この日、桐生はある危機に直面していた。
それは何故かと言えば・・・
「な~んでお前がここにおるんや」
「それはワシの台詞じゃ」
何故か真島と龍司が同時に桐生の家を訪れたことから始まる。
「と、とりあえず、部屋に入ってくれないか」
何故こんな時に遥はいないのだろうと涙しながら桐生が二人を中に案内すると、突然両腕をガシッと掴まれた。
「あの・・・兄さん?龍司?」
「桐生はんはワシのや、おっさんは帰り」
「その台詞そのままそっくり返したるわ、若造が。桐生チャンはわしのもんやで」
自分を挟み込んで殺気むき出しで睨みあう二人に、桐生はヒクッと頬を引きつらせる。
正直、これが桐生でなかったらショック死しているに違いない。
「あの・・・俺は俺のものであって・・・」
「桐生チャンは黙っとき」
「桐生はんは黙っときなはれ」
同時に言われて桐生は口を噤む。
こういう時だけ息がピッタリ合うのもどうかと思うが・・・
「大体後から来た癖して、ずうずうしいにも程があるわ」
「はっ、先も後も関係あらへん。それに桐生はんとわしは運命に導かれたもの同士やで。コレ程似合いのカップルはおりまへんやろ」
「それを言うやら、わしかてずっと桐生チャンがこの世界に入った時から見てきたんや。あの頃から桐生チャンホンマ可愛かったでぇ・・・」
「ぐぬぬ・・・」
不毛だ。
不毛過ぎる。
桐生は何とかして逃げ出す機会を伺いながらも、二人の会話に頭を抱え込みたくなる。
大体、何故自分がこんな目に遭わねばならないんだ。
自分はただ静かに遥と暮らしたいだけなのに・・・。
それすらも許してはもらえないんでしょうか、おやっさん。
「なぁ桐生チャン、どっちが好きなんや」
そんな意識がすっかり現実逃避していた桐生の耳に、突然真島が囁くように話しかけてきた。
「は?い、いきなり何言い出すんですかッ」
思わずゾワッと背筋に電流が走って咄嗟に耳を塞ごうとするが、どっちの腕も未だ拘束されていて動かすことが出来ない。
しかも負けじと龍司まで反対側から同じように耳元で囁くように問いかけてきたものだから堪ったものではない。
「桐生はん、どっちや」
「いや、だからそんなこと言われても・・・ッ」
いきなり過ぎる質問にそんなこと今まで考えたこともなかった桐生は大いに悩む。
真島の兄さんも龍司も、どっちがいいのかと強引に決めるのならば自分の中では同じくらいとしか答えることは出来ない。
嫌いではない。
桐生の周囲にいる人達の中では『気になる範囲』に入るだろうか・・・。
しかし、どっちと言われても・・・
「俺にはどっちとも言えませんよ。二人とも別に嫌いじゃないですけど」
考え抜いた後での無難な答えを口にした桐生ではあったが、それで納得する二人ではない。
二人が待ち望んでいる答えは、どっちか一人の名前なのだ。
「・・・解ったわ、じゃあこうしよ」
「何やねん?」
真島はなにやら考え込む仕草をすると、突然掴んでいた腕を放して龍司を隅っこの方へと引っ張っていった。
ごにょごにょごにょごにょ
なにやら話し込んでいる二人に、桐生は警戒心を強める。
・・・何か物凄く嫌な予感がする。
ここは逃げるべきか。
「よっしゃ!それじゃ一発勝負じゃっ」
「ほないくでぇ・・・」
「「ジャンケン ポン!!」」
「よっしゃ!ワシの勝ちや!」
「・・・ちっ、負けてしもうたわ」
こそこそと話し込んでいたと思ったら突然真島と龍司がジャンケンを始めた。
勝ったのは龍司で、負けた真島は地団太を踏んで悔しがっている。
「あ、あの、二人とも・・・」
しかし訳が解らずおろおろしていた桐生は、誇らし顔の龍司に腕を掴まれてしまった。
「ほな、いこか」
「は?いくって何処へ・・・」
「勿論桐生はんの部屋や」
「は?」
俺の・・・部屋?
「桐生チャン、わしが直ぐに慰めたるからなぁぁぁ!」
「はぁ?」
訳が解らない。
一体二人で何を話し合ったんだ。
龍司に引っ張られていく桐生を、ハンカチ片手に真島が見送る。
・・・そして、この後桐生はその意味を身をもって知ることになるのだった。
パタン
「ちょ、何なんだ一体???」
部屋の中に入った途端ベッドに押し倒された桐生は、上から覆い被さってきた龍司を退けようと肩に手を掛ける。
だが、それよりも早く龍司が桐生の服を脱がせ始めたものだから桐生はギョッと慌て出した。
「おいっ、何する!?」
「急ぐんや、桐生はん」
「は?うわっ!?」
勢いよく下着ごとズボンを脱がされて、桐生は思わず崩れた体制を立て直す為シーツに両手を突く。
すると、これ見よがしに龍司はシャツを脱がせ様手首を縛り付けてしまい身動きが取れないようにしてしまった。
「おい、龍司ッ!・・・あっ!」
「桐生はん、長くはできへんけど最高に良くしたるからな」
「ふっ・・・何、い・・・て・・・っ」
胸に這わせられた手にビクリと震える。
これから何が始まるのか。
それは龍司の意図的に動かされる手の動きと、奪うように塞がれた唇によって嫌でも桐生にはわかった。
「・・・はっ・・・ッ」
龍司の大きな手や熱い舌が這わせられる度、桐生の口からは自分でも耳を塞ぎたくなるような吐息と、甘い声が零れる。
「桐生はん、気持ちええか?」
「りゅ・・・や・・・ぁ」
時間がないというだけあって、その動きに桐生の身体と思考が付いていけない。
だがどんなに時間が無くても手を抜かないのが龍司だ。先走りに濡れる中心を口の中に含み愛撫を施しながら、同時に龍司の手は胸と、グチュグチュと音を立てて後ろを犯し確実に桐生を追い詰めていく。
三箇所同時に責められながらオマケに聴覚まで犯されて、桐生の中はもうグチャグチャだ。
「ひっ・・・あぁああ!!も、やぁ・・・ッんぅ・・・」
涙を流しながら卑猥な音に耐え切れずシーツに顔を擦り付けると、グリッと龍司の指が中のいいところを擦り上げ悲鳴を上げる。
「あああっ!!」
「ええ声や、もっと鳴いてや」
「そこっ、やだ!やめっ」
「やめへん」
龍司は集中的にそこを責めながら、暫し桐生の乱れる姿を眺める。
普段の桐生からは想像も出来ない快楽に濡れる姿に、ニヤける顔が止められない。
どうせならこのままもう少し・・・
ガンガンガンガン!!!
「・・・ちっ」
もう少し堪能したかったのだが、フライパンでも叩いているのだろう音に舌打ちすると龍司は仕方なく指を抜き取った。
「ッ・・・ぁ・・・?」
「時間制限って約束やからな、堪能するんはまた今度にするわ」
そう言って龍司は己の硬く起ち上がったそれを取り出すと後ろに宛がう。
そして桐生の腰を抱えると、一気に突き立てた。
「いっ・・・あああああ!!!」
指とは比べ物にもならない痛みと衝撃に桐生は悲鳴を上げる。
それでも龍司は容赦なく桐生を追い詰める。
「やっ!りゅ・・・ッああっ!あ、あ、ひぁッ」
「は、は、堪忍な、桐生はん。けど、ワシはあんな男になんぞ負けへんで」
激しく突かれながら強く抱きしめられる。
その背中にいつの間にか外された腕を回ししがみ付きながら、桐生はどうしていいのか解らず何度も龍司の名を呼んだ。
それしか今の桐生には出来なかった。
「りゅ、じ、りゅう・・・じ・・・ッ」
「桐生はん・・・ッ」
「も、駄目だッりゅう・・じ・・・ッ!もぅ・・・イク・・・ッ」
「くっ・・・ッ好きや、一馬ッ」
「ふ、あ、・・・ッあああああっ!!」
ガチャ
「・・・終わったで、おっさん」
「ほな、次はワシの番やな」
龍司が不満ダラダラと言った感じで部屋から出てくると、待っている間にベコベコにしてしまったフライパンを放り投げて急いで入れ替わりに部屋へと入る。
そして部屋の中へと入った真島の目に飛び込んできたのは、下肢を誰とも解らぬ精液で汚しぐったりとベッドに横たわった桐生の姿だった。
「に・・・さ・・・?」
余程激しくされたのか、桐生はぼんやりと真島を見ている。
まだ思考が働いていないようだ。
「あいつに手酷くされたんか、桐生チャン。可哀想になぁ」
元々自分が提案した結果だということは棚に上げ、真島は大切にシーツごと桐生を抱き上げる。
「さ、桐生チャン、綺麗にしよな」
「・・・え?」
・・・綺麗に・・・する?
