26.友
「メイ……さん」
「メイ!」
「エイプリル……さん」
「エイプリル、だよ」
小さく身体を強張らせて――緊張しているのかもしれない、ディズィーは一生懸命に口を動かしていた。
けれどやっぱりなんだか気恥ずかしい。
「んもう、ディズィーったら、ボク達がディズィーって呼んでるのにディズィーの方がさん付けじゃ何だか可笑しいじゃん」
ああ、メイさんが膨れっ面をしている。
さっきから自分がこんな調子だから。
「しょうがないよ、今まで呼び捨てで呼んだ事なかったん、だよ、ね?」
エイプリルさんが愛嬌のあるそばかす顔に苦笑を浮かべている。
……ごめんなさい。
「えぇと、ジョニーが迎えに行くまでおじさんと二人で暮らしてたんだっけ、ディズィーって」
「……リスとかを含めなければ、そうなります」
恐縮しきった表情で、小さくディズィーが答える。そう、あの黒髪のギアの事もディズィーはテスタメントさんと、そう呼んでいたのだから今でも身近にいる人に呼び捨てでなど話せない。
「んーでもさ、その人はディズィーより目上っていうかずっと年上って感じだったからさん付けで呼んでたんでしょ?」
「ええ……多分」
「だったら、ボク達は対等なんだからさ、やっぱり呼び捨てで呼んで欲しいなぁ。別にちゃん付けでもいいけど、やっぱり呼び捨てかな。
ね、エイプリル?」
「そうねぇ……ま、あたしはゆっくりでもいいけど」
エイプリルがそう答えると、メイは若干不満そうにまた頬を膨らませた。
「でもー、ボク達家族で、友達なんだよ?」
「友達……」
聞き慣れない言葉であるかのようにディズィーが鸚鵡返しに呟く。それを聞いてメイとエイプリルは同じに微笑んだ。
「そ、友達」
「ボク達は友達で親友なんだよ!」
なんでもないのにディズィーは泣きそうになった。
「さぁ、だから、ディズィー」
ああ、嬉しいんですけれども。
「ま、もうちょっと頑張ってみよっか」
はい、頑張ってみます。
「め、メイ……」
「お!」
「……さん」
「……」
「……」
「……すみません」
「やっぱしょうがないよ、ディズィー」
「うー」
「唸らないでよ、メイ。
ほら、これからゆっくり呼び方も変えていこうね、ディズィー」
「……はい」
だって、折角友達なんですものね。
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1.邂逅
「――!」
父さまがさけんだとたんにアタシの目がすごくいたくなって、赤くなった。あんまりいきなりだったからおどろいて、目をぱちぱちとつむった。
そうしたら次は母さまの手をにぎっていたアタシの手がぬるぬるとして、気もちわるくて、アタシはうっかり母さまの手をはなしてしまった。さっき、父さまがぜったいにはなすなと言った母さまの手を。
多分、それがだめだったんだと思う。
どんってせなかをおされてアタシはころびそうになった。でもころばなかった。がんばったんだけど、こんどは父さまと母さまがどこにいるのか分からなくなっちゃった。だって目は赤いまんまだし、手ははなしちゃった。
「――!」
母さまがアタシの名前を言ったけど、なんだか小さくてどこにいるのか、やっぱり分からなかった。
「父さま、母さま?」
アタシが呼ぶと、父さまがこたえてくれたんだけど、とてもこわい声だった。
それから、だれかがアタシの手をもった。強い力だったから父さまかなって思ったけど、父さまよりずっとずっと痛かった。さっきから父さまとけんかしている人だって思った。こわくなった。
手をおもいっきりふると、すぐに強い手はなくなった。良かったけど、父さまと母さまのところは分からなかった。また、こわいひとがくるんじゃないかって、ずっと手を回してると、父さまが大きな、こわい声で言った。
「走れ!」
はしれ。ここから走れ? 父さまと母さまといっしょじゃなくて? アタシひとりで?
