『孤独』
「眠れねえな……」
冴えた目が薄汚れた天井を凝視し続ける。
眠れないから変な事を考えちまうのか、
それとも変な事を考えちまうから眠れんのか、まったくわけが分からねえ。
「この薄っぺらい布団……腰が痛くてたまんねえぜ、ったくよ」
自分を誤魔化す様に、俺は眠れない原因の矛先を他所に向け目を閉じる。
『千人の悪党を斬る』
それはこのくだらねえ世とおさらばするのに自ら課したモノだが、
それで俺は本当に死ぬことが叶うのだろうか。
閑馬との戦いの後、それまで漠然として掴み所の無かったモノが急に現実味を
帯びて俺の胸をザワつかせている。
『二百年の孤独』
無限の時を生きる事の寂しさ、苦しさ……そして虚しさを見せつけられた。
「くくく、何を怖がっているんだか……今更」
薄暗い部屋に自嘲する声が微かに響く。
町を喪ったあの日から、いやそもそも妹が狂っちまう前から独りきり
だった筈だ俺は。
(そうだ、独りで生きていく覚悟は出来ていた。千人殺した所で本当に死ねるたぁ
思っちゃいない。――だが、)
この次に誰かを喪った時、俺も奴の様になっちまう様な気がした。
一体誰を?
「けっ……何を今更……くだらねえ事考えてんだ俺は。くそっ、寝よ寝よ!」
寝返りを打ち心で悪態を吐きながら、瞼をきつく閉じる。
(まったくあの馬鹿に付き合いだしてからロクな事考えねえ)
脳裏に過ぎるのは必死に俺を助けようとしたアイツの顔。
(あれは用心棒として都合のいい俺に、死んで欲しくなかっただけさ。
わかっている、わかってはいるがそれでも俺はまた――)
うっすらと目を開き、視界に映る煤けた障子を見つめる。
「失くしたくねえやっかいモノが出来ちまったまったじゃねえか」
がしがしと無造作に頭を掻きながら起き上がると、俺はそっと静かに
障子を開けた。
(ったく幸せそうに寝てやがるぜ)
暗闇に慣れた目が、まだ僅かに幼さを残す寝顔を見下ろす。
「お前を死なさねえよ、絶対に。そして死ぬなよ」
湿った畳に片膝を着き、ゆっくりと手を伸ばし、
「俺の為に……な」
布団に流れ落ちる黒髪を一房掬い上げた。
そして柔らかな感触を優しく握り締めると、
そのままゆっくりと手の甲をアイツの頬へと触れさせる。
滑らかな肌から伝わる温もり
『現在(いま)』を精一杯に生きているコイツの、美しさと強さの証。
そしてそれもまた何時かは俺の前から消えて亡くなり、孤独は必ず訪れる。
無限の孤独
だが今はまだ――
(独りにするな)
そっと頬を摩る。
(それが人の心に勝手に住み着いちまった責任だ。
まったく人の覚悟をあっさりとぶっ潰してくれたぜ、まったく)
「んっ……ま…んじ…さん」
ピクッ!
(起きてんのか!?)
不意に小さな唇が震える様に俺の名を呟きだし、慌てて手を引っ込めた。しかし、
「う……ん…、飲みす…ぎは…身体に毒だって…ば」
(何だ寝言か……脅かしやがって)
どうやら気付かれてはいないようだった。
「ったく夢の中でまで人に指図するか?コイツは……くっくっ」
ホッとしちまったせいか、思わず腰をついて一人苦笑する。
「はぁ~~やれやれ……よっと」
ひとしきり笑い終えた俺は、息を吐いて立ち上がり障子へと近づき部屋を後に
しようとした。だが、
「………」
取っ手に手をかけたまま暫しその場に立ち尽くし、背後から微かに聞こえてくる
安らかな寝息に目を閉じ耳を傾ける。
(嬉しいもんなんだな……誰かの夢に現れるってのは)
この世で独りきりでないと感じる喜び。
「だから手放せねえんだろうな……俺は」
アイツの寝顔に惹かれて今一度振り返った。
「凛――」
小さく呟くと俺はそっと部屋を後にし、またあの薄っぺらな布団へとその身を
投げ出していた。
(お前の暢気な寝顔を見たら……ねむ…くなっ……)
自然と意識が混濁し始め、漸く俺は深い眠りへと落ちていくことが叶った。
「眠れねえな……」
冴えた目が薄汚れた天井を凝視し続ける。
眠れないから変な事を考えちまうのか、
それとも変な事を考えちまうから眠れんのか、まったくわけが分からねえ。
「この薄っぺらい布団……腰が痛くてたまんねえぜ、ったくよ」
自分を誤魔化す様に、俺は眠れない原因の矛先を他所に向け目を閉じる。
『千人の悪党を斬る』
それはこのくだらねえ世とおさらばするのに自ら課したモノだが、
それで俺は本当に死ぬことが叶うのだろうか。
閑馬との戦いの後、それまで漠然として掴み所の無かったモノが急に現実味を
帯びて俺の胸をザワつかせている。
『二百年の孤独』
無限の時を生きる事の寂しさ、苦しさ……そして虚しさを見せつけられた。
「くくく、何を怖がっているんだか……今更」
薄暗い部屋に自嘲する声が微かに響く。
町を喪ったあの日から、いやそもそも妹が狂っちまう前から独りきり
だった筈だ俺は。
(そうだ、独りで生きていく覚悟は出来ていた。千人殺した所で本当に死ねるたぁ
思っちゃいない。――だが、)
この次に誰かを喪った時、俺も奴の様になっちまう様な気がした。
一体誰を?
「けっ……何を今更……くだらねえ事考えてんだ俺は。くそっ、寝よ寝よ!」
寝返りを打ち心で悪態を吐きながら、瞼をきつく閉じる。
(まったくあの馬鹿に付き合いだしてからロクな事考えねえ)
脳裏に過ぎるのは必死に俺を助けようとしたアイツの顔。
(あれは用心棒として都合のいい俺に、死んで欲しくなかっただけさ。
わかっている、わかってはいるがそれでも俺はまた――)
うっすらと目を開き、視界に映る煤けた障子を見つめる。
「失くしたくねえやっかいモノが出来ちまったまったじゃねえか」
がしがしと無造作に頭を掻きながら起き上がると、俺はそっと静かに
障子を開けた。
(ったく幸せそうに寝てやがるぜ)
暗闇に慣れた目が、まだ僅かに幼さを残す寝顔を見下ろす。
「お前を死なさねえよ、絶対に。そして死ぬなよ」
湿った畳に片膝を着き、ゆっくりと手を伸ばし、
「俺の為に……な」
布団に流れ落ちる黒髪を一房掬い上げた。
そして柔らかな感触を優しく握り締めると、
そのままゆっくりと手の甲をアイツの頬へと触れさせる。
滑らかな肌から伝わる温もり
『現在(いま)』を精一杯に生きているコイツの、美しさと強さの証。
そしてそれもまた何時かは俺の前から消えて亡くなり、孤独は必ず訪れる。
無限の孤独
だが今はまだ――
(独りにするな)
そっと頬を摩る。
(それが人の心に勝手に住み着いちまった責任だ。
まったく人の覚悟をあっさりとぶっ潰してくれたぜ、まったく)
「んっ……ま…んじ…さん」
ピクッ!
(起きてんのか!?)
不意に小さな唇が震える様に俺の名を呟きだし、慌てて手を引っ込めた。しかし、
「う……ん…、飲みす…ぎは…身体に毒だって…ば」
(何だ寝言か……脅かしやがって)
どうやら気付かれてはいないようだった。
「ったく夢の中でまで人に指図するか?コイツは……くっくっ」
ホッとしちまったせいか、思わず腰をついて一人苦笑する。
「はぁ~~やれやれ……よっと」
ひとしきり笑い終えた俺は、息を吐いて立ち上がり障子へと近づき部屋を後に
しようとした。だが、
「………」
取っ手に手をかけたまま暫しその場に立ち尽くし、背後から微かに聞こえてくる
安らかな寝息に目を閉じ耳を傾ける。
(嬉しいもんなんだな……誰かの夢に現れるってのは)
この世で独りきりでないと感じる喜び。
「だから手放せねえんだろうな……俺は」
アイツの寝顔に惹かれて今一度振り返った。
「凛――」
小さく呟くと俺はそっと部屋を後にし、またあの薄っぺらな布団へとその身を
投げ出していた。
(お前の暢気な寝顔を見たら……ねむ…くなっ……)
自然と意識が混濁し始め、漸く俺は深い眠りへと落ちていくことが叶った。
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『酔』
「前々から思っていたんだけど」
手にした杯を掲げながら、女は隣に座る男の方へと視線を流した。
白い肌を酔いで赤らめ、まどろむ瞳をキュッと猫の様に細めるその姿は、
大抵の男ならば魅せられていた――筈。
だが話を振られた当の本人はと言うと、
「んぁ?」
コレと言った関心も見せないまま生返事だけをし、後は唯ひたすら
空いた杯を満たす事にのみ集中していた。
「……あのねぇ~万次さん」
込み上げてくる怒りに肩を震わせながら、百琳は男の手から酒瓶を取り上げ、
「こんなイイ女無視して呑み続けているんじゃないっつうの!」
大きな声を上げ攻め立てる。
すると久しぶりの酒に完全にイカれてしまっていた卍は、
鬼のような形相を作り、
「てってめーが持ってきたんだろうが!よこせっ!!」
声を荒げ女へと掴みかかろうとした。
だが百琳はその手をヒョイとかわし、酒瓶を抱えたままの状態で
スクッと椅子から立ち上がり、
「……起こしてくる」
先程までとは一転した低い声音で、独り言のような呟きを洩らした。
「はぁ!?」
突然の事に呆気にとられた卍は、傍らに立つ女を見上げ思わず絶句する。
(まずっ!コイツの酒癖の悪さを忘れていたぜ)
完全に座りきった目を見上げながら、彼は襲い来る嫌な予感に脂汗を流した。
そして次の瞬間、その予想は現実となる。
「凛ちゃん起こして、言いつけてやる」
まさに後悔先に立たずであった。
女はメソメソと泣くそぶりを見せながらも、長机の向こうの障子戸へと走り出し、
「酷い!酷いのよっ万次さんってば、私の事苛めるの~」
等と、とんでもない事を今度は喚き散らし始めたのだ。
「何訳の分かんねぇー言い掛かり付けてんだっ、てか静かに知ろっ!!」
止めている本人が一番煩い事実に気付きもぜず、男は大慌てで酔っ払いの腕を
掴み力任せに捻じ伏せた。
だがそんな彼の行為は報われる事はなく……それどころか、
「きゃぁ~痛いっ痛いっ!凛ちゃん助けて」
相手の悪態に拍車を掛けるだけであった。
「あ~くそっ!……悪かった、俺が悪かった。ちゃんと話聞いてやっから、兎に角座れ」
不本意だった。それでも卍はその気持ちを必死で押し殺す。
(酒の為だ、堪えろ……堪えろ)
凛の有り金が底を付いた今、彼はこの暫く振りの酒(しかも上物)を
楽しむ時間を必死に守ろうとした。
「座れ?」
乱れた金色の髪の下から、鋭い視線が男を見据える。
「座って……くれ」
眉間に皺を寄せながら、なけなしの自尊心を投げ捨てる卍。
「くれ、か。……アンタにしちゃ頑張った方ね、きゃはははっ」
(……このアマ、殺す)
掴んでいた腕を思わず圧し折りそうになった彼は、
頬を引きつらせて女の細腕を解いた。
「ほら、ご褒美」
ドンッと机に瓶を置き、女はさっさと自分の席へと再び腰を落ち着け、
立ち尽くす男に艶然とした微笑みを向ける。
案の定その表情から、先程の涙がやはり嘘であった事を察した卍は、
大きな溜息を溢しつつも乱暴に腰を下していった。
そしてこの鬱憤をどうにか晴らすべく、目の前に置かれた酒瓶を掴み
「で、一体何だってんだ」
適当な言葉を口にしながら、漸く取り戻した酒を杯へと注いでいく。
「万次さん……不能?」
「ブッ―――ッ!」
勢いよく酒を噴出す卍。
だがそんな惨事を百琳は気にも留めず、己の髪をいじりながら楽しげに話し続ける。
「ってかさ、まさかアッチ(男色)系なんじゃないでしょうね」
「どこをどう見て、そんな発想が飛び出してくんだっ!」
卍は手にした杯を叩きつけ、女の方へと唾を飛ばして怒鳴り散らした。
「だって変だと思わないかい?」
男の勢いとは対照的にノンビリとした口調で、百琳は相手の顔を見据え、
「凛ちゃんから聞いてみるとアンタ、女買っている様子も無いし。今だってほら」
髪をゆっくりと掻き揚げながら、艶っぽい視線を送る。
「こんな良い女が酔っていんのに、口説くそぶりも見せやしない。枯れるにしちゃ
若いでしょうが、一応」
「誰が良い女だってんだ」
「何か言った、今」
「……一応は余計だって言ったんだ。一応は」
危く地雷を踏みそうになり、慌てて視線をかわす卍であった。
「大体お前の所にだって、女と無縁そうな奴居るだろうが」
