堂島家の小さな異変は、朝早くに起きた。
「おはよう、遥ちゃん」
朝食の支度を済ませた居間へ、一番早くやってきたのは弥生だった。東城会を息子に任せたとはいえ、彼女には何かとやること
が多い。今日もいくつか予定があるらしく、それに間に合わせるため早く現れたというわけだ。遥もそれを心得ているらしく、特に
戸惑う様子もなく、明るく挨拶をした。
「おはようございます」
弥生は久しぶりに聞く遥の挨拶を聞き、嬉しそうに目を細める。少し前、彼女が桐生と沖縄へ行ってしまった時は、まるで今生の
別れをしたような寂しい心持だった。しかし、遥は沖縄へ住まいを移しても、頻度は減ったものの、堂島家へ何度も遊びに来てく
れている。おかげで、堂島家の空気が再び明るくなったが、申し訳なく思うのも確かだ。弥生は席に着いて苦笑を浮かべた。
「遥ちゃん。前ならまだしも、今は遠いところから来ていて疲れてるのだから、食事の支度なんてしなくていいんだよ。ゆっくりおしよ」
「はい、ありがとうございます」
遥は柔らかく微笑んで礼を言う。しかし、すぐに首を振って弥生を見つめた。
「でも、私あさがおでも毎日同じ事してるんです。こっちに来て急にやめちゃうと、怠け癖がついちゃいますから、やらせてください」
「でもねえ」
「それに、弥生さんのおうちは、用意する食事の量が少ないから、あさがおより楽なんですよ。あさがおのみんなって、朝でも
沢山食べるから、食事作るのだって汗だくなんです!もう、すごいんですから、こーんな大きなお鍋にいっぱいカレーを作って……」
遥はさりげなく話をそらし、弥生の気遣いを受け流してしまう。どうやら何があっても家事を譲る気はないようだ。弥生は少し呆れ
つつ、遥が楽しげに語る沖縄の話を聞いていた。
「おはよ」
不意に、居間へ素っ気無い声が聞こえた。堂島家の食卓につく最後の一人が、ようやく登場だ。遥と弥生はそれぞれの表情で
その人物を迎えた。
「おはよう、お兄ちゃ……」
「遅いじゃないのさ。折角遥ちゃんが温かい朝御飯を……」
二人は、居間に入ってきた大吾を見るなり、きょとんとして言葉を失う。大吾は二人の反応に気付き、わずかに顔を曇らせた。
「なんだよ」
弥生と遥は一旦顔を見合わせ、首を傾げる。そして、再び大吾を見上げて指差した。
「だって、大吾あんた」
「前髪ないよ」
二人は驚きを滲ませた声で指摘する。そう、今日の大吾はいつもの前髪を下ろしていた髪型とは違って、無造作にオールバック
にしていた。驚きすぎだろ。大吾は顔をしかめ、自分の席に腰を下ろした。
「いいだろ別に、どんな髪型しようが」
「いや、別にいいんだけどねえ」
弥生は肩を竦め、しげしげと大吾を眺める。遥は彼に身を乗り出したかと思うと、真剣な顔で声を潜めた。
「お兄ちゃん……気になるのはわかるけど、一生懸命隠すより、堂々としてたほうがいいと思うよ」
「てめえ……誰が薄髪に悩むオヤジだコラ……!」
大吾は唸るように声を上げ、遥の頭に拳骨をぐりぐり押し付ける。遥は小さく悲鳴を上げ、頭を抑えながら身を引いた。
「だ、だって、お兄ちゃんが急にそんな髪型にするから!何で変えちゃったの?」
「教える義理はねえ。遥、飯!」
あっさり回答拒否し、大吾は遥を促す。取り付く島がないなあ。遥が不満げに大吾の御飯をよそっていると、弥生が何もかもわか
ったような顔で、遥に告げた。
「放っときなさいな。大方、歳より若く見られて幹部に舐められるからって、無駄な努力してるだけなんだから」