桐生がその意味を理解する前にバスルームへと移動した真島は、既に用意してあった風呂へと桐生を押し込むと自分も服を脱ぎ出す。
そして桐生を包み込んでいたシーツが剥がされ、真島の指が背後から精液で汚れた内股の方へと伸ばされた瞬間、桐生は漸く真島の「綺麗にする」という意味を理解して慌て出した。
「ちょ、に、兄さんっ!?」
「あんな奴に先越されたんは嫌やけど、桐生チャン抱けるのは嬉しいんやで。せやから綺麗にして、今度はわしで一杯にしたる」
「や、あああッ!」
真島の指が遠慮なく先程まで龍司の太いそれを銜え込んでいた場所へと入り込み、少しずつ中の精液を掻き出す。
その間ソープで胸や首を素手で洗われて、龍司との行為ですっかり敏感になってしまった身体は再び熱を帯び始めた。
「あ、んぁぁっ!に・・・さん・・・ッやめ・・・んぅっ」
「やめへん。桐生チャンの乱れた姿、わしにも見せてや」
「あっ!?や、やだッ!!そこはっ」
硬く反り返って先走りに濡れ出したそこを泡だった手が包み込んで、優しく上下に動き始める。
そして掻きだす為に動いていた中の指は、まるで何かを探るように目的を変えて動き出した。
「さっき奴の銜え込んだから、多少ピッチ上げても大丈夫やな」
真島は一度桐生から手を離してシャワーを捻ると上から湯が降り注ぎ身体に付いた泡を洗い流していく。
そしてある程度泡が流れ落ちたのを確認すると、湯を止めて桐生を浴槽の縁へと座らせた。
後ろの壁がひんやりと背中に辺り、桐生の霞んでいた思考をクリアにしていく。
「に・・・さん、なんで・・・ッ」
「桐生チャンが好きだからや。奴なんぞに桐生チャンはやれん」
だからって、これはないだろ。
そんな桐生の抗議の言葉は、真島によって塞がれた。
桐生の思考を奪うように口付けながら、真島の手が胸の突起を摘む。
普段手袋をしている手が、桐生の胸を弄る度にくぐもった声が洩れ浴槽に浸かっていた足がパシャッと水を蹴った。
「はぁ、・・・ッぁ・・・」
「大人しくしとき」
絡めていた舌を放し、口の端から溢れた唾液を舐め取るとそのまま首筋へと移動させて強く吸いつく。
色の白い桐生の肌は、それだけで赤く色付かせて綺麗な痕を残した。
「綺麗やで」
「んぅ・・・、あッ!兄さん・・・っ」
「兄さんじゃ寂しいわ。吾朗って呼び。桐生チャン」
「ふッああ!」
真島はカリッと胸の突起に噛み付き、わざと声を上げさせる。
浴室での桐生の声は、この上なく艶やかに響いた。
「ああっふ・・・くぅ・・・」
「桐生チャン、もうこんなにしてもうて気持ちええんか」
「あ・・・」
忙しなく真島の手と舌が愛撫を施し、しとしとと触れていない中心が濡れている。
「こんなに濡らして。いけない子やな」
その先をチロリと舐めて桐生を見上げれば、その光景に桐生は顔を真っ赤にさせて余りの恥ずかしさに涙を流していた。
「ええ顔や。もっと乱れ」
「ああッ!!」
真島は満足そうに笑うと、見せ付けるように桐生自身を口に含みゆっくりと愛撫していく。
そして同時に後ろにも指を這わせて、赤くなったそこにゆっくりと中指を入れた。
「ひぁっ!あ、あああっ!!に、さんっ激しッ」
「吾朗や」
「やあっ!吾朗ッさ・・・駄目ぇッ」
「駄目やのうて、ええんやろ」
必死に首を横に振って両手を真島の頭にしがみ付かせる桐生の姿に、真島はほくそ笑み更に指の動きを激しくしていく。
もっと喘がせて、啼かせたい。
ドガシャンドガシャンドガシャン!!!
「あのガキャ・・・」
そこへ今度は鍋でも叩きつけるような音が聞えてきて、真島は悔しそうに指を抜き取った。
このまま続けたらお預けを喰らいかねない。
「桐生チャン、残念やけどまた今度じっくり楽しませたるからな」
そう言って真島は桐生の両足を抱え上げると腰を引き寄せ、一気に高ぶった己のモノで貫いた。
「あああああっ!!」
浴室内に桐生の悲鳴が響き渡る。
もしかしたら部屋の外まで聞えているかもしれない。
「あっ、あっ、ごろぉさ・・・ッ」
「桐生チャン、わしをもっと感じや」
「やぁッ!ふかっ・・・い、・・・ああッ」
真島は桐生と入れ替わるように縁に座ると、下から激しく桐生を突いた。
必死にしがみ付いて喘ぐ桐生の耳を犯しながら、腹の間に挟まった反り返る桐生自身を強く自分に押し付けるように揺らし追い詰めていく。
するととうとう耐え切れなくなった桐生が真島の耳元で泣くような声で許しを請い始め、その声に真島は我慢しきれず強く桐生を貫いた。
「やっ!もう駄目!イクッ、イ、ク・・・・・・ッ!!」
「ぐっ・・・ッ!・・・好きやで、一馬ッ」
「あ・・・あああああっ!!!」
ぐったり・・・
「わしの勝ちやで」
「いいや、ワシの勝ちに決まっとるわ」
ベッドにぐったりと横たわる桐生の横で、性懲りも無く二人が言い争っている。
その内容は余りにも莫迦らしくて、桐生の怒りゲージを上げるのには十分だった。
「桐生はん、どっちが良かったんや?」
「桐生チャン、わしに決まっとるよな?」
ここでも変なところで息がピッタリの真島と龍司に、ゲージMAXになった桐生の中でプチンと何かが切れる。
本気で伝説の龍を怒らせたらどうなるか。
「どっちも嫌いです」
冷たく感情のない声で言い捨てられた言葉に、真島と龍司はビクッと身体を硬直させる。
桐生の身体から青いオーラが激しく放たれている。
「な、なんでや!?」
「どうしてやねん!!」
それでも二人が桐生に抗議しようとすると、ゆらり・・・と桐生が起き上がった。
・・・眠る龍を起こしてしまった。
「そんなこと自分で考えろッ!!それと俺に当分近づくなぁぁぁッ!!」
バターンッ!!!・・・ガチャリ
桐生は二人を部屋から渾身の力を込めて叩き出すと、部屋の鍵を掛けてヨロヨロと布団の中へ潜り込む。
・・・全く、大変な目に遭った。
もうこれでは当分動けそうもない。
「今日は遥に部屋まで食事持ってきてもらおう」
桐生は布団の中でウトウトまどろみ始めながら、先程の二人との行為を思い出して顔を真っ赤にさせる。
大体、どっちが良かったなんて・・・
「初めてなのに、そんなの解る訳ないだろッ」
桐生は真っ赤になった顔を隠すように頭まで被ると、強烈に襲ってきた睡魔に目を閉じる。
嫌いではない。
でも・・・きっと、同じくらい好き。
・・・そして帰宅した遥が見たものは、まるで魂が抜けたように放心状態になっている般若と西の龍の姿と。
すっかり変形したフライパンらしき物体&鍋らしき物体の変わり果てた姿だった。
END
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始まりはいつも突然だ。
狂犬の呼び名の通り、吾朗は普段から己の狂気を振るう。
隠そうともしないその狂気の犠牲者は様々だ。
しかし普段の狂気は、まだほんの僅かしか顔を見せていない状態。
常に表に出ているのは、吾朗の狂気の一部。
そして、吾朗の中に眠る狂犬が完全に目覚めきっていない状態。
狂犬が完全に目覚めきった時、吾朗は本当の意味で狂犬と化す。
そして、それはいつも突然にやってきた。
そう、突然だった…。
グシャ!
何かが潰れる音。
ズル………ドサっ!
