家にはおじさんに会いに本当にいろんな人が来る。
“俺は東城会とは縁を切ったんだ。あの世界から足を洗ったからな”
って事ある度に言ってるけど、それを知ってても前の仕事の人達が時々やってくる。
でもおじさんは“来ないでくれ”とか言わないで、来た人は喜んで迎えてる。
やっぱりおじさんも知った人が来ると嬉しいみたい。
でもこの間、来た人にむかって、おじさんがすごく怒った事があったの。
その人が来たのは日曜日だったと思う。
玄関のチャイムが鳴ったから、いつもみたいに私が玄関まで出て行こうとしたの。
立ち上がって玄関にむかって歩き始めたらドアを開ける前に、来た人の声が聞こえてきた。
“き~りゅ~ちゃ~ん”
私は誰の声か分からなかった。どこかで聞いた事があるかもと思ったけど…
そしたら声が聞こえてすぐにおじさんが、“遥、ドアを開けるなっ!”って私を止めたの。
私は理由が分からなくて、廊下のその場に止まる事しか出来なかった。
するとおじさんが早足でドスドスって玄関まで歩いてきた。
丁度その時、また外から声が聞こえてきた。
“きりゅうちゃ~ん、遊ぼうや~”
分かった。
あのバッティングセンターの時の変なおじさんだ。確か…真島さん、だったはず。
“真島! お前どうしてここに来た!”
“やっぱりおったんや~ なんか桐生ちゃんの匂いがしたから今日は留守やのうておるって思っとったんや~”
閉まったドア越しにおじさん達は遣り取りしてる。そんな事ならドアを開ければいいのにと思ったけど。
“あんたがここに来る用事なんて無いはずだ!”
“まあそんな冷たい事言わんと。ワシは桐生ちゃんが元気にしとるか会いたくて来ただけやのに…”
“この通り元気だから分かったんなら帰ってくれ”
おじさんが真剣に怒ってるのを久しぶりに見た。
“爆弾処理名人であり、真島建設の社長さんでもあるこのワシが、自ら遊びに来たったっていうのに冷たいなぁ”
“…あの時の事は感謝してる。だが、あんたと関わる事はもうないはずだ”
“ワシは桐生ちゃんとケリつけとうてたまらんのやけどなぁ”
“ケリは二回、いや、もう三回もつけただろ”
おじさんはだんだんあきれたのか、ため息をついてる。
“兄さん、大体アンタここに来てどうしようって言うんだ”
“桐生ちゃんがワシの事、兄さんって呼んでくれるの久しぶりやなぁ。嬉しいわぁ”
真島さんはおじさんの言う事には関係なく喋ってる。おじさんはまたため息をついた。
“真島、帰ってくれ”
“いやや。桐生ちゃんの顔見るまで帰らへん!”
真島さんは怒ったのか少し大きな声で言ってきた。
“…頼む。大声出されると近所迷惑なんだよ。帰ってくれ”
おじさんのその言葉を聞いた真島さんは一瞬黙っちゃった。そしてなんか思いついたように言った。
“そうか…近所迷惑か…”
そう言ったから諦めて帰るのかと思ったら、
“ご近所のみなさーん! ここに住んでる桐生ちゃんは、なんと、なんと、泣く子も黙る、とーじょーかいの四代…”
って大声で叫び出したから、おじさんが慌ててドアを開けて、真島さんの口を塞いだ。
“真島!”
そしたら真島さんの目はなぜかにこにこしてた。
“ようやく開けてくれたなぁ。ほな、お邪魔するで”
おじさんはしまったっていう顔をして、うな垂れてた。
“嬢ちゃん、久しぶりやなぁ。見ぃへん間にまたべっぴんさんになったんやないか?”
私を見てにこりとした真島さんが言ってきた。
“遥に余計なちょっかい出すんじゃねえ!”
“おおっと、桐生ちゃん、おっかない事言いなや。 まあこないな可愛い娘がおったらそりゃあ悪い虫がつかへんか心配になるのは分かるけどなぁ”
“うるさい!”
“まあそんなかっかかっかせんと、大声出したら近所迷惑なるやろ、なあ遥ちゃん?”
真島さんは私の頭をポンとしながらにかっと笑った。
“おじさん、怒りすぎだよ…”
“遥、お前、こいつの味方するのか? お前を誘拐した奴なんだぞ”
味方ってわけじゃないけど、おじさんが怒ってる姿を見るのはなんだかいやだったんだもん。だから、
“せっかくここまで来てくれたんだから、お茶でもどうですか?”
って真島さんに言った。
“遥…”
落胆するおじさんとは対照的に真島さんの目が嬉しそうになってた。
“お嬢ちゃんはホンマに天使やなぁ。優しゅうて涙が出る。せや、嬢ちゃん、こんな怒ってばっかりの桐生ちゃんのとこやのうて、ワシのとこに娘として来んか? どや?”
“真島!”