「そんなんじゃねえよ!知ったような口きくんじゃねえ!」
大吾は即座に弥生を怒鳴りつける。どうやら図星のようだ。なんてわかりやすい子だろうね。弥生はやれやれとおいう風に首を
振った。
「ああ、やだやだ。見てくれだけいじったって、中身が伴わなかったら意味ないってのにさあ。その短絡的なとこ誰に似たんだろう
ねえ。間違っても私や宗兵さんじゃないね」
「オイコラ、そんじゃ俺は誰のガキだ、ああ!?上等だ、今からでも堂島の名前捨てて、別の人生突っ走ってもいいんだぞ!」
「……だってさ。遥ちゃん、大吾が仕事放り出して新しい人生に旅立つそうだから、あなた養子に貰ってやってちょうだい。沖縄で
二人仲良く『あさがお』やりなさいな。あ、その時は桐生をこっちに戻しておくれね。大吾よりは役に立つから」
「よ、養子って、なに素っ頓狂なこと言ってんだよ!あとな、さりげに桐生さんと俺のトレード交渉するな!遥が真に受けたら……」
「真に受けるほど、もう子供じゃないよ。お兄ちゃん」
二人の言い合いを黙って聞いていた遥は、困ったように笑う。そして、大吾へ御飯をよそった茶碗をそっと差し出した。
「はい、御飯」
「……あ、ああ」
大吾は小さく頷いて茶碗を受け取る。遥がそんな大人びた物言いをするから、なんだか一人で騒いでたのが、途端に恥ずかしく
なってきた。彼は不機嫌に箸を取り、朝食を食べ始めた。そんな大吾を、弥生は呆れた様子で眺め、遥は何か物思う様子で見つ
めていた。
遥にとっては久しぶりの本部だったが、組員達は相変わらず優しかった。顔を合わせれば、沖縄の話を聞いてきたり、遥のいな
い間に東城会であったことや、大吾のことなどを話してくれた。沖縄に来てからも堂島家へ行くことに、桐生はひどく渋い顔をして
いたが、説得して来てよかったと思う。遥は嬉しそうに組員達との触れ合いを楽しんだ。
一通りの組員と話し終えた後、遥は会長室へ向かった。忙しいかな。少し不安に思いつつ扉をノックすると、中から大吾が返事
をしてきた。
「入れ」
扉を開けて顔を覗かせれば、大吾は仕事の手を止め、一服しているところだった。丁度良かったかも。遥は顔をほころばせて
部屋に足を踏み入れた。
「なんだ、遥か。土産話は終わったのか」
大吾は遥に気付くと、煙草を消して肩を竦める。遥は小さく頷いて、彼の横に立った。
「話しすぎて、喉乾いちゃったくらい」
肩を竦める遥を見て、大吾は穏やかに笑う。それがいつになく落ち着いて見えるのは、髪形のせいだろうか。遥は黙って大吾の
横顔を見つめた。
「なんだよ」
窺うような視線を感じ、大吾は遥へ怪訝に首を傾げる。遥は慌てて首を振った。
「う、ううん。なんでも、ないよ」
「あ、そ」
大吾は素っ気無く呟き、少し疲れた様子で遠くを見つめる。遥は黙って立ち尽くしていたが、ふと口を開いた。
「お兄ちゃん」
「なんだ」
「あのね、その髪型……ずっと、そのまま?」
「はあ?」
思いがけない質問に、大吾は目を丸くして遥に顔を向ける。遥は胸の前で組んだ両手を揺らしながら、ちらりと大吾を見た。
「私ね、その髪型もお兄ちゃんに似合ってると思うよ、思うけど、前の髪型の方が好きだったなあ、なんて」
遥の声は、だんだん小さくなっていく。我侭なことを言っていると、自覚しているのだろう。でも言わずにはおれないのか、少し
迷うように視線を落とした後、そっと続けた。
「今のお兄ちゃんは、とっても会長さんらしいけど、ちょっと、遠い、なって」
「遥」
「寂しい、なって」
