樊瑞「BF団にも用心棒がいてね。
尤もより優雅にエージェントと呼んでいるがね。」
イワン「お呼びですか?」
樊瑞「イワン、この日本人に協力してあげなさい。下がってよし。」
イワン「はい。」
大塚「閣下、今一つ!
奴が、ルパンめがバベルの塔を狙う理由をお教えください。」
樊瑞「さぁ?それを調べるのも君の仕事じゃないのかねぇ~?」
樊瑞「可愛い顔をしてもう男を引き込んだか?十傑集の血は争えんな。
ふふふ・・・我が妻にふさわしい。」
サニー「人外!・・・あなた、人間じゃないわ!!」
樊瑞「そうとも、俺の手は血まみれだ。が、おまえもそうさ。
我ら十傑集は代々ビッグ・ファイアの影として謀略と暗殺を司り、
世界を支配してきたのだ。」
サニー「離して!汚らわしい!!」
樊瑞「それを知らんとは言わさんぞ!お前もBF団の人間だ。
その体には俺と同じ十傑集の血が流れている。」
大塚署長「何だここは?」
ん~百円玉ではないか!なんと、これが全部そうか!」
ルパン「こりゃ良~く出来てるぜ~とっつぁん見ろよ!」
大塚署長「ん~アメリカの1ドル銀貨!」
ルパン「ドル、ポンド、フラン、ルーブル、ルピー、ペソ、リラ、
ウォン、うっほ~新500円玉まであるぜ~世界中あら~な。」
大塚署長「に、偽銭作り~!ルパン!これがバベルの塔の秘密か?」
樊瑞「うへへへ・・・。
どーこーまーで行ーくーのーかーなー、サーニー?(ジュル)」
(プチッ)
樊瑞「ウワ、ワーッ!」
(ゴーンゴーンゴーン)
///////////////
(ハンガーに鎮座するジャイアント・ロボ)
中条長官「順調か?」
整備員「ハッ。上体の儀装は、ほぼ完了しました。」
中条長官「・・・全く、見れば見る程、可愛いバケモンだぜ、おめえは!
貧乏警官の俺ですら、久しく錆ついていた野心がうずいてくらァ。」
(無表情なロボの顔)
中条長官「ケッ。てめえなんざ、この世の終りまで原子炉の中で眠ってりゃ
よかったんだ!」
呉学人「長官、こんな所においででしたか。」
中条長官「どうした!君ぃ?」
呉学人「韓信元帥閣下の艦隊が武漢上空でBF団の怪ロボットに
襲われ、グレタ・ガルボ一艦を残して全滅しました!」
中条長官「閣下はどうなされた!?」
呉学人「艦は空中で四散したそうです・・・。」
中条長官「うだつの上がらねえノン・キャリアに、やっと巡って来た
幸運か?それとも破滅の罠かな?(ニヤリ)」
中条長官「生きてたよ・・・短けぇ夢だったなぁ・・・。」
********
豹子頭林冲「君々、道路に飛び出しちゃ駄目じゃないか。
危く大事故になるところだ。
街中を 飛び回るなんて、非常識きわまりない!」
サニー「でも、私は魔女です!魔女は飛ぶものです!」
豹子頭林冲「魔女でも交通規則は守らなければいかん。住所と名前は?」
大作「ね、ね、上手くいったろ?泥棒って言ったの、僕なんだぜ。
君、魔女だろ。飛んでる所を見たんだよ。
本当にほうきで飛ぶんだね?
ね、そのほうき、ちょっと見せてくれない?」
鉄牛「いよう、大作ぅ!朝っぱらからナンパかよ?」
大作「エヘヘ・・・。
頼むよ。ちょっとだけ。ね、いいだろ?」
サニー「助けてくれてありがとう。
でも、あなたに助けてって言った覚えはないわ。
それに、きちんと紹介もされてないのに、
女性に声を掛けるなんて失礼よ。ふん!」
策士・孔明「さて、泊るところはお決まりでございますか?」
サニー「・・・。」
策士・孔明「おやぁ、そうなら早く仰ればよろしかったのに。
この塔には空部屋がたくさんございますので、
どうぞご自由にお使い下さい。」
サニー「本当ですか、奥様?」
策士・孔明「うははは・・・。奥様ではございません。
ここらじゃ策士・孔明で通っております。」
サニー「あたし、サニーです。こっちは使い魔のカブ!」
(孔明の背後で七節棍の素振りを披露する直系の怒鬼。
隻眼でジロリとカブを一瞥する。)
(脂汗を流して怯えるカブ)
サニー「はい、BF団です。え、はい、やってます!
カブ、お客よ、お客!
かしこまりました。ご住所を承ります。
はい、はい、青い屋根のお宅ですね。
はあ、ありがとうございます。必ず爆破いたします。」
アルベルト「母さん!!サニーからの手紙だよ!!」
一丈青扈三娘「ええ!?あっ!!」
アルベルト「お父様、お母様、お元気ですか?
私もカブもとても元気です。」
サニー(声)「仕事の方も何とか軌道に乗って、
少し自信がついたみたい。
落ちこむこともあるけれど、私、
この仕事が好きです。」
-------------
ヒッツカラルド「うーむ、今晩はカレーにするか・・・」
サニー「あ、ヒィッツカラルド様、こんばんわ」
ヒッツカラルド「おおサニー、おつかいか?」
サニー「今日は私が我が家の料理当番なんです。」
ヒッツカラルド「ほう、えらいな・・・流石はアルベルトの愛娘。」
サニー「それじゃ、私行きますね・・・」
ヒッツカラルド「ああ・・・」
レッド「・・・(コソコソ)」
ヒッツカラルド「お前も!人のカゴにこっそりおやつを入れるんじゃなくて!」
レッド「え?え?」
--------
(樊瑞、部下を集めて講演中)
樊瑞「であるから、諸君等も我等がビッグファイアの為に
命を捨てる覚悟を忘れてはならん。
家族のあるものは、己が死んだ時の為、後見人を見つけるのもよかろう。」
イワン「樊瑞様、樊瑞様は何ゆえサニー殿の後見人になられたのですか?」
樊瑞「女子小学生とか、好きだから!!!」
一同「(しーん)」
-----------
サニー「今日はお父様と親子水いらずでプールです。楽しみだなぁ。」
アルベルト「はっはっは、サニー。はしゃぎ過ぎて溺れるなよ。」
樊瑞「・・・(ちょこん)」
アルベルト&サニー「!?」
樊瑞「おお、今日は暑いのぅ」
アルベルト「・・・(汗)」
アルベルト「よし、サニー準備体操・・・」
樊瑞「そのまま基地に戻っておじさんと組手をしよう(プールの中では見えにくいからな)」
アルベルト「・・・(汗)」
サニー「・・・?」
樊瑞「あ!しかし濡れている方が・・・しまったどうする!?」
アルベルト「・・・」
樊瑞「む、そうだ!一度水につかってから基地に戻ろう」
アルベルト「違うだろうが!」
サニー「・・・あの、また日を改めてという訳にはいきませんか?」
樊瑞「それで私にどうしろと!?」
サニー「え?」
尤もより優雅にエージェントと呼んでいるがね。」
イワン「お呼びですか?」
樊瑞「イワン、この日本人に協力してあげなさい。下がってよし。」
イワン「はい。」
大塚「閣下、今一つ!
奴が、ルパンめがバベルの塔を狙う理由をお教えください。」
樊瑞「さぁ?それを調べるのも君の仕事じゃないのかねぇ~?」
樊瑞「可愛い顔をしてもう男を引き込んだか?十傑集の血は争えんな。
ふふふ・・・我が妻にふさわしい。」
サニー「人外!・・・あなた、人間じゃないわ!!」
樊瑞「そうとも、俺の手は血まみれだ。が、おまえもそうさ。
我ら十傑集は代々ビッグ・ファイアの影として謀略と暗殺を司り、
世界を支配してきたのだ。」
サニー「離して!汚らわしい!!」
樊瑞「それを知らんとは言わさんぞ!お前もBF団の人間だ。
その体には俺と同じ十傑集の血が流れている。」
大塚署長「何だここは?」
ん~百円玉ではないか!なんと、これが全部そうか!」
ルパン「こりゃ良~く出来てるぜ~とっつぁん見ろよ!」
大塚署長「ん~アメリカの1ドル銀貨!」
ルパン「ドル、ポンド、フラン、ルーブル、ルピー、ペソ、リラ、
ウォン、うっほ~新500円玉まであるぜ~世界中あら~な。」
大塚署長「に、偽銭作り~!ルパン!これがバベルの塔の秘密か?」
樊瑞「うへへへ・・・。
どーこーまーで行ーくーのーかーなー、サーニー?(ジュル)」
(プチッ)
樊瑞「ウワ、ワーッ!」
(ゴーンゴーンゴーン)
///////////////
(ハンガーに鎮座するジャイアント・ロボ)
中条長官「順調か?」
整備員「ハッ。上体の儀装は、ほぼ完了しました。」
中条長官「・・・全く、見れば見る程、可愛いバケモンだぜ、おめえは!
貧乏警官の俺ですら、久しく錆ついていた野心がうずいてくらァ。」
(無表情なロボの顔)
中条長官「ケッ。てめえなんざ、この世の終りまで原子炉の中で眠ってりゃ
よかったんだ!」
呉学人「長官、こんな所においででしたか。」
中条長官「どうした!君ぃ?」
呉学人「韓信元帥閣下の艦隊が武漢上空でBF団の怪ロボットに
襲われ、グレタ・ガルボ一艦を残して全滅しました!」
中条長官「閣下はどうなされた!?」
呉学人「艦は空中で四散したそうです・・・。」
中条長官「うだつの上がらねえノン・キャリアに、やっと巡って来た
幸運か?それとも破滅の罠かな?(ニヤリ)」
中条長官「生きてたよ・・・短けぇ夢だったなぁ・・・。」
********
豹子頭林冲「君々、道路に飛び出しちゃ駄目じゃないか。
危く大事故になるところだ。
街中を 飛び回るなんて、非常識きわまりない!」
サニー「でも、私は魔女です!魔女は飛ぶものです!」
豹子頭林冲「魔女でも交通規則は守らなければいかん。住所と名前は?」
大作「ね、ね、上手くいったろ?泥棒って言ったの、僕なんだぜ。
君、魔女だろ。飛んでる所を見たんだよ。
本当にほうきで飛ぶんだね?
ね、そのほうき、ちょっと見せてくれない?」
鉄牛「いよう、大作ぅ!朝っぱらからナンパかよ?」
大作「エヘヘ・・・。
頼むよ。ちょっとだけ。ね、いいだろ?」
サニー「助けてくれてありがとう。
でも、あなたに助けてって言った覚えはないわ。
それに、きちんと紹介もされてないのに、
女性に声を掛けるなんて失礼よ。ふん!」
策士・孔明「さて、泊るところはお決まりでございますか?」
サニー「・・・。」
策士・孔明「おやぁ、そうなら早く仰ればよろしかったのに。
この塔には空部屋がたくさんございますので、
どうぞご自由にお使い下さい。」
サニー「本当ですか、奥様?」
策士・孔明「うははは・・・。奥様ではございません。
ここらじゃ策士・孔明で通っております。」
サニー「あたし、サニーです。こっちは使い魔のカブ!」
(孔明の背後で七節棍の素振りを披露する直系の怒鬼。
隻眼でジロリとカブを一瞥する。)
(脂汗を流して怯えるカブ)
サニー「はい、BF団です。え、はい、やってます!
カブ、お客よ、お客!
かしこまりました。ご住所を承ります。
はい、はい、青い屋根のお宅ですね。
はあ、ありがとうございます。必ず爆破いたします。」
アルベルト「母さん!!サニーからの手紙だよ!!」
一丈青扈三娘「ええ!?あっ!!」
アルベルト「お父様、お母様、お元気ですか?