“おー怖っ! 嬢ちゃんの事が好きで好きで仕方ない桐生ちゃんをホンマに怒らしてもうたわ… そんな怒らんでも、嬢ちゃんは桐生ちゃんのもんやって分かっとるがな…”
おじさんは真島さんに何か言いたくて仕方なさそうだけど、ぐっと堪えてた。
結局、おじさんもなんとか許してくれて、真島さんはお茶を飲んでいったの。
でもおじさんは真島さんと全然話さなくて、真島さんが私と話してばっかりだった。
まだおじさん怒ってたみたい… 真島さん、悪い人じゃないと思うのにな。
おじさんが洗面所に立った間、真島さんと私と二人っきりで話す時間があったの。
“嬢ちゃん、桐生ちゃんに大事にされとるみたいでよかったなぁ。ワシは安心したわ。あの桐生ちゃんが子ども育てとるなんてあり得へんと思うとったけどな”
お茶をすすりながら真島さんは真面目な顔をして言った。
“真島さんは心配して見に来てくれたの?”
“ホンマはなぁ、もっと早うに来たかったんやけど、ワシも組辞めたり、社長したりして忙しゅうてなぁ”
“ふうん…そうなんだ…”
“社長の椅子も楽やないで…”
“そっか…”
“せや、嬢ちゃん、あの賽の河原の地下は来たことあるやろ? 今はビルになっとるけどな、そこの地下にワシの社長室があるからワシは大体あっこにおるで、一回遊びに来たらええ”
“あの大きな水槽もまだあるの?”
“せや。最近サメもウミヘビも買うたし、そりゃあ魚がうようよしとる。そこらの水族館顔負けへんくらいにな。見に来たら楽しいで”
サメとウミヘビはちょっと怖いよ。
でも最後に、“桐生ちゃんには内緒やで”って真島さんとメールアドレスを交換したの。
なんか、私の携帯には同級生より錦山さんとか大吾さんとかおじさんのお友達の連絡先が増えていってる気がする。
真島さんは最後に、
“嬢ちゃん、桐生ちゃんをほかの女に取られたらあかんで~ しっかり放さんと一緒におりや~”
って言って帰った。なにが言いたかったんだろう。
最初に会った時から不思議な人だなぁ。
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春休み。
前から待ち遠しかった事。
そう、大阪に遊びに行けるんだ。
一日お泊りもするから荷物の準備もしてたんだけど、その時から楽しくてわくわくしてた。
おじさんは相変わらず、‘準備なんて直前でいい’とか言って全然用意しようとしないの。
引越しの時も本当に直前まで何もしてなかったから、当日大変だった事を思い出してほしかったけど無理みたい…
出発のその日。
新幹線の時間が迫ってるのにおじさんはまだ顔を洗ったりしてる。
荷物をいれるかばんもまだ空っぽ。
‘おじさん、もう行くよー’
‘あぁ’
おじさんは私が急かしても何を言っても‘あぁ’しか言わないから、
‘もう! 私が準備する!’
って怒っちゃった。
ごめんなさい。あとから考えたらちょっと言い過ぎたかも。
せっかくの楽しい旅行なのに、最初から私が怒ったりして…
でもね、本当に時間がなかったから、おじさんの着替えとかを私が急いでかばんに詰め込んだ。
それで結局なんとか間に合ったんだけど、薫さんへのお土産を買う時間がなかった。駅で買おうと思ってたのに。
おじさんは、‘今更、土産なんていらないだろう?’って言ったけど、やっぱり買ったほうがよかったよ。
買えなかったのはおじさんのせいだからね。そう思ったらまたちょっと怒っちゃった。
でも席について、ようやくほっとした。
新幹線が動き出してしばらくするとお弁当を売りに来たから、おいしそうなのを二つ、違う種類を買った。
私はまだちょっと怒ってたから、黙って食べてたんだけど、おじさんが
‘遥、これ食うか?’
って言ったから、おじさんとおかずの交換をしながら食べたんだ。
そしたらそのうちなんか怒ってるのが馬鹿らしくなって、おじさんと仲直りできた。
かえっこしたお弁当で楽しくお昼を食べれたからかなぁ。
途中、‘遥、外を見てみろ’っておじさんが急に言ったの。
見たらおじさんが指してる所に綺麗な大きな山が見えた。
‘わーすごいキレイ’
‘あれが富士山だ’
そっか。テレビでは見た事があったけどこんなに近くから見るのは初めてだ。
おじさんが教えてくれたおかげで、ちゃんと綺麗に見えたから嬉しかった。
着いた大阪には薫さんが来てくれてるはずなんだけど…
‘一馬、遥ちゃん’
改札を出てキョロキョロしてたら薫さんの声がした。
‘薫さん’
私が手を振ったら、薫さんの後ろからひょいって見た事のある人が出てきた。
‘四代目はん、お久しゅう’
‘…龍司’
おじさんも私もものすごく驚いた。
‘どうしても私一人で来させてくれなくって…’
薫さんも困った顔をしてた。
‘東城会四代目がワシのシマ、大阪に来はるっていうのに、そのお方に何かあったらワシの顔に傷がつくさかい’
‘俺は東城会は辞めたんだ。だからお前は全く関係ないだろう? 大体お前がいたら逆に目立って仕方ない!’
おじさんは怒ってた。
確かに龍司さんは前に会った時と違って、あの目立つふわふわのコートは着てなくて、白いシャツに濃い色のカーディガン姿だったけど、金髪だし、とにかく背が高いからどこに居ても分かる。
‘桐生はん、大阪では目立ったモン勝ちでっせ。それに目立っておったら逆に狙われへんのと違います?’
‘馬鹿いえ。お前、帰れ!’
‘まあ、そうかたい事言わんと…なあ薫?’
言われた薫さんも困ってた。
‘お兄ちゃんは帰ったらどう? 退院したばっかりやし…ね?’