それきり、遥は黙り込んでしまった。大吾は俯く彼女を困ったように眺めた。会長らしくなろうと、しっかり見せようと思ってやって
んだから、いいじゃないかと思う。だが、そう思っているのに、どうして胸が痛いのだろう。こんな小さな女の子に、少し頼りない
ことを言われたくらいで。
――お袋の言う通り、中身が外面に伴ってねえのか、単に遥に弱いだけか。
大吾は不意に大きく溜息をつく。遥が不安げに大吾を覗き込んだ時、彼は舌打ちして前髪を乱暴に下ろした。
「お前がいる時だけだからな」
驚いている遥にちらりと視線を送り、大吾はぶっきらぼうに言い放つ。遥は短い沈黙の後、顔を輝かせて大きく頷いた。
「うん!ありがとう、お兄ちゃん!」
遥は礼を言い、ふと大吾の机の引出しを探り出した。
「ね、ね、お兄ちゃん。ここに櫛があったよね?私が前みたいにしてあげる!」
「そりゃどうも」
大吾は遥に明るい笑顔が戻ったことに、ようやく安堵する。しかし、それを表に出す気はないのか、至極ぞんざいに促した。
「早くしろよ。組員がこういうとこ見たら、妙にニヤニヤして鬱陶しいんだよ」
「うん、すぐする、すぐ!私、お兄ちゃんの髪型、ちゃんと覚えてるもん!」
引出しから櫛を探し出した遥は、弾んだ声を上げ、嬉しそうに笑う。大吾もつられるようにそっと微笑み、遥に向き直って少し屈ん
だ。遥の手が髪に届きやすいように。
その後、大吾がすっかり元の髪型に戻ってしまったことで、組員達は揃って首を捻ることとなる。本人に尋ねてみようとも思った
が、大吾自身が満足そうだったし、それ以上に遥が嬉しそうだったので、皆はそれでいいと思うことにした。
以来、遥が本部に現れる時は、決まって大吾の髪型が昔に戻るらしい。
―終―
「おはよう、遥ちゃん」
朝食の支度を済ませた居間へ、一番早くやってきたのは弥生だった。東城会を息子に任せたとはいえ、彼女には何かとやること
が多い。今日もいくつか予定があるらしく、それに間に合わせるため早く現れたというわけだ。遥もそれを心得ているらしく、特に
戸惑う様子もなく、明るく挨拶をした。
「おはようございます」
弥生は久しぶりに聞く遥の挨拶を聞き、嬉しそうに目を細める。少し前、彼女が桐生と沖縄へ行ってしまった時は、まるで今生の
別れをしたような寂しい心持だった。しかし、遥は沖縄へ住まいを移しても、頻度は減ったものの、堂島家へ何度も遊びに来てく
れている。おかげで、堂島家の空気が再び明るくなったが、申し訳なく思うのも確かだ。弥生は席に着いて苦笑を浮かべた。
「遥ちゃん。前ならまだしも、今は遠いところから来ていて疲れてるのだから、食事の支度なんてしなくていいんだよ。ゆっくりおしよ」
「はい、ありがとうございます」
遥は柔らかく微笑んで礼を言う。しかし、すぐに首を振って弥生を見つめた。
「でも、私あさがおでも毎日同じ事してるんです。こっちに来て急にやめちゃうと、怠け癖がついちゃいますから、やらせてください」
「でもねえ」
「それに、弥生さんのおうちは、用意する食事の量が少ないから、あさがおより楽なんですよ。あさがおのみんなって、朝でも
沢山食べるから、食事作るのだって汗だくなんです!もう、すごいんですから、こーんな大きなお鍋にいっぱいカレーを作って……」
遥はさりげなく話をそらし、弥生の気遣いを受け流してしまう。どうやら何があっても家事を譲る気はないようだ。弥生は少し呆れ
つつ、遥が楽しげに語る沖縄の話を聞いていた。
「おはよ」