「ああ……アレ、ね。アレはほら、半分出家しちゃっている様なもんだから」
脳裏に浮かぶ顰め面の禿げ頭に、百琳は思わず苦笑を洩らした。
「別に女嫌いってわけじゃねえよ。……ただ今はその気が沸かねえだけさ」
卍は再び酒を手にし、杯へと注ぎなおす。
「今は、か。じゃあ最後にしたのって何時」
(何時……そういや、随分と女の柔肌とはご無沙汰だな。てか――)
「お前がそんな事聞いてどうすんだぁ、ったくよ」
男は女のペースに流されてしまいそうな思考を戻し、畳み掛けるように
話を打ち切ろうとした。
だがそれでも尚、女はこの話題を続けたいらしく
「もしかして……さ、それって……り…んちゃんに、会うま……」
閉じてしまいそうな瞼の下の瞳を卍へと向け、優しい微笑を浮かべながら
話しかける。
「何だって此処で、アイツの名前が――」
ピクリと眉を吊り上げた卍は、酒瓶を置き百琳の方を見返した。
「ぐー……」
「ちっ、寝ちまいやがったか」
桃色の頬を腕に乗せ静かな寝息を洩らすその姿に、卍は苦虫を噛み潰す。
そして溢れ返る杯を手にし、
「金がねぇからだ」
まるで溜息を溢すように小さく呟いた。
己の洩らした言葉に酒が幾つかの波紋を作るのをジッと見つめる、それは
まるで自分の心の中をも波打ち広がっていく。すると、
『嘘つき』
しっかりとした口調の女の声が、不意に耳をついた……様な気がした。
だから男は無意識に身を固くし耳を澄ましてみるが、聞こえてくるのは穏やかな
寝息だけであった。
(何をそんなにオタついていんだ、俺はよ)
杯を一息に煽る。
「こんな上物で、悪酔いしちまったってか。くくくっ」
卍はまるで自らを嘲る様に喉を鳴らし、緩慢な動作で立ち上がった。そして、
(妹に欲情する訳ねぇだろう、それじゃ犬畜生以下だぜ)
着物の合わせから覗かせた右手を、無精髭でザラつく顎へと伸ばし
ボリボリと掻きながら部屋を後にした。
ひんやりとした夜風を求め――
「前々から思っていたんだけど」
手にした杯を掲げながら、女は隣に座る男の方へと視線を流した。
白い肌を酔いで赤らめ、まどろむ瞳をキュッと猫の様に細めるその姿は、
大抵の男ならば魅せられていた――筈。
だが話を振られた当の本人はと言うと、
「んぁ?」
コレと言った関心も見せないまま生返事だけをし、後は唯ひたすら
空いた杯を満たす事にのみ集中していた。
「……あのねぇ~万次さん」
込み上げてくる怒りに肩を震わせながら、百琳は男の手から酒瓶を取り上げ、
「こんなイイ女無視して呑み続けているんじゃないっつうの!」
大きな声を上げ攻め立てる。
すると久しぶりの酒に完全にイカれてしまっていた卍は、
鬼のような形相を作り、
「てってめーが持ってきたんだろうが!よこせっ!!」
声を荒げ女へと掴みかかろうとした。
だが百琳はその手をヒョイとかわし、酒瓶を抱えたままの状態で
スクッと椅子から立ち上がり、
「……起こしてくる」
先程までとは一転した低い声音で、独り言のような呟きを洩らした。
「はぁ!?」
突然の事に呆気にとられた卍は、傍らに立つ女を見上げ思わず絶句する。
(まずっ!コイツの酒癖の悪さを忘れていたぜ)
完全に座りきった目を見上げながら、彼は襲い来る嫌な予感に脂汗を流した。
そして次の瞬間、その予想は現実となる。
「凛ちゃん起こして、言いつけてやる」
まさに後悔先に立たずであった。
女はメソメソと泣くそぶりを見せながらも、長机の向こうの障子戸へと走り出し、
「酷い!酷いのよっ万次さんってば、私の事苛めるの~」
等と、とんでもない事を今度は喚き散らし始めたのだ。
「何訳の分かんねぇー言い掛かり付けてんだっ、てか静かに知ろっ!!」
止めている本人が一番煩い事実に気付きもぜず、男は大慌てで酔っ払いの腕を
掴み力任せに捻じ伏せた。
だがそんな彼の行為は報われる事はなく……それどころか、
「きゃぁ~痛いっ痛いっ!凛ちゃん助けて」
相手の悪態に拍車を掛けるだけであった。
「あ~くそっ!……悪かった、俺が悪かった。ちゃんと話聞いてやっから、兎に角座れ」
不本意だった。それでも卍はその気持ちを必死で押し殺す。
(酒の為だ、堪えろ……堪えろ)
凛の有り金が底を付いた今、彼はこの暫く振りの酒(しかも上物)を
楽しむ時間を必死に守ろうとした。
「座れ?」
乱れた金色の髪の下から、鋭い視線が男を見据える。
「座って……くれ」
眉間に皺を寄せながら、なけなしの自尊心を投げ捨てる卍。
「くれ、か。……アンタにしちゃ頑張った方ね、きゃはははっ」
(……このアマ、殺す)
掴んでいた腕を思わず圧し折りそうになった彼は、
頬を引きつらせて女の細腕を解いた。
「ほら、ご褒美」
ドンッと机に瓶を置き、女はさっさと自分の席へと再び腰を落ち着け、
立ち尽くす男に艶然とした微笑みを向ける。
案の定その表情から、先程の涙がやはり嘘であった事を察した卍は、
大きな溜息を溢しつつも乱暴に腰を下していった。
そしてこの鬱憤をどうにか晴らすべく、目の前に置かれた酒瓶を掴み
「で、一体何だってんだ」
適当な言葉を口にしながら、漸く取り戻した酒を杯へと注いでいく。
「万次さん……不能?」
「ブッ―――ッ!」
勢いよく酒を噴出す卍。
だがそんな惨事を百琳は気にも留めず、己の髪をいじりながら楽しげに話し続ける。
「ってかさ、まさかアッチ(男色)系なんじゃないでしょうね」
「どこをどう見て、そんな発想が飛び出してくんだっ!」
卍は手にした杯を叩きつけ、女の方へと唾を飛ばして怒鳴り散らした。
「だって変だと思わないかい?」
男の勢いとは対照的にノンビリとした口調で、百琳は相手の顔を見据え、
「凛ちゃんから聞いてみるとアンタ、女買っている様子も無いし。今だってほら」
髪をゆっくりと掻き揚げながら、艶っぽい視線を送る。
「こんな良い女が酔っていんのに、口説くそぶりも見せやしない。枯れるにしちゃ
若いでしょうが、一応」
「誰が良い女だってんだ」
「何か言った、今」
「……一応は余計だって言ったんだ。一応は」
危く地雷を踏みそうになり、慌てて視線をかわす卍であった。
「大体お前の所にだって、女と無縁そうな奴居るだろうが」
「ああ……アレ、ね。アレはほら、半分出家しちゃっている様なもんだから」
脳裏に浮かぶ顰め面の禿げ頭に、百琳は思わず苦笑を洩らした。
「別に女嫌いってわけじゃねえよ。……ただ今はその気が沸かねえだけさ」
卍は再び酒を手にし、杯へと注ぎなおす。
「今は、か。じゃあ最後にしたのって何時」
(何時……そういや、随分と女の柔肌とはご無沙汰だな。てか――)
「お前がそんな事聞いてどうすんだぁ、ったくよ」
男は女のペースに流されてしまいそうな思考を戻し、畳み掛けるように
話を打ち切ろうとした。
だがそれでも尚、女はこの話題を続けたいらしく
「もしかして……さ、それって……り…んちゃんに、会うま……」
閉じてしまいそうな瞼の下の瞳を卍へと向け、優しい微笑を浮かべながら
話しかける。
「何だって此処で、アイツの名前が――」
ピクリと眉を吊り上げた卍は、酒瓶を置き百琳の方を見返した。
「ぐー……」
「ちっ、寝ちまいやがったか」
桃色の頬を腕に乗せ静かな寝息を洩らすその姿に、卍は苦虫を噛み潰す。
そして溢れ返る杯を手にし、
「金がねぇからだ」
まるで溜息を溢すように小さく呟いた。
己の洩らした言葉に酒が幾つかの波紋を作るのをジッと見つめる、それは
まるで自分の心の中をも波打ち広がっていく。すると、
『嘘つき』
しっかりとした口調の女の声が、不意に耳をついた……様な気がした。
だから男は無意識に身を固くし耳を澄ましてみるが、聞こえてくるのは穏やかな
寝息だけであった。
(何をそんなにオタついていんだ、俺はよ)
杯を一息に煽る。
「こんな上物で、悪酔いしちまったってか。くくくっ」
卍はまるで自らを嘲る様に喉を鳴らし、緩慢な動作で立ち上がった。そして、
(妹に欲情する訳ねぇだろう、それじゃ犬畜生以下だぜ)
着物の合わせから覗かせた右手を、無精髭でザラつく顎へと伸ばし
ボリボリと掻きながら部屋を後にした。
ひんやりとした夜風を求め――
『壊れ始めた箍(タガ)』
「よおっ、傷の具合はどうだ」
立ち昇る湯気の向こうから男の声が聞こえる。
「結構いい感じね。湯治場なんて初めてだけど、凄く気に入っちゃった」
白い肌をホンノリと桜色に染め、少女は背中越しに声の主へと返事を返した。
そのよくとおる声を響かせて。
「ったく、あんだけ寄り道に反対していたくせに」
「う…それは……だって無料(ただ)とは思わなかったし」
男の指摘に少女は湯へと沈み込みながら、小さな声で自分を擁護する。
「まあ確かに下諏訪の宿場の方なら、それなりの宿代も取られていただろうけどな」
――下諏訪。
其処は甲州道の終点にして、中山道中の宿場町として多くの旅人で賑わう湯治場であった。
そして諏訪湖のほとりで漸く再会を果たした卍と凛の二人は、
紆余曲折な話し合い(?)を経た結果、その下諏訪からは少しばかり奥まった所にある
この秘湯へと足を運んでいたのだ。
閑話休題。
「でしょう!少ない旅賃の遣り繰りを思うと、ほんとっ頭痛いわ……って卍さん」
「んあ?」
凛の小言が始まるのを察知してか、気の無い返事をする卍。
「ちゃ~んと見張ってくれてるんでしょうね……『一応』用心棒なんだし」
「おめえの色気のねえ身体じゃ、そこらに居る猿も振り向かねえよ」
「それってどういう意味よっ!」
バシャリと勢いよく湯を跳ねさせ、凛はその場で仁王立ちになった。そして、
「こ…これでも近頃は……こう、胸とか腰とか――え、猿?」
濡れた自分を見下ろしながら胸元や腰に手を廻してみるが、何かにふと気付いたらしく、
その動かし続けていた手を休め、ゆっくりと後方へと振り返る。
「何だ、間の抜けた顔して」
白いモヤの中に浮かび上がったシルエットが、
瞳と口とを大きく開けたまま静止する彼女に声をかけた。
すると、
「コレは空いた口が塞がらないって状態で…えっと…それより卍さん?」
徐々に思考を取り戻し始めた唇が、静かに男へと問い返したかと思うと、
次の瞬間――
「何て格好で突っ立ってんのっっっ!馬鹿、変態、助平」
盛大な罵声を発し、そのまま豪快な水音を鳴らししゃがみ込んでしまった。
共に湯浴みに興じていた猿達は言うまでも無く、
近くの森で寛いでいた他の動物達までもが一斉に逃げだす。
「煩せえな……お前こそ馬鹿か?服着て入れる訳ねえだろうが」
フンドシ姿のまま、卍はウンザリ顔で右耳を指で抑える仕草を見せた。
「そういう事を言ってんじゃない!」
的外れな男の言葉に、危く逃げ込んだ湯から又も立ち上がりそうになるのを堪え、
代わりに凛は精一杯声だけを張り上げる。
「ああコレも脱げって事だな」
「だめ!それだけは絶対取っちゃ駄目っ!」
男が腰に手を伸ばすと、凛は慌てて目を閉じその行為を止めにかかった。
「ってことは、この侭ならいい訳だ」
「へっ?」
彼女が薄く目を開けると、無精ヒゲの顔がニヤリとした笑みを浮かべ、
「よっと……」
悪びれる風も無く、ゆったりとした動作で湯へと浸かり始めた。
「ふ~……確かにおめえの言うとおり、コイツは中々効く。…なあ、凛」
「‥‥‥‥‥‥」
卍の言葉に反応もせず背を向けたままの姿で凛は、岩場の陰にそっと身を隠し寄せる。
その態度に溜息を溢した卍は、
「怒ってんのか?……ったく仕方ねえだろう、ほれっ」
岩の向こうから手を伸ばし、晒された彼女の項に触れた。
「ひゃっ!」
温もる肌を突然ヒンヤリとした感覚が襲い、凛は小さな悲鳴を上げ
固くなだったその身を震わせる。
「結構冷えてんだろう?……それに見張りなら此処でも十分果たせるから、そう心配しなさんなや」
岩に肩肘を突き、彼は指先で瑞々しい少女の感触を堪能しながら暢気に話し掛けた。
……次第に赤味を増す肌の変化を目で楽しみながら。
「なあ?凛」
名を呼び、項から背筋へと緩やかに一筋描く。
「も…もうわかったから……んっ、手…退けて。く…くすぐったい」
――ビクンッ