龍司さんはおじさんよりずっと重症だったから薫さんの心配も分かる。ついこの間まで入院してたって薫さんが前に言ってたし…
‘薫、お前は黙ってくれや’
龍司さんは薫さんの方を向いてちょっと怒ってた。
‘桐生はん、ワシは見てのとおり体はもうピンピンしとる。まあ、あんたに負けた心の傷はちっとは残っとるけどな、それもまた勝負したら次はワシが勝つに決まっとるから心配いらんで’
‘龍司、お前なぁ…’
‘それにワシの大事な妹の事が心配やさかい、一人で危ないとこ歩かせませんわ。どっちかいうたらアンタより妹の方が心配なんや。それも子ども連れとったら、いざいう時に動きがとれへんのやないですか?’
龍司さんの言う事も分かる気がした。私が誘拐されたせいでおじさんは何度も困ったはずだもん。
でも、だからって何も龍司さんが一緒についてこなくてもいい気もする。
だから私はこう考えたの。
‘ねえ、龍司さん。おじさんと薫さんは久しぶりに会えたんだから、二人でゆっくりお話したいと思うんだ。だから龍司さん、私、龍司さんと一緒に遊びに行きたいんだけど駄目?’
私がそう言ったら、龍司さんもおじさんも目を丸くして驚いてた。
‘遥、お前何言ってんだ!’
おじさんは私の方に詰め寄ってきた。薫さんも、
‘遥ちゃん、そんな気つかわんでもええんよ。四人で一緒に遊びに行ったらいいんやから。ね、一馬?’
って言ったんだけど、私はやっぱり薫さんとおじさんが折角会えたんだから二人で遊べばいいのにと思ったから、
‘龍司さん、一緒に行こう!’
って龍司さんの手を引っ張って、その場から歩いてどこでもいいからどこかに行こうとした。
‘お嬢ちゃん、あんなぁ…どうするつもりなんや?’
龍司さんが困った顔で聞いてきた。
‘龍司さん、いいから早く、こっちこっち’
私は龍司さんの手を握って無理矢理引っ張って行った。
そしたらおじさんと薫さんがついてこようとしたから、
‘おじさんはついてきちゃ駄目! 薫さんと二人で遊んできて’
って言ったら、おじさんも困った顔をしてそこに立ち止まった。
‘龍司さん、行くよ’
駅の外にまで出た私は、強引に龍司さんを止まってたタクシーに引っ張り込んだ。
タクシーのドアが閉まって動き出してから、私もしかしてすごい事したのかもって思い始めてきた。
龍司さんもため息ついてるし、なんだか悪い気もしてきた。
‘嬢ちゃん、あんた強引やな’
確かにそうかもしれない。でもね…
‘私、龍司さんとデートしたかったんだ。それじゃあ駄目?’
そう思ったのは半分本当だよ。だって前に私を助けてくれたし。
‘駄目な事ないけどな。まあ困ったもんやなぁ’
‘龍司さんを困らすような事は絶対しないから。ね、お願い、どっか連れてって’
龍司さんは珍しく困った顔をしてたけど、何かを思いついたように笑って私を見つめながらこう言ってくれた。
‘ほな、どっか連れてこか’
‘ホント?’
‘近江六代目のワシがなんやお嬢ちゃんに丸め込まれた気ぃするけど、しゃないわ。桐生はんにはちゃんと行き先連絡しときや’
‘ありがとう龍司さん!’
龍司さんが連れてってくれたのは新星町だった。それとも遊園地がええかって聞かれたけど龍司さんの好きな所でいいって言ったんだ。
‘ワシのホームグラウンドっちゅう所やな’
‘ホームグラウンド?’
‘小さい時からここでよう遊んだって事や’
‘…そっか。私もここに来た事あるよ’
‘さよか。ほな嬢ちゃんが行きたいとこあるんやったら、そこに行こか’
私はそう言われてしばらく考えた。
どこがいいって言えるほどは来てないし…
‘あっ、そうだ!’
‘なんや、急に思い出したみたいに…’
居るかどうかわかんないけど…
‘あのね、私ね、会いたい人が居るの…’
龍司さんは、知り合いでもおるんかい?って不思議そうに聞いてきたけど、とにかく私は龍司さんに行きたい所を説明して歩き始めた。
途中の道すがら、大勢のおじさんが将棋したりしてたんだけど、その人達から龍司さんは何度も声を掛けられてたよ。
‘龍司はん、お久しゅう。元気にしとったかいなぁ’ ‘たまにはここにも顔を見せなはれや。寂しいやないかい’
‘龍司、あんた生きとったんかいな’
次から次へと龍司さんは話しかけられてた。だから龍司さんは道の途中で立ち止まった。
‘おっさんらも元気にしとったんか?’
‘わしらこの通り、暇で暇で暇すぎて元気にしとるで。ところでその嬢ちゃんはあんたのコレか?’
おじさんが小指を立てて聞いてたんだけど私は意味が分からなかった。
‘アホいえ! その口叩ききるぞ’
‘ほな、隠し子か? それともいつの間にか結婚しとったんか?’
‘うっさいわ。おっさん黙っとけや’
龍司さんはあきれながら怒ってるけど、なんだかみんなと話してて楽しそうだ。今まで見た事がない顔をしてる。
‘お嬢ちゃん、あんた可愛らしいなぁ。そうや、これ食べるか?’