そして、滑る音と落ちる音がした。
「…足りんわ。」
「ヒっ!」
「も、もう、勘弁して下さ…」
「先に喧嘩売ったんは、そっちやないか。」
「あ、ゆ…、許し…」
男達の言葉は、最後まで紡がれることなく途絶えた。
「ぁ、あ…」
何を言っても聞き入れてもらえない。
まだ生き残った男達は、喧嘩を売った最初の時に受けた、バットで殴られた痛みですぐに逃げ出せない。
男達は絶望した。
逃げられない彼らに課せられた宿命。
狂犬の餌食。
そして、死の宴が始まる。
吾朗が満足するまで…。
吾朗が飽きるまで…。
今日、この日。
今この瞬間、吾朗の前にいる男達は、恐怖とともに己の死を感じた。
吾朗は目覚めるままに、狂犬を解き放つ。
始まる狂気の宴。
血を求めた狂犬の、目覚めだった。
壁に身体を押し付け、鉄パイプを肩に刺す。
壁に1人縫い付け、次の獲物へ。
鬼炎のドスが男の背中を捕らえる。
悲鳴を上げる男を無視し、そのままドスを引き下ろした。
背中を一直線にドスが走り、次には血渋きが上がる。
そして男は壁に放り投げられた。
そうやって、生き残った男達を1人残らず、逃がさないようにした。
逃げ出そうとすれば、今まで遊んでいた男を一旦離した吾朗が、ドスを振り下ろしてくる。
男達に逃げ場は無かった。
壁に縫い付けられた男は、まるで解剖される蛙の気分を味わいながら死んでいった。
瞳は抉り出され、まだ意識があった男の、残った片目に見せ付けるように、抉り取った眼球に舌を這わす。
何度か繰り返した後、眼球はドスで真っ二つになって地面に落ちる。
肩に突き刺したドスを下に引けば、皮一枚で繋がったのか、落ちきらない肩が垂れ下がった。
喉の下にドスを刺して、一直線に下に引く。
流れ出る血を気にすることなく、切り口を開いた。
中には当然、誰にでも備わっている内蔵の数々。
手を入れて腸を引き出し、ドスで胃を裂いた。
左の肺にドスを刺し、左手は心臓を握り、右の肺を掴み出す。
肺に刺さっていたドスを抜き、眉間に突き立てる。
そのまま上に向かって、力任せに何度も突き刺して、頭を二つに割る。
割れた頭から、脳を掴み出して握り潰した。
まだ握ったままだった心臓を引き抜き、すでに動いていない心臓を舐める。
遊びつくして興味が無くなったのか、手にした心臓を捨てて次の玩具へ向った。
何度も加えられた殺戮に、大半は死んでいる。
生き残ったのは、残り僅かだ。
その僅かな男達に、吾朗の牙が襲いかかる。
落ちていた鉄パイプを地面に刺し、それに男の肩を押して差し込んだ。
次は腹に鉄パイプを刺し、下から身体を持ち上げる。
そうやって、繰り返し身体に鉄パイプを刺していく。
そして出来上がる、人間の標本。
身体のいたる所に鉄パイプが刺さり、身体は空中に浮いていた。
支えは身体に刺さった鉄パイプ。
まだ生きているのか、微かな呻き声。
だが吾朗に届くはずもなく、吾朗は鉄パイプに伝う血を指でなぞっていた。
そこで人の気配を感じた。
こちらに向かって来る2つの気配。
だが吾朗は慌てなかった。
鉄パイプに刺さった男を、押し付けて更に深くに差し込んだ。
そして、気配を感じた場所へ移動する。
やってきたのは若いカップルだった。
その2人が行動を起こすよりも早く、吾朗は女の手を掴み壁に押し付け鬼炎のドスを肩に刺す。
彼女を助けようとした男の腕を掴み、さっき男を押し付けて出来た鉄パイプの上の部分に、座らせる格好で身体を押さえ付ける。
咄嗟に手で押さえようとしたのか、後ろに伸ばされた手のひらに鉄パイプが刺さり、両の太股にも鉄パイプは刺さって身体を空中で固定された。
痛みに流れ出る涙の瞳で、彼女を見つめている。
女は彼氏を見て、泣いている。
そんな2人を無視した吾朗は、女に近寄った。
泣きながら恐怖に顔を引きつらせ、震えている。
「ぁ、た、助け…」
「災難やったなぁ。」
「ぉ、お願、ぃ。」
それには答えず、口元には笑みを浮かべる。
女の目の前に来た吾朗は、肩に刺さったままだったドスを抜いて、腹に差し込んだ。
女の悲鳴が響き、彼氏は動けない自分に涙を流す。
腹に刺したドスを引き抜いて、太股・脇腹・腕と滅多刺しにする。
そして、ドスで服を裂いて全裸にしてから、再び肩に刺した。
裸に剥かれた彼女の姿に、彼氏は声を上げたが、それで吾朗が止まる訳もなく、女の片足を持ち上げて、猛った自身を取り出す。
狂犬が目覚めきった時の殺戮は、血と血の匂いに興奮して勃った。
普段では勃つほどまでにはいかない。
しかしこの時ばかりは、吾朗も抑えることはしなかった。
出した自身を慣らしてもいない秘口に、一気に突き挿れた。
女の苦しげに漏れる悲鳴は、うるさいとばかりに吾朗が自分の手を当て口を塞いだ。
女の身体を気遣うことなく、自分の快感だけを追う。
切れたのか、女の秘口からは血が出て、太股に伝っている。
だがそれで滑りが良くなり、吾朗は腰の動きを早くした。
女が犯されている間、止血されていない傷からは血が流れ続けている。
悲鳴すら上げる力が残っていないのか、うわごとしか言わなくなると、吾朗は手を外した。
そして肩から流れ出た血の後を舌でなぞる。
死にかけた女の瞳は、開いたまま死の色を浮かべる。
吾朗はその瞳の下を一度舐めてから、眼球を舐めた。
そうやって、死んでいく女をなぶりながら、吾朗は女を犯し続けた。
どのくらいそうしていただろう、吾朗が果てて中に精を注いで、自身を引き抜いたのと同時くらいに、女は完全に死んだ。
それを興味なく見やって、自身をしまい込むと、鉄パイプに刺したままだった男に視線を向けた。
一部始終見せられ、彼女の死を見せられ、男は絶望していた。
吾朗が近寄っても身動きせず、ただ小さく言葉にならない声を出し泣いていた。
その男の首にドスを突き刺し、続けて力任せに差し込んだ。
髪の毛を掴み、頭が落ちないようにし、首を切り放して、それを手前にあった鉄パイプに刺した。
死の直前のままの顔、首から下には鉄パイプ。
その後ろに、座った格好で空中に繋ぎ止められた、首のない身体がある。
辺りにも五体バラバラになったものなど、様々な死体があった。
そこは血の海。
地獄絵図さながらの光景があった。
「…兄さん。」
「来たんか。」
その地獄に、龍と呼ばれし男がやって来た。
「まだ足りてへんのや。桐生ちゃんなら、楽しめるなぁ。」
言うが早いか、吾朗は一馬に向かって行く。
この地獄に気を取られていた一馬は、一瞬の反応が遅れた。
吾朗がそれを逃すはずもなく、腕を掴んで身体を入れ替え、地獄の中に完全に引き入れる。
そのまま足払いをして地面に倒し、腰を跨いで一馬の上に乗った。
どこから出したのか、吾朗の手には紐。
素早く一馬の両腕をそれで縛り、二人分の死体を支えている鉄パイプに括り付けた。
「なんのつもりだ!」
「そやから楽しむんや。」
そう言って、右手で一馬自身を服の上からなぞった。
「は、離せ!」
「2人で楽しもやないか。なぁ?」
そうして空いていた左手で首を軽く絞めながら、吾朗は一馬の唇を舐めた。
首を抑えられた一馬は、抗議の声が出せなくなった。
首の手はそのままに吾朗は、一馬のズボンからベルトを抜きジッパーを下げた。
そして器用に口を使いながら革手袋を脱いだ右手で、下着の中から一馬自身を取り出すと、上下に擦り始める。
「気持ちよぉしたるからな、桐生ちゃん。」
吾朗はもう一度唇を舐めてから、キスをした。
首を絞められ無意識で薄く開けている一馬の唇に、吾朗は舌を入れる。
角度を変えて深く何度もキスしながら、首から手を離し身体を移動させた。
そうしてもう片方の革手袋も取り外す。
首から手がなくなったことで、一馬は酸素を求めた。
吾朗は移動した先で、緩く反応しだした一馬自身を舐め始める。
「ぁ、やめ…」
「やめへん。もう止まらんわ。」
勃ち始めた一馬自身を口に含み、片手で自分のズボンのベルトを緩め、ジッパーを下げ中からすでに勃っている自身を取り出した。
相当興奮しているのか、先走りが地面に落ちる。
右手で自分自身を緩く擦りながら、左手は一馬自身を触り、舌や口に含んで追い詰めていく。
