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うろほろぞ
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12月24日のクリスマス・イブ。
毎年、この日にはちいさなツリーとキャンドルを部屋に飾って、二人だけのクリスマスパーティをしている。
そうしようと決めたわけではないけれど、気付いたらなぜかその日はそうやって過ごすようになっていた。
私はいつもよりちょっとだけ豪華なディナーを用意して、一馬はいつもより早く帰ってきて、その手には必ず二人じゃ食べきれないほどの大きなケーキがあった。
それからちいさな乾杯をして、お腹がいっぱいになったあとも、普段ならもう寝てるような時間まで一緒に遊んだり話をしたり。
ささやかだけれど、それは自分にとって、サンタがくれるプレゼントなんかよりも大切で特別で幸せな贈り物だった。
そんな素敵なプレゼントをくれる一馬に、私も何か出来ることはないかな・・・?
と、ぼんやり思ったのは去年のこと。
そして今年もまたイブが近づいてくるにつれ、今年こそはなにかお返しがしたい。そう強く思うようになっていった。

けれど、何かを買うといってもおこづかいじゃたかが知れているし、かといってやっぱりいつも通りっていうのもつまらないし。なんて、暇があったらあーでもない、こーでもないと考えてばかりいた。
でもあんまり迷ってしまったから、お昼休みに思い切ってどうしたらいいかなぁ、と同じクラスになってからの一番の親友に訊いてみたら・・・なんでもない事のように言われてしまった。

『じゃあさ、マフラー編んでみたら?』

そうあっさりと返されて、「あ!」と思わず声を上げてしまった。
なるほど確かに自分ではなぜか思いつかなかったその案は考えていた条件にもぴったりで、何よりも心を込めたプレゼントにそれ以上のものは無いように思えた。
だから。
ベタだけどね、と付け加えられながらの提案は、考えただけでワクワクする様なとても魅力的なものだった。



そんなことがあった放課後。
膳は急げ、と学校の帰りに足を運んだ駅前の商店街はもうクリスマスカラー一色で、それにつられたように楽しそうな人々とで賑わいを見せている。
時々立ち止まってディスプレイに目を奪われたりするけれど、両腕に抱えたロゴ入りのチェックの紙袋がどうしても気になってしまい、それにちらちら視線を落としながら歩いていた。
それはついさっきまでいた手芸のお店のもので、中には親切な店員さんに教えてもらいながら道具や小物をそろえていった編み物セットと毛糸、それから作り方の本が入っている。
とくに一番悩んでいた毛糸はイメージにピッタリなものが見つかり、ちょっと予算オーバーだったけど一度手に取ったらどうしてもそれが手放せなくて、結局奮発してしまった。
だけど、それにして正解だったと思う。
そうやって、一生懸命選んだプレゼント計画の主役がここにある、と何度も確かめては思わず顔がゆるんでしまって・・・。アドバイザーの親友が見ていたなら「毛糸買っただけでそんなに浮かれてどうするの」って、たぶんあきれ顔だ。
もちろん、失敗して渡せなかったら、とか、いびつなマフラーを渡して困らせちゃったらどうしよう、とか考えないわけじゃない。
でも、今までもらうばかりだった自分が、なにかをあげることができる。
それが、本当に本当に嬉しいから。
そんな想いが欠片でも届けられるなら、そんなかすかな不安なんて些細なことだと思う。

それに、自分の大好きなあの人は、なによりも心を大事にしてくれるひとだ。
だから、たとえ失敗してもくじけても頑張ろう!って思う。


「さて、もう帰らなくっちゃ」
そして早速始めてみよう。
クリスマスまで時間はまだある。
早く、このあふれそうなほどのありがとうの気持ちを伝えたい、贈りたい。
けれど我慢して、もう少しの間秘密にしておかなきゃいけない。
ジングルベルのその先にあるのはきっと、幸せな時間。やさしい笑顔。
――そう、信じて。






家路を急ぐ。
毛糸玉がポンポンふわりと、はずんでいた。
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dh*


