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うろほろぞ
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「ふ・・・ん、む・・・」
懸命に口吸いをしながら政宗の服を脱がしてゆくガラシャ。
小屋に到着したときに甲冑を脱いでおいたのは良かったのか悪かったのかと
政宗は柔らかい唇を感じながらそんなことを考えていた。

やがて口内に舌が入り、歯筋をちろちろと舐められるとぴくりと体が震える。
「政宗、接吻は初めてか?」
されるがままの彼を見てガラシャはふとそんな事を聞いてくる。
「ば、馬鹿め当たり前のことを聞くな・・・!」
顔を赤くして言う政宗を見て、ガラシャは嬉しそうに笑う。
「政宗の初めて、わらわがもらえるのは嬉しい事なのじゃ」
そう言ってもう一度ちゅ、と唇を吸う。そんな彼女のしぐさを政宗は心底可愛らしいと思った。

が、態度に出すと負けてしまったように思われ、どうにも素直になれない。
ふんとそっぽを向いて濡れた唇を拭うだけだった。それを見て、ガラシャが寂しそうに見つめてくる。
「・・・わらわとの接吻は、嫌じゃったか?」
「そんなことは言っておらぬ!・・・別に嫌では、ない・・・」
「それなら、今度は政宗からするのじゃ」

正座をして手を膝に置き、唇を突き出して眼を閉じる彼女のそんなしぐさをいじらしく思うも、
どうにも本能のままに彼女を貪る自分が情けないように思えてしまって、政宗はなかなか踏ん切りがつかない。
だから政宗は、彼女の桜色の唇に自分のそれを押し付けるだけが精一杯だった。
それでも、ガラシャは嬉しそうに笑う。

(孫市・・・。こういう時は一体どうすれば良いのじゃ・・・)

自分のプライドとガラシャを愛でたいという気持ちの葛藤に政宗は苦しみながら親友を想う。
そんな政宗の胸中など露知らず、ガラシャは半裸になった政宗の胸に身を埋め、その首筋をつうと舌先でなぞった。

「う・・・ぁ」
ぞわりとするような快感が波立って、思わず声をあげてしまう。
「政宗、そちの気持ちの良い所、わらわに教えてたもれ・・・」
火照った顔で言いながら、ガラシャは政宗の少し日に焼けた体を丁寧に舐め上げる。

「ちょっと、しょっぱい、な」
「あ、汗をかいたから、・・・済まぬ」
何故か素直に謝る政宗に一瞬目をぱちくりさせ、それから優しくガラシャは笑った。
「謝ることはない。わらわも汗をかいておるのだし、それに、どんな政宗でも全部、わらわは欲しいのじゃ」
その台詞に堪え切れなくなって、思わず彼女をぎゅうっと抱きしめてしまう。

「貴様は・・・馬鹿だ・・・」

えへへ、と胸の中でガラシャの困ったような笑い声が聞こえた。


「政宗、政宗、ここは?」
「わ、悪くはない・・・」
積極的に政宗の体を指や舌で探ってくるガラシャにどうも反撃の機会を見つけられぬまま、
政宗はされるがままに快楽を感じるだけであった。

大体可愛らしい少女がその白い肢体を曝け出して、自分の体に触れているのだ、
どこを触られても気持ち良くない訳がなかった。
それでもぶっきらぼうに言い続ける政宗にガラシャは不満を感じてしまう。
「それじゃあ、・・・ここは?」
細い手でとうとう衣服の上からとは言え、下半身に触れられ、政宗は思わず大きく後ずさった。

「ここは・・・駄目だ」
「どうしてなのじゃ??」
「ど、どうしても駄目なものは駄目じゃ!」
必死に抵抗する政宗に、ガラシャは再び口づけをする。
「!ふ、んむ・・・、ん・・・!」
そうして力の抜けた彼の手をどけて、ガラシャは下半身の衣類に手を突っ込んでそれに触れた。

「こ、こら・・・!」
「これは・・・、硬くて、あったかいのう」
初めて感じる感触にガラシャは興味津々といった様子でそれを弄る。
どくどくと脈打つそれは、表面を上下に擦ると薄い皮が前後するようになっており、
ガラシャはそれが不思議で手で握り締めてゆっくりと動かした。
「うあ・・・、や、やめぬか・・・!」
今までとは明らかに反応が違う彼の様子に驚きながら、ガラシャは衣類と下穿きを脱がせ、改めてそれを見る。
「うわあ・・・」

初めて見るそれは薄桃色で、血管を浮き立たせながらそそり立っていた。
触るとぴくりと動くのが興味深い。不思議と、気持ち悪いとは思わなかった。
見られている本人は悔しそうに俯きながら、黙ってその羞恥に耐え忍ぶばかりである。
「こうすると、良いと聞いたことがあるぞ・・・」
そう言ってガラシャは、政宗の一物をぱくりと自分の口に咥え込む。
「なっ、何を・・・!ん、ああっ・・・!」
そのままじゅるじゅると唾液を絡ませながら自分の一物を舌でぬるりと絡めこまれ、政宗は堪らず声を上げる。

「ふ、んむ、む、ふぅ・・・」
少しでも気持ちよくなってもらおうと、ガラシャは拙い技量ながら懸命に一物を咥える。
裏にぴんと張る筋を舐めながら吸い付くようにして口を前後に動かすと、先からしょっぱい液が出るのが分かった。
一方顔を赤くし、涙を滲ませながら自分に奉仕するガラシャの姿と、
初めての口内の感覚に興奮して、政宗はあっという間に達してしまいそうになる。
必死に我慢するものの、彼女が喉の奥で締め付けるように亀頭を包み込むと堪えることができなくなってしまった。
「く、口を離せ・・・!う、あ、いかん・・・!」
言うことを聞かないガラシャの口の中で、結局政宗は果ててしまった。

「ひあっ!?けほけほっ・・・!」
いきなり勢い良く飛び出してくる白い液に、ガラシャは驚いてやっと口を離す。
ぴぴっとその液が、ガラシャの顔に飛んだ。
「だ、だから離せと言っただろうが馬鹿め・・・!」
内心済まなく思いながらも憎まれ口を叩いて、慌てて政宗は彼女の顔に飛んだ自分の白濁液を手拭で拭った。
「・・・苦いのじゃ」
口に入ったそれを、顔を顰めて飲み込むガラシャ。
「飲まんでいい飲まんで・・・」
顔を赤くして政宗がそれに突っ込む。

ほうとため息をついてガラシャが顔を赤くして身をくねらせた。
「ま、政宗、あの・・・」
困ったように眉を寄せながら、彼に抱きついて耳元で囁く。
「わらわにも、・・・触ってくれぬかの」

甘く耳にかかる吐息に、政宗は再び自分が高ぶるのを感じた。


ガラシャのそこは、既にしとどに濡れそぼっていた。
薄い下毛を掻き分け割れた秘部を指でなぞると、ガラシャが嬉しそうに声を上げた。
「ふぁ・・・!」

座っている政宗に抱きつき頬を摺り寄せてくるので、
彼は気持ちよいのだろうと確信しながら、繊細に入り組んでいるそこを恐る恐る指で撫で回す。
「ん、やっ、あ・・・!ふぅ、こ、こんなの、初めて・・・!」
「・・・気持ち良いのか?」
「は、んぅ・・・う、うん、お腹が・・・溶けそうなのじゃ・・・」
頬を朱に染め、切なそうに訴えるガラシャが可愛らしくて、ついつい政宗も我を忘れて抱き寄せてしまう。

