「洗脳ねェ・・・・・。お粗末なモンだけど」
イノの足元に倒れているのは大きな錨を持つ少女。
もっともその錨も支えてくれる人物が地に伏している今、力なく横たわっているだけだが。
「あのポンコツロボットじゃあここまでが限界ってやつなのかしらね。全然この子の力を引き出せてないし」
本気を出すまでもない。
自分を襲ってきたこの少女を軽くあしらったあと、こうして物足りなさを感じているわけだが。
「・・・・・・・イイこと思いついちゃった」
少し考えこんだあと、イノは笑みを浮かべた。
残酷で、妖艶な。
紙袋を被って白衣を着た人物、ファウストが歩いている。
「今日はなんだか怪我人が多いですねェ・・・・・」
ふいに、足を止める。
目の前に、錨を持った少女がファウストの進路を塞ぐように立っていた。
「おや、あなたは・・・・」
「こ、ろ、す」
言うなり、襲いかかってきた。
「!?」
愛用の長いメスで攻撃を受け止める。
「これも同件ですかね・・・?」
先ほど、ジャパニーズ2人に連れてこられた青年を手当てしたものだが。
なにやら洗脳を受けていて、2人がかりで正気に戻したらしい。
目の焦点が合っていない。表情が無い。言動が機械的。
あの終戦管理局のロボットと同じような感じらしい。というか、そいつの仕業だと。
そんな話を聞いた。
「せんせいをころす」
「!?」
「わたしをころしたせんせいを」
「ッ!」
思わず力を緩めてしまい、押し負ける。
が、すぐに間合いを離して、立て直す。
「いつもの彼女ではありませんね・・・・・・・」
しかし何かがひっかかる。これは本当にあのロボットの仕業なのだろうか?
メイを傷つけないように、攻撃を受け流す。
「たすけてくれるっていったのに」
ぼそり、とメイがつぶやいた。
「たすけてくれるっていったのに」
「しんじてたのに」
「せんせいなら」
「せんせいなら」
「わたしを」
「・・・・・・っ」
ファウストに動揺が走る。
メイはその隙を逃さない。
重い一撃がファウストをとらえ、長身の身体がまともにふっとんだ。
受身もとれず地面を転がる。
「くっ」
すぐに起き上がるが、すぐ傍にメイがいた。
「またころすの?」
無表情でメイがつぶやくと、メスを握り締めようとしたファウストの動きがぴたりと止まった。
上にかがげられた錨が思い切りファウストに向かって振り下ろされた。
ファウストは、動かない。
錨がファウストの肩をぐしゃりとえぐる。
だらりと腕が下がり、白衣が赤く染まっていく。
布に吸い取られきれなかった血が、地面に落ちて染みをつくっていく。
メイはそんなファウストを見下ろすと、またぶつぶつとしゃべりはじめた。
「せんせいのおてて、まっか」
「あのときもまっかだった」
「いまもまっか」
「わたしのちで、まっかっか」
「・・・・・・もう、いいんですか?このまま、あなたの手にかかることを・・・・拒まなくても」
無傷な方の手で肩を押さえる。すぐに手が赤く染まった。
手を肩から離し、べっとりと汚れた手をじっと見つめる。
「償えるものなど何もない 償える方法などない」
それでも
「貴方は許してくれましたね」
見つめていた手を握り締める。
「そしてなお、私を逃がしてくれる・・・というのですか?安息を、いただけると?」
メイとファウストの視線がぶつかった。
「・・・・こ、ろす・・・・!!」
メイの表情に変化があったのは、気のせいだったのかもしれない。
動く方の手で錨を握る手をそっと押さえる。
「貴方が許してくれたとしても・・・やはりまだ、私は・・・・・・」
メイの手から錨が離れ、地面に落ちる。
「・・・・ぅ・・・・あ」
頭を抱えるようにして、メイがよろめく。
「・・・ぁ、や、だ・・・・・・・死んじゃ、やだよぅ・・・」
「お嬢さん?」
「せんせいの、せいじゃないの・・・・・・せいじゃないのに・・・・・・っ」
ぼろぼろとメイの瞳から涙がこぼれた。
泣きながら、ぺたりとメイがその場にしゃがみこむ。
「・・・・・ありがとう、ございます・・・・・」
涙をぬぐってやろうとして、自身の手が血で汚れていることに気付き、手を止める。
ひっこめようとしたそのとき、メイの手がファウストのその手を握ってきた。
驚きを隠せずに、とまどう。
しばらくメイはぐずっていたが、急に糸が切れたように横に倒れる。
とっさに手をのばして地面に横倒しになる前にその身体を支えた。
二の腕あたりで彼女を支えながら、自分自身の顔を覆って俯いた。
紙袋がくしゃりと音をたてる。
泣きたかったのか謝りたかったのか、嬉しかったのか。
ファウストはしばらくその場を動けなかった。
「・・・・・・つまンないの。洗脳が甘かったのかしら」
イノはため息をつくと音もなくその場から去った。
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「気がつきましたか?」
彼女の目にとびこんできたのは袋。ちょうど人の顔にたとえると、右目のある位置に穴があいている。
「!ッ・・・・・・・ぁ、・・・・お、お医者さま・・・?」
「怪我はたいしたことないようでよかったですが・・・。どうしました?背中のお二人も随分おとなしいようでしたが」
「・・・ほ、ホンモノ・・・・ですよね」
「? 先ほど貴方が気がつかれたときも思いましたが・・・・、私がどうかしましたか?」
ディズィーはまだ先ほど起きたことが信じられない、と沈痛な表情で口を開いた。