おじさんの一人から小さいみかんを差し出された。
ありがとうって受け取ろうと思ったら、龍司さんに止められた。
‘大事な預かりもんにそないな汚いもんやるなや’
‘汚くないで。ワシの懐にずうっと大事に入れとったんや。それのどこが汚いねん!’
龍司さんはため息をついた。
‘まあ、そんな大事なミカンやったらおっさん、あんたが食べればええやないか。大事に自分でとっとき’
龍司さんはそのおじさんのミカンを奪って無理矢理そのおじさんの胸ポケットにまた入れてしまった。
もう一人いたおじさんが龍司さんにこう言った。
‘なんや、ホンマえらい大事にしとる娘さんなんやなぁ。預かりもんって言うたけど、龍司はん、あんたホンマは自分のもんにしたいと思てるのやないか?’
‘…せやなぁ…そうかもしれへんなぁ…ワシ一人のもんになったらええかもなぁ…’
えー
龍司さんが真剣に考えてると思ったらいきなりそんな事を言うもんだからびっくりして、私は龍司さんの方を向いてじっと見つめた。そしたら龍司さんはふっと笑ってこう言った。
‘冗談やって。気にせんでええ’
気にするよー
龍司さんは私を子どもだと思って、きっとからかってるんだ。
‘子どもだからってからかわないで、龍司さん’
そしたら龍司さんはすごく真面目な顔をして、しゃがんで私の頭に手をポンって置いてきた。
‘からかうつもりはないで。冗談半分真面目半分や’
もう、どっちか分かんないよー やっぱりからかわれてる。
私はほっぺたをふくらまして、
‘もう龍司さんなんて嫌い!’
って言ったの。そしたらまわりのおじさん達が、
‘あーあー 龍司はんがふられたー’
ってからかうもんだから余計に恥ずかしかった。みんなしてからかわないでよー
でもその後もおじさん達と龍司さんが楽しそうにお話しして、私もみんなに笑わされて、なんだか最後にはおじさん達に、
‘嬢ちゃん、また来たらここに寄ってきや’
って言われちゃった。
最初はちょっと怖いと思ったおじさん達はすごくいい人達だった。
そして、シロお婆ちゃんを探しにいつもの駐車場に龍司さんと行ったの。
前にお菓子とかもらってとっても優しくしてもらったから、会いたかったんだ。
でも探したけどいなかった。残念。
また次に来た時は会えたらいいなぁ。
龍司さんも、
‘おらんかったらしゃあないなぁ。また次も連れてきたるわ’
って言ってくれた。
‘ほなメインイベントに行こか’
龍司さんがそう言って連れてきたのは通天閣。
‘ここより高い建モンはいくらでもあるけどな、やっぱりこっから見れる景色はええで’
エレベーターを上がって、展望室にあった望遠鏡で町を覗いて見たの。
‘きれいやろ?’
龍司さんが聞いてきたんだけど、私はおじさんが今どこにいるのかがちょっと気になってた。
薫さんと仲良くしてればいいけどな…
そんな事を考えてたら、ガシャンっていって望遠鏡の時間切れが来た。
通天閣の帰り、龍司さんに売店で不思議な顔をしたお人形を買ってもらった。
‘これ大事に持っときや。ビリケンさんいうて幸せの神さんや。これに嬢ちゃんの好きな事願ったらええ’
私の好きな事?
なんだろう。
‘…うーん…じゃあねー、 みんなが仲良く出来ますように!ってお願いする’
‘なんや、その世界平和願うみたいな高尚な願い事は… もっと子どもらしゅうに自分の事お願いしいや’
自分の願い事? うーん、そう言われても困るな。
‘あっ、分かった。じゃあ、また龍司さんと大阪で遊べますように!’
龍司さんはあきれてしまったみたいに私の顔をまじまじと見た。
‘…ホンマに欲の無い子やなぁ… そんなんやから桐生はんも惚れたんやろうな。ワシは欲の塊みたいなもんやからもっと凄い事を願い事にするけどなぁ’
‘えっ、何?’
‘嬢ちゃんを桐生はんから奪い取れますように!てな具合でな’
驚いて何も言えなかった。
私が目を丸くして驚いてたら龍司さんが豪快に笑った。
‘冗談やで冗談!’
龍司さん、さっきも冗談って言ってたけど、本当に冗談か何なのか分かんないからひどい。驚かせないでよー
私がまたほっぺたを膨らまして怒ったら、龍司さんが笑いながら、
‘フグがおるで、フグが’
ってほっぺたをツンツンって指で突付いてきたの。
‘もう、ホントに龍司さんなんか嫌い!’
