その日、作戦の予定も入っていないというのに十傑集は孔明に呼び出された。
「さてご一同、お集まりいただいたのはほかでもありません。サニー殿のことです」
サニーのことと聞いては一同心中穏やかではなくなる。
「孔明、サニーがなにかしたのか」
不安そうな樊瑞に孔明はかすかに笑いながら首を振った。
「いえいえ。サニー殿が悪戯されたとかそのようなことではございません。私が危惧しているのはサニー殿の情操教育のこと」
「情操教育だと?」
やけに声がハモっている。
「さよう。サニー殿はこのBF団本部でなに不自由なく育っておられます。しかし…この本部にサニー殿には友人と呼べる者はございません」
再び揃いも揃って反論の声を上げる。
「なにを言う。我らはサニーに取って友人以上であるぞ」
「そこが問題」
孔明がご自慢の羽扇を突きつけた。
「サニー殿にとってご一同は父君であり兄上でしかございません。本部には学校もないゆえ、サニー殿は同世代の子供のことをなにもわかっておられない」
これに異を唱えたのはレッドだった。
「フン。それはつまり草間があのガキを連れて逃げたせいではないのか」
「済んでしまったことはしかたございません。とにかくサニー殿には少し外界のことも知ったほうがいいと、つまりはこういうわけです」
もしかして自分の教育に問題があるのかと樊瑞は焦った。
「では策士孔明、どうすればよいのだ?」
「さすがは十傑集リーダー、お察しがよろしい。そこで私の策はこうです」
それはなぜかみんなでお芝居をしようということ。
「やはりサニー殿が主役ですから、白雪姫を題材にして私が台本を書きましたよ」
ところが台本を書いたまではよかったが、孔明はキャスティングまでは決めていなかった。
「姫の父王役は儂でよかろう」
ごく当然のように葉巻を吹かしながらアルベルトが言う。
それに樊瑞が食ってかかった。
「待てアルベルト。貴様はサニーと親子の縁を切ったのだろう。ならばその役は私がやるのが順当というものだ」
「フン、親子の縁を切ったからといって儂がサニーに関わっていかんわけではなかろう」
父王ということならば一番似合いそうなふたりは大人だった。
「それならワシは姫を殺す命を受けた狩人でもやらせてもらうかの」
カワラザキがそう言えば、満面の笑みで十常侍もうなずく。
「我は魔法の鏡を演ず。姫を責めるは少々悲しきが」
仮にもリーダーと呼ばれる人間がギャアギャアとわめいているのを、半ばあきれながら見ていた孔明はもっとも寡黙なふたりに気づいた。
「…幽鬼殿、怒鬼殿、なにをなさっているのです…」
ふたりは今まさに可愛らしいとんがり帽子をかぶろうとしているところだった。
「いや、俺たちは…小人の役が似合いかと…」
控えめなのかなんなのかわからない幽鬼の言葉に、孔明が眉をひそめる。
「…そんな180を優に越える小人はおりません…」
ふたりはしょんぼりとして帽子を放り出した。
そして別のところでは王子役争奪戦が始まっている。
「いやーははは、やっぱり王子といえば私だろうねえ。白馬だって用意できるよ!」
セルバンテスが胸を張れば、ヒィッツカラルドも負けてはいない。
「どこの世界にナマズ髭を生やした王子がいるか。洗練された私こそお嬢ちゃんの相手には打ってつけじゃないかね?」
センスの問題となれば残月が進み出た。
「それを言うなら白目の王子もおらんだろう。ここは私が」
「覆面の王子なぞいるものか」
吐き捨てるように言ったレッドにセルバンテスが詰め寄る。
「そういうレッド君も覆面だよねえ…君には王子より意地悪な継母のほうが似合ってるんじゃないの?」
「なんだとー!」
バカな大人たちの騒ぎをよそに、孔明は申し訳なさそうにサニーを見た。
「サニー殿、せっかくの企画がダメになってしまって申し訳ありませんね」
そうして書き上げた台本を破く。
サニーはクスクス笑った。
「いいえ孔明さま、サニーはとても楽しいです」
「さてご一同、お集まりいただいたのはほかでもありません。サニー殿のことです」
サニーのことと聞いては一同心中穏やかではなくなる。
「孔明、サニーがなにかしたのか」
