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うろほろぞ
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 ジョニー率いるジェリーフィッシュ快賊団は、温泉へ慰安旅行に来ていた。
 商店街のおじさんおばさんじゃあるまいし、と思われるかもしれないが、この旅行、実は皆かなり楽しみにしている。
 何しろ快賊団のメンバーはジョニー以外うら若き女性である。全員お風呂は大好きだ。
 まして普段は、船の上という都合上、節約しながらシャワーを浴びるのが精一杯なのだから、手足を伸ばして思うさま湯船につかることの出来る「温泉」は最高に贅沢なのだった。

 メイは有頂天だった。
 ジョニーを誘い出して、二人で散歩することに成功したのだ。
 温泉街には浴衣が似合う。
 風呂上りに、宿屋の屋号の染め抜かれたひらひらの風変わりな衣装を、おそろいで身に着けて、硫黄の匂いの立ち込める温泉街をそぞろ歩く。
 それだけで、空も飛べるんじゃないかと思うほど、彼女は幸せだった。
 ちらりとジョニーを横目で見遣る。
 いつものコート姿も最高だけど、浴衣姿もたまらなくかっこいい。
 胸元を広めに開けて、だらしなさの一歩手前で止めるその着こなしのセンス。
 長い裾も履き慣れない下駄も、彼の優雅な足捌きを妨げることはない。
 からころという足音は、天上の音楽にも似ている。
 洗い髪というのも色っぽい。いつもはびしっと固められている髪だが、今日は無造作にかきあげただけ。ほんのりと湿り気を帯び、前髪がはらりと額にたれかかっている。
 かっこいい。
 かっこいい、かっこいい、かあっっこいいいいい!
 メイはぐっと、両手で握りこぶしを作った。
「どうした?」
「ううん! なんでもっ!」
 自分を覗き込むその顔に、またときめく。
 土産物屋の店先のガラスに、二人の姿が映った。
 メイは素早く自分の見栄えをチェックする。
 浴衣は、リープに着付けてもらった。
 この衣装は胸腰の無さが目立ってしまうのが欠点だが、その分清楚な色気がある、と思う。
 いつものポニーテールではなく、洗い髪を結って、襟足を見せている。
 後れ毛が細いうなじに幾筋か落ちている。
 上気した頬。
 袖、裾から覗く、手首足首が、何とも華奢で儚げで、いい感じではないか。
「『日本』の文化ってすごい!」
 思わず声に出してしまった。
「ん?」
「ううん、なんでも!」
「そればっかりだな、お前さんは」
 ジョニーは微苦笑した。
 その表情にまたときめく。
 (筆者注:いい加減しつこい。)
 とにかく、今日の二人は一味違うのだ。
 いつもは全然相手にしてもらえないけど、今日なら、もしかしてあるいはひょっとして、大きく一歩前進出来たりしちゃうかもしれないのだ!
(がんばるぞ-! え-と、こうして歩いててもアレだから、ううん、ボクは全然構わないけど、でもデートのセオリーとして、まずは、お茶に誘って・・・)
 メイが心の中で一生懸命手順をイメージトレーニングしていると。
 ふ、っとジョニーが動いた。
 あれっと思う間もなく、背中にかばわれる。
「本家! ミストファイナー!」
 常に手放さない仕込刀が、一閃した。
 ひゅんっと音がしたかと思うと。
「―――――あああああ!」
 空から何かが落ちてきた。
 落ちてきた物体は、ミストファイナーにはじかれて、またすっ飛ぶ。
 土産物屋に激突する! と思った瞬間、その物体はくるりと回転した。
 受身だ。
 物体は、人間だった。それも3人。どの顔にも見覚えがある。
「あー、ひっでえ目にあった」
「やれやれだぜ」
「貴様のせいだからな! ソル!」
 アクセル、ソル、カイ・・・。
 メイは言葉を失い、ただぽかんと見つめるばかりだ。
「なんだ、お前ら」
「おや、ジョニーさんじゃねえか。こんなとこで出くわすとは、奇遇だね」
「空からいきなり降ってくるってのは、奇遇以上なんじゃないか?」
「これには色々と事情があってね~」