「ゴメン、もういいよ」
遥は振り返りもせず、部屋を飛び出した。涙が溢れ、視界が濁る。本部の赤い廊下の上を走り、階段を駆け下りる。
「待てよ!」
大吾が大声で呼ぶ。階段の手すりを飛び越えて、今、踊り場を回った遥の後ろに降りると、その腕を掴んだ。
「待てって言っててんだろうが!」
「きゃっ!」
遥の体が、強い力で引き戻される。ドンと背中が壁にぶつかり、縮こまる遥の前で、大吾はまるで逃がさないように、両手を壁について、囲い込んだ。
「遥、顔上げろ」
低く大吾が言う。遥は胸の上に両手を重ねたまま、ボロボロと涙を零していた。
「遥、本当にこのままでいいのか?」
鋭い瞳が遥を見つめる。その視線に耐えられず、遥が俯く。
「お前、これでいいのかよ。本当に、これでいいのかよ」
厳しい声。本当に怒っているんだと遥に知らせる。
「答えろよ。早く!」
怒鳴り声に、遥はビクッと震えた。このままの方が、このまま二度と大吾に会わないほうがいいに決まっている。でも、それを考えるだけで、心が潰れそうになり、涙が止まらない。大吾の革靴の爪先を見つめながら、遥は涙を拭う。
「これが最後だ、遥。答えろ」
怒気を押さえ込んだ大吾の声。震えながら、遥は顔を左右に振る。
「どうしたいんだ?言えよ」
ようやく、遥は顔を上げた。鼻をすすりながら見上げる先で、大吾は真っ直ぐに遥を見つめていた。遥は小さな声で気持ちを告げた。
「ずっと、一緒にいたい」
それは、本当に小さな声だった。大吾はにこりともせず、右手で遥の涙を拭った。
「泣かせて、悪かったな」
言われて、遥は首を左右に振る。直後、大吾の顔が近付いてきた。
「!」
肩越しに見える階段。唇に触れる柔らかい感触。硬直する遥の前で、それはすぐに離れた。
「遥」
名前を呼ばれて、遥ははっと我に帰る。
「わ、私、今キスした」
両手で唇を押さえる遥に、大吾はぷっと吹き出した。
「おい、初めてだったのかよ」
遥がこくりと頷く。大吾の両手が、遥の頬を包み込む。
「じゃあ、二回目だ。目、閉じろ」
言われて遥は目を閉じた。
rh*


「ワシなら、遥を泣かすようなマネはせえへん」
琥珀色の瞳に力がこもる。遥は、逸らす事が出来なかった。
「遥、ワシの側に居ればええ」
コートの前を広げて、龍司は遥を包み込む。不安に揺れる黒い瞳が見上げてきた。薔薇色の唇が小さく動く。
「でも・・・」
遥が何かを言おうとする。その右手首を掴んで引き上げる。
「側に居ったらええんや」
「でも!」
まだ何か言いかける遥の唇に、龍司は唇を重ねた。腕の中で遥の身体がビクッと震える。触れただけですぐに離れると、目を見開き硬直する遥の姿があった。
「遥」
低く名前を呼んで、もう一度唇を重ねる。遥が逃れようと身を捩るのを、左腕で押さえつけて、深く深くくちづける。
「んんっ」
遥が呻く。開いた唇から舌を入れ、逃げようとする舌を絡めとると、遥の手が、ドンドンと胸を叩いてくる。首を捻って逃れ、大きく息を吐きながら遥が叫ぶ。
「イヤ!」
その言葉さえも許さないようにキスを落とすと、遥の体から力が抜けた。
「ん・・・」
鼻に掛かる甘い声。手の中で小刻みに震える身体。甘く重く苦しいくちづけ。
唇を離すと、遥は苦しそうに息を吐いた。目尻にうっすらと涙を浮かべる表情に、龍司は、奥歯を噛み締めた。これで、全てが終わるかもしれない。もう、この輝く宝石は戻ってこないかもしれない。だが、もう我慢できなかった。あんな涙を見て、手を離すことは出来なかった。
「遥、ワシは・・・」
言いかける龍司の前で、遥は俯いた。小さな肩を震わせて、左手の甲で涙を拭う。泣かせたな、と龍司は思った。積み上げてきたものが終わる時がきた。最後まで、優しい兄でいたかった。
もう一度、ゆっくりと抱きしめる。こんなに小さく細い身体。永遠に側にいたかったのに、自分でそれをぶち壊した。
「遥、ワシは遥に、側にいてほしいんや」
諭すように言うと、遥は鼻水をすすりながら
「・・・ずるいよ」
小さな声。美しく輝く黒い髪を撫でると、涙で濡れた瞳が見上げてくる。
「ずるいよ。お兄ちゃんはずるい・・・」
「ずるくてもええ。理由なんかどうでもええ。遥はワシの側に居ればええんや」
自分でも信じられないほど必死で龍司は言う。すると、遥が龍司の体にしがみついてきた。
「私・・・もう、何処にも帰るところ無いのに、そういうこと言うんだもん・・・」
まだ涙の残る頬に、龍司はそっと唇を寄せた。遥はもう逃げなかった。