と、一際大きく身を慄かせた凛は、震える声で男の動きを止めさせる。
「ああ」
その言葉に従った卍は少女から手を離し、
固い岩に背を預ける格好で大人しく湯に入り直した。
そして何事も無かった様に、湯煙の向こうにある景色を眺める。
――山の秋は、江戸のそれよりも鮮やかに移ろっていく。
「もう怒ってないから……けど、その代わり」
漸く解放され息を整え終えた彼女は、仕切りなおす様に口を開いた。
「其処から動かない事。いい?」
「へいへい」
「それから、モチロン……」
「‥‥‥‥‥‥」
「どうした、それとも俺に反応して欲しいのか?お前」
喉を鳴らす独特の笑いを浮べ、卍は岩の向こうに居る相手をからかった。
「違います。……もういい、私先に出るから」
「凛」
アッサリとした彼女の様子に拍子抜けし、卍は思わず振り返る。
「どうぞごゆっくり」
「待てって…おい凛」
んな急に動くと滑るぞ――そう彼が言い掛けたその時である、
「きゃっ!」
滑る底面に足を取られた凛は、平衡感覚を失いギュっと目を閉じた。
だが、
「相変わらずだな、おめえは」
彼女の全身を包み込んでいたのはお湯では無く、男のガッシリとした両腕であった。
凛はおそるおそる瞼を上げ、肌に感じる体温をその目で確認する。
「卍さん?」
「大丈夫…か」
ふと見上げた先で見つけた呆れ顔があまりに近く、彼女は直ぐに俯いてしまった。
そうして漸く自分が今、この男に後ろから抱きしめられている事に思い至り、
お湯の熱さとは全く異なる熱に、全身を一気に火照らす。
男の厚い胸と、肌に食い込む節くれだった指の感触……そして吐息の微かな震えもが直に伝わってきた。
「う…うん、ありがとう。……でも、嘘つき」
「なにがだ?」
ワザとなのだろうか――卍は真っ赤に染まる凛の形良い耳に唇を寄せ問いかけた。
「こ…こっち来ちゃ駄目だっ……て言った」
「仕方ねえだろう」
くすぐったさに身じろぎしながら懸命に話す彼女を、彼は楽しそうに眺める。
「それに――」
そこで一旦言葉を切った凛は暫しの逡巡を経て、廻された男の固い二の腕に爪を食い込ませながら、
「反応してる」
柔らかな双丘に押し当たる異物の存在を口にした。
「……ば~か、そりゃあ俺じゃなく脇差しだ。期待させて悪いがな」
「!!!!」
「痛っ!」
いきなり何の前触れも無く卍の腕を鋭い痛みが襲いかかり、思わず力を緩めてしまう。
そして次の瞬間、勢いよく浴びせかけられた湯に視界を奪われ、
「このっ大馬鹿っ!」
「がはっ……」
少女の怒鳴り声を耳にしながら、思い切りその横っ面を叩かれ吹き飛ばされてしまった。
「お先に、卍さん」
完全に男が浮上してこれない状態なのを確認し、凛はその場を後にしていく。
……もちろん今度は慎重に。
そうして1分後。
「…………んん……ぷはっ……へへへっ」
危く失いかけた意識を取り戻し、何とか溺死だけは回避した卍は身体を起こし
額に張り付く前髪を掬い上げながら苦笑を浮かべた。
「そろそろヤバそうだな、俺も」
そうぼやいて、先程噛み付かれた傷を探して視線を腕へと辿らす。
だが確かにあった筈の歯型は既に跡形も無く綺麗に消え、卍にはそれが妙に残念に感じられた。
「確かにお前の言うとおり、嘘つき…だな。けど、今頃は気付いてっかな?」
岩の上に置かれた『打刀』を見遣り、ボリボリと頭を掻く。
そして身体に篭る熱が鎮まるまでの暫し間、独りボンヤリと暮れ行く秋空を眺め続けた。
「よおっ、傷の具合はどうだ」
立ち昇る湯気の向こうから男の声が聞こえる。
「結構いい感じね。湯治場なんて初めてだけど、凄く気に入っちゃった」
白い肌をホンノリと桜色に染め、少女は背中越しに声の主へと返事を返した。
そのよくとおる声を響かせて。
「ったく、あんだけ寄り道に反対していたくせに」
「う…それは……だって無料(ただ)とは思わなかったし」
男の指摘に少女は湯へと沈み込みながら、小さな声で自分を擁護する。
「まあ確かに下諏訪の宿場の方なら、それなりの宿代も取られていただろうけどな」
――下諏訪。
其処は甲州道の終点にして、中山道中の宿場町として多くの旅人で賑わう湯治場であった。
そして諏訪湖のほとりで漸く再会を果たした卍と凛の二人は、
紆余曲折な話し合い(?)を経た結果、その下諏訪からは少しばかり奥まった所にある
この秘湯へと足を運んでいたのだ。
閑話休題。
「でしょう!少ない旅賃の遣り繰りを思うと、ほんとっ頭痛いわ……って卍さん」
「んあ?」
凛の小言が始まるのを察知してか、気の無い返事をする卍。
「ちゃ~んと見張ってくれてるんでしょうね……『一応』用心棒なんだし」
「おめえの色気のねえ身体じゃ、そこらに居る猿も振り向かねえよ」
「それってどういう意味よっ!」
バシャリと勢いよく湯を跳ねさせ、凛はその場で仁王立ちになった。そして、
「こ…これでも近頃は……こう、胸とか腰とか――え、猿?」
濡れた自分を見下ろしながら胸元や腰に手を廻してみるが、何かにふと気付いたらしく、
その動かし続けていた手を休め、ゆっくりと後方へと振り返る。
「何だ、間の抜けた顔して」
白いモヤの中に浮かび上がったシルエットが、
瞳と口とを大きく開けたまま静止する彼女に声をかけた。
すると、
「コレは空いた口が塞がらないって状態で…えっと…それより卍さん?」
徐々に思考を取り戻し始めた唇が、静かに男へと問い返したかと思うと、
次の瞬間――
「何て格好で突っ立ってんのっっっ!馬鹿、変態、助平」
盛大な罵声を発し、そのまま豪快な水音を鳴らししゃがみ込んでしまった。
共に湯浴みに興じていた猿達は言うまでも無く、
近くの森で寛いでいた他の動物達までもが一斉に逃げだす。
「煩せえな……お前こそ馬鹿か?服着て入れる訳ねえだろうが」
フンドシ姿のまま、卍はウンザリ顔で右耳を指で抑える仕草を見せた。
「そういう事を言ってんじゃない!」
的外れな男の言葉に、危く逃げ込んだ湯から又も立ち上がりそうになるのを堪え、
代わりに凛は精一杯声だけを張り上げる。
「ああコレも脱げって事だな」
「だめ!それだけは絶対取っちゃ駄目っ!」
男が腰に手を伸ばすと、凛は慌てて目を閉じその行為を止めにかかった。
「ってことは、この侭ならいい訳だ」
「へっ?」
彼女が薄く目を開けると、無精ヒゲの顔がニヤリとした笑みを浮かべ、
「よっと……」
悪びれる風も無く、ゆったりとした動作で湯へと浸かり始めた。
「ふ~……確かにおめえの言うとおり、コイツは中々効く。…なあ、凛」
「‥‥‥‥‥‥」
卍の言葉に反応もせず背を向けたままの姿で凛は、岩場の陰にそっと身を隠し寄せる。
その態度に溜息を溢した卍は、
「怒ってんのか?……ったく仕方ねえだろう、ほれっ」
岩の向こうから手を伸ばし、晒された彼女の項に触れた。
「ひゃっ!」
温もる肌を突然ヒンヤリとした感覚が襲い、凛は小さな悲鳴を上げ
固くなだったその身を震わせる。
「結構冷えてんだろう?……それに見張りなら此処でも十分果たせるから、そう心配しなさんなや」
岩に肩肘を突き、彼は指先で瑞々しい少女の感触を堪能しながら暢気に話し掛けた。
……次第に赤味を増す肌の変化を目で楽しみながら。
「なあ?凛」
名を呼び、項から背筋へと緩やかに一筋描く。
「も…もうわかったから……んっ、手…退けて。く…くすぐったい」
――ビクンッ
と、一際大きく身を慄かせた凛は、震える声で男の動きを止めさせる。
「ああ」
その言葉に従った卍は少女から手を離し、
固い岩に背を預ける格好で大人しく湯に入り直した。
そして何事も無かった様に、湯煙の向こうにある景色を眺める。
――山の秋は、江戸のそれよりも鮮やかに移ろっていく。
「もう怒ってないから……けど、その代わり」
漸く解放され息を整え終えた彼女は、仕切りなおす様に口を開いた。
「其処から動かない事。いい?」
「へいへい」
「それから、モチロン……」
「‥‥‥‥‥‥」
「どうした、それとも俺に反応して欲しいのか?お前」
喉を鳴らす独特の笑いを浮べ、卍は岩の向こうに居る相手をからかった。
「違います。……もういい、私先に出るから」
「凛」
アッサリとした彼女の様子に拍子抜けし、卍は思わず振り返る。
「どうぞごゆっくり」
「待てって…おい凛」
んな急に動くと滑るぞ――そう彼が言い掛けたその時である、
「きゃっ!」
滑る底面に足を取られた凛は、平衡感覚を失いギュっと目を閉じた。
だが、
「相変わらずだな、おめえは」
彼女の全身を包み込んでいたのはお湯では無く、男のガッシリとした両腕であった。
凛はおそるおそる瞼を上げ、肌に感じる体温をその目で確認する。
「卍さん?」
「大丈夫…か」
ふと見上げた先で見つけた呆れ顔があまりに近く、彼女は直ぐに俯いてしまった。
そうして漸く自分が今、この男に後ろから抱きしめられている事に思い至り、
お湯の熱さとは全く異なる熱に、全身を一気に火照らす。
男の厚い胸と、肌に食い込む節くれだった指の感触……そして吐息の微かな震えもが直に伝わってきた。
「う…うん、ありがとう。……でも、嘘つき」
「なにがだ?」
ワザとなのだろうか――卍は真っ赤に染まる凛の形良い耳に唇を寄せ問いかけた。
「こ…こっち来ちゃ駄目だっ……て言った」
「仕方ねえだろう」
くすぐったさに身じろぎしながら懸命に話す彼女を、彼は楽しそうに眺める。
「それに――」
そこで一旦言葉を切った凛は暫しの逡巡を経て、廻された男の固い二の腕に爪を食い込ませながら、
「反応してる」
柔らかな双丘に押し当たる異物の存在を口にした。
「……ば~か、そりゃあ俺じゃなく脇差しだ。期待させて悪いがな」
「!!!!」
「痛っ!」
いきなり何の前触れも無く卍の腕を鋭い痛みが襲いかかり、思わず力を緩めてしまう。
そして次の瞬間、勢いよく浴びせかけられた湯に視界を奪われ、
「このっ大馬鹿っ!」
「がはっ……」
少女の怒鳴り声を耳にしながら、思い切りその横っ面を叩かれ吹き飛ばされてしまった。
「お先に、卍さん」
完全に男が浮上してこれない状態なのを確認し、凛はその場を後にしていく。
……もちろん今度は慎重に。
そうして1分後。
「…………んん……ぷはっ……へへへっ」
危く失いかけた意識を取り戻し、何とか溺死だけは回避した卍は身体を起こし
額に張り付く前髪を掬い上げながら苦笑を浮かべた。
「そろそろヤバそうだな、俺も」
そうぼやいて、先程噛み付かれた傷を探して視線を腕へと辿らす。
だが確かにあった筈の歯型は既に跡形も無く綺麗に消え、卍にはそれが妙に残念に感じられた。
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ザザー……
ある港町。船乗り達が色々なものが入った大きな箱を担いでせわしなく行き来している。その上では、ウミネコがミャアミャアと鳴きな
がら空を旋回していた。
ある若者が港の桟橋を散歩していた。青い空を見上げて、今日も暑いなあ、と呟く。服をぱたぱたやって服の中に風を送りながら海に目
をやると、波に揺れる水面が強い日差しを反射させて彼の目を灼いた。反射的に目を逸らすと、水平線の向こうにはバベルの塔のように
天高くそそり立つ入道雲。目下は快晴であるが、風向きを考えると明日くらいには雨が来るだろう。そんな事を考える。
と、水平線の上に黒い点のようなものが見えた。
「……ん?」
一隻の見慣れぬ船が港に向かってきていた。
★ ☆ ★ ☆
ある船の一室。
一人の男が机に向かってなにやら作業をしていた。黒いズボンに黒いベルト、膝下まである長い丈の黒いコートを裸の上に直接着るとい
う、なんだかよくわからない格好をしている。しかもこれまた黒いサングラスをかけており、机の上に置かれている周囲に長いつばのつ
いた黒い帽子は、もはや疑いようもなく男の物であろう。
時折垂れる前髪をうざったそうに払いながら、熱心に作業を続ける黒い男。なんだか奇妙な図であった。
扉の外でトタトタと誰かが走る音が聞こえて来る。その音は段々近づいてきて、やがて扉が勢いよく開いた。
バキィッ!!