不安そうな樊瑞に孔明はかすかに笑いながら首を振った。
「いえいえ。サニー殿が悪戯されたとかそのようなことではございません。私が危惧しているのはサニー殿の情操教育のこと」
「情操教育だと?」
やけに声がハモっている。
「さよう。サニー殿はこのBF団本部でなに不自由なく育っておられます。しかし…この本部にサニー殿には友人と呼べる者はございません」
再び揃いも揃って反論の声を上げる。
「なにを言う。我らはサニーに取って友人以上であるぞ」
「そこが問題」
孔明がご自慢の羽扇を突きつけた。
「サニー殿にとってご一同は父君であり兄上でしかございません。本部には学校もないゆえ、サニー殿は同世代の子供のことをなにもわかっておられない」
これに異を唱えたのはレッドだった。
「フン。それはつまり草間があのガキを連れて逃げたせいではないのか」
「済んでしまったことはしかたございません。とにかくサニー殿には少し外界のことも知ったほうがいいと、つまりはこういうわけです」
もしかして自分の教育に問題があるのかと樊瑞は焦った。
「では策士孔明、どうすればよいのだ?」
「さすがは十傑集リーダー、お察しがよろしい。そこで私の策はこうです」
それはなぜかみんなでお芝居をしようということ。
「やはりサニー殿が主役ですから、白雪姫を題材にして私が台本を書きましたよ」
ところが台本を書いたまではよかったが、孔明はキャスティングまでは決めていなかった。
「姫の父王役は儂でよかろう」
ごく当然のように葉巻を吹かしながらアルベルトが言う。
それに樊瑞が食ってかかった。
「待てアルベルト。貴様はサニーと親子の縁を切ったのだろう。ならばその役は私がやるのが順当というものだ」
「フン、親子の縁を切ったからといって儂がサニーに関わっていかんわけではなかろう」
父王ということならば一番似合いそうなふたりは大人だった。
「それならワシは姫を殺す命を受けた狩人でもやらせてもらうかの」
カワラザキがそう言えば、満面の笑みで十常侍もうなずく。
「我は魔法の鏡を演ず。姫を責めるは少々悲しきが」
仮にもリーダーと呼ばれる人間がギャアギャアとわめいているのを、半ばあきれながら見ていた孔明はもっとも寡黙なふたりに気づいた。
「…幽鬼殿、怒鬼殿、なにをなさっているのです…」
ふたりは今まさに可愛らしいとんがり帽子をかぶろうとしているところだった。
「いや、俺たちは…小人の役が似合いかと…」
控えめなのかなんなのかわからない幽鬼の言葉に、孔明が眉をひそめる。
「…そんな180を優に越える小人はおりません…」
ふたりはしょんぼりとして帽子を放り出した。
そして別のところでは王子役争奪戦が始まっている。
「いやーははは、やっぱり王子といえば私だろうねえ。白馬だって用意できるよ!」
セルバンテスが胸を張れば、ヒィッツカラルドも負けてはいない。
「どこの世界にナマズ髭を生やした王子がいるか。洗練された私こそお嬢ちゃんの相手には打ってつけじゃないかね?」
センスの問題となれば残月が進み出た。
「それを言うなら白目の王子もおらんだろう。ここは私が」
「覆面の王子なぞいるものか」
吐き捨てるように言ったレッドにセルバンテスが詰め寄る。
「そういうレッド君も覆面だよねえ…君には王子より意地悪な継母のほうが似合ってるんじゃないの?」
「なんだとー!」
バカな大人たちの騒ぎをよそに、孔明は申し訳なさそうにサニーを見た。
「サニー殿、せっかくの企画がダメになってしまって申し訳ありませんね」
そうして書き上げた台本を破く。
サニーはクスクス笑った。
「いいえ孔明さま、サニーはとても楽しいです」
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「第一よぉ、なぁんで十傑集の娘がこんなところにいやがんでぇ」
鉄牛は目をギョロリと剥きサニーを見つめる。
当然サニーはおびえすすり泣きを始めた。
「おいおい、こんな小さな女の子を泣かすんじゃねえよ…長官、どうします?」
戴宗が振り向いて中条に指示を仰ぐが、中条も困惑顔である。