「お願い走って! 貴方一人で! 父様と母様はいいから!」
……うん。
母さまのかすかすした声もきこえたから、アタシはこわかったけど走ることにした。
まだ目がよく見えなかったから、とにかく走った。ときどきだれかにぶつかってこわいことを言われたけど、とにかく走った。
走りすぎてつかれちゃったときには、父さまも母さまも、それからこわい人たちもいないみたいだった。
すわって、見えないここはどこだろうと思うと、水がアタシのかおに当たった。
「……あめ?」
やっぱり、雨だった。だんだん雨はいっぱいふってきて、アタシはずぶぬれになっちゃった。
ぬれてさむいよって言ったんだけど、父さまも母さまもいない。
……たぶん、あのこわい人たちにもってかれたんじゃないかなっておもう。アタシがされたみたいに、手をとられて。やられちゃったのかもしれない。きっと、アタシが母さまの手をはなしちゃったから。
アタシが、母さまの手をはなさなければよかった。ううん、アタシが強かったらよかった。あのこわい人たちより強かったら父さまも母さまも今アタシといっしょにいるんだと思う。
父さまがむかし、アタシが男の子だったらよかったのにって言ってた。アタシが男の子だったら強くなったのにって言ってた。
……だったら、アタシが男の子だったらよかったのかな。
アタシが男の子だったらうんと強くなって、あのこわい人たちもやっつけちゃって、父さまと母さまもいっしょにいられたかな。
女の子だから。
女の子だから父さまも母さまもいない。
なんだかとってもかなしくなって、アタシは雨といっしょに泣いた。
「ベイビィ」
よく知らないことばをきいた。あたってた雨が、当たらなくなる。目のまえに、だれかいるのかな。
赤くていたかったからずっととじたまんまだった目をひらいてみたくなった。ひらこうとしたら、すぐにひらいた。
とってもひさしぶりに見たのは、ぜんぜん知らないまちと、ぜんぜんしらない黒い人だった。
目のまえに、黒い人が立ってる。黒い人は、目をめがね――さんぐらすって言うんだ――にして、黒いふくと黒いおぼうし、それから金色のかみの男の人。金色のかみがへんだなって思った。でも、おひるのお日さまみたいだなって思った。
黒い人は、かさをもってた。うえにかぶせてくれてた。
「ベイビィ、そんなずぶ濡れになっちゃいけない」
べいびぃってなんていういみなんだろうって思った。
でも黒い人が言うのは、すごくあったかくて、父さまみたいだって思った。
父さまはどこに行っちゃったんだろう。男の子じゃないアタシはあのこわい人たちをやっつけてやれなかった。
「おんなのこがいやなの」
雨にあたってるとき、ずっとそれをかんがえてた。
男の子だったらよかったのにって。
黒い人はちょっとあたまをうごかした。
「何故だい?」
「おんなのこはだめなの。こわい人をやっつけれないの。こわい人をやっつけないと、父さまと母さまがいなくなっちゃうの」
かおはきっとは雨と泣いたのでぐしょぐしょになってるんだと思う。
「……『ボク』が強くならなくちゃいけないの」
黒い人に言うと、黒い人はかおをへんにして、それからかさをもったままなのに、もういっこの手でボク、をかんたんにもってしまった。
ボクは、こわくなかった。この人はこわくなかった。たぶん、父さまとおんなじみたいだからだと思う。
父さまと母さまはどこに行っちゃったんだろう。
ボクが強くなって、こわい人をやっつけてあげたい。
そうしたら、いっしょになるよね。
貴方がいないのが悪いの
私が独りで泣いているのに
「ジョニー」
「私は、もうボクじゃないんだ」
いつまでも
貴方は
私を子供のように見ていて
「愛してる」
何度も
何度も
そう告げて
「ごめんね、ジョニー 私はもう一緒にいられない」
好きな貴方を置いていくの
「メイ」
「私はソルと一緒に行くんだ」
「そしてボクはジョニーといつでも一緒にいる」
子供のボクを貴方に残して
大人の私はソルと共に
「ジョニー、大好き、ずっと愛してるよボクは」
「でも私はソルを愛してる」
さようなら初恋の人
私はボクと貴方を置いていくの
もう振り返らずに
「俺も、愛してるよメイ」
好きでした、ずっとずっと
バンダナを巻いた、ショートカットの娘がきょろきょろと街中を歩き、こう言う。