早足で帰ろうとしたら、腕をつかまれて、
‘まあ待ちや。そんな自分一人急がんでも、そろそろワシが桐生はんの所に送り届けたるさかいにな’
って言われた。確かに改めて空を見たら、もう夕方になってた。そんなに時間が経ったなんて思ってもみなかった。
‘堂島の龍から大事なお姫さんとったらあかんからな… ちゃんと送ったるから’
そう言われて、龍司さんとお別れするのがちょっと寂しくなった。なんでだろう。
龍司さんと一緒にいたら時間が短く感じたみたい。
そして龍司さんはおじさんと連絡をとってくれて、待ち合わせ場所の駅まで送ってくれた。
おじさんはとっても怒ってた。
‘遥、二度とあんな勝手な事するんじゃない’
でもね、私… おじさんがちょっとでも楽しく過ごせたらいいなぁと思ってやった事なの。
こんなに怒られるとは思ってなかったんだ。
‘…ごめんなさい’
私は素直に謝った。
結局次の日は、薫さんがお仕事だったから、おじさんと二人で大阪の町を色々歩いたの。
途中で道に迷っておじさんと地図の睨め合いっこしたり、お好み焼きをふうふういいながら食べたり、お城の近くに咲いてる桜をきれいなだなぁって見たり、水上バスにゆらゆら揺られたり、本当に色々してとっても楽しかったよ。今日、帰るのがもったいないくらいに…
またすぐ大阪に来れたらいいなぁ。
帰りの新幹線の中で、手に持ったビリケンさんを見ながら私、お願い事したの。
これからはおじさんと喧嘩せずに、今日みたいにずっとずっと仲良くできますように…って。
これって自分のお願い事だよね?
春が来た。
って言いたいけど、まだ寒い。
寒いせいか学校でもインフルエンザが流行って学級閉鎖になっちゃった。
でも私は全然元気だからおうちでお留守番をしてたの。お昼間にテレビを見たりしてたら電話が掛かってきた。
‘もしもし’
‘遥ちゃんじゃないか。今日は学校は休みかい?’
弥生さんだった。
おじさんがもしかしたら居るかもと思って電話してきたみたい。
私は学級閉鎖の事を話した。
‘そうかい… 実はうちの大吾も珍しく風邪なんか引いちゃって困ってるんだよ全く… なんとかは風邪引かないっていうのにねぇ’
‘そうなんだ…’
なんとかは…っていう所はどんな意味か分からなかったけど弥生さんの声は本当に困ってるみたいだった。
‘桐生は留守かい?’
おじさんは今日はお仕事だから居ませんって言ったら、
‘…そうかい。ちょっと聞きたい事があっただけだからかまわないよ。じゃあまた掛けるからね’
弥生さんが電話を切りそうになったけど、私は急いでるのならおじさんの携帯電話番号を教えましょうかって言ったの。そしたら、じゃあお願いするよって言われたから教えてあげた。
しばらくしてもう一回電話が鳴った。
‘はい、もしもし桐生です’
‘遥、ちょっと頼みがあるんだが…’
おじさんからだった。
弥生さんから頼まれ事で家から届け物をしなきゃいけないんだって。
おじさんに言われて探したものは何なのか分からなかったけど、押入れの中に小さな箱が入ってて、それを持って弥生さん家に行ってくれって。
なんだろう。でも大事な物みたいだから落とさないように持って行った。
お休み中はあんまりあちこちに行っちゃいけないって学校の先生に言われてたけど仕方ないよね。
ちゃんと戸締りをして、弥生さんの所へ向かった。
おじさんはお前一人で大丈夫かって心配してたけど弥生さんの家は前に何回かおじさんと行った事があったし、バスに乗ったら乗り換えしなくても着くし、それに近づいたら大きなおうちが見えるから迷わないもん。
30分くらいバスに乗って、ちゃんと弥生さん家につけたよ。
チャイムを鳴らしたら弥生さん本人が出てきた。
‘遥ちゃん…! あんた一人で来たのかい? そんなもの電話してくれりゃあ誰かに取りに行かせたのに、まあ… 桐生も桐生だねえ。子どもにこんな事をさせるなんて全く’
弥生さんにすごく驚いた顔をされた。
おじさんに頼まれた物を早速渡して帰ろうとしたら、
‘せっかく来たんだから上がっていきなさい’
って誘われた。
そう言われてお部屋に案内されたんだけど…
‘そこのソファに座ってちょっと待ってなさい。丁度ケーキがあるから持ってくるからね’
なんだか弥生さんに言われると断りきれない気がする。早く帰った方がいいとは思ってたんだけど、結局お茶をご馳走になった。
‘ゆっくりしていきな。帰りはうちのモンに送らせるからね。桐生の大事な一人娘に何かあったら私の面目丸潰れだよ’
余計にすぐ帰り辛くなってきた。弥生さんがいれてくれた紅茶は温かくて美味しかったんだけど、飲みながら私は落ち着かなかった。
途中お手洗いに立った時、長い廊下を一人で歩いてたんだけど、大吾お兄ちゃんの声がどこかから聞こえてきた。
‘…あぁ。そうだ’
大吾お兄ちゃんのお部屋のドアがちょっと開いてたから聞こえたみたい。なんか電話でお話し中なのかな。
‘すまない柏木さん。よくなったらすぐに行くから頼む…’
ドアの隙間からこっそりのぞいてみたら、机の前に座ってた大吾お兄ちゃんは電話を切って頭を抱えてしんどそうにしてた。
だから思い切って私はドアを開けたの。
‘こんにちは’
‘…お前、何でここに居るんだ?’
大吾お兄ちゃんはものすごくびっくりしてた。
‘大吾お兄ちゃんが具合悪いって聞いたからお見舞いに来たの’
‘嘘つけ’
嘘ってすぐにバレちゃった。でも半分は嘘じゃないよ。具合が悪いって聞いて大吾お兄ちゃんの事が気になってたんだもん。
私は弥生さんに届け物をしにきたのを話した。
‘あぁ、それな。おふくろ、どうでもいい事人に頼みやがって全く人使い荒いな…’
大吾さんは話すたびに本当に具合が悪そうに咳をしたり、頭が痛いのか顔をしかめたりしてた。
‘大吾お兄ちゃん大丈夫?’
