※注意※
以下はマジカズ(真島×桐生)前提の、龍桐若しくは大桐妄想捏造文です。
前半はさほどではないですが、後半(Read More以降)に結構な成人指定文章
(一部SM)が含まれます。
読後の誤字・脱字以外についてのクレームに関しましては、状況により
お受けいたしかねる場合がありますので、以上ご了承の上、お読み下さいませ。
<龍を抱く 本文>
その若さと外見からは意外そうに思われるが、親譲りなのか、極道としての仁義を過ぎるほどに弁えた男だった。
熱いそれを叩いて鍛え上げた鋭利な刃物の如く、冷酷そうに見えてその実熱い、非情かと思えば存外情には厚く、さほどに軽はずみな行動をとるわけでもない。一見しただけでは理解しがたいと思われる行動の理由も、本人の中ではきっちり筋を通して行われていることも少なくはなく、多少周囲に影響を及ぼす程度の勝手な行動をとることがあっても、「本人の立場上有り得る我が侭」程度に留め、決して組の上にまで事が及ばぬ程度に収めてきていた。
それ故に、親を始めとする身近な幹部からは「仕方のないやっちゃ」と苦笑して過ごされる枠を解りきった上で、欲望渦巻く、広いようで狭いこの世界を生き延びてきた。
噂にはずっと聞いていた、「伝説の龍」と呼ばれる男の存在。
その龍を語る言葉にはいつも、「言うほどの者ではない」という軽侮や、「あの若さであれほどとは……」という畏怖、そしてほんの僅かな羨望が見え隠れしていて、それほどに語られる男とは果たしてどんな人間なのだろうと、長いこと疑問に、そして興味深くその存在を思っていた。
初めて出会った瞬間、自分に向けられた深く強い眼差しに、一瞬で捕らえられた。
深く、深く。表情以上に本人の感情を豊かに映し出す瞳。
口の端を僅かに持ち上げる、皮肉にならないぎりぎりのラインを保った微笑み。
……そして自分に差し出された、暖かな掌。
当時自分が受けた衝撃は、その後も決して消え去ることは無く、間近で再びあの眼差しを見、彼自身の言葉で、低く深いその声音で己の名を呼ばれる存在になろうと、そう自らに誓ったあの日の出会い。
--当の本人はもう記憶さえしていまい。
あの日願ったように近くへ寄ることが出来、彼の名を当然の如く呼び、また彼に己の名を呼ばせた瞬間、己の身の裡へ湧き起こった歓喜は、筆舌に尽くしがたいほど。
あの小さな自分が、漸く彼に認識される存在足り得たのだと、これまでの己の努力が報われた瞬間でもあった。
邪気のない単なる憧憬は、成長するに従って欲望となり、やがては独占という名の所有欲に変わる。
ただ近くで彼と再び相まみえることがあるなら、と願った気持ちは、彼の名を呼ぶ機会に恵まれ、存在を認識されて近くに寄ることが出来た途端、願いは一瞬にして膨れ上がり、次はその存在自体を己のものとすべく求めてしまうようになった。
だが、そんな自分を周囲は責められはしまい。同じように、彼の龍に魅入られ、それに彼の龍を滅ぼそうと試みたり、または一見して大人しい彼の龍を操るべく、調子に乗って近付き過ぎたが故にその逆鱗に触れ、命を落としていった男達を見れば、彼に惹かれるのが自分だけではないと証明することにもなるのだから。
あれほどの強さを持ちながら、あれほど慕われる存在でありながら、何故か彼は自分の周囲にひとを容れたがらず、ほんの僅かな許された存在だけが彼のパーソナルスペースへ入ることを許される。それでも、全くの無防備で接することの出来る人間がどれほどかと言えば、恐らく片手にも満たないと断言できる---そう、彼は何故か、皮膚を接するほど近くへ決してひとを寄せ付けなかった。
その理由は後に知れた。
彼の心の中に、神聖にして不可侵、不滅にして永遠の存在があることが知れ---彼らのことを語る度、言葉には言い表せない表情を浮かべることがあって、今は失われたにせよ、愛しい存在を語ることで、何故こんなにも傷つくのかと不思議でならなかった。
けれど、彼がまた失うことを恐れる余り、ひとを寄せ付けたがらぬのだと知った瞬間、無理矢理にでもその垣根を乗り越え、一番近くまで近づいてやろうと思った。
決して失われることのない存在として、一番近くであの眼差しを見、名を呼んでやろうと。
--一度そう思ってしまうと、この欲を抑えることは出来なかった。
一旦その懐に入り得て、簡単に見過ごし、滅ぼせぬほどに心許した存在に成った以上、彼の隙を伺う機会など幾らでもあって。酒の強い彼には珍しくその酒量を過ごしたある日、無防備に眠る彼を見つめた途端、彼を手に入れようとする欲が躯の奥から灼熱のように吹き出し、気付けばその四肢を拘束し、自由を奪っていた。
有り得ぬ身体の不自由さに目覚めて抵抗する彼を力ずくで押さえつけ、卑怯者の己に相応しく、前から彼の目を見つめたまま貫くなど到底出来ずに、さほどの慣らしもせずやおら背後から挿し貫く。皮膚の冷たさからは信じられぬほど熱く、溶かされそうな彼の内部に入って動き出した瞬間、びくりと全身をわななかせて反応した様子で悟った--否、悟らざるを得なかった。
--彼を抱いたのは、自分が初めてではない。……彼は、同性に抱かれるのが初めてではない。
龍を喰らい尽くしたくて、涎を垂らしながら猛る己の雄を狭隘な最奥に捻り込んだあの時、彼の全身に小さく走った震えと、満ちるように零れた吐息は、間違いなく「その味」を知る快楽に彩られたものだったから。
--不思議と、悔しくはなかった。彼を欲しがり、求め、手に入れようとした人間が自分だけではないことを知ったから。彼に対して欲情することが決して間違いではないと、ひとを惹き付け、誘い込まずには居れぬ彼という存在を欲しくて堪らない人間が自分の他にも居る--ましてこの龍がそれを受け入れることがあると解ったのだ、何ほどに悔しいことがあるか、と。
こみあげる劣情と歓喜の渦に巻かれ、自分を抑えきれぬまま彼の躰を貫き、揺すり立て幾度も欲を放つ。剥き出しにされた彼の背の龍が、内部から揺さぶられる度妖しく誘うように揺れて、いつしかその眼光から目が離せなくなっていた。
真っ正面から彼の眼差しを受けられず、背けたはずの裏側では彼の化身が、己の隙を決して見逃すまいと見張っている。
--逃れられない。
彼を真正面から見据えられないのに、その背に負うものからでさえ目を背けることができない。
己が背に負うおなじ文身が、触れ合った皮膚を通して化学反応でも起こしているかのように、焼け付くほど熱く応えている。
彼は、内部の弱い粘膜を滴るような灼熱で擦られ、抉られるように貫かれながら、自分を犯す男の名を時には窘めるように、そして縋るように、荒い吐息混じりの声で幾度も呼び--やがて達した。
その後、名を聞きたいが為更に回数を重ねて彼を貫き、気を失わせた後、己にも訪れた体力の限界から泥のように眠った翌朝、目覚めれば既に隣に彼の姿は無かった。酔いも冷め、一時的な熱も去り冷静になった頭で自己嫌悪に押し潰されそうになりながら、小さな自嘲の溜息を漏らして起き上がると、投げ出したままの携帯電話が着信を伝えて震えた。
遣り場のない苛立ちを押し殺しながら、かけてきた相手の名など確認する暇もなく、通話ボタンを押してその震えを止める。
『……桐生だ』
「あんた……!」
驚愕するこちらの様子など気にも留めず、彼は一方的に口を開いた。
『いいか、二度は言わねぇ。良く聞け。
俺は、誰のものでもねぇし、誰のものにもならねぇ。……手に入れたければ、最後まで生き残れ。
話は……それからだ』
「今、何て……きりゅ」
『じゃあな』
呼び掛ける己の声が届く間もなく、通話が途切れる。
今の会話が嘘では無かったのを確認するように、幾度も、幾度も着信履歴を辿ったが、あれは間違いなく彼本人の携帯電話からかかってきたもので、耳奥に残る声が、昨夜何度も自分の名を呼んだあの音が、記憶に焼き付いて離れない。
先ほどは決して出来なかったけれど、今ほど正面から彼の目を見つめたまま抱きたいと思ったことは無かった。
--もう一度、あの龍を我が手に。
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「……で、ちゃぁんと言うてやったんか? 桐生ちゃん」
桐生の手首に残る、ベルトで戒められて擦れた跡をべろりと舐め上げながら、真島が問う。
「言い、ました……。俺は誰のものでも無いし、……誰のものにもならねぇ、と……」
「で、他には?」
舐めた後ちいさく歯を立て、更にその先の答えを促した。
「最後まで、生き残れ、と……」
「はい、よぉ出来ました。ええ子やなぁ、桐生ちゃんは」
真島が子供を褒めるように、桐生の頭を撫でる。……今日の明け方近くまで桐生がされて居たのと全く同じように、彼を背後から貫きながら。
「兄、さん……っ、も、ぅ……!」
深夜から明け方にかけて幾度も貫かれた桐生の躰は、快楽に対して鋭敏になりすぎるほどの反応をしているのに、真島は敢えて逐情を許さず、桐生の雄の根本を指で押さえ、容易な吐精を不可能にしていた。
--明け方、自分を抱いた男が漸く眠りについた気配に、桐生は躰中に散る残滓やその痕跡の何もかもを洗い流さずに気力だけで立ち上がり、連れ込まれた部屋を後にした。遥には昨夜のうちに早くは戻らぬ旨を伝えてあったため、彼女自身は孤児院で過ごすと決めて出かけたようだったが、このままの姿ではアパートに戻るわけにも行かず、そっと気配を消して訪れたはずのセレナで、何故か当然の如く待ち受けていた真島に発見されたのだ。
「おーおー、相当ヤラれたようやなぁ、桐生ちゃん。オスの匂いがぷんぷんするでぇ?」
「兄さん……!」
自分に関しては殊の外勘の鋭い真島のこと、全てを隠し通すことなど不可能だとは思っていたが、まさか直後の現場で捉えられるとは思っても居らず、桐生は一瞬で己の全身から血が音を立てて引くのが解った。
抵抗する気力は既に無く、体力さえも尽きかけた桐生がその場に崩れ落ちたとき、手袋を外し血の通う暖かな真島の手が自分を支え、抱き上げて3人掛けのソファに寝かされる。
「兄さん、何でここに……」
「わしが桐生ちゃんのことで解らんことがあるわけないやろが。……どうせシャワーも浴びんと戻って来たんやろ? 躰拭いたるから、服、脱ぎぃや」
あくまでも穏和に、優しく語りかけるような素振りでいながらも、笑いの欠片すら浮かばぬ真島の目に、桐生は抵抗を諦め、大人しくシャツを脱いだ。如何に桐生が背を向けていようとも、真島の目が一分の隙も見逃すまいと自分の一挙手を見つめているのが解る。明らかに情事の痕と解る小さな鬱血や歯形、そして手首に残る拘束の跡までも、凍てつくような真島の眼光に晒され、桐生の全身に小さく震えが走る。
「そんなに怯えんといてもええよ、桐生ちゃん。……叱ったりせぇへんから」
「……っ!!」
離れているとばかり思っていた真島の声が突如耳元で囁かれ、桐生の首筋が総毛立つ。
「この擦り跡見る限り、穏便に、ちゃぁんと抱かれた訳じゃないようやし……流石にこのまんまじゃ戻れんわなぁ。遥ちゃんに見つかったら、何言われるか解ったもんやない」
体温に近い、温めの湯で絞ったタオルを桐生の首筋にあてながら、真島は吐息と共に耳元で囁く。その吐息の孕む熱が、逐情の余韻醒めやらぬ今の自分にとって、どれ程神経を刺激するのか解りきった上で。
幾度もタオルを絞り、収めると言うよりも寧ろ快楽を引き出されるように背中を拭かれ、「ほな、湯換えてくるわ」と立ち上がりかけた真島へ、喘ぐように桐生が乞うた。
「兄さん、後は…自分で、やります、から…っ…」
「遠慮せんでもええやないか。今更、やろ?」
止めようとする手を簡単に振り払われ、更には指先でトラウザーズの裾を引っ張りつつ告げられた言葉に、桐生は自らの失策を悟る。
「それよか、下の方がもっとヤバいやろ、桐生ちゃん。……脱ぎ?」
--桐生は僅かに逡巡を見せたものの、それ以上の抵抗は、最早無いに等しかった。
俯せられ、腰だけを高く上げる屈辱的な体勢を強いられて、凌辱の後も生々しい桐生の秘部が真島の眼前に晒される。猛る欲望そのままに貫かれたそこは腫れ上がるように赤く充血し、最奥からは白濁がとろりと糸を引くように零れ出していた。
「こらエラいことになっとんなぁ。さぞかしベタついて気持ち悪かったやろに、なして黙っとったん?」
「兄さ、ん…っ……!」
後孔の周囲をそっと撫でるように指先で触れると、桐生のそこがびくりと蠢く。その動きに誘われるように、内部に放たれた男の精がぐぷりと溢れた。真島はそのぬめりを借りるように指先を湿らせると、ゆっくり、探るように桐生の最奥へと、長い己の指を挿し入れる。
「ぅ、あ……!」
びくびくと全身を戦慄かせ、桐生の内部が生き物のようにうねって真島の指先を捕らえる。本来ならば異物を排出しようとするその動きが、何故か奥へ奥へと導かれるように思えて、桐生の躰をこれ程までに慣らした自分の執念を思い、真島は皮肉な笑いを浮かべた。
「あかんなぁ、ぐじゃぐじゃやで。こんなん放っといたら間違いなく躰おかしなるしな……しゃあないからこのまま掻き出したるわ」
「兄さん、もう、止め…っ……!」
端から桐生の答えを容れる気などなく、真島は独りごちるようにそう呟くと、それまで探るばかりだった指先を掻き出すような動きに変える。桐生の内部で動かすたび真島の指先へねっとりと絡み付いてくる白濁が、桐生を抱いた男の、彼に対する強い執着をそのままの熱さで知らせて来るようで。
「こぉんなハラ一杯になるほどぶち込まれて、可哀想になぁ。……出されるばっかで、桐生ちゃんはまだ出し足りないやろに」
最奥に触れられ、内部を真島の指先で刺激されて、ある種不完全燃焼に近かった桐生の躰へ再び悦楽の火が灯る。相手のペースで、内部から擦られ追い上げられた躰は、桐生の雄としての開放を幾度か許しはしたものの、それは容器一杯になった液体が溢れ出るような放出の仕方ばかりで、堪えに堪えた果て、漸く許された開放の快楽からはほど遠いものでしか無かった。
「うぁ、あ、兄さん……、止め、…っ…!」
既に桐生の雄は再び熱を孕んでその頭を擡げ、先端から間違いなく愉悦の証を滲ませている。以前から真島の手で幾度も触れられ、自分でするよりも馴染んだそのリズムで擦られることを覚えた桐生の躰は、いま真島がその手で数回扱きさえすれば、容易にその熱を吐き出すであろうほどに昂っていた。