ガスッ! ゴツッ!
「あがッ! いッ!いてェェエ!!??」
少々勢いが良すぎたようで、開いた扉は見事に男の後頭部に激突。男は机と椅子とその他周囲のものを巻き込んで崩れ落ちた。
悶絶する男に向かって、扉を開けた……もとい、蹴破った主が爽やかに言った。
「ジョニーったら、こんなとこで何やってんだよー! 暗いよー。 こんな日陰で遊んでないで、外に出よっ? ねっ、アタシと一緒に
夕陽を見ながら情熱的な一時を過ごそうよっ!」
「うるせぇェっっ!」
額と後頭部を押さえながら、ジョニーが怒鳴った。どうやら後頭部に受けた衝撃でつんのめって机にヘッドバットをかましたらしい。
「やだー、誰も見てないんだからそんな照れなくったってぇ♪」
「違うっつってん……あーテメ、また蝶番ちょうつがいブッ壊しやがったな! 何個目だと思ってんだ!」
過度の力を受けてイビツに変形してしまった金属片を見て、ジョニーが叫んだ。
「えーと……昨日2コ壊したからー、……、26コ目かな?」
「今朝もやったから27個だ! ったく……いっそドアはやめて開き戸にしちまうか……」
「あ、開き戸ってあの西部劇のバーみたいなアレ? いいねっ、そうしよっ!」
手放しで喜んでいる少女には反省する様子が微塵もない。ジョニーはがっくりとうな垂れた。こいつちっとも反省してやがらねぇ……。
少女に説教をするのを諦めて、散乱した机や椅子を元に戻し始めるジョニー。その背中に向かって少女が声をかける。
「ねージョニー、外に行こうよー」
「あー? 外に出ても夕陽は見えねえぜ、まだ10時だ。 つーか俺は今忙しいんだよ、ちょっとあっち行ってろ」
言いながら、ようやく元の配置に戻し終えた(扉以外)ジョニーは再び机に向かった
少女がジョニーの手元を覗き込む。
「何やってるの?」
「見りゃわかるだろ、旗だよ。 快賊旗。 こないだウミネコが突っ込んで破れちまったからな、補修ついでにちょっと改良を加」
「わージョニーったら顔に似合わず家庭的ー! 素敵っ! 尊敬しちゃう惚れ直しちゃうー!」
「テメーは自分で話振っといてほったらかしかい!」
怒鳴るジョニーだが、少女には全く意に介した様子はなく、逆にジョニーにしがみ付いて肩に顔を埋めて離れようとしない。
ジョニーは既に少女に対して何かを諦めているようで、肩をすくめて再び作業に戻った。
そのまましばらくジョニーの作業が続く。彼の器用な針さばきは中々のもので、補修、補強、そしてちょっとした刺繍まで入れてしまっ
た。少女はうっとりとその作業に見とれている。
と、そこへ誰かが部屋の前を通りかかった。扉が壊れているのに気付いて部屋の中を覗き、少女の背中を見つけると、ため息をついて言
った。
「メイさん、またやっちゃったんですね……」
「あっ、ディズィー!」
その場違いに明るい声に、ディズィーは思わず苦笑いを浮かべた。バンダナから伸びる青い髪とリボンを巻いた尻尾を揺らしながら部屋
に入る。
「これで27個目ですよね……」
「うーん、ジョニーの事となるとついつい我を忘れてやっちゃうんだよね……。 ごめんね、また直してくれない?」
「「はぁ……」」
ディズィーとジョニーのため息が重なる。
「ディズィー、悪いが頼む」
「いえ、それは構いませんけど……、でも蝶番、確かあと3つしかありませんよ」
「まあもうすぐ町につくから大丈夫だと思うが……」
「とりあえず後で直しておきますね」
「おう、助かる」
「サンキューッ、ディズィー!」
「「はぁ……」」
★ ☆ ★ ☆
船籍不明の船がやって来たという事で港町は騒然となったが、しかしその騒ぎはすぐに収まった。船籍が判明したからだ。
謎の船を確認してすぐ、港からは使いとして船を出した。十分な警戒をしつつその船に接触し、そして身元を確認したのである。
ジョニー快賊団。
義賊として名を馳せており、その組織は、創始者のジョニー以下全て身寄りを失った戦災孤児で構成されている。
中でもジョニーとメイの両名はその筋ではかなり有名で、賞金取りまがいの事をして各地を回っているのである。この地にも何度か訪れ
た事はあった。
「なんでアタシ達だってわかんなかったんだろうね?」
「旗をつけてなかったからだろうな」
「あ、そっか」
「テメーが邪魔すっから遅くなったんだぞ」
「ごめんごめん。 さ、降りよっか! まずは蝶番だねっ!」
「テメー聞いてねぇな……」
★ ☆ ★ ☆
ところが、ここで問題が発生した。
ジョニーとメイを先頭に快賊団の面々が船を下りると、各々が思い思いに久々の陸で小休止をとっていた。
しかし、突然船の方が何やら騒がしくなった。
「……ん? なんかあっちの方で騒いでねぇか?」
「うん、そうだね……なんだろ? 行ってみよっか」
ジョニーとメイが並んで歩くと物凄い身長差があった。ジョニーは184cmの長身であり、一方のメイは158㎝、頭一つ分違う。
喧騒に近づいてきた辺りで、突然ジョニーが立ち止まった。サングラスの下で目がスッと細められる。
メイも立ち止まり、何事かとジョニーを見遣る。ジョニーが何かを言うのを待っているようだった。
しかし、突然ジョニーの顔は緩み、笑いながら言った。
「あーんだよ、あいつら転んでもみくちゃになってんじゃねーか……しょーがねぇなァ。。 おいメイ、もう戻ってていいぞ」
「……? うん……」
怪訝そうな顔をしたものの、ジョニーがそう言うのならば、といった感じで踵を返すメイ。そしてジョニーは喧騒の中へ入って行った。
ジョニーには見えたのだ。喧騒の中で人の輪ができていたのを。そして、その中には、ディズィーがいた。
それだけで、大体の予想はついた。
「チッ、こんなとこメイが見たらブチ切れて大暴れしかねねェしな……。ここは俺がなんとかするしかねぇか……」
人ごみを掻き分けて喧騒の中心へ辿り着くと、ディズィーを快賊団の女の子達が守るように立っていて、それに詰め寄るように港の人間
が押し寄せていた。双方譲らずに激しく言い争っているが、はっきり言って平行線で、とても決着が着くとは思えない。ディズィーはジ
ョニーの姿を認めると、救いを求めるような目で彼を見た。ジョニーは頷いた。
「あー、あー、ちょっとてめェら聞いてくれ」
「なんなんだあんたは!」
「俺はこの船の責任者だ」
それは静かな声だったが、不思議とよく透った。
周囲がどよめく。帽子、サングラス、服、そしてその手に握られた刀に視線が移る。
群集から一人の男が一歩前に出た。どうやらそいつが港の責任者のようだった。
「あ……、あんたがジョニーか」
「そうだ。 なんなんだ、この騒ぎは?」
「そ、そうだ! おいアンタ、こいつはなんだ?!」
言って男はディズィーを指差した。ディズィーがビクリと身を固くする。
「尻尾が生えてるじゃないか。 人間じゃない、ギアなんだぞ! あんたが戦災孤児を集めてるのは知ってるが、なんでこんな奴が混じ
ってるんだ!」
男の発言に同調するように、人ごみから「そうだそうだ!」「ギアなんか連れてくんな!」等という罵声が飛び交った。中には耳を覆い
たくなるような言葉もあった。男勝ち誇ったように言い放った。
「さあ、ギアを引き渡してくれ!」
ディズィーが俯き、快賊団の女の子達の顔が怒りに朱に染まる。今にも爆発しそうだったが、ジョニーが腕を上げてそれを抑える。
「俺は戦災孤児を集めているわけじゃない、居場所をなくした者に居場所を作ってやっているだけだ。 それはギアだろうと人間だろう
と、関係無い」
「ギアと馴れ合うつもりか? 滅茶苦茶だ! ギアは人間の敵なんだ。 知ってるぞ、アンタの親父だってギアに殺されたんだろう!」
「……なんだと……?」
ジョニーの声に気が篭る。サングラスに隠れて見えないが、しかし男はその視線に射抜かれて一瞬声を失った。
「……っひ」
「ギアが本当に人間の敵なら、俺達と彼女はどうなんだ。 俺達は実際に彼女と一緒にいて、そしてうまくいっている。 何の問題もな
い……彼女は俺達の仲間だ。 何も知らんくせに知ったような口を利くなッ」
「し、しかし……こ、この町の人は、そう思うかどうか……」
「…………」
急にしどろもどろになった男を見て、後ろで様子を見ていた快賊団の雰囲気がようやく緩んできた。そして、
「ジョニーさん……」
ディズィーの目の端には雫が溜まっていた。その言葉は、彼女が生まれてからずっと求めていた言葉だったのだ。
そして、そのお陰で勇気が出た。涙を拭うと、ディズィーは意を決して立ち上がった。
「あ、あのっ……」
視線が一瞬に集まる。怯え、戸惑いながらも、ディズィーは言った。
「私……皆さんに何かをしようという気は全くありませんが、でも、ギアというだけで怯えさせてしまうんです。 それはもう仕方のな
い事……。 だから、私は船で待ってますから、快賊団のみんなは町に行ってて下さい。 私は船でお留守番をしてますから……」
「……ディズィー」
サングラスごしに、ディズィーとジョニーの目が合う。「いいんです」、とディズィーは微笑んだ。
それは、未だ悲しみも湛えてはいたが、しかし納得が済んだ目だった。諦めではなく、納得を。
「……そういう事で、どうにかならねぇか?」
ジョニーが港の責任者の男に向き直って言う。
男も、なんというか、納得はいかないが、これ以上ゴネるとなんだか取り返しのつかない事になりそうに感じたので、
「……やむを得ん」
と呟いた。そして「しかしここにギアがいると町の人間に知れたら、すぐに出て行ってもらうぞ」と付け加えた。
こうして、騒動は双方が妥協する形でひとまず落ち着いた。
★ ☆ ★ ☆
騒ぎを片付けて戻ると、メイが頬を膨らませて待っていた。
「ジョーニーおーそーいーよー……」
「おー、わりぃわりぃ」
「あれ、ディズィーは? 下りたら蝶番買いに行くって言ってたのに」
「……あー、あいつならちょっと体調崩して船に残ってるから俺達で買いに行って来ようぜ」
「え? そうなの? ディズィー大丈夫かなぁ……」
★ ☆ ★ ☆
夜。
一日行動を共にしたジョニーとメイは、宿をとって休む事にした。
「やったっ! ジョニーと一緒の部屋だーっ!」
「あーうるせぇ……くそっ、部屋さえ空いてれば二部屋取ったんだが……」
「わーいっ!」
★ ☆ ★ ☆
「さて、明日も早い事だしそろそろ寝るか……ん?」
ベッドに腰掛けたジョニーが違和感に気付く。
「……何してる、メイ?」
「ぎくっ」
膨らんだ布団の中から声が聞こえた。しかし、そのまま黙り込む。
……しーん。
「…………」
「…………」
しーん。
「…………」
「…………」
しーん。
「何やってんだっつってんだよ!」
がばっ!