 アクセルは意味ありげに笑って、ソルとカイの方を見遣った。
 ソルはいつも通りの表情。カイはあからさまにげっそりしている。
「ね、旦那」
「風呂覗いたら吹っ飛ばされた」
「覗き! ちちち、そりゃちょっとダサいぜ。女性の体に興味を持つのは健全といやあ健全だが、人として最低限のマナーはわきまえないとな」
「興味があったのは、体じゃないんだけどね」
「なんだぁそりゃ。―そういや、一体誰なんだ? お前さんたちを3人まとめてふっ飛ばすようなグレイトな女性は」
「髪長女」
「ミリアだよ」
 ミリア・・・。メイの脳裏にぽんと画像が浮かんでくる。
 長い(長過ぎるが)綺麗な金髪の、オトナの女性・・・。
「なるほど! そりゃグレイトなはずだぜ」
 ジョニーは髪をかきあげて笑った。
 メイはだんだん不機嫌になってきた。
 せっかくふたりっきりだったのに、お邪魔虫は降ってくるは、他の女の名前は出るは、ジョニーはさっきからちっともこっちを見てくれないは、最低なことだらけだ。
「・・・ジョニー」
 つんつん、と袖を引っ張る。
「ん? ああ」
 ジョニーはようやく気がついた。
「散歩の途中だったな」
「そうだよ!」
「じゃそういうことだから、俺達はこの辺で・・・」
「あああ! 私はどうしたらいいんだ!」
 去ろうとするジョニーのセリフをさえぎって、カイが吠えた。
 さっきからずっと大人しかったのは、ひとり自責の念にかられていた為らしい。
「みんなの笑顔を守りたくて、正義のために働いてきたのに! それなのにこんなことをして、どうしたら償えるんだろうか! ああ、私は、私はあああ!」
 真面目なやつほど切れると怖い。いやこの場合、真面目なヤツはキレ方も真面目ということだろうか。
 周囲の目が一斉に注がれる・・・と思いきや、それまで遠巻きに「空からの物体Xズ」を見守っていたギャラリーは、とうとう目を伏せてそそくさと立ち去り出した。
「おいおい、ハンサムボーイ、そいつはあまりにクレイジーだぜ」
 ジョニーが苦笑いする。
 メイは、ものすごくいやな予感がした。
「ジョニ・・・」
「わかった、わかった。ここでぶつかったのも何かの縁だ。俺がなんとかとりなしてやる。だからちったあ落ち着きな」
 決定的な一言を、ジョニーは吐いてしまった。
「ジョニー!」
「・・・取り成し・・・?」
 カイがぼんやりと顔を上げる。
「そうさ、このジョニー様が一緒に行って謝ってやる。どんなレディーも俺に任せておけばイチコロさ」
「ジョニー! 散歩は? デートはどうなるの?」
 別にデートだと思っていたのはメイひとりなのだが、この際そんな些細なことには頭を回していられない。
「悪いな、メイ。そういうわけだから、お前さん先に帰ってな」
 ジョニーはぽんぽんとメイの頭に手を乗せた。
「だって、だってジョニー・・・」
「あ、それと、他のやつにも伝えて、先に飯食って寝ててくれ」
 もはやメイの抗議には耳を傾けず、カイを促して立ち去ろうとするジョニー。
「俺は、もしかしたら今夜帰らないかもしれないから」
 ぷちっとメイの堪忍袋の緒が切れた。
「ジョニーのバカ! 大っ嫌い!」
 叫びながら、「究極のだだっ子」をかます。
 ぼこぼこぼこっとジョニーに殴りかかる。
 当然、ジョニーはよけるなり、防ぐなりするだろうと思っていた。ところが。
「!」
 彼はただ、黙って殴られた。
 手に直接伝わる肉と骨の感触に、ぎょっとして、メイは攻撃を止める。
「あ・・・」
 自分で自分の手を押さえた。小刻みに震えている。
「ジョ・・・」
「いい子だから、先に帰れ、な?」
 こんなときでも、ジョニーの表情は優しい。
 その顔がかすんでいく。
「ジョニーの、ばかぁ・・・!」
 メイの目から涙がこぼれた。
 それを振りきるように、彼女は走り去る。
「あ・・・」
 カイがおろおろとジョニーとメイを交互に見遣る。
「いいんだよ、気にするこたあない。あいつはああ見えてけっこう大人なんだ」
 ジョニーはぽんぽんとカイの腕を叩いた。行こう、という意思表示だ。
 ソルがぼそりとつぶやいた。
「子供のやせ我慢だろ?」

