「気がつきましたか?」
彼女の目にとびこんできたのは袋。ちょうど人の顔にたとえると、右目のある位置に穴があいている。
「!ッ・・・・・・・ぁ、・・・・お、お医者さま・・・?」
「怪我はたいしたことないようでよかったですが・・・。どうしました?背中のお二人も随分おとなしいようでしたが」
「・・・ほ、ホンモノ・・・・ですよね」
「? 先ほど貴方が気がつかれたときも思いましたが・・・・、私がどうかしましたか?」
ディズィーはまだ先ほど起きたことが信じられない、と沈痛な表情で口を開いた。
「私の・・・・・偽者?」
「容姿は見分けがつかないほどでした・・・・。でも、お医者様とは何か違って。雰囲気とか、感じとかが・・・・
でも、なにより違ったのは」
狂ったような狂気。
「何をされたかも覚えてないんです・・・・、気がついたら、あの・・・」
自分の身体をだきしめるようにして震えるディズィーの肩に、そっとファウストは手を置いた。
「ええ、もういいですよ。ありがとうございます」
背中からパラソルを出す。
「お送りいたしましょう。立てますか?」
メイシップにつくと、船員がすぐに気付いてかけよってきた。
「お帰りディズィー!あれ、メイは一緒じゃないの?探しに行くって・・・・」
「まさか・・・・!」
「お嬢さん、メイさんが何処へ行かれるか聞いていませんか?」
「あ、えっと・・・最寄の」
行き先を聞いた瞬間、ファウストの姿がかき消えた。
「きゃぁあああっ!!」
吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ひゃあッはァ!」
笑いながら、長いメスを振りかぶりながら襲ってくるのは、顔見知りの人物だった。
「・・・っくぅっ」
起き上がり、錨を構える。
(見たことある、ディズィーがよく話してくれたあのおじさん・・・・ボクも会ったことある・・・・・でも)
ガキンと音をたてて、メスと錨がぶつかりあう。
(いつものおじさんじゃない・・・・気がする)「ッあ!?」
攻撃に耐えられず、またもふっとばされる。
「いたた・・・」
うめいて、起き上がろうとした目の前に。
「ひ・・・・ッ」
紙袋の奥からにじみでる狂気がメイを震え上がらせた。
メスが突き出される。
甲高い金属音が響いた。
反射的にきつくつぶっていた目をそっとあけると、目の前にはやはり紙袋。
紙袋の自分への攻撃を、紙袋が受け止めてくれている。
「え、あ・・・・おじさんが、2人?」
たったいま現れたファウストが、メイを抱え上げて大きく間合いをとる。
「大丈夫ですか?」
「う、うん・・・・」
今さっきまで同じ人物と対峙していたのに、今現れたファウストの傍にいることは怖くなかった。
「貴方ですか?私の偽者は」
「はァ?テメェが俺の偽者だろうよ」
よくみると、相手は着ている白衣は同じものの、色が黒に近い深緑。
かぶっている袋もこちらのものより灰色がかかっている。
「ジャマすんじゃねぇよ・・・・久しぶりの獲物なんだからよ・・・・・・」
「させませんよ。少しおとなしくしていなさい」
メスとメスがぶつかりあう。
「なァ、そのメスで何人殺した?」
音とともに、火花が散る。
「最初の獲物はそこの嬢ちゃんに良く似てたよなぁ」
「・・・・・っ」
「スキだらけだぜェ!?」
黒ファウストの一撃で、ファウストの手からメスが飛んだ。
「死になァ!」
渾身の一撃が突き刺さる。
「ッ・・・な!?」
だが、そこには布が一枚ひらりと舞っているだけだった。
「上ですよ」
ごきんと鈍い音がした。
「テ・・・・・メっ・・・・」
黒ファウストが地に倒れる。
「ふう、厄介な患者ですねえ・・・・・・」
メスを拾い上げ、メイに向き直る。
「・・患者・・・・・」
<そのメスで何人殺した?>
どくんと身体が脈打つ。
<最初の獲物はそこの嬢ちゃんに良く似てたよなぁ>
目の前にいる少女が、他のよく知っている少女の姿と重なる。
「おじさん、大丈夫?」
はっと我にかえる。
「・・ええ、大丈夫ですよ。すいません、少々・・・・・」
ずぎゅっ。
刃物が肉を貫く音がした。
「・・・がっ・・・・」
からん、とメスがファウストの手を離れ、地に落ちた。