「駄目や。中身ぜぇんぶ出したらんと、綺麗になれへんやろ。別にわしは他人の出したもんなんか残ってても平気やけどな、それじゃ桐生ちゃんが辛くなるばっかしやろが。そんなんわししたないわ。つまらへん」
内部を探り、触れるほどに解る昨夜の行為。「桐生を抱く」のではなく、「欲望の赴くまま龍を汚し、引きずり降ろして手に入れる」ために犯す。自分の欲求を遂げ、想いをぶつけるのに必死で、桐生の躰のことなど思い遣る暇もなかったであろう情事の痕跡ばかりが目に付いて、真島は桐生の躰を苛んだ相手に対し微かな腹立ちを覚えた。
「さぁて、出すで桐生ちゃん、力抜きぃや」
そう声を掛けて、弛緩するどころか緊張でより力の籠もる桐生の内部を、真島はうっすら微笑みさえ浮かべながら無理矢理指を引き抜き、下に当てたタオルで掻き出した白濁を受け止める。
「く……! ……っは、あ、あぁ!!」
タオルを折りなおし、綺麗な面で桐生の背中から太腿の裏まで拭き直すと、真島は替えのタオルを熱めの湯に湿らせて、ひっそりと欲情して張り詰める桐生の雄に押し当て、両手で包み込んだ。
「う、あああぁぁ!!」
過敏になった粘膜に、突然人肌以上の熱を当てられ、桐生の膝がガクガクと揺れる。その衝撃でも桐生の雄が開放されることは無く、一瞬何が起きたのか解らない状態で、桐生は哀願するように真島を振り仰ぐ。
「兄さん……。もう、許し……」
「何をや? 桐生ちゃん。わしはぜぇんぜん怒ってへん言うとるやろが。……何をそんなに許されたがっとん?」
「……っ……!」
真島の手での開放を求めて桐生の躰は疼くものの、散々苛まれた筈の現状では、それを素直に口に出すことが流石に憚られて。
「出したいか、挿れられたいかで迷っとんの? ……で、恥ずかしゅうて言いたない、と」
「…………」
「ほんま解り易い子ォやなあ、桐生ちゃんは。ま、今回はおねだりせぇへんでもしたるよ。散々苛められて辛い思いしたやろからなぁ。 いっつも通りにわしの挿れて、扱いて達かしたるわ、安心し。
……せやけどな」
それまで優しく労るようだった真島の声音が、一瞬にして変化し、熱を保ったままだった桐生の雄の先端を強い調子で撫でる。
「一体どっちにヤラれて来たん? 教えぇや」
「ひ、ぁ…っ…!!」
決して開放には至らせず、指の腹で桐生が一番弱い先端の部分を擦りながら、真島はもう片方の手でびくびくと震える雄の根本をぐっと押さえ込んだ。
「あ、あぁっ! や、兄さ、ん…! 兄さんっ……!」
その暴力的な愛撫から逃れたくて、桐生は拒むように頭を振る。きゅっと寄せられた眉根に苦痛だけでない明らかな快楽の色が見えて、真島は揶揄するように笑った。
「ほんまは嫌やないやろ、桐生ちゃん。やぁさしく、気持ちようしたるから、素直に言ぃ……?」
「……っ、く…、う……!」
「どぉせ桐生ちゃんをこうまで出来るヤツなんて、堂島のオヤジのガキか、関西のパツキンのどっちかやろ? ……言うてみぃや、別に奴らの命ァ奪りになんぞ行かへんから」
現東城会5代目代行と、元堂島組組長との間に生まれた一粒種。不動明王を背に負う、いずれは堂島組の二代目を目される男--堂島大吾。そして、その背に負う黄龍故にか、おなじ龍の魂を持つ桐生をライバル視し、死闘を繰り広げてきた関西近江連合代表の、血の繋がらぬ一人息子、郷田龍司。
その二人が、桐生に対し容易ならざる執着を持っていることは既に真島の耳にも届いており、また何故か、桐生もこの二人に対しては己に近いものを感じてでもいるのか、今まで周囲にいた人間とは比較にならぬほど心を許し、傍に居ることを認めている節がある。
(--だからオマエは甘いと、あれほど言うたのに)
近いものを感じて心を許すのは良いが、こうして望まぬ形で裏切られ、傷つくのは桐生本人だと以前から幾度も繰り返し教えた筈だ。自分に対して向けられる感情には恐ろしく無頓着な桐生が、ああやって二人を許し受け入れれば受け入れるほど、あの若造共は付け上がり、もっと多くを求め欲して桐生へ食らいついてくることなど、真島には容易に予想できる展開だった。
「……で、どっちなん? 桐生ちゃん、教えぇや」
追い詰められて脈打つ桐生の雄の先端を、優しくさするようにゆぅるりと撫で上げて、真島は答えを促す。その射るような視線を向けられた桐生はとうとう逃げきれぬことを悟ったのか、観念するように目を閉じ、真島の耳元へ唇を寄せた。
「…… 、に……」
「……ほぅか」
小さく、掠れるような声で吐息混じりに桐生が告げた名を上手く聞き取ることは出来なかったが、それがどちらのものであろうと、今更真島にはどうでも良かった。二人のうちどちらかが桐生を手に入れるために動き出し、勢いとはいえそれを成し遂げたということ。そして、桐生もその相手を誰か認識した上で、抵抗及ばずとはいえ受け入れたという現実がそこにある。ならば、騙し討ちにも似た形で奪われた桐生という存在を、出し抜かれた方がこの先大人しく指を咥えて見ていることなどあるだろうか?
(----答えは否、や)
「展開が読めるなら、悪い方へ転がる前にきっちりぜぇんぶ教えたるのが、理性あるオトナの役目やからなぁ……。さぁて、どう料理したろか」
今回はいち早く気付き、直ぐさま後処理に回れはしたものの、この先も運良く同じ展開が迎えられるとは限らない。どんなに僅かな隙であっても、虎視眈々と桐生を狙うあの若造二人を相手にしては、流石の真島自身も完全に手が回しきれる自信は無くて。
(大人しく待つのはわしの性に合わんしなぁ。……いっそわざと隙見せて、返り討ちにしたろか)
相手の出方を伺いながら反撃する防御戦は自分の得意とするところではない。一番得意なのは攻撃、しかも奇襲戦であるならば、執るべき作戦は唯一つ--「罠」だ。
「よし、決ィめた。……なぁ、桐生ちゃん」
指先で、掌で相変わらず桐生を翻弄しながら、真島の脳内は恐ろしいほどに冷え切って冴え渡り、この先あの二人に対する策で渦巻いている。
「ぁ、あ……。兄、さん……?」
突然愛撫の手を止められて、桐生の潤んだ瞳がうっすらと開かれる。
「今からソイツに電話したり。『欲しかったら、生き残れ』ってなぁ」
「っ、あ……あ…!」
「今回は一人やったけど、いつまたもう片っぽにも狙われるかしれん。一番最後に桐生ちゃんがわしんトコへ戻って来るのはよぉ解っとるがな、流石にやられっ放しは腹立つからなぁ、ちぃっとばかし仕掛けたらんと。『大人しくお前のモンにはならん』て言うたればええんや。
……協力したって?」
言葉と共に、真島は先ほどから桐生を欲しがっていきり立つ己を彼の後孔近くに押し当て、ゆるゆると動かしながらその熱と存在を主張する。
「っ、く……、……っ」
「欲しいんやろ? おねだりせんでも挿れたるさかい、電話しぃや、桐生ちゃん」
桐生の根本を戒める指へ更に力を込め、それまで雄の先端を撫でていたほうの指先で、真島は充血してぷくりと尖った胸の突起を摘み、擦り上げた。
「っあ、ああぁ!」
「相変わらずオンナノコみたいにココが弱いんやなぁ、桐生ちゃんは。……可愛いで。
さ、もっと気持ち良ぅして達かせたるから、言ぃや?」
「兄……さ、ん……」
「ん?」
「……携帯、を……」
「せやな、今渡したる。ちょっと待っとき」
桐生の背に、下半身に触れていた真島の躰が離れ、一時的に雄の戒めも解かれる。漸く熱の通った其処に、じわりと滲むように先走りが現れた。今すぐにでも己の両手で擦り扱き吐き出したいと願うけれど、そうしたら最後、真島が満足するまで何をされるか知れたものではなく、そんな恐ろしい賭に出られるほど、今の桐生には気力も体力の欠片さえも残ってはいなかった。
--そして、通話が終わるか終わらぬその瞬間、桐生が待ち望んだ真島の雄が最奥に訪れ、その灼熱が身を焦がすように桐生の内部を責め立てる。
「っあ、アッ、アアァァ!」
桐生の内部へ僅かに残ったものと、真島の雄が零した先走りでぐちゅぐちゅと音を立てながら、桐生の後孔が真島の雄を飲み込んでゆく。背中の龍を舌でなぞられ、その存在を小さく主張する乳首を捏ねられてなお放出は許されず、桐生の根元は戒められたまま。
「兄さん、も、……ぅ……!」
律動する腰の動きに合わせて内部を抉られ、真島の先端が桐生の前立腺を擦り立てる。声も出せぬほど強いその快楽に、桐生の全身が解放を求めてびくびくと脈打った。
「……せやなぁ。ご用も終わったし、今回はこの辺で許したるわ。……達ってえぇで」
優しくそう声を掛けると、真島は根本の戒めを解き、掌と指先全てで桐生の雄を擦り扱いて桐生の吐精を促す。真島の両手が桐生の雄に触れて新たな快楽を生む度に、腰の奥、真島の雄が揺すり立てる其処から、願っていた逐情の熱が呼び覚まされぐいぐいと上がって来るようで。
「っあ、あああ! 兄さん、……兄さ、ん…っ……!!」
「達きや、桐生ちゃん。……目一杯イイ思いして達きやァ!」
昂ぶらされ、幾度も塞き止められた快楽の波は、高く激しい勢いそのままに桐生の全身を包み、解放へと押し流していった。
--吐精と同時に気を失うようにして落ちた桐生の意識が漸く戻ったのは、それから四半日近くが経過した昼過ぎのことだった。
荒れ狂うような情欲の嵐は既に過ぎ去り、真島は眠る桐生の躰を再び清め直したらしく、桐生自身はいつの間にか真新しい下着までも纏わされ、ソファに横たえられていた。
「……兄さん……?」
「あぁ桐生ちゃん、目ぇ覚めたんか。……ご気分はどや?」
「まだ、怠い…です……」
「そらそや。あんだけヤラれたのにもう体力戻っとったら、どんな化けモンやねんな」
真島は笑いながら、機嫌良さそうにくしゃくしゃと桐生の頭を撫でる。……その手がいつもの黒革のグローブに包まれているのを見やり、桐生は自分が気を失う前、真島の目にあった狂気の陰がすっかり身を潜めてしまい、いつも通りの彼に戻っていることに気付いた。
「散々啼いたから喉乾いたやろ。……飲むか?」
鈍痛の走る躰を無理矢理起こして、桐生は真島から渡されたミネラルウォーターのペットボトルに口をつける。ほんの僅か冷やされただけの水が殊の外美味いと感じるのは、それほどまでに喉が渇いているせいだろうかと桐生は思う。ペットボトルの半分以上を一気に飲み干し、桐生は重い躰を再びソファへ横たえると、真島がその傍へやってきて、桐生が飲み込みきれず零した水の跡をそっと唇で辿った。
「……しっかし、不動明王に黄龍とは、またエラいもんから好かれたもんや、桐生ちゃんも」
「兄さん……何を、言って……?」
真島の言う言葉の意味が解らず、桐生が訝しげに眉を寄せ真島を見上げる。
「倶利迦羅竜王、って知っとるか? 不動明王の化身としての竜王のことや」
「……倶利伽羅、竜王?」
全く聞き慣れぬ音の羅列に、桐生の頭が微かに振られた。
「倶利迦羅竜王ちゅうのはな、岩上で火炎に包まれた竜が剣に巻きついて、それを呑もうとする様で表される、不動明王の化身のことや。要は不動明王と龍は同じもの、っちゅう概念で出来た神様のことやな。
まあこの場合の龍は黒竜やけど、竜は龍に等しく、また不動明王も竜の化身ちゅうことで、要は三つの等しいもんが、それぞれ姿を変えたと言うこともできる訳で……結局は同じものを表してるっちゅうコトになるわけや」
「不動明王と等しい、龍……」
--その名を聞いて思い出すのは、それぞれを背に抱くあの二人の姿。それはつまり、彼らは自分と等しく、また自分は彼らに同じ意味を持つ存在と言う意味で。
「せや。あのガキら、桐生ちゃんを理想か何かと勘違いして、オマエを倒すか、手に入れるかすれば何かに成れるような気ィがしてんのやろな。えらいこと必死になっとるけど、結局不動明王も龍も同じものっちゅう観点から見れば、自分の尻尾追ってぐるぐる回る犬とおんなしことやっとる訳や。……おもろいなぁ?」
「……俺が、あいつらと同じで、あいつらもまた俺とおなじものだと、……そういう事、ですか」
「意味だけを拾えば、っちゅうことや。本来なら黄龍が皇帝を示す存在やけどな、あの二人の中では桐生ちゃんの「龍」を別格と捉えて、おんなし者同士、お互い自分を追っかけて必死こいて戦っとる訳や。--なかなか難儀なもんやと思わんか?」
嘗て失われた己の半身を追い求めるかのように、己と同一の存在を追い、捕らえようとして必死になっている二人。--それはまるで、惹かれ合う恋人同士のように堅く、強い絆で結ばれているようにさえ見えて。
「……あの二人、気付いてねぇって訳ですか」
「おぅ。自分らが戦っとる相手は、所詮自分の影やっちゅうことやなあ。ほんま難儀なガキばっかしや。『堂島の龍』の名がそんなにも欲しいらしいわ。
……ま、近いからこそ取り入れたい、一つの完全なものになりたいっちゅうのも解らんでもないが、ましてそれが桐生ちゃんなら、尚更なのかも知れんなぁ」
「近過ぎると、却って解らねえもんなんだなぁ……」
桐生が長嘆して呟くと、真島の手がそっと伸びてきて頭に触れ、よしよしと労るように撫でられる。
「まぁ気にせんでええよ、桐生ちゃん。……それよか、遥ちゃん迎えに行くまでまだ時間あるんやろ。起こしたるから、もう少し寝とき」
真島にされる行為の中で実は桐生が一番喜ぶそれは、また密やかな欲を呼び起こす色を持ったもので、桐生は照れるように目を伏せ、ソファに突っ伏した。
「は、い……」
……その後少しして聞こえてきた安らかな寝息は、桐生が現在、苦しい過去の夢に苛まれていない事を知らせていて。
「……あんまいい夢見られる訳でもないんやしな。ゆっくり休みや、桐生ちゃん」
強い意志を秘めたその瞳が、再び開かれるその僅かな間だけでも。何よりも彼が辛い夢を見ないためには、躰にそんな余裕さえないほど追い詰めて啼かせるのが一番だと真島は知っているから。
--けれど、この自虐と自傷癖の強い龍を啼かせて安らかな眠りに誘うのは、さほど楽な作業ではないというのに、それを知らぬ二人の若造が真島から桐生を奪うべくやってこようとしている。
誰のものでもあり、また誰のものでもなく。
龍は龍以外のものたり得ず、また他と交わることもない。
「さぁて、大人しく譲る訳にもいかんし、そんな義理もないしなぁ。
桐生ちゃんへ所有権振りかざす意味がないことに、あのガキらがいつ気付くか」
唯一孤高の龍を抱くには、龍自らがそれを望まぬ限り不可能であり、つまりは抱いた時点で龍に受け入れられたも同じで、さもなくは降りて来る事すら無いという事を、あの二人はまだ気付く由もない。