「私の・・・・・偽者?」
「容姿は見分けがつかないほどでした・・・・。でも、お医者様とは何か違って。雰囲気とか、感じとかが・・・・
でも、なにより違ったのは」
狂ったような狂気。
「何をされたかも覚えてないんです・・・・、気がついたら、あの・・・」
自分の身体をだきしめるようにして震えるディズィーの肩に、そっとファウストは手を置いた。
「ええ、もういいですよ。ありがとうございます」
背中からパラソルを出す。
「お送りいたしましょう。立てますか?」
メイシップにつくと、船員がすぐに気付いてかけよってきた。
「お帰りディズィー!あれ、メイは一緒じゃないの?探しに行くって・・・・」
「まさか・・・・!」
「お嬢さん、メイさんが何処へ行かれるか聞いていませんか?」
「あ、えっと・・・最寄の」
行き先を聞いた瞬間、ファウストの姿がかき消えた。
「きゃぁあああっ!!」
吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ひゃあッはァ!」
笑いながら、長いメスを振りかぶりながら襲ってくるのは、顔見知りの人物だった。
「・・・っくぅっ」
起き上がり、錨を構える。
(見たことある、ディズィーがよく話してくれたあのおじさん・・・・ボクも会ったことある・・・・・でも)
ガキンと音をたてて、メスと錨がぶつかりあう。
(いつものおじさんじゃない・・・・気がする)「ッあ!?」
攻撃に耐えられず、またもふっとばされる。
「いたた・・・」
うめいて、起き上がろうとした目の前に。
「ひ・・・・ッ」
紙袋の奥からにじみでる狂気がメイを震え上がらせた。
メスが突き出される。
甲高い金属音が響いた。
反射的にきつくつぶっていた目をそっとあけると、目の前にはやはり紙袋。
紙袋の自分への攻撃を、紙袋が受け止めてくれている。
「え、あ・・・・おじさんが、2人?」
たったいま現れたファウストが、メイを抱え上げて大きく間合いをとる。
「大丈夫ですか?」
「う、うん・・・・」
今さっきまで同じ人物と対峙していたのに、今現れたファウストの傍にいることは怖くなかった。
「貴方ですか?私の偽者は」
「はァ?テメェが俺の偽者だろうよ」
よくみると、相手は着ている白衣は同じものの、色が黒に近い深緑。
かぶっている袋もこちらのものより灰色がかかっている。
「ジャマすんじゃねぇよ・・・・久しぶりの獲物なんだからよ・・・・・・」
「させませんよ。少しおとなしくしていなさい」
メスとメスがぶつかりあう。
「なァ、そのメスで何人殺した?」
音とともに、火花が散る。
「最初の獲物はそこの嬢ちゃんに良く似てたよなぁ」
「・・・・・っ」
「スキだらけだぜェ!?」
黒ファウストの一撃で、ファウストの手からメスが飛んだ。
「死になァ!」
渾身の一撃が突き刺さる。
「ッ・・・な!?」
だが、そこには布が一枚ひらりと舞っているだけだった。
「上ですよ」
ごきんと鈍い音がした。
「テ・・・・・メっ・・・・」
黒ファウストが地に倒れる。
「ふう、厄介な患者ですねえ・・・・・・」
メスを拾い上げ、メイに向き直る。
「・・患者・・・・・」
<そのメスで何人殺した?>
どくんと身体が脈打つ。
<最初の獲物はそこの嬢ちゃんに良く似てたよなぁ>
目の前にいる少女が、他のよく知っている少女の姿と重なる。
「おじさん、大丈夫?」
はっと我にかえる。
「・・ええ、大丈夫ですよ。すいません、少々・・・・・」
ずぎゅっ。
刃物が肉を貫く音がした。
「・・・がっ・・・・」
からん、とメスがファウストの手を離れ、地に落ちた。
ファウストの胸から、血で濡れたメスが突き出ている。
「よくもやってくれやがったなァ」
黒ファウストがメスをひねって引き戻した。
大量の血が傷口から溢れ、ファウストが膝をついた。
「そこで見てな・・・・・テメェが一番望んでいる光景をみせつけてやらァ!」
メイに向かってメスを突き刺す。
「・・・・・・・っ!」
ファウストは膝をつきながらも、必死に手をのばしメイの手を無理やりひっぱった。
「ひゃあ!」
バランスを崩し、前のめりになるメイ。
メスが空を切った。
「ちぃっ!」
舌打ちし、メスを垂直にし、振り下ろしてくる。
「ぐぅ・・・っ!」
その攻撃を避けようと身体を動かすと、傷口からさらに血があふれて白い白衣を赤く染めた。
メイを押し倒すような形になりながらも、なんとか彼女をかばう。
「ひゃははははははぁあ!!」
好機といわんばかりに無防備なファウストの背中を何度も切りつける。
深くえぐられ、血がしぶいた。
「・・・・ど、どいて!!死んじゃうよォ!!」
メイが目に涙をうかべて叫ぶが、ファウストは黙って耐えている。
叫びもせず、動きもせずに。
「うぜェんだよ!!」
ファウストの右肩を、黒ファウストのメスが深くえぐる。
「っぐ・・・・・!」
まっすぐに伸ばしていたひじががくんと曲がり、右ひじを地面につく。
「テメェごと貫いてやらァ!!」
大きくメスをふりかぶる。
その時、メイの視界にファウストのメスが入った。
手をのばしてそれをつかみ、なげつける。
「っぎゃあぁッ!!」
黒ファウストがのけぞって叫んだ。
「~~テメェエ!」
自らメスを引き抜いて投げ捨て、自分のメスでファウストの頭を突き刺した。
血がしぶく。
・・・・かと思いきや、2人の姿はそこになく、自分のメスが突き刺さったファウストの紙袋が残るのみ。