ファウストの胸から、血で濡れたメスが突き出ている。
「よくもやってくれやがったなァ」
黒ファウストがメスをひねって引き戻した。
大量の血が傷口から溢れ、ファウストが膝をついた。
「そこで見てな・・・・・テメェが一番望んでいる光景をみせつけてやらァ!」
メイに向かってメスを突き刺す。
「・・・・・・・っ!」
ファウストは膝をつきながらも、必死に手をのばしメイの手を無理やりひっぱった。
「ひゃあ!」
バランスを崩し、前のめりになるメイ。
メスが空を切った。
「ちぃっ!」
舌打ちし、メスを垂直にし、振り下ろしてくる。
「ぐぅ・・・っ!」
その攻撃を避けようと身体を動かすと、傷口からさらに血があふれて白い白衣を赤く染めた。
メイを押し倒すような形になりながらも、なんとか彼女をかばう。
「ひゃははははははぁあ!!」
好機といわんばかりに無防備なファウストの背中を何度も切りつける。
深くえぐられ、血がしぶいた。
「・・・・ど、どいて!!死んじゃうよォ!!」
メイが目に涙をうかべて叫ぶが、ファウストは黙って耐えている。
叫びもせず、動きもせずに。
「うぜェんだよ!!」
ファウストの右肩を、黒ファウストのメスが深くえぐる。
「っぐ・・・・・!」
まっすぐに伸ばしていたひじががくんと曲がり、右ひじを地面につく。
「テメェごと貫いてやらァ!!」
大きくメスをふりかぶる。
その時、メイの視界にファウストのメスが入った。
手をのばしてそれをつかみ、なげつける。
「っぎゃあぁッ!!」
黒ファウストがのけぞって叫んだ。
「~~テメェエ!」
自らメスを引き抜いて投げ捨て、自分のメスでファウストの頭を突き刺した。
血がしぶく。
・・・・かと思いきや、2人の姿はそこになく、自分のメスが突き刺さったファウストの紙袋が残るのみ。
よくみると、紙袋から導線のようなものがあり、ジジジ・・・と小さな音をたてていた。
「んなぁ!?」
爆発がおきて、ふっとばされる。
「ちくしょうが・・ッ」
「動かないでくださいね」
後ろから、長いメスが黒ファウストの首にあてられている。
「まあ貴方ならお分かりでしょうが・・・・・動いたら、死にますよ」
「・・・・・・・・・・」
「先ほど貴方を私の偽者・・・・といいましたが、そうではないようですね」
「あァ?さっさと切れよ」
「貴方は、私です」
「ハッ。俺はお前なんか認めねえからな・・・・・・・」
ざら、と黒ファウストのメスが砂のように空に消えていく。
それと同時に、彼自身の身体もざらざらと崩れていく。
「そうさ。俺はお前でお前は俺だ。しょせん、人殺しは人殺しなんだよ。許されることもない」
「充分承知ですよ。許しを請う気などない。そして、貴方は消えない。・・・少し眠りなさい」
そして完全に崩れ去った。
それを確認すると、ファウストはどさりとその場に倒れこんだ。
じわじわと彼の血が地面にひろがっていく。
「おじさん・・・・ッ、大丈夫!?」
メイがあわてて駆け寄ってくる。
「はは、少しキツいですが・・・・・ああ、貴方にはご迷惑をおかけしましたね・・・・」
「そんなことないよ・・っ、助けてくれたじゃん!」
「たすけ・・・・られたのでしょうか、貴方を・・・・・・」
「何言ってんの、しっかりしてよ・・・・っ、手当て、手当てしないと・・・・」
背中は赤く染まり、まだ血もとまっていない。
「・・・汚れて、しまいますよ・・・・、お仲間さんが心配していらっしゃいます・・・・・、お送りすることはできませんが、は、やく・・」
「何言ってるの、置いていけないよ!」
「私は理由あって、公共の施設にはお世話になれないですし・・・・・・・、さあ、はやくお帰りに・・なってくだ・・・・・・さ」
メイがまだ何か言っていたが、ファウストの耳には入っていなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・ここは・・・・・?」
目を開けると、見慣れない天井があった。
窓から外を見ると、空の上だった。
「ああ、あの子らの・・・・・・お世話になってしまいましたね。御礼は後日させてもらうとしましょう」
窓を開け、傘をさし、とびたった。