「あの、海賊みたいな帽子かぶって、錨持った女の子見ませんでしたか?」
知らない、と横に顔を振られ、娘は消沈していた。
ありがとう、といって笑って通行人と別れ公園に入る。
はあ、と溜息を一つ。
『…全く。メイどこ行っちゃったのかしら』
彼女、ジェリーフィッシュ団のエイプリルはとりわけメイと仲がいい。
皆家族のような仲だが、それでも年の差や性格から差は多少でる。
その一つの形だった。
そういう理由といつもエイプリルがいう(自称、なのだが…)情報通をもう一つの理由にして、航海士のエイプリルが家出のメイを探すハメとなった。
『もぉ……そりゃあんたがジョニーに首っ丈ってのは解るけどさぁ』
近頃その件の男はクルーのスカウトやら何やらで出回ってばかりだ。
おまけにメイはいつもタイミング悪く帰船しないものだから入れ替わりで数日顔も見ていない。
そういうわけで恋する乙女はジョニーに会うまでは船に戻らない、と言い出した。
当然もう一人の保護者は猛反対だ。
メイはだからといって止める子じゃない。
『かえってジョニーが心配するって、なんでわかんないかな、あの子はぁ…!!』
心配するジョニーを見てて心配なのはこっちなんだから。
それだけ皆あんたのことも、ジョニーのことも心配なのに。
「貴女だったのね」
エイプリルが声の主を見るとそこにいたのは美しい金髪の女性であった。
「あ、ミリア、さんですよね?」
何度かメイに紹介してもらった覚えがあった。
あの大会で話すようになって、エイプリルにも会わせたかったの、とか言っていたっけ。
「丁度良かった!!」
エイプリルはポンと手をたたいた。
何を言いたかったか直ぐにわかったらしくミリアは(微かにだけ)微笑んで草叢を態度で示す。
まさか…と草叢を見る。
そして案の定気持ちよさそうに眠るメイの姿が…。
「ちょ…メ…!!」
「もう少し、このまま眠らせてあげてもらえるかしら…。さんざ泣いてさっき寝たばっかりだから」
そしてミリアはポツリポツリと、押し黙ったエイプリルに告げた。
「…此処でね、彼女に引き止められたの……『どうしたら、好きだって伝えられるの』ってね」
エイプリルはそっと自分の髪を撫でた。
「…」
「私には解らなかったの、なんて答えるべきか。そうしたら急に泣き出して。男も見つからないし、皆怒ってるから今船に戻れないって言い出したわ」
急に、ミリアは悲しげになった。
エイプリルはミリアの過去は知らないが、きっと辛いことがあったんじゃないか、と思う。
いつか、話せるようになる日は来るのかしら、とも。
「でもメイは幸せだわ…まだ子供で、気づけていないけれど」
何も返せない。
「…貴女、朝から、夕方今の今までずーっと探していたでしょう?」
自分の顔が赤くなるのを感じる。
必死になって気づかなかったが確かにエイプリルは昼食もとっていなかった。
「う…でも、なんで」
もしかして必死なところ見られてたとか?
それじゃかえって恥ずかしいかもしれない。
「本当は、メイも気づいていたみたいよ」
ミリアはふわりと立ち上がった。
「だから泣いてた。自分でどうしたらいいかわからなくなってしまったのね」
エイプリルはポリポリと頬を引っかいた。
「二人とも、その気持ち忘れないでいて欲しいわ………私には、もう、持てない気持ちだから」
終
「あの、海賊みたいな帽子かぶって、錨持った女の子見ませんでしたか?」
知らない、と横に顔を振られ、娘は消沈していた。
ありがとう、といって笑って通行人と別れ公園に入る。
はあ、と溜息を一つ。
『…全く。メイどこ行っちゃったのかしら』
彼女、ジェリーフィッシュ団のエイプリルはとりわけメイと仲がいい。
皆家族のような仲だが、それでも年の差や性格から差は多少でる。
その一つの形だった。
そういう理由といつもエイプリルがいう(自称、なのだが…)情報通をもう一つの理由にして、航海士のエイプリルが家出のメイを探すハメとなった。
『もぉ……そりゃあんたがジョニーに首っ丈ってのは解るけどさぁ』
近頃その件の男はクルーのスカウトやら何やらで出回ってばかりだ。
おまけにメイはいつもタイミング悪く帰船しないものだから入れ替わりで数日顔も見ていない。
そういうわけで恋する乙女はジョニーに会うまでは船に戻らない、と言い出した。