よくみると、紙袋から導線のようなものがあり、ジジジ・・・と小さな音をたてていた。
「んなぁ!?」
爆発がおきて、ふっとばされる。
「ちくしょうが・・ッ」
「動かないでくださいね」
後ろから、長いメスが黒ファウストの首にあてられている。
「まあ貴方ならお分かりでしょうが・・・・・動いたら、死にますよ」
「・・・・・・・・・・」
「先ほど貴方を私の偽者・・・・といいましたが、そうではないようですね」
「あァ?さっさと切れよ」
「貴方は、私です」
「ハッ。俺はお前なんか認めねえからな・・・・・・・」
ざら、と黒ファウストのメスが砂のように空に消えていく。
それと同時に、彼自身の身体もざらざらと崩れていく。
「そうさ。俺はお前でお前は俺だ。しょせん、人殺しは人殺しなんだよ。許されることもない」
「充分承知ですよ。許しを請う気などない。そして、貴方は消えない。・・・少し眠りなさい」
そして完全に崩れ去った。
それを確認すると、ファウストはどさりとその場に倒れこんだ。
じわじわと彼の血が地面にひろがっていく。
「おじさん・・・・ッ、大丈夫!?」
メイがあわてて駆け寄ってくる。
「はは、少しキツいですが・・・・・ああ、貴方にはご迷惑をおかけしましたね・・・・」
「そんなことないよ・・っ、助けてくれたじゃん!」
「たすけ・・・・られたのでしょうか、貴方を・・・・・・」
「何言ってんの、しっかりしてよ・・・・っ、手当て、手当てしないと・・・・」
背中は赤く染まり、まだ血もとまっていない。
「・・・汚れて、しまいますよ・・・・、お仲間さんが心配していらっしゃいます・・・・・、お送りすることはできませんが、は、やく・・」
「何言ってるの、置いていけないよ!」
「私は理由あって、公共の施設にはお世話になれないですし・・・・・・・、さあ、はやくお帰りに・・なってくだ・・・・・・さ」
メイがまだ何か言っていたが、ファウストの耳には入っていなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・ここは・・・・・?」
目を開けると、見慣れない天井があった。
窓から外を見ると、空の上だった。
「ああ、あの子らの・・・・・・お世話になってしまいましたね。御礼は後日させてもらうとしましょう」
窓を開け、傘をさし、とびたった。
彼女の目にとびこんできたのは袋。ちょうど人の顔にたとえると、右目のある位置に穴があいている。
「!ッ・・・・・・・ぁ、・・・・お、お医者さま・・・?」
「怪我はたいしたことないようでよかったですが・・・。どうしました?背中のお二人も随分おとなしいようでしたが」
「・・・ほ、ホンモノ・・・・ですよね」
「? 先ほど貴方が気がつかれたときも思いましたが・・・・、私がどうかしましたか?」
ディズィーはまだ先ほど起きたことが信じられない、と沈痛な表情で口を開いた。
「私の・・・・・偽者?」
「容姿は見分けがつかないほどでした・・・・。でも、お医者様とは何か違って。雰囲気とか、感じとかが・・・・
でも、なにより違ったのは」
狂ったような狂気。
「何をされたかも覚えてないんです・・・・、気がついたら、あの・・・」
自分の身体をだきしめるようにして震えるディズィーの肩に、そっとファウストは手を置いた。
「ええ、もういいですよ。ありがとうございます」
背中からパラソルを出す。
「お送りいたしましょう。立てますか?」
メイシップにつくと、船員がすぐに気付いてかけよってきた。
「お帰りディズィー!あれ、メイは一緒じゃないの?探しに行くって・・・・」
「まさか・・・・!」
「お嬢さん、メイさんが何処へ行かれるか聞いていませんか?」
「あ、えっと・・・最寄の」
行き先を聞いた瞬間、ファウストの姿がかき消えた。
「きゃぁあああっ!!」
吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ひゃあッはァ!」
笑いながら、長いメスを振りかぶりながら襲ってくるのは、顔見知りの人物だった。
「・・・っくぅっ」
起き上がり、錨を構える。
(見たことある、ディズィーがよく話してくれたあのおじさん・・・・ボクも会ったことある・・・・・でも)
ガキンと音をたてて、メスと錨がぶつかりあう。
(いつものおじさんじゃない・・・・気がする)「ッあ!?」
攻撃に耐えられず、またもふっとばされる。
「いたた・・・」
うめいて、起き上がろうとした目の前に。
「ひ・・・・ッ」
紙袋の奥からにじみでる狂気がメイを震え上がらせた。
メスが突き出される。
甲高い金属音が響いた。
反射的にきつくつぶっていた目をそっとあけると、目の前にはやはり紙袋。
紙袋の自分への攻撃を、紙袋が受け止めてくれている。
「え、あ・・・・おじさんが、2人?」
たったいま現れたファウストが、メイを抱え上げて大きく間合いをとる。
「大丈夫ですか?」
「う、うん・・・・」
今さっきまで同じ人物と対峙していたのに、今現れたファウストの傍にいることは怖くなかった。
「貴方ですか?私の偽者は」
「はァ?テメェが俺の偽者だろうよ」
よくみると、相手は着ている白衣は同じものの、色が黒に近い深緑。
かぶっている袋もこちらのものより灰色がかかっている。
「ジャマすんじゃねぇよ・・・・久しぶりの獲物なんだからよ・・・・・・」
「させませんよ。少しおとなしくしていなさい」