その事実に果たして彼らがいつ気付くのか。
「優しく教えてやる筋合いもなし、罠仕掛けて解らせるしかないやろなぁ……」
安らかな寝息を立てて眠る桐生の、かたちの良い耳に唇を落としながら真島は呟く。
「--でもなぁ、この龍殺るんはわしだけやで。命ァ奪って、全部の血ィ飲み干して一つになったるわ。
一人残すような野暮はせえへんから安心しぃや。なぁ、桐生ちゃん……?」
<了>
以下はマジカズ(真島×桐生)前提の、龍桐若しくは大桐妄想捏造文です。
前半はさほどではないですが、後半(Read More以降)に結構な成人指定文章
(一部SM)が含まれます。
読後の誤字・脱字以外についてのクレームに関しましては、状況により
お受けいたしかねる場合がありますので、以上ご了承の上、お読み下さいませ。
<龍を抱く 本文>
その若さと外見からは意外そうに思われるが、親譲りなのか、極道としての仁義を過ぎるほどに弁えた男だった。
熱いそれを叩いて鍛え上げた鋭利な刃物の如く、冷酷そうに見えてその実熱い、非情かと思えば存外情には厚く、さほどに軽はずみな行動をとるわけでもない。一見しただけでは理解しがたいと思われる行動の理由も、本人の中ではきっちり筋を通して行われていることも少なくはなく、多少周囲に影響を及ぼす程度の勝手な行動をとることがあっても、「本人の立場上有り得る我が侭」程度に留め、決して組の上にまで事が及ばぬ程度に収めてきていた。
それ故に、親を始めとする身近な幹部からは「仕方のないやっちゃ」と苦笑して過ごされる枠を解りきった上で、欲望渦巻く、広いようで狭いこの世界を生き延びてきた。
噂にはずっと聞いていた、「伝説の龍」と呼ばれる男の存在。
その龍を語る言葉にはいつも、「言うほどの者ではない」という軽侮や、「あの若さであれほどとは……」という畏怖、そしてほんの僅かな羨望が見え隠れしていて、それほどに語られる男とは果たしてどんな人間なのだろうと、長いこと疑問に、そして興味深くその存在を思っていた。
初めて出会った瞬間、自分に向けられた深く強い眼差しに、一瞬で捕らえられた。
深く、深く。表情以上に本人の感情を豊かに映し出す瞳。
口の端を僅かに持ち上げる、皮肉にならないぎりぎりのラインを保った微笑み。
……そして自分に差し出された、暖かな掌。
当時自分が受けた衝撃は、その後も決して消え去ることは無く、間近で再びあの眼差しを見、彼自身の言葉で、低く深いその声音で己の名を呼ばれる存在になろうと、そう自らに誓ったあの日の出会い。
--当の本人はもう記憶さえしていまい。
あの日願ったように近くへ寄ることが出来、彼の名を当然の如く呼び、また彼に己の名を呼ばせた瞬間、己の身の裡へ湧き起こった歓喜は、筆舌に尽くしがたいほど。
あの小さな自分が、漸く彼に認識される存在足り得たのだと、これまでの己の努力が報われた瞬間でもあった。
邪気のない単なる憧憬は、成長するに従って欲望となり、やがては独占という名の所有欲に変わる。
ただ近くで彼と再び相まみえることがあるなら、と願った気持ちは、彼の名を呼ぶ機会に恵まれ、存在を認識されて近くに寄ることが出来た途端、願いは一瞬にして膨れ上がり、次はその存在自体を己のものとすべく求めてしまうようになった。
だが、そんな自分を周囲は責められはしまい。同じように、彼の龍に魅入られ、それに彼の龍を滅ぼそうと試みたり、または一見して大人しい彼の龍を操るべく、調子に乗って近付き過ぎたが故にその逆鱗に触れ、命を落としていった男達を見れば、彼に惹かれるのが自分だけではないと証明することにもなるのだから。
あれほどの強さを持ちながら、あれほど慕われる存在でありながら、何故か彼は自分の周囲にひとを容れたがらず、ほんの僅かな許された存在だけが彼のパーソナルスペースへ入ることを許される。それでも、全くの無防備で接することの出来る人間がどれほどかと言えば、恐らく片手にも満たないと断言できる---そう、彼は何故か、皮膚を接するほど近くへ決してひとを寄せ付けなかった。
その理由は後に知れた。
彼の心の中に、神聖にして不可侵、不滅にして永遠の存在があることが知れ---彼らのことを語る度、言葉には言い表せない表情を浮かべることがあって、今は失われたにせよ、愛しい存在を語ることで、何故こんなにも傷つくのかと不思議でならなかった。
けれど、彼がまた失うことを恐れる余り、ひとを寄せ付けたがらぬのだと知った瞬間、無理矢理にでもその垣根を乗り越え、一番近くまで近づいてやろうと思った。
決して失われることのない存在として、一番近くであの眼差しを見、名を呼んでやろうと。
--一度そう思ってしまうと、この欲を抑えることは出来なかった。
一旦その懐に入り得て、簡単に見過ごし、滅ぼせぬほどに心許した存在に成った以上、彼の隙を伺う機会など幾らでもあって。酒の強い彼には珍しくその酒量を過ごしたある日、無防備に眠る彼を見つめた途端、彼を手に入れようとする欲が躯の奥から灼熱のように吹き出し、気付けばその四肢を拘束し、自由を奪っていた。
有り得ぬ身体の不自由さに目覚めて抵抗する彼を力ずくで押さえつけ、卑怯者の己に相応しく、前から彼の目を見つめたまま貫くなど到底出来ずに、さほどの慣らしもせずやおら背後から挿し貫く。皮膚の冷たさからは信じられぬほど熱く、溶かされそうな彼の内部に入って動き出した瞬間、びくりと全身をわななかせて反応した様子で悟った--否、悟らざるを得なかった。
--彼を抱いたのは、自分が初めてではない。……彼は、同性に抱かれるのが初めてではない。
龍を喰らい尽くしたくて、涎を垂らしながら猛る己の雄を狭隘な最奥に捻り込んだあの時、彼の全身に小さく走った震えと、満ちるように零れた吐息は、間違いなく「その味」を知る快楽に彩られたものだったから。
--不思議と、悔しくはなかった。彼を欲しがり、求め、手に入れようとした人間が自分だけではないことを知ったから。彼に対して欲情することが決して間違いではないと、ひとを惹き付け、誘い込まずには居れぬ彼という存在を欲しくて堪らない人間が自分の他にも居る--ましてこの龍がそれを受け入れることがあると解ったのだ、何ほどに悔しいことがあるか、と。
こみあげる劣情と歓喜の渦に巻かれ、自分を抑えきれぬまま彼の躰を貫き、揺すり立て幾度も欲を放つ。剥き出しにされた彼の背の龍が、内部から揺さぶられる度妖しく誘うように揺れて、いつしかその眼光から目が離せなくなっていた。
真っ正面から彼の眼差しを受けられず、背けたはずの裏側では彼の化身が、己の隙を決して見逃すまいと見張っている。
--逃れられない。
彼を真正面から見据えられないのに、その背に負うものからでさえ目を背けることができない。
己が背に負うおなじ文身が、触れ合った皮膚を通して化学反応でも起こしているかのように、焼け付くほど熱く応えている。
彼は、内部の弱い粘膜を滴るような灼熱で擦られ、抉られるように貫かれながら、自分を犯す男の名を時には窘めるように、そして縋るように、荒い吐息混じりの声で幾度も呼び--やがて達した。
その後、名を聞きたいが為更に回数を重ねて彼を貫き、気を失わせた後、己にも訪れた体力の限界から泥のように眠った翌朝、目覚めれば既に隣に彼の姿は無かった。酔いも冷め、一時的な熱も去り冷静になった頭で自己嫌悪に押し潰されそうになりながら、小さな自嘲の溜息を漏らして起き上がると、投げ出したままの携帯電話が着信を伝えて震えた。
遣り場のない苛立ちを押し殺しながら、かけてきた相手の名など確認する暇もなく、通話ボタンを押してその震えを止める。
『……桐生だ』
「あんた……!」
驚愕するこちらの様子など気にも留めず、彼は一方的に口を開いた。
『いいか、二度は言わねぇ。良く聞け。
俺は、誰のものでもねぇし、誰のものにもならねぇ。……手に入れたければ、最後まで生き残れ。
話は……それからだ』
「今、何て……きりゅ」
『じゃあな』
呼び掛ける己の声が届く間もなく、通話が途切れる。
今の会話が嘘では無かったのを確認するように、幾度も、幾度も着信履歴を辿ったが、あれは間違いなく彼本人の携帯電話からかかってきたもので、耳奥に残る声が、昨夜何度も自分の名を呼んだあの音が、記憶に焼き付いて離れない。
先ほどは決して出来なかったけれど、今ほど正面から彼の目を見つめたまま抱きたいと思ったことは無かった。
--もう一度、あの龍を我が手に。
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「……で、ちゃぁんと言うてやったんか? 桐生ちゃん」
桐生の手首に残る、ベルトで戒められて擦れた跡をべろりと舐め上げながら、真島が問う。
「言い、ました……。俺は誰のものでも無いし、……誰のものにもならねぇ、と……」
「で、他には?」
舐めた後ちいさく歯を立て、更にその先の答えを促した。
「最後まで、生き残れ、と……」
「はい、よぉ出来ました。ええ子やなぁ、桐生ちゃんは」
真島が子供を褒めるように、桐生の頭を撫でる。……今日の明け方近くまで桐生がされて居たのと全く同じように、彼を背後から貫きながら。
「兄、さん……っ、も、ぅ……!」
深夜から明け方にかけて幾度も貫かれた桐生の躰は、快楽に対して鋭敏になりすぎるほどの反応をしているのに、真島は敢えて逐情を許さず、桐生の雄の根本を指で押さえ、容易な吐精を不可能にしていた。
--明け方、自分を抱いた男が漸く眠りについた気配に、桐生は躰中に散る残滓やその痕跡の何もかもを洗い流さずに気力だけで立ち上がり、連れ込まれた部屋を後にした。遥には昨夜のうちに早くは戻らぬ旨を伝えてあったため、彼女自身は孤児院で過ごすと決めて出かけたようだったが、このままの姿ではアパートに戻るわけにも行かず、そっと気配を消して訪れたはずのセレナで、何故か当然の如く待ち受けていた真島に発見されたのだ。
「おーおー、相当ヤラれたようやなぁ、桐生ちゃん。オスの匂いがぷんぷんするでぇ?」
「兄さん……!」
自分に関しては殊の外勘の鋭い真島のこと、全てを隠し通すことなど不可能だとは思っていたが、まさか直後の現場で捉えられるとは思っても居らず、桐生は一瞬で己の全身から血が音を立てて引くのが解った。
抵抗する気力は既に無く、体力さえも尽きかけた桐生がその場に崩れ落ちたとき、手袋を外し血の通う暖かな真島の手が自分を支え、抱き上げて3人掛けのソファに寝かされる。
「兄さん、何でここに……」
「わしが桐生ちゃんのことで解らんことがあるわけないやろが。……どうせシャワーも浴びんと戻って来たんやろ? 躰拭いたるから、服、脱ぎぃや」
あくまでも穏和に、優しく語りかけるような素振りでいながらも、笑いの欠片すら浮かばぬ真島の目に、桐生は抵抗を諦め、大人しくシャツを脱いだ。如何に桐生が背を向けていようとも、真島の目が一分の隙も見逃すまいと自分の一挙手を見つめているのが解る。明らかに情事の痕と解る小さな鬱血や歯形、そして手首に残る拘束の跡までも、凍てつくような真島の眼光に晒され、桐生の全身に小さく震えが走る。
「そんなに怯えんといてもええよ、桐生ちゃん。……叱ったりせぇへんから」
「……っ!!」
離れているとばかり思っていた真島の声が突如耳元で囁かれ、桐生の首筋が総毛立つ。
「この擦り跡見る限り、穏便に、ちゃぁんと抱かれた訳じゃないようやし……流石にこのまんまじゃ戻れんわなぁ。遥ちゃんに見つかったら、何言われるか解ったもんやない」
体温に近い、温めの湯で絞ったタオルを桐生の首筋にあてながら、真島は吐息と共に耳元で囁く。その吐息の孕む熱が、逐情の余韻醒めやらぬ今の自分にとって、どれ程神経を刺激するのか解りきった上で。
幾度もタオルを絞り、収めると言うよりも寧ろ快楽を引き出されるように背中を拭かれ、「ほな、湯換えてくるわ」と立ち上がりかけた真島へ、喘ぐように桐生が乞うた。
「兄さん、後は…自分で、やります、から…っ…」
「遠慮せんでもええやないか。今更、やろ?」
止めようとする手を簡単に振り払われ、更には指先でトラウザーズの裾を引っ張りつつ告げられた言葉に、桐生は自らの失策を悟る。
「それよか、下の方がもっとヤバいやろ、桐生ちゃん。……脱ぎ?」
--桐生は僅かに逡巡を見せたものの、それ以上の抵抗は、最早無いに等しかった。
俯せられ、腰だけを高く上げる屈辱的な体勢を強いられて、凌辱の後も生々しい桐生の秘部が真島の眼前に晒される。猛る欲望そのままに貫かれたそこは腫れ上がるように赤く充血し、最奥からは白濁がとろりと糸を引くように零れ出していた。
「こらエラいことになっとんなぁ。さぞかしベタついて気持ち悪かったやろに、なして黙っとったん?」
「兄さ、ん…っ……!」
後孔の周囲をそっと撫でるように指先で触れると、桐生のそこがびくりと蠢く。その動きに誘われるように、内部に放たれた男の精がぐぷりと溢れた。真島はそのぬめりを借りるように指先を湿らせると、ゆっくり、探るように桐生の最奥へと、長い己の指を挿し入れる。
「ぅ、あ……!」
びくびくと全身を戦慄かせ、桐生の内部が生き物のようにうねって真島の指先を捕らえる。本来ならば異物を排出しようとするその動きが、何故か奥へ奥へと導かれるように思えて、桐生の躰をこれ程までに慣らした自分の執念を思い、真島は皮肉な笑いを浮かべた。
「あかんなぁ、ぐじゃぐじゃやで。こんなん放っといたら間違いなく躰おかしなるしな……しゃあないからこのまま掻き出したるわ」
「兄さん、もう、止め…っ……!」
端から桐生の答えを容れる気などなく、真島は独りごちるようにそう呟くと、それまで探るばかりだった指先を掻き出すような動きに変える。桐生の内部で動かすたび真島の指先へねっとりと絡み付いてくる白濁が、桐生を抱いた男の、彼に対する強い執着をそのままの熱さで知らせて来るようで。
「こぉんなハラ一杯になるほどぶち込まれて、可哀想になぁ。……出されるばっかで、桐生ちゃんはまだ出し足りないやろに」
最奥に触れられ、内部を真島の指先で刺激されて、ある種不完全燃焼に近かった桐生の躰へ再び悦楽の火が灯る。相手のペースで、内部から擦られ追い上げられた躰は、桐生の雄としての開放を幾度か許しはしたものの、それは容器一杯になった液体が溢れ出るような放出の仕方ばかりで、堪えに堪えた果て、漸く許された開放の快楽からはほど遠いものでしか無かった。