ぐちゅぐちゅと音を立てながら指を潜らせてゆくと、やがてこりこりと硬い小さなものに当たった。
そこを押さえつけると腕の中でガラシャの体がびくりと跳ねた。
「ぃああっ・・・!は、な、なに、・・・ん・・・!」
「ここ、・・・か?」
「や・・・だ、だめ、・・・っ、は、こ、こわい・・・!」
爪で弾き、指で擦ると彼女は涙を滲ませて一層体を震えさせる。
にちにちとその肉芽に蜜を絡ませながら虐めると、ガラシャは喉をひくつかせて鳴いた。

「あぁ・・・っ・・・!まさむ、ね・・・!や・・・、怖いのじゃ・・・!」
「怖くなぞない、儂がおる。・・・遠慮せずに飛ぶが良い」
今にもいきそうな彼女に興奮しながらも、冷静を保ったまま彼は指をぐりぐりと押し付けた。
「ふぁ・・・!ん・・・、ぁ、ああっ・・・!」
潤んだ瞳を大きく見開いて、ガラシャの体がびくりびくりと跳ね上がる。
「は、ぁ、・・・こ、こんな・・・、ん・・・」
皆まで言う気力もなく、がくりと頭を政宗の胸に埋めて、ガラシャが力なく彼を抱きしめる。
子供のようにへばりつく彼女の頭を撫でて、政宗は苦笑した。


「下らん意地など、・・・返って情けなかったのかもしれぬな」
乱れた息を整えようとしながら、ガラシャはその言葉に頭をもたげて彼を見つめる。
汗で額に張り付いた彼女の髪の毛を優しく除けながら、政宗は笑った。

「儂もおぬしを好いておる。・・・おぬしくらいのじゃじゃ馬、儂でないと乗りこなせんわ。
だから、ずっと儂の元に居ろ。・・・ガラシャ」

それを聞いてガラシャは、心底嬉しそうに、安堵したように微笑んだ。
「政宗、政宗!いっぱい、いっぱい大好きなのじゃ!」
子犬のように頭を摺り寄せて甘えてくる彼女に、再び苦笑して宥める様に抱きしめる。
「ふん・・・、おぬしはそうやって、儂のところに居れば良いわ」
その言葉にガラシャは何度も頷いて、満面の笑みを浮かべた。
そして改めて彼に告げる。

「わらわは、政宗をいっぱい好いておる。だから、
・・・政宗。今宵はわらわの中で、天に昇ってくれはせぬか?」
つまりは一つになろうということを先に言われてしまったので、
政宗はなんだか男として情けない様な気がして思わず声を荒げてしまった。
「あ、当たり前じゃ!大体女子がその様な事を恥ずかしげもなく言うでない馬鹿め!」
「す、済まぬ・・・。・・・なんで怒るのじゃ???」
「怒ってなどおらぬわ馬鹿め・・・!」

ますます立つ瀬がなくなったような気がして、彼は拗ねた様にそっぽを向くしかなかった。



彼女の髪色と同じ色の下毛は、彼女自身の蜜によってじっとりと濡れていた。
まだ成長しきっていない秘部は政宗のそれを受け入れるには少々小さいように見えるが、
中を指で開いてみると桜色の花弁は物欲しそうにひくひくと蠢いている。

初めて見る女性の秘部の淫靡な光景に胸を高鳴らせながら、政宗は自身をそこにあてがった。
しかし表面が余りにもぬめっていて、蜜壷に入れようにもにちにちと滑らせてしまうだけである。
それを焦らしと取ったのか、ガラシャは細い腰を困ったようにくねらせて喘いだ。

「や・・・、政宗、意地悪なのじゃ・・・」
「いや、そんなつもりでは・・・」
慌てて指で花弁をまさぐりながら一物を蜜壷に収めようとするが、慌てれば慌てるほど、
そこは逃げるかのようにぬるりとした粘膜でかわされてしまう。
「んやっ、も、もぅ・・・、な、はぁ・・・ん!」
早く、と言いたいのを堪え、顔を真っ赤にして呻くガラシャ。

それでも表面を擦るたびに柔らかな花弁と硬くなった肉芽の感触が一物にぞわぞわと快感を与えるので、
政宗はこれはこれでと思いながらしばらくそうやって己自身を割れ目に這わせることに夢中になってしまう。
赤くなった裂け目が熱と粘膜を帯び、にちゃにちゃと音を立てて彼自身を包み込む。
堪らなくなったガラシャはがばりと起きて行為に夢中になっていた政宗を押し倒した。

「もう!・・・わらわにこのような所業、許さぬぞ、政宗!」
ぷうと頬を膨らませて政宗に馬乗りになり、そそり立つ一物の根元を握って自分の蜜壷へと亀頭を向けた。

「そ、そういうことは儂から先に・・・!」
まるで自分が襲われているような体勢になって男としての面目が立たないと思った政宗は、
慌てて起き上がろうとする。しかしその前にガラシャが彼を自分の中に収める方が早かった。

「ひ、ああぁあっ!?」
「うぁ・・・!!」

既にたっぷりと体液に溢れかえっていたガラシャの中は、
少し先を収めただけであっという間に政宗の肉棒をその中へと押しやってしまった。
少しずつ挿れていこうと思っていたガラシャも、
突然一気に押し寄せてきた衝撃に顔を朱に染めて口をぱくぱくとさせるしかなかった。

対する政宗もまた、急に己を包み込む肉壁の蠢きにただただ戦慄くしかない。
温かくとろりとした柔らかい粘膜が自分をひくりひくりと擦り付けるので、
とにかく達さないようにと意識を保つことに必死だった。

「ふにゃ・・・、な、なんなのじゃ、これ・・・、すごい・・・!」
既に充血して物欲しさで一杯だったそこに、貫くように一気に入ってきた肉棒は、
ガラシャにかつてない快楽を存分に与えていた。
それがもっともっと欲しくなって、彼女は嬌声を上げて腰を振る。

「ちょ、ちょっと待て、う・・・はぁ・・・!」
ざわざわと波のように蠢く蜜壷の中で堪えるだけでも精一杯なのに、
もっと奥へと誘われるように動かれてしまっては我慢が出来そうにもない。
必死で待てとガラシャに訴えるが、既に快楽を貪るガラシャに彼の声など聞こえる由もなかった。



「ぁ、あっ、ふ・・・、んっ、きもち、いぃ・・・!」
快感の僕と化したガラシャは政宗の上で嬉しそうに頬を染めて腰を打ちつけている。
白い肢体のあちこちが上気して赤く熟れ、交わっている秘部からは溢れるように蜜が滴る。

「こんの・・・っ、じゃじゃ馬め・・・っ!」
一方的に快楽を与え続けられ、自分から動くと直ぐに達してしまいそうな政宗は、
結局何もできぬまま必死に己の意識を堪えることしかできない。
予想外のガラシャの中の気持ちよさと、彼女の性への貪欲さに舌を巻きながら、
彼は自分の上で踊るように跳ねる幼い体をただただ見つめていた。

憎らしげに言葉を吐く政宗を見てガラシャは彼に顔を近づけて囁いた。無論腰は動かしたままだ。
「政宗、ん・・・、そちは気持ちようないのか・・・?」
汗ばんだ頬を撫でながら切なく聞いてくる彼女に、政宗は胸を熱くする。
「き、気持ち良過ぎるから困っておるのだ!」
「そんなの・・・、困ることなどなかろうに」
ふふ、と妖しげに笑うガラシャ。

普段のあの子供っぽい彼女のどこにこんな妖艶さが潜んでいたのかと思い、
政宗はくらくらしながら快楽に飲まれてゆく。

汗ばんだ白い肌は彼の少し褐色目の肌にしっとりと吸い付いてくる。
ぎゅうと体を離さぬように押し付けてくる彼女の上半身にある幼い乳房は、先端を硬くして政宗の胸に摺り寄せられた。
それが偶然にも政宗のやはり幾分固くなったそれに当たると、ガラシャはひんと声を上げた。
それを見た政宗はせめてもの反撃にと両手で多少乱暴にぐにぐにと彼女の乳房を揉みしだく。