メスとメスがぶつかりあう。
「なァ、そのメスで何人殺した?」
音とともに、火花が散る。
「最初の獲物はそこの嬢ちゃんに良く似てたよなぁ」
「・・・・・っ」
「スキだらけだぜェ!?」
黒ファウストの一撃で、ファウストの手からメスが飛んだ。
「死になァ!」
渾身の一撃が突き刺さる。
「ッ・・・な!?」
だが、そこには布が一枚ひらりと舞っているだけだった。
「上ですよ」
ごきんと鈍い音がした。
「テ・・・・・メっ・・・・」
黒ファウストが地に倒れる。
「ふう、厄介な患者ですねえ・・・・・・」
メスを拾い上げ、メイに向き直る。
「・・患者・・・・・」
<そのメスで何人殺した?>
どくんと身体が脈打つ。
<最初の獲物はそこの嬢ちゃんに良く似てたよなぁ>
目の前にいる少女が、他のよく知っている少女の姿と重なる。
「おじさん、大丈夫?」
はっと我にかえる。
「・・ええ、大丈夫ですよ。すいません、少々・・・・・」
ずぎゅっ。
刃物が肉を貫く音がした。
「・・・がっ・・・・」
からん、とメスがファウストの手を離れ、地に落ちた。
ファウストの胸から、血で濡れたメスが突き出ている。
「よくもやってくれやがったなァ」
黒ファウストがメスをひねって引き戻した。
大量の血が傷口から溢れ、ファウストが膝をついた。
「そこで見てな・・・・・テメェが一番望んでいる光景をみせつけてやらァ!」
メイに向かってメスを突き刺す。
「・・・・・・・っ!」
ファウストは膝をつきながらも、必死に手をのばしメイの手を無理やりひっぱった。
「ひゃあ!」
バランスを崩し、前のめりになるメイ。
メスが空を切った。
「ちぃっ!」
舌打ちし、メスを垂直にし、振り下ろしてくる。
「ぐぅ・・・っ!」
その攻撃を避けようと身体を動かすと、傷口からさらに血があふれて白い白衣を赤く染めた。
メイを押し倒すような形になりながらも、なんとか彼女をかばう。
「ひゃははははははぁあ!!」
好機といわんばかりに無防備なファウストの背中を何度も切りつける。
深くえぐられ、血がしぶいた。
「・・・・ど、どいて!!死んじゃうよォ!!」
メイが目に涙をうかべて叫ぶが、ファウストは黙って耐えている。
叫びもせず、動きもせずに。
「うぜェんだよ!!」
ファウストの右肩を、黒ファウストのメスが深くえぐる。
「っぐ・・・・・!」
まっすぐに伸ばしていたひじががくんと曲がり、右ひじを地面につく。
「テメェごと貫いてやらァ!!」
大きくメスをふりかぶる。
その時、メイの視界にファウストのメスが入った。
手をのばしてそれをつかみ、なげつける。
「っぎゃあぁッ!!」
黒ファウストがのけぞって叫んだ。
「~~テメェエ!」
自らメスを引き抜いて投げ捨て、自分のメスでファウストの頭を突き刺した。
血がしぶく。
・・・・かと思いきや、2人の姿はそこになく、自分のメスが突き刺さったファウストの紙袋が残るのみ。
よくみると、紙袋から導線のようなものがあり、ジジジ・・・と小さな音をたてていた。
「んなぁ!?」
爆発がおきて、ふっとばされる。
「ちくしょうが・・ッ」
「動かないでくださいね」
後ろから、長いメスが黒ファウストの首にあてられている。
「まあ貴方ならお分かりでしょうが・・・・・動いたら、死にますよ」
「・・・・・・・・・・」
「先ほど貴方を私の偽者・・・・といいましたが、そうではないようですね」
「あァ?さっさと切れよ」
「貴方は、私です」
「ハッ。俺はお前なんか認めねえからな・・・・・・・」
ざら、と黒ファウストのメスが砂のように空に消えていく。
それと同時に、彼自身の身体もざらざらと崩れていく。
「そうさ。俺はお前でお前は俺だ。しょせん、人殺しは人殺しなんだよ。許されることもない」
「充分承知ですよ。許しを請う気などない。そして、貴方は消えない。・・・少し眠りなさい」
そして完全に崩れ去った。
それを確認すると、ファウストはどさりとその場に倒れこんだ。
じわじわと彼の血が地面にひろがっていく。
「おじさん・・・・ッ、大丈夫!?」
メイがあわてて駆け寄ってくる。
「はは、少しキツいですが・・・・・ああ、貴方にはご迷惑をおかけしましたね・・・・」
「そんなことないよ・・っ、助けてくれたじゃん!」
「たすけ・・・・られたのでしょうか、貴方を・・・・・・」
「何言ってんの、しっかりしてよ・・・・っ、手当て、手当てしないと・・・・」
背中は赤く染まり、まだ血もとまっていない。
「・・・汚れて、しまいますよ・・・・、お仲間さんが心配していらっしゃいます・・・・・、お送りすることはできませんが、は、やく・・」
「何言ってるの、置いていけないよ!」
「私は理由あって、公共の施設にはお世話になれないですし・・・・・・・、さあ、はやくお帰りに・・なってくだ・・・・・・さ」
メイがまだ何か言っていたが、ファウストの耳には入っていなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・ここは・・・・・?」
目を開けると、見慣れない天井があった。
窓から外を見ると、空の上だった。
「ああ、あの子らの・・・・・・お世話になってしまいましたね。御礼は後日させてもらうとしましょう」
窓を開け、傘をさし、とびたった。
見られた。
呆然と立ち尽くす少女は、いつもよりさらに幼く見えた。
・・・誤魔化せない。
どうしてやればいい?