「うぁ、あ、兄さん……、止め、…っ…!」
既に桐生の雄は再び熱を孕んでその頭を擡げ、先端から間違いなく愉悦の証を滲ませている。以前から真島の手で幾度も触れられ、自分でするよりも馴染んだそのリズムで擦られることを覚えた桐生の躰は、いま真島がその手で数回扱きさえすれば、容易にその熱を吐き出すであろうほどに昂っていた。
「駄目や。中身ぜぇんぶ出したらんと、綺麗になれへんやろ。別にわしは他人の出したもんなんか残ってても平気やけどな、それじゃ桐生ちゃんが辛くなるばっかしやろが。そんなんわししたないわ。つまらへん」
内部を探り、触れるほどに解る昨夜の行為。「桐生を抱く」のではなく、「欲望の赴くまま龍を汚し、引きずり降ろして手に入れる」ために犯す。自分の欲求を遂げ、想いをぶつけるのに必死で、桐生の躰のことなど思い遣る暇もなかったであろう情事の痕跡ばかりが目に付いて、真島は桐生の躰を苛んだ相手に対し微かな腹立ちを覚えた。
「さぁて、出すで桐生ちゃん、力抜きぃや」
そう声を掛けて、弛緩するどころか緊張でより力の籠もる桐生の内部を、真島はうっすら微笑みさえ浮かべながら無理矢理指を引き抜き、下に当てたタオルで掻き出した白濁を受け止める。
「く……! ……っは、あ、あぁ!!」
タオルを折りなおし、綺麗な面で桐生の背中から太腿の裏まで拭き直すと、真島は替えのタオルを熱めの湯に湿らせて、ひっそりと欲情して張り詰める桐生の雄に押し当て、両手で包み込んだ。
「う、あああぁぁ!!」
過敏になった粘膜に、突然人肌以上の熱を当てられ、桐生の膝がガクガクと揺れる。その衝撃でも桐生の雄が開放されることは無く、一瞬何が起きたのか解らない状態で、桐生は哀願するように真島を振り仰ぐ。
「兄さん……。もう、許し……」
「何をや? 桐生ちゃん。わしはぜぇんぜん怒ってへん言うとるやろが。……何をそんなに許されたがっとん?」
「……っ……!」
真島の手での開放を求めて桐生の躰は疼くものの、散々苛まれた筈の現状では、それを素直に口に出すことが流石に憚られて。
「出したいか、挿れられたいかで迷っとんの? ……で、恥ずかしゅうて言いたない、と」
「…………」
「ほんま解り易い子ォやなあ、桐生ちゃんは。ま、今回はおねだりせぇへんでもしたるよ。散々苛められて辛い思いしたやろからなぁ。 いっつも通りにわしの挿れて、扱いて達かしたるわ、安心し。
……せやけどな」
それまで優しく労るようだった真島の声音が、一瞬にして変化し、熱を保ったままだった桐生の雄の先端を強い調子で撫でる。
「一体どっちにヤラれて来たん? 教えぇや」
「ひ、ぁ…っ…!!」
決して開放には至らせず、指の腹で桐生が一番弱い先端の部分を擦りながら、真島はもう片方の手でびくびくと震える雄の根本をぐっと押さえ込んだ。
「あ、あぁっ! や、兄さ、ん…! 兄さんっ……!」
その暴力的な愛撫から逃れたくて、桐生は拒むように頭を振る。きゅっと寄せられた眉根に苦痛だけでない明らかな快楽の色が見えて、真島は揶揄するように笑った。
「ほんまは嫌やないやろ、桐生ちゃん。やぁさしく、気持ちようしたるから、素直に言ぃ……?」
「……っ、く…、う……!」
「どぉせ桐生ちゃんをこうまで出来るヤツなんて、堂島のオヤジのガキか、関西のパツキンのどっちかやろ? ……言うてみぃや、別に奴らの命ァ奪りになんぞ行かへんから」
現東城会5代目代行と、元堂島組組長との間に生まれた一粒種。不動明王を背に負う、いずれは堂島組の二代目を目される男--堂島大吾。そして、その背に負う黄龍故にか、おなじ龍の魂を持つ桐生をライバル視し、死闘を繰り広げてきた関西近江連合代表の、血の繋がらぬ一人息子、郷田龍司。
その二人が、桐生に対し容易ならざる執着を持っていることは既に真島の耳にも届いており、また何故か、桐生もこの二人に対しては己に近いものを感じてでもいるのか、今まで周囲にいた人間とは比較にならぬほど心を許し、傍に居ることを認めている節がある。
(--だからオマエは甘いと、あれほど言うたのに)
近いものを感じて心を許すのは良いが、こうして望まぬ形で裏切られ、傷つくのは桐生本人だと以前から幾度も繰り返し教えた筈だ。自分に対して向けられる感情には恐ろしく無頓着な桐生が、ああやって二人を許し受け入れれば受け入れるほど、あの若造共は付け上がり、もっと多くを求め欲して桐生へ食らいついてくることなど、真島には容易に予想できる展開だった。
「……で、どっちなん? 桐生ちゃん、教えぇや」
追い詰められて脈打つ桐生の雄の先端を、優しくさするようにゆぅるりと撫で上げて、真島は答えを促す。その射るような視線を向けられた桐生はとうとう逃げきれぬことを悟ったのか、観念するように目を閉じ、真島の耳元へ唇を寄せた。
「…… 、に……」
「……ほぅか」
小さく、掠れるような声で吐息混じりに桐生が告げた名を上手く聞き取ることは出来なかったが、それがどちらのものであろうと、今更真島にはどうでも良かった。二人のうちどちらかが桐生を手に入れるために動き出し、勢いとはいえそれを成し遂げたということ。そして、桐生もその相手を誰か認識した上で、抵抗及ばずとはいえ受け入れたという現実がそこにある。ならば、騙し討ちにも似た形で奪われた桐生という存在を、出し抜かれた方がこの先大人しく指を咥えて見ていることなどあるだろうか?
(----答えは否、や)
「展開が読めるなら、悪い方へ転がる前にきっちりぜぇんぶ教えたるのが、理性あるオトナの役目やからなぁ……。さぁて、どう料理したろか」
今回はいち早く気付き、直ぐさま後処理に回れはしたものの、この先も運良く同じ展開が迎えられるとは限らない。どんなに僅かな隙であっても、虎視眈々と桐生を狙うあの若造二人を相手にしては、流石の真島自身も完全に手が回しきれる自信は無くて。
(大人しく待つのはわしの性に合わんしなぁ。……いっそわざと隙見せて、返り討ちにしたろか)
相手の出方を伺いながら反撃する防御戦は自分の得意とするところではない。一番得意なのは攻撃、しかも奇襲戦であるならば、執るべき作戦は唯一つ--「罠」だ。
「よし、決ィめた。……なぁ、桐生ちゃん」
指先で、掌で相変わらず桐生を翻弄しながら、真島の脳内は恐ろしいほどに冷え切って冴え渡り、この先あの二人に対する策で渦巻いている。
「ぁ、あ……。兄、さん……?」
突然愛撫の手を止められて、桐生の潤んだ瞳がうっすらと開かれる。
「今からソイツに電話したり。『欲しかったら、生き残れ』ってなぁ」
「っ、あ……あ…!」
「今回は一人やったけど、いつまたもう片っぽにも狙われるかしれん。一番最後に桐生ちゃんがわしんトコへ戻って来るのはよぉ解っとるがな、流石にやられっ放しは腹立つからなぁ、ちぃっとばかし仕掛けたらんと。『大人しくお前のモンにはならん』て言うたればええんや。
……協力したって?」
言葉と共に、真島は先ほどから桐生を欲しがっていきり立つ己を彼の後孔近くに押し当て、ゆるゆると動かしながらその熱と存在を主張する。
「っ、く……、……っ」
「欲しいんやろ? おねだりせんでも挿れたるさかい、電話しぃや、桐生ちゃん」
桐生の根本を戒める指へ更に力を込め、それまで雄の先端を撫でていたほうの指先で、真島は充血してぷくりと尖った胸の突起を摘み、擦り上げた。
「っあ、ああぁ!」
「相変わらずオンナノコみたいにココが弱いんやなぁ、桐生ちゃんは。……可愛いで。
さ、もっと気持ち良ぅして達かせたるから、言ぃや?」
「兄……さ、ん……」
「ん?」
「……携帯、を……」
「せやな、今渡したる。ちょっと待っとき」
桐生の背に、下半身に触れていた真島の躰が離れ、一時的に雄の戒めも解かれる。漸く熱の通った其処に、じわりと滲むように先走りが現れた。今すぐにでも己の両手で擦り扱き吐き出したいと願うけれど、そうしたら最後、真島が満足するまで何をされるか知れたものではなく、そんな恐ろしい賭に出られるほど、今の桐生には気力も体力の欠片さえも残ってはいなかった。
--そして、通話が終わるか終わらぬその瞬間、桐生が待ち望んだ真島の雄が最奥に訪れ、その灼熱が身を焦がすように桐生の内部を責め立てる。
「っあ、アッ、アアァァ!」
桐生の内部へ僅かに残ったものと、真島の雄が零した先走りでぐちゅぐちゅと音を立てながら、桐生の後孔が真島の雄を飲み込んでゆく。背中の龍を舌でなぞられ、その存在を小さく主張する乳首を捏ねられてなお放出は許されず、桐生の根元は戒められたまま。
「兄さん、も、……ぅ……!」
律動する腰の動きに合わせて内部を抉られ、真島の先端が桐生の前立腺を擦り立てる。声も出せぬほど強いその快楽に、桐生の全身が解放を求めてびくびくと脈打った。
「……せやなぁ。ご用も終わったし、今回はこの辺で許したるわ。……達ってえぇで」
優しくそう声を掛けると、真島は根本の戒めを解き、掌と指先全てで桐生の雄を擦り扱いて桐生の吐精を促す。真島の両手が桐生の雄に触れて新たな快楽を生む度に、腰の奥、真島の雄が揺すり立てる其処から、願っていた逐情の熱が呼び覚まされぐいぐいと上がって来るようで。
「っあ、あああ! 兄さん、……兄さ、ん…っ……!!」
「達きや、桐生ちゃん。……目一杯イイ思いして達きやァ!」
昂ぶらされ、幾度も塞き止められた快楽の波は、高く激しい勢いそのままに桐生の全身を包み、解放へと押し流していった。
--吐精と同時に気を失うようにして落ちた桐生の意識が漸く戻ったのは、それから四半日近くが経過した昼過ぎのことだった。
荒れ狂うような情欲の嵐は既に過ぎ去り、真島は眠る桐生の躰を再び清め直したらしく、桐生自身はいつの間にか真新しい下着までも纏わされ、ソファに横たえられていた。
「……兄さん……?」
「あぁ桐生ちゃん、目ぇ覚めたんか。……ご気分はどや?」
「まだ、怠い…です……」
「そらそや。あんだけヤラれたのにもう体力戻っとったら、どんな化けモンやねんな」
真島は笑いながら、機嫌良さそうにくしゃくしゃと桐生の頭を撫でる。……その手がいつもの黒革のグローブに包まれているのを見やり、桐生は自分が気を失う前、真島の目にあった狂気の陰がすっかり身を潜めてしまい、いつも通りの彼に戻っていることに気付いた。
「散々啼いたから喉乾いたやろ。……飲むか?」
鈍痛の走る躰を無理矢理起こして、桐生は真島から渡されたミネラルウォーターのペットボトルに口をつける。ほんの僅か冷やされただけの水が殊の外美味いと感じるのは、それほどまでに喉が渇いているせいだろうかと桐生は思う。ペットボトルの半分以上を一気に飲み干し、桐生は重い躰を再びソファへ横たえると、真島がその傍へやってきて、桐生が飲み込みきれず零した水の跡をそっと唇で辿った。
「……しっかし、不動明王に黄龍とは、またエラいもんから好かれたもんや、桐生ちゃんも」
「兄さん……何を、言って……?」
真島の言う言葉の意味が解らず、桐生が訝しげに眉を寄せ真島を見上げる。
「倶利迦羅竜王、って知っとるか? 不動明王の化身としての竜王のことや」
「……倶利伽羅、竜王?」
全く聞き慣れぬ音の羅列に、桐生の頭が微かに振られた。
「倶利迦羅竜王ちゅうのはな、岩上で火炎に包まれた竜が剣に巻きついて、それを呑もうとする様で表される、不動明王の化身のことや。要は不動明王と龍は同じもの、っちゅう概念で出来た神様のことやな。
まあこの場合の龍は黒竜やけど、竜は龍に等しく、また不動明王も竜の化身ちゅうことで、要は三つの等しいもんが、それぞれ姿を変えたと言うこともできる訳で……結局は同じものを表してるっちゅうコトになるわけや」
「不動明王と等しい、龍……」
--その名を聞いて思い出すのは、それぞれを背に抱くあの二人の姿。それはつまり、彼らは自分と等しく、また自分は彼らに同じ意味を持つ存在と言う意味で。
「せや。あのガキら、桐生ちゃんを理想か何かと勘違いして、オマエを倒すか、手に入れるかすれば何かに成れるような気ィがしてんのやろな。えらいこと必死になっとるけど、結局不動明王も龍も同じものっちゅう観点から見れば、自分の尻尾追ってぐるぐる回る犬とおんなしことやっとる訳や。……おもろいなぁ?」
「……俺が、あいつらと同じで、あいつらもまた俺とおなじものだと、……そういう事、ですか」
「意味だけを拾えば、っちゅうことや。本来なら黄龍が皇帝を示す存在やけどな、あの二人の中では桐生ちゃんの「龍」を別格と捉えて、おんなし者同士、お互い自分を追っかけて必死こいて戦っとる訳や。--なかなか難儀なもんやと思わんか?」
嘗て失われた己の半身を追い求めるかのように、己と同一の存在を追い、捕らえようとして必死になっている二人。--それはまるで、惹かれ合う恋人同士のように堅く、強い絆で結ばれているようにさえ見えて。
「……あの二人、気付いてねぇって訳ですか」
「おぅ。自分らが戦っとる相手は、所詮自分の影やっちゅうことやなあ。ほんま難儀なガキばっかしや。『堂島の龍』の名がそんなにも欲しいらしいわ。
……ま、近いからこそ取り入れたい、一つの完全なものになりたいっちゅうのも解らんでもないが、ましてそれが桐生ちゃんなら、尚更なのかも知れんなぁ」
「近過ぎると、却って解らねえもんなんだなぁ……」
桐生が長嘆して呟くと、真島の手がそっと伸びてきて頭に触れ、よしよしと労るように撫でられる。
「まぁ気にせんでええよ、桐生ちゃん。……それよか、遥ちゃん迎えに行くまでまだ時間あるんやろ。起こしたるから、もう少し寝とき」
真島にされる行為の中で実は桐生が一番喜ぶそれは、また密やかな欲を呼び起こす色を持ったもので、桐生は照れるように目を伏せ、ソファに突っ伏した。
「は、い……」
……その後少しして聞こえてきた安らかな寝息は、桐生が現在、苦しい過去の夢に苛まれていない事を知らせていて。
「……あんまいい夢見られる訳でもないんやしな。ゆっくり休みや、桐生ちゃん」
強い意志を秘めたその瞳が、再び開かれるその僅かな間だけでも。何よりも彼が辛い夢を見ないためには、躰にそんな余裕さえないほど追い詰めて啼かせるのが一番だと真島は知っているから。
--けれど、この自虐と自傷癖の強い龍を啼かせて安らかな眠りに誘うのは、さほど楽な作業ではないというのに、それを知らぬ二人の若造が真島から桐生を奪うべくやってこようとしている。
誰のものでもあり、また誰のものでもなく。