「ああっ・・・!だ、だめ・・・!」
先端を摘む度に蜜壷をきゅうんと締め付けながら、ガラシャは困ったように身を捩った。
何らかの刺激を与えるたびに素直な反応を見せる彼女が、どうしようもなく可愛らしい。

「ま、政宗、これは・・・?」
言いながらまだ肉の薄い臀部を精一杯ぐるりと回し、そのまま先端だけにちにちと咥え込む。
初めてとは思えぬその技量に、政宗は堪らず呻いた。

「政宗・・・!可愛いのう・・・!」
「う、煩いっ!」

奥州王としてプライドの高い政宗がそんな事を言われて嬉しいはずもなく。
ただただ顔を真っ赤にして視線を外す事しか出来ない。
そんな仕草さえもガラシャには可愛いとしか思えなく、
またそんな彼を見ることが出来るのが自分だけだと思うと嬉しくなって精一杯の力で抱きしめる。
互いの心音と熱が交わるのが感じられた。

「政宗、わらわは、もう・・・」
必死に腰を揺らしながら、ガラシャが切なく声を上げて鳴く。
正直早々に達してしまいそうだった政宗にとって、それはなんだか嫌味に聞こえて仕方がなかった。
「全く・・・、おぬしには振り回されてばかりじゃ」
それでもやっぱり、今の政宗にとって彼女は愛らしいとしか思えなかった。



漸く上り詰めたガラシャに、政宗はやっと自ら律動を与える事が出来た。
それまで自分で動いていたよりも激しく、強い動きにガラシャは涙を滲ませて震える。
「ん、あぁっ、んっ、あっ・・・!政宗、気持ち良いのじゃ・・・!」
その内にぞくぞくとした快感が背筋から駆け上がり、
ガラシャはやはり怖くなって必死に政宗を抱きしめた。
どうやら達することにはまだ慣れていないようである。

そんな彼女を抱き寄せながら、彼は今まで堪えていた分とでも言うように必死に下から腰を突き上げる。
すっかり熱で火照った肉壁を壊すくらいに貫き、もっと欲しくなって乱暴に腰を振る。
細い腰を押さえつけるようにして両手で押さえ込み、ぐちゅぐちゅと激しく攻め立てた。
結合部分から溢れ出る体液は、しとどに二人の股を濡らしもはやどちらのものかも分からない。

「政宗、政宗・・・!怖いから・・・、離れるのは嫌じゃ・・・!」
快楽に白む頭に怯えながら、ガラシャはぎゅうと政宗の背に腕を回す。
「怯えるな、儂がついておる・・・!ずっと、ついておる・・・!」

もはや声が届いていないかもしれないガラシャを前にして思わず想いの丈をぶつけながら、
政宗は桃色に上気した幼くも女の肢体を腕に抱いて、政宗は高みへと一層腰を強く突き動かした。
歳若いためにまだ細めではあるが、日頃の鍛錬で鍛えられた彼の下半身は、
一気にガラシャを快感の海へと放り出してしまう。

「あ、あっ!はぁ・・・っ!ひ・・・、ああああっ───!!!!」
涙を零しながら大きく目を見開いて、ガラシャは政宗の腕の中でがくがくと体を震わせた。
達した反動で彼女の膣内もきゅうと締まり、それで政宗も己の精を吐き出してしまう。
「ぅ・・・ん、・・・っ!」
ふるりと身を震わせると、白く濁った温かい液がどろりとガラシャの胎内に零れていく。

「ふ・・・、熱いのじゃ・・・」
どくどくと自分の中に注がれる子種の熱を感じながら、ガラシャは子猫のように政宗に擦り寄った。
自分の胸に顔を埋める彼女を見ながら、政宗は放心したようにぼんやりと湿った赤毛を指で玩ぶ。
そんな彼の仕草に何故か堪らなくなって、ガラシャは無邪気にぐりぐりと頭を擦り付けた。

「痛っ、な、なんじゃいきなり・・・!」
半ば惚けていた政宗は我に返ってガラシャの頭を引き剥がすように片手で掴む。
「政宗、政宗っ!」
胸いっぱいに幸せを感じながら、政宗のそんな無愛想な態度にも気を悪くせず、
ガラシャは勢い良く政宗の胸に飛び込んでいく。
その反動で、体を弛緩させていた政宗の頭ががつんと壁に打ち付けられた。
「あだっ!」

一瞬怒鳴ろうとして、──気が削がれる。
腕の中の少女は、それはもう本当に幸せそうに笑いながら、自分をしっかり抱きしめていたからだ。
今度ばかりは優しく笑うことが出来て、政宗はそんな彼女に応えるように頭をそっと撫でるのだった。



「な、なにい!?孫市、話が違うではないか!!」
後日再び城を訪れて来た友人の発言に、政宗は声を荒げた。
雑賀衆の無償での貸し出しの取引を取り止めにすると言って来たからである。
が、孫市はどこ吹く風とでも言うように肩を竦めながらそれに反論する。
「んなこと言ったってよぉ、俺は嬢ちゃんに手ぇだして良いとは言ってないんだけどねぇ」

そこでぴたりと政宗の動きが止まる。さっと青ざめる彼の耳元で、孫市は面白そうに囁いた。
「拾った責任は自分で取れ・・・、だったっけ?おまえやっちゃった責任はどーすんのさ」

勿論、そのつもりはあった。大体一夜限りの睦み事では終わらず、
結局孫市が来るまでの数日の間に幾度も体を重ねてしまったのである。
更に、これは責任以前の問題で、政宗はとうの昔にガラシャを手放す事が惜しくなっていた。
しかしやはり彼のプライドが邪魔して、今日まで彼女に孫市と発つのかどうか、聞くことができないでいたのだ。

「で、どーすんの?」
わしわしと政宗の髪を乱しながら、孫市。
「ど、どうするもなにも・・・」
もうどうにでもなれと言った風に、政宗が声を上げた。

「責任どうこう以前に儂はとっくの昔にあやつに惚れておる!
・・・わかった孫市。雑賀衆の件はなしにしてやるから、あの娘は大人しく儂に渡すがよい!」
なにがなんだかわからないがとにかく変わらず偉そうに言いきる彼に、孫市は腹を抱えて笑い転げた。
「わ、笑うな!馬鹿め!」
顔を真っ赤にして政宗が怒鳴る。
「と、とにかく、おまえの気持ちは良く分かった・・・。あーおかし・・・。
ま、こんだけ言ってくれりゃ良いんじゃないの嬢ちゃん」
どこともなしに視線を向けながら孫市が言うと、城の物陰からガラシャがぴょこんと飛び出してきた。

「満足じゃ!政宗・・・、そちはわらわをちゃんと慕ってくれておったのだな!」
頬を染めて言う彼女とは裏腹に、政宗はふるふると拳を握って呻く。
「き、貴様ら・・・!謀ったな・・・!!」
「まぁーまーま。女心ってのは複雑なもんさ。おまえきちんと言ってやんないと伝わらないもんだぜ?」
ぽんぽん、と政宗の頭を叩いて孫市が笑った。

「こんだけ仲取り持ってやったんだから、貸し出し帳消しくらい安いもんだろ。
・・・嬢ちゃん。こいつは意地っ張りだが悪い奴じゃない。仲良くしてやんな」
「うむ!孫市も、何かあったらすぐわらわを呼ぶのじゃぞ!ダチの約束、忘れはせぬからな!」
そして互いに拳をぽんと合わせた後に、孫市が片手を挙げて去っていく。

ただただそれを呆然としながら見送る政宗の手を、ガラシャはくっと引いた。
どうかしたの?とでも言いたげなその瞳に、それまで罵詈雑言を胸中で唱えていた政宗の気は削がれ、
大きくため息をつくことしか出来なかった。