下手な嘘は逆効果になる。
少しでも、彼女の負担を減らし、安心させてやるにはどうしたらいい?
答えが、見つからない。
「め、イ・・・」
喉にまだまとわりつく血が声を掠れさせた。
無理矢理空気を通して声を出したため、再び咳き込む。
咳きの音に、メイの身体がびくっと震える。
「・・・・大丈夫だから」
目は合わせられなかった。
今言った言葉が正しいと信じさせてやれるだけの証拠はなかったが、
チップはそれだけ言うと黙り込んだ。
ふらふらとメイが近寄ってくる。
拒みもせず、肯定することもせず、座り込んだままチップはメイを見なかった。
ぺたん、とチップの横にメイが力なく座り込む。
「・・・・・やだ」
震える手でチップの服を掴む。
「やだ、やだ・・・・イヤ・・・・」
「・・・何が」
「しんじゃやだ」
「死なねぇって」
「だって、血、はいた・・・・・」
「大丈夫だって」
ぎゅう、と服を掴む手に力がこもった。
「・・・やだ、やだよぅ・・・死んじゃ、やだぁ!!」
「メ・・・」
「イヤだ!ヤダ!ボクを置いていかないで!」
泣き叫ぶメイを、宥めるように抱きしめた。
「・・もぅ、置いてかれるのは・・・・やだよぉ・・・・・」
泣きじゃくるメイをただ抱きしめることしか出来なかったが、抱きしめる腕に力を込めた。
一瞬でも血におびえた自分が、もういない。
死が怖くなくなったのはいつからだったか。
死が、怖くなったのはいつからだったか。
自分にすがりつく存在が、ここまでとは思わなかった。
なぐさめられているのはどっちだったのか。
チップには、分からなかった。
呆然と立ち尽くす少女は、いつもよりさらに幼く見えた。
・・・誤魔化せない。
どうしてやればいい?
下手な嘘は逆効果になる。
少しでも、彼女の負担を減らし、安心させてやるにはどうしたらいい?
答えが、見つからない。
「め、イ・・・」
喉にまだまとわりつく血が声を掠れさせた。
無理矢理空気を通して声を出したため、再び咳き込む。
咳きの音に、メイの身体がびくっと震える。
「・・・・大丈夫だから」
目は合わせられなかった。
今言った言葉が正しいと信じさせてやれるだけの証拠はなかったが、
チップはそれだけ言うと黙り込んだ。
ふらふらとメイが近寄ってくる。
拒みもせず、肯定することもせず、座り込んだままチップはメイを見なかった。
ぺたん、とチップの横にメイが力なく座り込む。
「・・・・・やだ」
震える手でチップの服を掴む。
「やだ、やだ・・・・イヤ・・・・」
「・・・何が」
「しんじゃやだ」
「死なねぇって」
「だって、血、はいた・・・・・」
「大丈夫だって」
ぎゅう、と服を掴む手に力がこもった。
「・・・やだ、やだよぅ・・・死んじゃ、やだぁ!!」
「メ・・・」
「イヤだ!ヤダ!ボクを置いていかないで!」
泣き叫ぶメイを、宥めるように抱きしめた。
「・・もぅ、置いてかれるのは・・・・やだよぉ・・・・・」
泣きじゃくるメイをただ抱きしめることしか出来なかったが、抱きしめる腕に力を込めた。
一瞬でも血におびえた自分が、もういない。
死が怖くなくなったのはいつからだったか。
死が、怖くなったのはいつからだったか。
自分にすがりつく存在が、ここまでとは思わなかった。
なぐさめられているのはどっちだったのか。
チップには、分からなかった。
01*「ポニーテール」
「そういやお前っていつもは髪おろしてんのな」
頬杖をつきながら、チップはメイに話しかける。
「ンー?何、急にー」
最近来る回数が増えたメイシップ。
メイはといえば、チップに背を向けたまま何かごそごそと探している。
「や、別になんでもねぇんだけどよ」
と言いつつ、いつもは見えない彼女のうなじをなんとなく見つめる。
メイの背中で揺れるポニーテールが、時々うなじを遮る。
「お前けっこう髪長いよなーと思って」
くん、と自分の髪が持ち上げられるのがわかった。
「うなじとか初めて見た」
「んなッ・・・離してよ、ヘンタイ!」
何故か顔を少し赤くして、メイが騒ぐ。
「あァ!?誰がヘンタイだ、誰が!」
「アンタのことに決まってんでしょ!離してってば!」
「・・・・・テメー」
髪をつかまれている手を振り解こうと、
メイが自分の手をふりあげる。
チップはメイの髪から手を離し、代わりに降りかかってきたメイの手首を掴んだ。
「うひゃ」
そのままうなじに唇を落とすと、メイが変な声をあげた。
「・・・お前もうちょっと色気のある声出ねぇの?」
「・・・・・!!」