「あかん、我慢出来ん。」
吾朗はそう言うと、一馬のズボンを下着ごとズリ下ろして脱がせた。
再び一馬自身に刺激を与えながら、後ろに指を這わせた。
自身の先走りでぬめる指で、入り口をなぞってから中指を1本差し入れる。
いくらも出し入れしないうちに、2本目を入れた。
吾朗に余裕などなく、早く一馬の中に挿れたくて仕方なかった。
慣らしていたはずの2本の指は早急に引き抜かれ、吾朗は猛って張り詰めた自身を一馬の中に挿れていく。
「くっ、う。」
「もう少し辛抱しいや、すぐによくしたるからな。」
一馬に声をかけて、自身をすべて収めた吾朗はゆっくりと腰を使い始めた。
吾朗は一馬の反応を見ながら、中で一馬のいいところを探す。
「っあ、ああ!」
ビクンと反応を示した一馬に薄く笑ってから、そこを執拗に突いた。
「あっ、に、兄さん。」
「気持ちえぇか?…っ…もっと欲しがってえぇで。」
一馬は抵抗を忘れ、吾朗が与える快楽に身を任せた。
一馬が抵抗しなくなると、吾朗は両腕を繋ぎ止めた紐にドスを刺し、紐を切って両腕を自由にすると、その腕を自分の首に回させた。
首に回した腕で吾朗に縋りつきながら一馬は喘いだ。
吾朗は一馬の声に、更に欲情して激しく攻め立てた。
血塗れの紅い海。
残酷な死体が数多く存在する中。
吾朗は一馬を抱く。
そして一馬は吾朗に抱かれた。
血に汚れるのも構わずに、淫らに絡み合う2つの影。
龍は地獄で、般若に愛された。
「溺れてまえ。」
吾朗に言われた言葉に、一馬は答えなかったが、縋る力が強くなった。
そんな一馬を、吾朗は腰の動きを早くして追い詰めていく。
最後は2人同時に果てた。
ずっと欲しいと願っていた、唯一の存在。
この地獄で、般若は龍を手に入れた。
end
狂犬の呼び名の通り、吾朗は普段から己の狂気を振るう。
隠そうともしないその狂気の犠牲者は様々だ。
しかし普段の狂気は、まだほんの僅かしか顔を見せていない状態。
常に表に出ているのは、吾朗の狂気の一部。
そして、吾朗の中に眠る狂犬が完全に目覚めきっていない状態。
狂犬が完全に目覚めきった時、吾朗は本当の意味で狂犬と化す。
そして、それはいつも突然にやってきた。
そう、突然だった…。
グシャ!
何かが潰れる音。
ズル………ドサっ!
そして、滑る音と落ちる音がした。
「…足りんわ。」
「ヒっ!」
「も、もう、勘弁して下さ…」
「先に喧嘩売ったんは、そっちやないか。」
「あ、ゆ…、許し…」
男達の言葉は、最後まで紡がれることなく途絶えた。
「ぁ、あ…」
何を言っても聞き入れてもらえない。
まだ生き残った男達は、喧嘩を売った最初の時に受けた、バットで殴られた痛みですぐに逃げ出せない。
男達は絶望した。
逃げられない彼らに課せられた宿命。
狂犬の餌食。
そして、死の宴が始まる。
吾朗が満足するまで…。
吾朗が飽きるまで…。
今日、この日。
今この瞬間、吾朗の前にいる男達は、恐怖とともに己の死を感じた。
吾朗は目覚めるままに、狂犬を解き放つ。
始まる狂気の宴。
血を求めた狂犬の、目覚めだった。
壁に身体を押し付け、鉄パイプを肩に刺す。
壁に1人縫い付け、次の獲物へ。
鬼炎のドスが男の背中を捕らえる。
悲鳴を上げる男を無視し、そのままドスを引き下ろした。
背中を一直線にドスが走り、次には血渋きが上がる。
そして男は壁に放り投げられた。
そうやって、生き残った男達を1人残らず、逃がさないようにした。
逃げ出そうとすれば、今まで遊んでいた男を一旦離した吾朗が、ドスを振り下ろしてくる。
男達に逃げ場は無かった。
壁に縫い付けられた男は、まるで解剖される蛙の気分を味わいながら死んでいった。
瞳は抉り出され、まだ意識があった男の、残った片目に見せ付けるように、抉り取った眼球に舌を這わす。
何度か繰り返した後、眼球はドスで真っ二つになって地面に落ちる。
肩に突き刺したドスを下に引けば、皮一枚で繋がったのか、落ちきらない肩が垂れ下がった。
喉の下にドスを刺して、一直線に下に引く。
流れ出る血を気にすることなく、切り口を開いた。
中には当然、誰にでも備わっている内蔵の数々。
手を入れて腸を引き出し、ドスで胃を裂いた。
左の肺にドスを刺し、左手は心臓を握り、右の肺を掴み出す。
肺に刺さっていたドスを抜き、眉間に突き立てる。
そのまま上に向かって、力任せに何度も突き刺して、頭を二つに割る。
割れた頭から、脳を掴み出して握り潰した。
まだ握ったままだった心臓を引き抜き、すでに動いていない心臓を舐める。
遊びつくして興味が無くなったのか、手にした心臓を捨てて次の玩具へ向った。
何度も加えられた殺戮に、大半は死んでいる。
生き残ったのは、残り僅かだ。
その僅かな男達に、吾朗の牙が襲いかかる。
落ちていた鉄パイプを地面に刺し、それに男の肩を押して差し込んだ。
次は腹に鉄パイプを刺し、下から身体を持ち上げる。
そうやって、繰り返し身体に鉄パイプを刺していく。
そして出来上がる、人間の標本。
身体のいたる所に鉄パイプが刺さり、身体は空中に浮いていた。
支えは身体に刺さった鉄パイプ。
まだ生きているのか、微かな呻き声。
だが吾朗に届くはずもなく、吾朗は鉄パイプに伝う血を指でなぞっていた。
そこで人の気配を感じた。
こちらに向かって来る2つの気配。
だが吾朗は慌てなかった。
鉄パイプに刺さった男を、押し付けて更に深くに差し込んだ。
そして、気配を感じた場所へ移動する。
やってきたのは若いカップルだった。
その2人が行動を起こすよりも早く、吾朗は女の手を掴み壁に押し付け鬼炎のドスを肩に刺す。
彼女を助けようとした男の腕を掴み、さっき男を押し付けて出来た鉄パイプの上の部分に、座らせる格好で身体を押さえ付ける。
咄嗟に手で押さえようとしたのか、後ろに伸ばされた手のひらに鉄パイプが刺さり、両の太股にも鉄パイプは刺さって身体を空中で固定された。
痛みに流れ出る涙の瞳で、彼女を見つめている。
女は彼氏を見て、泣いている。
そんな2人を無視した吾朗は、女に近寄った。
泣きながら恐怖に顔を引きつらせ、震えている。
「ぁ、た、助け…」
「災難やったなぁ。」
「ぉ、お願、ぃ。」
それには答えず、口元には笑みを浮かべる。
女の目の前に来た吾朗は、肩に刺さったままだったドスを抜いて、腹に差し込んだ。
女の悲鳴が響き、彼氏は動けない自分に涙を流す。
腹に刺したドスを引き抜いて、太股・脇腹・腕と滅多刺しにする。
そして、ドスで服を裂いて全裸にしてから、再び肩に刺した。
裸に剥かれた彼女の姿に、彼氏は声を上げたが、それで吾朗が止まる訳もなく、女の片足を持ち上げて、猛った自身を取り出す。
狂犬が目覚めきった時の殺戮は、血と血の匂いに興奮して勃った。
普段では勃つほどまでにはいかない。
しかしこの時ばかりは、吾朗も抑えることはしなかった。
出した自身を慣らしてもいない秘口に、一気に突き挿れた。
女の苦しげに漏れる悲鳴は、うるさいとばかりに吾朗が自分の手を当て口を塞いだ。
女の身体を気遣うことなく、自分の快感だけを追う。
切れたのか、女の秘口からは血が出て、太股に伝っている。
だがそれで滑りが良くなり、吾朗は腰の動きを早くした。
女が犯されている間、止血されていない傷からは血が流れ続けている。
悲鳴すら上げる力が残っていないのか、うわごとしか言わなくなると、吾朗は手を外した。
そして肩から流れ出た血の後を舌でなぞる。
死にかけた女の瞳は、開いたまま死の色を浮かべる。
吾朗はその瞳の下を一度舐めてから、眼球を舐めた。
そうやって、死んでいく女をなぶりながら、吾朗は女を犯し続けた。
どのくらいそうしていただろう、吾朗が果てて中に精を注いで、自身を引き抜いたのと同時くらいに、女は完全に死んだ。
それを興味なく見やって、自身をしまい込むと、鉄パイプに刺したままだった男に視線を向けた。
一部始終見せられ、彼女の死を見せられ、男は絶望していた。
吾朗が近寄っても身動きせず、ただ小さく言葉にならない声を出し泣いていた。