「きゃーん! ジョニーのエッチー!」
「えっ、あっ、ええっ!?」
沈黙に耐え切れずにジョニーが布団を捲り上げると、そこには全裸のメイがいた。
「きゃー! えっちーすけっちーわんたっちー!」
「3年たったらモンチッチ……って違うだろオイ!」
「なんでジョニーが怒ってんのよー逆ギレだよー」
一瞬パニックに陥ってしまったジョニーだったが、すぐに冷静に戻った。というのも、メイが意外と普通だったからだ。
…………。
「……ちょっと待て」
「はい、なんでしょう」
ベッドの上に座り、布団で前を隠しながらメイが応える。
「そこは誰のベッドだ?」
「ジョニーのです」
「お前のベッドは?」
「あっちのです」
「お前がいるべき場所は?」
「ここのです」
「なんでだよ!」
なんだかよくわからない空気になりつつジョニーが突っ込む。
「だってー、ジョニーの場所はアタシの場所だもんっ」
「『だって』って全然順接になってないじゃねぇか!」
「えー、いいじゃんいいじゃーん! ねぇジョニー、一緒に寝よ♪」
そう言うと、メイががばっとジョニーに抱きついた。
「お、おい……」
「しなだれかかってくるメイを思わず抱きとめたジョニーは、思いのほか柔らかいその肌に思わず……」
「勝手なナレーションを入れんな!」
「でもその手はなんなの?」
「ん? ……あ」
ジョニーは自分がメイを抱き締め返している事に気付いていなかった。
「ジョニーったら、積極的なんだから……♪」
「あ、いや、これはその……」
手は離したものの、バツが悪そうに頭をかくジョニー。視線はちらちらとメイの裸体へ行っている。
メイはここぞとばかりに畳み掛けた。
「ね、ジョニー……、お願い……」
「メ、メイ……」
★ ☆ ★ ☆
「……で、なんでわざわざ服着させるの?」
「読者の想像力を膨らませるためだ」
「読者?」
「ま、気にすんな。 俺の趣味でもある」
「やーん、ジョニーったら……」
そう言ってメイは少し頬を朱に染める。”どうでもいい”みたいな反応をされるとそういう事に対して恥ずかしさはあまり感じないのだ
が、こうやって意識されると、逆にとても恥ずかしくなる。
(う、うわー、どうしよ……いざとなると……)
半ばパニックになってジョニーに背中を向けてしまうメイ。心臓に手を当てて落ち着こうと深呼吸をする。
吸ってー、
吐いてー。
吸ってー、
吐いてー。
吸ってー、
吐「メイ?」
激しく咳き込むメイ。ジョニーは不思議そうにそれを見ている。
「メイ?」
「いきなり話し掛けないでよぉっ! もうっ、ジョニーったらっ!」
「……なんかよくわからんが、まあそれじゃ」
ぱくっ、といった感じでメイを抱き締めるジョニー。
メイは、せっかく落ち着けた心臓がまた一気に高鳴るのを感じた。ジョニーからメイを抱き締めたのは初めてだった。
「ジョニー……?」
「咳き込んじまって……酸素が足りないなら、俺が人工呼吸してやるよ」
気障っぽくそう言うと、メイの反応を待たずにジョニーはメイの唇を奪った。
「…………ん」
「……ちゅ……チュッ……」
そのままキスは大人のキスへと変わっていく。子供のような矮躯のメイと普通人に比べて背の高い方であるジョニーとが抱き合うと、メ
イの小ささが一層際立って、まるで幼い子供を抱いているような背徳感をジョニーに感じさせた。
「れろ……むぅ……」
「……ん……ちゅっ……」
これが初めてのキスであるメイは、しかしそうとは思えないほど積極的にジョニーを求めた。
やがて唇をジョニーが離すと、二人の唇をツーっと唾液の線が結んだ。メイが名残惜しそうにジョニーを見上げる。
「もっといい事してやるから……」
「じょにぃ……」
★ ☆ ★ ☆
ジョニーの手がメイのベルトを外す。メイはされるがままにぼんやりとそれを見ている。
ベルトを外し終え、足を撫でさすりながらスパッツを脱がせにかかった。
ふくらはぎから太股、外側、内側、マッサージをするように行ったり来たりする。メイは相変わらずぼんやりしていた。内腿で少し指を
立ててみると、メイがピクリと動いた。ジョニーは満足げに、再び愛撫を再開する。
「ふぁ……はぁ……」
いつの間にかメイの唇が開いていた。頬は紅潮し、目は潤んでいる。ジョニーはスパッツを脱がせた。それだけでまたメイは反応した。
そのままワンピースの服も取り去ると、アンダーシャツとショーツだけになる。メイは横を向いた。顔が真っ赤になっているのを自覚し
ていた。
アンダーシャツの上からささやかな双丘に触れると、メイの眉が寄った。そのまま円を描くように撫でてやると、メイは下唇を噛んで声
を必死に抑えた。
その反応を見るのはかわいくて楽しかったが、必死そうな顔を見ているとこのまま焦らすのもかわいそうに思えたので、ジョニーはアン
ダーシャツも脱がしてしまった。これでメイは下着だけになった。
「へ、変かな……?」
「ん?」
メイはスポーツブラをつけていた。胸はまだそんなに膨らんでいないからだったが、メイはその事を気にしているようだった。
「ジョニーも、胸おっきい方が好きだよね……」
「まあな」
ジョニーが正直に応えると、メイは悲しそうな顔をした。
「ごめんね、これからもっとおっきくなるから……」
「ちっちゃいのも嫌いじゃねぇからいいよ」
そう言うと、ジョニーはスポーツブラの中に手を入れた。
「ひゃっ!」
「感度が良ければそれでいい……」
「じょっ……ふぁっ……やぁっ!」
片手で胸をいじりつつ、空いた手で器用にブラを脱がせてしまう。これでメイがつけている衣類はショーツだけとなった。
胸を揉みながら、もう一方の手が遂にメイの秘部に向かった。
ショーツの上からそっと筋を撫でると、既にメイはもう濡れているようだった。
「気持ちいいか?」
「ん……、じょ……ぃ……」
息も絶え絶えに、メイは答える。
「なあメイ」
ジョニーは訊ねた。
「……怖くないのか?」
「……ジョニーなら、いいの」
「……そうか」
メイは子供のような思考をする。わがままで手がつけられない問題児だ。しかし、情熱的で一途でもある。
メイは続ける。
「アタシにはジョニーがいるの。 アタシにはジョニーしかいらないの。 ジョニーならアタシはなんでもいいの」
「……メイ」
「ね、だから、離れないでね? ずっと傍にいてね? アタシを嫌いにならないでね?」
「……わかったよ」
「……ジョニー」
メイの瞳から涙が溢れた。それが何故だかメイにはわからなかったが、しかし涙は止まらなかった。
それは、ジョニーを心の底から愛した証だった。それを失う事が恐ろしくて、それで流れた涙だった。
ジョニーがショーツを取り払った。メイの部分が露になる。
指でそこを刺激してみる。
「あぁんっ! ……ふぁっ!」
メイは体を弓なりに逸らせて感じた。その部分はもはやビショビショになっている。
挿入は座位で行う事にした。ジョニーとメイの体格差ならそれが一番いいように思えたからだ。メイを抱いてやれるからだった。
「行くぞ……」
「うん」
ずっ
メイの処女が散った。その証がジョニーの腿を伝って下に垂れたが、メイはあまり痛みを感じなかった。喜びだけだった。
また一滴、涙が頬を伝った。
「痛いのか?」
「ううん……嬉しいだけ……」
そうか、と言ってジョニーはメイにキスをした。なんと言っても直後は痛いだろうというジョニーの配慮だった。
(たばこの匂い……、ジョニーの匂い……。アタシを拾ってくれたひと。アタシに名前をくれたひと。いちばん大事なひと……)
「ジョニー」
「ん?」
「動いていいよ」
「……ん」
「アタシで気持ち良くなってね」
「……ん」
ジョニーがそっと動き出す。メイはひり付くような痛みを覚えたが、しかし唇を噛み締めて堪えた。
キスをする。唾液の交換をすると溢れた唾液が口の端から顎を伝って結合部へ落ちた。それから、何故かあまり痛みを感じなくなった。
「ちゅっ……ちゅば……」
「っはぁ……はあっ……んぁっ……」
いつしか、メイは自分からも腰を動かしていた。ジョニーの首に手を回し、ジョニーの目を見つめながら、メイは行為に溺れた。
「はぁん!ふぁっ、やあ、ふぁっ!」
「はっ、あっ!んんっ!んあっ!」
淫猥な音が部屋に響いたが、メイの耳にはもはやその音すら聞こえなかった。あるのはただ二人の鼓動と、息遣いだけだった。
「ジョニー気持ちい……?」
「ん?」
「アタシの、中……気持ちい、かなっ?」
「……ああ……」
「……ふぁっ……!? 中で……おっきくっ……!」
そして……二人の距離が狭まっていく。
「じょっ、にぃっ、こわいよっ、何かっ……、ジョニー!」
「大丈夫、俺はここにいるから……メイ、そろそろいくぞっ……」
「じょにぃ……好きっ、だいすきぃっ……!!」
「クッ……!」
どくん!
そしてジョニーは、メイの中で果てた。
★ ☆ ★ ☆
そしてまた海の上。相変わらず子供のようなやり取りをしているジョニーとメイの前をディズィーが通りがかった。
「あ、ねえ、メイさん。 あの港町で何かあったんですか?」
「え、え!? な、何にもないよっ! ディズィーがなんでそんな事知ってるのっ!?」
「こ、こらテメェ墓穴掘ってんじゃねェ! あ、いや、なんでもないんだ。 しかしディズィー、なんでそう思ったんだ?」
「あ、別にたいした事じゃないんで……あ、いや。 あの港町を出てから、メイさんが扉を壊す事がなくなったから……」
「「あー。」」
メイとジョニーの声がハモる。
「……?」
「ああ、うん、すっげぇ説教しといたからな、俺」
「そ、そうそう。 ……はぁ。凄かったぁ、ジョニーの説教……」
「ば、ばか……!」
「……???」
そそくさと立ち去る二人を不思議そうに見送るディズィーであった。
「でも……この買い置きの50個の蝶番、どうしよう……」
fin
★ ☆ ★ ☆
2004年10月3日、14:56:40
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ザザー……
ある港町。船乗り達が色々なものが入った大きな箱を担いでせわしなく行き来している。その上では、ウミネコがミャアミャアと鳴きな
がら空を旋回していた。
ある若者が港の桟橋を散歩していた。青い空を見上げて、今日も暑いなあ、と呟く。服をぱたぱたやって服の中に風を送りながら海に目
をやると、波に揺れる水面が強い日差しを反射させて彼の目を灼いた。反射的に目を逸らすと、水平線の向こうにはバベルの塔のように
天高くそそり立つ入道雲。目下は快晴であるが、風向きを考えると明日くらいには雨が来るだろう。そんな事を考える。
と、水平線の上に黒い点のようなものが見えた。
「……ん?」
一隻の見慣れぬ船が港に向かってきていた。
★ ☆ ★ ☆
ある船の一室。
一人の男が机に向かってなにやら作業をしていた。黒いズボンに黒いベルト、膝下まである長い丈の黒いコートを裸の上に直接着るとい
う、なんだかよくわからない格好をしている。しかもこれまた黒いサングラスをかけており、机の上に置かれている周囲に長いつばのつ
いた黒い帽子は、もはや疑いようもなく男の物であろう。
時折垂れる前髪をうざったそうに払いながら、熱心に作業を続ける黒い男。なんだか奇妙な図であった。
扉の外でトタトタと誰かが走る音が聞こえて来る。その音は段々近づいてきて、やがて扉が勢いよく開いた。
バキィッ!!