当然もう一人の保護者は猛反対だ。
メイはだからといって止める子じゃない。
『かえってジョニーが心配するって、なんでわかんないかな、あの子はぁ…!!』
心配するジョニーを見てて心配なのはこっちなんだから。
それだけ皆あんたのことも、ジョニーのことも心配なのに。
「貴女だったのね」
エイプリルが声の主を見るとそこにいたのは美しい金髪の女性であった。
「あ、ミリア、さんですよね?」
何度かメイに紹介してもらった覚えがあった。
あの大会で話すようになって、エイプリルにも会わせたかったの、とか言っていたっけ。
「丁度良かった!!」
エイプリルはポンと手をたたいた。
何を言いたかったか直ぐにわかったらしくミリアは(微かにだけ)微笑んで草叢を態度で示す。
まさか…と草叢を見る。
そして案の定気持ちよさそうに眠るメイの姿が…。
「ちょ…メ…!!」
「もう少し、このまま眠らせてあげてもらえるかしら…。さんざ泣いてさっき寝たばっかりだから」
そしてミリアはポツリポツリと、押し黙ったエイプリルに告げた。
「…此処でね、彼女に引き止められたの……『どうしたら、好きだって伝えられるの』ってね」
エイプリルはそっと自分の髪を撫でた。
「…」
「私には解らなかったの、なんて答えるべきか。そうしたら急に泣き出して。男も見つからないし、皆怒ってるから今船に戻れないって言い出したわ」
急に、ミリアは悲しげになった。
エイプリルはミリアの過去は知らないが、きっと辛いことがあったんじゃないか、と思う。
いつか、話せるようになる日は来るのかしら、とも。
「でもメイは幸せだわ…まだ子供で、気づけていないけれど」
何も返せない。
「…貴女、朝から、夕方今の今までずーっと探していたでしょう?」
自分の顔が赤くなるのを感じる。
必死になって気づかなかったが確かにエイプリルは昼食もとっていなかった。
「う…でも、なんで」
もしかして必死なところ見られてたとか?
それじゃかえって恥ずかしいかもしれない。
「本当は、メイも気づいていたみたいよ」
ミリアはふわりと立ち上がった。
「だから泣いてた。自分でどうしたらいいかわからなくなってしまったのね」
エイプリルはポリポリと頬を引っかいた。
「二人とも、その気持ち忘れないでいて欲しいわ………私には、もう、持てない気持ちだから」
終
「おーここに居たか」
快賊団の船に戻ったジョニーは、甲板に一人居るエイプリルに口を開いた。
「あっ、ジョニーおかえりー!!収穫あった?」
手元の海図(といっても空の上なのだが)から目を離しエイプリルは元気に問う。
一方ジョニーは数歩歩いて首を軽く傾げた。
どうやらまあまあの収穫だった様だ。
少し間が空いた所でエイプリルは黙っているジョニーに話しかけた。
「どうしたの?そんな所に突っ立ったままで」
海図を型どおりに畳みながらジョニーの顔を覗き込む。
サングラスを弄りながら、珍しく言いにくそうにしてる。
だがそんなことは見せない様ないつもの軽い口調でジョニーは言った。
「なぁーエイプリル。おまえさん、明日ちょいとメイと町で買い物してきてくれないか?」
エイプリルは少し目を見開いたが、何かに気が付いたらしくあっさりと切り返す。
「だーめ。ジョニーがいってあげなよ」
「そうか」寸秒の間。
「……って、おーいおい…」
爽やかで突き抜けるような空の下には薄い雲の海が広がっている。
青い青い空の下で髪を手で押さえるエイプリルに、ジョニーは苦虫を噛み潰した顔で改めて口を開いた。
「エーイプリルーぅー…なんなんだー?、いきなりわがままっ子になってー…」
何も言わない相手に、ははぁん、と顎に手を当て笑いながらジョニーは続ける。
「最近留守ばっかだったから拗ねちまったかー?しょーがないねー。けど、俺の愛は平等(女性に限る)なのよ?」
エイプリルは肩を竦めた。
其れから少し口を尖らせて溜息混じりに呟く。
「あのねー…、明日っつったらメイの誕生日(正確には拾われた日)じゃない」
「そうそう。だから明日は二人で思う存分…」
あー、と頭を抱えて解っているのか居ないのか解らないジョニーを見た。
「だーかーらー!!それだから言ってんの!!」
メイとエイプリルはクルーの中でも仲がいい。