 今日の月は満月だ。
 メイは窓辺に腰掛けて、青い光を放つ真円を見上げていた。
 同室に泊まっているエイプリル達はすでに寝入っている。
 静寂の中、聞こえてくるのは微かな虫の声・・・。
 ずいぶん長いこと、メイはそうしていたが、やがてなにかを決心したかのようにうなずくと、足音を忍ばせて部屋を出た。
 廊下は、思ったより明るい。
 メイはジョニーの部屋へ向かった。
 言葉通り、帰っていないかもしれない。夕食のときも姿を見かけなかったし。
 でも、行かずにはいられなかった。
 じっと待っているのはもう沢山だ。
 ドアの前にたどり着く。息を止めて、耳を澄ます。
 気配は感じられない。
 ノブに手をかけると、回る。
 そっとドアを開けた。
「ジョニー・・・?」
「・・・ん?」
 彼はそこにいた。
 窓際に布団を敷き、その上に身を起こして、先ほどまでのメイと同じように月を眺めていた。
 青白い光が、サングラスを外した彼の素顔を照らしている。
「どうした? そんなとこに立ってないで、入ってこいよ」
 メイはおずおずと言葉に従った。ジョニーから2メートルくらい離れたところで立ち止まる。
「あの・・・その・・・ええと・・・」
 言葉を捜すが、うまく見つけられない。
 ええい。
 メイは、とにかく深深と頭を下げた。
「ごめんなさい」
「・・・いんや、俺のほうこそ」
 いつも通りの、ゆとりのある声にメイの表情がぱっと明るくなる。
「ごめんなさい! ほんとにごめんね・・・痛くなかった?」
「はは、こう言っちゃなんだが、この俺様にダメージを与えるにゃ、お前さんまだまだ修行が足りないね」
「・・・もう」
 ぺたり、とメイは座りこんだ。なんだか気が抜けた。
「いつ、戻ってきたの?」
「ついさっきだ。・・・それがよ、笑っちまうことに、あの坊やたちときたら、ミリアの泊まってる宿屋を知らないんだぜ。探すのにずいぶん手間取っちまった」
「そう・・・なんだ」
「それで、結局たどり着いたのがどこだと思う?」
「?」
「ここだよ、しかもこの階の並びの部屋」
「え! うそ」
「ほんとさ。お前さんに嘘言ってどうする」
「やだ・・・なんかそれって・・・おかしいの」
 メイはくすくすと笑い出した。
 ジョニーもくつくつと笑う。
 ひとしきり笑った後で、
「さて、そろそろ寝たほうがいいんじゃないかな? 明日は早くにここを発つんだから」
 ジョニーが促した。
「うん・・・」
 けれど、なんだか立ち去りがたい。メイは思い切って言ってみた。
「ここで寝ちゃ、駄目?」
「・・・うーん」
 ジョニーはしばらく考える振りをした。
「他のみんなには、ナイショだぜ」
「うん!」
 親鳥が羽根を広げる様に、かけ布団をめくってメイが入る場所を作ってくれる。
 嬉々としてそこに潜りこんだ。
 ジョニーの布団は、ジョニーの匂いがする。
 ぬくもりが、いつの間にか冷えていた手足に心地よい。
「昔みたい」
「そうだな」
 やっぱりボクはこの人のこと大好きだ。
 息を大きく吸いこんで、肺をジョニーの匂いで満たしながら、メイはしみじみと思った。

