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甲冑
 その日黄信は外で昼食をとった。いつもなら、国際警察機構内で配給された食事を、黙々と食べる。仕事と仕事の合間なので仕方ないが、我知らずくつろいだ昼間になった。
 安食堂に雑多な声がする。自分と同じように、仕事から仕事へ移る一時を過ごす人、いつまでもお茶をすすっていそうな人もいる。黄信は注文した料理が出てくる間、ある家族に目が行った。席は離れているので、家族と目は合う心配はない。高い子供の声がするので、食堂のなかでも目立っていた一行だが、それだけで黄信の目は引かなかった。まるで一家の団らんがそのまま食堂にやって来たようなにぎわいを見せる。黄信は子供が、箸で遊んでいるのを見ている。

 「これがお父さんの箸。これがお母さん、これが僕。ほら、お前のだよ。」
 少年は箸立てから4膳取り、父や母、妹の前に並べ満足そうにしていた。
 他愛ない光景だが、黄信は長いこと見ていた。自分がお父さんと呼ばれていた頃が懐かしいのか、は黄信も判断つかない。

 家族の話題は、菖蒲の節句のことらしい。鯉のぼり、柏餅、親戚のだれかれが家に見える・・そんな話が続く。黄信は頬杖をついて、ハタハタとなびく鯉やら餅の餡を想像した。だがある所で彼の平穏は破れた。お父さんは、息子に鎧兜を買ってやり、子供はそれを着るのを楽しみにしているらしい。どこかの国の平凡な習慣だが、黄信はなぜかゾッとした。


 「ハーン。子供にそんなもん持たせるなか?」
 「そう簡単に言うな。」
 飯も済ませ、午後も花栄と働き出した。
 「嫌な感じがする。子供にその兜を身につけて、何をしろと言うのだ。兜をつけてすることなど、ひとつしかあるまい。」
 黄信は甚だ真面目だが、花栄はこういった。昔は家名を保ったり、仕官するには戦うのが手っ取り早かった。家を思うなら、この兜をつけて功名を上げよという古風な習慣である。まさか親がそんな残酷なことを現代になっていうだろうか、と。


 「そうだ。それならいい。」
 「なら構うことあるまい。」
 「忘れたのか、我等には身に過ぎた最強兵器・ジャイアントロボがある。あれは、親父の草間博士が子供の大作に継がせた物だそうだ。」
 自分がお父さんと呼ばれていた頃、僕もお父さんみたいになるんだ、と父の刀の鞘で遊んでいた我が子が黄信の胸をよぎった。
 「草間博士はあくまで研究職であったと言う。我等のような現業ではないだろう。」
 黄信はここから先は、花栄に話すというより気持ちの整理のため言う。

 「昼間見た親子のように、行事としての甲冑でもない。自分の子供が昔言ってくれた、実際父が振るっていた剣と甲冑への憧れでもない。あの草間大作は。天から降って来たような、怪物だ。あのロボットは・・・。何もかもいきなり。戴宗もうまい事を言う。」
 花栄はいつもの黄信の述懐癖が始まったと、ちゃんと聞いてはいるが返答が求められていないのにも気がついていた。

 「村雨も言い当てて妙だった。草間博士がロボを息子に継がせる所を、村雨は見たんだそうだ。それがどういうことなのか、わかっているのですかと聞いたが、博士はさっさと継がせてしまったそうだ。草間博士の行為を責めたくもないが・・・・・なんて厄介な息子とロボットを置いて死んだのだろう。それがどういうことなのか、は自分にもはっきりは言えない。いや、はっきり言えば国際警察機構から、ロボを摘み出してしまうかもしれん。自分は立場上できん。」
 
 花栄は、たまに家族連れに遭遇した黄信が感傷に浸りたいのかと最初思ったが、そうでもないと見た。大作には、昼間の一家のような慣習にまみれた甲冑も、戦う父の背をみて憧れた甲冑もない。身に余る兵器、もてあますだろうと黄信は言う。みすみすBF団に返してしまうのも惜しいからいるだけの。

 が、黄信は草間大作を見放すこともしない。ジャイアントロボを何故か対等の仲間とした。そう思わなければ大作の生きる場所すら奪ってしまうからである。平和そのものの家庭など、大作にも黄信にも過去のものである。なら、ここで生きてみないかと黄信は自分でも気がつかないくらい深いところで誓っていた。

 「まあ何かロボと草間大作にあったら、我々が守ってやろう。な?」
 黄信は、花栄にそうだなと言った。考えていても仕方ない、仲間たる少年と強いロボットは大事にしてやることであろう。
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