その男の首にドスを突き刺し、続けて力任せに差し込んだ。
髪の毛を掴み、頭が落ちないようにし、首を切り放して、それを手前にあった鉄パイプに刺した。
死の直前のままの顔、首から下には鉄パイプ。
その後ろに、座った格好で空中に繋ぎ止められた、首のない身体がある。
辺りにも五体バラバラになったものなど、様々な死体があった。
そこは血の海。
地獄絵図さながらの光景があった。
「…兄さん。」
「来たんか。」
その地獄に、龍と呼ばれし男がやって来た。
「まだ足りてへんのや。桐生ちゃんなら、楽しめるなぁ。」
言うが早いか、吾朗は一馬に向かって行く。
この地獄に気を取られていた一馬は、一瞬の反応が遅れた。
吾朗がそれを逃すはずもなく、腕を掴んで身体を入れ替え、地獄の中に完全に引き入れる。
そのまま足払いをして地面に倒し、腰を跨いで一馬の上に乗った。
どこから出したのか、吾朗の手には紐。
素早く一馬の両腕をそれで縛り、二人分の死体を支えている鉄パイプに括り付けた。
「なんのつもりだ!」
「そやから楽しむんや。」
そう言って、右手で一馬自身を服の上からなぞった。
「は、離せ!」
「2人で楽しもやないか。なぁ?」
そうして空いていた左手で首を軽く絞めながら、吾朗は一馬の唇を舐めた。
首を抑えられた一馬は、抗議の声が出せなくなった。
首の手はそのままに吾朗は、一馬のズボンからベルトを抜きジッパーを下げた。
そして器用に口を使いながら革手袋を脱いだ右手で、下着の中から一馬自身を取り出すと、上下に擦り始める。
「気持ちよぉしたるからな、桐生ちゃん。」
吾朗はもう一度唇を舐めてから、キスをした。
首を絞められ無意識で薄く開けている一馬の唇に、吾朗は舌を入れる。
角度を変えて深く何度もキスしながら、首から手を離し身体を移動させた。
そうしてもう片方の革手袋も取り外す。
首から手がなくなったことで、一馬は酸素を求めた。
吾朗は移動した先で、緩く反応しだした一馬自身を舐め始める。
「ぁ、やめ…」
「やめへん。もう止まらんわ。」
勃ち始めた一馬自身を口に含み、片手で自分のズボンのベルトを緩め、ジッパーを下げ中からすでに勃っている自身を取り出した。
相当興奮しているのか、先走りが地面に落ちる。
右手で自分自身を緩く擦りながら、左手は一馬自身を触り、舌や口に含んで追い詰めていく。
「あかん、我慢出来ん。」
吾朗はそう言うと、一馬のズボンを下着ごとズリ下ろして脱がせた。
再び一馬自身に刺激を与えながら、後ろに指を這わせた。
自身の先走りでぬめる指で、入り口をなぞってから中指を1本差し入れる。
いくらも出し入れしないうちに、2本目を入れた。
吾朗に余裕などなく、早く一馬の中に挿れたくて仕方なかった。
慣らしていたはずの2本の指は早急に引き抜かれ、吾朗は猛って張り詰めた自身を一馬の中に挿れていく。
「くっ、う。」
「もう少し辛抱しいや、すぐによくしたるからな。」
一馬に声をかけて、自身をすべて収めた吾朗はゆっくりと腰を使い始めた。
吾朗は一馬の反応を見ながら、中で一馬のいいところを探す。
「っあ、ああ!」
ビクンと反応を示した一馬に薄く笑ってから、そこを執拗に突いた。
「あっ、に、兄さん。」
「気持ちえぇか?…っ…もっと欲しがってえぇで。」
一馬は抵抗を忘れ、吾朗が与える快楽に身を任せた。
一馬が抵抗しなくなると、吾朗は両腕を繋ぎ止めた紐にドスを刺し、紐を切って両腕を自由にすると、その腕を自分の首に回させた。
首に回した腕で吾朗に縋りつきながら一馬は喘いだ。
吾朗は一馬の声に、更に欲情して激しく攻め立てた。
血塗れの紅い海。
残酷な死体が数多く存在する中。
吾朗は一馬を抱く。
そして一馬は吾朗に抱かれた。
血に汚れるのも構わずに、淫らに絡み合う2つの影。
龍は地獄で、般若に愛された。
「溺れてまえ。」
吾朗に言われた言葉に、一馬は答えなかったが、縋る力が強くなった。
そんな一馬を、吾朗は腰の動きを早くして追い詰めていく。
最後は2人同時に果てた。
ずっと欲しいと願っていた、唯一の存在。
この地獄で、般若は龍を手に入れた。
end
よく吾朗は一馬に絡んでいた。
どうしてかなど、吾朗本人にしか分からない。
だがきっと、一馬との喧嘩が楽しいからだ。
一馬は、そう思っていた。
しかし、気付いたことがあった。
さり気なさ過ぎて、見落としがちな優しさ。
たまに見落としてしまう時もあった。
それほどの小さな優しさだが、吾朗は一馬にそれを与えた。
もちろん、今までと変わらない関係ではあった。
それでも少しだけ、吾朗に変化があるのだ。
いつも通りの吾朗ではあるのだが、どこかがおかしかった。
それが何か、分からなかった。
…気付かされるまで。
今日もいつものように、一馬は町を歩っていた。
絡んでくる輩は相変わらずだ。
だからいつものように、一馬は男達を伸していく。
男達は地に沈み、一馬はそのまま去って行く。
しばらく歩くとカップルの会話が聞こえた。
「凄かったねぇ。」
「あぁ、あれ死んだな。」
「やっぱり、あの人強いねぇ。」
「けど、ありゃ遣り過ぎだろ。」
「でも、あの人恐い人で有名だから。」
その話に、一馬は嫌な予感がした。
「悪い、それどこだ?」
「あぁ?!何あんた?!」
「…あそこ曲がった先。」
「すまないな。」
女の言葉の方向に、一馬は向かった。
「あなたこの町来たばっかだからね。でも覚えた方がいいよ?今の人は、桐生一馬。“堂島の龍”って呼ばれてる人。」
「えっ?!」
「それから、さっきの眼帯の人は、真島吾朗。“嶋野の狂犬”。2人とも有名な人だよ。」
一馬が去った後に、こんな会話がされていた。
一馬が向かった先には、やはり思った通りの人物がいた。
「…兄さん。」
「…どないした?桐生ちゃん。」
振り向いた吾朗の顔は、無表情に近かった。
血塗れで地に沈んでいる男達を伸していた時は、おそらく無表情だったのだろう。
その為、気分が戻りきっていないのだ。
だからいつも一馬に向けている顔ではなかった。
「…兄さんこそ、どうしたんだ?」
「どうもせんわ。」
「なら、この状況は?」
「ただちぃーっと、暴れたくなっただけや。」
それにしては、ひどい有様だった。
もしかしたら、死人がいるかもしれない。
「…最近、よく暴れているみたいだが?」
「暴れたい気分なんや。」
「…何かあったんですか?」
「なんもないで。」
「なら…、」
「ほんまに何でもないわ。ほなな。」
そう言って、吾朗は行ってしまった。
明らかにいつもの吾朗ではない。
いつもなら、絡んでくるはずだ。
それなのに、足早に立ち去ってしまった。
いつもの吾朗らしくない彼に、一馬は戸惑っていた。
そして何故か気になった。
いつもの日常が変われば、気にもなるだろう。
それでも深くは追求しなかった。
きっとまた、いつもの吾朗に戻ると思ったからだ。
しかし戻らなかった。
戻るどころか日増しにひどくなる。
ついには、吾朗の舎弟が泣き付いてくる有様。
そして一馬は、吾朗がよくいるバッティングセンターの前にいた。
看板には『いてはります。真島』の文字。
「…兄さん。」
吾朗の舎弟に泣き付かれ、来てみたものの、一馬に何が出来るというのだろう。
「…理由を聞いて、素直に話す人じゃないしな。」
それ以前に顔を合わせにくかった。
自分でも分からない。
それでも、自分の中の何かがおかしかった。
「あれ?桐生さん!」
ここに立っていれば予想出来ただろう。
吾朗の舎弟が来るかもしれない。
もしかしたら、吾朗が出て来るかもしれないということに…。
「やっぱり来てくれたんスね!」
「…いや、…何でも、ない。」
そう言って一馬は歩き去っていく。
「あ!桐生さん!」
最後の望みが絶たれ、舎弟の1人は肩を落とした。
外で一馬と会った舎弟が中に入ると、吾朗は興味なさそうにバットを振っていた。
的は自分の舎弟達。
手加減されていない吾朗の振りに、舎弟達は地に沈んでいく。
飽きたのか、今度はネタを要求する。
「おもろい話ないんか?」
ドゴっ!!!