私もカブもとても元気です。」
サニー(声)「仕事の方も何とか軌道に乗って、
少し自信がついたみたい。
落ちこむこともあるけれど、私、
この仕事が好きです。」
-------------
ヒッツカラルド「うーむ、今晩はカレーにするか・・・」
サニー「あ、ヒィッツカラルド様、こんばんわ」
ヒッツカラルド「おおサニー、おつかいか?」
サニー「今日は私が我が家の料理当番なんです。」
ヒッツカラルド「ほう、えらいな・・・流石はアルベルトの愛娘。」
サニー「それじゃ、私行きますね・・・」
ヒッツカラルド「ああ・・・」
レッド「・・・(コソコソ)」
ヒッツカラルド「お前も!人のカゴにこっそりおやつを入れるんじゃなくて!」
レッド「え?え?」
--------
(樊瑞、部下を集めて講演中)
樊瑞「であるから、諸君等も我等がビッグファイアの為に
命を捨てる覚悟を忘れてはならん。
家族のあるものは、己が死んだ時の為、後見人を見つけるのもよかろう。」
イワン「樊瑞様、樊瑞様は何ゆえサニー殿の後見人になられたのですか?」
樊瑞「女子小学生とか、好きだから!!!」
一同「(しーん)」
-----------
サニー「今日はお父様と親子水いらずでプールです。楽しみだなぁ。」
アルベルト「はっはっは、サニー。はしゃぎ過ぎて溺れるなよ。」
樊瑞「・・・(ちょこん)」
アルベルト&サニー「!?」
樊瑞「おお、今日は暑いのぅ」
アルベルト「・・・(汗)」
アルベルト「よし、サニー準備体操・・・」
樊瑞「そのまま基地に戻っておじさんと組手をしよう(プールの中では見えにくいからな)」
アルベルト「・・・(汗)」
サニー「・・・?」
樊瑞「あ!しかし濡れている方が・・・しまったどうする!?」
アルベルト「・・・」
樊瑞「む、そうだ!一度水につかってから基地に戻ろう」
アルベルト「違うだろうが!」
サニー「・・・あの、また日を改めてという訳にはいきませんか?」
樊瑞「それで私にどうしろと!?」
サニー「え?」
PR
神奈川県のとある山の中を、一台のバイクが疾走していた。
空には月が、地上ではバイクのヘッドライトが輝いている。
「なっ、流!」
バイクの後部座席に座るぼろぼろの制服を来た少女が叫ぶ。
「あぁん? 何か言ったか?」
悪路をものともせず、悠々とバイクを操っていた秋葉流が、女の声を聞き付け少し速度を落とした。
「もっとゆっくり走りなさいよ!」
「……ンだよ、かったりぃ。」
「こんな山道で飛ばし過ぎ!」
「オレの運転に文句つけんじゃねぇっての。」
「いいからスピードを落としなさい!」
四つも年下の女にどなりつけられ、流は首を竦めながらも速度を落とす。
「ったくよぉ……おめぇのケツならこれっくらいの振動なんてことねぇだろうがよ。」
「何だと!」
その言葉を聞き付け、女は怒りをあらわにして腰に回していた手を流の首に巻き付けた。
「ぐわっ…ちょ、ちょっとまてこらっ日輪!」
ふらふらと蛇行したバイクは次の瞬間、木の根に乗り上げる。
「うわっ…」
「ちっ!」
二人は抱き合うようにして地面に転がった。
激しい音とともにバイクは横倒しになり、ヘッドライトの明かりが消える。
「………ててて。おい、日輪大丈夫か……?」
関守日輪は、仰向けに寝転んだ男の身体にもたれるようにして意識を失っていた。
「おい、生きてっか?」
軽く頬を叩くと日輪はわずかに呻き、珍しくも流の表情がほっと和らぐ。
しかし、それすらも闇の中の出来事だったが。
「………さて、どうするかねぇ………」
意識のない日輪に乗っかられたまま、流は呟いた。
まさかこの月明かりの中でバイクの修理という訳にもいかない。
日輪は意識を失っている。
それを情けないと責めることはできなかった。いくら獣の槍伝承者候補とはいえ、つい先程まで“囁く者たちの家”で激しい闘いを繰り広げ、足にも深い傷を負っているのだ。
もっとも、それは流も同じだったのだが………
「こんな情けねぇ理由で遭難なんかしたかねぇぞ……」
流は独り呟く。
「仕方ねぇな……」
よっ、と流は日輪の身体をずらして起き上がった。
「これが純じゃなくて良かったぜ。あいつの方が出るとこ出ててグラマーだからな……、ホントはそっちの方がうれしいんだがよ……」
ぶつぶついいながらも軽々と日輪を肩にかつぎ上げる。
「つっ………」
流の傷だらけの両足がみしりと軋んだ。
よろよろと流は山道を下り始める。
眼下に移る街の明かりが、ひどく遠くに感じられた。
嗅いだことのない匂いだった。
何と言えばいいのだろう。
陽に灼けたような……でもそれだけではない匂い。
それは自分にはない異質の匂いだったが、何故か不快ではない。
「………ん………」
日輪の黒く長い睫が上下に瞬いた。
「!」
次の瞬間、日輪はがばっと起き上がり辺りを見回す。
独りで寝るには大きすぎるベットの中央に彼女はいた。辺りの内装やベットのシーツはあまりにも趣味が悪い。
すぐ隣には流が正体もなく眠っている。この状況で女が心配する事はひとつしかなかった。
「なっ………流ぇぇ!!」
日輪は叫んだ。
その声にぱち、と流が目を開く。
「起きろっ、この馬鹿!」
首根っこをつかんで引き起こそうとする彼女を、鋭い視線が捕らえた。
「うるせぇ。」
一瞬。関守日輪ともあろうものがその眼に呑まれた。だが、臆した自分を隠すようにさらに声を上げる。
「説明しなさいよっ、流! これは一体っ……」
「ヤられたかどうかぐらい、自分で分かンだろうが。
オレは眠ぃンだ。……分かったな。」
静かな、だが凄みのある声にとうとう日輪は押し黙った。流は眼を閉じる。すぐに軽い寝息が戻ってきた。
「…………………」
取り残された彼女は、しばらく放心したかのように黙っていた。落ち着いてくると、少しずつそれまでの事を思い出す。 流のバイクの後ろに乗った事、あまりにも乱暴な運転に文句をつけた事、からかわれてついカッときた事、バイクから投げ出された事……それから。
それから……気が付いたらこのベットの中だった。
一体ここまで、誰が運んで来たのか。
答えはひとつしか無かった筈だが、彼女はそれをためらった。怪我をしているのだ。それも足に。
「………流……」
流は眠っている。
どうしたら良いのだろう。
日輪は迷ったが、どうする事もできなかった。流をこのまま静かに眠らせてやるのが一番なのだから。
だから、彼女は仕方なく身を再びベットに横たえた。
…と、ほどなく流が寝返りをうった。
「!」
流の腕が、日輪の肩を抱くように回される。
普段なら撥ね除けて文句のひとつも……いや、蹴りのひとつも放っているところなのだが。
そうもいかずに、彼女は身体を堅くしている。
せめて腕だけは何とかしようと、そっと男の腕に手を添え、押しのけようとした。
だが、その腕は重たい。
鍛えられた筋肉が、鋼のように堅い。だが、血の通ったそれは暖かくもあった。
日輪の身体も鍛えられてはいる。だがそれとはまったく異質の腕なのだ。
(…………)
彼女は流を見た。眠っているその顔は普段よりも幼い感じすらするというのに。
そして、ふと気が付いた。
あの匂いは、流のそれだという事に。
髪を撫でつけるグリースと、煙草と、バイクのオイル…そんなものが交じり合って、男の陽に灼けた腕に、その逞しい胸に染み付いているのだ。
日輪は息を呑んだ。
何故か分からない。
胸がドキドキと激しく脈打つ。
……とてもじゃないが、眠れそうになかった。
それでもいつしか、疲れ果てていた彼女は再びまどろみの中にいた。
どこか遠くで、シャワーの水音が聞こえる。ぼんやりと眼を開くと、眩しい光が厚いカーテンの透き間から入って来た。 流の姿はない。
しばらくしてシャワーの水音が止まった。
「お、起きたか。」
腰にタオルを巻き付けただけで現れた男の姿に、彼女は赤面した。
「馬鹿っ、服ぐらい着ろ!」
「へーへー、お前にゃ刺激が強かったかね……」
「そういう問題じゃない!」
日輪は赤い顔をごまかすようにまた怒鳴りつけた。
仕方なく流が、壁に手をつき足を引きずりながらも浴室に戻った。ほどなく、ぼろぼろのズボンにランニングといういで立ちで再び現れる。
日輪はまだ少し文句をつけたい気分だったが、それ以上は何も言わなかった。流が足を引きずっているせいかもしれない。
「よぉ、お前もシャワー浴びてきたらどうだ。眼が覚めるぜ。」
ベットに腰掛け、煙草をくわえる流。いつもオールバックにしている髪が水に濡れてぼさぼさになっていた。
「あ、ああ……」
日輪はどこか少し上の空だった。
「街まで歩くにゃ、もうちっと時間が欲しいしな。」
流の言葉を日輪が聞きとがめる。
「歩く? それより本山に連絡を取ってヘリを回してもらえばいい。」
「そりゃ、その方が楽だけどよ。お前……いいのか?」
「何か困るような………」
事でもあるのか、と言いかけた彼女の言葉が途切れた。
ヘリを回すとなれば、必然的に流と二人っきりでこのホテルにいた事が知られてしまう。
いくら身にやましい事がないとはいえ、さすがに日輪としてはためらってしかるべき状況だ。
「…………な、素直に街まで歩くだろ?」
流の言葉に、渋々同意するしか手がない。
「仕方ないわね……」
「へ。元はと言えばこんな事になったのは誰のせいでしたかねってんだ。」
「流が安全運転しないからに決まってるじゃない。」
「日輪ぁ、お前なぁ………」
「さらに元をたどれば、蒼月の馬鹿が獣の槍をキリオに奪われたりしなければ……」
「へーへー。その通りだよ。」
流は諦めたようなため息と共に、短くなった煙草を近くの灰皿に押し付けた。
「流。」
「ん?」
二本目の煙草をくわえ、愛用のジッポをポケットから探りだしながら、流が振り返った。
「………悪かったわ。」
日輪が頭を下げる。
流の口からぽとりと煙草が落ちた。
「………」
ヒュウ、と感嘆の口笛が鳴った。
「おい、何かヘンなモンでも食ったんじゃねぇのか。」
「なんだと!」
日輪が流につかみ掛かかる。
「人が真面目に謝っているのに、お前って男は!」
「痛てっ、分かった分かった! 寄せって日輪!」
「まったく…………」
子供のように怒った日輪は、ようやく拳を降ろした。
流は落とした煙草を拾い上げ、今度こそそれに火を灯す。
不意に静けさが辺りを覆った。
流は煙草を吸って特に言葉もないのだが、日輪は手持ち無沙汰で仕方ない。
こんな所に二人きりというのも、どうにも居心地が悪い。
「い、今何時?」
思い立って、彼女は時計を探す。だが、それらしい壁に時計の姿が見当たらない。ふと日輪の眼に部屋の隅のTVが映った。
時間を見ようと、リモコンに手を伸ばす。
「あ、おい…」
「!」
だが、TVの画像が線を結んだ途端、日輪はあわてて画面を切った。
彼女の顔が真っ赤になっている。
一瞬だけ映った画面には裸の男女が絡み合っていたのだ。
「そりゃ、こーゆー所だからなぁ……」
流がにやにや笑いながら、短くなった煙草を灰皿に押し付けた。
「お前、見た事ねぇの?」
「そんなもの、ある訳がない!」
日輪の見幕がどうにも堪えきれず、流がくくっと喉の奥から楽しそうな笑い声をあげる。
「可愛いねぇ……」
「なに?」
他愛もないその言葉に、日輪の眼が鋭く尖った。
「可愛い…? 女だと思って馬鹿にしたら承知しないわ!」
流は怒りをあらわにしている女をまじまじと見つめる。
「………“可愛い”ってのは、褒め言葉だぜ。少なくとも馬鹿にはしてねぇぞ。前から思ってたけどよ……日輪、お前はなんでそんなに女を嫌がンのかねぇ。」
「決まってる! 世の中が女に不公平だからよ。流だって知ってるじゃない、私が伝承者候補になった時、“女だから”というだけでどれだけ反対されたか!」
「そりゃそうだけどよ。…………オレは女の方が得だと思うんだがなぁ。」
激しく憤る彼女を尻目に流はごろりとベットに寝転んだ。
「一体何が!」
「何って……レディースデーとかって、女だけの割引やら特典って多くねえか?男の特典なんざ聞いた事がねぇのによ。」
「馬鹿! そんな低次元の事……」
「それともうひとつ。これはホント不公平だと思うんだがな。」
「?」
「セックス。」
「!」
日輪は顔を真っ赤にして、流の頭の下にあった枕を凄まじい勢いで引き抜き、それを顔に叩きつけた。
「……おまえなぁ…」
流はため息をつき、何事も無かったように枕を再びあるべき位置に戻す。殴られたといえども、もともとが柔らかい枕。ダメージはほとんど無かった。
「ホントに不公平だと思わねぇ?」
日輪はキツイ眼差しで流を睨みつけている。
「男が必死こいて口説いて、頑張って励んでよ。そりゃ、
こっちだって良くねぇとは言わねぇが……どーも女の方が良さそうだよなぁ。」
「知るか!」
怒鳴っても睨んでも変わらない流の態度に、彼女はとうとう顔を背けた。
「ホント……可愛いねぇ、お前……」
くくくっ、と流が笑う。
日輪は相手をせずに顔を背けたまま、しかしぼそりと呟いた。
「……馬鹿にされてるようにしか思えない。」
「してねぇって。ま、ガキ扱いはしてるけどなぁ。」
「何だと!」
振り向きざまに繰り出された拳を、流は寝転んだまま軽く受け止める。
「くっ……」
日輪は拳を引こうとするが、その手首は男に捕まれ、思うように動かせない。
「道理も知らねぇ小学生のガキが、男に生まれたかったって駄々こねてるようにしか見えねぇよ。」
「うるさいっ! 離せ!!」
彼女は力任せに、手を振りほどこうとあがいた。
「離せっ……」
だが、渾身の力を込めても。
日輪は歯を食いしばる。
「離せっ……」
「………お前、泣いてんのか?」
俯いた彼女の眼に涙が滲んでいた。
「泣いてなんかいない!」
日輪はくやしかった。流の手を振りほどけない事よりも、その言葉に図星をさされて苛立っている自分自身が嫌だった。
-駄々をこねているようにしか……
違う、違う、違う!