「・・・もういい」
そう言って踵を返し城に戻ろうとして、──立ち止まって、ガラシャを見やる。
「さっさとついて来ぬか、・・・馬鹿め」
ガラシャは嬉しそうに大きく頷いて、彼に走りよりその手を握り締めた。




ガラシャの出身が明智家だと聞いて政宗が悲鳴をあげるのは、また別のお話。


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じゃき、っと銃を両手に構える。
この時代に置いて拳銃というものはかなりの珍しい代物だったが、
彼にとっては既に自分の身の一部のようなものになっていた。
自分の意識を研ぎ澄ませて狙いを定める。──これも慣れたものだ。
目標に目掛けて、銃を携えた両手は脱力させながら走ってゆく。
そしてぶつかる寸前でくるりと回転しながら相手を飛び越え、
背後から振り向きざまにびしびしと弾丸を撃ち込む。

ガン!ガガン!
──硝煙の匂いが、爽やかな早朝には不似合いなくらい辺りに立ち込める。
目標となっている人の形を模した木の板には無数の弾が打ち込まれ、しゅうと煙を立てていた。

「ふん、こんなものだな」
木の板を無残にした張本人は、偉そうに鼻を鳴らしてそれを一瞥した。

奥州の王、独眼竜。まだ幼さが残る青年を人はそう呼んでいる。──伊達政宗。
かなり横柄な態度とは裏腹に、彼は学び事にしても武術にしてもひたすら勤勉だった。
今日もまたいつものように早朝の鍛錬といったところである。
「撃った後に剣撃を入れ込むのも一手か?」
精進の姿勢を崩さない彼は考え、実際に試してみようと銃を再び構える。

──と、目標の木の板の少々後ろのしげみからがさがさと足音が聞こえてきた。
危険を察知しようにも、余りに物音が立ちすぎるので彼は眉をしかめる事しか出来ない。
何事かと見ていると、やがてそこから一人の少女が文字通りぴょこんと飛び出してきた。
そこらのしげみと保護色のような若菜色の変わった服を纏って、少女はまるで兎の様に駆けてくる。

「朝から物騒な音がすると思って来てみたら政宗だったのか!早起きじゃのう」
にこにこと笑いながら、その兎のような少女は言った。
政宗は舌打ちしてそれに答える。
「馬鹿め、儂にはやる事が多すぎて時間が足りん。故に早起きなんぞは当たり前じゃ!」
朝だというのにとても元気そう且つ横柄に政宗が言う。

しかしそんな彼の態度に気を悪くすることもなく、彼女は素直に感心の目で政宗を見た。
「政宗は偉いのう!・・・しかしたくさんやる事があるというのは大変そうじゃな~」
余りにも素直な彼女の反応に、政宗はなにやら気が削がれてしまう。
「・・・別にそうでもないが」
「そうでもないのか?どっちなのじゃ??」
きょとんと見返される視線を逸らしながら、政宗は嘆息して呟いた。
「・・・もういい」
「えぇ~?どっちなのじゃ~?」
手を胸元でぶんぶんとさせる彼女に呆れながら、政宗は銃をしまい小浜城へと歩みをむける。
そんな政宗の様子をみて、彼女はつまらなさそうに声を上げた。
「もう帰るのか?折角そなたの銃捌きを見ようと思ったのに・・・」

(ここまで気が削がれて鍛錬なぞ出来るか!)

胸中で毒づきながら、政宗はあえて何も言わずに歩を進めた。
ぶつぶつと不満を言いながらも、彼女は大人しく自分についてきているようだ。
「全く孫市はこのじゃじゃ馬をいつ迎えにくるのじゃ・・・」
自然と、ため息と共にそんな言葉が彼の口を突く。
何か言ったか?と聞いてくる少女をやはり無視して、
政宗は今日が始まったばかりだというのに疲れたように空を見上げた。


奥州王独眼竜伊達政宗。彼の目下の悩み事は、親友雑賀孫市から預けられたこの少女、
ガラシャの相手をすることだった。



そもそも預かったというより、言い包められて押し付けられたのだと政宗は思っていた。


傭兵仕事が一段落したらしく、珍しくこちらに来るという孫市の知らせを聞いたとき彼は正直嬉しかった。
性格上中々気の置けない友人をつくることが難しい政宗である。唯一無二と言っても良い存在だ。
しかし実際彼を出迎えた途端に政宗は驚く。孫市の傍らにいるその少女に。

「・・・なんじゃ孫市、情人か?」
まさかこんなに年端もいかない少女を好む癖があったとはと驚く政宗。
「あのなぁ、こいつは・・・」
政宗の驚愕の表情を見て誤解を解こうと口を開く孫市の横から、見知らぬ少女はいきなり口を挟んできた。

「んなんじゃねぇのじゃ!ダチなのじゃ!」


ぽかんとする政宗に孫市は改めてガラシャと言う少女との経歴を説明し始める。
相も変わらずお人好しだと呆れる政宗に、孫市はガラシャに見つからぬよう小声で言ってきたのだ。
少しばかりこの娘を預かってほしいと。
当然最初、政宗はそれを受け入れなかった。親友の連れとはいえ得体が知れぬ者に変わりはないし、
なにより政宗は直感的にこの少女に苦手意識を持ってしまった。
しかし───

「頼むってマジで!俺だってたまには昔みたいに遊郭いったりなんたりしたいんだよ!」
「拾った責任は自分で取るのが筋であろうが!儂には関係ない!」
断固として拒否する政宗をなんとか丸め込もうとする孫市。
「お前だって男ならわかるだろ?たまにはこう、ねぇ?」
「わ、分からん分からん馬鹿め!」
顔を赤くして首を振る政宗に苦笑して、孫市は提案してきたのだ。
しばらく彼女を預かってくれたら次の戦の傭兵代は無しにすると。

これは政宗の心を揺らした。鉄砲を扱う雑賀衆はかなり強力なのだが、やはり強い分金がかかる。
それを一度でも浮かせることが出来るのなら、余った金で道でも舗装できそうだと政宗は考えた。
そんな彼の考えを察したのか、孫市はそこから口八丁で政宗に付け込み、見事ガラシャを押し付ける、
──もとい預けて、北の遊里へと意気揚々に降りていったのだった。


(しかしこのじゃじゃ馬を預かってもう一週間は過ぎるぞ・・・。孫市め、まさか謀ったのではなかろうな!?)
一人では嫌だという彼女のために一緒に朝食を取りながら、政宗は心底恐ろしい不安を感じてしまう。
当の不安の種は、柴漬けを美味しい美味しいといいながらご飯と一緒にかき込んでいる。
こいつに置いてけぼりにされるという不安はないのかなどと思いながら、
政宗は無邪気そうな、実際無邪気に日々を暮らす彼女を恨めしそうに見つめる。
──と、視線を感じたのか、ガラシャがふと政宗を見やった。

「?」

にっこりと笑いながら視線で疑問符を投げてくるガラシャに政宗はまた頭を抱える。
まさか笑い返すことなどは絶対にできるはずがなくて、政宗は無愛想に目を逸らした。

(孫市・・・!雑賀衆無料貸し出しくらいでは済まされんぞこれは・・・!)
唯一無二の親友を心底憎々しく思いながら、政宗は朝飯を一気に腹に収めた。



侍女たちに相手をするように言っているのに、ガラシャは何故か政宗の後をちょこまかとついてきた。
奥州は彼女にとって未踏の地だったらしくあれこれなにやかにやとしつこく聞かれた。

最近は領土の情勢がよいので大した仕事がない政宗は、
言い訳をつけて逃げることも出来ずにひたすら彼女の相手をしていた。
彼自身は、それをお守りだと思っているようだったが。

