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策士と盤上の少女






『その男』が、組織において実権を握るまでの過程を知る者はいない。

ある日突然だったのだ、男が現れボスの名の下に組織の作戦の立案者となったのは。

まだ十傑集が本来の10名構成であり、カワラザキがリーダーを務めていた頃だ。


少年の面立ちを残した歳若い男だった。彼は笑みを浮かべながら完璧とも言える作戦で組織の拡大を躍進的に行った。組織が過去に無い最大規模となったその功績は大きい、ところが、代償もまたそれに比例して大きかった。組織が拡大するにしたがって、流れる血は敵味方関係なく、その量も際限が無くなっていったのだ。

それでも『全てはビッグ・ファイアのため』であり
狂信的な組織の根幹理念は揺らぐことは無かった。

一方で男へ注がれる視線は「疑惑」に満ちていた。真意は常に腹の中、不透明さを増す中前線で己の信念のもと命をかける者たちならば尚のこと。それに彼にかかれば誰であろうと『駒』扱い、同格者である十傑集たちは一様に男への反発を強めていった。

ある日、十傑集を含む同胞らが次々と命を落としていくのを見続けて、意を決したカワラザキがリーダーを自ら退いた。不透明な策を立てる男の動向の「監視」に徹するためであり、替わりに樊瑞が新たなリーダーに推された。新しい顔も多く加わり、人格者の樊瑞を中心とした十傑集はカワラザキの思惑通り少なからず結束を強めた。そして現在の残月が加わる以前の1名の空席を残した9名構成の十傑集になったのだった。


未だ渦巻く複雑な組織の内情

一向に見えない男の心中





そして今

『その男』の執務室に小さなサニーはいた。

中庭で人形相手にままごとをしていたら突然現れ、「話があります、付いて来なさい」と言われてそのまま従った結果だ。サニーは二体の人形を抱きしめてキョロキョロとその男、策士・孔明の執務室を見回した。重そうな木製のデスク、壁には書棚にびっしりと詰められた難しそうな本、毛足の長い絨毯はサニーの足元を隠すほど。

中でもサニーの目を引いたのが十傑集の執務室とは異なった天井だった。中央から放射線状に格子が伸びるドーム状になっており、色散りばめたステンドグラスがとある神話の終末劇を描いて(えがいて)いた。


「きれい・・・・・」


ぽっかりと口を開けたまま、輝く天井を眺めていたら

「そこにお座りなさい」

「あ・・・はい。こうめい様」

彼の通る声とともに何処からともなく現れたそれは、脚のついていない宙に浮いた円盤状の「椅子」。サニーの腰に添えられる位置で止まり遠慮がちに小さなお尻を乗せれば、ふわり、とした不思議な感触。

「私が与えたカリキュラムは真面目にこなしておられるようですな」

デスクに浮かび上がった奥行きが無い光彩モニターには、サニーの特殊能力の成長推移表。非常に緩やかではあるが確実に上昇を示している。

「安定した数値にはまぁまぁの評価を与えましょう。しかしカリキュラム以外にも日常生活において恒常的に能力をお使いになればさらなる結果を・・・」

「あのね、はんずいのおじ様が『まほう』はむやみにつかっちゃダメって・・・」

「なんと」

サニーは孔明からの鋭い視線を受けて俯いた。
綺麗な人形と薄汚れた人形を抱きしめて搾り出すように

「それに・・・『おばけ』が・・・」

「は・・・?今何と仰いましたかな?」

「・・・・・・・・『おばけ』がサニーをたべちゃうもん・・・・」

非現実的な理由に孔明は頭が痛くなるのを感じた。
「そんなものはいません」と言い切ってやっても少女は首を振ってかたくなになるばかり。

-------この娘は素直というか、純真というか
-------ああいう男どもに囲まれていながらどうして心根がこうも・・・

ここは血と死と狂気で澱んだ場所。
そんな澱んだ水を吸い上げれば木は枯れるか、ねじれ病むしか無い。

-------十傑の血とともに能力を受け継ぎ、そしてここで育てばさぞ・・・と思っていたが
-------ところがどうしたことか、何故この娘は予想どおりの成長をしない!

なのに幹は太陽を目指して真っ直ぐ伸びようとしている。
澱み腐った水は太陽を目指すのを諦めた大人たちが飲み、かろうじて残ったわずかな上澄みだけを少女に与えているためなのか・・・

「わかりません、理解に苦しみます。まったく・・・・樊瑞殿を始めとするあの者達は自分たちがいったい何者なのか忘れているのでしょうか。周囲の貴女に対する可愛がり様にはこの私も呆れるばかりです」

光彩モニターを消し、デスク越しに目の前の小さな子どもを見据える。まるで尋問のような空気と、孔明と十傑集の相容れない複雑な関係を肌で感じ取っていたため

「ごめんなさい・・・」

「貴女が謝ってどうするのです、そもそも貴女に甘い樊瑞殿や・・・」

「・・・・サニーごめんなさいするからおじ様たちとケンカしないで?こうめい様・・・・」

「貴女には関係の無いこと、気遣いはご無用に願います」

「ひぃっく・・・なかよくして・・・ひぃっく・・・ほしいの・・・」

「泣くのをおやめなさい、見苦しいっ」

孔明は涙を零すサニーに嫌気がさしたような溜め息を漏らす。
そしてデスクにある飴玉を見た。

黄色い包み紙には青い水玉模様。両端は綺麗にねじられている。中身は舐めれば甘い砂糖を主成分とした何の変哲も無い飴玉だが、これはサニーによって生み出されたもの。まったくの無の空間から、触媒も無しにである。
変化(変質)系の能力者は組織に何人かいるが、ほとんどは変化する物質の素材は限定され、必ずと言っていいほど触媒が必要となる。しかし、サニーは恐ろしいことにその必要も無い上、飴玉だけでなく忽然と人形や花などを生み出すことができ、その物質を完全に別の物に変化させることができた。
これが樊瑞や十常寺が扱う仙術・呪術の類いで無いと、孔明は初めてサニーの能力を目にした時確信した。そして彼女の能力を便宜上「魔法」と呼んだ。