日輪は心の中で叫んでいた。
しかし、彼女の頬を涙が伝う。
………否定する事が間違いなのだと、その涙が言うのだ。
「おい、日輪……」
「離せ!!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにして、日輪は叫ぶ。
流の手が力を失い、彼女は両手で顔を覆った。
ずきずきと痛む手首が、哀しい。
分かっている、分かっている。
日輪は心の中で繰り返す、この涙を止めようと。
どれだけ子供じみた欲求か、なんてことぐらい。
……でも。
それでも男に生まれたかったと思う、この心をどう しろと。
……どうしろと言うのだ。
彼女の心の中を土足で踏み荒らした流は、困ったような眼で日輪を見つめている。
と、流が腕を伸ばし、彼女の身体を引き寄せた。
「泣くなよ。」
耳元で、はじめて聞く流の優しい声。
「……ない」
「ん?」
「泣いてなんか、ない。」
その肩に顔を埋め、日輪は涙声で尚も言い張った。
「………お前、ホント……」
骨張った男の大きな手のひらが、女の濡れた頬を撫でる。まるで熱をもったかのように暖かい流の手が、彼女の顔を導いた。
「可愛い、女だよな……」
囁くような甘い言葉と共に、ゆっくりと触れてきた流の口唇は、手のひらと同じように暖かい。
「な、が……」
グリースと、煙草と、バイクのオイルと、陽に灼けた……男の匂い。
それが、日輪を包み込んだ。
捕えられたアラミスはミレディー達に鞭打たれた後、ピサロによって軟禁される。
彼は彼女が女の身で銃士であることを知っていた。
そして、勿論、その扱いも心得ていたのである。
――――――――――――――――――――
始終無言まま、荒い息遣いと卑猥な音だけが部屋に響く。
何度目の行為か数えるのも忘れた頃、ピサロは体を離して寝台から降りた。アラミスも何度か絶頂へ導かれ、息が乱れている。
椅子に腰を掛け、体だけは快楽の泉に沈み込んだアラミスに視線を絡ませる。寝台のシーツは激しく乱れ、汗と体液とで所々が濡れた染みになっていた。
「まだ刺激が足りないようだな。」
体は反応しても、あくまでも無言で無表情な人形のように抱かれているアラミスに、多少の苛立ちを感じていた。
加虐的な表情を浮かべると、机上の小瓶を手に取り寝台へ歩み寄る。
小瓶の中の液体を手の平に受け、その手をアラミスの秘部へ向けた。逃げることはできないと分かっていてもアラミスの体は自然と後ずさる。
焼け付くような刺激が走り、瞬間身が強張った。
ピサロの手は小瓶の中の液体を、アラミスの体内の奥深くまで丹念に塗り込めた。
―――――!
声にならない声を上げ、必死に逃れようとするが体は思うように動かない。それどころか下半身はピサロの手を招き入れるかのように、無意識に腰を揺り動かしていた。
「どうだ、効くだろう?」
悪くない反応に喜色を漂わせた声が響く。
「な、何をした・・・・。」
気持ちは屈っするまいとしつつも体の疼きはどんどん大きくなり、声が上ずる。
小瓶の中身を全て塗り終えるとピサロはまた、寝台から降りて彼女をじっと観察した。
「こいつは刺激の強い香辛料を何種類も調合した、いわゆる媚薬と言うやつだ。皮膚の粘膜を刺激して、今にいても立ってもいられなくなるだろう。」
確かに、今まで無表情に徹していたアラミスの顔は赤く上気し、睨み付けていた眼差しも弱々しく切なげに瞼を震わせていた。
それまでの責めで十分に解され、敏感になっていた体中の性感帯が悲鳴を上げている。
体を左右によじらせ必死に堪えるものの、遂に縛られたままの腕を一番疼く秘所へ伸ばした。体液が太腿を伝わって流れている。
ピサロは満足そうな顔を近づけ囁いた。
「どうだ?俺にして欲しいことがあるんじゃないか?」
アラミスは寝台から転げ落ちていた。髪を振り乱し、目は虚ろに、息遣いは荒く、太腿は溢れ出る体液でまみれ、床に這っていた。
指を激しく自分の恥部に出し入れする。
「機密文書のありかを答えたら、望むことを叶えてあげるぞ。」
ピサロは、上気してそそり立った乳首を力を込めて摘み上げる。
痛い、はずのその行為は、今の彼女には快楽をより一層深める行為でしかなかった。
悦びの混ざった悲鳴を上げて身を振るわせるアラミスは、その体をぶつけるようにピサロの下に投げ出した。そそり立ったままの男根を見上げ、縛られた両手で握り締める。
そして顔を寄せた。
最初は激しく、そして徐々に丁寧に、細部にまで舌を這わせる。舌先で弄んだかと思うと喉の奥まで深く突き入れる。
その絶妙な行為に対しピサロは、不本意ながらも堪えることに必死になっていた。
アラミスは両手を自分の秘所へ持っていくと、更に溢れ流れている自分の体液を掌にすくい上げる。そしてその液体をピサロの男根に擦り付けた。
ぬるりとした感触は、彼の快楽を一層深いものとする。両手で包み込むように擦り込みながら激しく上下させる。口で亀頭を吸いながら徐々に激しくしていくと・・・・。
彼は耐え切れずに彼女を突き飛ばした。
近付いて抱え上げる。寝台へ彼女を投げ出し、その深みへ一気に突き入れた。
何往復もしない内に、快楽の咆哮を上げて果てる。そしてそのまま行為は続けられる。アラミスも満足そうな笑みを浮かべて更に腰を激しく動かす。
何度かの咆哮が上がった後、ピサロはぐったりと寝台に体を投げ出した。
「こんなはずでは無かったのだが・・・・」
独り言のように呟く彼は、体中汗にまみれて大きく肩で息をしている。
どんなに鍛えられた男でも、こう何度も連続しての行為は大きく体力を消耗せざるを得なかった。
しかし、アラミスは逃さない。ゆっくりと体を起したかと思うと、不敵な笑みを浮かべて彼の体に被さっていった。
うっとりとした目つきで見詰めながら、縛られた両手で彼の顔をまさぐり、自分の顔を近づけるとその口を犯し始めた。
最初は浅く、歯茎に沿って舌を這わせるだけ。そして徐々に深く、口蓋へと舌を進める。口内の隅々まで舌を送りながら、足は彼の股間の辺りを刺激していた。
「もう駄目だ。これ以上お前の相手は・・・」
ピサロが根を上げて逃れようとしても、アラミスの攻撃は緩まない。
唾液にまみれた顔を上げたかと思うと、多少回復した彼の一物を握り締め、その上に腰を沈めた。大きく髪を振り乱しながら快楽の声を上げる。
困惑しているような表情のピサロは、もう抗う術も無く、ただただ込み上げて来る快楽を享受していた。上下、前後、左右、そしてゆっくりと回転するように・・・・アラミスの体は何かに憑かれたかのように、妖しい動きを繰り返す。
体を倒しては豊かな乳房で彼の体を刺激し、赤く濡れる舌で彼の体を責め続けた。
彼女の責めが、彼をもう何度か絶頂へ促した後、遂に彼は動くことを放棄した。
もう何をしても彼の体は反応しない。
「おい、もう終わりか?」
アラミスが声を掛けても瞼一つ動かさなかった。
彼が既に抜け殻でしかないことを確認したアラミスは、今までの表情を一変させて寝台から素早く降りた。
そしてピサロが脱ぎ捨てた衣服から剣を抜き取って自分の手枷を切る。
窓に掛かっている豪奢なカーテンを引き千切って、体中の汗と体液を拭きながら、彼を見詰めて言った。
「馬鹿な男だ。俺に塗った薬を自分に擦り付けられていることに、ちっとも気付いていないんだから。」
―――― そう。
アラミスが彼の男根にむしゃぶりついたのは、自分に塗られた薬を彼にも塗りつける機会を作る為だった。
彼の方から行為を求めるよう仕向けることで、口を割る事無く体の疼きを止め、奴を動けなくする手段としたのだ。
自分にも薬が効いていることに気付かず、アラミスの求めに応じて何度も行為を繰り返すことで自滅する。
馬鹿な男だ。いや、そもそも男とは馬鹿なものなのか?
