樊瑞が口を開いた。
「育ち盛りの子供に甘い物を大量に与えては体に良くない。肥満体質になってしまうぞ!」
後見人になってからというもの、彼は古今東西の育児書を密かに読み漁っていた。無論、アテにしてはいなかったが、知らないよりはマシだと思ってのことだ。
「子供の頃は甘い物を節制したほうが良いのだぞ、サニー」
「まぁ、怖い!気をつけますわ」
言葉少なに本当の事を教えてくれるのはたいていが樊瑞だった。
樊瑞の真剣な声音にサニーは少しずつ食べようと心に誓う。
「私だけで食べてはもったいないですから、後でエージェントの皆さんにもお裾分けをしてもよろしいでしょうか、セルバンテスのおじ様」
「父親とは違って優しい子だね!これはサニーにあげたんだから、君の好きにおし」
にやりと笑うセルバンテスが、ちらりと目だけでアルベルトを見やる。
サニーも仏頂面の父親を見、ほんの少し困ったように笑った。
返事はしてくれても、声をかけてはくれない。
いつでもしらんぷりなのに、いつでも存在を感じるなんて不思議だわ、とサニーは思う。
『奴の精一杯なのだ、わかってやってくれ』
とは樊瑞の言葉であり、
『君の父上はね、自分に正直すぎて不器用なんだよ』
とはセルバンテスの言葉だった。
よくわからないけれど、とっても遠回しに気にかけては下さってるのだわ、とサニーは思うことにしている。
「だが、その前にぜひ君に食べてもらいたいな!ほら、クッキーはいかがかな?小鳥ちゃん」
セルバンテスがクッキーを摘み上げ、傍らに立ったままのサニーの口元に差し出した。
何の疑いもなくサクリと口にして、サニーはにっこり笑う。
「とっても美味しい!」
ごめん遊ばせ、と言ってサニーがセルバンテスの手からクッキーを食べるのを、アルベルトは目の端で、樊瑞はあからさまに、何とも言えない顔で眺めていた。
「ああ~!!もう!かわいいなぁ!!!」
むぎゅ!!とセルバンテスがサニーを抱き締める。
「セ、…セルバンテス…」
「ん~?」
貴様の場合は洒落にならんから抱き締めるのはやめろ、と言いたい樊瑞だったが、セルバンテスは優越感に浸った表情で彼を見返し黙らせる。
「お、おじ様、苦しいですわ!」
「ん?ああ、ごめんね!」
息苦しい抱擁から逃れるべく必死で声を上げたサニーを、セルバンテスは悪びれずにあっさり手放す。
大きく息をついてから自分の席に着き、サニーはティーカップを手にした。
「おじ様がたも召し上がってください、とってもおいしいですわ!」
にこにこと幸せそうに頬を染め、改めて自分でクッキーに手を伸ばす少女は愛らしかったが、テーブルについた”おじ様がた”は一向に目の前に広げられ並べられたクッキーその他諸々の甘い物に手を伸ばそうとはしなかった。
三人とも甘い物は嫌いではなかったが、死ぬほど好きなわけではない。
こうまで大量に目の前にすると、その匂いだけでもう食べる気は失せていた。
二つ目のクッキーに手を伸ばしたサニーが手を止め、赤くなる。
「…私だけ頂いていては、何だか恥ずかしいですわ」
サニーは困ったようにまず仏頂面を崩さない父を見、ただただ締まりのない顔で見つめてくるセルバンテスを見、最後に”そんなものか?”と不思議そうな樊瑞を見た。
「樊瑞のおじ様、本当に美味しいんですのよ?」
クッキーをひとつ手にしたサニーは、すとんと椅子を降りて彼の傍に立つ。
「はい、どうぞ」
口元に差し出されたクッキーに、樊瑞はぎょっとした。
思わず身を引きかけて、いやいや後見人としても子供への態度としてもそれはまずいだろうと、ギクシャクと体を強張らせる。
ギギ、と音を立てそうな動きでサニーを見、樊瑞は笑って見せた。
「ああ、ありがとうサニー」
クッキーを手で受け取ろうとすると、セルバンテスの声が飛んでくる。
「アーンに決まってるだろう、混世魔王樊瑞殿。ねっ、サニー」
「え、あの…、…すみませんおじ様。私、子供のようなこと…」
しゅんとしかかるサニーに慌てて樊瑞が取りなす。
「ああいや!すまんすまん。ほら、あ…、あーん」
頬を引きつらせた笑顔で口を開ける樊瑞に、サニーが笑った。
「はい、どうぞ」
小さな手の小さな指から、小さなクッキーをついばむ。
指まで食ってしまいそうで危ない、と樊瑞は思った。
「私も食べさせてほしいなぁ」
「もちろんですわ」
つまらなそうに言うセルバンテスにサニーはにっこりと頷く。
再び顔を緩ませたセルバンテスは、仏頂面を通り越して眉間のあたりに苛立ちを漂わせ始めたアルベルトをちらりと見、にやりと笑った。
「我が盟友殿も、サニーに食べさせてほしいってさ!」



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