吾朗にバットで殴られ、1人沈む。
「ないんかぁ?」
「あ、兄貴!」
「なんや?」
「今、さっき。…き、桐生さんに会いました。」
「ほんまか?」
「はい。でも何だか様子が変でし…」
ドカっ!!、ドゴっ!!!
最後まで言う前に、また地に沈める。
「そういうんは、はよ言えや。」
吾朗はそのまま、バットを持って外へ出るべく、出入口に向かう。
広いこの町で、人1人探すのは大変なことだ。
しかし吾朗は気にしない。
「ついてくんなや。」
自分の舎弟達に釘を刺して、吾朗は町に繰り出した。
どのくらい探しただろう。
しかし見つからない一馬に、吾朗はあることを思った。
もしかしたら、あそこにいるかもしれない。
荒れたまま放置されたセレナに…。
そして吾朗はセレナに向かう。
いてほしいという。
僅かな希望を抱き…。
ついた先で、吾朗は慎重に扉を開けた。
中を見渡せば、ソファに放心したように座る一馬の姿がある。
静かに一馬に近寄り、隣に腰を下ろした。
「…なんぞ、あったんか?」
その声に、一馬の身体がビクっとなる。
しかし返事はない。
吾朗は構わずに続けた。
「なんや、おかしいで?」
「いつもの桐生ちゃんやないやんか?」
「どないした?」
「…兄さんこそ。」
今まで黙っていた一馬が、ようやく声を出した。
「…先に様子が変わったのは、兄さんの方だろ。」
「…別に変やないやんか、俺が暴れるんわ毎度のことやろ。」
「兄さん。」
「うん?」
「それでも暴れ方が異常だ。」
「なんや、突然。」
「…何かにイラついてるように見える。」
「…何が言いたいんや。」
「兄さんの舎弟が泣き付いて来たんだ。」
「…なんやと?」
「明らかに様子がおかしいと…。」
「そんなん、」
「俺もおかしいと思う。」
「…だったら、なんや?」
「兄さん?」
「俺の様子がおかしかったら、なんやっちゅーねん。」
不機嫌を隠そうともせず、吾朗は声を低くした。
「そんなん、自分のことや。俺がよぅ知っとる。」
「そやけど、どないせい言うんや?!」
「こんなん、おかしいやないか!そやけど、あかんかったんや!」
そこに、一馬が知る吾朗はいなかった。
何かにイラつき、自分の気持ちを持て余していた。
「…兄さん。」
呼び掛けた一馬の腕を取り、自分の方に引き寄せる。
近づいた一馬の顔に、吾朗は自分の顔を寄せる。
そのまま一馬の耳に唇を近付けた。
「桐生ちゃん、好きなんや。」
その言葉に、一馬は目を見開いた。
「…好、き?」
「せや。男同士やし、おかしいんは分かっとる。せやけど、駄目やったわ。」
「ぁ、俺、を?」
「他に誰がおんねや。」
「だけど…、」
「言わせたんは、桐生ちゃんやで?」
「なっ?!」
そして吾朗はまた唇を、一馬の耳に寄せる。
声を低くして、囁く。
「一馬、愛してるで。」
耳元で囁かれた言葉。
だが何故か嫌な気分ではなかった。
『あぁ、そうか、俺は…。』
そして気付いた自分の気持ち。
「桐生ちゃん?」
「…っ、にぃ、さん。」
「ん?」
今度は一馬が吾朗に近寄り、耳に唇を寄せた。
「俺も、愛してます。吾朗さん。」
「…っ。」
「…兄さん?」
「あかん。反則やわ。」
「え?」
「両想いやったら、なんも問題ないやんな?」
「…何が、」
「責任、取りや?」
「…ぁ。」
耳元に囁かれた艶を帯びた吾朗の声に、一馬は責任の取り方がどんな方法なのか気付いた。
ソファに押し倒され、腰に手を回されて抱き合えば、密着する身体。
隙間なく抱き合えば、一馬の太股に吾朗の下半身が当たった。
押し付けられる吾朗の熱さに、一馬は目眩を感じた。
「桐生ちゃんが、あないなこと言うから、勃ってしもたわ。」
「…にぃ、さ、」
「そやから、責任取り?もう、我慢出来へん。」
「兄さん。」
一馬は了承の意を、吾朗に縋りつくことで示した。
「…一馬。」
「…んっ。」
そして重なる唇。
2人は時間を忘れて抱き合った。
吾朗は何度も一馬を求めて抱いた。
一馬は何度も吾朗に求められて満たされた。
そして同じ分だけ、吾朗も満たされていた。
最後は激しい行為に、気絶した一馬を、吾朗は抱き締めて眠りについた。
朝目覚めて、腕の中で眠る存在に吾朗は目を細めた。
誰よりも愛しい恋人。
失いたくない大切な存在。
「…ん。」
腕の中で、一馬が起きる気配がした。
「起きたんか?」
「…に、ぃ、さん。」
「身体、平気か?」
「平気、だ。」
そうは言うものの、一馬の声は擦れていた。
「無理、させたなぁ。」
「…っ、いい。」
「なんや、照れてんのかいな?」
「…っ、」
そう言いながら、吾朗は一馬の頬を撫でた。
一馬は目を閉じて、それに身を委ねる。
愛しい人との時間は、こんなにも穏やかな気分にさせる。
「桐生ちゃん、好きやで。」
「分かってる。」
「誰にも渡さへんし、離さへんで。桐生ちゃんは俺のもんや。」
「だったら、兄さんは俺のものだな。」
「そやな。俺は桐生ちゃんのもんやで。」
どちらともなく、口付けを交わす。
深くではなく、何度も軽く交わされるキス。
まるで約束を交わす儀式のような光景だ。
「そやけど、桐生ちゃんとは喧嘩もしてたいわ。」
「言うと思った。」
「えぇんか?」
「駄目だと言っても、絡むつもりだろう?」
「分かってるやないか。」
そして2人は笑い合った。
「桐生ちゃん。」
「なんだ?」
「喧嘩するのもえぇけど、それ以上に愛したるからな。」
そして、吾朗は再び一馬に口付けた。
一馬はキスを受け取り、いつしか深いものに変わる。
そうして、吾朗に再び火がついた。
「マズイわ、またヤリとぅなってきた。」
「っ、兄さん?!」
「駄目か?」
「…ぁ。」
耳元に囁かれた声に、一馬は身体を震わせた。
吾朗が身体を密着させれば、一馬に当たる吾朗の猛った熱。
そのまま吾朗は、再び一馬の身体を貪り始める。
一馬も抵抗することなく、吾朗を受け入れた。
2人は今幸せの真っ只中にいる。
そしてそれから、吾朗の態度は元に戻ったと言う。
end
どうしてかなど、吾朗本人にしか分からない。
だがきっと、一馬との喧嘩が楽しいからだ。
一馬は、そう思っていた。
しかし、気付いたことがあった。
さり気なさ過ぎて、見落としがちな優しさ。
たまに見落としてしまう時もあった。
それほどの小さな優しさだが、吾朗は一馬にそれを与えた。
もちろん、今までと変わらない関係ではあった。
それでも少しだけ、吾朗に変化があるのだ。
いつも通りの吾朗ではあるのだが、どこかがおかしかった。
それが何か、分からなかった。
…気付かされるまで。
今日もいつものように、一馬は町を歩っていた。
絡んでくる輩は相変わらずだ。
だからいつものように、一馬は男達を伸していく。
男達は地に沈み、一馬はそのまま去って行く。
しばらく歩くとカップルの会話が聞こえた。
「凄かったねぇ。」
「あぁ、あれ死んだな。」
「やっぱり、あの人強いねぇ。」
「けど、ありゃ遣り過ぎだろ。」
「でも、あの人恐い人で有名だから。」
その話に、一馬は嫌な予感がした。
「悪い、それどこだ?」
「あぁ?!何あんた?!」
「…あそこ曲がった先。」
「すまないな。」
女の言葉の方向に、一馬は向かった。
「あなたこの町来たばっかだからね。でも覚えた方がいいよ?今の人は、桐生一馬。“堂島の龍”って呼ばれてる人。」
「えっ?!」
「それから、さっきの眼帯の人は、真島吾朗。“嶋野の狂犬”。2人とも有名な人だよ。」
一馬が去った後に、こんな会話がされていた。
一馬が向かった先には、やはり思った通りの人物がいた。
「…兄さん。」
「…どないした?桐生ちゃん。」
振り向いた吾朗の顔は、無表情に近かった。