「薬を使われた時は危なかったけど、所詮、男ってのはこんなものなんだから・・・・。」
辟易した表情で、ピサロの脱いだ服を着ながら大きく溜息をつく。
流石に疲れてはいたが、自分にはまだやるべきことが残っている。
帯刀して正面を向いた彼女の顔は既に銃士だった。
彼は彼女が女の身で銃士であることを知っていた。
そして、勿論、その扱いも心得ていたのである。
――――――――――――――――――――
始終無言まま、荒い息遣いと卑猥な音だけが部屋に響く。
何度目の行為か数えるのも忘れた頃、ピサロは体を離して寝台から降りた。アラミスも何度か絶頂へ導かれ、息が乱れている。
椅子に腰を掛け、体だけは快楽の泉に沈み込んだアラミスに視線を絡ませる。寝台のシーツは激しく乱れ、汗と体液とで所々が濡れた染みになっていた。
「まだ刺激が足りないようだな。」
体は反応しても、あくまでも無言で無表情な人形のように抱かれているアラミスに、多少の苛立ちを感じていた。
加虐的な表情を浮かべると、机上の小瓶を手に取り寝台へ歩み寄る。
小瓶の中の液体を手の平に受け、その手をアラミスの秘部へ向けた。逃げることはできないと分かっていてもアラミスの体は自然と後ずさる。
焼け付くような刺激が走り、瞬間身が強張った。
ピサロの手は小瓶の中の液体を、アラミスの体内の奥深くまで丹念に塗り込めた。
―――――!
声にならない声を上げ、必死に逃れようとするが体は思うように動かない。それどころか下半身はピサロの手を招き入れるかのように、無意識に腰を揺り動かしていた。
「どうだ、効くだろう?」
悪くない反応に喜色を漂わせた声が響く。
「な、何をした・・・・。」
気持ちは屈っするまいとしつつも体の疼きはどんどん大きくなり、声が上ずる。
小瓶の中身を全て塗り終えるとピサロはまた、寝台から降りて彼女をじっと観察した。
「こいつは刺激の強い香辛料を何種類も調合した、いわゆる媚薬と言うやつだ。皮膚の粘膜を刺激して、今にいても立ってもいられなくなるだろう。」
確かに、今まで無表情に徹していたアラミスの顔は赤く上気し、睨み付けていた眼差しも弱々しく切なげに瞼を震わせていた。
それまでの責めで十分に解され、敏感になっていた体中の性感帯が悲鳴を上げている。
体を左右によじらせ必死に堪えるものの、遂に縛られたままの腕を一番疼く秘所へ伸ばした。体液が太腿を伝わって流れている。
ピサロは満足そうな顔を近づけ囁いた。
「どうだ?俺にして欲しいことがあるんじゃないか?」
アラミスは寝台から転げ落ちていた。髪を振り乱し、目は虚ろに、息遣いは荒く、太腿は溢れ出る体液でまみれ、床に這っていた。
指を激しく自分の恥部に出し入れする。
「機密文書のありかを答えたら、望むことを叶えてあげるぞ。」
ピサロは、上気してそそり立った乳首を力を込めて摘み上げる。
痛い、はずのその行為は、今の彼女には快楽をより一層深める行為でしかなかった。
悦びの混ざった悲鳴を上げて身を振るわせるアラミスは、その体をぶつけるようにピサロの下に投げ出した。そそり立ったままの男根を見上げ、縛られた両手で握り締める。
そして顔を寄せた。
最初は激しく、そして徐々に丁寧に、細部にまで舌を這わせる。舌先で弄んだかと思うと喉の奥まで深く突き入れる。
その絶妙な行為に対しピサロは、不本意ながらも堪えることに必死になっていた。
アラミスは両手を自分の秘所へ持っていくと、更に溢れ流れている自分の体液を掌にすくい上げる。そしてその液体をピサロの男根に擦り付けた。
ぬるりとした感触は、彼の快楽を一層深いものとする。両手で包み込むように擦り込みながら激しく上下させる。口で亀頭を吸いながら徐々に激しくしていくと・・・・。
彼は耐え切れずに彼女を突き飛ばした。
近付いて抱え上げる。寝台へ彼女を投げ出し、その深みへ一気に突き入れた。
何往復もしない内に、快楽の咆哮を上げて果てる。そしてそのまま行為は続けられる。アラミスも満足そうな笑みを浮かべて更に腰を激しく動かす。
何度かの咆哮が上がった後、ピサロはぐったりと寝台に体を投げ出した。
「こんなはずでは無かったのだが・・・・」
独り言のように呟く彼は、体中汗にまみれて大きく肩で息をしている。
どんなに鍛えられた男でも、こう何度も連続しての行為は大きく体力を消耗せざるを得なかった。
しかし、アラミスは逃さない。ゆっくりと体を起したかと思うと、不敵な笑みを浮かべて彼の体に被さっていった。
うっとりとした目つきで見詰めながら、縛られた両手で彼の顔をまさぐり、自分の顔を近づけるとその口を犯し始めた。
最初は浅く、歯茎に沿って舌を這わせるだけ。そして徐々に深く、口蓋へと舌を進める。口内の隅々まで舌を送りながら、足は彼の股間の辺りを刺激していた。
「もう駄目だ。これ以上お前の相手は・・・」
ピサロが根を上げて逃れようとしても、アラミスの攻撃は緩まない。
唾液にまみれた顔を上げたかと思うと、多少回復した彼の一物を握り締め、その上に腰を沈めた。大きく髪を振り乱しながら快楽の声を上げる。
困惑しているような表情のピサロは、もう抗う術も無く、ただただ込み上げて来る快楽を享受していた。上下、前後、左右、そしてゆっくりと回転するように・・・・アラミスの体は何かに憑かれたかのように、妖しい動きを繰り返す。
体を倒しては豊かな乳房で彼の体を刺激し、赤く濡れる舌で彼の体を責め続けた。
彼女の責めが、彼をもう何度か絶頂へ促した後、遂に彼は動くことを放棄した。
もう何をしても彼の体は反応しない。
「おい、もう終わりか?」
アラミスが声を掛けても瞼一つ動かさなかった。
彼が既に抜け殻でしかないことを確認したアラミスは、今までの表情を一変させて寝台から素早く降りた。
そしてピサロが脱ぎ捨てた衣服から剣を抜き取って自分の手枷を切る。
窓に掛かっている豪奢なカーテンを引き千切って、体中の汗と体液を拭きながら、彼を見詰めて言った。
「馬鹿な男だ。俺に塗った薬を自分に擦り付けられていることに、ちっとも気付いていないんだから。」
―――― そう。
アラミスが彼の男根にむしゃぶりついたのは、自分に塗られた薬を彼にも塗りつける機会を作る為だった。
彼の方から行為を求めるよう仕向けることで、口を割る事無く体の疼きを止め、奴を動けなくする手段としたのだ。
自分にも薬が効いていることに気付かず、アラミスの求めに応じて何度も行為を繰り返すことで自滅する。
馬鹿な男だ。いや、そもそも男とは馬鹿なものなのか?
「薬を使われた時は危なかったけど、所詮、男ってのはこんなものなんだから・・・・。」
辟易した表情で、ピサロの脱いだ服を着ながら大きく溜息をつく。
流石に疲れてはいたが、自分にはまだやるべきことが残っている。
帯刀して正面を向いた彼女の顔は既に銃士だった。
Philippe-Ⅰ
「殿下、お客人の御着きです」
「ああ、通してくれ。それと人払いも頼む」
「畏まりました」
パリのはずれの簡素な館、上品な家具に囲まれた一室で時の王と同じ顔をした男は飲み慣れぬ酒を手に、
一人の女を待っていた。
やがて侍従に通された豊かな金髪の女もまた、慣れぬドレスと化粧を施し、緊張した面持ちで男の前に立った。
「ルネ、と呼んで良いのかな?」
「はい殿下。この姿ですので」
「ではルネ、そこに掛けたまえ」
「はい」
示された椅子に腰を掛ける。その正面に男も腰を落とした。
「まずはベルイールでの事、礼を言う。・・・いや、それは"アラミス殿"への礼かな」
「はい、"彼"は国家に忠誠を誓った銃士ですから」
「・・・国のために働いたということか」
「そうです。我がフランスの為に鉄仮面を逮捕し、貴方を救い出す必要があった」
「・・・」
「ご無事で本当に良かったと思っています」
「話を6年前に戻そうか、ルネ」
なぜか苛立ちを覚え、普段は柔和な男には似合わぬ乱暴な口調となる。
銃士の面影を残していた女の顔からその気配は消え、長い睫毛を伏せ静かに頷いた。
美しい女であった。白い肌を際立たせる蒼い目と紅に彩られた唇は、6年前と何も変わっておらず、
ただ無垢だった瞳は何かに支配された苦しみの影を背負っていた。
その瞳を見続けることに息苦しさを覚え、男は視線を外した。
「6年前までノワジー・ル・セックに私が住んでいたことは知っているね」
「はい、当時は判りませんでしたが」
「フランソワのことは・・・」
「.....はい。存じ上げております」
"Francois"という言葉に男の口は震え、女の瞳の影が揺れる。
二人の心を支配し続けるその存在が濃い霧のように辺りを圧し包む。
「彼は、私にとって全てだった、私に全てを教えてくれた。父であり兄であり掛け替えの無い友であった。
私とフランソワ、そして心優しい乳母や使用人達は6年前まで静かに、平和にあの館で過ごしていたのだ」
幻に取り付かれた男は知らず微笑みを浮かべ、遠くを見つめる。
かつての幸せな時間を、その記憶の糸をゆっくりと手繰り寄せる。
だがその虹色の糸が途切れた時、男の瞳が深く翳る。
「しかしある春の日、フランソワを誘惑した女がいた。あの日から彼はその女の虜となってしまった。
我々の存在を秘密にするように、彼は女に念押しをしたが、愚かにもその女は身内の者に話してしまった。
やがて我々の存在は周囲の人間の知る所となり、そしてついにあの嵐の夜・・・」
虹色の途切れた先で紡いでいた呪いの糸を吐き出し、闇色を宿した男の目が女の姿を捕らえる。
一度解かれた呪いの糸は留まることもできず、ただ女の身を縛めていく。
「・・・私は愛するフランソワや乳母達を殺され、それから6年もの間幽閉の身となったのだ。
我々は何も望んでいなかった。ただ、あの館で静かに過ごせればそれで良かった。それをその女が滅茶苦茶にした。
フランソワが愛した女だ。許そうとも思った。だが、許せないのだよ・・・」
そこまで言うと男は息をつき、外していた視線をはっきりと女に向ける。
「私はお前が憎いのだ・・・」
最後は搾り出すように、男は全てを吐き出した。
後はただ、沈黙が部屋を支配する。
その時、神の怒りを思わせるような雷雨が降り出し、身を震わす音に二人は窓の外を見やる。
「あの日と同じ雨だな・・・」
「.....はい」
「そなたも私が憎い...か?」
心を見透かされた女は目を逸らさず、ただ瞳に住まう影を揺らす。
「私が居なければ、フランソワと幸せになれた。そう、思うのだろう?」
「.....はい」
その言葉に、男と女は共に目を伏せて闇が、影が自分から去るのを待ち続ける。
しかしそれは、二人を支配する男への想いの強さから振り切れる訳もなく、ただ時間だけが過ぎていく。
やがて大きな稲妻が地を割いた音を合図に男が口を開いた。
「やはり相容れない...か」
向き直り、頭りを振る。
「時間を取らせた。下がってよい」
その言葉に女は無言で屋敷を後にした。
*****
ルネが去った後の部屋に黒髪の婦人が入れ替わり、フィリップの傍に寄る。
彼は自分の吐いた言葉の醜さに身を震わせていた。
「私はなぜあのような言葉を・・・」
「殿下...」
「だがこれで判った。私には彼女を愛することなどできない。・・・例えそれがフランソワの意思だとしても」