-------無からの物質の創造、そして変質
-------なんという・・・

孔明からすればサニーが持つ魔法は無二の「万能」と言える貴重な能力。使い方によれば神に近づけると言ってもいい。当然、この組織にとって大いなる戦力となり・・・

「よいですか?私は貴女に少なからず期待をしているのです」

・・・戦局を変えうる一手を指せる『駒』になると。

彼は涙で頬を濡らすサニーを抱き上げ膝に座らせ、小さな手で抱えられた人形をやんわり取り上げた。孔明の膝に乗れば少女も取り上げた2体のビスクドールの人形もさほど変わりはしないように見える。デスクに座らされる2人の友達に紅い瞳を追わせるがそれを孔明は言葉で遮った。

「私はある少年を一人知っておりましてね・・・十傑集の娘という貴女同様、身の上は違えど彼もまたどこへ流れようともここでしか生きる場が無い者。貴女がここに来て少しした頃、私が気に入り遥か北の「廃墟」より拾って参りました」

「ひろってきたの?」

「ええ、犬猫のように。ふふふ・・・その者は貴女と同じく父親から大きな十字架を背負わされている身。背負ったままにいずれ私が用意したシナリオに沿って舞台ではなく盤上で、喜劇のような悲劇を踊ってもらう予定です。さぞ見ものでありましょう、いかがです?貴女もご一緒に」

彼の目には何が映っているのか、陶酔したように目を細めて微笑む。

「はんずいのおじ様もいっしょだったら、サニーもみたい」

サニーの瞳から涙が途切れ、目をパチクリさせる。
ほとんど理解していないのに無邪気に言うものだから孔明は肩を大きく揺らして笑った。

「ええ、ええ、結構ですとも。何なら貴女の『パパ』もご一緒にいかがです?」

「パパも?じゃあセルバンテスのおじ様も!・・・いい?こうめい様」

「おや、お優しいことですな。まぁ・・・考えておきましょう」

孔明はサニーの小さな手をとると飴玉をのせてやった。

「サニー殿。私は貴女のその穢れを知らぬ滑稽なまでの無邪気さ・・・そう嫌いではありません。しばらくは澄んだ水を飲み、甘い飴を舐められるがよろしかろう。しかし、いずれ夢から覚めていただき、この私が貴女にも盤とシナリオをご用意しますので」

-------覚悟は、よろしいかな?

飴玉を手にしたサニーの小さな手を、包むように優しく握ってやる。少しだけヒンヤリとしているが孔明の手の感触は、サニーは嫌いではない。

サニーは初めて、まっすぐと孔明の目を見た。
黒曜石のような輝きの向こうに深い暗闇があった。
真紅の輝きがさらにその暗闇の中を覗き込もうとしたが

「ありがとう、こうめい様」

「どういたしまして・・・」

孔明は視線を逸らせ、握っている手に力を込めた。


-------『サニー・ザ・マジシャン』
-------避けては通れない貴女自身の「運命」として
-------どのような結末が待っていようとも、最後までそこで踊っていただきますぞ?


-------そう、全てはビッグ・ファイアのご意思なのですから・・・・




2人の頭上には、希望の無い「滅び」の終末劇

それは少女が「きれい」とつぶやくほどの

消えゆく星屑のような、悲しい美しさだった。





END








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東の研究棟での視察を終え、パイプ状の連絡通路を通り抜けて本部の大回廊へと向かう途中だった。彼、残月はそこに存在するはずの無いモノを目にしてしまい、思わず立ち止まってしまう。

「・・・・・・・・・・・・ん?」

回廊へ繋がるT字路の影からこちらを窺うような視線。ひょっこりと顔を覗かせ、それは綺麗な正三角形の耳をピンと立てて・・・

にゃあ

と小さく鳴いた。

どこをどう見てもそれは「猫」だ。
どこかの街角か港町であれば景色に溶け込み少しも違和感を感じず、そのまま通り過ぎるところだが、しかしここはBF団の本部、さらに言えばその中心内部。ここ絶海の孤島は地図にも記載されない唯一の領土であり、その位置は超極秘。かつてここを探り当てようと何人かの諜報部員や国際警察機構のスパイが潜り込もうとしたが、全員が海の藻屑となった。物理的で無い呪術的な力で生み出された式神であろうと、千里眼能力者による透視であろうと全て未然に防いでいる。このように恐ろしく厳重で高度なセキュリティで管理された・・・そんな場所に一匹の猫である。

実験用が逃げ出した?
報告は無いし研究棟の管理は本部でも随一、ありえぬ事だ。
野良?何をバカな。
ならば誰かがこっそり飼っているペット?
いや、そんなものは上層部の許可無しには・・・・無断は処罰の対象だ。

残月はあれこれ猫がどうしてここに居るのか理由を考えていた。しかしどう考えても合点がいく理由は考え付かない。ならば自分がすべきことはただ一つ、万が一を危ぶんでここで始末すべきだろう。

ところが、一瞬過ぎったその考えは猫の姿を見直して消えてしまった。

にゃあ・・・

おずおずとT字路の影から身体を見せ、こちらへ歩み寄ってくる。成猫と子猫の間といった大きさと体つきだ。短毛でミルクティを思わせる淡く艶ある毛色、スラリとした四足はそこだけ長く白いソックスをに履いているようにみえる。長く細い尻尾を立ち上げる様は美しく気品があるが、目はまだ丸くそこだけ幼さがしっかりと残っていた。何よりも目を引いたのは猫の瞳で、鮮烈な紅さが際立っていた。

「むぅ・・・・・・?」

にゃあ

猫は彼の足元で止まった。白いソックスを履いた四足を上品に揃え、窺うような眼差しを上に向けてきて猫自身どうすべきか迷っているようにも見える。

対するのは覆面の下から否応が無しにも感じる強烈な視線。猫は残月からの何かを見定めるようなその視線を一身に浴びて緊張し、尻尾をピンと立てて固まる。完全に格上を前にして飲まれているようだ。

しばし『一匹』と『一人』の間に流れる緊張と沈黙だった、しかし

「さっさと私の前から去るがいい」

ふと視線が切れたかと思った瞬間、残月はまるで何も見なかったかのように再び歩みだした。どんどん彼は歩き行き、離れていく。

にゃあっ?