故にエイプリルはメイの執心ぶりを良く知っているわけで…。
「エイプリル」
ジョニーの真面目な言い方でハッとする。
帽子とサングラスで表情が見えない。
「良いか。さっきもいったよーに、俺の愛は平等(女性に限る)だ」
ジョニーは空を見た。
同じくエイプリルもつられて空を見る。
「俺たち快賊団はこの広ーい青空の下でなーんの不幸もなくやってきてる」
エイプリルは心の中でそっと、多少の経済問題はあるかな、と思いつつもそのまま口を出さなかった。
「だがね、俺たちが上から見てる、雨雲の下では苦しい思いをしているレィディーもたーくさん居るわけだ」
ジョニーはびしっと青空を指差しながらエイプリルの肩に手を置いた。
「そういうレィディー達に手を差し延べ、このビューティフルな青空の元に招くのも俺の使命なのだ。わかっておくれ」
「ジョニー…」
わかってくれたか、という顔でエイプリルを見る。
「メイの誕生日は、年に一回しかないんだよ?」
勿論皆も同じ事だ。
「お願いだから明日はジョニーが行ってあげて」
真剣なエイプリルの顔を見、ジョニーは笑いながら溜息を吐いた。
「ま、ウチの可愛ーいお嬢さんが真面目に頼むんじゃあーしょうがないな」
終
快賊団の船に戻ったジョニーは、甲板に一人居るエイプリルに口を開いた。
「あっ、ジョニーおかえりー!!収穫あった?」
手元の海図(といっても空の上なのだが)から目を離しエイプリルは元気に問う。
一方ジョニーは数歩歩いて首を軽く傾げた。
どうやらまあまあの収穫だった様だ。
少し間が空いた所でエイプリルは黙っているジョニーに話しかけた。
「どうしたの?そんな所に突っ立ったままで」
海図を型どおりに畳みながらジョニーの顔を覗き込む。
サングラスを弄りながら、珍しく言いにくそうにしてる。
だがそんなことは見せない様ないつもの軽い口調でジョニーは言った。
「なぁーエイプリル。おまえさん、明日ちょいとメイと町で買い物してきてくれないか?」
エイプリルは少し目を見開いたが、何かに気が付いたらしくあっさりと切り返す。
「だーめ。ジョニーがいってあげなよ」
「そうか」寸秒の間。
「……って、おーいおい…」
爽やかで突き抜けるような空の下には薄い雲の海が広がっている。
青い青い空の下で髪を手で押さえるエイプリルに、ジョニーは苦虫を噛み潰した顔で改めて口を開いた。
「エーイプリルーぅー…なんなんだー?、いきなりわがままっ子になってー…」
何も言わない相手に、ははぁん、と顎に手を当て笑いながらジョニーは続ける。
「最近留守ばっかだったから拗ねちまったかー?しょーがないねー。けど、俺の愛は平等(女性に限る)なのよ?」
エイプリルは肩を竦めた。
其れから少し口を尖らせて溜息混じりに呟く。
「あのねー…、明日っつったらメイの誕生日(正確には拾われた日)じゃない」
「そうそう。だから明日は二人で思う存分…」
あー、と頭を抱えて解っているのか居ないのか解らないジョニーを見た。
「だーかーらー!!それだから言ってんの!!」
メイとエイプリルはクルーの中でも仲がいい。
故にエイプリルはメイの執心ぶりを良く知っているわけで…。
「エイプリル」
ジョニーの真面目な言い方でハッとする。
帽子とサングラスで表情が見えない。
「良いか。さっきもいったよーに、俺の愛は平等(女性に限る)だ」
ジョニーは空を見た。
同じくエイプリルもつられて空を見る。
「俺たち快賊団はこの広ーい青空の下でなーんの不幸もなくやってきてる」
エイプリルは心の中でそっと、多少の経済問題はあるかな、と思いつつもそのまま口を出さなかった。
「だがね、俺たちが上から見てる、雨雲の下では苦しい思いをしているレィディーもたーくさん居るわけだ」
ジョニーはびしっと青空を指差しながらエイプリルの肩に手を置いた。
「そういうレィディー達に手を差し延べ、このビューティフルな青空の元に招くのも俺の使命なのだ。わかっておくれ」
「ジョニー…」
わかってくれたか、という顔でエイプリルを見る。
「メイの誕生日は、年に一回しかないんだよ?」
勿論皆も同じ事だ。
「お願いだから明日はジョニーが行ってあげて」
真剣なエイプリルの顔を見、ジョニーは笑いながら溜息を吐いた。
「ま、ウチの可愛ーいお嬢さんが真面目に頼むんじゃあーしょうがないな」
終