政宗にとって何かと煩わしい存在のガラシャだったが、教養はあるらしく作法をわきまえ、
無礼を働かない所は感心した。意外と良く気がつくところもある。
存外良家の娘なのかもしれないとは思ったが、さほど興味は湧かない。
むしろそれならばこんなところまで放任している親の顔が知れないと思った。


そんなある日、ガラシャが一日一人で近隣を回りたいと言って来た。
「馬一頭貸してもらえると有難いのじゃ。
・・・世話になっているのに頼み事など、無礼だとは思ってはいるのじゃが・・・」
「それは構わんがお供はつけさせてもらうぞ。おぬしは大事な客人じゃ。何かあっては困る」
そう言うと悪いのうといいつつ、嬉しそうにガラシャは微笑んだ。
考えてみればここ数日彼女は城からほとんど出ていない。外の空気も恋しいのかもしれないと思った。

「夕刻には戻るのじゃ!行って参る!」
何度も手を振りながら馬に乗って出て行くガラシャを見送ったあと、政宗は少し申し訳ない気分になった。
(時間も取れなくはなかったのだし、物見くらいには連れて行ってやれば良かったかのう・・・)
そう思った瞬間、慌てて頭を振る。

(何を考えておるのじゃ儂は!ただの客人にそこまでする必要もないわ馬鹿め!)
そこからぐちゃぐちゃと頭の中で葛藤した結果。


「・・・ま、久々に儂もお守りから開放されるのは良いことじゃな」
ぽつりと独りごちて、政宗は足取り軽く自室へと戻った。



しかし気楽に過ごせたのは数時間だった。業務をきっちりこなし、自分の時間に浸るも何か物足りない。
ガラシャがいなくなって普段通りの筈なのに、何故か暇を持て余している様な気がした。
仕方がないので側近の小十郎に将棋の相手でもしてもらうことにする政宗だった。


「しかし最近の殿は楽しそうですな」
玉露をすすりながらぱちりと盤上の駒を進め、小十郎が言う。
「はあ?」
側近の唐突な言葉に、政宗は間の抜けた返事をすることしかできない。
「いやはや、あの娘が来てからの殿は自室に篭ることもなく色々とお遊びに精力的ではございませんか」
「・・・それは儂をけなしておるのか」

不服そうに零す政宗に、とんでもないと小十郎は笑った。
「誰とでも時間を共有するのは良いことですぞ。遊び事にも、学ぶことはございます」
言われてこの間無理やりガラシャに付き合わされた蹴鞠から何を学べと言うのだと思いつつ、
政宗は黙って自分の駒を進める。

「・・・じゃじゃ馬娘のお守りなんぞはもうこりごりじゃ」

不躾に言う政宗に、小十郎は笑いながらそうですかと言って流した。
2、3局程うってそろそろガラシャが戻る頃かというときに、
それまでゆるやかに和んでいた城内に緊張が走った。

「政宗様!客人の方を同行していた者達が見失ったと言って戻って参りました・・・!」
「なにい!?」
声を荒げて政宗が供に付けた者達から事情を聞く。
「それが、帰りの山道の入り組んだところではぐれてしまったようで・・・。申し訳ございません!!」
平に謝る彼らに嘆息し、どこら辺ではぐれたのかを細かに聞いて下がらせる。
あの娘のことだ、何かに気を取られてふらふらと他の道に迷い込んでしまったのかもしれないと政宗は思った。
そしてもう一度大きくため息をつく。

「全く・・・。独眼竜がここまで振り回されるとは・・・。小十郎、捜索隊を出せ。後儂も出る。馬の仕度を」
「殿自ら出られるのですか?」
予想外の政宗の言葉に小十郎は驚いた。
「親友からの預かりものじゃ。・・・不服じゃが儂がいかんと立つ瀬がないわ」
言って心底不愉快そうに政宗は顔を顰める。
幼少の頃から戦場に乱入しては自分の肝を冷やしてくれた主のそんな言葉に
今更反論する気もない小十郎は、言われたとおりに手はずを整えた。


「あの娘が迷い込んだ山には幾つか狼煙台がある。発見次第それをあげよ!」
こうして日の暮れた薄ら暗い山道に、伊達捜索隊とその主は足を運ぶことになったのだった。


「馬鹿め馬鹿め・・・!なにをやっているのじゃあのじゃじゃ馬は・・・!」
捜索隊と別行動になってからの政宗は、それまで冷静にしていた素振りはどこへやら
必死の形相になって馬を走らせていた。

ここらで山賊の噂を聞いたことはないが万が一ということも十分にあり得る。
それに野犬などに襲われる心配もしなければならない。
言い包められたとは言えども、親友の信頼を裏切るような事だけは絶対にしたくない。
そしてそれ以上に、ガラシャの身の安全が恐ろしいほどに心配な政宗だった。

──戦場ででさえ、ここまで不安になるようなことはそうそうなかったのに。

城を発つ時に何度も嬉しそうに手を振っていたガラシャが脳裏に蘇る。
もしあれが彼女を見る最後になってしまったらと思うと、止めなかった自分が嫌になって仕方なかった。
(こんなことなら物見だろうが蹴鞠だろうが素直に付き合ってやれば良かった・・・!)
それまでかなり彼女をぞんざいに扱っていたことを後悔しながら、
政宗は既に日が落ち、暗くなった山道の中必死で目を凝らしながら捜索を続けた。

部分部分で馬から降りお供の松明で丁寧に辺りを見回してみるものの、それらしい痕跡は中々見つからない。
狼煙台から火があがらぬものかと夜空を見上げても、視界に入るのは暗い闇とそれに映える月のみ。
遅々として進展のない状況に反比例して、政宗の焦燥は募る一方だった。
そろそろ夜更けといってもいい時間帯に差し掛かった頃、政宗と供に来ていた兵士の一人が声を上げる。
「政宗様!これは・・・!!」

彼の方へと近寄ってみる。指差され、松明に照らされた地面には生々しい血痕があった。
しかもかなりの出血だ。──ひたりと、政宗の頬から顎へと冷たい汗が流れる。
「どうやら私たちが下ってきた道ではなく、斜面をそのまま下ってきたようですね・・・。
──!血痕がここから続いているようです」
兵士が言ったとおり、その血痕から山奥の方へ、点々と、というよりぼたぼたと血の跡が続いていた。

「・・・参るぞ」
予想出来うる限りの惨事に覚悟を決めながら政宗は馬を進める。
どうやら血痕の持ち主は山のふもとに流れる川の方へと向かっているようだった。
次第にざわざわと流れる水の音が聞こえ、やがて闇夜に流れのみを光らせる川が見えてきた。
そして川の近くに一頭の馬が見える。更にその馬の近くに、──人が倒れているのを政宗は見た。

「──っの馬鹿めがっ!!」
兵士が発見の声を上げる間もなく、政宗がそこに向かう。案の定、それはガラシャだった。
気を失って倒れている少女に駆け寄り、急いで抱き起こす。
「おいっ!大丈夫か!?返事をしろ!!」
必死にその細い体に何度も何度も声を張り上げると、閉じられていた瞳はうっすらと開いた。
「う・・・なんじゃ・・・?」

その瞬間政宗は泣きそうなくらいに安堵し、思わずその体をぎゅっと抱き寄せた。
「う"・・・、ま、政宗、痛い・・・」
抱きしめられた本人は苦しそうに声を上げる。
その言葉に先ほどの血痕を思い出した政宗は体を離してガラシャの全身を見つめた。
「おぬしあれ程の血を流して、一体どこを怪我したのじゃ・・・!?」
その言葉を聞いて一瞬ガラシャは怪訝そうな顔をし、そして思い出したかのように微笑む。
「ああ、あの血はわらわのではなくて・・・、あの馬のじゃ」
言いながらガラシャの指差す方向に目を向けると、
確かにその馬は額から顔にかけての毛並みが他の部分よりは黒く見えた。
闇夜で見えないが、血が流れた後なのだということがわかる。
彼女が無傷であるということに改めて安心した政宗は、大きく息を吐いて肩の力を抜いた。