「わかっております」
「美しいと思う。しかしそれ以上に憎しみが私を支配する」
「何も心の傷を抉り合う相手をお傍に置く必要はありませんわ」
「ああ、何もかも忘れてしまいたい・・・」
そう言って、彼は残っていた酒を一気に飲み干した。頬を伝うこの涙と共に全てを流してしまいたかった。
*****
殴りつけるような雨の中、ルネは屋敷を後にした。
天からの身を叩くような痛みより、心を縛り千切られたような疼きに吐き気すら覚えていた。
フィリップ様はあのような言葉を吐かれる方ではない。
短い間ではあったが銃士隊長としてお側に居た時も、常に相手への気遣いを感じさせる優しいお方だった。
そのような方に呪いの言葉を吐かせたのは私だ。
私があの方を地獄に落としてしまった。
・・・仇を倒すことで自分は許されたと思っていたのだろうか。
気が付くと大きな濁流となって荒れ狂うセーヌが目の前にあった。
いっそこのまま、身を投げて肉体を千切られてしまったほうが楽になるのだろうか。
よろよろと岸に近づこうとした時、強い力を腕に感じ振り向くと、よく知る黒い瞳があった。
「どうしたのだ?そのような姿で」
「アトス...」
その後は声にならず、ただ友の胸で声を殺して泣き続けた。
-------------
Aramis-Ⅰ
風を冷たく感じ窓を閉めようとすると、空には月が浮かんでいた。
知らず夜が訪れたことに気が付く。
ノワジーは静寂に包まれ、この館で動く者の気配は自分以外には無い。
私は眠るあの人の元に向かう。
閉じられたままの瞳。
動かない体。
けれど浅く繰り返す呼吸。
唇に触れると冷たくも僅かに感じる温もり。
ずっと欲しくて仕方なかった温もり。
その温もりが全てで、彼の存在が全てで、ただ幸せだった頃の記憶が流れ込んでくる。
「フランソワ・・・?」
愛しい言葉をそっと紡ぐ。
けれど沈黙の帳が落ちたまま、彼の唇が私の名を紡ぐことはない。
沈黙の闇が心をぎりぎりと絞め付ける。
その闇は心を巣食い始め、自分の中の何かが狂いだす。
意地悪な悪魔が囁く。
彼を目覚めさせる方法をお前は知っているだろう?・・・と
振り払おうとしても、否定しようとしても、纏わり付いてくるそれには
同時に一縷の望みが混じる。
目覚めた時、彼は微笑んでくれるかもしれない。
優しく私の頬を包み、そっと抱きしめてくれるかもしれない。
幻に捕らわた私は傍らの小瓶に手を伸ばす。
そっと乾いた唇に液体を流し込む。
2滴、3滴・・・
やがて身動ぎ、瞳を開けるのはただの獣。
人間であることを放棄した肉体は、本能のままに私を蹂躙する。
体をバラバラにされそうになり、同時に自分の愚かさに涙する。
やがて欲望を吐き出した彼は意識を失い崩れ落ち、私はその体の下から這い出し声を殺して嗚咽を上げる。
冷たい夜気が頬を包む。
何度も何度も、その繰り返しだった。
絶望に抱かれたままの朝を何度も迎えたある日。
アトスが訪ねてきた。
彼に自分の行為を見透かされ、声を枯らす私をアトスは繭で包むように抱きしめてくれた。
アトスとはいつもこの距離だった。
手を差し伸べてくれても、引いてくれることは無い。
抱きとめてはくれても、強く息が止まるほど抱き締めてはくれなかった。
アトスが去った後、彼の部屋に入り眠る姿を見下ろす。
生気を失った頬に手を沿わせ、僅かな温もりを確かめる。
その刹那、瞳が開かれ手首が掴まれる。
「・・・男・・の匂いがする」
「!」
「・・あの・・・銃士か?」
掠れる声は私の心臓を鷲掴みにし、ぎらぎらと睨みつける眼光は心を凍らせる。
今までもふいに彼の意識が戻ることはあった。
だがそこに意思は無く、しばらく視線が宙を彷徨うだけだった。
けれど、はっきりと憎悪の色を瞳に宿し、あらん限りの力で私を掴んだまま離さない。
ぜいぜいと荒い呼吸の中で、アトスとの事を問いただそうとする。
「違うわ。アトスとは何もないわ・・」
「・・嘘を・・つくな・・・」
「嘘じゃない・・・」
愛しているのは貴方だけだと伝える方法。教えてくれたのも彼だった。
彼の体に埋まり、舌を這わす。自分のなかで彼が躍動する。
背徳の行為。それに悦び震える自分。
堕ちていく闇はどこまでも優しく私を包み込む。
ある日、王弟が一人の婦人を連れて訪れた。
殿下はフランソワの変わり果てた姿を目にし涙を流す。
私は無表情にその姿を見つめていた。
「そなたに世話を任せるのは本意ではないが、致し方ない・・・」
殿下は私と目を合わせること無く、早々に去っていった。
あの頃、彼はその身分でフランソワを縛っていた。
何もできず、待つだけだった自分が悔しくて仕方なかった。
だが、この王弟から彼を奪い取ったことを感じると、歪んだ喜びが胸に広がる。
残った黒髪の婦人は、私を見やると静かに口開いた
「貴方、彼に薬を盛っているでしょう?」
「・・・!」
「その体、男の匂い染み付いているわよ」
「それは・・・」
「人間としての理性を無くして、動物としての本能だけで生きているのね、この人は・・・」
優美な仕草で、そっと視線を落とす。
だが婦人が見つめる先にフランソワは無かった。
誰を想っているのだろうか?
この人にも激しく愛した人が居たのだろうか?
「心配しなくても、私は傍観者よ。誰に何を言う気はないわ」
「・・・」
「この人は・・貴方のものよ。好きにすればいいわ」
返す言葉を失い、黙り込む私を見て婦人は静かに微笑みを浮かべた。
「少し、昔話をしていいかしら?」
「・・・?・・・はい」
婦人はかつてフランソワが考えていた事を教えてくれた。
16歳だった私には思いもしなかった事ばかりだった。
「貴方ももう、何も知らない少女では無いからと思って話したのだけれど・・・」
「・・・はい」
「落胆された?」
「・・・いいえ」
「そう」
「・・・私は彼の事何も知らなかったけれど、多くの嘘があったかもしれないけれど・・・
彼の・・・私が愛した部分は信じたいから・・・」
「・・・そうね、何も知らなくても、愛することはできるわよね」
婦人は心を魅了する微笑を残して、ノワジーを去っていった。
「ルネ」と優しく呼んで微笑んでくれる彼を愛していた。
あの時、それだけでよかった。
例え彼が誰であろうとも、よかった。
その微笑みだけで、満たされていた。
もう一度・・・もう一度だけでいいから彼が微笑んでくれたら私は救われるのに。
彼が逝ったのは満月の夜だった。
月が満ちている夜は、あの日の彼を思い出す。
確かにそこに在った彼の微笑み。
だから、いつもより少し多く、液体を流し込む。
4滴、5滴・・・
彼の体が小さく痙攣する。
薄く開かれる瞳は私を見た後、綺麗に微笑み、す、と閉じられた。
力の抜けていく体を抱き締めると、私も微笑み返す。
月の光の下、私はゆっくりと幸福感で満たされていくのを感じていた。
「殿下、お客人の御着きです」
「ああ、通してくれ。それと人払いも頼む」
「畏まりました」
パリのはずれの簡素な館、上品な家具に囲まれた一室で時の王と同じ顔をした男は飲み慣れぬ酒を手に、
一人の女を待っていた。
やがて侍従に通された豊かな金髪の女もまた、慣れぬドレスと化粧を施し、緊張した面持ちで男の前に立った。
「ルネ、と呼んで良いのかな?」
「はい殿下。この姿ですので」
「ではルネ、そこに掛けたまえ」
「はい」
示された椅子に腰を掛ける。その正面に男も腰を落とした。
「まずはベルイールでの事、礼を言う。・・・いや、それは"アラミス殿"への礼かな」
「はい、"彼"は国家に忠誠を誓った銃士ですから」
「・・・国のために働いたということか」
「そうです。我がフランスの為に鉄仮面を逮捕し、貴方を救い出す必要があった」
「・・・」
「ご無事で本当に良かったと思っています」
「話を6年前に戻そうか、ルネ」
なぜか苛立ちを覚え、普段は柔和な男には似合わぬ乱暴な口調となる。
銃士の面影を残していた女の顔からその気配は消え、長い睫毛を伏せ静かに頷いた。
美しい女であった。白い肌を際立たせる蒼い目と紅に彩られた唇は、6年前と何も変わっておらず、
ただ無垢だった瞳は何かに支配された苦しみの影を背負っていた。
その瞳を見続けることに息苦しさを覚え、男は視線を外した。
「6年前までノワジー・ル・セックに私が住んでいたことは知っているね」
「はい、当時は判りませんでしたが」
「フランソワのことは・・・」
「.....はい。存じ上げております」
"Francois"という言葉に男の口は震え、女の瞳の影が揺れる。
二人の心を支配し続けるその存在が濃い霧のように辺りを圧し包む。
「彼は、私にとって全てだった、私に全てを教えてくれた。父であり兄であり掛け替えの無い友であった。
私とフランソワ、そして心優しい乳母や使用人達は6年前まで静かに、平和にあの館で過ごしていたのだ」
幻に取り付かれた男は知らず微笑みを浮かべ、遠くを見つめる。
かつての幸せな時間を、その記憶の糸をゆっくりと手繰り寄せる。
だがその虹色の糸が途切れた時、男の瞳が深く翳る。
「しかしある春の日、フランソワを誘惑した女がいた。あの日から彼はその女の虜となってしまった。
我々の存在を秘密にするように、彼は女に念押しをしたが、愚かにもその女は身内の者に話してしまった。
やがて我々の存在は周囲の人間の知る所となり、そしてついにあの嵐の夜・・・」
虹色の途切れた先で紡いでいた呪いの糸を吐き出し、闇色を宿した男の目が女の姿を捕らえる。
一度解かれた呪いの糸は留まることもできず、ただ女の身を縛めていく。
「・・・私は愛するフランソワや乳母達を殺され、それから6年もの間幽閉の身となったのだ。
我々は何も望んでいなかった。ただ、あの館で静かに過ごせればそれで良かった。それをその女が滅茶苦茶にした。
フランソワが愛した女だ。許そうとも思った。だが、許せないのだよ・・・」
そこまで言うと男は息をつき、外していた視線をはっきりと女に向ける。
「私はお前が憎いのだ・・・」
最後は搾り出すように、男は全てを吐き出した。
後はただ、沈黙が部屋を支配する。
その時、神の怒りを思わせるような雷雨が降り出し、身を震わす音に二人は窓の外を見やる。
「あの日と同じ雨だな・・・」
「.....はい」
「そなたも私が憎い...か?」
心を見透かされた女は目を逸らさず、ただ瞳に住まう影を揺らす。
「私が居なければ、フランソワと幸せになれた。そう、思うのだろう?」
「.....はい」
その言葉に、男と女は共に目を伏せて闇が、影が自分から去るのを待ち続ける。
しかしそれは、二人を支配する男への想いの強さから振り切れる訳もなく、ただ時間だけが過ぎていく。
やがて大きな稲妻が地を割いた音を合図に男が口を開いた。
「やはり相容れない...か」
向き直り、頭りを振る。
「時間を取らせた。下がってよい」
その言葉に女は無言で屋敷を後にした。
*****
ルネが去った後の部屋に黒髪の婦人が入れ替わり、フィリップの傍に寄る。
彼は自分の吐いた言葉の醜さに身を震わせていた。
「私はなぜあのような言葉を・・・」
「殿下...」
「だがこれで判った。私には彼女を愛することなどできない。・・・例えそれがフランソワの意思だとしても」