うなじに手をあてて、メイが顔を真っ赤にする。
・・・・・怒りで。
メイの妙な奇声と、ばきぃっ!という派手な音がメイシップに響き渡った。
---------
「行くなよ」
懇願する訳でもなく、淡々と。
怒っても、笑ってもいない、無表情なチップの顔。
立ち上がり、その場を去ろうとしたときに、手首を掴まれた。
振りほどけないほど強く掴まれてはいなかった。
でも、振りほどくことができなかった。
「・・・ダメ、だよ。ジョニーが待ってる」
チップはそれ以上、何も言わなかった。
ただ、メイから顔を逸らすこともなく、先ほどの表情のままに、
メイを見ていた。
「行くなよ。」
さっきそう言われたとき、
メイの心臓がドキリとはねた。
-----------
「なァ、梅喧って『キツケ』出来るよな?」
「まぁな。なんだい、着物でも着たいのかい?」
煙管を口から放し、煙がくゆる。
「着物じゃなくてユカタ。あれ着せたい奴がいるんだけど」
俺も着たいけど。とチップは付け加えた。
「お前は闇慈のとこにでも行きな。そん前に、嬢ちゃんを連れてきな。俺からは動かねぇぞ」
ぱ、とチップの表情が明るくなるのを見て、なんとなく梅喧は笑みをこぼした。
「どこで手に入れてきたんだか」
梅喧はそうつぶやいた。
「ボク浴衣なんて初めて着るよ~」
メイはうれしそうにくるりと回ってみせた。
「披露してきな」
「うん!」
近くに止まっているメイシップから、隊員たちが降りてくる。
「わ、メイ可愛い~」
「エヘヘ~、ありがと」
「ジョニーってばどこいったのかな?」
「・・・ね、ちょっとボク探してくるよ。みんなはここで待ってて!」
「ここで待ってた方がいいんじゃない?」
そう声をかける隊員もいたが、エイプリルが口を出した。
「行ってきなよ。伝えとくから」
「??」
他の隊員は訳が分からず首をかしげた。
「闇慈さん、チップ来てる?」
「よぉ、嬢ちゃん。奥にいるぜ・・・って転ぶなよー」
闇慈が言い終わらないうちに、たかたかと小走りで奥の部屋に向かった。
「微笑ましいねぇ」
普段着よりずっとずっと走りにくかったが、それでもメイは小走りで続く廊下の角を曲がる。
「あ、チッ・・・うきゃ!」
部屋からチップがひょいと顔を出したところに遭遇する。
声をかけようとしたが、裾を踏んづけてしまい、前のめりになる。
「・・・っと!」
チップの腕がメイを支えた。
・・が、勢いが殺せずそのままチップを下敷きにして倒れこんだ。
「ご、ごめ・・・大丈夫?」
「・・・重い」
「!!!」
むきゃ、とメイが手を振り上げた。
が、言葉に反して笑顔だったチップを見ると、行き場のない手が空を仰いだ。
メイの顔にさわる。
「・・・ぜってぇ似合うと思った」
子どもみたいに嬉しそうに笑って、メイを抱き寄せた。
------------
一つの場所に留まるような人物ではない、
それは重々承知していたことだった。
それでも、かなりのあいだ会っていなかった。
自分を探そうと思えば、探せるはずだった。
「なんてったってお尋ねものなんだから!・・・ジョニーが、だけど」
チップはボクに会いたくないワケ?
・・・会わなくてもヘーキなワケ?
「・・・なんで?なんであんなのが気になるんだろ」
ジョニーより全然コドモっぽくて、
でもボクより年上で、
チップの、
ピアスの数とか、 目の色を近くで見るのが、好きだった。
「・・・別に会いたいワケじゃない」
けど、気になる。
外は雨だった。
「こーゆー気分のトキに雨だと・・・気分も晴れないなぁ」
ディズィーは雨だというのに出かけてしまった。
羽とか重くならないのかな。そんなことをふと思った。
「ボクも見習って散歩でも行こうかなぁ・・・」
ふらふらと外にでた。
大雨というわけでもないが、傘が必要でないこともない。
そんな中途半端な雨脚模様。
確信はなかった。
けれど、いつも自然と足が向く場所へ。
そこに、彼はいた。
「遅ェよ」
「・・・こっちのセリフだよ。どこ行ってたのさ」
「雨が悪ィんだよ」
「答えになってないよ」
「寒ィ。触らせろ」
「セクハラ」
「だから雨が悪ぃんだよ」
雨の日に出かけるもんじゃない
気分が 惑わされるから
---------
ふと 思い出す
怒った顔
物憂げな顔
眠そうな顔
笑った顔。
ガキくせぇ奴としか思ってなかったハズだったのに
ときたま、本当に時々、意外と大人びた顔をみせやがる。
家族連れの幸せそーなガキの顔を見て
お前のこと思い出したっつったら、
怒るだろうか。
笑うだろうか?