龍は龍以外のものたり得ず、また他と交わることもない。
「さぁて、大人しく譲る訳にもいかんし、そんな義理もないしなぁ。
桐生ちゃんへ所有権振りかざす意味がないことに、あのガキらがいつ気付くか」
唯一孤高の龍を抱くには、龍自らがそれを望まぬ限り不可能であり、つまりは抱いた時点で龍に受け入れられたも同じで、さもなくは降りて来る事すら無いという事を、あの二人はまだ気付く由もない。
その事実に果たして彼らがいつ気付くのか。
「優しく教えてやる筋合いもなし、罠仕掛けて解らせるしかないやろなぁ……」
安らかな寝息を立てて眠る桐生の、かたちの良い耳に唇を落としながら真島は呟く。
「--でもなぁ、この龍殺るんはわしだけやで。命ァ奪って、全部の血ィ飲み干して一つになったるわ。
一人残すような野暮はせえへんから安心しぃや。なぁ、桐生ちゃん……?」
<了>
PR
>> Sweetest on the earth
「♪どぉーっこやろなぁ どっこやろなぁ 可愛い可愛い桐生ちゃん♪」
真島吾朗は、調子外れな童謡の替え歌を口ずさみながら、夜の神室町を徘徊していた
─── 彼の"愛しの"宿敵、桐生一馬を求めて。
いつもは大勢の取り巻きを引き連れている真島が、この日は珍しく一人だった。
だが一人歩きの今日とて、誰一人として彼に絡むような馬鹿者はいなかった。ヘビ柄の服に身を包んだ男の、その恐ろしさを神室町の者全てが熟知しているからだ。
にわかに遠くが騒がしくなったことに気付いた真島は、喜びに胸がザワザワと震えるのを感じ、そちらへ向かって駆け出した。
やはり、真島の野生の勘は当たった。
大きな人だかりをなぎ倒して中心部にたどり着くと、そこで街の雑魚らに囲まれているのは桐生その人であった。
「ビンゴやぁ~♪ きっりゅうちゃ~~ん、相変わらずモテモテやなぁ」
「・・・真島の兄さん」
何者かも知らずに桐生に絡んでいたチンピラたちは、"桐生"と"真島"の名を聞いた途端に震えだす。いままでこの二人に会う機会すら与えられなかった下っ端ヤクザと言えども、彼らの恐ろしい噂は嫌と言うほど耳にしてきた。
「し、失礼致しやした!!!!!」
チンピラの一人がそう一言叫ぶと、仲間の雑魚共や ついでに野次馬たちも、蜘蛛の子を散らすように一斉に立ち去ってしまった。
「あらら、桐生ちゃん、折角モテとったのに悪いなぁ。腕慣らしするとこやったんちゃうん?」
「兄さん、冗談でしょう。また片付けなきゃならないと思っていたから、助かりました。有難うございます」
「んな、お礼なんて言わんといて~。桐生ちゃんにはもっと他のことでお返ししてもらわなアカンねんで」
満面の笑みを浮かべる真島。桐生は不思議そうに首を傾げる。
「? 何のことです?」
「きっりゅうちゃ~~ん!マナー知らずの子ぉは、お行儀悪いねんでぇ。今日は一体なんの日や?」
「?? 今日・・・3月14日・・・。 ・・・・・・ホワイト・デー・・・?」
桐生の顔がみるみるうちに曇りだす。対照的にますます嬉しそうにニヤニヤする真島。
「さあ、お返しもらおかぁ♪ ワシも一ヶ月前、桐生ちゃんにあげたやろ?真島吾朗特製チョコを」
「・・・ええ、”アレ” に塗りたくったチョコを無理矢理 口に突っ込まれましたね・・・」
「ウマかったやろぉ♪ これがホンマのチョコバナナやねん! チョコはワシの熱い愛を込めて、体温で溶かしたんやで~」
「ああ・・・道理で重い・・・。 それはともかく、俺は甘い物は苦手なんです」
(おまけにあの食べさせ方は・・・)と言いたいところを、辛うじて抑えた桐生。
「ほか。ほな、次回はしょっぱいモン塗ろか。まあ、人様の気持ちは有難く受け取っとき。と、言うわけでお返し」
もう 何か受け取らなければ帰らないな、と諦めた桐生は真島に尋ねた。
「・・・兄さんは何が欲しいんですか」
「あま~いモンや。この世で一番甘いモンがええ。ワシぁ甘いモン大好きやさかい」
「うーん。ケーキとか、チョコとか、ですか?俺はよく知りませんが・・・」
桐生はまんまと真島の策に嵌められてしまった。真島の唇がニンマリと最高の笑みを湛える。
「アマアマ、あま~い桐生ちゃん♪ この世界でいっちゃんアマいのは桐生ちゃんや~!
ワシは桐生ちゃんがええ!食べさしてぇな♪♪♪」
桐生は、自分の危機察知能力の甘さに頭を抱えた。
* * *
「あ~~~、ウマかった♪ やっぱ桐生ちゃんの味は最高に甘くて美味いわ~。 ご馳走さん♪」
意気揚々と歩き出す真島。対してフラフラと倒れ込みそうな足取りの桐生。
恩を押し売りされた挙句に裏路地に半ば強制的に連れ込まれ、自分の身体で返礼させられた・・・。
桐生にとって、今日は良くも悪くも、最高に「甘い」ホワイト・デーとなった ───。
「♪どぉーっこやろなぁ どっこやろなぁ 可愛い可愛い桐生ちゃん♪」
真島吾朗は、調子外れな童謡の替え歌を口ずさみながら、夜の神室町を徘徊していた
─── 彼の"愛しの"宿敵、桐生一馬を求めて。
いつもは大勢の取り巻きを引き連れている真島が、この日は珍しく一人だった。
だが一人歩きの今日とて、誰一人として彼に絡むような馬鹿者はいなかった。ヘビ柄の服に身を包んだ男の、その恐ろしさを神室町の者全てが熟知しているからだ。
にわかに遠くが騒がしくなったことに気付いた真島は、喜びに胸がザワザワと震えるのを感じ、そちらへ向かって駆け出した。
やはり、真島の野生の勘は当たった。
大きな人だかりをなぎ倒して中心部にたどり着くと、そこで街の雑魚らに囲まれているのは桐生その人であった。
「ビンゴやぁ~♪ きっりゅうちゃ~~ん、相変わらずモテモテやなぁ」
「・・・真島の兄さん」
何者かも知らずに桐生に絡んでいたチンピラたちは、"桐生"と"真島"の名を聞いた途端に震えだす。いままでこの二人に会う機会すら与えられなかった下っ端ヤクザと言えども、彼らの恐ろしい噂は嫌と言うほど耳にしてきた。
「し、失礼致しやした!!!!!」
チンピラの一人がそう一言叫ぶと、仲間の雑魚共や ついでに野次馬たちも、蜘蛛の子を散らすように一斉に立ち去ってしまった。
「あらら、桐生ちゃん、折角モテとったのに悪いなぁ。腕慣らしするとこやったんちゃうん?」
「兄さん、冗談でしょう。また片付けなきゃならないと思っていたから、助かりました。有難うございます」
「んな、お礼なんて言わんといて~。桐生ちゃんにはもっと他のことでお返ししてもらわなアカンねんで」
満面の笑みを浮かべる真島。桐生は不思議そうに首を傾げる。
「? 何のことです?」
「きっりゅうちゃ~~ん!マナー知らずの子ぉは、お行儀悪いねんでぇ。今日は一体なんの日や?」
「?? 今日・・・3月14日・・・。 ・・・・・・ホワイト・デー・・・?」
桐生の顔がみるみるうちに曇りだす。対照的にますます嬉しそうにニヤニヤする真島。
「さあ、お返しもらおかぁ♪ ワシも一ヶ月前、桐生ちゃんにあげたやろ?真島吾朗特製チョコを」
「・・・ええ、”アレ” に塗りたくったチョコを無理矢理 口に突っ込まれましたね・・・」
「ウマかったやろぉ♪ これがホンマのチョコバナナやねん! チョコはワシの熱い愛を込めて、体温で溶かしたんやで~」
「ああ・・・道理で重い・・・。 それはともかく、俺は甘い物は苦手なんです」
(おまけにあの食べさせ方は・・・)と言いたいところを、辛うじて抑えた桐生。
「ほか。ほな、次回はしょっぱいモン塗ろか。まあ、人様の気持ちは有難く受け取っとき。と、言うわけでお返し」
もう 何か受け取らなければ帰らないな、と諦めた桐生は真島に尋ねた。
「・・・兄さんは何が欲しいんですか」
「あま~いモンや。この世で一番甘いモンがええ。ワシぁ甘いモン大好きやさかい」
「うーん。ケーキとか、チョコとか、ですか?俺はよく知りませんが・・・」
桐生はまんまと真島の策に嵌められてしまった。真島の唇がニンマリと最高の笑みを湛える。
「アマアマ、あま~い桐生ちゃん♪ この世界でいっちゃんアマいのは桐生ちゃんや~!
ワシは桐生ちゃんがええ!食べさしてぇな♪♪♪」
桐生は、自分の危機察知能力の甘さに頭を抱えた。
* * *
「あ~~~、ウマかった♪ やっぱ桐生ちゃんの味は最高に甘くて美味いわ~。 ご馳走さん♪」
意気揚々と歩き出す真島。対してフラフラと倒れ込みそうな足取りの桐生。
恩を押し売りされた挙句に裏路地に半ば強制的に連れ込まれ、自分の身体で返礼させられた・・・。
桐生にとって、今日は良くも悪くも、最高に「甘い」ホワイト・デーとなった ───。
それは、突然の出来事。
ギャキキキイィッ
“嶋野の狂気”こと真島吾朗の前に一台の車が急停車した。おもむろに開いたドアから顔を覗かせたのは、いつも桐生一馬についてまわっているシンジという舎弟。
「真島の叔父貴!大変っすよ!」
車から転げ落ちるようにして、シンジが真島の足にすがった。
「もう話はわかってるで。んで、愛しのヒロインチャンはどこかいな」
そう言って、真島は壮絶にギラついた眼でにんまりと笑った。
桐生が人質に取られた、との情報が上から堂島組に入ったのは昼前。
その後風間組にも情報がまわり、神室町付近を牛耳っている組全てに知れ渡ったのはそう遅くなかった。
“堂島の龍”と恐れられている桐生一馬が、関東に乗り込んできた弱小組の人質に取られたのだ。神室町に緊張が走っている。
「親父、どうします?」
風間組事務所に集まった舎弟達と、桐生の顔馴染み達は渋い表情をしながら風間の方へ向いた。
「桐生が捕まってるんだ。ヘタなことできねぇよ」
難しい顔で唸るが、ふと頭をあげて「その手があったか」と呟く。
「なんすか?」
一番桐生に懐いているシンジが身を乗り出した。
「シンジ、車用意しろ。荒事には荒事のスペシャリストにまかすが一番だ」
「親父はああ言ってましたけど……、兄貴大丈夫かなぁ」
車内に憂鬱そうなシンジのため息が漏れる。
真島とシンジを乗せた車は、神室町からずっと離れた県境にある繁華街に入った。
雰囲気は神室町のようだが、渦巻く欲望や人の密集度からいって神室町に遠く及ばない。
「大丈夫やて、わしが直々に出向いてきたんや。桐生チャン傷モンにされたら、わしが東京湾に沈める前に生きてきたこと後悔させてやるんやからな」
運転席に座るシンジは後部座席から漂い始める異常な殺気に首を竦めるしかなかった。
「着きましたよ。叔父貴」
繁華街から少し進んだところに、指定された場所があった。いかにも、というような誰も住んでいなさそうな建物。
もとはいかがわしい店だったのか、入り口付近に色褪せた看板が立てかけてある。
「う~ん、腕がなるわ♪」
言葉だけでは至極楽しそうだが、纏っているオーラは鬼そのもの。きっと桐生を攫ったことでかなりの憤りを感じているらしい。真島のオーラに気圧されながら、一応交渉人として前を歩いていった。
「なんだぁ?」
扉の近くにたむろする、これまたあからさまな態度にチンピラにシンジはヒヤヒヤしながら宣言した。
「わしのもん返してもらおか」
「え?」
開いた口から間抜けな声。シンジの後ろにいたはずの真島がニマニマしながら、愛用バットをこつこつ叩いた。
「叔父貴!?まずいっすよ、ここは刺激しないようにって…、ああ!」
ドカッ バキッ グシャッ
最後の音がとても気になるが、シンジは動かなくなったチンピラをみて音便に済ます気がないことを再確認した。
建物の中はいがいと狭く、ずいぶん使われていないようで埃がところどころに舞っていた。
「テメェ、こっちに人質いるのがわかってんのか!」
室内の奥から出てきた数人のヤクザが、シンジと真島を取り囲んだ。
地方のヤクザだからといって凄んだら神室町をフラフラしている同業者と同じくらいの迫力だ。
シンジは思わず真島の後ろに飛び退く。
「あんたら、立場わかってるん?」
奥から、真島と似たようなイントネーションの声がわきあがった。
すらりとした長身の男。
艶やかな黒髪は短く、目元はかなり涼しい。
その男の注目すべき点は、腕の中にぐったりした桐生を愛しげに抱きかかえていることだ。
「あ、兄貴!」
「桐生チャンになにしたんやっ!」
さっきまでの余裕っぷりはどこへやら。真島は大人しく男に身を任せている桐生をみて少し動揺する。
「少し眠ってもらっとるだけや。……、それにしてもええ男やないか。こんな男前が頬赤らめて鳴くさまは、さぞかし可愛えんやろなぁ」
「こんな風に苦しそうな顔して、腰振って男くわえこむんやろ?この人は。たまらんなぁ、ほんまにいじめとうなる。ぐちゃぐちゃに掻き回して、よがらせてみたいわ」
そう言って腰を抱く力を強め、苦しげに歪められた桐生の眉間に口づけを落とす。
「なぁ、真島さん。こんな可愛ええ人、あんたにはもったいない」
それが合図だったのか、今まで黙っていたヤクザ達が各々の拳を振り上げて襲いかかってきた。
いくら“嶋野の狂気”とはいえ、こんな大勢に囲まれて勝てるわけないと男はふんでいたようだ。
「桐生チャン狙いだったんかいな…」
その場にいた者全て、凍りついたように動けなくなる。
「桐生チャンは、わしのものなんやで…?桐生チャンの体も、魂も…そうや、その命全てわしのもんや」
ぶわっ、とシンジの体に鳥肌が立った。
全身から嫌な汗が噴き出て、シンジは生唾を飲み込む。
真島を取り巻く異様な空気に、桐生を抱き締めている男も焦りはじめた。
「何してるんや!はよ、やってまえっ!」
そのかけ声ではっとなったヤクザ達は振り上げていた拳を真島に向ける。
「そんなんで、勝てる思おてんの?」
真島の般若が笑うとき、刃向かった者は地獄よりも酷いものを見るという。
屈強な男達の拳は真島に届くことはない。
目にも止まらぬ速さで、隙の甘い男達の間をすり抜けた。
「なっ…!」
驚いた顔のまま硬直する。桐生の体を抱えながら、目の前まで迫る真島に男は最終手段にでた。
「それ以上近づくなや!可愛ええ桐生に風穴開くで」
ジャキリと構えられた拳銃は意識のない桐生の額に当てられる。
「兄貴!」
シンジが焦って近寄ろうとしたが、ヤクザ達に阻まれてしまう。
「真島ぁ…俺はお前に復讐するために神室町の組になりろうとしたんや……、気が変わったわ」
桐生を抱え直す。
「調べたら、こいつがあんたの大事な人言うやないか。…、こいつを消したらあんたはどうなるか。はっ、見ものやなぁ」
愉しげに片頬をあげる。
ゆっくりと銃口を桐生の胸へ……
バンッ!!