猫は慌てたように彼の後を追いすがった。





----------





ようやく立ち止まった先は彼の執務室。当然そこは彼は目的地であるからそのドアを開け、中に入ろうとした。猫もまるで当然の流れのように・・・・

「何故付いてくる、ここは猫禁止だ」

突然立ち止まった足に猫はぶつかってしまう。見上げれば覆面が見下ろしており、猫は再び尻尾を高く立たせて固まった。

「立ち入ることは許さんぞ」

上から投げかけられる言葉は甘くは無い。三角の耳を寝かせて、尻尾を下げて猫は戸惑い「にぃ」と小さく漏らす。その様を見つめていた彼だったが、いじらしさに負けたのか小さく溜め息をつくと

「本を爪とぎにしないと約束するのであれば・・・」

ドアは大きく開けられた。

跳ねるように入っていく後を残月もまた執務室に入り、スーツの上着を脱ぐと無造作に来客用ソファに投げて彼はいつものデスクに鎮座した。

猫はどこにいるべきか迷っているのかキョロキョロしている。彼と来客用ソファとを見比べるように何度も見ていたが、残月の覆面に隠された表情を窺いながら遠慮がちに来客用ソファに飛び乗り座った。脱ぎ捨てられたスーツに脚がかかったことに気づき慌てたように彼を見た。当然それを見逃さない、合わさった視線に萎縮しソファから飛び降り、そして小さくなって床に腰を下ろしてしまう。

「ほお、私のスーツを寝床扱いとは・・・」

その言葉に猫は一層身を小さくする。

「ふ・・・しかしそこで満足するのか?ここはどうだ?」

指先でデスクの上を軽く叩けば三角の耳がぷるりと反応し

「不満か?」

元気良く鳴くと、猫はしなやかな動きを見せ音もなくデスクに飛び上がる。書類や浮き上がる光彩モニターにかすめないよう、ステップを踏むように慎重に歩けば彼の右前に腰を下ろした。紅い瞳をキラキラさせて、長いヒゲが喜びにヒクヒク踊る。

しょげたり喜んだり、ころころと面白いほどに変わる表情に「やれやれ」と苦笑してしまう。もはやこの猫が「あやしい」などと思えない。彼は猫のいる前で仕事に取り掛かることにした。


最中に猫が鳴くようなことはなく、動き回って邪魔することもない。ただジィと彼が執務をこなす様子を見つめ、時折嬉しそうに尻尾の先を揺らすだけ。

テキパキと無駄ない動きで執務を執り行い1時間、残月はようやく仕事に集中していた意識を解放して猫に視線を移した。猫はいつの間にやら丸まって寝ており、身体が呼吸で浅く上下していた。

「・・・・・・さて」

200年前から時を刻み続ける置時計を見れば丁度ティータイム。猫を起こさぬよう静かにデスクから立ち上がり、煙管を手に打ちつける。すると一部の床が円柱状に音もなくせり上がり、円柱内部のガラスケースの中には彼愛用の揃いのティーセット。茶葉や気分に合わせて選べるよう最低でも20客、茶葉に至っては常時30種という彼のこだわりだ。

「今日は祁門(キーマン)にするつもりであったが」

眠る猫の姿を見ながら、彼はケースの前で手を彷徨わせアッサムの缶を掴んだ。ポットには適温の湯と適温のミルク。アッサムとミルクが出会い、セーブルのカップに注がれた高貴でまろやかな色合いは眠る猫と同じ。それを当然のように2人分淹れた。

片方だけに角砂糖を一つ、そして香りを堪能しながら眠る猫の寝顔を眺めながら彼は5分待つ。猫の前に猫舌でも飲めるほどに冷まされた甘いロイヤルミルクを差し出して、眠る猫の背を撫でて静かに起こした。

にゃ・・・・?

「猫がこのような物を口にするかは知らぬが、これがお前に最も相応しいと思ってな。ご所望ならばメープルマフィンも出してやっても良いが?」

肩を揺らして彼は笑った。





----------





舌を器用に使って飲んでいる猫を、テーブルに片腕をついて残月はじっくり観察していた。ちなみに彼は犬や猫の類いは特に嫌いではないがかといって好きと言えるほどでもない。根本的に興味は無いが目の前に居る猫は別のようだ。

「おまえは誰ぞの飼い猫であろう?」

直感的に思いついた確信を彼は訊いてみた。

彼からの問いに猫は耳をプルっと振るわせて小首をかしげる仕草を取った。ややあって猫は「にぃ」と肯定と思わしき鳴き声を上げ、再びロイヤルミルクに舌を突き出す。

「ふふ、なるほど飼い猫とはな・・・しかし、それにしては肝心のモノが無いようだが?」

にゃあ!?

彼は猫の身体に両手を伸ばすと抱え上げ、自分の膝の上に乗せてしまった。猫は丸い瞳をさらに丸くさせ緊張しているのか毛が少し逆立っているようだ。彼はそんなことお構いなしに猫のしなやかな背中に手袋で覆われた手を乗せるとゆっくりと撫で始めた。

「首輪がなければ野良だと間違われるであろうに、違うか?」

長い尻尾に向かってそのまま手を沿わせる、先の先まで丹念に。そして再び耳の先から始まり尻尾で終わる、その繰り返しを受けていつしか逆立っていた毛はなだめられ、猫は完全にされるがままの状態となりすっかり力が抜け切ってしまっていた。

「お前もそう思うであろう?」

今度は広い胸に抱きかかえ、顔を覗きこんでそう猫に同意を求めた。人差し指で猫の喉元をくすぐってやれば、猫は目を細め実に心地良さそうな表情を取る。そして残月に問われても言われるがままに完全に溶けきった声で鳴くだけ。

「ならば私に案がある」

猫が頭を乗せている位置にある胸元のスカーフを、彼はしゅるりと抜き取った。何事かと頭を上げた猫にそれを巻きつけながら

「さて、どうるす。こうすれば飼い猫らしくはなるが、お前は飼い主を替えなければならなくなるぞ?」

そう猫に言いつける覆面下の眉は、おそらく片側だけが愉快そうに上がっているだろう。口元に浮かぶ笑みから推測できる。

猫の首には真っ白いシルクスカーフが巻かれ、大きなリボンで最後は締めくくられた。まるでちょっとした贈答品にも見えないことは無い。

「私がお前の飼い主では不足か?」

微動だにせず残月の覆面越しの目をまっすぐ見つめる猫は、返答に困っていた。
残月にもそれがわかったのか

「ふ・・・よほど今の飼い主に愛されているらしい。何、戯言だ気にするな」

まるで幼子をあやすように残月は再び猫を抱えなおし、身体を優しく撫でた。


ティータイムが終わり、再び執務に取り掛かる残月を猫はまたあの定位置に座り見つめていた。首には真っ白い首輪で、その滑らかなシルクの手触りが心地よいらしくたまに顔を寄せていたりした。しかし卓上の置時計が4時半を指しているのに気づいて猫は急にソワソワし始めた。