江戸城に入った遥は、朝食後庭に出た。どうもお付きの人がいる生活には慣れない。
家族と暮らしていたときも、祇園にいたときも、遥は自分の事は自分でするよう躾けられていた。だから人にやってもらいたいと思わないし、いつも付いて歩かれると肩がこる。
庭に出て、ふっと息を吐くと白くなった。もう季節は冬だ。
遥は袂から組紐を出すと、たすきがけにした。それから、縁の下に隠しておいた棒を取り出す。そして、見よう見まねではあったが、それを正眼に構え、振り下ろした。
「えいっ!」
きちっと掛け声を入れて、力の限り振りぬく。おじさんの、あの宮本武蔵の動きを、遥は鶴屋の窓からよく見ていた。あの動きを思い出しながら、一生懸命練習する。
その時、砂利がなる音がした。振り返ると、そこには前髪を落とし、涼やかな貫禄を持った佐々木小次郎・・・柳生宗矩が立っていた。
「遥さまは、剣の稽古ですか?」
問われる声は静かだが、以前のように怖いと思わない。遥は笑顔で頷いた。
「はい。今度は、自分の身ぐらい守れるようになりたくて・・・」
「そうですか。ですが、何方かに剣の道を学びましたか?」
遥は首を左右に振った。
「いいえ。これはおじさんの真似をしてるだけです」
言って、遥は恥ずかしくなった。宗矩から見れば、遥のやっている事はチャンバラ以下だろう。
だが、宗矩は静かに微笑んだ。それは、遥がはじめて見る、優しいものだった。
「そうでしたか。さすが遥さまですね。確かに、二天一流のようだ」
「本当ですか?」
遥は嬉しくなって、宗矩を見上げた。
「確かに。ですが、遥さまでも、二天一流を極める事は出来ますまい」
「それはどういうことですか?私が、おじさんに稽古してもらってないからですか?」
すると、宗矩は天を見上げた。つられて遥も空を見上げる。真っ青な空に、たった一つ白い雲が浮かんでいた。
「遥さま。二天一流は、宮本殿以外に、使えるものは現れないでしょう。あれは、あの方だから出来たのです。天分に恵まれた、あの方だけが」
「そうですか・・・」
遥は視線を地面に移した。少しガッカリしていると、宗矩は遥に視線を戻した。
「ですが、この宗矩の新陰流なら、遥さまにお教えすることが出来ます」
「え?」
「遥さまさえ良ければ、大殿にご相談申し上げ、私が手ほどきして差し上げます。遥さまが望まれるまで」
「本当ですか?ありがとうございます!」
遥は丁寧に頭を下げた。宗矩は腕を組むと遥を見つめた。
「ですが、二天一流がそうであるように新陰流も厳しいですぞ。覚悟は宜しいか?」
「はい!」
遥は笑顔になった。そして宗矩も笑顔になった。
kh
小さな頃は、トレーナータイプの上下を愛用。上着の裾はズボンに入れて、おなかを冷やさないようにするのだ。夏でも丸首タイプを愛用。
でも、大きくなったある日、桐生ちゃんにトレーナーを簡易拘束具に使われて以来、前開きタイプのパジャマに変更。そしたら、今度はボタンを外されるのを眺める事になり、ちょっと困る遥ちゃんなのでした~。
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