不意に、居間へ素っ気無い声が聞こえた。堂島家の食卓につく最後の一人が、ようやく登場だ。遥と弥生はそれぞれの表情で
その人物を迎えた。
「おはよう、お兄ちゃ……」
「遅いじゃないのさ。折角遥ちゃんが温かい朝御飯を……」
二人は、居間に入ってきた大吾を見るなり、きょとんとして言葉を失う。大吾は二人の反応に気付き、わずかに顔を曇らせた。
「なんだよ」
弥生と遥は一旦顔を見合わせ、首を傾げる。そして、再び大吾を見上げて指差した。
「だって、大吾あんた」
「前髪ないよ」
二人は驚きを滲ませた声で指摘する。そう、今日の大吾はいつもの前髪を下ろしていた髪型とは違って、無造作にオールバック
にしていた。驚きすぎだろ。大吾は顔をしかめ、自分の席に腰を下ろした。
「いいだろ別に、どんな髪型しようが」
「いや、別にいいんだけどねえ」
弥生は肩を竦め、しげしげと大吾を眺める。遥は彼に身を乗り出したかと思うと、真剣な顔で声を潜めた。
「お兄ちゃん……気になるのはわかるけど、一生懸命隠すより、堂々としてたほうがいいと思うよ」
「てめえ……誰が薄髪に悩むオヤジだコラ……!」
大吾は唸るように声を上げ、遥の頭に拳骨をぐりぐり押し付ける。遥は小さく悲鳴を上げ、頭を抑えながら身を引いた。
「だ、だって、お兄ちゃんが急にそんな髪型にするから!何で変えちゃったの?」
「教える義理はねえ。遥、飯!」
あっさり回答拒否し、大吾は遥を促す。取り付く島がないなあ。遥が不満げに大吾の御飯をよそっていると、弥生が何もかもわか
ったような顔で、遥に告げた。
「放っときなさいな。大方、歳より若く見られて幹部に舐められるからって、無駄な努力してるだけなんだから」
「そんなんじゃねえよ!知ったような口きくんじゃねえ!」
大吾は即座に弥生を怒鳴りつける。どうやら図星のようだ。なんてわかりやすい子だろうね。弥生はやれやれとおいう風に首を
振った。
「ああ、やだやだ。見てくれだけいじったって、中身が伴わなかったら意味ないってのにさあ。その短絡的なとこ誰に似たんだろう
ねえ。間違っても私や宗兵さんじゃないね」
「オイコラ、そんじゃ俺は誰のガキだ、ああ!?上等だ、今からでも堂島の名前捨てて、別の人生突っ走ってもいいんだぞ!」
「……だってさ。遥ちゃん、大吾が仕事放り出して新しい人生に旅立つそうだから、あなた養子に貰ってやってちょうだい。沖縄で
二人仲良く『あさがお』やりなさいな。あ、その時は桐生をこっちに戻しておくれね。大吾よりは役に立つから」
「よ、養子って、なに素っ頓狂なこと言ってんだよ!あとな、さりげに桐生さんと俺のトレード交渉するな!遥が真に受けたら……」
「真に受けるほど、もう子供じゃないよ。お兄ちゃん」
二人の言い合いを黙って聞いていた遥は、困ったように笑う。そして、大吾へ御飯をよそった茶碗をそっと差し出した。
「はい、御飯」
「……あ、ああ」
大吾は小さく頷いて茶碗を受け取る。遥がそんな大人びた物言いをするから、なんだか一人で騒いでたのが、途端に恥ずかしく
なってきた。彼は不機嫌に箸を取り、朝食を食べ始めた。そんな大吾を、弥生は呆れた様子で眺め、遥は何か物思う様子で見つ
めていた。
遥にとっては久しぶりの本部だったが、組員達は相変わらず優しかった。顔を合わせれば、沖縄の話を聞いてきたり、遥のいな
い間に東城会であったことや、大吾のことなどを話してくれた。沖縄に来てからも堂島家へ行くことに、桐生はひどく渋い顔をして
いたが、説得して来てよかったと思う。遥は嬉しそうに組員達との触れ合いを楽しんだ。