ガスッ! ゴツッ!
「あがッ! いッ!いてェェエ!!??」
少々勢いが良すぎたようで、開いた扉は見事に男の後頭部に激突。男は机と椅子とその他周囲のものを巻き込んで崩れ落ちた。
悶絶する男に向かって、扉を開けた……もとい、蹴破った主が爽やかに言った。
「ジョニーったら、こんなとこで何やってんだよー! 暗いよー。 こんな日陰で遊んでないで、外に出よっ? ねっ、アタシと一緒に
夕陽を見ながら情熱的な一時を過ごそうよっ!」
「うるせぇェっっ!」
額と後頭部を押さえながら、ジョニーが怒鳴った。どうやら後頭部に受けた衝撃でつんのめって机にヘッドバットをかましたらしい。
「やだー、誰も見てないんだからそんな照れなくったってぇ♪」
「違うっつってん……あーテメ、また蝶番ちょうつがいブッ壊しやがったな! 何個目だと思ってんだ!」
過度の力を受けてイビツに変形してしまった金属片を見て、ジョニーが叫んだ。
「えーと……昨日2コ壊したからー、……、26コ目かな?」
「今朝もやったから27個だ! ったく……いっそドアはやめて開き戸にしちまうか……」
「あ、開き戸ってあの西部劇のバーみたいなアレ? いいねっ、そうしよっ!」
手放しで喜んでいる少女には反省する様子が微塵もない。ジョニーはがっくりとうな垂れた。こいつちっとも反省してやがらねぇ……。
少女に説教をするのを諦めて、散乱した机や椅子を元に戻し始めるジョニー。その背中に向かって少女が声をかける。
「ねージョニー、外に行こうよー」
「あー? 外に出ても夕陽は見えねえぜ、まだ10時だ。 つーか俺は今忙しいんだよ、ちょっとあっち行ってろ」
言いながら、ようやく元の配置に戻し終えた(扉以外)ジョニーは再び机に向かった
少女がジョニーの手元を覗き込む。
「何やってるの?」
「見りゃわかるだろ、旗だよ。 快賊旗。 こないだウミネコが突っ込んで破れちまったからな、補修ついでにちょっと改良を加」
「わージョニーったら顔に似合わず家庭的ー! 素敵っ! 尊敬しちゃう惚れ直しちゃうー!」
「テメーは自分で話振っといてほったらかしかい!」
怒鳴るジョニーだが、少女には全く意に介した様子はなく、逆にジョニーにしがみ付いて肩に顔を埋めて離れようとしない。
ジョニーは既に少女に対して何かを諦めているようで、肩をすくめて再び作業に戻った。
そのまましばらくジョニーの作業が続く。彼の器用な針さばきは中々のもので、補修、補強、そしてちょっとした刺繍まで入れてしまっ
た。少女はうっとりとその作業に見とれている。
と、そこへ誰かが部屋の前を通りかかった。扉が壊れているのに気付いて部屋の中を覗き、少女の背中を見つけると、ため息をついて言
った。
「メイさん、またやっちゃったんですね……」
「あっ、ディズィー!」
その場違いに明るい声に、ディズィーは思わず苦笑いを浮かべた。バンダナから伸びる青い髪とリボンを巻いた尻尾を揺らしながら部屋
に入る。
「これで27個目ですよね……」
「うーん、ジョニーの事となるとついつい我を忘れてやっちゃうんだよね……。 ごめんね、また直してくれない?」
「「はぁ……」」
ディズィーとジョニーのため息が重なる。
「ディズィー、悪いが頼む」
「いえ、それは構いませんけど……、でも蝶番、確かあと3つしかありませんよ」
「まあもうすぐ町につくから大丈夫だと思うが……」
「とりあえず後で直しておきますね」
「おう、助かる」
「サンキューッ、ディズィー!」
「「はぁ……」」
★ ☆ ★ ☆
船籍不明の船がやって来たという事で港町は騒然となったが、しかしその騒ぎはすぐに収まった。船籍が判明したからだ。
謎の船を確認してすぐ、港からは使いとして船を出した。十分な警戒をしつつその船に接触し、そして身元を確認したのである。
ジョニー快賊団。
義賊として名を馳せており、その組織は、創始者のジョニー以下全て身寄りを失った戦災孤児で構成されている。
中でもジョニーとメイの両名はその筋ではかなり有名で、賞金取りまがいの事をして各地を回っているのである。この地にも何度か訪れ
た事はあった。
「なんでアタシ達だってわかんなかったんだろうね?」
「旗をつけてなかったからだろうな」
「あ、そっか」
「テメーが邪魔すっから遅くなったんだぞ」
「ごめんごめん。 さ、降りよっか! まずは蝶番だねっ!」
「テメー聞いてねぇな……」
★ ☆ ★ ☆
ところが、ここで問題が発生した。
ジョニーとメイを先頭に快賊団の面々が船を下りると、各々が思い思いに久々の陸で小休止をとっていた。
しかし、突然船の方が何やら騒がしくなった。
「……ん? なんかあっちの方で騒いでねぇか?」
「うん、そうだね……なんだろ? 行ってみよっか」
ジョニーとメイが並んで歩くと物凄い身長差があった。ジョニーは184cmの長身であり、一方のメイは158㎝、頭一つ分違う。
喧騒に近づいてきた辺りで、突然ジョニーが立ち止まった。サングラスの下で目がスッと細められる。
メイも立ち止まり、何事かとジョニーを見遣る。ジョニーが何かを言うのを待っているようだった。
しかし、突然ジョニーの顔は緩み、笑いながら言った。
「あーんだよ、あいつら転んでもみくちゃになってんじゃねーか……しょーがねぇなァ。。 おいメイ、もう戻ってていいぞ」
「……? うん……」
怪訝そうな顔をしたものの、ジョニーがそう言うのならば、といった感じで踵を返すメイ。そしてジョニーは喧騒の中へ入って行った。
ジョニーには見えたのだ。喧騒の中で人の輪ができていたのを。そして、その中には、ディズィーがいた。
それだけで、大体の予想はついた。
「チッ、こんなとこメイが見たらブチ切れて大暴れしかねねェしな……。ここは俺がなんとかするしかねぇか……」
人ごみを掻き分けて喧騒の中心へ辿り着くと、ディズィーを快賊団の女の子達が守るように立っていて、それに詰め寄るように港の人間
が押し寄せていた。双方譲らずに激しく言い争っているが、はっきり言って平行線で、とても決着が着くとは思えない。ディズィーはジ
ョニーの姿を認めると、救いを求めるような目で彼を見た。ジョニーは頷いた。
「あー、あー、ちょっとてめェら聞いてくれ」
「なんなんだあんたは!」
「俺はこの船の責任者だ」
それは静かな声だったが、不思議とよく透った。
周囲がどよめく。帽子、サングラス、服、そしてその手に握られた刀に視線が移る。
群集から一人の男が一歩前に出た。どうやらそいつが港の責任者のようだった。
「あ……、あんたがジョニーか」
「そうだ。 なんなんだ、この騒ぎは?」
「そ、そうだ! おいアンタ、こいつはなんだ?!」
言って男はディズィーを指差した。ディズィーがビクリと身を固くする。
「尻尾が生えてるじゃないか。 人間じゃない、ギアなんだぞ! あんたが戦災孤児を集めてるのは知ってるが、なんでこんな奴が混じ
ってるんだ!」
男の発言に同調するように、人ごみから「そうだそうだ!」「ギアなんか連れてくんな!」等という罵声が飛び交った。中には耳を覆い
たくなるような言葉もあった。男勝ち誇ったように言い放った。
「さあ、ギアを引き渡してくれ!」
ディズィーが俯き、快賊団の女の子達の顔が怒りに朱に染まる。今にも爆発しそうだったが、ジョニーが腕を上げてそれを抑える。
「俺は戦災孤児を集めているわけじゃない、居場所をなくした者に居場所を作ってやっているだけだ。 それはギアだろうと人間だろう
と、関係無い」
「ギアと馴れ合うつもりか? 滅茶苦茶だ! ギアは人間の敵なんだ。 知ってるぞ、アンタの親父だってギアに殺されたんだろう!」
「……なんだと……?」
ジョニーの声に気が篭る。サングラスに隠れて見えないが、しかし男はその視線に射抜かれて一瞬声を失った。
「……っひ」
「ギアが本当に人間の敵なら、俺達と彼女はどうなんだ。 俺達は実際に彼女と一緒にいて、そしてうまくいっている。 何の問題もな
い……彼女は俺達の仲間だ。 何も知らんくせに知ったような口を利くなッ」
「し、しかし……こ、この町の人は、そう思うかどうか……」
「…………」
急にしどろもどろになった男を見て、後ろで様子を見ていた快賊団の雰囲気がようやく緩んできた。そして、
「ジョニーさん……」
ディズィーの目の端には雫が溜まっていた。その言葉は、彼女が生まれてからずっと求めていた言葉だったのだ。
そして、そのお陰で勇気が出た。涙を拭うと、ディズィーは意を決して立ち上がった。
「あ、あのっ……」
視線が一瞬に集まる。怯え、戸惑いながらも、ディズィーは言った。
「私……皆さんに何かをしようという気は全くありませんが、でも、ギアというだけで怯えさせてしまうんです。 それはもう仕方のな
い事……。 だから、私は船で待ってますから、快賊団のみんなは町に行ってて下さい。 私は船でお留守番をしてますから……」
「……ディズィー」
サングラスごしに、ディズィーとジョニーの目が合う。「いいんです」、とディズィーは微笑んだ。
それは、未だ悲しみも湛えてはいたが、しかし納得が済んだ目だった。諦めではなく、納得を。
「……そういう事で、どうにかならねぇか?」
ジョニーが港の責任者の男に向き直って言う。
男も、なんというか、納得はいかないが、これ以上ゴネるとなんだか取り返しのつかない事になりそうに感じたので、
「……やむを得ん」
と呟いた。そして「しかしここにギアがいると町の人間に知れたら、すぐに出て行ってもらうぞ」と付け加えた。
こうして、騒動は双方が妥協する形でひとまず落ち着いた。
★ ☆ ★ ☆
騒ぎを片付けて戻ると、メイが頬を膨らませて待っていた。
「ジョーニーおーそーいーよー……」
「おー、わりぃわりぃ」
「あれ、ディズィーは? 下りたら蝶番買いに行くって言ってたのに」
「……あー、あいつならちょっと体調崩して船に残ってるから俺達で買いに行って来ようぜ」
「え? そうなの? ディズィー大丈夫かなぁ……」
★ ☆ ★ ☆
夜。
一日行動を共にしたジョニーとメイは、宿をとって休む事にした。
「やったっ! ジョニーと一緒の部屋だーっ!」
「あーうるせぇ……くそっ、部屋さえ空いてれば二部屋取ったんだが……」
「わーいっ!」
★ ☆ ★ ☆
「さて、明日も早い事だしそろそろ寝るか……ん?」
ベッドに腰掛けたジョニーが違和感に気付く。
「……何してる、メイ?」
「ぎくっ」
膨らんだ布団の中から声が聞こえた。しかし、そのまま黙り込む。
……しーん。
「…………」
「…………」
しーん。
「…………」
「…………」
しーん。
「何やってんだっつってんだよ!」
がばっ!