にゃ・・・

猫は何度かソワソワを続け、置時計と残月と執務室のドア、その三つに視線を往復させる。残月も猫の奇妙な行動に気づいたのか

「ん?どうした」

猫は音もなく飛び降りてドアに駆け寄って残月に振り返った。それがどういう意味か、考えるまでもない。彼もドアに歩み寄り、そして開けてやった。

「人に見つからぬように帰るがいい」

にゃあ・・・・

「そのスカーフはお前にやろう、気に入らねば今の飼い主にちゃんとした首輪をつけてもらうのだな」

首元をくすぐる残月の手に頬擦りをして、名残惜しげに猫は去っていった。





----------





猫は言われた通り人に見つからないよう慎重に、そして『門限』に遅れないように大急ぎで駆けた。本部から抜け出し幹部の私邸が集合する区画へ向かう。その時だった、猫の背中に一枚の呪符が浮かび上がりそれはあっという間に塵と化した、そして人気の無い通りに差し掛かったところでで猫が輝き始め、まるで鱗が剥がれ落ちるように輝きの粒を撒き散らし・・・




「おじ様、ただいま戻りました」

「おお、サニーお帰り。そういえば先ほど用があって十常寺に会ってな」

「あ・・・十常寺のおじさまに・・・」

「うむ、お前に札(ふだ)を渡したそうだが・・・何の札を、あ!おいサニー!話はまだ」



慌てて二階に駆け上がってサニーは自分の部屋に逃げ込んだ。
これ以上話を続けると・・・
今日あったことがバレて首輪をつけられてしまうかもしれないからだ。

「ふう・・・」

部屋で一息ついてみたが胸の高鳴りはまだ止みそうに無い。


サニーは首元にまだ巻かれている白いスカーフに手を添えると


外すことなく丁寧に整えた。








END





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お約束のにゃんこネタ






~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

『あなたの今週の運勢』

総合★★★★☆
健康★★★☆☆
仕事★★★★☆
金運★★★★★
恋愛★☆☆☆☆

ラッキーアイテム:赤い花の髪飾り、身に着ければ恋愛運UP!

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



サニーはティーン向けの雑誌の最終ページを見て固まった。


コンビニ、書店とどこにでも売っていて、購買層の年代の小遣いで買えるような本だが生憎ここはBF団。犯罪組織の本拠地ではまず手に入れることはできはしない。実は樊瑞には内緒でセルバンテスが彼女のために毎週買ってきてプレゼントしているものだ。

それは世間一般の女の子と一般ではない彼女とを繋ぐささやかな情報源。多感な年頃のサニーも雑誌の最新号を毎週楽しみにしている。さて、その雑誌の最終ページには同世代の女の子たちに当たると評判の占いコーナーが。サニーはいつもチェックしており、占いごとが気になるのは女の性(サガ)で、彼女と言えども一緒だった。

ところが・・・今まではせいぜい総合運をサラリと流す程度だったのに、今や「恋愛運」のチェックは欠かさない。いや、寧ろ「恋愛運」以外眼中に無い。残月の顔を思い浮かべては恋愛運の結果に一喜一憂し、幸せな気持ちになったりちょっと落ち込んでみたり・・・しかし、彼女自身ざわつく気持ちは自覚できてもどうして残月なのかそれがわからない、これが所謂(いわゆる)恋なのかどうなのか、自分の中でハッキリしないでいた。




すぐに寝そべっていたベッドから起き上がり

「赤い花・・・・」

机の上にあるジュエリーボックスをひっくり返して見ても赤い花がついたピンや髪飾りは見当たらない。今までに無い最悪の恋愛運を向上させてくれるアイテムを、サニーは持ち合わせてはいなかった。






クッキーを焼いても、読書をしても。

何をしても身に入らない。

恋愛運の結果が気になってしょうがない。


どうしてだろう、こんなに最悪の運勢なのに

今週の運勢だとわかっていても、まるで一生の運勢のように感じてしまう。








------どうして?



「はー・・・・・・」

せっかく今日は残月に数学を教えてもらう日なのに、気持ちが重い。最悪の運勢のまま会ったら良くないことがおきるのではと悪い方向にばかり考えてしまう。鏡を見ながら白い小さな花がついたピンで前髪を留めてみるが、これが赤かったらどんなに・・・と気が晴れない。

来客用のテーブルを挟んで残月から数学の指導を受けている最中も、彼の顔をまともに見ることが出来ない。そわそわとしてほとんど上の空なサニーに彼も気づいたのか

「わからないところはわからないと言ってくれれば助かるのだが、私の教え方が悪ければ改める努力をしよう」

「あ・・・!いえ!そんなっ」

「サニーにこの定理はまだ難しいかもしれん、ふむ・・・どれから教えるべきか・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

真剣に教本をめくり自分の為に思案してくれている残月を見て、サニーは猛烈に申し訳ない気持ちになる。そもそも残月の教え方は非常に丁寧で細やか、サニーが本当に理解するまで何度でも根気強く教えてくれ文句のつけようが無い。

「残月様、ごめんなさい・・・悪いのは私です。ちょっと、その・・・今日はなんだか・・・」

言葉をしどろもどろにサニーは身を小さくして残月に謝った。

「今日はなんだか?・・・体調が悪いのか?ならば今日はもう止めるが」

残月が自分を心配してくれるでサニーはついに本当の事を話してしまった。

「占いの・・・『運勢』・・・・・・その悪い結果が気になって、というのか」

「はい・・・・・」

馬鹿馬鹿しい理由にきっと残月は呆れかえるだろうと覚悟していた。
やはり今週の運勢は最悪だ、サニーは肩を落とす。
しかし残月はその理由に少々驚きはしたが、指を組んで思案のそぶりを見せ

「その占いが載っている雑誌をここに持って来れるか?」







サニーが屋敷からもってきた女の子向け雑誌を残月は興味深げにめくっている。内容は年頃の女の子の興味を引く「美容・ファッション」「恋愛・異性」そしてちょっとだけ踏み込んだ「性の話題」などがほとんど。残月の目から見れば女の子が本当に求めるちょっと先行く情報と、雑誌を出版する大人達が売り上げを期待して必要以上に煽り立てる情報が複雑に絡んでいた。