「とにかく、どういう経緯でこの子がここへきたのか話して…」
「サニー! サニーじゃないかぁ!」
中条の言葉をさえぎって飛び出してきたのは大作だった。
「大作くん? 大作くん、助けて…!」
ようやく見知った顔を見つけ、サニーは安心して泣き出した。
大作の視点では、厳ついおっさん連中がいたいけな少女をいじめているようにしか見えない。
大作はサニーを後ろにかばうように立ちはだかった。
「どぉしてサニーをいじめるんですかぁ!」
「あ、あのな大作、俺たちは別にいじめてたわけじゃ…」
戴宗が説明しようとするが大作は聞く耳を持たない。しかもすでにもらい泣きしているし。
しかしこんなときでも中条は冷静である。
「大作くん、君がその子を知っているのならどうしてここにきたのか、聞いてもらえないかな」
「サニーはスパイができるような子じゃありませぇん!」
どこにでも人の話を聞かない子供というのはいるものである。
これ以上は拉致が明かないと感じたのか、大作はサニーの手を取って走り出した。
「ロボこい! サニーを送り届けるんだぁ!」
大作がそう叫べば、ドックの壁を突き破ってロボの手が突っ込まれる。
大作はサニーと手をつないだままロボの手につかまれて、空の彼方へと飛び去ってしまった。
「ど、どこいっちまったんだ…」
戴宗が小さくつぶやく。
中条は顔を覆ってうずくまっている呉学人に気づいた。
「どうしたのだね呉先生。あの少女がこのドックになにか仕掛けたかと気になるのかね?」
「いいえ、いいえ」
呉学人は大きな袂で顔を覆ったまま首を振った。
「あの少女は十傑集衝撃のアルベルトの娘…ならば捕らえてこちらに有利な情報を引き出すことや、十傑集そのものをおびき出せたのではないかと思うと私は…私はなんということを…」
…アンタ、そんな腹黒なこと考えてたんかい…とその場にいた全員が、声には出さないが心の中で突っ込んでいた。
鉄牛は目をギョロリと剥きサニーを見つめる。
当然サニーはおびえすすり泣きを始めた。
「おいおい、こんな小さな女の子を泣かすんじゃねえよ…長官、どうします?」
戴宗が振り向いて中条に指示を仰ぐが、中条も困惑顔である。
「とにかく、どういう経緯でこの子がここへきたのか話して…」
「サニー! サニーじゃないかぁ!」
中条の言葉をさえぎって飛び出してきたのは大作だった。
「大作くん? 大作くん、助けて…!」
ようやく見知った顔を見つけ、サニーは安心して泣き出した。
大作の視点では、厳ついおっさん連中がいたいけな少女をいじめているようにしか見えない。
大作はサニーを後ろにかばうように立ちはだかった。
「どぉしてサニーをいじめるんですかぁ!」
「あ、あのな大作、俺たちは別にいじめてたわけじゃ…」
戴宗が説明しようとするが大作は聞く耳を持たない。しかもすでにもらい泣きしているし。
しかしこんなときでも中条は冷静である。
「大作くん、君がその子を知っているのならどうしてここにきたのか、聞いてもらえないかな」
「サニーはスパイができるような子じゃありませぇん!」
どこにでも人の話を聞かない子供というのはいるものである。
これ以上は拉致が明かないと感じたのか、大作はサニーの手を取って走り出した。
「ロボこい! サニーを送り届けるんだぁ!」
大作がそう叫べば、ドックの壁を突き破ってロボの手が突っ込まれる。
大作はサニーと手をつないだままロボの手につかまれて、空の彼方へと飛び去ってしまった。
「ど、どこいっちまったんだ…」
戴宗が小さくつぶやく。
中条は顔を覆ってうずくまっている呉学人に気づいた。
「どうしたのだね呉先生。あの少女がこのドックになにか仕掛けたかと気になるのかね?」
「いいえ、いいえ」
呉学人は大きな袂で顔を覆ったまま首を振った。
「あの少女は十傑集衝撃のアルベルトの娘…ならば捕らえてこちらに有利な情報を引き出すことや、十傑集そのものをおびき出せたのではないかと思うと私は…私はなんということを…」
…アンタ、そんな腹黒なこと考えてたんかい…とその場にいた全員が、声には出さないが心の中で突っ込んでいた。