「きゃーん! ジョニーのエッチー!」
「えっ、あっ、ええっ!?」
沈黙に耐え切れずにジョニーが布団を捲り上げると、そこには全裸のメイがいた。
「きゃー! えっちーすけっちーわんたっちー!」
「3年たったらモンチッチ……って違うだろオイ!」
「なんでジョニーが怒ってんのよー逆ギレだよー」
一瞬パニックに陥ってしまったジョニーだったが、すぐに冷静に戻った。というのも、メイが意外と普通だったからだ。
…………。
「……ちょっと待て」
「はい、なんでしょう」
ベッドの上に座り、布団で前を隠しながらメイが応える。
「そこは誰のベッドだ?」
「ジョニーのです」
「お前のベッドは?」
「あっちのです」
「お前がいるべき場所は?」
「ここのです」
「なんでだよ!」
なんだかよくわからない空気になりつつジョニーが突っ込む。
「だってー、ジョニーの場所はアタシの場所だもんっ」
「『だって』って全然順接になってないじゃねぇか!」
「えー、いいじゃんいいじゃーん! ねぇジョニー、一緒に寝よ♪」
そう言うと、メイががばっとジョニーに抱きついた。
「お、おい……」
「しなだれかかってくるメイを思わず抱きとめたジョニーは、思いのほか柔らかいその肌に思わず……」
「勝手なナレーションを入れんな!」
「でもその手はなんなの?」
「ん? ……あ」
ジョニーは自分がメイを抱き締め返している事に気付いていなかった。
「ジョニーったら、積極的なんだから……♪」
「あ、いや、これはその……」
手は離したものの、バツが悪そうに頭をかくジョニー。視線はちらちらとメイの裸体へ行っている。
メイはここぞとばかりに畳み掛けた。
「ね、ジョニー……、お願い……」
「メ、メイ……」
★ ☆ ★ ☆
「……で、なんでわざわざ服着させるの?」
「読者の想像力を膨らませるためだ」
「読者?」
「ま、気にすんな。 俺の趣味でもある」
「やーん、ジョニーったら……」
そう言ってメイは少し頬を朱に染める。”どうでもいい”みたいな反応をされるとそういう事に対して恥ずかしさはあまり感じないのだ
が、こうやって意識されると、逆にとても恥ずかしくなる。
(う、うわー、どうしよ……いざとなると……)
半ばパニックになってジョニーに背中を向けてしまうメイ。心臓に手を当てて落ち着こうと深呼吸をする。
吸ってー、
吐いてー。
吸ってー、
吐いてー。
吸ってー、
吐「メイ?」
激しく咳き込むメイ。ジョニーは不思議そうにそれを見ている。
「メイ?」
「いきなり話し掛けないでよぉっ! もうっ、ジョニーったらっ!」
「……なんかよくわからんが、まあそれじゃ」
ぱくっ、といった感じでメイを抱き締めるジョニー。
メイは、せっかく落ち着けた心臓がまた一気に高鳴るのを感じた。ジョニーからメイを抱き締めたのは初めてだった。
「ジョニー……?」
「咳き込んじまって……酸素が足りないなら、俺が人工呼吸してやるよ」
気障っぽくそう言うと、メイの反応を待たずにジョニーはメイの唇を奪った。
「…………ん」
「……ちゅ……チュッ……」
そのままキスは大人のキスへと変わっていく。子供のような矮躯のメイと普通人に比べて背の高い方であるジョニーとが抱き合うと、メ
イの小ささが一層際立って、まるで幼い子供を抱いているような背徳感をジョニーに感じさせた。
「れろ……むぅ……」
「……ん……ちゅっ……」
これが初めてのキスであるメイは、しかしそうとは思えないほど積極的にジョニーを求めた。
やがて唇をジョニーが離すと、二人の唇をツーっと唾液の線が結んだ。メイが名残惜しそうにジョニーを見上げる。
「もっといい事してやるから……」
「じょにぃ……」
★ ☆ ★ ☆
ジョニーの手がメイのベルトを外す。メイはされるがままにぼんやりとそれを見ている。
ベルトを外し終え、足を撫でさすりながらスパッツを脱がせにかかった。
ふくらはぎから太股、外側、内側、マッサージをするように行ったり来たりする。メイは相変わらずぼんやりしていた。内腿で少し指を
立ててみると、メイがピクリと動いた。ジョニーは満足げに、再び愛撫を再開する。
「ふぁ……はぁ……」
いつの間にかメイの唇が開いていた。頬は紅潮し、目は潤んでいる。ジョニーはスパッツを脱がせた。それだけでまたメイは反応した。
そのままワンピースの服も取り去ると、アンダーシャツとショーツだけになる。メイは横を向いた。顔が真っ赤になっているのを自覚し
ていた。
アンダーシャツの上からささやかな双丘に触れると、メイの眉が寄った。そのまま円を描くように撫でてやると、メイは下唇を噛んで声
を必死に抑えた。
その反応を見るのはかわいくて楽しかったが、必死そうな顔を見ているとこのまま焦らすのもかわいそうに思えたので、ジョニーはアン
ダーシャツも脱がしてしまった。これでメイは下着だけになった。
「へ、変かな……?」
「ん?」
メイはスポーツブラをつけていた。胸はまだそんなに膨らんでいないからだったが、メイはその事を気にしているようだった。
「ジョニーも、胸おっきい方が好きだよね……」
「まあな」
ジョニーが正直に応えると、メイは悲しそうな顔をした。
「ごめんね、これからもっとおっきくなるから……」
「ちっちゃいのも嫌いじゃねぇからいいよ」
そう言うと、ジョニーはスポーツブラの中に手を入れた。
「ひゃっ!」
「感度が良ければそれでいい……」
「じょっ……ふぁっ……やぁっ!」
片手で胸をいじりつつ、空いた手で器用にブラを脱がせてしまう。これでメイがつけている衣類はショーツだけとなった。
胸を揉みながら、もう一方の手が遂にメイの秘部に向かった。
ショーツの上からそっと筋を撫でると、既にメイはもう濡れているようだった。
「気持ちいいか?」
「ん……、じょ……ぃ……」
息も絶え絶えに、メイは答える。
「なあメイ」
ジョニーは訊ねた。
「……怖くないのか?」
「……ジョニーなら、いいの」
「……そうか」
メイは子供のような思考をする。わがままで手がつけられない問題児だ。しかし、情熱的で一途でもある。
メイは続ける。
「アタシにはジョニーがいるの。 アタシにはジョニーしかいらないの。 ジョニーならアタシはなんでもいいの」
「……メイ」
「ね、だから、離れないでね? ずっと傍にいてね? アタシを嫌いにならないでね?」
「……わかったよ」
「……ジョニー」
メイの瞳から涙が溢れた。それが何故だかメイにはわからなかったが、しかし涙は止まらなかった。
それは、ジョニーを心の底から愛した証だった。それを失う事が恐ろしくて、それで流れた涙だった。
ジョニーがショーツを取り払った。メイの部分が露になる。
指でそこを刺激してみる。
「あぁんっ! ……ふぁっ!」
メイは体を弓なりに逸らせて感じた。その部分はもはやビショビショになっている。
挿入は座位で行う事にした。ジョニーとメイの体格差ならそれが一番いいように思えたからだ。メイを抱いてやれるからだった。
「行くぞ……」
「うん」
ずっ
メイの処女が散った。その証がジョニーの腿を伝って下に垂れたが、メイはあまり痛みを感じなかった。喜びだけだった。
また一滴、涙が頬を伝った。
「痛いのか?」
「ううん……嬉しいだけ……」
そうか、と言ってジョニーはメイにキスをした。なんと言っても直後は痛いだろうというジョニーの配慮だった。
(たばこの匂い……、ジョニーの匂い……。アタシを拾ってくれたひと。アタシに名前をくれたひと。いちばん大事なひと……)
「ジョニー」
「ん?」
「動いていいよ」
「……ん」
「アタシで気持ち良くなってね」
「……ん」
ジョニーがそっと動き出す。メイはひり付くような痛みを覚えたが、しかし唇を噛み締めて堪えた。
キスをする。唾液の交換をすると溢れた唾液が口の端から顎を伝って結合部へ落ちた。それから、何故かあまり痛みを感じなくなった。
「ちゅっ……ちゅば……」
「っはぁ……はあっ……んぁっ……」
いつしか、メイは自分からも腰を動かしていた。ジョニーの首に手を回し、ジョニーの目を見つめながら、メイは行為に溺れた。
「はぁん!ふぁっ、やあ、ふぁっ!」
「はっ、あっ!んんっ!んあっ!」
淫猥な音が部屋に響いたが、メイの耳にはもはやその音すら聞こえなかった。あるのはただ二人の鼓動と、息遣いだけだった。
「ジョニー気持ちい……?」
「ん?」
「アタシの、中……気持ちい、かなっ?」
「……ああ……」
「……ふぁっ……!? 中で……おっきくっ……!」
そして……二人の距離が狭まっていく。
「じょっ、にぃっ、こわいよっ、何かっ……、ジョニー!」
「大丈夫、俺はここにいるから……メイ、そろそろいくぞっ……」
「じょにぃ……好きっ、だいすきぃっ……!!」
「クッ……!」
どくん!
そしてジョニーは、メイの中で果てた。
★ ☆ ★ ☆
そしてまた海の上。相変わらず子供のようなやり取りをしているジョニーとメイの前をディズィーが通りがかった。
「あ、ねえ、メイさん。 あの港町で何かあったんですか?」
「え、え!? な、何にもないよっ! ディズィーがなんでそんな事知ってるのっ!?」
「こ、こらテメェ墓穴掘ってんじゃねェ! あ、いや、なんでもないんだ。 しかしディズィー、なんでそう思ったんだ?」
「あ、別にたいした事じゃないんで……あ、いや。 あの港町を出てから、メイさんが扉を壊す事がなくなったから……」
「「あー。」」
メイとジョニーの声がハモる。
「……?」
「ああ、うん、すっげぇ説教しといたからな、俺」
「そ、そうそう。 ……はぁ。凄かったぁ、ジョニーの説教……」
「ば、ばか……!」
「……???」
そそくさと立ち去る二人を不思議そうに見送るディズィーであった。
「でも……この買い置きの50個の蝶番、どうしよう……」
fin
★ ☆ ★ ☆
2004年10月3日、14:56:40
ジョニー率いるジェリーフィッシュ快賊団は、温泉へ慰安旅行に来ていた。
商店街のおじさんおばさんじゃあるまいし、と思われるかもしれないが、この旅行、実は皆かなり楽しみにしている。
何しろ快賊団のメンバーはジョニー以外うら若き女性である。全員お風呂は大好きだ。
まして普段は、船の上という都合上、節約しながらシャワーを浴びるのが精一杯なのだから、手足を伸ばして思うさま湯船につかることの出来る「温泉」は最高に贅沢なのだった。
メイは有頂天だった。
ジョニーを誘い出して、二人で散歩することに成功したのだ。
温泉街には浴衣が似合う。
風呂上りに、宿屋の屋号の染め抜かれたひらひらの風変わりな衣装を、おそろいで身に着けて、硫黄の匂いの立ち込める温泉街をそぞろ歩く。
それだけで、空も飛べるんじゃないかと思うほど、彼女は幸せだった。
ちらりとジョニーを横目で見遣る。
いつものコート姿も最高だけど、浴衣姿もたまらなくかっこいい。
胸元を広めに開けて、だらしなさの一歩手前で止めるその着こなしのセンス。
長い裾も履き慣れない下駄も、彼の優雅な足捌きを妨げることはない。
からころという足音は、天上の音楽にも似ている。
洗い髪というのも色っぽい。いつもはびしっと固められている髪だが、今日は無造作にかきあげただけ。ほんのりと湿り気を帯び、前髪がはらりと額にたれかかっている。
かっこいい。
かっこいい、かっこいい、かあっっこいいいいい!
メイはぐっと、両手で握りこぶしを作った。
「どうした?」
「ううん! なんでもっ!」
自分を覗き込むその顔に、またときめく。
土産物屋の店先のガラスに、二人の姿が映った。
メイは素早く自分の見栄えをチェックする。
浴衣は、リープに着付けてもらった。
この衣装は胸腰の無さが目立ってしまうのが欠点だが、その分清楚な色気がある、と思う。
いつものポニーテールではなく、洗い髪を結って、襟足を見せている。
後れ毛が細いうなじに幾筋か落ちている。
上気した頬。
袖、裾から覗く、手首足首が、何とも華奢で儚げで、いい感じではないか。
「『日本』の文化ってすごい!」
思わず声に出してしまった。
「ん?」
「ううん、なんでも!」
「そればっかりだな、お前さんは」
ジョニーは微苦笑した。
その表情にまたときめく。
(筆者注:いい加減しつこい。)
とにかく、今日の二人は一味違うのだ。
いつもは全然相手にしてもらえないけど、今日なら、もしかしてあるいはひょっとして、大きく一歩前進出来たりしちゃうかもしれないのだ!