しかし自分の中身を残月に見られているようでサニーは少し恥ずかしい。
雑誌に書かれていること全部が全部自分が興味を持っていると思われたくないのでそそくさと手を出して、残月の前で雑誌の最終ページを強引に開いてしまう。

そこは問題の占いのコーナーのページ。

「サニーの運勢はどれだ?」

「えっと、これです・・・あっ」

サニーはそこで気づいた、『運勢』が悪いから悩んでいるとは言ってみたが『恋愛』以外は悪いどころかかなり良い。つまり・・・

「なるほど」

慌てるサニーの顔をちらりと見て、残月は彼女の学習の指導に使っている赤ペンを取り出すと雑誌に何やら書き込み始めた。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

『あなたの今週の運勢』

総合★★★★★
健康★★★★★
仕事★★★★★
金運★★★★★
恋愛★★★★★

ラッキーアイテム:赤い花の髪飾り、身に着ければ恋愛運UP!
            白い
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



「これで問題は無くなったな、なんと羨むべき最高の運勢か」

赤ペンにキャップをしながら満足する。

「・・・・・・・・・・・・・」

「今後悩むような運勢が載せられることがあるなら私のところへ持って来るがいい。いくらでもサニーが望むような運勢に変えてやろう、ふははは」

「・・・・・・・・・・・・・」

彼は愉快なのか楽しそうに笑った。

しかしサニーは目の前であっさりと好転した自分の運勢を、まるで不思議なものの様に見ていた。心あらずなのか理解するまでに時間がかかっているのか、とにかくボーっと眺めていたら

「私はその髪留め、サニーに良く似合うと思う」

言い聞かせるように残月はサニーの頭を撫でてやった。特別、というわけでもない。彼は時たまこういうことをする。それは樊瑞やセルバンテスらがサニーにそうするように同じ事。
しかしその瞬間だった、スイッチが入ったように彼女の心臓が痛いほど大きく波打つ。
それは身も心も揺さぶるような衝撃で、弾かれたように顔を上げ残月を見た。

「どうした?」

「あ・・・ありがとうございます」

サニーはやっと・・・自分が彼に『恋』をしているのだと知った。







その日の夜、パジャマ姿のサニーはベッドの上で寝そべってあの雑誌を広げた。
彼によってあっさりと変えられた最高の運勢をサニーは飽きもせずずっと眺めていた。
足が浮き立つ心に合わせて動き、顔は幸せに溶けている。


恋している事への戸惑いよりも先に、今こうして恋していることの喜び
彼女の中はそれでいっぱいだ。












どうしてだろう、こんなに最悪の運勢なのに

今週の運勢だとわかっていても、まるで一生の運勢のように感じてしまう。

どうしてだろう、彼によって修正されたこの最高の運勢

今週の運勢だとわかっていても、まるで一生の運勢のように感じてしまう。


-------どうして?




それは私が彼に『恋』をしているから。






END







 ぐっちゅ、ぐっちゅ。
「ホホ、よいのうよいのう」「うっ、うっ……」
 公家の屋敷の寝間。そこでは中肉中背に白顔と、異様な様で知られる義元が一人の女を正上位の形で繋がっている。
 繋がっている女の名前は稲姫。
 本田忠勝の娘にして、戦では鬼のごときもののふとして誉れ高い武将。
 しかしその彼女が今は一糸纏わぬ姿で義元に弄ばれている。


 先の城攻めで稲姫は義元を降伏寸前にまで追い詰めたのだ。
 だがその際に命だけは助けてほしいと泣きながら懇願され、稲姫はその哀れな義元を討つ価値も無しと言い放ち見逃そうとしたのだが、背を向けた稲姫に突如義元が粉状の眠り薬を浴びせた。
 そして眠り落ちた敵の大将の命をダシに優勢であった敵を退かせた。
 敵が完全に退き、それから数刻して目を覚ました稲姫は両手を後ろで縛られ、さるぐつわをされて義元から屈辱を受けていた。
「ほっほ、本田の娘は男よりも男らしいと聞いていたが、使い心地は誠によいのう」
 


 義元はリズミカルに腰を振り、稲姫は顔を苦痛に歪めてそれを受ける。
 子宮を重点的に攻め抜いていた義元はふいにGスポットをモノで強く擦った。
「!?」
 突然の衝撃に稲姫は身体を強張らせ、声にならない音を発してしまった。
「なんじゃなんじゃ。いかに強いもののふといえども、女子は女子か」 
 稲姫の反応に満足気な笑みを浮かべ、義元はGスポットを激しく攻めた。
「……ぁっ!……ぁっ!」


 さるぐつわをされて鮮明には聞き取れないのだが、頬を紅潮させてつつ身をよじらせ始めた姿から、ここが弱く、そして感じ始めたのだと容易に想像がつく。「締め付けるのぉ。そんなに一物が好きでおじゃるか」
 スラングを浴びせながら、膣の入り口まで亀頭を持ってきてGスポットから膣の最奥まで一気に貫く。
「……ぅっ!」
 稲姫は女の快楽と卑怯者の凌辱に必死に耐えようとするが、声が漏れてしまう。
 義元はしばらくそのスタイルで稲姫を攻め遊んでいたが、突如稲姫の中にモノを佇ませながら動きを止め呟く。


「今川と徳川のよしみか。……いいかもしれぬのっ!」
 その言葉を皮切りに、義元は稲姫を怒涛の勢いで攻め立てる。
 それは先程みたいに屈辱を味合わせるものとは程遠い、一方的な暴走。
 それを稲姫は一身に浴びせられた。
「稲よ……くれてやるでおじゃる」
 激しく腰を降りながら義元は息荒く呟く。
「まろのかわいい子種をのう!稲、お前はまろの赤子を孕むでおじゃる!」
 その言葉に稲姫は今までにない動揺を顔に表す。
 そして今出る力いっぱいに義元から逃れようとする。


 だが稲姫は義元に腰をがっちりと掴まれているため、脱することはできない。 それどころか、限界近く高ぶった義元が醜い贅肉を稲姫の整った身体に押し付け、更に深く稲姫の中に入りこんで腰を打ち付け、両の手で持て余すほどの巨乳を力いっぱいに歪ませる。「おおっ……!」
 子宮を貫かんばかりの勢いで稲姫の最奥を突き上げ、上体をのけ反らせて低く獣のように醜い声を上げ、膨張する。
 信行様……!
 見事なまでの艶やかな肢体をうねらせ、必死に抵抗する稲姫は心の中で叫ぶ。