「わかっております」
「美しいと思う。しかしそれ以上に憎しみが私を支配する」
「何も心の傷を抉り合う相手をお傍に置く必要はありませんわ」
「ああ、何もかも忘れてしまいたい・・・」
そう言って、彼は残っていた酒を一気に飲み干した。頬を伝うこの涙と共に全てを流してしまいたかった。
*****
殴りつけるような雨の中、ルネは屋敷を後にした。
天からの身を叩くような痛みより、心を縛り千切られたような疼きに吐き気すら覚えていた。
フィリップ様はあのような言葉を吐かれる方ではない。
短い間ではあったが銃士隊長としてお側に居た時も、常に相手への気遣いを感じさせる優しいお方だった。
そのような方に呪いの言葉を吐かせたのは私だ。
私があの方を地獄に落としてしまった。
・・・仇を倒すことで自分は許されたと思っていたのだろうか。
気が付くと大きな濁流となって荒れ狂うセーヌが目の前にあった。
いっそこのまま、身を投げて肉体を千切られてしまったほうが楽になるのだろうか。
よろよろと岸に近づこうとした時、強い力を腕に感じ振り向くと、よく知る黒い瞳があった。
「どうしたのだ?そのような姿で」
「アトス...」
その後は声にならず、ただ友の胸で声を殺して泣き続けた。
-------------
Aramis-Ⅰ
風を冷たく感じ窓を閉めようとすると、空には月が浮かんでいた。
知らず夜が訪れたことに気が付く。
ノワジーは静寂に包まれ、この館で動く者の気配は自分以外には無い。
私は眠るあの人の元に向かう。
閉じられたままの瞳。
動かない体。
けれど浅く繰り返す呼吸。
唇に触れると冷たくも僅かに感じる温もり。
ずっと欲しくて仕方なかった温もり。
その温もりが全てで、彼の存在が全てで、ただ幸せだった頃の記憶が流れ込んでくる。
「フランソワ・・・?」
愛しい言葉をそっと紡ぐ。
けれど沈黙の帳が落ちたまま、彼の唇が私の名を紡ぐことはない。
沈黙の闇が心をぎりぎりと絞め付ける。
その闇は心を巣食い始め、自分の中の何かが狂いだす。
意地悪な悪魔が囁く。
彼を目覚めさせる方法をお前は知っているだろう?・・・と
振り払おうとしても、否定しようとしても、纏わり付いてくるそれには
同時に一縷の望みが混じる。
目覚めた時、彼は微笑んでくれるかもしれない。
優しく私の頬を包み、そっと抱きしめてくれるかもしれない。
幻に捕らわた私は傍らの小瓶に手を伸ばす。
そっと乾いた唇に液体を流し込む。
2滴、3滴・・・
やがて身動ぎ、瞳を開けるのはただの獣。
人間であることを放棄した肉体は、本能のままに私を蹂躙する。
体をバラバラにされそうになり、同時に自分の愚かさに涙する。
やがて欲望を吐き出した彼は意識を失い崩れ落ち、私はその体の下から這い出し声を殺して嗚咽を上げる。
冷たい夜気が頬を包む。
何度も何度も、その繰り返しだった。
絶望に抱かれたままの朝を何度も迎えたある日。
アトスが訪ねてきた。
彼に自分の行為を見透かされ、声を枯らす私をアトスは繭で包むように抱きしめてくれた。
アトスとはいつもこの距離だった。
手を差し伸べてくれても、引いてくれることは無い。
抱きとめてはくれても、強く息が止まるほど抱き締めてはくれなかった。
アトスが去った後、彼の部屋に入り眠る姿を見下ろす。
生気を失った頬に手を沿わせ、僅かな温もりを確かめる。
その刹那、瞳が開かれ手首が掴まれる。
「・・・男・・の匂いがする」
「!」
「・・あの・・・銃士か?」
掠れる声は私の心臓を鷲掴みにし、ぎらぎらと睨みつける眼光は心を凍らせる。
今までもふいに彼の意識が戻ることはあった。
だがそこに意思は無く、しばらく視線が宙を彷徨うだけだった。
けれど、はっきりと憎悪の色を瞳に宿し、あらん限りの力で私を掴んだまま離さない。
ぜいぜいと荒い呼吸の中で、アトスとの事を問いただそうとする。
「違うわ。アトスとは何もないわ・・」
「・・嘘を・・つくな・・・」
「嘘じゃない・・・」
愛しているのは貴方だけだと伝える方法。教えてくれたのも彼だった。
彼の体に埋まり、舌を這わす。自分のなかで彼が躍動する。
背徳の行為。それに悦び震える自分。
堕ちていく闇はどこまでも優しく私を包み込む。
ある日、王弟が一人の婦人を連れて訪れた。
殿下はフランソワの変わり果てた姿を目にし涙を流す。
私は無表情にその姿を見つめていた。
「そなたに世話を任せるのは本意ではないが、致し方ない・・・」
殿下は私と目を合わせること無く、早々に去っていった。
あの頃、彼はその身分でフランソワを縛っていた。
何もできず、待つだけだった自分が悔しくて仕方なかった。
だが、この王弟から彼を奪い取ったことを感じると、歪んだ喜びが胸に広がる。
残った黒髪の婦人は、私を見やると静かに口開いた
「貴方、彼に薬を盛っているでしょう?」
「・・・!」
「その体、男の匂い染み付いているわよ」
「それは・・・」
「人間としての理性を無くして、動物としての本能だけで生きているのね、この人は・・・」
優美な仕草で、そっと視線を落とす。
だが婦人が見つめる先にフランソワは無かった。
誰を想っているのだろうか?
この人にも激しく愛した人が居たのだろうか?
「心配しなくても、私は傍観者よ。誰に何を言う気はないわ」
「・・・」
「この人は・・貴方のものよ。好きにすればいいわ」
返す言葉を失い、黙り込む私を見て婦人は静かに微笑みを浮かべた。
「少し、昔話をしていいかしら?」
「・・・?・・・はい」
婦人はかつてフランソワが考えていた事を教えてくれた。
16歳だった私には思いもしなかった事ばかりだった。
「貴方ももう、何も知らない少女では無いからと思って話したのだけれど・・・」
「・・・はい」
「落胆された?」
「・・・いいえ」
「そう」
「・・・私は彼の事何も知らなかったけれど、多くの嘘があったかもしれないけれど・・・
彼の・・・私が愛した部分は信じたいから・・・」
「・・・そうね、何も知らなくても、愛することはできるわよね」
婦人は心を魅了する微笑を残して、ノワジーを去っていった。
「ルネ」と優しく呼んで微笑んでくれる彼を愛していた。
あの時、それだけでよかった。
例え彼が誰であろうとも、よかった。
その微笑みだけで、満たされていた。
もう一度・・・もう一度だけでいいから彼が微笑んでくれたら私は救われるのに。
彼が逝ったのは満月の夜だった。
月が満ちている夜は、あの日の彼を思い出す。
確かにそこに在った彼の微笑み。
だから、いつもより少し多く、液体を流し込む。
4滴、5滴・・・
彼の体が小さく痙攣する。
薄く開かれる瞳は私を見た後、綺麗に微笑み、す、と閉じられた。
力の抜けていく体を抱き締めると、私も微笑み返す。
月の光の下、私はゆっくりと幸福感で満たされていくのを感じていた。
Francois-Ⅶ
「わかっているのか!?あの男は鉄仮面なんだぞ!」
「けれどフランソワだ!!」
アラミスは切り裂くように叫んだ。
自分の進路を阻んだ相手に抗議の声を上げると、蒼い瞳に怒りの炎を宿し震えていた唇をぎりっと結ぶと
苛立だし気に置かれた手を払い除け、男の後を追おうとする。
その剣幕にアトスは気圧されそうになりながら、しかしその両の肩を強く掴み直し乱暴に揺さぶった。
「どうして判る!?何が君にその確信をもたらした!!」
「それは・・・」
アラミスは言葉に詰まり、目を伏せた。
耳朶に残る甘い疼きにそっと触れると、先刻の男の言葉が動悸を早める。
その黙したまま胸を震わす様子にアトスは一度大きく息をつくと、少し力を緩めてゆっくりと・・・
込み上げる激情を抑えながら言葉を紡いだ。
「一つ・・・聞くが、"フランソワ"殿は亡くなったのではなかったのか?」
「それは・・・私もそう思ってた」
「君は彼のどのような姿を見たんだ?」
「私が見たのは血塗れで倒れていた彼で・・・その後のことは・・・」
「見ていない、ということか」
「・・・けれど、彼の葬儀は間違いなく行われたんだ」
「遺体を見たのか?」
「・・・」
「・・・遺体の無い葬儀だったということか」
険しい表情を浮かべ、アトスは天を仰いだ。
闇を照らす月は、まだ心もとない細さで浮かんでいる。
大きくため息を付くと静かに、悲痛な色に染まったままの蒼の瞳を覗き込んだ。
「アラミス・・・聞くんだ」
その瞳には自分の姿は映っていないことが判る。
しかし、それでも残酷と知りながら言葉を並べた。
「フランソワ殿は死んだんだ。あの男はフランソワではない」
「違う・・・彼はフランソワだ・・・」
「あの目を見たか?正気の人間ではない。あれだけ血を流しても痛みを感じないのは、既に人間ではない」
「人間でなければ何?・・・生霊・・・だとでも?」
「いや・・・おそらくは・・・」
「・・・何?」
ようやく自分を見つめ返した、縋るような瞳に心が揺らいだ。
傷つけたくないと思った。
自分の手では。それがエゴだと判っていても。
あの男が彼女を傷つける。ならば自分は傷つけたくない。
偽りの優しさを装ってでも。
「近づいてはいけない。あの男は・・・」
「アトス・・・?」
「近づくな・・・頼むから・・・」
絹糸のように乱れる金髪に唇を寄せ、繭に囲むように腕を伸ばす。
切ない想いと共にその細い体を胸に抱き、小さな鼓動を確かめると泣き笑いの様な表情を浮かべた。
だが・・・アトスの言葉がアラミスに届くことはなく、満月の夜その姿はパリには無かった。
*****
ノワジーの館の一室で窓から差し込む月の光を浴びながら男は静かに佇んでいた。
そのまま何刻か過ぎた頃、金の髪をきらきらとさせながらこの無人となった屋敷に近づく姿を
認めると満足そうに微笑んだ。
「フランソワ?」
やがて夜の空気に響いた小さな声に振り向いた男は優しい笑みを浮かべる。
揺れる蒼い瞳を捕え、こちらへと手招きをする。
それに誘われアラミスが歩を進めると、さらうようにその細い体を自分の胸の中に収めた。
そして小鳥の様に震える身体の線をゆっくりとなぞり始めた。
「いや・・・」
「どうして?」
尋ね返したその瞳の色は知らない色だった。
自分を抱きしめる体躯も嘗てはもっと細く優雅だった。
どこか夢を見るように、信じられぬものを見るように抗うアラミスの思案を探ると、男は耳朶に唇を添わせた。
「んっ・・・」
「君はこうされるのが好きだったね」
思い出を巧みに操り、その身体を少しづつ開かせようとする。
その甘い囁きでかつて身を焦がした疼きに再び翻弄され、アラミスが我を忘れそうになった時だった。
男の顔に苦渋の色が広がる。
寄り掛かっていたアラミスの身体を突き飛ばすと
飛び跳ねるように男は傍らにあった瓶の中身の飲み干した。
ぜいぜいと吐き出す荒い息が次第に低い唸り声に変わり、やがて笑いを洩らし始める。
何が起こったか判らず、呆然とするアラミスだったが振り向いた男の目を見て言葉を無くした。
先ほどまで自分を包んでいた優しい眼差しは消え去り、恐ろしいまでの狂気を湛えた獣の姿がそこにはあった。
ずかずかとアラミスに近づき、その肩を強く押さえる。
恐怖に見開く瞳を見やると大きく顔を歪ませる笑いを浮かべ、その服を引き裂いた。