(がんばるぞ-! え-と、こうして歩いててもアレだから、ううん、ボクは全然構わないけど、でもデートのセオリーとして、まずは、お茶に誘って・・・)
メイが心の中で一生懸命手順をイメージトレーニングしていると。
ふ、っとジョニーが動いた。
あれっと思う間もなく、背中にかばわれる。
「本家! ミストファイナー!」
常に手放さない仕込刀が、一閃した。
ひゅんっと音がしたかと思うと。
「―――――あああああ!」
空から何かが落ちてきた。
落ちてきた物体は、ミストファイナーにはじかれて、またすっ飛ぶ。
土産物屋に激突する! と思った瞬間、その物体はくるりと回転した。
受身だ。
物体は、人間だった。それも3人。どの顔にも見覚えがある。
「あー、ひっでえ目にあった」
「やれやれだぜ」
「貴様のせいだからな! ソル!」
アクセル、ソル、カイ・・・。
メイは言葉を失い、ただぽかんと見つめるばかりだ。
「なんだ、お前ら」
「おや、ジョニーさんじゃねえか。こんなとこで出くわすとは、奇遇だね」
「空からいきなり降ってくるってのは、奇遇以上なんじゃないか?」
「これには色々と事情があってね~」
アクセルは意味ありげに笑って、ソルとカイの方を見遣った。
ソルはいつも通りの表情。カイはあからさまにげっそりしている。
「ね、旦那」
「風呂覗いたら吹っ飛ばされた」
「覗き! ちちち、そりゃちょっとダサいぜ。女性の体に興味を持つのは健全といやあ健全だが、人として最低限のマナーはわきまえないとな」
「興味があったのは、体じゃないんだけどね」
「なんだぁそりゃ。―そういや、一体誰なんだ? お前さんたちを3人まとめてふっ飛ばすようなグレイトな女性は」
「髪長女」
「ミリアだよ」
ミリア・・・。メイの脳裏にぽんと画像が浮かんでくる。
長い(長過ぎるが)綺麗な金髪の、オトナの女性・・・。
「なるほど! そりゃグレイトなはずだぜ」
ジョニーは髪をかきあげて笑った。
メイはだんだん不機嫌になってきた。
せっかくふたりっきりだったのに、お邪魔虫は降ってくるは、他の女の名前は出るは、ジョニーはさっきからちっともこっちを見てくれないは、最低なことだらけだ。
「・・・ジョニー」
つんつん、と袖を引っ張る。
「ん? ああ」
ジョニーはようやく気がついた。
「散歩の途中だったな」
「そうだよ!」
「じゃそういうことだから、俺達はこの辺で・・・」
「あああ! 私はどうしたらいいんだ!」
去ろうとするジョニーのセリフをさえぎって、カイが吠えた。
さっきからずっと大人しかったのは、ひとり自責の念にかられていた為らしい。
「みんなの笑顔を守りたくて、正義のために働いてきたのに! それなのにこんなことをして、どうしたら償えるんだろうか! ああ、私は、私はあああ!」
真面目なやつほど切れると怖い。いやこの場合、真面目なヤツはキレ方も真面目ということだろうか。
周囲の目が一斉に注がれる・・・と思いきや、それまで遠巻きに「空からの物体Xズ」を見守っていたギャラリーは、とうとう目を伏せてそそくさと立ち去り出した。
「おいおい、ハンサムボーイ、そいつはあまりにクレイジーだぜ」
ジョニーが苦笑いする。
メイは、ものすごくいやな予感がした。
「ジョニ・・・」
「わかった、わかった。ここでぶつかったのも何かの縁だ。俺がなんとかとりなしてやる。だからちったあ落ち着きな」
決定的な一言を、ジョニーは吐いてしまった。
「ジョニー!」
「・・・取り成し・・・?」
カイがぼんやりと顔を上げる。
「そうさ、このジョニー様が一緒に行って謝ってやる。どんなレディーも俺に任せておけばイチコロさ」
「ジョニー! 散歩は? デートはどうなるの?」
別にデートだと思っていたのはメイひとりなのだが、この際そんな些細なことには頭を回していられない。
「悪いな、メイ。そういうわけだから、お前さん先に帰ってな」
ジョニーはぽんぽんとメイの頭に手を乗せた。
「だって、だってジョニー・・・」
「あ、それと、他のやつにも伝えて、先に飯食って寝ててくれ」
もはやメイの抗議には耳を傾けず、カイを促して立ち去ろうとするジョニー。
「俺は、もしかしたら今夜帰らないかもしれないから」
ぷちっとメイの堪忍袋の緒が切れた。
「ジョニーのバカ! 大っ嫌い!」
叫びながら、「究極のだだっ子」をかます。
ぼこぼこぼこっとジョニーに殴りかかる。
当然、ジョニーはよけるなり、防ぐなりするだろうと思っていた。ところが。
「!」
彼はただ、黙って殴られた。
手に直接伝わる肉と骨の感触に、ぎょっとして、メイは攻撃を止める。
「あ・・・」
自分で自分の手を押さえた。小刻みに震えている。
「ジョ・・・」
「いい子だから、先に帰れ、な?」
こんなときでも、ジョニーの表情は優しい。
その顔がかすんでいく。
「ジョニーの、ばかぁ・・・!」
メイの目から涙がこぼれた。
それを振りきるように、彼女は走り去る。
「あ・・・」
カイがおろおろとジョニーとメイを交互に見遣る。
「いいんだよ、気にするこたあない。あいつはああ見えてけっこう大人なんだ」
ジョニーはぽんぽんとカイの腕を叩いた。行こう、という意思表示だ。
ソルがぼそりとつぶやいた。
「子供のやせ我慢だろ?」
今日の月は満月だ。
メイは窓辺に腰掛けて、青い光を放つ真円を見上げていた。
同室に泊まっているエイプリル達はすでに寝入っている。
静寂の中、聞こえてくるのは微かな虫の声・・・。
ずいぶん長いこと、メイはそうしていたが、やがてなにかを決心したかのようにうなずくと、足音を忍ばせて部屋を出た。
廊下は、思ったより明るい。
メイはジョニーの部屋へ向かった。
言葉通り、帰っていないかもしれない。夕食のときも姿を見かけなかったし。
でも、行かずにはいられなかった。
じっと待っているのはもう沢山だ。
ドアの前にたどり着く。息を止めて、耳を澄ます。
気配は感じられない。
ノブに手をかけると、回る。
そっとドアを開けた。
「ジョニー・・・?」
「・・・ん?」
彼はそこにいた。
窓際に布団を敷き、その上に身を起こして、先ほどまでのメイと同じように月を眺めていた。
青白い光が、サングラスを外した彼の素顔を照らしている。
「どうした? そんなとこに立ってないで、入ってこいよ」
メイはおずおずと言葉に従った。ジョニーから2メートルくらい離れたところで立ち止まる。
「あの・・・その・・・ええと・・・」
言葉を捜すが、うまく見つけられない。
ええい。
メイは、とにかく深深と頭を下げた。
「ごめんなさい」
「・・・いんや、俺のほうこそ」
いつも通りの、ゆとりのある声にメイの表情がぱっと明るくなる。
「ごめんなさい! ほんとにごめんね・・・痛くなかった?」
「はは、こう言っちゃなんだが、この俺様にダメージを与えるにゃ、お前さんまだまだ修行が足りないね」
「・・・もう」
ぺたり、とメイは座りこんだ。なんだか気が抜けた。
「いつ、戻ってきたの?」
「ついさっきだ。・・・それがよ、笑っちまうことに、あの坊やたちときたら、ミリアの泊まってる宿屋を知らないんだぜ。探すのにずいぶん手間取っちまった」
「そう・・・なんだ」
「それで、結局たどり着いたのがどこだと思う?」
「?」
「ここだよ、しかもこの階の並びの部屋」
「え! うそ」
「ほんとさ。お前さんに嘘言ってどうする」
「やだ・・・なんかそれって・・・おかしいの」
メイはくすくすと笑い出した。
ジョニーもくつくつと笑う。
ひとしきり笑った後で、
「さて、そろそろ寝たほうがいいんじゃないかな? 明日は早くにここを発つんだから」
ジョニーが促した。
「うん・・・」
けれど、なんだか立ち去りがたい。メイは思い切って言ってみた。
「ここで寝ちゃ、駄目?」
「・・・うーん」
ジョニーはしばらく考える振りをした。
「他のみんなには、ナイショだぜ」
「うん!」
親鳥が羽根を広げる様に、かけ布団をめくってメイが入る場所を作ってくれる。
嬉々としてそこに潜りこんだ。
ジョニーの布団は、ジョニーの匂いがする。
ぬくもりが、いつの間にか冷えていた手足に心地よい。
「昔みたい」
「そうだな」
やっぱりボクはこの人のこと大好きだ。
息を大きく吸いこんで、肺をジョニーの匂いで満たしながら、メイはしみじみと思った。
と、ここで終わればこのお話は美しいのだが。
そうは問屋がおろさない。温泉街には魔物が棲む。
っどおおおおおおおん!
響き渡る大音声。
「きゃ!?」
「何だ?!」
突き上げるような振動。
「地震?」
「いや・・・まさか!」
ジョニーが素早くメイを引き寄せる。
そのとき、はっきりとその声が聞こえてきた。
「だから! 気になるなら気になるで! 素直に聞けって言ったでしょうが!」
「ごめんよ~ミリアぁ。だって旦那がさあ、どうしても直接確かめたいって」
「部屋に入られたぐらいでがたがた騒ぐな」
「・・・この!」
がごんがごんがごんと音がする。
「・・・ありゃ、エメラルドレインだな。やっこさん相当キてるらしい」
「・・・うううううううう」
メイはすっくと立ちあがった。
廊下へ駆け出す。
アイアンセイバーに追い掛け回されているアクセルと目があった。
「ありゃ、お嬢ちゃんまた会ったね。いや、旦那がさ、『寝てるときにどんな髪型してるか気になる』って言い出して・・・」
どこまでも明るい。「C調男」とジョニーなら評するだろう。
しかし、怒り心頭のメイには、そんな事もどんなことも、ものみなすべて腹立たしい。
「人のー恋路をー邪魔する奴はああああ!」
小さい体のどこからそんな、というほどのオーラを立ち上らせ、メイは叫んだ。
「山田さんに蹴られて死んじまえええ!!!」
どーん。
どこからか波とともに巨大なピンクの鯨が現れた。
その旅館のそのフロアは、綺麗さっぱり押し流された。
・・・その後、「鯨も泳ぐ戦国風呂のある旅館」として有名になったかどうかは定かではない。
「ぶわっくしょん!」
盛大なくしゃみを一つして、アクセルは鼻をすすった。
「いやー。やっぱり季節外れの海水浴は体にこたえるね」
「乾かしてやろうか」
「いや、遠慮」
封炎剣に手をかけるソルを押し止める。
「・・・」
ミリアはこれ以上はないというほど不機嫌な様子だった。
宿屋から追い出され、寒空に投げ出されたこの状況で上機嫌だったら、それはそれで少しおかしいが。
「責任をとって、とは言わないけれど、もう少し私を刺激しないような態度をとってくれないかしら?」
「しょーがねえ、団長のところでも乗りこみますかあ。泊まってるとこは調べがついてんだ。やっこさんミリアには負い目があるから、強引にねじ込めば今夜寝るところくらいはどうにかなるでしょ」
「お前悪党だな」
「・・・どうでもいいわよ、もう」
ミリアは脱力した。
「それじゃ、河岸を変えて『第3弾』に続く!」
「続くのか」
<完?>
あとがき
1話目とは打って変わり、ギャグ色の薄い2話目でしたが、いかがでしょうか?
メイ×ジョニーです。これは、オフィシャルみたいなもんですから、断り無しでやっても大丈夫でしょう、と思って書いちゃいました。
ジョニー・・・あのグレイトっぷりは私の拙い筆ではどうにもこうにも表現できませんで、結局なにやら普通の人のようになってしまいました。今後の課題ですね。
しかも、どーも私の書くメイとジョニーはかなりラブラブな様です。それはそれでいいのかな。いいことにしましょう。
では、また。
もしかして続くといっておきながら続かないかもしれませんが、機会があったらお会いしましょう。