だが、発射された銃弾は壁にめり込んだだけだった。
拳銃が誰かの手によって逸らされている。
そう、桐生の手が拳銃に添えられて胸から壁へと逸らしたのだ。
「あんたには、俺を殺せない」
男に体を預けたまま、桐生は耳元で呟いた。
「俺は真島の兄さんのもんだ。あんたみたいな奴に俺は殺れない」
桐生の艶がかった熱い息が、男の首筋を撫ぜた。とたん、男は怯えたように肩を震わす。
「こんなんでびびってるようじゃ、兄さんには勝てないぜ?坊や」
桐生の手が拳銃から離された直後、真島のバットによって男の手はしたたか殴られた。
「っつぁ!」
痛みにおもわず桐生を拘束していた力が弱まり、その隙をついてヤクザを振り切ったシンジが桐生を救出した。
「兄貴、大丈夫っすか!?」
「ああ、変な薬かがされただけだ。それより、早く外でるぞ」
「へ?」
「兄さん、かなりキてるからな。巻き込まれないうちに」
シンジは完全に目が据わっている真島を見て、急いで桐生を外へ運びだしたのだった。
「んで、地獄絵図ってわけか」
遅れて現場にやってきた風間が血でどろどろになった真島を見てため息をついた。
「親っさんが真島の叔父貴に頼めって言ったんじゃないっすか」
シンジが眠ってしまった桐生を車内で介抱しながら抗議する。
「いや、そうだけどよ。桐生が人質に捕られてるんじゃ、真島が黙ってねぇと思ってな。それにやった野郎が、元真島組若頭って話もあったんだぜ?」
桐生を拉致した男は真島組が立ち上がった当初からいた若頭だったのだが、裏で敵対していた組と繋がっていたため捨てられたのだ。
そのとき殺されなかったのは、真島の少ししかない情のおかげだったのにも関わらず、恩を仇で返すような行為に走ってしまったようだ。
「いや~、ひっさびさにこんな血ぃ浴びたわ」
怒りが収まったのか、今は邪気のない笑顔でニカニカ笑う真島。
シンジは返り血でべとべとになっている真島に、乾いた笑みをぎこちなく返した。
「と、とりあえず一件落着ですんで桐生さんマンションに送ります」
風間に一礼して、運転席に乗り込もうとするシンジに真島もその車に乗り込んだ。
「叔父貴?」
「桐生チャンち行って介抱するんや。わしもつれてき」
あわよくば、桐生をちゃんと介抱しようと考えていたシンジは思惑が砂のように散っていき涙目になる。
「ん?どうしたんや」
「…なんでもありませんよ」
心の中で男泣きしながら、シンジは桐生のマンションへ車を走らせるのだった。
桐生が目を覚ますと、見慣れた天井が視界に入る。
自宅の寝室。
だが、自分以外の気配に首を傾げた。
「お、桐生チャン目ぇ覚めたんかい」
現れたのは上半身裸の、タオルで髪をゴシゴシ拭いている真島。
「奴らボコすんに血まみれになってもうたからな、シャワー借りたで」
穏やかに笑う真島に桐生はそっと微笑み、体を起こす。
「寝てたらええやんか、まだ意識はっきりせえへんのやろ?」
ベッドに腰掛けて、心配そうに桐生の顔を覗きこむ。桐生は照れたように顔を赤くした。
「…兄さんが来てくれると思ってた」
「当たり前やんか!桐生チャンはわしの大事な大事なヒロインやで。ヒーローのわしが助けなあかんやろ」
そこで真島は俯いている桐生の顔を上げさせ、優しく唇を奪う。
労るようなキスに桐生はさらに顔を赤くさせた。
「でも、桐生チャンなんでつかまったんや?」
“堂島の龍”と恐れられる桐生があんな奴らに捕まるはずがない。訝しげに問いつめられ、桐生は気まずそうに呟いた。
「兄さんのことで話があるって言われて……」
「それでついてった先で薬かがされて、意識失ったんか?」
無言で頷く。
「まったく……っ!」
「うわっ」
真島に抱きつかれて、ベッドに倒れこんだ。
「わしのことになるとホントにダメやな」
「…兄さんだって」
「はは、違いないわ」
そして見つめ合い、どちらともなく口づけあうとお互いの体をまさぐる。
「ええんか?」
「…いまさら聞くなよ」
拗ねて顔を逸らした桐生はその夜、歯止めのきかない狂犬に貪りつくされるのだった。
end
この日、桐生はある危機に直面していた。
それは何故かと言えば・・・
「な~んでお前がここにおるんや」
「それはワシの台詞じゃ」
何故か真島と龍司が同時に桐生の家を訪れたことから始まる。
「と、とりあえず、部屋に入ってくれないか」
何故こんな時に遥はいないのだろうと涙しながら桐生が二人を中に案内すると、突然両腕をガシッと掴まれた。
「あの・・・兄さん?龍司?」
「桐生はんはワシのや、おっさんは帰り」
「その台詞そのままそっくり返したるわ、若造が。桐生チャンはわしのもんやで」
自分を挟み込んで殺気むき出しで睨みあう二人に、桐生はヒクッと頬を引きつらせる。
正直、これが桐生でなかったらショック死しているに違いない。
「あの・・・俺は俺のものであって・・・」
「桐生チャンは黙っとき」
「桐生はんは黙っときなはれ」
同時に言われて桐生は口を噤む。
こういう時だけ息がピッタリ合うのもどうかと思うが・・・
「大体後から来た癖して、ずうずうしいにも程があるわ」
「はっ、先も後も関係あらへん。それに桐生はんとわしは運命に導かれたもの同士やで。コレ程似合いのカップルはおりまへんやろ」
「それを言うやら、わしかてずっと桐生チャンがこの世界に入った時から見てきたんや。あの頃から桐生チャンホンマ可愛かったでぇ・・・」
「ぐぬぬ・・・」
不毛だ。
不毛過ぎる。
桐生は何とかして逃げ出す機会を伺いながらも、二人の会話に頭を抱え込みたくなる。
大体、何故自分がこんな目に遭わねばならないんだ。
自分はただ静かに遥と暮らしたいだけなのに・・・。
それすらも許してはもらえないんでしょうか、おやっさん。
「なぁ桐生チャン、どっちが好きなんや」
そんな意識がすっかり現実逃避していた桐生の耳に、突然真島が囁くように話しかけてきた。
「は?い、いきなり何言い出すんですかッ」
思わずゾワッと背筋に電流が走って咄嗟に耳を塞ごうとするが、どっちの腕も未だ拘束されていて動かすことが出来ない。
しかも負けじと龍司まで反対側から同じように耳元で囁くように問いかけてきたものだから堪ったものではない。
「桐生はん、どっちや」
「いや、だからそんなこと言われても・・・ッ」
いきなり過ぎる質問にそんなこと今まで考えたこともなかった桐生は大いに悩む。
真島の兄さんも龍司も、どっちがいいのかと強引に決めるのならば自分の中では同じくらいとしか答えることは出来ない。
嫌いではない。
桐生の周囲にいる人達の中では『気になる範囲』に入るだろうか・・・。
しかし、どっちと言われても・・・
「俺にはどっちとも言えませんよ。二人とも別に嫌いじゃないですけど」
考え抜いた後での無難な答えを口にした桐生ではあったが、それで納得する二人ではない。
二人が待ち望んでいる答えは、どっちか一人の名前なのだ。
「・・・解ったわ、じゃあこうしよ」
「何やねん?」
真島はなにやら考え込む仕草をすると、突然掴んでいた腕を放して龍司を隅っこの方へと引っ張っていった。
ごにょごにょごにょごにょ
なにやら話し込んでいる二人に、桐生は警戒心を強める。
・・・何か物凄く嫌な予感がする。
ここは逃げるべきか。
「よっしゃ!それじゃ一発勝負じゃっ」
「ほないくでぇ・・・」
「「ジャンケン ポン!!」」
「よっしゃ!ワシの勝ちや!」
「・・・ちっ、負けてしもうたわ」
こそこそと話し込んでいたと思ったら突然真島と龍司がジャンケンを始めた。
勝ったのは龍司で、負けた真島は地団太を踏んで悔しがっている。
「あ、あの、二人とも・・・」
しかし訳が解らずおろおろしていた桐生は、誇らし顔の龍司に腕を掴まれてしまった。
「ほな、いこか」
「は?いくって何処へ・・・」
「勿論桐生はんの部屋や」
「は?」
俺の・・・部屋?
「桐生チャン、わしが直ぐに慰めたるからなぁぁぁ!」
「はぁ?」
訳が解らない。
一体二人で何を話し合ったんだ。
龍司に引っ張られていく桐生を、ハンカチ片手に真島が見送る。
・・・そして、この後桐生はその意味を身をもって知ることになるのだった。
パタン
「ちょ、何なんだ一体???」
部屋の中に入った途端ベッドに押し倒された桐生は、上から覆い被さってきた龍司を退けようと肩に手を掛ける。
だが、それよりも早く龍司が桐生の服を脱がせ始めたものだから桐生はギョッと慌て出した。
「おいっ、何する!?」
「急ぐんや、桐生はん」
「は?うわっ!?」
勢いよく下着ごとズボンを脱がされて、桐生は思わず崩れた体制を立て直す為シーツに両手を突く。
すると、これ見よがしに龍司はシャツを脱がせ様手首を縛り付けてしまい身動きが取れないようにしてしまった。
「おい、龍司ッ!・・・あっ!」
「桐生はん、長くはできへんけど最高に良くしたるからな」
「ふっ・・・何、い・・・て・・・っ」
胸に這わせられた手にビクリと震える。
これから何が始まるのか。
それは龍司の意図的に動かされる手の動きと、奪うように塞がれた唇によって嫌でも桐生にはわかった。
「・・・はっ・・・ッ」
龍司の大きな手や熱い舌が這わせられる度、桐生の口からは自分でも耳を塞ぎたくなるような吐息と、甘い声が零れる。
「桐生はん、気持ちええか?」
「りゅ・・・や・・・ぁ」
時間がないというだけあって、その動きに桐生の身体と思考が付いていけない。
だがどんなに時間が無くても手を抜かないのが龍司だ。先走りに濡れる中心を口の中に含み愛撫を施しながら、同時に龍司の手は胸と、グチュグチュと音を立てて後ろを犯し確実に桐生を追い詰めていく。
三箇所同時に責められながらオマケに聴覚まで犯されて、桐生の中はもうグチャグチャだ。
「ひっ・・・あぁああ!!も、やぁ・・・ッんぅ・・・」
涙を流しながら卑猥な音に耐え切れずシーツに顔を擦り付けると、グリッと龍司の指が中のいいところを擦り上げ悲鳴を上げる。
「あああっ!!」
「ええ声や、もっと鳴いてや」
「そこっ、やだ!やめっ」
「やめへん」
龍司は集中的にそこを責めながら、暫し桐生の乱れる姿を眺める。
普段の桐生からは想像も出来ない快楽に濡れる姿に、ニヤける顔が止められない。
どうせならこのままもう少し・・・
ガンガンガンガン!!!
「・・・ちっ」
もう少し堪能したかったのだが、フライパンでも叩いているのだろう音に舌打ちすると龍司は仕方なく指を抜き取った。
「ッ・・・ぁ・・・?」
「時間制限って約束やからな、堪能するんはまた今度にするわ」
そう言って龍司は己の硬く起ち上がったそれを取り出すと後ろに宛がう。
そして桐生の腰を抱えると、一気に突き立てた。
「いっ・・・あああああ!!!」
指とは比べ物にもならない痛みと衝撃に桐生は悲鳴を上げる。
それでも龍司は容赦なく桐生を追い詰める。
「やっ!りゅ・・・ッああっ!あ、あ、ひぁッ」
「は、は、堪忍な、桐生はん。けど、ワシはあんな男になんぞ負けへんで」
激しく突かれながら強く抱きしめられる。
その背中にいつの間にか外された腕を回ししがみ付きながら、桐生はどうしていいのか解らず何度も龍司の名を呼んだ。
それしか今の桐生には出来なかった。
「りゅ、じ、りゅう・・・じ・・・ッ」
「桐生はん・・・ッ」
「も、駄目だッりゅう・・じ・・・ッ!もぅ・・・イク・・・ッ」
「くっ・・・ッ好きや、一馬ッ」
「ふ、あ、・・・ッあああああっ!!」
ガチャ
「・・・終わったで、おっさん」
「ほな、次はワシの番やな」
龍司が不満ダラダラと言った感じで部屋から出てくると、待っている間にベコベコにしてしまったフライパンを放り投げて急いで入れ替わりに部屋へと入る。
そして部屋の中へと入った真島の目に飛び込んできたのは、下肢を誰とも解らぬ精液で汚しぐったりとベッドに横たわった桐生の姿だった。
「に・・・さ・・・?」
余程激しくされたのか、桐生はぼんやりと真島を見ている。
まだ思考が働いていないようだ。
「あいつに手酷くされたんか、桐生チャン。可哀想になぁ」
元々自分が提案した結果だということは棚に上げ、真島は大切にシーツごと桐生を抱き上げる。
「さ、桐生チャン、綺麗にしよな」
「・・・え?」
・・・綺麗に・・・する?