「・・・来てくれたのじゃな、政宗・・・」
弱々しくも嬉しそうに微笑むガラシャに胸を突かれた様な気がして、
政宗は当たり前だとだけ言って目を逸らした。


結局視界の利かない中で本道まで戻るのは危険だということになり、近くの狼煙台へと政宗たちは向かった。
狼煙台の傍には小屋もあるので、そこで夜を越そうと言う事になったのだ。

「全く・・・、とんでもない一日だったわ・・・」
二人きりの小屋で政宗は嘆息する。ガラシャは済まなそうに身を縮めた。
「外に見張りを置いておる。儂も出るから用があるときは言え」
流石に同じ部屋に居ることは出来なくて、政宗は言って引き戸を開けようとする。

「ま、待て、おぬしが行ってしまっては心細いのじゃ!」
それを聞いて慌ててガラシャは政宗のマントを引っ張った。
急に後ろから引かれたので一瞬倒れそうになり、慌てて体勢を立て直す。
「きゅ、急に後ろから引っ張るでない!危ないではないか!」
「あ・・・す、済まぬ・・・」
怒鳴られ、しょんぼりと項垂れるガラシャ。

「今日はおぬしを怒らせてばかりじゃな・・・」
自嘲気味に眼を伏せるガラシャに、政宗は再び嘆息して腰を下ろした。
「もうよい。・・・おぬしが寝るまでならここに居るから安心せい」
不貞腐れたように眼を逸らして言う政宗を見て、ガラシャはやっと少しだけ微笑んだ。
それを見て政宗も安堵する。不安そうにしている彼女を見るのは何故か心が軋んだ。


ガラシャの話によると、道が分からなかったのでお供を先に走らせついていっていたら、
急に馬の頭部に落ちてきた木片が当たり、馬が暴走してしまったらしい。
宥めることも出来ずに馬にひたすらしがみ付き、落ち着いた所で川に向かい、頭部の治療を施したようだ。
正にとんだ災難としかいいようがなかった。


狼煙台に火を灯し終わった兵士が桶に水を汲んで来た。
それと手ぬぐいを政宗はガラシャに渡す。
「埃まみれでは気持ち悪いだろうが。これで体でも拭いておけ。儂は一旦出るぞ」
「・・・・・・。」
渡された手拭と、政宗を交互にガラシャが見つめる。
なんじゃ、と聞く前にガラシャが政宗に近寄り、その兜を脱がせた。

「な、なにをする・・・」
「政宗、おぬしも汗びしょびしょではないか」
無造作に切られた短い髪の毛と額が少し湿っているのを見て、ガラシャは笑いながらそれを拭いた。
「んな・・・!」
日頃その様な事に免疫がない政宗は顔を真っ赤にしながらも、
どうしたらいいかわからずされるがままになるだけだった。

お互い無言のまま、しばらく時間が流れる。

彼女が何を考えているのか分かりかねつつも、汗の冷えた自分の顔に彼女の柔らかい手が時々当たって、
政宗は緊張やら何やらで身を硬くするばかりだった。



「ん…うっ?ここは?」
「孫!」
「お嬢ちゃん?」
どこだここは?確か俺は…信長を仕留め損ねて…
だが目の前に居るのはどう見ても…お嬢ちゃんだよな?
…はっ!
「さ、雑賀!」
「既にわらわが皆助けたぞ?」
「お嬢ちゃんが?」
「孫市!目が覚めたのか?」
「孫六?佐太夫の爺ちゃんまで?」

「…なる程。話は解った」
爺ちゃん達の話しによるとこうだ。俺が信長を撃てなかったあの後、俺は朦朧としながら雑賀ノ庄の付近まで自力で歩いていたらしい。
ちょうどその頃、お嬢ちゃんは周りの敵を片付けて「ダチの約束」通り雑賀衆の生き残りを救援、脱出させる途中で、親父(光秀)に会ったそうだ。光秀は信長に内緒で首を捕られかけてた俺を隠蔽、保護、隙を突いて娘(お嬢ちゃん)に渡した…と。
まあ光秀が何を考えてたのかは知らねえが、お嬢ちゃんの父親なら変な所があっても可笑しくねえな。
んで、雑賀残党が集まったこの集落で皆に看病されて。今に至るってわけだ。

「とにかくありがとな。お嬢ちゃん」
「ダチの約束じゃ!わらわは孫の為なら何でも出来るぞ!」
…時々ドキッとすんだよなあ。この年頃の娘はよく成長して。だんだん俺の方が惹かれてる気がするぜ…。
「まだ体は休めるのだぞ?わらわが就いているからな?」
「へいへい…ん?」
お嬢ちゃんの後ろに居るのは…佐太夫の爺ちゃん?なんか手招きしてるな?お嬢ちゃんに内緒で出てこいって事か?
しゃあねえ…体はいてえが立つこと位は出来るだろ。
「よっと」
「孫?」
「かわやだ。…そういや俺が寝てた間、始末は?」
「孫が嫌がるかと思い、わらわ意外の連中がやっていたぞ?」
「気が利くな」
さあて…何だ?

人気のないトコまで連れ出して…

「嫁!?お嬢ちゃんを!?」
な、何言ってるんだジジイ!
「雑賀の次代が必要とは思わぬか?」
「そんなの知ったこっちゃねえよ!」
「孫市!いつまでもフラつくのではない!どうせそこら中の女に手を出しておるのだろう!」
「お、俺みたいな色男はまだ誰か一人のモノになっちゃいけねえんだ」
「あの女子は誰か一人のモノになりたがっておる。それに雑賀を救ってもらった恩義もあろう」

助けてもらったのはお前らも同じだろ!…だがお嬢ちゃんを他人のモノにするのは惜しいよな…
「考えておれよ」
「…」


俺が…お嬢ちゃんと…


とりあえずもう少し寝てるか。流石に全快するまではこれ以上言わねえだろ。
「孫ー?どこじゃー?」
…呼びに来ちまったか。そんなに長話だったか?
「すぐそっちに行く」

あれから数日。俺は体の調整を兼ねて出歩く事にした。今の雑賀庄は信長…織田の勢力圏にはあるが、最前線じゃあ無い。兵力の集中しない場所を選んだ、ほんの小さな集落だ。
堺や京に近い事は近いが、交通的には…道無き道を通らないといけない。そんな感じだな。元々雑賀衆自体それ程の人数が居なかった分、とりあえずこの場所で一休みできる。
まあ傭兵稼業がある分にはその内どうにかしねえと…

今日の目標は堺。色々と物要りなんでな。

んでまあ隣には…
「やっぱりこうなるんだよな…」
「うん?何か言ったか?」
「いいや。何でもねぇよ」
やっぱりお嬢ちゃんがいるわけだ。村の何人からか代わりに頼まれた物があるらしい。俺は一応国友背中に、軽装で。堺に近くなってきたのか、割と人通りのある道を歩く。そろそろ喧騒も聞こえだした。
「迷子にならない様、しっかり付いてくるんだぜ?」
「わかっておる!わらわも孫を一人には出来ぬ」
「…言ってくれるな」
堺は相変わらず賑わっていた。

まずは鍛冶屋の辺りで弾薬だ。ついでに国友の整備も頼む。
「そう言えば孫の武器は珍しいのう?」
「ん?お嬢ちゃんにはかなわねぇよ」
整備で預けている間に、色々まわる事にした。お嬢ちゃんはじっとしているより、歩き続けてた方が楽そうだ。
「どこか行きたい所があるか?」
「あるぞ!皆に頼まれている物が…」
「…結構量があるな…片っ端からまわるか」

