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江戸城に入った遥は、朝食後庭に出た。どうもお付きの人がいる生活には慣れない。
家族と暮らしていたときも、祇園にいたときも、遥は自分の事は自分でするよう躾けられていた。だから人にやってもらいたいと思わないし、いつも付いて歩かれると肩がこる。
庭に出て、ふっと息を吐くと白くなった。もう季節は冬だ。
遥は袂から組紐を出すと、たすきがけにした。それから、縁の下に隠しておいた棒を取り出す。そして、見よう見まねではあったが、それを正眼に構え、振り下ろした。
「えいっ!」
きちっと掛け声を入れて、力の限り振りぬく。おじさんの、あの宮本武蔵の動きを、遥は鶴屋の窓からよく見ていた。あの動きを思い出しながら、一生懸命練習する。
その時、砂利がなる音がした。振り返ると、そこには前髪を落とし、涼やかな貫禄を持った佐々木小次郎・・・柳生宗矩が立っていた。
「遥さまは、剣の稽古ですか?」
問われる声は静かだが、以前のように怖いと思わない。遥は笑顔で頷いた。
「はい。今度は、自分の身ぐらい守れるようになりたくて・・・」
「そうですか。ですが、何方かに剣の道を学びましたか?」
遥は首を左右に振った。
「いいえ。これはおじさんの真似をしてるだけです」
言って、遥は恥ずかしくなった。宗矩から見れば、遥のやっている事はチャンバラ以下だろう。
だが、宗矩は静かに微笑んだ。それは、遥がはじめて見る、優しいものだった。
「そうでしたか。さすが遥さまですね。確かに、二天一流のようだ」
「本当ですか?」
遥は嬉しくなって、宗矩を見上げた。
「確かに。ですが、遥さまでも、二天一流を極める事は出来ますまい」
「それはどういうことですか?私が、おじさんに稽古してもらってないからですか?」
すると、宗矩は天を見上げた。つられて遥も空を見上げる。真っ青な空に、たった一つ白い雲が浮かんでいた。
「遥さま。二天一流は、宮本殿以外に、使えるものは現れないでしょう。あれは、あの方だから出来たのです。天分に恵まれた、あの方だけが」
「そうですか・・・」
遥は視線を地面に移した。少しガッカリしていると、宗矩は遥に視線を戻した。
「ですが、この宗矩の新陰流なら、遥さまにお教えすることが出来ます」
「え?」
「遥さまさえ良ければ、大殿にご相談申し上げ、私が手ほどきして差し上げます。遥さまが望まれるまで」
「本当ですか?ありがとうございます!」
遥は丁寧に頭を下げた。宗矩は腕を組むと遥を見つめた。
「ですが、二天一流がそうであるように新陰流も厳しいですぞ。覚悟は宜しいか?」
「はい!」
遥は笑顔になった。そして宗矩も笑顔になった。
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