 出会った時から慕い、やっと夫婦の契りを認められ、数日後には祝言を迎えられるはずだった。
 それなのに自分は今醜い獣に蹂躙され、汚されようとしている。
 信行様以外の子は嫌。
 助けて信行様……助けて!
「うぅーーーーーー!」
 稲姫は信行の名を叫んだ。
 

……義元は息を一つついた。
 表情は開放感に満ち溢れ、目線を下に向ける。
 そこには眼からは大粒の涙を、秘部からは大量の子種を垂れ流し、もののふでもなく、徳川の将でもない、いち女性のとしての稲姫が小さく泣いていた……。

…続き読みますか?
凌辱だけど


「が、ガラシャ様っ!」

突然大声で呼ぶ蘭丸に驚いて、ガラシャはびくりと面を上げた。
「な、なんじゃ、いきなり・・・。驚くではないか」
「も、申し訳ございません・・・。
ですが、その・・・、ついでですから、もう一ヶ所、ガラシャ様に癒してもらいたいところがあって・・・」
恥ずかしそうに言葉を続ける蘭丸を見て、なんだそんなことかと思いながら、
ガラシャは一旦外した腕輪を片方だけつけた。
「構わぬぞ。今日はそちには・・・、本当に世話になってしまったからのう。申してみい」
「で、では遠慮なく・・・」
蘭丸が何故か腕輪をつけている方とは反対の腕を、傷む部分に誘導する。

───そこは、彼の左胸だった。

「・・・?特に傷はないようじゃが・・・」
訝しがるガラシャに、触れている腕から蘭丸の激しい心音がどくどくと聞こえてくる。

「・・・えっ・・・?」

その感覚に、ガラシャは震えるような何かを感じたような気がした。


「・・・ガラシャ様・・・」
「な、なんじゃ・・・」
左胸に当てた彼女の手を握り締めながら、彼はそっと彼女の近くへと寄ってくる。

「痛いのです、ここが。貴女様を見る度に、想う度にずきずきと疼くのです。
今日もこちらに参られると聞いてすごくすごく蘭は嬉しくて・・・、嬉しくて、胸が痛むのです」

ちゃり、と外れたままのサスペンダーが音を立てる。
頬を赤くして切実に訴えてくる彼に、ガラシャは目眩を覚えそうだった。

───なんてことだ。あんなににっくき敵だったのに。


逃げられず、逃げたいとも思えず。気づけば組伏され、蘭丸の顔が真上にあった。

「無理にとは申しません、けれど、・・・ずっとずっと、お慕い申しておりました・・・。
光秀様から聞く貴女様のお話が、楽しみで仕方がありませんでした・・・。
初めて会った時から、蘭はずっと貴女様を見るたびに、想う度に胸を痛めておりました・・・!」

訴えるかのように切々と言葉を紡ぐ蘭丸に、ガラシャの胸はぎゅうと締め付けられる。
これが彼の感じている痛みなのだろうかと、ふと彼女は思った。
「私は・・・、そちのことが憎くてたまらなかった。父上を取られてしまったような気がして・・・。
でも、・・・でもどうして・・・?今は私も胸が痛む・・・。」

泣き出しそうなくらいに顔を歪ませて、蘭丸はガラシャのか細い体を思い切りぎゅうと抱きしめた。
「・・・ん、んっ・・・」
余りの力強さに息が止まる思いをしながらもガラシャはそれがとても嬉しくて、
やはりありったけの力で彼を抱きしめる。

細くて、少し硬い体。男なのだと、改めて実感する。

しばらく上に下にと体勢を変えながらお互いの体を抱き寄せた後、蘭丸が躊躇いがちにガラシャに尋ねた。
「あ、あの、・・・唇を重ねても、良いですか・・・?」


「む・・・、ぅふ・・・、ぅ・・・」
押し付けられるように唇を重ねられ、
ガラシャは多分に息苦しさを覚えながらも、必死で蘭丸に答えた。

乱れた髪からは頭飾りが外れ、赤い髪があちらこちらへと遊んでいた。
そのうちに開いた口の隙間から舌を差し込まれ、ガラシャの体がびくりと跳ねる。
「んふ、む・・・ぅ!」

カチカチと音を立てて当たる歯が、ゆるりと舐められる口内が、彼女体に徐々に熱を与えていった。
ぴちゃぴちゃと音を立てる互いの唇がどうにもいやらしい。

やがて互いに空気がどうしても必要だとなったときに、やっと彼らは唇を離した。
「・・・っぷ・・・はぁ・・・っ!!」
お互い息を荒げながら、必死に新鮮な空気を肺に流し込む。

「はぁ・・・ぁ・・・、も、申し訳ございません、無理をさせてしまって」
顔を赤くして涙を滲ませているガラシャを見て、蘭丸は済まなそうに頬を撫でた。
「あ、あの、初めてだったので・・・。・・・言い訳にもなりませんが・・・」
少々情けない顔をしながら蘭丸が再度彼女を抱きしめる。
ガラシャは彼の背中をゆっくりさすりながら、構わぬよと笑った。

「・・・胸の痛み、少しは収まったか?」
蘭丸の耳元で、彼女が呟く。
「収まったというよりも、緊張しすぎて心の臓が飛び出しそうです」
同じく顔を赤くしながら、蘭丸が困ったように笑った。

「私は・・・、もっともっと胸が痛くなった。」
再びぎゅっと彼の体を抱きしめて、ガラシャは熱に浮かされたようにそう囁く。


「が、ガラシャ様、」
「のう、蘭丸・・・」
一旦体を離し、起き上がって彼女は彼の顔を見据える。
そして胸元の赤いリボンを、自分からしゅるりと解いた。きっちりと閉じていた胸元が、
少しだけ緩くなって白い喉元が顔を出す。

「私の胸の痛みを治すことが出来るのは、きっと、・・・いや、ただ一人、そちだけじゃ。
斯様に幼い体ではそちにとって不足なのかもしれぬが・・・」
「滅相も御座いません、ガラシャ様!」
皆まで言わせず蘭丸が声を上げる。
「私にとって貴女様は・・・。・・・その、憧れていた、大切な人だから」
膝をついてにじり寄り、そっと少女を抱きしめる。