血塗れで地に沈んでいる男達を伸していた時は、おそらく無表情だったのだろう。
その為、気分が戻りきっていないのだ。
だからいつも一馬に向けている顔ではなかった。
「…兄さんこそ、どうしたんだ?」
「どうもせんわ。」
「なら、この状況は?」
「ただちぃーっと、暴れたくなっただけや。」
それにしては、ひどい有様だった。
もしかしたら、死人がいるかもしれない。
「…最近、よく暴れているみたいだが?」
「暴れたい気分なんや。」
「…何かあったんですか?」
「なんもないで。」
「なら…、」
「ほんまに何でもないわ。ほなな。」
そう言って、吾朗は行ってしまった。
明らかにいつもの吾朗ではない。
いつもなら、絡んでくるはずだ。
それなのに、足早に立ち去ってしまった。
いつもの吾朗らしくない彼に、一馬は戸惑っていた。
そして何故か気になった。
いつもの日常が変われば、気にもなるだろう。
それでも深くは追求しなかった。
きっとまた、いつもの吾朗に戻ると思ったからだ。
しかし戻らなかった。
戻るどころか日増しにひどくなる。
ついには、吾朗の舎弟が泣き付いてくる有様。
そして一馬は、吾朗がよくいるバッティングセンターの前にいた。
看板には『いてはります。真島』の文字。
「…兄さん。」
吾朗の舎弟に泣き付かれ、来てみたものの、一馬に何が出来るというのだろう。
「…理由を聞いて、素直に話す人じゃないしな。」
それ以前に顔を合わせにくかった。
自分でも分からない。
それでも、自分の中の何かがおかしかった。
「あれ?桐生さん!」
ここに立っていれば予想出来ただろう。
吾朗の舎弟が来るかもしれない。
もしかしたら、吾朗が出て来るかもしれないということに…。
「やっぱり来てくれたんスね!」
「…いや、…何でも、ない。」
そう言って一馬は歩き去っていく。
「あ!桐生さん!」
最後の望みが絶たれ、舎弟の1人は肩を落とした。
外で一馬と会った舎弟が中に入ると、吾朗は興味なさそうにバットを振っていた。
的は自分の舎弟達。
手加減されていない吾朗の振りに、舎弟達は地に沈んでいく。
飽きたのか、今度はネタを要求する。
「おもろい話ないんか?」
ドゴっ!!!
吾朗にバットで殴られ、1人沈む。
「ないんかぁ?」
「あ、兄貴!」
「なんや?」
「今、さっき。…き、桐生さんに会いました。」
「ほんまか?」
「はい。でも何だか様子が変でし…」
ドカっ!!、ドゴっ!!!
最後まで言う前に、また地に沈める。
「そういうんは、はよ言えや。」
吾朗はそのまま、バットを持って外へ出るべく、出入口に向かう。
広いこの町で、人1人探すのは大変なことだ。
しかし吾朗は気にしない。
「ついてくんなや。」
自分の舎弟達に釘を刺して、吾朗は町に繰り出した。
どのくらい探しただろう。
しかし見つからない一馬に、吾朗はあることを思った。
もしかしたら、あそこにいるかもしれない。
荒れたまま放置されたセレナに…。
そして吾朗はセレナに向かう。
いてほしいという。
僅かな希望を抱き…。
ついた先で、吾朗は慎重に扉を開けた。
中を見渡せば、ソファに放心したように座る一馬の姿がある。
静かに一馬に近寄り、隣に腰を下ろした。
「…なんぞ、あったんか?」
その声に、一馬の身体がビクっとなる。
しかし返事はない。
吾朗は構わずに続けた。
「なんや、おかしいで?」
「いつもの桐生ちゃんやないやんか?」
「どないした?」
「…兄さんこそ。」
今まで黙っていた一馬が、ようやく声を出した。
「…先に様子が変わったのは、兄さんの方だろ。」
「…別に変やないやんか、俺が暴れるんわ毎度のことやろ。」
「兄さん。」
「うん?」
「それでも暴れ方が異常だ。」
「なんや、突然。」
「…何かにイラついてるように見える。」
「…何が言いたいんや。」
「兄さんの舎弟が泣き付いて来たんだ。」
「…なんやと?」
「明らかに様子がおかしいと…。」
「そんなん、」
「俺もおかしいと思う。」
「…だったら、なんや?」
「兄さん?」
「俺の様子がおかしかったら、なんやっちゅーねん。」
不機嫌を隠そうともせず、吾朗は声を低くした。
「そんなん、自分のことや。俺がよぅ知っとる。」
「そやけど、どないせい言うんや?!」
「こんなん、おかしいやないか!そやけど、あかんかったんや!」
そこに、一馬が知る吾朗はいなかった。
何かにイラつき、自分の気持ちを持て余していた。
「…兄さん。」
呼び掛けた一馬の腕を取り、自分の方に引き寄せる。
近づいた一馬の顔に、吾朗は自分の顔を寄せる。
そのまま一馬の耳に唇を近付けた。
「桐生ちゃん、好きなんや。」
その言葉に、一馬は目を見開いた。
「…好、き?」
「せや。男同士やし、おかしいんは分かっとる。せやけど、駄目やったわ。」
「ぁ、俺、を?」
「他に誰がおんねや。」
「だけど…、」
「言わせたんは、桐生ちゃんやで?」
「なっ?!」
そして吾朗はまた唇を、一馬の耳に寄せる。
声を低くして、囁く。
「一馬、愛してるで。」
耳元で囁かれた言葉。
だが何故か嫌な気分ではなかった。
『あぁ、そうか、俺は…。』
そして気付いた自分の気持ち。
「桐生ちゃん?」
「…っ、にぃ、さん。」
「ん?」
今度は一馬が吾朗に近寄り、耳に唇を寄せた。
「俺も、愛してます。吾朗さん。」
「…っ。」
「…兄さん?」
「あかん。反則やわ。」
「え?」
「両想いやったら、なんも問題ないやんな?」
「…何が、」
「責任、取りや?」
「…ぁ。」
耳元に囁かれた艶を帯びた吾朗の声に、一馬は責任の取り方がどんな方法なのか気付いた。
ソファに押し倒され、腰に手を回されて抱き合えば、密着する身体。
隙間なく抱き合えば、一馬の太股に吾朗の下半身が当たった。
押し付けられる吾朗の熱さに、一馬は目眩を感じた。
「桐生ちゃんが、あないなこと言うから、勃ってしもたわ。」
「…にぃ、さ、」
「そやから、責任取り?もう、我慢出来へん。」
「兄さん。」
一馬は了承の意を、吾朗に縋りつくことで示した。
「…一馬。」
「…んっ。」
そして重なる唇。
2人は時間を忘れて抱き合った。
吾朗は何度も一馬を求めて抱いた。
一馬は何度も吾朗に求められて満たされた。
そして同じ分だけ、吾朗も満たされていた。
最後は激しい行為に、気絶した一馬を、吾朗は抱き締めて眠りについた。
朝目覚めて、腕の中で眠る存在に吾朗は目を細めた。
誰よりも愛しい恋人。
失いたくない大切な存在。
「…ん。」
腕の中で、一馬が起きる気配がした。
「起きたんか?」
「…に、ぃ、さん。」
「身体、平気か?」
「平気、だ。」
そうは言うものの、一馬の声は擦れていた。
「無理、させたなぁ。」
「…っ、いい。」
「なんや、照れてんのかいな?」
「…っ、」
そう言いながら、吾朗は一馬の頬を撫でた。
一馬は目を閉じて、それに身を委ねる。
愛しい人との時間は、こんなにも穏やかな気分にさせる。
「桐生ちゃん、好きやで。」
「分かってる。」
「誰にも渡さへんし、離さへんで。桐生ちゃんは俺のもんや。」
「だったら、兄さんは俺のものだな。」
「そやな。俺は桐生ちゃんのもんやで。」
どちらともなく、口付けを交わす。
深くではなく、何度も軽く交わされるキス。
まるで約束を交わす儀式のような光景だ。
「そやけど、桐生ちゃんとは喧嘩もしてたいわ。」
「言うと思った。」
「えぇんか?」
「駄目だと言っても、絡むつもりだろう?」
「分かってるやないか。」
そして2人は笑い合った。
「桐生ちゃん。」
「なんだ?」
「喧嘩するのもえぇけど、それ以上に愛したるからな。」