 と、ここで終わればこのお話は美しいのだが。
 そうは問屋がおろさない。温泉街には魔物が棲む。

 っどおおおおおおおん!
 響き渡る大音声。
「きゃ!?」
「何だ?!」
 突き上げるような振動。
「地震?」
「いや・・・まさか!」
 ジョニーが素早くメイを引き寄せる。
 そのとき、はっきりとその声が聞こえてきた。
「だから! 気になるなら気になるで! 素直に聞けって言ったでしょうが!」
「ごめんよ~ミリアぁ。だって旦那がさあ、どうしても直接確かめたいって」
「部屋に入られたぐらいでがたがた騒ぐな」
「・・・この!」
 がごんがごんがごんと音がする。
「・・・ありゃ、エメラルドレインだな。やっこさん相当キてるらしい」
「・・・うううううううう」
 メイはすっくと立ちあがった。
 廊下へ駆け出す。
 アイアンセイバーに追い掛け回されているアクセルと目があった。
「ありゃ、お嬢ちゃんまた会ったね。いや、旦那がさ、『寝てるときにどんな髪型してるか気になる』って言い出して・・・」
 どこまでも明るい。「C調男」とジョニーなら評するだろう。
 しかし、怒り心頭のメイには、そんな事もどんなことも、ものみなすべて腹立たしい。
「人のー恋路をー邪魔する奴はああああ!」
 小さい体のどこからそんな、というほどのオーラを立ち上らせ、メイは叫んだ。
「山田さんに蹴られて死んじまえええ!!!」
 どーん。
 どこからか波とともに巨大なピンクの鯨が現れた。
 その旅館のそのフロアは、綺麗さっぱり押し流された。

 ・・・その後、「鯨も泳ぐ戦国風呂のある旅館」として有名になったかどうかは定かではない。

「ぶわっくしょん!」
 盛大なくしゃみを一つして、アクセルは鼻をすすった。
「いやー。やっぱり季節外れの海水浴は体にこたえるね」
「乾かしてやろうか」
「いや、遠慮」
 封炎剣に手をかけるソルを押し止める。
「・・・」
 ミリアはこれ以上はないというほど不機嫌な様子だった。
 宿屋から追い出され、寒空に投げ出されたこの状況で上機嫌だったら、それはそれで少しおかしいが。
「責任をとって、とは言わないけれど、もう少し私を刺激しないような態度をとってくれないかしら?」
「しょーがねえ、団長のところでも乗りこみますかあ。泊まってるとこは調べがついてんだ。やっこさんミリアには負い目があるから、強引にねじ込めば今夜寝るところくらいはどうにかなるでしょ」
「お前悪党だな」
「・・・どうでもいいわよ、もう」
 ミリアは脱力した。

「それじゃ、河岸を変えて『第3弾』に続く!」
「続くのか」

<完?>

あとがき
 1話目とは打って変わり、ギャグ色の薄い2話目でしたが、いかがでしょうか?
 メイ×ジョニーです。これは、オフィシャルみたいなもんですから、断り無しでやっても大丈夫でしょう、と思って書いちゃいました。
 ジョニー・・・あのグレイトっぷりは私の拙い筆ではどうにもこうにも表現できませんで、結局なにやら普通の人のようになってしまいました。今後の課題ですね。
 しかも、どーも私の書くメイとジョニーはかなりラブラブな様です。それはそれでいいのかな。いいことにしましょう。
 では、また。
 もしかして続くといっておきながら続かないかもしれませんが、機会があったらお会いしましょう。
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