彼女の目にとびこんできたのは袋。ちょうど人の顔にたとえると、右目のある位置に穴があいている。
「!ッ・・・・・・・ぁ、・・・・お、お医者さま・・・?」
「怪我はたいしたことないようでよかったですが・・・。どうしました?背中のお二人も随分おとなしいようでしたが」
「・・・ほ、ホンモノ・・・・ですよね」
「? 先ほど貴方が気がつかれたときも思いましたが・・・・、私がどうかしましたか?」
ディズィーはまだ先ほど起きたことが信じられない、と沈痛な表情で口を開いた。
「私の・・・・・偽者?」
「容姿は見分けがつかないほどでした・・・・。でも、お医者様とは何か違って。雰囲気とか、感じとかが・・・・
でも、なにより違ったのは」
狂ったような狂気。
「何をされたかも覚えてないんです・・・・、気がついたら、あの・・・」
自分の身体をだきしめるようにして震えるディズィーの肩に、そっとファウストは手を置いた。
「ええ、もういいですよ。ありがとうございます」
背中からパラソルを出す。
「お送りいたしましょう。立てますか?」
メイシップにつくと、船員がすぐに気付いてかけよってきた。
「お帰りディズィー!あれ、メイは一緒じゃないの?探しに行くって・・・・」
「まさか・・・・!」
「お嬢さん、メイさんが何処へ行かれるか聞いていませんか?」
「あ、えっと・・・最寄の」
行き先を聞いた瞬間、ファウストの姿がかき消えた。
「きゃぁあああっ!!」
吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ひゃあッはァ!」
笑いながら、長いメスを振りかぶりながら襲ってくるのは、顔見知りの人物だった。
「・・・っくぅっ」
起き上がり、錨を構える。
(見たことある、ディズィーがよく話してくれたあのおじさん・・・・ボクも会ったことある・・・・・でも)
ガキンと音をたてて、メスと錨がぶつかりあう。
(いつものおじさんじゃない・・・・気がする)「ッあ!?」
攻撃に耐えられず、またもふっとばされる。
「いたた・・・」
うめいて、起き上がろうとした目の前に。
「ひ・・・・ッ」
紙袋の奥からにじみでる狂気がメイを震え上がらせた。
メスが突き出される。
甲高い金属音が響いた。
反射的にきつくつぶっていた目をそっとあけると、目の前にはやはり紙袋。
紙袋の自分への攻撃を、紙袋が受け止めてくれている。
「え、あ・・・・おじさんが、2人?」
たったいま現れたファウストが、メイを抱え上げて大きく間合いをとる。
「大丈夫ですか?」
「う、うん・・・・」
今さっきまで同じ人物と対峙していたのに、今現れたファウストの傍にいることは怖くなかった。
「貴方ですか?私の偽者は」
「はァ?テメェが俺の偽者だろうよ」
よくみると、相手は着ている白衣は同じものの、色が黒に近い深緑。
かぶっている袋もこちらのものより灰色がかかっている。
「ジャマすんじゃねぇよ・・・・久しぶりの獲物なんだからよ・・・・・・」
「させませんよ。少しおとなしくしていなさい」
メスとメスがぶつかりあう。
「なァ、そのメスで何人殺した?」
音とともに、火花が散る。
「最初の獲物はそこの嬢ちゃんに良く似てたよなぁ」
「・・・・・っ」
「スキだらけだぜェ!?」
黒ファウストの一撃で、ファウストの手からメスが飛んだ。
「死になァ!」
渾身の一撃が突き刺さる。
「ッ・・・な!?」
だが、そこには布が一枚ひらりと舞っているだけだった。
「上ですよ」
ごきんと鈍い音がした。
「テ・・・・・メっ・・・・」
黒ファウストが地に倒れる。
「ふう、厄介な患者ですねえ・・・・・・」
メスを拾い上げ、メイに向き直る。
「・・患者・・・・・」
<そのメスで何人殺した?>
どくんと身体が脈打つ。
<最初の獲物はそこの嬢ちゃんに良く似てたよなぁ>
目の前にいる少女が、他のよく知っている少女の姿と重なる。
「おじさん、大丈夫?」
はっと我にかえる。
「・・ええ、大丈夫ですよ。すいません、少々・・・・・」
ずぎゅっ。
刃物が肉を貫く音がした。
「・・・がっ・・・・」
からん、とメスがファウストの手を離れ、地に落ちた。
ファウストの胸から、血で濡れたメスが突き出ている。
「よくもやってくれやがったなァ」