村を出たのが朝方、堺に着いたのが昼前。今は…秋が近いと言っても暮れるにはまだ時間があるだろ。
買い物の半分は済んでる。今度は…

「…孫」
「うん?」
「その…わらわ…」
珍しいな。いつもなら何でも言ってくれるお嬢ちゃんが言いよどむなんて。

…逆に新鮮だ。いつもこういう感じだったら何人かの男がダメになる。

「なんだ?」
「その…」
何か忘れてるか?お嬢ちゃんの事で…心なしか元気がねえな?今までも何回か同じ状態を見たような…あ!
「飯にするか!」
「うむ!」
「何か希望は?」
「何でも良いぞ!好きなモノにせよ」
「俺の好きなモノ…ねぇ…何が良いか」
「あ…でも早くして欲しいのう…」
「…だな」
空いてるのが最低条件か。
「まあ堺だ。食べ歩きでも構わねえだろ」

少々行儀が悪いが、片っ端からつまんで歩く。お嬢ちゃんも見た目は育ちが良いのに、俺についてこれる分なかなか…
「うまいか?」
「うむ!…孫」
「…うん?」
「…楽しいのう」
「…ああ」
「…でも」
「…」
「何故か嫌な予感がするのじゃ。何故じゃろう?」
「…まだ天下は治まってねぇ。緊張が抜けきってないからそう思うんだろ」
「…そうかのう?」

いつの間にか日が暮れそうになってた。俺の楽観は大きく外れて、国友取りに行った時には夜が迫り、それでも俺は強行して集落へ帰る事にした。

…お嬢ちゃんに無理させたかな?だが宿を取る気にも…

山賊の警戒をして京の付近を通った時、灯りに気が付いた。京の中心の辺りに見えた軍勢の炎だ。
「…何かあったのか?」
「そうじゃのう…」
こういう時に…遠眼鏡はあるんだよな。
「中心までは見えなくても軍の端っこ位は見えるだろ…ん?」
あれは…あの旗印はドコんだ?ウチ(反信長)側にあんな家紋は見た事が無い。しかもここは信長の勢力圏だろ?他の国の奴らが来た訳じゃないとしたら…誰が?

「孫?早く行かないのか?面倒事は嫌いでは無かったのか?」
「まあ待てよ…お嬢ちゃんに聴いてもわからねえと思うが…」
「?」
「桔梗の旗に見覚えは無いか?」
「…!」

…ん?何で返事が無いんだ?

「お嬢ちゃん?」






//出立



 優しげな音が鳴っていた。
しかし其れは部屋に居るどちらの耳にも届いていない風であった。楽曲を選んだのは主であり、其れを鳴らしたのもその人であったのだけれど、音は一度室内へ放たれ空気の合間へ投げ出されると途端にただの音に成り下がっていた。つまり室内に在る二人の人間にとって楽曲は深い意味を持たないと言うことで、無音の状態を幾分緩和するだけの単なる飾りと変わりない空気の振動に立場を決められていたのだ。塩化ビニールの円盤を鉄製の針が擦る仕組みはあまりにアナログでもう此の数百年お目に掛かった記憶もない代物である。主の趣味以外の何ものでもないと思われるロストテクノロジーを敢えてこの場に持ち込み、稀少な音盤を折角鳴らしているにも拘わらず聴く者が全く別の何某かに心を奪われている現状をこの上もない贅沢と言ってしまっても構わないだろう。
 主は眉間に深い皺を刻み押し黙ったまま深く何かを考え込んでいる。その傍ら、と言っても少しばかり離れた椅子に掛け思考に沈む主を見つめる今一人は少女であった。彼女の眼差しには揺れる不安がかいま見え、そうして眺めていれば主が如何なる考えに落ちているのかを察せられるとでも言いたげな一途さも孕んでいる。一分見つめていればそれだけ、二分になればより多くの兎に角瞬きすら忘れて凝眸していさえすれば何時しか主の言葉にしない全てが伝わってくると信じているかに見受けられた。
 しかし少女は実のところ主が何を思い何を描いているかをほぼ知っている。知っているからこそ視線の上澄みに脆い不安が見え隠れするのである。何かを、主の意志を知りすぎているから何かを言いたいと彼女は心より望んでいる。そして彼女は自身の言葉が主に異なる道を開かぬ事も熟知している。それでも欠片ほどの思いでも構わない。たった幾つかの文字を繋いだだけの拙い言葉でも紡ぎたいと願うのだ。けれど自らの持ちうる全てを集めたとしても彼女の伝えんとする一言にはならないとも悟っている。何故なら少女が此の場に在ること自体が既に違えられぬ決め事であり、此処に彼女が在るなら道は決して異なりはしないからだ。でも主の傍らから離れるなど出来ない。また離れたいなど微塵も思いはしない。引かれた朱色の道はある一点に向けひたすらに伸びているのであった。少女は小さく首を振り不安を振り払うと同時に諦めの色を面に上らせる。スッと息を吸い込み其れを言いしれぬ思いを込めた溜息として吐き出そうとした。ところが彼女が其れを吐くより先に主が深く嘆息した。
「伯爵…?」
口元からこぼれ落ちたのは一切の意義も持たぬ主の名であった。そんなつまらぬ物しか紡げない事実に少女は顔を曇らせる。
「いや、気にする事はない。」
少女に向けられた面は笑んでいた。柔和に綻ぶ主を目にして彼女は肋骨の奥がキリ痛むのを感じる。その場を凌ぐだけの笑みではない。が、主の真なる微笑でもないから彼がそうした面相を向けるたび、少女は酷くいたたまれない心持ちになるのである。
「エデ…?」
伯爵は薄布が降りたかに彼女の面を覆う翳りに気づいた。屡々見せる表情の意味に彼が気づかない筈もないが、だからと言って其れを言及することはなく、何事もないとフルフル首を振ってみせるエデの反応を無言で受け入れ静かに頷いた。
「もう間もなく…。」
言いかけた其れを見事に遮ったのはノックもそこそこに現れたベルッチオの布令であった。
「馬車の用意が調いました。」
「うむ…。」
既に身支度は済んでいる。伯爵はすくりと立ち上がりエデに手を伸べる。
「今宵の演目はなかなかに楽しめそうだ。」
「はい…。」
小さく頷くエデの腕を取り伯爵は玄関ホールへと向かう。途中足を止めたのは何某かを思いついたから。背後に控える家礼へ声が飛ぶ。
「ベルッチオ!ブーケの手配は?」
「既に馬車に…。」
「花は何だ?」
「ブルーのムーンローズを…。」
「それは……。」
良いのか悪いのか、伯爵の口から形となって紡がれはしなかった。けれど鋭眼が緩やかに弧を描いている。其れは少なくとも悪し(あし)と見取れない。寧ろ満足気だと家礼は軽い安堵を覚えた。
「間もなく幕が開かれよう。」
正面を見据えたまま伯爵は誰にともなく発した。
「もう…ベルは止められない。」
続きこぼれ落ちた呟きを拾いエデの指先がヒクリと震える。鳴り出したベル、音もなく上がる幕が歌劇の始まりの為だけでないと彼女は知っていた。
今宵、歌劇場の虚空に禍々しくも可憐な花が舞う。其れは立ち戻る術を知らぬ道の始まり。





ー終ー




2005.3.30


Unauthorized borrowing and no permission reprinting of publication ones are prohibited!!
雲雀