‘…子どもがいっちょ前に大人の心配してんじゃねえよ’
おでこを指でぴんってはじかれた。痛いよー
大吾お兄ちゃんは私をよくこうやって子ども扱いする。
‘私はそんなに子どもじゃないよ’
そしたら大吾お兄ちゃんも反論してきた。
‘お前に前から言いたかったんだけど、俺の事お兄ちゃんだなんて呼ぶなよな。もういい大人なんだから恥ずかしい’
私はきょとんとした。そんな事を大吾お兄ちゃんが気にしてるなんて思いもしなかったから。
‘…えっと、じゃあ…大吾おじさん?’
‘馬鹿いえ。お前、子どもだからって調子乗るんじゃねえぞ。…大吾さん、くらいにしといてくれ’
‘わかった…大吾さん’
なんだか恥ずかしかった気がするけど、元気なさそうだった大吾さんが笑ったよ。
‘ほら。そろそろ帰らねえと風邪がうつるぞ’
大吾さんは私を手で追い払いながら言った。
‘じゃあ大吾さん、早く元気になってね’
‘…見舞いありがとよ’
ちょっと顔が元気そうになった大吾さんを見てよかったなと思った。
その日の夜、家でごはんを食べながらおじさんと話してたの。
‘遥、今日はすまなかったな’
‘ううん。わたし暇だったからいいよ’
それに大吾さんの具合が悪くてお見舞いしてきた話をした。
‘そうか…大吾は調子悪いのか’
‘とってもしんどそうだったよ’
‘あいつ、あんまり風邪引いたりしない奴なのになぁ…’
‘そうなんだ’
お仕事が大変そうだから余計に調子悪くなっちゃったんだよね。
‘遥、お前も風邪引くなよ’
‘うん、大丈夫’
3月なのにまだ寒いからおじさんの体が心配だなぁ。お仕事も忙しいみたいだし。
もしもおじさんが風邪を引いたらどうしよう…
‘おじさんも風邪引かないように気をつけてね。でもあのね…もしもおじさんが風邪引いたら私が一生懸命看病してあげるから…’
‘…あぁ、大丈夫だ。心配するな’
おじさんはにっこり笑って私の頭を撫でてくれた。
うん、でも本当におじさんの事が心配なんだ。
風邪を引かないように、早くあったかい春にならないかなぁ。
今週末、おじさんが退院するからお祝いをしなきゃと思った。その日は薫さんが丁度迎えにこれるからって決めた日なんだ。
お正月も結局お祝いしなかったから、何かお祝いしたいけど、どうしたらいいかが私には分からなかった。
誰かに相談しようと思ったの。でも薫さんは大阪に帰っちゃったし…
そうだ、弥生さんがいる。
こういうお祝い事は女の人に聞くのがいいと思ったから弥生さんに電話で相談した。
弥生さんはおじさんが入院中に何度もお見舞いに来てくれて、私もいろいろお話できて仲良くなったの。
「弥生さん、こんにちは」
「あら、遥ちゃん。久しぶりじゃないか… 今日はどうしたんだい? うちの大吾がまた何かしでかしたのかい?」
弥生さんがこう言うのには訳がある。
この間、大吾お兄ちゃんがお見舞いに来た時にちょっと面白い事があったの。
大吾お兄ちゃんがお見舞いに来る事自体珍しくて、この間初めて来たんだけど、でもお昼間で私も学校だったし、誰もおじさんの部屋にはいなかった。
おじさんは元気になってたんだけど、丁度お昼ご飯の後で眠たくなって寝てたんだって。
そんな時に大吾お兄ちゃんが一人でこっそり来たものだから、誰も気がつかなかったんだ。
で、お兄ちゃんもおじさんを起こせばいいのに、あとから聞いた話なんだけど、
「だって、桐生さんを起こすなんて俺には出来なかった」
なんて思って、結局話もせずにそっと帰っちゃったんだって。
それだけならよかったんだけど、そのあと病室はちょっとした騒ぎになっちゃったの。
なぜかっていうと、おじさんのお部屋に見慣れない箱がそのあとあったから。
一応包装はされてたんだけど、リボンもなくって何にも書いてない。
おじさんは寝てたから誰も来た覚えがないし誰が置いたか分からないって言うし、看護師さんも知らないって言うし、いくら一段落したからっておじさんはまだまだ狙われてる身だから、「…もしかしたら爆弾かもしれない」って騒ぎになったの。中からカチカチ音がしてたんだもん。
でも結局それは大吾お兄ちゃんのお見舞いの箱だって分かったんだけど、あとでいろいろ大変だったみたい。
お兄ちゃんは、「大吾、お前紛らわしい事するんじゃねえ!」っておじさんから言われたし、私がその話をうっかり弥生さんにもしたもんだから、弥生さんからも、「大吾、お前ってやつは本当に馬鹿だねぇ… なんで桐生に直接渡さないんだい!」って怒られたみたい。
中身は時計だったんだけど、それもみんなにさんざん言われてて、「趣味が悪い」「紛らわしすぎる」「見舞いに時計とか聞いた事ない」とか色々。
なんで時計なの?って私があとで聞いたんだけど、「だってな、丁度カッコいい時計見つけたからな… シルバーの細工んとこが凝ってんだよ。桐生さんに似合うと思ってな…」だって。
今となっては笑い話なんだけど…
その事を弥生さんは言ってるんだ。