黒ファウストがメスをひねって引き戻した。
大量の血が傷口から溢れ、ファウストが膝をついた。
「そこで見てな・・・・・テメェが一番望んでいる光景をみせつけてやらァ!」
メイに向かってメスを突き刺す。
「・・・・・・・っ!」
ファウストは膝をつきながらも、必死に手をのばしメイの手を無理やりひっぱった。
「ひゃあ!」
バランスを崩し、前のめりになるメイ。
メスが空を切った。
「ちぃっ!」
舌打ちし、メスを垂直にし、振り下ろしてくる。
「ぐぅ・・・っ!」
その攻撃を避けようと身体を動かすと、傷口からさらに血があふれて白い白衣を赤く染めた。
メイを押し倒すような形になりながらも、なんとか彼女をかばう。
「ひゃははははははぁあ!!」
好機といわんばかりに無防備なファウストの背中を何度も切りつける。
深くえぐられ、血がしぶいた。
「・・・・ど、どいて!!死んじゃうよォ!!」
メイが目に涙をうかべて叫ぶが、ファウストは黙って耐えている。
叫びもせず、動きもせずに。
「うぜェんだよ!!」
ファウストの右肩を、黒ファウストのメスが深くえぐる。
「っぐ・・・・・!」
まっすぐに伸ばしていたひじががくんと曲がり、右ひじを地面につく。
「テメェごと貫いてやらァ!!」
大きくメスをふりかぶる。
その時、メイの視界にファウストのメスが入った。
手をのばしてそれをつかみ、なげつける。
「っぎゃあぁッ!!」
黒ファウストがのけぞって叫んだ。
「~~テメェエ!」
自らメスを引き抜いて投げ捨て、自分のメスでファウストの頭を突き刺した。
血がしぶく。
・・・・かと思いきや、2人の姿はそこになく、自分のメスが突き刺さったファウストの紙袋が残るのみ。
よくみると、紙袋から導線のようなものがあり、ジジジ・・・と小さな音をたてていた。
「んなぁ!?」
爆発がおきて、ふっとばされる。
「ちくしょうが・・ッ」
「動かないでくださいね」
後ろから、長いメスが黒ファウストの首にあてられている。
「まあ貴方ならお分かりでしょうが・・・・・動いたら、死にますよ」
「・・・・・・・・・・」
「先ほど貴方を私の偽者・・・・といいましたが、そうではないようですね」
「あァ?さっさと切れよ」
「貴方は、私です」
「ハッ。俺はお前なんか認めねえからな・・・・・・・」
ざら、と黒ファウストのメスが砂のように空に消えていく。
それと同時に、彼自身の身体もざらざらと崩れていく。
「そうさ。俺はお前でお前は俺だ。しょせん、人殺しは人殺しなんだよ。許されることもない」
「充分承知ですよ。許しを請う気などない。そして、貴方は消えない。・・・少し眠りなさい」
そして完全に崩れ去った。
それを確認すると、ファウストはどさりとその場に倒れこんだ。
じわじわと彼の血が地面にひろがっていく。
「おじさん・・・・ッ、大丈夫!?」
メイがあわてて駆け寄ってくる。
「はは、少しキツいですが・・・・・ああ、貴方にはご迷惑をおかけしましたね・・・・」
「そんなことないよ・・っ、助けてくれたじゃん!」
「たすけ・・・・られたのでしょうか、貴方を・・・・・・」
「何言ってんの、しっかりしてよ・・・・っ、手当て、手当てしないと・・・・」
背中は赤く染まり、まだ血もとまっていない。
「・・・汚れて、しまいますよ・・・・、お仲間さんが心配していらっしゃいます・・・・・、お送りすることはできませんが、は、やく・・」
「何言ってるの、置いていけないよ!」
「私は理由あって、公共の施設にはお世話になれないですし・・・・・・・、さあ、はやくお帰りに・・なってくだ・・・・・・さ」
メイがまだ何か言っていたが、ファウストの耳には入っていなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・ここは・・・・・?」
目を開けると、見慣れない天井があった。
窓から外を見ると、空の上だった。
「ああ、あの子らの・・・・・・お世話になってしまいましたね。御礼は後日させてもらうとしましょう」
窓を開け、傘をさし、とびたった。
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