忍者ブログ
Admin*Write*Comment
うろほろぞ
[576]  [575]  [574]  [573]  [541]  [540]  [539]  [538]  [533]  [532]  [531
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

@@@
『孤独』


「眠れねえな……」

冴えた目が薄汚れた天井を凝視し続ける。
眠れないから変な事を考えちまうのか、
それとも変な事を考えちまうから眠れんのか、まったくわけが分からねえ。

「この薄っぺらい布団……腰が痛くてたまんねえぜ、ったくよ」

自分を誤魔化す様に、俺は眠れない原因の矛先を他所に向け目を閉じる。

『千人の悪党を斬る』

それはこのくだらねえ世とおさらばするのに自ら課したモノだが、
それで俺は本当に死ぬことが叶うのだろうか。

閑馬との戦いの後、それまで漠然として掴み所の無かったモノが急に現実味を
帯びて俺の胸をザワつかせている。

『二百年の孤独』

無限の時を生きる事の寂しさ、苦しさ……そして虚しさを見せつけられた。

「くくく、何を怖がっているんだか……今更」

薄暗い部屋に自嘲する声が微かに響く。

町を喪ったあの日から、いやそもそも妹が狂っちまう前から独りきり
だった筈だ俺は。

(そうだ、独りで生きていく覚悟は出来ていた。千人殺した所で本当に死ねるたぁ
思っちゃいない。――だが、)

この次に誰かを喪った時、俺も奴の様になっちまう様な気がした。



一体誰を?



「けっ……何を今更……くだらねえ事考えてんだ俺は。くそっ、寝よ寝よ!」

寝返りを打ち心で悪態を吐きながら、瞼をきつく閉じる。

(まったくあの馬鹿に付き合いだしてからロクな事考えねえ)

脳裏に過ぎるのは必死に俺を助けようとしたアイツの顔。

(あれは用心棒として都合のいい俺に、死んで欲しくなかっただけさ。
わかっている、わかってはいるがそれでも俺はまた――)

うっすらと目を開き、視界に映る煤けた障子を見つめる。

「失くしたくねえやっかいモノが出来ちまったまったじゃねえか」

がしがしと無造作に頭を掻きながら起き上がると、俺はそっと静かに
障子を開けた。

(ったく幸せそうに寝てやがるぜ)

暗闇に慣れた目が、まだ僅かに幼さを残す寝顔を見下ろす。

「お前を死なさねえよ、絶対に。そして死ぬなよ」

湿った畳に片膝を着き、ゆっくりと手を伸ばし、

「俺の為に……な」

布団に流れ落ちる黒髪を一房掬い上げた。
そして柔らかな感触を優しく握り締めると、
そのままゆっくりと手の甲をアイツの頬へと触れさせる。



滑らかな肌から伝わる温もり



『現在(いま)』を精一杯に生きているコイツの、美しさと強さの証。
そしてそれもまた何時かは俺の前から消えて亡くなり、孤独は必ず訪れる。

無限の孤独

だが今はまだ――

(独りにするな)

そっと頬を摩る。

(それが人の心に勝手に住み着いちまった責任だ。
まったく人の覚悟をあっさりとぶっ潰してくれたぜ、まったく)

「んっ……ま…んじ…さん」

ピクッ!

(起きてんのか!?)

不意に小さな唇が震える様に俺の名を呟きだし、慌てて手を引っ込めた。しかし、

「う……ん…、飲みす…ぎは…身体に毒だって…ば」

(何だ寝言か……脅かしやがって)

どうやら気付かれてはいないようだった。

「ったく夢の中でまで人に指図するか?コイツは……くっくっ」

ホッとしちまったせいか、思わず腰をついて一人苦笑する。

「はぁ~~やれやれ……よっと」

ひとしきり笑い終えた俺は、息を吐いて立ち上がり障子へと近づき部屋を後に
しようとした。だが、

「………」

取っ手に手をかけたまま暫しその場に立ち尽くし、背後から微かに聞こえてくる
安らかな寝息に目を閉じ耳を傾ける。

(嬉しいもんなんだな……誰かの夢に現れるってのは)

この世で独りきりでないと感じる喜び。

「だから手放せねえんだろうな……俺は」

アイツの寝顔に惹かれて今一度振り返った。

「凛――」

小さく呟くと俺はそっと部屋を後にし、またあの薄っぺらな布団へとその身を
投げ出していた。

(お前の暢気な寝顔を見たら……ねむ…くなっ……)



自然と意識が混濁し始め、漸く俺は深い眠りへと落ちていくことが叶った。
PR
@@ * HOME * @@@@
  • ABOUT
うろほらぞ
Copyright © うろほろぞ All Rights Reserved.*Powered by NinjaBlog
Graphics By R-C free web graphics*material by 工房たま素材館*Template by Kaie
忍者ブログ [PR]