「お願いです、ガラシャ様の全てを・・・、蘭にお見せください」


「・・・うん」


本当に小声で、ガラシャはそれだけ言った。



それはもし見る人が見れば、ある種の禁忌を感じるのかもしれない。
年端もいかない、美しい少年少女が西洋人形のような服を脱がしあい、
そして伸びきっていないほっそりとした肢体をぎこちなく、しかし激しく絡ませる。
どことなく倒錯的な二人の秘め事は、初夏の輝かしい太陽から隠れた部屋の陰の一室で
ひっそりと、しかし熱を持って続けられていた。


どうやって脱がしたら良いのか分からないガラシャのドレスを、蘭丸は苦心しながらもなんとか剥いてゆく。
見たこともない女体と触れたこともないそれの感触に胸を焦がしながら、
必死に彼女の服に手をかけていく彼を、ガラシャは期待と不安の表情で黙って見つめていた。
やがて最後の衣類を手間をかけながらも慌しく脱がせると、そこから白く柔らかいガラシャの肢体が浮かび上がった。

蘭丸は初めて見る女子の体を食い入るようにじっと見つめた。
反対にガラシャは、恥ずかしさに頬を染めて目を瞑る。

薄く肉がついた彼女の体は、未発達だがそれがまた儚げな魅力を醸し出している。
幼い乳房の真ん中には、薄桃色の頂きが控えめに色づいていた。
ただ好奇心で、蘭丸は不躾に二つの乳房をぎゅうと握ってみる。

「や・・・痛・・・!」
閉じていた目を見開いて、ガラシャが呻くように声を上げた。
「も、申し訳ございません!」
慌てて手を離し、今度はそっと掌で包んでみる。
外側は柔らかくふにふにしていて、内側は少し硬いしこりがあるように感じられた。

「・・・柔らかい」
蘭丸は乳房の少し温かくすべすべしている肌触りとその肉感に感動しながら、恐る恐る、しかし何度も掌で撫で回した。
「ぁ・・・や、・・・な、何かこそばゆい様な・・・、へ、変な感じがするのじゃ・・・」
一方でガラシャは、彼の掌に時々触れる先端に妙な感覚を覚えていた。
手や指が通り過ぎる度に、びくりと小さく体を震わせる。

それに気づいた蘭丸は掌で乳房を揉みしだきながら、指先で先端をくりくりと押さえた。
「ひゃっ・・・!?ん・・・ぁ・・・、ふ・・・」
むずがゆいような気持ち良さを感じて、ガラシャは戸惑いながら声を上げる。
その様子を見ながら蘭丸は、今度は胸元にちゅ、と口付け、先端を舌先でゆっくりと舐めあげた。
「んやあっ、や・・・、な、なに・・・、ぁ・・・!」

そんなガラシャに心奪われ、彼は激しく乳房に唇を落とす。
片方を指先で捏ね繰り回し、もう片方を唇と舌で吸ったり舐めたり、
あるいは優しく噛み付いたりすると、彼女は困ったように身を捩じらせた。
「いぁ・・・っ、ふ・・・ん、ぁあっ、か、噛んだら、駄目・・・!」
ちりちりと体の奥底に火花を散らされているような快感を覚えながら、ガラシャは必死で声を上げた。
更に蘭丸は首筋を舐め上げ、鎖骨に舌を這わせガラシャの体を堪能する。


「ら、蘭丸に・・・、食べられてしまいそうじゃな・・・」
息も絶え絶えに苦笑しながらガラシャが言うと、
「私はこれからガラシャ様をいただいてしまうのですよ」
と彼は笑って、再度彼女に強い接吻をした。


喘ぐガラシャに気を使いながら、蘭丸は手を少しずつ下に持っていき、秘部へ触れようと試みる。
すると意外にもあまり抵抗なく、彼女の両足はするりと彼の手を通してくれた。

見ることが出来ないので、太ももを撫でていた手を確認するように少しずつ上に持っていくと、
いきなりぬめっとした感触が指先に触れる。
「うわっ!」
これには蘭丸が驚いて、思わず声を上げてしまった。

「す・・・、すまぬ、あの、・・・ら、蘭丸・・・」
涙目になってあたふたとするガラシャを見て、傷つけてしまったような気がした蘭丸は、慌てて声を上げた。
「いえ、あの、私も初めてですから、その色々と驚くことも多くて・・・。・・・すいません。」
言って恥ずかしそうに目を伏せる。


「・・・でも、こうなっているということは、気持ちが良いということなのですよね?」
ぬるぬるとしているそこを探索するように指でにちにちと触れながら、彼は確認するように彼女を見上げた。
「こ、これが、気持ち良いというのかは・・・、私も初めてだから分からんのじゃが・・・」
困ったように彼を見返して、ガラシャは蘭丸の空いている手を自分の下腹部にそっと置いた。

「・・・ここら辺の中の方が、疼く様な、じりじりと炙られているような気になってしまう・・・」

無邪気に伝えてくるそんな彼女を愛しく思って、蘭丸は彼女の名を呼んで何度も何度も抱きしめた。
ガラシャもそれが嬉しくて、彼の頬に自分の頬を満足そうに摺り寄せる。
ひとしきりそうやって互いの体温を感じた後、蘭丸は恐る恐るガラシャに尋ねた。

「あの・・・、蘭は何度も言うように初めてにございますから、
ガラシャ様にはつらい思いをさせてしまうかもしれません。
それでも懸命に励みます故・・・、・・・よ、宜しいですか?」

必死の様相で睨み付ける様に見てくる蘭丸を可愛らしく思いながら、
ガラシャは満面の笑みを浮かべて顔を縦に振った。

「・・・それでは、参りますね」


ズボンを脱ぎ、下穿きを取って全裸になった蘭丸は、
すっかり膨張しきったそれをそっと、ガラシャの蜜壷の入り口に押し当てた。



「ひ・・・!?ゃぁああああああっ・・・!!」


それまで感じていた甘ったるい疼きとは全く違う、
ただただ自分を引き裂くように進入してくる異物に、ガラシャは痛みを覚えて悲鳴を上げた。
堪える余裕もなく涙を零して、縋る様に蘭丸の背中を必死で抱きしめる。

「ぁう・・・、申し訳ございません・・・!」
反対に蘭丸は、蜜壷の肉圧にこれまでにない、初めての快感を覚えていた。
それでもガラシャを少しでも苦しめないようにと、あくまでじりじりと自身を埋め込んでいく。