桐生がその意味を理解する前にバスルームへと移動した真島は、既に用意してあった風呂へと桐生を押し込むと自分も服を脱ぎ出す。
そして桐生を包み込んでいたシーツが剥がされ、真島の指が背後から精液で汚れた内股の方へと伸ばされた瞬間、桐生は漸く真島の「綺麗にする」という意味を理解して慌て出した。
「ちょ、に、兄さんっ!?」
「あんな奴に先越されたんは嫌やけど、桐生チャン抱けるのは嬉しいんやで。せやから綺麗にして、今度はわしで一杯にしたる」
「や、あああッ!」
真島の指が遠慮なく先程まで龍司の太いそれを銜え込んでいた場所へと入り込み、少しずつ中の精液を掻き出す。
その間ソープで胸や首を素手で洗われて、龍司との行為ですっかり敏感になってしまった身体は再び熱を帯び始めた。
「あ、んぁぁっ!に・・・さん・・・ッやめ・・・んぅっ」
「やめへん。桐生チャンの乱れた姿、わしにも見せてや」
「あっ!?や、やだッ!!そこはっ」
硬く反り返って先走りに濡れ出したそこを泡だった手が包み込んで、優しく上下に動き始める。
そして掻きだす為に動いていた中の指は、まるで何かを探るように目的を変えて動き出した。
「さっき奴の銜え込んだから、多少ピッチ上げても大丈夫やな」
真島は一度桐生から手を離してシャワーを捻ると上から湯が降り注ぎ身体に付いた泡を洗い流していく。
そしてある程度泡が流れ落ちたのを確認すると、湯を止めて桐生を浴槽の縁へと座らせた。
後ろの壁がひんやりと背中に辺り、桐生の霞んでいた思考をクリアにしていく。
「に・・・さん、なんで・・・ッ」
「桐生チャンが好きだからや。奴なんぞに桐生チャンはやれん」
だからって、これはないだろ。
そんな桐生の抗議の言葉は、真島によって塞がれた。
桐生の思考を奪うように口付けながら、真島の手が胸の突起を摘む。
普段手袋をしている手が、桐生の胸を弄る度にくぐもった声が洩れ浴槽に浸かっていた足がパシャッと水を蹴った。
「はぁ、・・・ッぁ・・・」
「大人しくしとき」
絡めていた舌を放し、口の端から溢れた唾液を舐め取るとそのまま首筋へと移動させて強く吸いつく。
色の白い桐生の肌は、それだけで赤く色付かせて綺麗な痕を残した。
「綺麗やで」
「んぅ・・・、あッ!兄さん・・・っ」
「兄さんじゃ寂しいわ。吾朗って呼び。桐生チャン」
「ふッああ!」
真島はカリッと胸の突起に噛み付き、わざと声を上げさせる。
浴室での桐生の声は、この上なく艶やかに響いた。
「ああっふ・・・くぅ・・・」
「桐生チャン、もうこんなにしてもうて気持ちええんか」
「あ・・・」
忙しなく真島の手と舌が愛撫を施し、しとしとと触れていない中心が濡れている。
「こんなに濡らして。いけない子やな」
その先をチロリと舐めて桐生を見上げれば、その光景に桐生は顔を真っ赤にさせて余りの恥ずかしさに涙を流していた。
「ええ顔や。もっと乱れ」
「ああッ!!」
真島は満足そうに笑うと、見せ付けるように桐生自身を口に含みゆっくりと愛撫していく。
そして同時に後ろにも指を這わせて、赤くなったそこにゆっくりと中指を入れた。
「ひぁっ!あ、あああっ!!に、さんっ激しッ」
「吾朗や」
「やあっ!吾朗ッさ・・・駄目ぇッ」
「駄目やのうて、ええんやろ」
必死に首を横に振って両手を真島の頭にしがみ付かせる桐生の姿に、真島はほくそ笑み更に指の動きを激しくしていく。
もっと喘がせて、啼かせたい。
ドガシャンドガシャンドガシャン!!!
「あのガキャ・・・」
そこへ今度は鍋でも叩きつけるような音が聞えてきて、真島は悔しそうに指を抜き取った。
このまま続けたらお預けを喰らいかねない。
「桐生チャン、残念やけどまた今度じっくり楽しませたるからな」
そう言って真島は桐生の両足を抱え上げると腰を引き寄せ、一気に高ぶった己のモノで貫いた。
「あああああっ!!」
浴室内に桐生の悲鳴が響き渡る。
もしかしたら部屋の外まで聞えているかもしれない。
「あっ、あっ、ごろぉさ・・・ッ」
「桐生チャン、わしをもっと感じや」
「やぁッ!ふかっ・・・い、・・・ああッ」
真島は桐生と入れ替わるように縁に座ると、下から激しく桐生を突いた。
必死にしがみ付いて喘ぐ桐生の耳を犯しながら、腹の間に挟まった反り返る桐生自身を強く自分に押し付けるように揺らし追い詰めていく。
するととうとう耐え切れなくなった桐生が真島の耳元で泣くような声で許しを請い始め、その声に真島は我慢しきれず強く桐生を貫いた。
「やっ!もう駄目!イクッ、イ、ク・・・・・・ッ!!」
「ぐっ・・・ッ!・・・好きやで、一馬ッ」
「あ・・・あああああっ!!!」
ぐったり・・・
「わしの勝ちやで」
「いいや、ワシの勝ちに決まっとるわ」
ベッドにぐったりと横たわる桐生の横で、性懲りも無く二人が言い争っている。
その内容は余りにも莫迦らしくて、桐生の怒りゲージを上げるのには十分だった。
「桐生はん、どっちが良かったんや?」
「桐生チャン、わしに決まっとるよな?」
ここでも変なところで息がピッタリの真島と龍司に、ゲージMAXになった桐生の中でプチンと何かが切れる。
本気で伝説の龍を怒らせたらどうなるか。
「どっちも嫌いです」
冷たく感情のない声で言い捨てられた言葉に、真島と龍司はビクッと身体を硬直させる。
桐生の身体から青いオーラが激しく放たれている。
「な、なんでや!?」
「どうしてやねん!!」
それでも二人が桐生に抗議しようとすると、ゆらり・・・と桐生が起き上がった。
・・・眠る龍を起こしてしまった。
「そんなこと自分で考えろッ!!それと俺に当分近づくなぁぁぁッ!!」
バターンッ!!!・・・ガチャリ
桐生は二人を部屋から渾身の力を込めて叩き出すと、部屋の鍵を掛けてヨロヨロと布団の中へ潜り込む。
・・・全く、大変な目に遭った。
もうこれでは当分動けそうもない。
「今日は遥に部屋まで食事持ってきてもらおう」
桐生は布団の中でウトウトまどろみ始めながら、先程の二人との行為を思い出して顔を真っ赤にさせる。
大体、どっちが良かったなんて・・・
「初めてなのに、そんなの解る訳ないだろッ」
桐生は真っ赤になった顔を隠すように頭まで被ると、強烈に襲ってきた睡魔に目を閉じる。
嫌いではない。
でも・・・きっと、同じくらい好き。
・・・そして帰宅した遥が見たものは、まるで魂が抜けたように放心状態になっている般若と西の龍の姿と。
すっかり変形したフライパンらしき物体&鍋らしき物体の変わり果てた姿だった。
END
始まりはいつも突然だ。
狂犬の呼び名の通り、吾朗は普段から己の狂気を振るう。
隠そうともしないその狂気の犠牲者は様々だ。
しかし普段の狂気は、まだほんの僅かしか顔を見せていない状態。
常に表に出ているのは、吾朗の狂気の一部。
そして、吾朗の中に眠る狂犬が完全に目覚めきっていない状態。
狂犬が完全に目覚めきった時、吾朗は本当の意味で狂犬と化す。
そして、それはいつも突然にやってきた。
そう、突然だった…。
グシャ!
何かが潰れる音。
ズル………ドサっ!
そして、滑る音と落ちる音がした。
「…足りんわ。」
「ヒっ!」
「も、もう、勘弁して下さ…」
「先に喧嘩売ったんは、そっちやないか。」
「あ、ゆ…、許し…」
男達の言葉は、最後まで紡がれることなく途絶えた。
「ぁ、あ…」
何を言っても聞き入れてもらえない。
まだ生き残った男達は、喧嘩を売った最初の時に受けた、バットで殴られた痛みですぐに逃げ出せない。
男達は絶望した。
逃げられない彼らに課せられた宿命。
狂犬の餌食。
そして、死の宴が始まる。
吾朗が満足するまで…。
吾朗が飽きるまで…。
今日、この日。
今この瞬間、吾朗の前にいる男達は、恐怖とともに己の死を感じた。
吾朗は目覚めるままに、狂犬を解き放つ。
始まる狂気の宴。
血を求めた狂犬の、目覚めだった。
壁に身体を押し付け、鉄パイプを肩に刺す。
壁に1人縫い付け、次の獲物へ。
鬼炎のドスが男の背中を捕らえる。
悲鳴を上げる男を無視し、そのままドスを引き下ろした。
背中を一直線にドスが走り、次には血渋きが上がる。
そして男は壁に放り投げられた。
そうやって、生き残った男達を1人残らず、逃がさないようにした。
逃げ出そうとすれば、今まで遊んでいた男を一旦離した吾朗が、ドスを振り下ろしてくる。
男達に逃げ場は無かった。
壁に縫い付けられた男は、まるで解剖される蛙の気分を味わいながら死んでいった。
瞳は抉り出され、まだ意識があった男の、残った片目に見せ付けるように、抉り取った眼球に舌を這わす。
何度か繰り返した後、眼球はドスで真っ二つになって地面に落ちる。
肩に突き刺したドスを下に引けば、皮一枚で繋がったのか、落ちきらない肩が垂れ下がった。
喉の下にドスを刺して、一直線に下に引く。
流れ出る血を気にすることなく、切り口を開いた。
中には当然、誰にでも備わっている内蔵の数々。
手を入れて腸を引き出し、ドスで胃を裂いた。
左の肺にドスを刺し、左手は心臓を握り、右の肺を掴み出す。
肺に刺さっていたドスを抜き、眉間に突き立てる。
そのまま上に向かって、力任せに何度も突き刺して、頭を二つに割る。
割れた頭から、脳を掴み出して握り潰した。
まだ握ったままだった心臓を引き抜き、すでに動いていない心臓を舐める。
遊びつくして興味が無くなったのか、手にした心臓を捨てて次の玩具へ向った。
何度も加えられた殺戮に、大半は死んでいる。
生き残ったのは、残り僅かだ。
その僅かな男達に、吾朗の牙が襲いかかる。
落ちていた鉄パイプを地面に刺し、それに男の肩を押して差し込んだ。
次は腹に鉄パイプを刺し、下から身体を持ち上げる。
そうやって、繰り返し身体に鉄パイプを刺していく。
そして出来上がる、人間の標本。
身体のいたる所に鉄パイプが刺さり、身体は空中に浮いていた。
支えは身体に刺さった鉄パイプ。
まだ生きているのか、微かな呻き声。
だが吾朗に届くはずもなく、吾朗は鉄パイプに伝う血を指でなぞっていた。
そこで人の気配を感じた。
こちらに向かって来る2つの気配。
だが吾朗は慌てなかった。
鉄パイプに刺さった男を、押し付けて更に深くに差し込んだ。
そして、気配を感じた場所へ移動する。
やってきたのは若いカップルだった。
その2人が行動を起こすよりも早く、吾朗は女の手を掴み壁に押し付け鬼炎のドスを肩に刺す。
彼女を助けようとした男の腕を掴み、さっき男を押し付けて出来た鉄パイプの上の部分に、座らせる格好で身体を押さえ付ける。
咄嗟に手で押さえようとしたのか、後ろに伸ばされた手のひらに鉄パイプが刺さり、両の太股にも鉄パイプは刺さって身体を空中で固定された。
痛みに流れ出る涙の瞳で、彼女を見つめている。
女は彼氏を見て、泣いている。
そんな2人を無視した吾朗は、女に近寄った。
泣きながら恐怖に顔を引きつらせ、震えている。
「ぁ、た、助け…」
「災難やったなぁ。」
「ぉ、お願、ぃ。」
それには答えず、口元には笑みを浮かべる。
女の目の前に来た吾朗は、肩に刺さったままだったドスを抜いて、腹に差し込んだ。
女の悲鳴が響き、彼氏は動けない自分に涙を流す。
腹に刺したドスを引き抜いて、太股・脇腹・腕と滅多刺しにする。
そして、ドスで服を裂いて全裸にしてから、再び肩に刺した。
裸に剥かれた彼女の姿に、彼氏は声を上げたが、それで吾朗が止まる訳もなく、女の片足を持ち上げて、猛った自身を取り出す。
狂犬が目覚めきった時の殺戮は、血と血の匂いに興奮して勃った。
普段では勃つほどまでにはいかない。
しかしこの時ばかりは、吾朗も抑えることはしなかった。
出した自身を慣らしてもいない秘口に、一気に突き挿れた。
女の苦しげに漏れる悲鳴は、うるさいとばかりに吾朗が自分の手を当て口を塞いだ。
女の身体を気遣うことなく、自分の快感だけを追う。
切れたのか、女の秘口からは血が出て、太股に伝っている。
だがそれで滑りが良くなり、吾朗は腰の動きを早くした。
女が犯されている間、止血されていない傷からは血が流れ続けている。
悲鳴すら上げる力が残っていないのか、うわごとしか言わなくなると、吾朗は手を外した。
そして肩から流れ出た血の後を舌でなぞる。
死にかけた女の瞳は、開いたまま死の色を浮かべる。
吾朗はその瞳の下を一度舐めてから、眼球を舐めた。
そうやって、死んでいく女をなぶりながら、吾朗は女を犯し続けた。
どのくらいそうしていただろう、吾朗が果てて中に精を注いで、自身を引き抜いたのと同時くらいに、女は完全に死んだ。
それを興味なく見やって、自身をしまい込むと、鉄パイプに刺したままだった男に視線を向けた。
一部始終見せられ、彼女の死を見せられ、男は絶望していた。
吾朗が近寄っても身動きせず、ただ小さく言葉にならない声を出し泣いていた。
その男の首にドスを突き刺し、続けて力任せに差し込んだ。
髪の毛を掴み、頭が落ちないようにし、首を切り放して、それを手前にあった鉄パイプに刺した。
死の直前のままの顔、首から下には鉄パイプ。
その後ろに、座った格好で空中に繋ぎ止められた、首のない身体がある。
辺りにも五体バラバラになったものなど、様々な死体があった。
そこは血の海。
地獄絵図さながらの光景があった。
「…兄さん。」
「来たんか。」
その地獄に、龍と呼ばれし男がやって来た。
「まだ足りてへんのや。桐生ちゃんなら、楽しめるなぁ。」
言うが早いか、吾朗は一馬に向かって行く。
この地獄に気を取られていた一馬は、一瞬の反応が遅れた。
吾朗がそれを逃すはずもなく、腕を掴んで身体を入れ替え、地獄の中に完全に引き入れる。
そのまま足払いをして地面に倒し、腰を跨いで一馬の上に乗った。
どこから出したのか、吾朗の手には紐。
素早く一馬の両腕をそれで縛り、二人分の死体を支えている鉄パイプに括り付けた。
「なんのつもりだ!」
「そやから楽しむんや。」
そう言って、右手で一馬自身を服の上からなぞった。
「は、離せ!」
「2人で楽しもやないか。なぁ?」
そうして空いていた左手で首を軽く絞めながら、吾朗は一馬の唇を舐めた。
首を抑えられた一馬は、抗議の声が出せなくなった。
首の手はそのままに吾朗は、一馬のズボンからベルトを抜きジッパーを下げた。
そして器用に口を使いながら革手袋を脱いだ右手で、下着の中から一馬自身を取り出すと、上下に擦り始める。
「気持ちよぉしたるからな、桐生ちゃん。」
吾朗はもう一度唇を舐めてから、キスをした。
首を絞められ無意識で薄く開けている一馬の唇に、吾朗は舌を入れる。
角度を変えて深く何度もキスしながら、首から手を離し身体を移動させた。
そうしてもう片方の革手袋も取り外す。
首から手がなくなったことで、一馬は酸素を求めた。
吾朗は移動した先で、緩く反応しだした一馬自身を舐め始める。
「ぁ、やめ…」
「やめへん。もう止まらんわ。」
勃ち始めた一馬自身を口に含み、片手で自分のズボンのベルトを緩め、ジッパーを下げ中からすでに勃っている自身を取り出した。
相当興奮しているのか、先走りが地面に落ちる。
右手で自分自身を緩く擦りながら、左手は一馬自身を触り、舌や口に含んで追い詰めていく。
「あかん、我慢出来ん。」
吾朗はそう言うと、一馬のズボンを下着ごとズリ下ろして脱がせた。
再び一馬自身に刺激を与えながら、後ろに指を這わせた。
自身の先走りでぬめる指で、入り口をなぞってから中指を1本差し入れる。
いくらも出し入れしないうちに、2本目を入れた。
吾朗に余裕などなく、早く一馬の中に挿れたくて仕方なかった。
慣らしていたはずの2本の指は早急に引き抜かれ、吾朗は猛って張り詰めた自身を一馬の中に挿れていく。
「くっ、う。」
「もう少し辛抱しいや、すぐによくしたるからな。」
一馬に声をかけて、自身をすべて収めた吾朗はゆっくりと腰を使い始めた。
吾朗は一馬の反応を見ながら、中で一馬のいいところを探す。
「っあ、ああ!」
ビクンと反応を示した一馬に薄く笑ってから、そこを執拗に突いた。
「あっ、に、兄さん。」
「気持ちえぇか?…っ…もっと欲しがってえぇで。」
一馬は抵抗を忘れ、吾朗が与える快楽に身を任せた。
一馬が抵抗しなくなると、吾朗は両腕を繋ぎ止めた紐にドスを刺し、紐を切って両腕を自由にすると、その腕を自分の首に回させた。
首に回した腕で吾朗に縋りつきながら一馬は喘いだ。
吾朗は一馬の声に、更に欲情して激しく攻め立てた。
血塗れの紅い海。
残酷な死体が数多く存在する中。
吾朗は一馬を抱く。
そして一馬は吾朗に抱かれた。
血に汚れるのも構わずに、淫らに絡み合う2つの影。
龍は地獄で、般若に愛された。
「溺れてまえ。」
吾朗に言われた言葉に、一馬は答えなかったが、縋る力が強くなった。
そんな一馬を、吾朗は腰の動きを早くして追い詰めていく。
最後は2人同時に果てた。
ずっと欲しいと願っていた、唯一の存在。
この地獄で、般若は龍を手に入れた。
end
狂犬の呼び名の通り、吾朗は普段から己の狂気を振るう。
隠そうともしないその狂気の犠牲者は様々だ。
しかし普段の狂気は、まだほんの僅かしか顔を見せていない状態。
常に表に出ているのは、吾朗の狂気の一部。
そして、吾朗の中に眠る狂犬が完全に目覚めきっていない状態。
狂犬が完全に目覚めきった時、吾朗は本当の意味で狂犬と化す。
そして、それはいつも突然にやってきた。
そう、突然だった…。
グシャ!