 意識は確かに現にあり、実は夜半でも夢に彷徨うなど疾うに忘れているにも拘わらず寝入ったふりをしたのは微かな気配が密やかに近づいてきたからであった。咄嗟に息までも殺し、軽く下ろした目蓋が不要な気の強張りから震えぬよう逆に意識を其処に集中までして今にも降りてくるであろう其れを待ちわびた。
「伯爵…?」
気遣うかの呼びかけが心地よい。探るように目を閉じる面を覗き込んでいるのが分かる。エデは出会った頃からこの人がまんじりともせず朝を迎えると知っているのに、それでも軽い午睡に落ちているのかと伺っているに違いない。
 すっと息を吸い込む音がする。恐らく今一度同じ人の名を呼ぼうとしたのだろう。其れが決して彼の名前ではなく、単なる呼称であるのは重々理解していてもエデにとってはそれこそがこの人に向けるべき呼び名であった。しかし彼女の唇から二度目は紡がれず、ふっと小さな吐息とも思える音が零れただけだった。
 待っているのに、きっと其れが触れてくる筈だと待ちわびているのに、時だけがゆるゆると過ぎていく。けれども伯爵は辛抱強く同じ姿勢を崩そうとはしない。恐らくエデが伯爵の深きを察しているのと同じくらい伯爵はエデを見つめてきて、だから彼女は間もなく彼の待つものをそっと与えてくる筈なのだ。
 初めて彼女に出会った、あの雑踏の中で差し出した己の腕に応えた幼い子供特有の柔らかな温もり。流石に今はそれよりは遙かにしっかりとした形へと変わっているが、しかし表皮から伝わる彼女の体温の穏やかさは少しも違われてはいない。彼は其れこそを待っていた。
 気配はすぐ傍らから離れるでもなく、さりとてそれ以上の距離を詰める予感もない。手を伸べれば届く辺りにエデは膝を付き真っ直ぐな視線で長椅子に掛ける姿を捉えている。幾分困った顔をしているかもしれない。或いは仄かな笑みを浮かべているか。目蓋を閉じている為、そうした細かな様までは判じられない。薄く開いて確かめたい衝動が肋骨の奥を悪戯に擽る。でも伯爵は胸の辺りに感じる温々した誘いを静かに仕舞い込んだ。今暫く待てば、其れは必ずやってくる。今少し、ほんの数分このままで在れば良いのだと自らを諭すかの音にならぬ呟きを転がした。





 一つだけ開く窓。さり気なく引かれた薄い帳。中庭を渡り流れ込む通りの雑踏がやけに遠い。眼を閉じたのは単に帳を抜けて射し入る午後の陽射しが眩しかったからで、その時伯爵は深い思考に落ちていたわけでもなかった。視界の端に映る蒼天の鮮やかさが幾分煩わしかったのは否定できない。抜ける空の色は時として心中を無性にざわつかせる。翳りのない色は大層傲慢で、無言の糾弾を投げかけてくる錯覚を寄越す。それらがない交ぜとなり彼へと届いたから思わず双眸を閉じてしまったのである。丁度その時、扉に音がした。返事を待ち、戻らぬ事実に異変を懸念したのか怖ず怖ずと扉が開いたのを伯爵は気配で察した。室内へ入ってきた者が誰であるかも分かっていた。そして寝入った素振りを決め込んだのだ。





 其れが漸く訪れたのは彼女が傍らに来てより数分の後であった。伸べた指先が顔に落ちかかる髪をわけ、次ぎに頬へ軽く触れた。待ち望んだ温もりは、だが刹那より短い間に離れていく。白い華奢な其れが己の頬にひっそりと触れる様を胸中に描き、伯爵は無意識に緩みかけた口元を引き上げた。
 エデが最初にそうしたのは未だ彼女が幼子であった頃、確か屋敷に招き私室を与えた日の夜だったと思われる。一旦は潜り込んだ寝台から抜け出し、書斎の扉を力無く叩いた小さな拳を胸元に引き寄せ今にも消えそうな声音で眠れないと訴えた。
「眼を閉じていればやがて眠りが降りてくる。」
正論を向けた途端、ふるふると首を振り最前までそうしていたけれど眠れませんと呟き寄る辺ない子供は大人の次ぎを待たず『一緒に…。』と袖を引いた。断る術を持たぬ大人は仕方なしに連れ行かれる。煩わしさはなかった。ただ困惑だけが思考を支配していた。
 幼い子供を如何にして寝かしつけるかなど全く知りもせず、その傍らに横になるしか出来ない大人に彼女はやはり小さな声で『何かお話を…。』と願いを発した。気の利いた童話を諳んじることも出来ず、頭に浮かんだのは遙か以前まだ大海原を行き来していた時分に聞いた他愛もない御伽噺である。しかも記憶に残るのは散らばった断片でしかない。手繰り寄せては口に乗せ、再び記憶の奥底から探し出しては語ってみた。彼女はそれでもじっと聞き入り、屡々途切れれば辛抱強く次ぎを待った。けれども中途で話の結末を失念している事実に気づく。顔には上らせず、でも内心は大いに慌てて記憶の端までも捜してみたが一向に欠片も見つからない。仕方なしに今此処で結末を仕上げるかと思いつき、出来れば幸いな終わりをと脳裡に様々を描いた。
 双眸を閉じたのは無意識からで、結末を作り上げる事に夢中になった故であった。ところが下ろした目蓋がなかなか開かず、子供にしては我慢強くまっていたのだろうがとうとう待ちきれなくなったに違いない。不意に頬を柔らかな何かに撫でられぎょっとして開けた眸に映ったのは己と同じくらい仰天した小さな顔であった。
「眠ってしまったかと思った…。」
見る間に綻ぶ柔らかな頬は恥ずかしげな朱に彩られている。
「眠ってはいない。ただ…。」
「ただ…?」
「話の最後を思い出していたのだよ。」
「思い出せましたか?」
「ああ、今思い出した。」
紡ぎ出された結末は珍しくも面白くもない予定調和であったのに、子供は酷く喜んでもう一つお話をと眼を輝かせた。結局次ぎの短い寓話を最後まで聞く前に彼女からは穏やかな寝息が聞こえた。
 あれから幾度となくエデは伯爵にその指先を伸べる。何時しか子供の面影も薄れ、ずっと大人びれば彼が決して泡沫に沈まぬのだと知り得てからも目蓋を閉じ椅子に掛ける姿を眼にすれば同じように触れてきたのだ。時に頬に、時に肩に、時に髪先に静かに触れては双眸が開くと変わらぬ台詞を向けてきた。
『眠ってしまわれたのかと思いました。』
今も其れは変わらぬだろう。努めてゆっくりと目蓋を上げれば少々悪戯な笑みが其処にある。
「眠ってしまわれたかと思いました…。」
緩やかな頬から顎にかかる線が更に柔らかくゆるみ、やはり彼女はそう言った。
「いや…、眠ってなどいなかった…。ただ…。」
「ただ?」
「少し陽射しが眩しかったので眼を閉じていただけのことだ。」
「今日は本当に良いお天気ですから。」
視線を窓へ遣れば相変わらずの蒼が広がり帳を揺する微風が流れた。
「…?」
エデが何かに気づく。音もなく立ち上がり窓辺へと寄った。
「何か?」
「はい、鳥の声が聞こえた気がして…。」
「町中にも鳥は居よう。」
「雲雀の声に聞こえました。」
それは無かろうと伯爵は言う。雲雀は広い草原にある鳥だと。
「でも、何処からか飛んできたのかもしれない。」
「こんな街の空へか?」
「そう…、翼があれば何処へでも行けます…。」
その時、彼女の面にかかる翳りに伯爵は確かに気づいていた。
「エデ…。」
振り返る彼女を上がる腕が招く。迷わず駆け寄る細い肩を抱き寄せると、其れは一切の抵抗もなく迎える胸へと収まった。翼が欲しいかと訊ねようとして、けれど伯爵は諦めたかの溜息だけを零し言葉を飲み込んだ。訊ねても詮無いことだと、そう思ったからに他ならない。





 翼があれば思うままに羽ばたけよう。其れを重い鎖に囚われていなければ…。





ー終ー

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