それは数分にも満たない時間だったが、二人にとっては恐ろしく長い時間。


「・・・これで、全部です・・・」
脂汗で額に張り付くガラシャの前髪をそっと掻き分けて、蘭丸は喘ぐように言ってガラシャに笑いかけた。
「ふ・・・ぁ・・・。き、きついものじゃのう・・・」
苦しそうにしながらもなんとか笑みを返そうとする彼女が痛々しくて、蘭丸は何度もガラシャの唇に口を寄せた。

そして少しずつ、動かしていく。

「きゃ・・・、ひん!やっ!あぅっ!」
擦れる度に激痛を感じ、奥を突かれる度にほんの少しの快楽を感じながら、
自分の体に夢中になる蘭丸を、ガラシャは離れないようにぎゅっと抱きしめる。
それに答えるように、蘭丸の腰使いは少しずつ激しさを帯びていった。

「いぁ、んっ、ら、蘭丸、・・・お、奥が・・・、きもち、いいかも・・・!」
余りに必死で返事が出来ない蘭丸は、腰をどっぷりとガラシャに打ち付けることでその要望に答えた。

「あっ・・・!ぁ、んはっ、ん、ら、んまる・・・!」
「・・・ふ・・・ぅ、ガラシャさ、ま・・・!」
まじないの様に二人とも互いの名を呼び続けながら、次第に高みへと昇っていく。

やがて蘭丸の腰使いが一層激しくなると、ガラシャは甘い声を上げながら身悶えた。
「やぁ・・・!蘭丸、奥が、・・・奥が気持ちいいのじゃ・・・!!」
「は・・・っ、ん、ガラシャ様・・・!」
「んやっ、はぅ!ああっ・・・!す・・・ご・・・!」
痺れる様な快感に酔いしれるようになった頃、蘭丸が困ったように鳴いた。

「すいませ・・・、も、もう気持ちよくて・・・」
「ふぁ・・・?なに・・・・・・、・・・っひゃあっ!」
顔を真っ赤にして、切なく口を開けながら彼はガラシャの中に自分の精を注ぎ込む。
生暖かい感触と、びくびくと震える彼のものをガラシャは感じとった。

「ぁ・・・、ガラシャ様・・・。申し訳ございません・・・」
今日何度も口にしている謝罪を述べながら、蘭丸は彼女の胸に顔を埋めた。
優しい気持ちになりながら、ガラシャはそんな彼の頭を宥める様に何度も撫でてやる。


気持ちよさそうにまどろむ蘭丸を見ながら次第にガラシャも眠くなり、二人は繋がったまま眠りに落ちていくのだった。



「で、結局信長んとこへの訪問は滞りなく済んだのかね」
「まあ、な・・・」


数日後の同じ場所で落ち合ったガラシャと孫市は、先日話し合った信長へのお礼訪問の話になっていた。
今日のガラシャは落ち着いた赤を表立たせたいつもより少し派手目の装いだったが、
子供っぽく見えることもなく、艶やかな雰囲気に仕上がっていた。

少しばかりガラシャを心配していた孫市は、予想外のガラシャの反応に肩透かしを食らったような気になってしまう。
「あんなに蘭丸のことを気にしてたってのに意外だな。
・・・もしかして話してみたら予想外にいい男だったもんで、仲良くなっちまったりしたのか?」
「べ、別にそういうわけではないが・・・、・・・まぁ、色々分かった気がする・・・」

言いにくそうに眉をしかめながら、孫市の顔を見ずに返事をするガラシャに、彼はどことなく寂しさを感じてしまう。
「ふぅん?まっ、仲良きことは良きことかな、ってな。下手に険悪な関係よりかは、良かったのかもしんねーな」
「そうかもしれぬのう・・・」

上の空で返事をし続けるガラシャにいい加減苛立ちを覚え、何かを言おうとしたときに、
突然彼女は孫市を真剣な表情で見つめてきた。

「孫市・・・」
「な、なんだ?いきなり真面目な顔しやがって」
言われて少し顔に憂いを見せながら、それでもガラシャは彼を見つめた。

(・・・なんだぁ?こりゃ・・・)

彼はそんな彼女の表情に、幼くも妙な色気を感じ取ってどきりとしてしまう。
「怪我も病気もしておらぬが、私は最近いつも胸を痛めてしまう・・・」
自分の胸元にそっと手を置いて、ガラシャは伏し目がちに呟いた。
その淑やかな仕草に、孫市は思わず唾を飲んで見つめることしか出来ない。

「そちも、このように胸を痛めることがあるのか?どうしたら、独りでこの痛みを和らげることができると思うか?」
縋るような目つきで見てくる彼女から目を逸らして、こりゃ骨抜きだと彼は心の中で舌を巻いた。
「どーしようもねーだろ。・・・そういうことは張本人に聞いてみるこったな」
いまいち曖昧な答えに的を得なかった彼女は、釈然としない顔でありながらもとりあえず相槌を打った。

それから数分話した後自分の理性に危険を感じてしまった孫市は、
用があるからなどと適当に言葉を並べ立て、逃げるようにして里へと馬を走らせた。


(──あんな餓鬼まで女にしちまうたぁ、織田家の魔性ってのはつくづく恐えもんだ)


半ば何かに呆れながら、孫市は胸中で嘆息して独りごちる。
「あー、でも、俺が教えてやるってのも有りだったよなぁ、絶対」



ちょっとだけ悔しそうに呟いた声もすぐに風と共に消え去って。

蝉の鳴き声が本格的な夏の到来を告げるように忙しなく鳴き続ける、そんな夏の午後だった。


最後の小話のラストは
「蝉たちが本格的な夏の到来を告げるようにして忙しなく鳴き続ける、そんな夏の午後だった。」
が正しい表記であります。すませんorz

注意点に入れるの忘れてた・・・。
つガラシャが過度にゴスロリですorz


ガラシャを見た瞬間にゴスロリだ!と思ったために、
ガラシャの心情などを表すことが出来るような色のかわいいゴスロリ服(脳内)を着せてみました・・・。
萌えてくれれば幸いかと。

光秀の娘っちゅーことで蘭丸と接点ありそうだなと思ったのと、
二人ならなんか若いエロさがでそうと思って書きました。
以前投下したのも蘭丸メインだったのでそろそろ他キャラ書きたいです。

読んでくださった方はどうもでした。
名無しに戻りますノシ


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