白い肌が露になる。
首筋に噛み付くように唇を這わせ、柔らかな胸を乱暴に弄る。
アラミスは男のあまりの変貌に驚愕し、必死に抵抗しようとするが押さえつけられた手はびくとも動かない。
「や・・フランソワっ・・・いや!!!」
「黙れ」
容赦の無い声に心臓が鷲掴みにされ、体が硬直し、抵抗を無くした蒼の瞳は大きく開かれる。
こんな男は知らない。
獰猛な獣のように自分の体を嬲る相手にフランソワの面影を必死に探す。
だが、どこにも見つからない。
絶望に捕らわれたその体に、息を止めるような痛みが突き抜けた。
*****
「アラミス!?」
やがて飛び込んできたアトスが見たのは恐怖で喘ぎ、許しを乞う声を上げ、涙を溢れさせるアラミスと、
獣のように昂ぶりを押さえられず目の前の獲物を何度も蹂躙し、貪り尽くしている男の姿だった。
「・・・!」
言葉を失い、身体中の毛が逆立つ。
さらに合意の上での行為では無いことに体中の血が沸騰し、憤怒に声を荒げた。
「やめろ!!」
勢い、男をアラミスから引き剥がそうとする。
しかし、男はその腕をむんずと捕え返すと、小瓶のようにアトスを投げ捨てた。
壁にしたたかに叩きつられると一瞬息が止まり、大きく咳き込む。
アラミスはその鈍い音に驚き、やがてそこにアトスの姿を見つけると羞恥で身を捩ろうとする。
しかし男はそれを許さず、我が物顔でアラミスへの責め苦を続けようとした。
その時、今までとは違う苦しみが男を襲った。
身の下にある体から離れると、目を剥き、猛獣の咆哮を発し、狂ったように転げまわると
血へど吐き、もがき苦しみ始めた。
やがてその身体が大きく痙攣すると、体中の骨が軋む音が響き渡った。
四肢が動かなくなり、地べたに倒れ込むと大きく喘ぐ様に息を吐き続ける。
その様子に乱れた呼吸のまま痛む体を引きずり、アトスはアラミスを男の吐き出す生臭い息から、
その残酷な姿から庇うように抱き寄せた。
アラミスは呆然とし、目の前で起こる惨劇にがたがたと震えていた。
男の低く唸り続ける呻き声が耳につき、繰り返される吐瀉物からは腐敗を思わせる臭いが辺りに漂う。
喘ぎ喘ぎに、うわ言のように愛しい名を口にした。
「フ・・・フランソワは・・・?」
「おそらくは・・・薬の末期症状だろう」
「く・・・すり・・・?」
「血が流れても痛みを感じないのも、あの人間離れした力も全て薬に依るものだ」
「そ・・・んな・・・」
「いつから使っていたのか・・・おそらくは君が彼が死んだと思った頃か・・・
彼は薬に生かされてるだけだ。死んでいるのと同じだ」
男はまた大きく痙攣する。その禍々しさに身を竦ませる二人にぎらぎらとした目で言葉を吐き付けた。
「その通りだ・・・この身体はもはや使い物にならない。4肢はいずれもげ、
目も鼻も耳も利かなくなり、皮膚は砂のように朽ち果てるだろう。
だが・・・それでもこの魂は朽ち果てなることは無い」
その濁った目がアラミスの姿を捉える。
「それはルネ、君が居てくれるからだよ・・・。私から逃れることは許さない。
君の中で・・・私は永遠だ」
呪いの言葉。
最後は絞り出すように言葉を吐くと、そのまま男の意識は途絶えた。
小さく痙攣を繰り返す男のおぞましい姿をアラミスは硬直したまま、ただ見つめていた。
「アラミス、ここをすぐに立ち去るぞ」
「いや・・・」
「彼はもう助からない!」
「そんな・・・いや・・・フランソワ?」
「やめろ、近づくな!」
「いや、いやぁっ・・・!」
「アラミス!」
「離して!私に触らないで!」
「アラミス!!」
「アラミスなんて知らない!そんな人は知らない!私はルネよ!ノワジーでフランソワと幸せだったルネよ!!」
アトスの手を振り払い、胸を掻きむしるように叫ぶと
座り込んだまま背中を丸め、両手をついて子どものように泣き崩れた。
涙が次から次へと溢れて白い頬を濡らし、無機質な床に滴り散る。
やがて絶え絶えに、呻くように言葉を押し出した。
「返して・・・フランソワを返して・・・」
アトスは男の言葉を思い出す。
"アラミス殿はお返しする"
その意味を今更に気が付き、言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
Francois-Ⅷ
雲間から柔らかな日差しが降り注ぐ中、黒髪の銃士はノワジーの館を訪ねていた。
何週間か前に此処で在った惨劇を思い出し、その時の絶望が胸を過ぎり顔が曇ったが、
静かに頭を振ると声を上げた。
「誰か!居らぬのか?」
館の中の冷んやりとした空気は濃厚な緑の匂いを含み、全身を包む。
その中にやがて現れた蒼の瞳は驚きに開かれた。
「アトス・・・」
「しばらく振りだな」
「うん・・・」
「この館には他に誰も居ないのか?」
「王弟殿下のご指示で、限られた時間だけ通いで館の世話をする人が来るけど・・」
「そうか」
「・・・アトスはどうして此処に?」
「その王弟殿下の御指示だ」
「そう・・・」
応接の場に二人は移動する。
あの時、あの惨劇の後に飛び込んできた銃士隊長のトレビルによって、場は治められた。
そしてそれは王弟の知る処となり、その庇護によりこの館にかつて彼の教育役であった男を
保護することとなった。
世話役として名乗りを上げたのは銃士隊員のアラミスであった。
王弟もトレビルも難色を示したが、これ以上彼の存在を知る人間を増やす事もできず、
不承不承、承知したのだった。
「何か持ってくるから、少し待ってて」
金の髪を揺らしアトスを部屋に案内する蒼い瞳には疲労の色が滲んでいた。
その後ろ姿を見つめながら掛ける声を探していると、細い体が崩れるように倒れた。
「アラミス!?」
アトスが駆け寄り抱きとめると、驚くほど軽い。
生気を失った肌は抜けるように白くなり、意識を失った唇からは僅かな吐息が漏れていた。
気を失っただけと判り、少しだけ安堵する。
死を待つしかない、しかも愛した人間の傍に居続ける事の精神的負担は想像を絶する。
力の抜けた体を持ち上げると長椅子に横にし、二つの腕を体の上で組もうとした。
その時、目に入った肌色に違和感を感じた。
手首を不自然に隠す袖をめくると、鮮やかなまでの赤黒いあざがあった。
息を呑み、瞳を瞑られた顔を見返す。よく見ると首筋にも同じ色が見えた。
少しだけ、その襟口を開くと、"あの時"の痕ではない、
もっと新しい、おそらくは断続的に繰り返されているであろう蹂躙された痕があった。
アトスの顔がみるみるうちに怒りに歪む。
やがて崩れていた体に失われた意識がゆっくりと戻ると、うっすらと目を開ける。
自分を見つめる藤色の瞳が怒りに燃える意味を悟ると、露にされた痕を隠した。
「アラミス・・・」
体を竦ませ、アトスから顔を背ける。
「その痕は?」
「・・・」
「・・・あの男はまだ君を?」
「・・・」
「まさか、そんなはず・・・」
驚愕で、言葉を失う。
そんなはずは無い。
あの時意識を失い、二度と起き上がることなど無い体となったはずだった。
だが、うなだれたまま小さく震える姿を見て、アトスの脳裏に戦慄が走った。
「・・・まさか、彼に薬を与えたのか?」
「・・・」
「答えろ!」
「それは・・・」
「アラミス!!」
強く肩を掴み、無理やりに正面から目を見据える。
その斬りつけるような鋭い声に鈴のような声を震わせ、途切れ途切れ言葉を吐き出した。
「あ、愛されたかったの・・・彼に・・・、もう一度・・・もう一度でいいから」
「あの男は君を愛してなどいない!」
「・・・違う。彼は私を愛してくれてる・・・」
「ではこれは何だ!!?」
アトスはアラミスの手首を手荒く掴み上げると
袖を捲り、赤黒い痕を露にする。
「獣だ、あの男は!君が愛したフランソワ殿ではない!」
「違う・・・あれは彼じゃない・・・」
「何・・・」
「・・・い、いつか戻ってきれくれるわ・・・フランソワは・・・あの時・・・
この場所にフランソワは確かに居たもの・・」
あの時、月明かりの元に見た、優しい眼差しが忘れられない。
だから、僅かな希望に縋り薬を男に与える。
その度に陵辱され絶望に堕とされ、それでも欲情を吐き出した男が昏睡した姿を見ると、悪魔の囁きに捕らわれる。
体を震わせ、嗚咽を洩らし、涙を散らすその姿に言いようのない感情がアトスの胸を掻き毟る。
「・・・それが彼の命を縮めていると判っているのか?」
うな垂れたままの頭が小さく頷く。
「それでいいのか?君は」
「・・・」
「アラミス!」
「・・・ず、ずっと待ってた。どこかで・・・彼をずっと待ってたの・・・
だからお願い、私を許して・・・」
「・・・」
「許して・・・・・・」
外は日差しはいつの間にか翳り、冷たい雨が降り出していた。
止むことを忘れたように、いつまでもいつまでも降り続いていた。
*****
それから、何度か月が満ち欠けを繰り返したある静かな満月の夜、
冷たくなった躯を抱いて一人の女が夜風を浴びていた。
その蒼い瞳には何も映していなかったが、唇は少しだけ、満ち足りたように微笑んでいた。
(END)
「わかっているのか!?あの男は鉄仮面なんだぞ!」
「けれどフランソワだ!!」
アラミスは切り裂くように叫んだ。
自分の進路を阻んだ相手に抗議の声を上げると、蒼い瞳に怒りの炎を宿し震えていた唇をぎりっと結ぶと
苛立だし気に置かれた手を払い除け、男の後を追おうとする。
その剣幕にアトスは気圧されそうになりながら、しかしその両の肩を強く掴み直し乱暴に揺さぶった。
「どうして判る!?何が君にその確信をもたらした!!」
「それは・・・」
アラミスは言葉に詰まり、目を伏せた。
耳朶に残る甘い疼きにそっと触れると、先刻の男の言葉が動悸を早める。
その黙したまま胸を震わす様子にアトスは一度大きく息をつくと、少し力を緩めてゆっくりと・・・
込み上げる激情を抑えながら言葉を紡いだ。
「一つ・・・聞くが、"フランソワ"殿は亡くなったのではなかったのか?」
「それは・・・私もそう思ってた」
「君は彼のどのような姿を見たんだ?」
「私が見たのは血塗れで倒れていた彼で・・・その後のことは・・・」
「見ていない、ということか」
「・・・けれど、彼の葬儀は間違いなく行われたんだ」
「遺体を見たのか?」
「・・・」
「・・・遺体の無い葬儀だったということか」
険しい表情を浮かべ、アトスは天を仰いだ。
闇を照らす月は、まだ心もとない細さで浮かんでいる。
大きくため息を付くと静かに、悲痛な色に染まったままの蒼の瞳を覗き込んだ。
「アラミス・・・聞くんだ」
その瞳には自分の姿は映っていないことが判る。
しかし、それでも残酷と知りながら言葉を並べた。
「フランソワ殿は死んだんだ。あの男はフランソワではない」
「違う・・・彼はフランソワだ・・・」
「あの目を見たか?正気の人間ではない。あれだけ血を流しても痛みを感じないのは、既に人間ではない」
「人間でなければ何?・・・生霊・・・だとでも?」
「いや・・・おそらくは・・・」
「・・・何?」
ようやく自分を見つめ返した、縋るような瞳に心が揺らいだ。
傷つけたくないと思った。
自分の手では。それがエゴだと判っていても。
あの男が彼女を傷つける。ならば自分は傷つけたくない。
