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「さあ、サニー。全部君にあげよう。まずはどれがいいかな?」
邪気は無いのだろうが、染み付いてしまったそれが滲み出る満面の笑顔でセルバンテスが言う。
約束通り、眩惑のセルバンテスは上等の甘いお菓子をサニーへの欧州土産に買ってきた。
チョコレート、クッキー、砂糖漬けの薔薇、ケーキ、タルト。
要するに、山ほど。
あさっての方向を見たままのアルベルトの口からは溜息のように紫煙が吐き出された。
大理石のバルコニーにしつらえられたテーブルには白と緑のテーブルクロスがかけられ、大輪の紅薔薇が白い花瓶に生けられている。
その花瓶を取り囲むように、紅茶の注がれたマイセンのティーカップは4つ置かれていた。
そして、甘い物の山。
「まぁ、こんなに?ありがとうございます、セルバンテスのおじ様!」
お菓子の家が目の前に現れたかのような心地でサニーはセルバンテスに抱きついた。椅子へ座っていてもまだ少し背伸びしないと届かない彼の首へ抱きつき、その頬へ感謝のキスを送る。
他愛ない言葉に、これほど沢山の”甘さ”で返してくれる人を他には知らない、とサニーは思う。
「私だけではとても食べ切れませんわ!」
「ふふっ、サニーが一人で全部食べたら、ちょっとおデブちゃんになってしまうね。でも抱っこしたらきっとフカフカして気持ちいいよ!」
「もう…、私、ぬいぐるみではありませんことよ?」
目つきだけはそのままだが、緩み切ったセルバンテスの口元から出てくる茶化す言葉すらも甘い。
「…セルバンテス、馬鹿な事を言うでない!」
サニーとセルバンテスを見、何も言う気配のないアルベルトを見、仕方なくといった風情の渋い顔で樊瑞が口を開いた。
「育ち盛りの子供に甘い物を大量に与えては体に良くない。肥満体質になってしまうぞ!」
後見人になってからというもの、彼は古今東西の育児書を密かに読み漁っていた。無論、アテにしてはいなかったが、知らないよりはマシだと思ってのことだ。
「子供の頃は甘い物を節制したほうが良いのだぞ、サニー」
「まぁ、怖い!気をつけますわ」
言葉少なに本当の事を教えてくれるのはたいていが樊瑞だった。
樊瑞の真剣な声音にサニーは少しずつ食べようと心に誓う。
「私だけで食べてはもったいないですから、後でエージェントの皆さんにもお裾分けをしてもよろしいでしょうか、セルバンテスのおじ様」
「父親とは違って優しい子だね!これはサニーにあげたんだから、君の好きにおし」
にやりと笑うセルバンテスが、ちらりと目だけでアルベルトを見やる。
サニーも仏頂面の父親を見、ほんの少し困ったように笑った。
返事はしてくれても、声をかけてはくれない。
いつでもしらんぷりなのに、いつでも存在を感じるなんて不思議だわ、とサニーは思う。
『奴の精一杯なのだ、わかってやってくれ』
とは樊瑞の言葉であり、
『君の父上はね、自分に正直すぎて不器用なんだよ』
とはセルバンテスの言葉だった。
よくわからないけれど、とっても遠回しに気にかけては下さってるのだわ、とサニーは思うことにしている。
「だが、その前にぜひ君に食べてもらいたいな!ほら、クッキーはいかがかな?小鳥ちゃん」
セルバンテスがクッキーを摘み上げ、傍らに立ったままのサニーの口元に差し出した。
何の疑いもなくサクリと口にして、サニーはにっこり笑う。
「とっても美味しい!」
ごめん遊ばせ、と言ってサニーがセルバンテスの手からクッキーを食べるのを、アルベルトは目の端で、樊瑞はあからさまに、何とも言えない顔で眺めていた。
「ああ~!!もう!かわいいなぁ!!!」
むぎゅ!!とセルバンテスがサニーを抱き締める。
「セ、…セルバンテス…」
「ん~?」
貴様の場合は洒落にならんから抱き締めるのはやめろ、と言いたい樊瑞だったが、セルバンテスは優越感に浸った表情で彼を見返し黙らせる。
「お、おじ様、苦しいですわ!」
「ん?ああ、ごめんね!」
息苦しい抱擁から逃れるべく必死で声を上げたサニーを、セルバンテスは悪びれずにあっさり手放す。
大きく息をついてから自分の席に着き、サニーはティーカップを手にした。
「おじ様がたも召し上がってください、とってもおいしいですわ!」
にこにこと幸せそうに頬を染め、改めて自分でクッキーに手を伸ばす少女は愛らしかったが、テーブルについた”おじ様がた”は一向に目の前に広げられ並べられたクッキーその他諸々の甘い物に手を伸ばそうとはしなかった。
三人とも甘い物は嫌いではなかったが、死ぬほど好きなわけではない。
こうまで大量に目の前にすると、その匂いだけでもう食べる気は失せていた。
二つ目のクッキーに手を伸ばしたサニーが手を止め、赤くなる。
「…私だけ頂いていては、何だか恥ずかしいですわ」
サニーは困ったようにまず仏頂面を崩さない父を見、ただただ締まりのない顔で見つめてくるセルバンテスを見、最後に”そんなものか?”と不思議そうな樊瑞を見た。
「樊瑞のおじ様、本当に美味しいんですのよ?」
クッキーをひとつ手にしたサニーは、すとんと椅子を降りて彼の傍に立つ。
「はい、どうぞ」
口元に差し出されたクッキーに、樊瑞はぎょっとした。
思わず身を引きかけて、いやいや後見人としても子供への態度としてもそれはまずいだろうと、ギクシャクと体を強張らせる。
ギギ、と音を立てそうな動きでサニーを見、樊瑞は笑って見せた。
「ああ、ありがとうサニー」
クッキーを手で受け取ろうとすると、セルバンテスの声が飛んでくる。
「アーンに決まってるだろう、混世魔王樊瑞殿。ねっ、サニー」
「え、あの…、…すみませんおじ様。私、子供のようなこと…」
しゅんとしかかるサニーに慌てて樊瑞が取りなす。
「ああいや!すまんすまん。ほら、あ…、あーん」
頬を引きつらせた笑顔で口を開ける樊瑞に、サニーが笑った。
「はい、どうぞ」
小さな手の小さな指から、小さなクッキーをついばむ。
指まで食ってしまいそうで危ない、と樊瑞は思った。
「私も食べさせてほしいなぁ」
「もちろんですわ」
つまらなそうに言うセルバンテスにサニーはにっこりと頷く。
再び顔を緩ませたセルバンテスは、仏頂面を通り越して眉間のあたりに苛立ちを漂わせ始めたアルベルトをちらりと見、にやりと笑った。
「我が盟友殿も、サニーに食べさせてほしいってさ!」



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