チップは少しだけ自嘲気味に、笑った。
「そういやお前っていつもは髪おろしてんのな」
頬杖をつきながら、チップはメイに話しかける。
「ンー?何、急にー」
最近来る回数が増えたメイシップ。
メイはといえば、チップに背を向けたまま何かごそごそと探している。
「や、別になんでもねぇんだけどよ」
と言いつつ、いつもは見えない彼女のうなじをなんとなく見つめる。
メイの背中で揺れるポニーテールが、時々うなじを遮る。
「お前けっこう髪長いよなーと思って」
くん、と自分の髪が持ち上げられるのがわかった。
「うなじとか初めて見た」
「んなッ・・・離してよ、ヘンタイ!」
何故か顔を少し赤くして、メイが騒ぐ。
「あァ!?誰がヘンタイだ、誰が!」
「アンタのことに決まってんでしょ!離してってば!」
「・・・・・テメー」
髪をつかまれている手を振り解こうと、
メイが自分の手をふりあげる。
チップはメイの髪から手を離し、代わりに降りかかってきたメイの手首を掴んだ。
「うひゃ」
そのままうなじに唇を落とすと、メイが変な声をあげた。
「・・・お前もうちょっと色気のある声出ねぇの?」
「・・・・・!!」
うなじに手をあてて、メイが顔を真っ赤にする。
・・・・・怒りで。
メイの妙な奇声と、ばきぃっ!という派手な音がメイシップに響き渡った。
---------
「行くなよ」
懇願する訳でもなく、淡々と。
怒っても、笑ってもいない、無表情なチップの顔。
立ち上がり、その場を去ろうとしたときに、手首を掴まれた。
振りほどけないほど強く掴まれてはいなかった。
でも、振りほどくことができなかった。
「・・・ダメ、だよ。ジョニーが待ってる」
チップはそれ以上、何も言わなかった。
ただ、メイから顔を逸らすこともなく、先ほどの表情のままに、
メイを見ていた。
「行くなよ。」
さっきそう言われたとき、
メイの心臓がドキリとはねた。
-----------
「なァ、梅喧って『キツケ』出来るよな?」
「まぁな。なんだい、着物でも着たいのかい?」
煙管を口から放し、煙がくゆる。
「着物じゃなくてユカタ。あれ着せたい奴がいるんだけど」
俺も着たいけど。とチップは付け加えた。
「お前は闇慈のとこにでも行きな。そん前に、嬢ちゃんを連れてきな。俺からは動かねぇぞ」
ぱ、とチップの表情が明るくなるのを見て、なんとなく梅喧は笑みをこぼした。
「どこで手に入れてきたんだか」
梅喧はそうつぶやいた。
「ボク浴衣なんて初めて着るよ~」
メイはうれしそうにくるりと回ってみせた。
「披露してきな」
「うん!」
近くに止まっているメイシップから、隊員たちが降りてくる。
「わ、メイ可愛い~」
「エヘヘ~、ありがと」
「ジョニーってばどこいったのかな?」
「・・・ね、ちょっとボク探してくるよ。みんなはここで待ってて!」
「ここで待ってた方がいいんじゃない?」
そう声をかける隊員もいたが、エイプリルが口を出した。
「行ってきなよ。伝えとくから」
「??」
他の隊員は訳が分からず首をかしげた。
「闇慈さん、チップ来てる?」
「よぉ、嬢ちゃん。奥にいるぜ・・・って転ぶなよー」
闇慈が言い終わらないうちに、たかたかと小走りで奥の部屋に向かった。
「微笑ましいねぇ」
普段着よりずっとずっと走りにくかったが、それでもメイは小走りで続く廊下の角を曲がる。
「あ、チッ・・・うきゃ!」
部屋からチップがひょいと顔を出したところに遭遇する。
声をかけようとしたが、裾を踏んづけてしまい、前のめりになる。
「・・・っと!」
チップの腕がメイを支えた。
・・が、勢いが殺せずそのままチップを下敷きにして倒れこんだ。
「ご、ごめ・・・大丈夫?」
「・・・重い」
「!!!」
むきゃ、とメイが手を振り上げた。
が、言葉に反して笑顔だったチップを見ると、行き場のない手が空を仰いだ。
メイの顔にさわる。
「・・・ぜってぇ似合うと思った」
子どもみたいに嬉しそうに笑って、メイを抱き寄せた。
------------
一つの場所に留まるような人物ではない、
それは重々承知していたことだった。
それでも、かなりのあいだ会っていなかった。
自分を探そうと思えば、探せるはずだった。
「なんてったってお尋ねものなんだから!・・・ジョニーが、だけど」
チップはボクに会いたくないワケ?
・・・会わなくてもヘーキなワケ?
「・・・なんで?なんであんなのが気になるんだろ」
ジョニーより全然コドモっぽくて、
でもボクより年上で、
チップの、
ピアスの数とか、 目の色を近くで見るのが、好きだった。
「・・・別に会いたいワケじゃない」
けど、気になる。
外は雨だった。
「こーゆー気分のトキに雨だと・・・気分も晴れないなぁ」
ディズィーは雨だというのに出かけてしまった。
羽とか重くならないのかな。そんなことをふと思った。
「ボクも見習って散歩でも行こうかなぁ・・・」
ふらふらと外にでた。
大雨というわけでもないが、傘が必要でないこともない。
そんな中途半端な雨脚模様。
確信はなかった。
けれど、いつも自然と足が向く場所へ。
そこに、彼はいた。
「遅ェよ」
「・・・こっちのセリフだよ。どこ行ってたのさ」
「雨が悪ィんだよ」
「答えになってないよ」
「寒ィ。触らせろ」
「セクハラ」
「だから雨が悪ぃんだよ」
雨の日に出かけるもんじゃない
気分が 惑わされるから
---------
ふと 思い出す
怒った顔
物憂げな顔
眠そうな顔
笑った顔。
ガキくせぇ奴としか思ってなかったハズだったのに
ときたま、本当に時々、意外と大人びた顔をみせやがる。
家族連れの幸せそーなガキの顔を見て
お前のこと思い出したっつったら、
怒るだろうか。
笑うだろうか?