偽りの優しさを装ってでも。
「近づいてはいけない。あの男は・・・」
「アトス・・・?」
「近づくな・・・頼むから・・・」
絹糸のように乱れる金髪に唇を寄せ、繭に囲むように腕を伸ばす。
切ない想いと共にその細い体を胸に抱き、小さな鼓動を確かめると泣き笑いの様な表情を浮かべた。
だが・・・アトスの言葉がアラミスに届くことはなく、満月の夜その姿はパリには無かった。
*****
ノワジーの館の一室で窓から差し込む月の光を浴びながら男は静かに佇んでいた。
そのまま何刻か過ぎた頃、金の髪をきらきらとさせながらこの無人となった屋敷に近づく姿を
認めると満足そうに微笑んだ。
「フランソワ?」
やがて夜の空気に響いた小さな声に振り向いた男は優しい笑みを浮かべる。
揺れる蒼い瞳を捕え、こちらへと手招きをする。
それに誘われアラミスが歩を進めると、さらうようにその細い体を自分の胸の中に収めた。
そして小鳥の様に震える身体の線をゆっくりとなぞり始めた。
「いや・・・」
「どうして?」
尋ね返したその瞳の色は知らない色だった。
自分を抱きしめる体躯も嘗てはもっと細く優雅だった。
どこか夢を見るように、信じられぬものを見るように抗うアラミスの思案を探ると、男は耳朶に唇を添わせた。
「んっ・・・」
「君はこうされるのが好きだったね」
思い出を巧みに操り、その身体を少しづつ開かせようとする。
その甘い囁きでかつて身を焦がした疼きに再び翻弄され、アラミスが我を忘れそうになった時だった。
男の顔に苦渋の色が広がる。
寄り掛かっていたアラミスの身体を突き飛ばすと
飛び跳ねるように男は傍らにあった瓶の中身の飲み干した。
ぜいぜいと吐き出す荒い息が次第に低い唸り声に変わり、やがて笑いを洩らし始める。
何が起こったか判らず、呆然とするアラミスだったが振り向いた男の目を見て言葉を無くした。
先ほどまで自分を包んでいた優しい眼差しは消え去り、恐ろしいまでの狂気を湛えた獣の姿がそこにはあった。
ずかずかとアラミスに近づき、その肩を強く押さえる。
恐怖に見開く瞳を見やると大きく顔を歪ませる笑いを浮かべ、その服を引き裂いた。
白い肌が露になる。
首筋に噛み付くように唇を這わせ、柔らかな胸を乱暴に弄る。
アラミスは男のあまりの変貌に驚愕し、必死に抵抗しようとするが押さえつけられた手はびくとも動かない。
「や・・フランソワっ・・・いや!!!」
「黙れ」
容赦の無い声に心臓が鷲掴みにされ、体が硬直し、抵抗を無くした蒼の瞳は大きく開かれる。
こんな男は知らない。
獰猛な獣のように自分の体を嬲る相手にフランソワの面影を必死に探す。
だが、どこにも見つからない。
絶望に捕らわれたその体に、息を止めるような痛みが突き抜けた。
*****
「アラミス!?」
やがて飛び込んできたアトスが見たのは恐怖で喘ぎ、許しを乞う声を上げ、涙を溢れさせるアラミスと、
獣のように昂ぶりを押さえられず目の前の獲物を何度も蹂躙し、貪り尽くしている男の姿だった。
「・・・!」
言葉を失い、身体中の毛が逆立つ。
さらに合意の上での行為では無いことに体中の血が沸騰し、憤怒に声を荒げた。
「やめろ!!」
勢い、男をアラミスから引き剥がそうとする。
しかし、男はその腕をむんずと捕え返すと、小瓶のようにアトスを投げ捨てた。
壁にしたたかに叩きつられると一瞬息が止まり、大きく咳き込む。
アラミスはその鈍い音に驚き、やがてそこにアトスの姿を見つけると羞恥で身を捩ろうとする。
しかし男はそれを許さず、我が物顔でアラミスへの責め苦を続けようとした。
その時、今までとは違う苦しみが男を襲った。
身の下にある体から離れると、目を剥き、猛獣の咆哮を発し、狂ったように転げまわると
血へど吐き、もがき苦しみ始めた。
やがてその身体が大きく痙攣すると、体中の骨が軋む音が響き渡った。
四肢が動かなくなり、地べたに倒れ込むと大きく喘ぐ様に息を吐き続ける。
その様子に乱れた呼吸のまま痛む体を引きずり、アトスはアラミスを男の吐き出す生臭い息から、
その残酷な姿から庇うように抱き寄せた。
アラミスは呆然とし、目の前で起こる惨劇にがたがたと震えていた。
男の低く唸り続ける呻き声が耳につき、繰り返される吐瀉物からは腐敗を思わせる臭いが辺りに漂う。
喘ぎ喘ぎに、うわ言のように愛しい名を口にした。
「フ・・・フランソワは・・・?」
「おそらくは・・・薬の末期症状だろう」
「く・・・すり・・・?」
「血が流れても痛みを感じないのも、あの人間離れした力も全て薬に依るものだ」
「そ・・・んな・・・」
「いつから使っていたのか・・・おそらくは君が彼が死んだと思った頃か・・・
彼は薬に生かされてるだけだ。死んでいるのと同じだ」
男はまた大きく痙攣する。その禍々しさに身を竦ませる二人にぎらぎらとした目で言葉を吐き付けた。
「その通りだ・・・この身体はもはや使い物にならない。4肢はいずれもげ、
目も鼻も耳も利かなくなり、皮膚は砂のように朽ち果てるだろう。
だが・・・それでもこの魂は朽ち果てなることは無い」
その濁った目がアラミスの姿を捉える。
「それはルネ、君が居てくれるからだよ・・・。私から逃れることは許さない。
君の中で・・・私は永遠だ」
呪いの言葉。
最後は絞り出すように言葉を吐くと、そのまま男の意識は途絶えた。
小さく痙攣を繰り返す男のおぞましい姿をアラミスは硬直したまま、ただ見つめていた。
「アラミス、ここをすぐに立ち去るぞ」
「いや・・・」
「彼はもう助からない!」
「そんな・・・いや・・・フランソワ?」
「やめろ、近づくな!」
「いや、いやぁっ・・・!」
「アラミス!」
「離して!私に触らないで!」
「アラミス!!」
「アラミスなんて知らない!そんな人は知らない!私はルネよ!ノワジーでフランソワと幸せだったルネよ!!」
アトスの手を振り払い、胸を掻きむしるように叫ぶと
座り込んだまま背中を丸め、両手をついて子どものように泣き崩れた。
涙が次から次へと溢れて白い頬を濡らし、無機質な床に滴り散る。
やがて絶え絶えに、呻くように言葉を押し出した。
「返して・・・フランソワを返して・・・」
アトスは男の言葉を思い出す。
"アラミス殿はお返しする"
その意味を今更に気が付き、言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
Francois-Ⅷ
雲間から柔らかな日差しが降り注ぐ中、黒髪の銃士はノワジーの館を訪ねていた。
何週間か前に此処で在った惨劇を思い出し、その時の絶望が胸を過ぎり顔が曇ったが、
静かに頭を振ると声を上げた。
「誰か!居らぬのか?」
館の中の冷んやりとした空気は濃厚な緑の匂いを含み、全身を包む。
その中にやがて現れた蒼の瞳は驚きに開かれた。
「アトス・・・」
「しばらく振りだな」
「うん・・・」
「この館には他に誰も居ないのか?」
「王弟殿下のご指示で、限られた時間だけ通いで館の世話をする人が来るけど・・」
「そうか」
「・・・アトスはどうして此処に?」
「その王弟殿下の御指示だ」
「そう・・・」
応接の場に二人は移動する。
あの時、あの惨劇の後に飛び込んできた銃士隊長のトレビルによって、場は治められた。
そしてそれは王弟の知る処となり、その庇護によりこの館にかつて彼の教育役であった男を
保護することとなった。
世話役として名乗りを上げたのは銃士隊員のアラミスであった。
王弟もトレビルも難色を示したが、これ以上彼の存在を知る人間を増やす事もできず、
不承不承、承知したのだった。
「何か持ってくるから、少し待ってて」
金の髪を揺らしアトスを部屋に案内する蒼い瞳には疲労の色が滲んでいた。
その後ろ姿を見つめながら掛ける声を探していると、細い体が崩れるように倒れた。
「アラミス!?」
アトスが駆け寄り抱きとめると、驚くほど軽い。
生気を失った肌は抜けるように白くなり、意識を失った唇からは僅かな吐息が漏れていた。
気を失っただけと判り、少しだけ安堵する。
死を待つしかない、しかも愛した人間の傍に居続ける事の精神的負担は想像を絶する。
力の抜けた体を持ち上げると長椅子に横にし、二つの腕を体の上で組もうとした。
その時、目に入った肌色に違和感を感じた。
手首を不自然に隠す袖をめくると、鮮やかなまでの赤黒いあざがあった。
息を呑み、瞳を瞑られた顔を見返す。よく見ると首筋にも同じ色が見えた。
少しだけ、その襟口を開くと、"あの時"の痕ではない、
もっと新しい、おそらくは断続的に繰り返されているであろう蹂躙された痕があった。
アトスの顔がみるみるうちに怒りに歪む。
やがて崩れていた体に失われた意識がゆっくりと戻ると、うっすらと目を開ける。
自分を見つめる藤色の瞳が怒りに燃える意味を悟ると、露にされた痕を隠した。
「アラミス・・・」
体を竦ませ、アトスから顔を背ける。
「その痕は?」
「・・・」
「・・・あの男はまだ君を?」
「・・・」
「まさか、そんなはず・・・」
驚愕で、言葉を失う。
そんなはずは無い。
あの時意識を失い、二度と起き上がることなど無い体となったはずだった。
だが、うなだれたまま小さく震える姿を見て、アトスの脳裏に戦慄が走った。
「・・・まさか、彼に薬を与えたのか?」
「・・・」
「答えろ!」
「それは・・・」
「アラミス!!」
強く肩を掴み、無理やりに正面から目を見据える。
その斬りつけるような鋭い声に鈴のような声を震わせ、途切れ途切れ言葉を吐き出した。
「あ、愛されたかったの・・・彼に・・・、もう一度・・・もう一度でいいから」
「あの男は君を愛してなどいない!」
「・・・違う。彼は私を愛してくれてる・・・」
「ではこれは何だ!!?」
アトスはアラミスの手首を手荒く掴み上げると
袖を捲り、赤黒い痕を露にする。
「獣だ、あの男は!君が愛したフランソワ殿ではない!」
「違う・・・あれは彼じゃない・・・」
「何・・・」
「・・・い、いつか戻ってきれくれるわ・・・フランソワは・・・あの時・・・
この場所にフランソワは確かに居たもの・・」
あの時、月明かりの元に見た、優しい眼差しが忘れられない。
だから、僅かな希望に縋り薬を男に与える。
その度に陵辱され絶望に堕とされ、それでも欲情を吐き出した男が昏睡した姿を見ると、悪魔の囁きに捕らわれる。
体を震わせ、嗚咽を洩らし、涙を散らすその姿に言いようのない感情がアトスの胸を掻き毟る。
「・・・それが彼の命を縮めていると判っているのか?」
うな垂れたままの頭が小さく頷く。
「それでいいのか?君は」
「・・・」
「アラミス!」
「・・・ず、ずっと待ってた。どこかで・・・彼をずっと待ってたの・・・
だからお願い、私を許して・・・」
「・・・」
「許して・・・・・・」
外は日差しはいつの間にか翳り、冷たい雨が降り出していた。
止むことを忘れたように、いつまでもいつまでも降り続いていた。
*****
それから、何度か月が満ち欠けを繰り返したある静かな満月の夜、
冷たくなった躯を抱いて一人の女が夜風を浴びていた。
その蒼い瞳には何も映していなかったが、唇は少しだけ、満ち足りたように微笑んでいた。
(END)