一通りの組員と話し終えた後、遥は会長室へ向かった。忙しいかな。少し不安に思いつつ扉をノックすると、中から大吾が返事
をしてきた。
「入れ」
扉を開けて顔を覗かせれば、大吾は仕事の手を止め、一服しているところだった。丁度良かったかも。遥は顔をほころばせて
部屋に足を踏み入れた。
「なんだ、遥か。土産話は終わったのか」
大吾は遥に気付くと、煙草を消して肩を竦める。遥は小さく頷いて、彼の横に立った。
「話しすぎて、喉乾いちゃったくらい」
肩を竦める遥を見て、大吾は穏やかに笑う。それがいつになく落ち着いて見えるのは、髪形のせいだろうか。遥は黙って大吾の
横顔を見つめた。
「なんだよ」
窺うような視線を感じ、大吾は遥へ怪訝に首を傾げる。遥は慌てて首を振った。
「う、ううん。なんでも、ないよ」
「あ、そ」
大吾は素っ気無く呟き、少し疲れた様子で遠くを見つめる。遥は黙って立ち尽くしていたが、ふと口を開いた。
「お兄ちゃん」
「なんだ」
「あのね、その髪型……ずっと、そのまま?」
「はあ?」
思いがけない質問に、大吾は目を丸くして遥に顔を向ける。遥は胸の前で組んだ両手を揺らしながら、ちらりと大吾を見た。
「私ね、その髪型もお兄ちゃんに似合ってると思うよ、思うけど、前の髪型の方が好きだったなあ、なんて」
遥の声は、だんだん小さくなっていく。我侭なことを言っていると、自覚しているのだろう。でも言わずにはおれないのか、少し
迷うように視線を落とした後、そっと続けた。
「今のお兄ちゃんは、とっても会長さんらしいけど、ちょっと、遠い、なって」
「遥」
「寂しい、なって」
それきり、遥は黙り込んでしまった。大吾は俯く彼女を困ったように眺めた。会長らしくなろうと、しっかり見せようと思ってやって
んだから、いいじゃないかと思う。だが、そう思っているのに、どうして胸が痛いのだろう。こんな小さな女の子に、少し頼りない
ことを言われたくらいで。
――お袋の言う通り、中身が外面に伴ってねえのか、単に遥に弱いだけか。
大吾は不意に大きく溜息をつく。遥が不安げに大吾を覗き込んだ時、彼は舌打ちして前髪を乱暴に下ろした。
「お前がいる時だけだからな」
驚いている遥にちらりと視線を送り、大吾はぶっきらぼうに言い放つ。遥は短い沈黙の後、顔を輝かせて大きく頷いた。
「うん!ありがとう、お兄ちゃん!」
遥は礼を言い、ふと大吾の机の引出しを探り出した。
「ね、ね、お兄ちゃん。ここに櫛があったよね?私が前みたいにしてあげる!」
「そりゃどうも」
大吾は遥に明るい笑顔が戻ったことに、ようやく安堵する。しかし、それを表に出す気はないのか、至極ぞんざいに促した。
「早くしろよ。組員がこういうとこ見たら、妙にニヤニヤして鬱陶しいんだよ」
「うん、すぐする、すぐ!私、お兄ちゃんの髪型、ちゃんと覚えてるもん!」
引出しから櫛を探し出した遥は、弾んだ声を上げ、嬉しそうに笑う。大吾もつられるようにそっと微笑み、遥に向き直って少し屈ん
だ。遥の手が髪に届きやすいように。
その後、大吾がすっかり元の髪型に戻ってしまったことで、組員達は揃って首を捻ることとなる。本人に尋ねてみようとも思った
が、大吾自身が満足そうだったし、それ以上に遥が嬉しそうだったので、皆はそれでいいと思うことにした。
以来、遥が本部に現れる時は、決まって大吾の髪型が昔に戻るらしい。
―終―
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