チップは少しだけ自嘲気味に、笑った。
木の上が好きだった。
葉っぱが奏でる音も、なでていく風も、とても心地よい。
チップは木の上で休むことが多かった。
最近は、彼の隣にメイがいる回数が増えた。
買出しか何かで地上に降りていたらしく、
たまたまチップを見つけると、自分もと木に足をかける。
おいおい、と思ったが、メイは苦労することもなくチップの隣にたどり着いた。
「落ちンなよ?」
いつもはもっともっと高い空の上にいる彼女には、いらん心配だろうとは思ったが。
「空の上とはまた違うね。気持ちイイ」
そう言った、メイの笑顔が印象に残った。
それ以来、機会があれば木の上の、チップの隣にメイは居た。
別に何かする訳でもない。
たまに、他愛の無い会話を交わした。
メイがチップへ声をかける。
「ねえねえ、耳。見せて」
木の幹に寄りかかっていたチップが、メイに耳が見えるように姿勢を変えた。
「ピアス、左耳に1コしかしてないんだね。両耳にしないの?」
「あー・・・、穴は開いてんだけどな」
「片耳に1コずつ?」
「や、もっと開けたけど・・・・今は入れてねぇな。塞がってっかも」
「いくつ開いてるの?」
「んー・・・忘れた」
メイがチップの耳を覗き込む。
「わ、こんなとこにも開いてるッ」
チップの軟骨あたりをつまむ。
「えー、いくつ開いてんのコレ・・・右に1、2、3・・・・」
「何お前、ピアス開けんの」
「うーん、ちょっと開けたいカナーなんて思って・・・でも痛いのヤだし。チョット怖いかも・・・。あと膿んだりしたらやだなー」
視線はチップの耳に落としたまま、そう言った。
「痛かった?開けたとき。」
「・・・そーでもねぇよ」
「今、間があった」
「もう覚えてねぇんだよ。・・・あー、上の方が痛かったかもな」
「病院で開けた方がいいかな?」
「心配ならそうすりゃいいだろ」
「病院じゃなかったらやっぱ・・・安全ピンとか??」
「自分でピアス開ける道具みたいなの売ってんじゃねぇの?つか消毒とかすりゃ平気だろ」
「え~~、でもやっぱ病院の方が痛くなさそうだよね・・・。高くつくかなぁ」
「あの紙袋被った妖怪みてーな医者に開けてもらいやいーだろ」
「え゛、ヤダ!!それは絶ッ対にイ・ヤ!!」
「・・・・そうかよ」
「奇数がいいとか言うよね。なんでだろ?」
「知るかよ」
「運命変わった?」
「・・・さあな」
「そんなに開いてて使ってないんなら、1、2コちょうだいよ」
「・・無理言うな」
「でもよく耳にはツボがあって・・・」
「・・・・・・・ちょっとお前もう黙れ」
まだ色々と言ってくるメイの耳に手を伸ばして、
「!」
黙らせるために耳たぶを舐めた。
「キレーな耳してンだから、あんま穴だらけにすんなよ?」
もったいねぇから。
「・・・ヘンタイ!」
べち、と顔をはたかれた。
「まだ分かんないケド・・・もし開けたら」
メイがポツリとつぶやく。
お揃いの赤いピアスがいいな。
葉っぱが奏でる音も、なでていく風も、とても心地よい。
チップは木の上で休むことが多かった。
最近は、彼の隣にメイがいる回数が増えた。
買出しか何かで地上に降りていたらしく、
たまたまチップを見つけると、自分もと木に足をかける。
おいおい、と思ったが、メイは苦労することもなくチップの隣にたどり着いた。
「落ちンなよ?」
いつもはもっともっと高い空の上にいる彼女には、いらん心配だろうとは思ったが。
「空の上とはまた違うね。気持ちイイ」
そう言った、メイの笑顔が印象に残った。
それ以来、機会があれば木の上の、チップの隣にメイは居た。
別に何かする訳でもない。
たまに、他愛の無い会話を交わした。
メイがチップへ声をかける。
「ねえねえ、耳。見せて」
木の幹に寄りかかっていたチップが、メイに耳が見えるように姿勢を変えた。
「ピアス、左耳に1コしかしてないんだね。両耳にしないの?」
「あー・・・、穴は開いてんだけどな」
「片耳に1コずつ?」
「や、もっと開けたけど・・・・今は入れてねぇな。塞がってっかも」
「いくつ開いてるの?」
「んー・・・忘れた」
メイがチップの耳を覗き込む。
「わ、こんなとこにも開いてるッ」
チップの軟骨あたりをつまむ。
「えー、いくつ開いてんのコレ・・・右に1、2、3・・・・」
「何お前、ピアス開けんの」
「うーん、ちょっと開けたいカナーなんて思って・・・でも痛いのヤだし。チョット怖いかも・・・。あと膿んだりしたらやだなー」
視線はチップの耳に落としたまま、そう言った。
「痛かった?開けたとき。」
「・・・そーでもねぇよ」
「今、間があった」
「もう覚えてねぇんだよ。・・・あー、上の方が痛かったかもな」
「病院で開けた方がいいかな?」
「心配ならそうすりゃいいだろ」
「病院じゃなかったらやっぱ・・・安全ピンとか??」
「自分でピアス開ける道具みたいなの売ってんじゃねぇの?つか消毒とかすりゃ平気だろ」
「え~~、でもやっぱ病院の方が痛くなさそうだよね・・・。高くつくかなぁ」
「あの紙袋被った妖怪みてーな医者に開けてもらいやいーだろ」
「え゛、ヤダ!!それは絶ッ対にイ・ヤ!!」
「・・・・そうかよ」
「奇数がいいとか言うよね。なんでだろ?」
「知るかよ」
「運命変わった?」
「・・・さあな」
「そんなに開いてて使ってないんなら、1、2コちょうだいよ」
「・・無理言うな」
「でもよく耳にはツボがあって・・・」
「・・・・・・・ちょっとお前もう黙れ」
まだ色々と言ってくるメイの耳に手を伸ばして、
「!」
黙らせるために耳たぶを舐めた。
「キレーな耳してンだから、あんま穴だらけにすんなよ?」
もったいねぇから。
「・・・ヘンタイ!」
べち、と顔をはたかれた。
「まだ分かんないケド・・・もし開けたら」
メイがポツリとつぶやく。
お揃いの赤いピアスがいいな。