「ううん、違うの。今日は弥生さんにお願いがあるんですけど…」
「おや、何だい私に頼み事なんて…」
結局、お祝いは弥生さんと相談して、お料理を持ってきてもらう事になったんだ。
「私にまかせときな。いつも頼んでるところにお重でも作るように言っておくからね」
私はそんなに豪華にしなくてもいいって言ったんだけど、
「あぁ、お金の事なら気にしなくていいよ。桐生は今回も東城会の為に命張ってくれたんだからね、それくらい私がしてやらないと。それだけしてもまだまだ足りないくらいだよ」
って、話をドンドン進めていっちゃった。
退院お祝い当日。
薫さんも家に来てくれた。
お料理は弥生さんが誰かに届けさせるよって言ってくれたから家で待ってたんだけど…
しばらく待ってたらピンポーンってチャイムがなった。
「ハーイ」
って玄関に出たら大吾お兄ちゃんが立ってたからびっくりした。
「ほら、持ってきたぞ」
お重の入った風呂敷をぐいと差し出されたんだけど、なんかちょっと不機嫌そう。
私が玄関からなかなか帰らないもんだから、おじさんが心配して玄関に覗きに来た。
「遥、どうしたんだ? …っておい、大吾…お前どうしてこんなところに…」
おじさんも大吾お兄ちゃんを見てすごく驚いてた。
「おふくろが、お前が直接行って来いってうるせえんだよ。俺、結構忙しいのに」
「そりゃあすまなかったなぁ。まあでも折角来たんだし、お前も上がって一杯飲んでけ」
おじさんはくすっと笑いながら大吾お兄ちゃんを誘った。
私も大吾お兄ちゃんは今までちょっとしか話した事がないけど一緒に話してて楽しいし、好きだからそうして欲しいなぁと思った。
大吾お兄ちゃんは忙しいって言ってなかなか上がろうとはしなかったけど、最後には諦めたのか家に上がってくれたの。
「ホント俺、すぐに本部に帰らなきゃならねえんだからな… それにオイッ! 四課の刑事さんもいるのかよ!」
ってぶつぶつ言ってたけど、おじさんに、
「まあ一杯だけならいいだろ?」
って言われてた。
薫さんと、大吾お兄ちゃん、おじさんと私の四人で囲む食卓はなんだか変な感じだったけどとっても楽しかったよ。
みんなでおいしいお料理を食べて、いろいろお話しして…
話はみんなが私の学校の様子を聞いたりして、どっちかっていったら私が話してばっかりだった。
でもやっぱりみんな大勢で楽しくお話するのって好き。いつまでもこうしてみんなでいたいなぁと思った。
しばらくして、大吾お兄ちゃんが、
「おい遥、今何時だ?」
って急に慌てたように私に聞いてきた。
「俺、そろそろ帰んなきゃヤバイかも…」
するとおじさんが自分の腕時計を見てお兄ちゃんに、
「9時前だ」
って教えてあげてたの。
そしたら大吾お兄ちゃんがおじさんの方を見て、
「それ…俺があげたやつ…」
って驚いた顔で腕時計を指さした。
「あぁ、この爆弾もどきか…」
おじさんが冗談半分で言ったら、お兄ちゃんはちょっと恥ずかしそうに下を向いてた。
「大吾… 大体見舞いに来てくれたんなら俺の事を起こしてくれてれば、あんな騒ぎにならなかったんだよ。なんで遠慮なんてしたんだ? お前らしくもない…」
すると大吾お兄ちゃんはこう言ったの。
「…俺が…俺がもっとしっかりしてたら桐生さんが怪我する事もなかっただろ… だから俺のせいでこんな風になっちまったんだと思ったら休んでるアンタを起こそうなんて気になれなかったんだよ」
「…そうか…」
おじさんがそう言うと大吾お兄ちゃんの肩をポンと叩いた。
「大吾、お前俺に遠慮なんてするな。俺とお前の仲だろう?」
「…わかったよ、桐生さん」
最後は二人で笑ってた。
大吾お兄ちゃんがやっぱり帰らなきゃって事で玄関までお見送りすることにしたの。
靴を履いてるお兄ちゃんに向かって、おじさんがまた来いよとか言うのかなと思ったら、
「しかし、お前も六代目らしく時計の一つくらい身につけとけよな」
ってなんかまたお兄ちゃんをからかってた。
「違う、今日はたまたま着けてないだけだって!」
からかわれたお兄ちゃんはちょっと必死になって言い返してた。
不思議。
大吾お兄ちゃんっておじさんの前だと子どもみたい。
でもお兄ちゃんもそうやっておじさんに色々言われても心からは怒ってなくて、逆に笑ったりしてなんだか嬉しそうにしてる気がする。
二人がとっても仲良しって事だよね。
「大吾、本当に遠慮するなよ。ここにもまた遊びにこればいい…」
「あぁ…」
色々二人は最後まで言い合ったりしながらだったんだけど、大吾お兄ちゃんはありがとなって言って帰っていった。
おじさんも楽しそうにしてたし、大吾お兄ちゃんがまたここに遊びに来てくれたら私も楽しいだろうなと思った。
神室町ヒルズで怪我をして入院してたおじさんはすごい勢いでよくなって、お医者さんもびっくりしてたくらいなの。
「それにしてもすごい体力ですね…」
そして主治医の先生がにっこり笑いながら私に向かってこう言ったの。