何かが潰れる音。
ズル………ドサっ!
そして、滑る音と落ちる音がした。
「…足りんわ。」
「ヒっ!」
「も、もう、勘弁して下さ…」
「先に喧嘩売ったんは、そっちやないか。」
「あ、ゆ…、許し…」
男達の言葉は、最後まで紡がれることなく途絶えた。
「ぁ、あ…」
何を言っても聞き入れてもらえない。
まだ生き残った男達は、喧嘩を売った最初の時に受けた、バットで殴られた痛みですぐに逃げ出せない。
男達は絶望した。
逃げられない彼らに課せられた宿命。
狂犬の餌食。
そして、死の宴が始まる。
吾朗が満足するまで…。
吾朗が飽きるまで…。
今日、この日。
今この瞬間、吾朗の前にいる男達は、恐怖とともに己の死を感じた。
吾朗は目覚めるままに、狂犬を解き放つ。
始まる狂気の宴。
血を求めた狂犬の、目覚めだった。
壁に身体を押し付け、鉄パイプを肩に刺す。
壁に1人縫い付け、次の獲物へ。
鬼炎のドスが男の背中を捕らえる。
悲鳴を上げる男を無視し、そのままドスを引き下ろした。
背中を一直線にドスが走り、次には血渋きが上がる。
そして男は壁に放り投げられた。
そうやって、生き残った男達を1人残らず、逃がさないようにした。
逃げ出そうとすれば、今まで遊んでいた男を一旦離した吾朗が、ドスを振り下ろしてくる。
男達に逃げ場は無かった。
壁に縫い付けられた男は、まるで解剖される蛙の気分を味わいながら死んでいった。
瞳は抉り出され、まだ意識があった男の、残った片目に見せ付けるように、抉り取った眼球に舌を這わす。
何度か繰り返した後、眼球はドスで真っ二つになって地面に落ちる。
肩に突き刺したドスを下に引けば、皮一枚で繋がったのか、落ちきらない肩が垂れ下がった。
喉の下にドスを刺して、一直線に下に引く。
流れ出る血を気にすることなく、切り口を開いた。
中には当然、誰にでも備わっている内蔵の数々。
手を入れて腸を引き出し、ドスで胃を裂いた。
左の肺にドスを刺し、左手は心臓を握り、右の肺を掴み出す。
肺に刺さっていたドスを抜き、眉間に突き立てる。
そのまま上に向かって、力任せに何度も突き刺して、頭を二つに割る。
割れた頭から、脳を掴み出して握り潰した。
まだ握ったままだった心臓を引き抜き、すでに動いていない心臓を舐める。
遊びつくして興味が無くなったのか、手にした心臓を捨てて次の玩具へ向った。
何度も加えられた殺戮に、大半は死んでいる。
生き残ったのは、残り僅かだ。
その僅かな男達に、吾朗の牙が襲いかかる。
落ちていた鉄パイプを地面に刺し、それに男の肩を押して差し込んだ。
次は腹に鉄パイプを刺し、下から身体を持ち上げる。
そうやって、繰り返し身体に鉄パイプを刺していく。
そして出来上がる、人間の標本。
身体のいたる所に鉄パイプが刺さり、身体は空中に浮いていた。
支えは身体に刺さった鉄パイプ。
まだ生きているのか、微かな呻き声。
だが吾朗に届くはずもなく、吾朗は鉄パイプに伝う血を指でなぞっていた。
そこで人の気配を感じた。
こちらに向かって来る2つの気配。
だが吾朗は慌てなかった。
鉄パイプに刺さった男を、押し付けて更に深くに差し込んだ。
そして、気配を感じた場所へ移動する。
やってきたのは若いカップルだった。
その2人が行動を起こすよりも早く、吾朗は女の手を掴み壁に押し付け鬼炎のドスを肩に刺す。
彼女を助けようとした男の腕を掴み、さっき男を押し付けて出来た鉄パイプの上の部分に、座らせる格好で身体を押さえ付ける。
咄嗟に手で押さえようとしたのか、後ろに伸ばされた手のひらに鉄パイプが刺さり、両の太股にも鉄パイプは刺さって身体を空中で固定された。
痛みに流れ出る涙の瞳で、彼女を見つめている。
女は彼氏を見て、泣いている。
そんな2人を無視した吾朗は、女に近寄った。
泣きながら恐怖に顔を引きつらせ、震えている。
「ぁ、た、助け…」
「災難やったなぁ。」
「ぉ、お願、ぃ。」
それには答えず、口元には笑みを浮かべる。
女の目の前に来た吾朗は、肩に刺さったままだったドスを抜いて、腹に差し込んだ。
女の悲鳴が響き、彼氏は動けない自分に涙を流す。
腹に刺したドスを引き抜いて、太股・脇腹・腕と滅多刺しにする。
そして、ドスで服を裂いて全裸にしてから、再び肩に刺した。
裸に剥かれた彼女の姿に、彼氏は声を上げたが、それで吾朗が止まる訳もなく、女の片足を持ち上げて、猛った自身を取り出す。
狂犬が目覚めきった時の殺戮は、血と血の匂いに興奮して勃った。
普段では勃つほどまでにはいかない。
しかしこの時ばかりは、吾朗も抑えることはしなかった。
出した自身を慣らしてもいない秘口に、一気に突き挿れた。
女の苦しげに漏れる悲鳴は、うるさいとばかりに吾朗が自分の手を当て口を塞いだ。
女の身体を気遣うことなく、自分の快感だけを追う。
切れたのか、女の秘口からは血が出て、太股に伝っている。
だがそれで滑りが良くなり、吾朗は腰の動きを早くした。
女が犯されている間、止血されていない傷からは血が流れ続けている。
悲鳴すら上げる力が残っていないのか、うわごとしか言わなくなると、吾朗は手を外した。
そして肩から流れ出た血の後を舌でなぞる。
死にかけた女の瞳は、開いたまま死の色を浮かべる。
吾朗はその瞳の下を一度舐めてから、眼球を舐めた。
そうやって、死んでいく女をなぶりながら、吾朗は女を犯し続けた。
どのくらいそうしていただろう、吾朗が果てて中に精を注いで、自身を引き抜いたのと同時くらいに、女は完全に死んだ。
それを興味なく見やって、自身をしまい込むと、鉄パイプに刺したままだった男に視線を向けた。
一部始終見せられ、彼女の死を見せられ、男は絶望していた。
吾朗が近寄っても身動きせず、ただ小さく言葉にならない声を出し泣いていた。
その男の首にドスを突き刺し、続けて力任せに差し込んだ。
髪の毛を掴み、頭が落ちないようにし、首を切り放して、それを手前にあった鉄パイプに刺した。
死の直前のままの顔、首から下には鉄パイプ。
その後ろに、座った格好で空中に繋ぎ止められた、首のない身体がある。
辺りにも五体バラバラになったものなど、様々な死体があった。
そこは血の海。
地獄絵図さながらの光景があった。
「…兄さん。」
「来たんか。」
その地獄に、龍と呼ばれし男がやって来た。
「まだ足りてへんのや。桐生ちゃんなら、楽しめるなぁ。」
言うが早いか、吾朗は一馬に向かって行く。
この地獄に気を取られていた一馬は、一瞬の反応が遅れた。
吾朗がそれを逃すはずもなく、腕を掴んで身体を入れ替え、地獄の中に完全に引き入れる。
そのまま足払いをして地面に倒し、腰を跨いで一馬の上に乗った。
どこから出したのか、吾朗の手には紐。
素早く一馬の両腕をそれで縛り、二人分の死体を支えている鉄パイプに括り付けた。
「なんのつもりだ!」
「そやから楽しむんや。」
そう言って、右手で一馬自身を服の上からなぞった。
「は、離せ!」
「2人で楽しもやないか。なぁ?」
そうして空いていた左手で首を軽く絞めながら、吾朗は一馬の唇を舐めた。
首を抑えられた一馬は、抗議の声が出せなくなった。
首の手はそのままに吾朗は、一馬のズボンからベルトを抜きジッパーを下げた。
そして器用に口を使いながら革手袋を脱いだ右手で、下着の中から一馬自身を取り出すと、上下に擦り始める。
「気持ちよぉしたるからな、桐生ちゃん。」
吾朗はもう一度唇を舐めてから、キスをした。
首を絞められ無意識で薄く開けている一馬の唇に、吾朗は舌を入れる。
角度を変えて深く何度もキスしながら、首から手を離し身体を移動させた。
そうしてもう片方の革手袋も取り外す。
首から手がなくなったことで、一馬は酸素を求めた。
吾朗は移動した先で、緩く反応しだした一馬自身を舐め始める。
「ぁ、やめ…」
「やめへん。もう止まらんわ。」
勃ち始めた一馬自身を口に含み、片手で自分のズボンのベルトを緩め、ジッパーを下げ中からすでに勃っている自身を取り出した。
相当興奮しているのか、先走りが地面に落ちる。
右手で自分自身を緩く擦りながら、左手は一馬自身を触り、舌や口に含んで追い詰めていく。
「あかん、我慢出来ん。」
吾朗はそう言うと、一馬のズボンを下着ごとズリ下ろして脱がせた。
再び一馬自身に刺激を与えながら、後ろに指を這わせた。
自身の先走りでぬめる指で、入り口をなぞってから中指を1本差し入れる。
いくらも出し入れしないうちに、2本目を入れた。
吾朗に余裕などなく、早く一馬の中に挿れたくて仕方なかった。
慣らしていたはずの2本の指は早急に引き抜かれ、吾朗は猛って張り詰めた自身を一馬の中に挿れていく。
「くっ、う。」
「もう少し辛抱しいや、すぐによくしたるからな。」
一馬に声をかけて、自身をすべて収めた吾朗はゆっくりと腰を使い始めた。
吾朗は一馬の反応を見ながら、中で一馬のいいところを探す。
「っあ、ああ!」
ビクンと反応を示した一馬に薄く笑ってから、そこを執拗に突いた。
「あっ、に、兄さん。」
「気持ちえぇか?…っ…もっと欲しがってえぇで。」
一馬は抵抗を忘れ、吾朗が与える快楽に身を任せた。
一馬が抵抗しなくなると、吾朗は両腕を繋ぎ止めた紐にドスを刺し、紐を切って両腕を自由にすると、その腕を自分の首に回させた。
首に回した腕で吾朗に縋りつきながら一馬は喘いだ。
吾朗は一馬の声に、更に欲情して激しく攻め立てた。
血塗れの紅い海。
残酷な死体が数多く存在する中。
吾朗は一馬を抱く。
そして一馬は吾朗に抱かれた。
血に汚れるのも構わずに、淫らに絡み合う2つの影。
龍は地獄で、般若に愛された。
「溺れてまえ。」
吾朗に言われた言葉に、一馬は答えなかったが、縋る力が強くなった。
そんな一馬を、吾朗は腰の動きを早くして追い詰めていく。
最後は2人同時に果てた。
ずっと欲しいと願っていた、唯一の存在。
この地獄で、般若は龍を手に入れた。
end