「それにお嬢ちゃんのお見舞いが毎日あったからかな? こんなかわいい娘さんの為なら早くよくならないとね」
おじさんの所に心配だから毎日行ってたの。それを褒めて言ってくれたみたいだけどちょっと恥ずかしかった。
でもおじさんも私の方を見てにこにこしてくれてた。
薫さんなんだけど、お仕事が忙しいからなかなか毎週は来られないの。でも来てくれた時にはおいしいお土産を一緒に食べるのが楽しみなんだ。
今日も来てくれるはずなんだけど…
「おはよう」
そう言って病室のドアを開けたのは薫さんだ。
「一馬、元気そうやね。遥ちゃんも元気やった?」
「うん」
「今日は豚まん持ってきたよ」
薫さんが渡してくれたお土産はまだすごくあたたかかった。新幹線に乗る直前に買って持ってきたんだって。
寒いからあったかいものがおいしいね。
「また大阪に行きたいなぁ…」
おじさんと豚まんを食べながら私がそう言ったら、薫さんが、
「せやね。一馬が退院したら大阪で遊ぼう。それええ案やね」
って言ってくれた。
すごい楽しみ。
そして三人でいろいろお話してたら、主治医の先生がまたやってきた。
「あぁ、三人お揃いですね。丁度よかった。桐生さん、今日の検査結果の事ですけど…」
先生が私の方を真剣に見てきた。なんだろう…って思ってたら、
「お嬢ちゃんにはちょっとびっくりする事かもしれないな…」
なんて真面目な顔をして言うの。いつもはにこにこしてる先生なのに。
なんだろう。検査結果が良くなかったのかな…
「桐生さん、明日にでも退院できますよ! 検査は100%良くなってます」
先生、驚かしすぎだよ! 悪くなってたらと思ってドキドキしたもの。
先生はにこにこして私の方を見てる。私をからかって楽しんでるのかなぁ?
でもね、先生は時々こっそりお菓子をくれたりするんだ。入院中に仲良くなったの。同じくらいの娘が居るんだって言ってた。
うん、そうだ、子どもだからって絶対からかわれてる。でも退院したら先生に会えなくなるのは寂しい気もする。
おじさんが元気のない時には、大丈夫だよって私を励ましたりしてくれてたから。それにおじさんがよくなったのも先生のおかげだ。
そう思ったから、
「先生ありがとう」
って言ったの。
そしたら先生がまたにこにこ笑ってくれた。おじさんも薫さんもみんな笑ってた。
こうやってみんなが心から笑えるほどおじさんがよくなったって事だよね。
とっても嬉しいな。
「それにしてもすごい体力ですね…」
そして主治医の先生がにっこり笑いながら私に向かってこう言ったの。
「それにお嬢ちゃんのお見舞いが毎日あったからかな? こんなかわいい娘さんの為なら早くよくならないとね」
おじさんの所に心配だから毎日行ってたの。それを褒めて言ってくれたみたいだけどちょっと恥ずかしかった。
でもおじさんも私の方を見てにこにこしてくれてた。
薫さんなんだけど、お仕事が忙しいからなかなか毎週は来られないの。でも来てくれた時にはおいしいお土産を一緒に食べるのが楽しみなんだ。
今日も来てくれるはずなんだけど…
「おはよう」
そう言って病室のドアを開けたのは薫さんだ。
「一馬、元気そうやね。遥ちゃんも元気やった?」
「うん」
「今日は豚まん持ってきたよ」
薫さんが渡してくれたお土産はまだすごくあたたかかった。新幹線に乗る直前に買って持ってきたんだって。
寒いからあったかいものがおいしいね。
「また大阪に行きたいなぁ…」
おじさんと豚まんを食べながら私がそう言ったら、薫さんが、
「せやね。一馬が退院したら大阪で遊ぼう。それええ案やね」
って言ってくれた。
すごい楽しみ。
そして三人でいろいろお話してたら、主治医の先生がまたやってきた。
「あぁ、三人お揃いですね。丁度よかった。桐生さん、今日の検査結果の事ですけど…」
先生が私の方を真剣に見てきた。なんだろう…って思ってたら、
「お嬢ちゃんにはちょっとびっくりする事かもしれないな…」
なんて真面目な顔をして言うの。いつもはにこにこしてる先生なのに。
なんだろう。検査結果が良くなかったのかな…
「桐生さん、明日にでも退院できますよ! 検査は100%良くなってます」
先生、驚かしすぎだよ! 悪くなってたらと思ってドキドキしたもの。
先生はにこにこして私の方を見てる。私をからかって楽しんでるのかなぁ?
でもね、先生は時々こっそりお菓子をくれたりするんだ。入院中に仲良くなったの。同じくらいの娘が居るんだって言ってた。
うん、そうだ、子どもだからって絶対からかわれてる。でも退院したら先生に会えなくなるのは寂しい気もする。
おじさんが元気のない時には、大丈夫だよって私を励ましたりしてくれてたから。それにおじさんがよくなったのも先生のおかげだ。
そう思ったから、
「先生ありがとう」
って言ったの。
そしたら先生がまたにこにこ笑ってくれた。おじさんも薫さんもみんな笑ってた。
こうやってみんなが心から笑えるほどおじさんがよくなったって事だよね。
とっても嬉しいな。