そして、吾朗は再び一馬に口付けた。
一馬はキスを受け取り、いつしか深いものに変わる。
そうして、吾朗に再び火がついた。
「マズイわ、またヤリとぅなってきた。」
「っ、兄さん?!」
「駄目か?」
「…ぁ。」
耳元に囁かれた声に、一馬は身体を震わせた。
吾朗が身体を密着させれば、一馬に当たる吾朗の猛った熱。
そのまま吾朗は、再び一馬の身体を貪り始める。
一馬も抵抗することなく、吾朗を受け入れた。
2人は今幸せの真っ只中にいる。
そしてそれから、吾朗の態度は元に戻ったと言う。
end
紅い世界。
たいして広くもない部屋。
漂うは死の香。
ただ1人立ち尽くすのは、全身が紅く染まった少年だった。
昔の夢を見た。
初めて人を殺した時の…。
どうしてそうなったのか、覚えてはいない。
それでも記憶に残った。
紅と鉄臭い血。
床に転がった死体。
自分にもともとあった衝動なのか、ひどい有様だった。
最初は殴った。
それでも満足出来ずに殴り続け、足も出た。
殴り過ぎたのか、血を流し出すのを無視し、ただひたすら加える暴力。
顔の形が変わり、骨の砕ける音。
あちこちが変形していく、人の身体。
信じられない光景だった。
まだ少年の男の子とは思えない力。
冷めた瞳。
少年は口元だけに、薄く笑みを浮かべた。
子供とは思えない、残酷な冷笑だった…。
恐怖に引きつる顔をした相手を殴り続けながら…。
どこまでも冷酷な顔で…。
少年は暴力を振るい続ける。
殴られ蹴られ続け、血塗れになっていく身体。
骨が折れ、変な方向に曲がる腕。
それでも足りないと言わんばかりに続けられる行為。
加え続けた暴行は、すでに相手から抵抗する気力を奪う。
一旦は止まった少年の手。
しかし希望はない。
何故なら少年の手には、包丁が握られていたからだ。
カオス
□※※狂気
3ページ/5ページ
--------------------------------------------------------------------------------
そして少年は切り付ける。
持ち出した包丁で、滅多刺しにする。
何故こんな状況になったのか…。
すでに覚えていない。
少年にはすでに理由など、どうでもよかった。
少年が今捕らえているのは、目の前の獲物だけだ。
だから加える暴力は止まらない。
包丁で刺し切り刻むことで、辺りは更に鮮血に染まる。
呻き声さえ上げなくなったが、それでも少年は止めなかった。
肩を突き刺し。
頬を突き刺し、そのまま上に押し上げる。
腹を突き刺し、抉る。
そして内蔵…、腸を引き摺り出す。
太股を突き刺し、そのまま捻る。
瞳に刄を突き刺し、潰し。
あるいるは、瞳を指で抉り出し。
その眼球を舐める。
切り付けたあとに、指で肉を剥ぎ。
指は1本づつ切り落とす。
切り落とした指から滴る血を、まだ辛うじて長さのあった指を口に含み、血の味を楽しむ。
肩は脇のところの皮一枚で繋がっているのか、切れてはいるがまだ繋がり、垂れ下がっている。
ところどころ皮膚が無く、肉が見えている。
あるいるは、その肉さえ無く骨が出ていた。
包丁で首を切り付け。
でたらめに刺して、骨を断つ。
ドンっ!という音がした。
そして少年の足元に転がる、人の頭部。
吹き上げた血を頭から被り、全身が紅く濡れていた。
そしてようやく止めた時は、部屋は血の海だった。
興味を無くし、見下げた視線の先には、原型を留めていない人の身体。
首から下がない頭が2つあるそれは、男と女のもの。
身体に加えられた行為に違いはあるが、2人ともに首は切り落とされていた。
只の肉塊となったその犠牲者は、少年の両親だった。
壁一面に紅く広がる血痕。
ドス黒く変色している血。
存在するのは血の海と、立ち尽くす少年だけ。
『そのまんま飛び出して、親父に拾われたんやったっけ。』
まるでたいした思い出でもないように、吾朗は昔を懐かしむ。
血塗れの少年を見て、嶋野は何を思ったのか…。
吾朗は嶋野に拾われた。
嶋野はきっと、知っていたのだ。
出会ったあの瞬間、吾朗の中に眠る獣の存在を…。
だからこそ手元に置き、極道の世界に身を置かせた。
その時から吾朗は、自分の狂気を抑えることはしなくなった。
もっとも最初から抑えることなどしていなかった。
そのおかげで彼の両親は、その餌食になったのだ。
だからこそ、吾朗はこの世界で有名になった。
たとえ仲間や舎弟だろうが、気に入らなければ殴る。
やり過ぎて死なせた仲間は数知れず。
それでも何故か舎弟は吾朗に付いた。
そして吾朗の狂気を満たしてくれる龍は、彼にとって唯一の楽しみ。
思いきりやり合える相手。
本気で命のやり取りが出来る相手。
吾朗の中に眠る存在が、唯一歓喜する相手。
『ほんま、楽しいわ。』
『俺がこない楽しめるんわ、桐生ちゃんだけやで。』
龍はこれからも、吾朗を満たす存在。
『これからも、俺を楽しませたってくれや。』
『そやないと、退屈でしゃーないわ。』
『なぁ?桐生ちゃん。』
知らず、吾朗は口元に笑みを浮かべた。
そしてこれからも変わらない。
吾朗の狂気は絶えることなく、彼の中に存在し続ける。
狂犬と呼ばれる、男の中に…。
end
たいして広くもない部屋。
漂うは死の香。
ただ1人立ち尽くすのは、全身が紅く染まった少年だった。
昔の夢を見た。
初めて人を殺した時の…。
どうしてそうなったのか、覚えてはいない。
それでも記憶に残った。
紅と鉄臭い血。
床に転がった死体。
自分にもともとあった衝動なのか、ひどい有様だった。
最初は殴った。
それでも満足出来ずに殴り続け、足も出た。
殴り過ぎたのか、血を流し出すのを無視し、ただひたすら加える暴力。
顔の形が変わり、骨の砕ける音。
あちこちが変形していく、人の身体。
信じられない光景だった。
まだ少年の男の子とは思えない力。
冷めた瞳。
少年は口元だけに、薄く笑みを浮かべた。
子供とは思えない、残酷な冷笑だった…。
恐怖に引きつる顔をした相手を殴り続けながら…。
どこまでも冷酷な顔で…。
少年は暴力を振るい続ける。
殴られ蹴られ続け、血塗れになっていく身体。
骨が折れ、変な方向に曲がる腕。
それでも足りないと言わんばかりに続けられる行為。
加え続けた暴行は、すでに相手から抵抗する気力を奪う。
一旦は止まった少年の手。
しかし希望はない。
何故なら少年の手には、包丁が握られていたからだ。
カオス
□※※狂気
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そして少年は切り付ける。
持ち出した包丁で、滅多刺しにする。
何故こんな状況になったのか…。
すでに覚えていない。
少年にはすでに理由など、どうでもよかった。
少年が今捕らえているのは、目の前の獲物だけだ。
だから加える暴力は止まらない。
包丁で刺し切り刻むことで、辺りは更に鮮血に染まる。
呻き声さえ上げなくなったが、それでも少年は止めなかった。
肩を突き刺し。
頬を突き刺し、そのまま上に押し上げる。
腹を突き刺し、抉る。
そして内蔵…、腸を引き摺り出す。
太股を突き刺し、そのまま捻る。
瞳に刄を突き刺し、潰し。
あるいるは、瞳を指で抉り出し。
その眼球を舐める。
切り付けたあとに、指で肉を剥ぎ。
指は1本づつ切り落とす。
切り落とした指から滴る血を、まだ辛うじて長さのあった指を口に含み、血の味を楽しむ。
肩は脇のところの皮一枚で繋がっているのか、切れてはいるがまだ繋がり、垂れ下がっている。
ところどころ皮膚が無く、肉が見えている。
あるいるは、その肉さえ無く骨が出ていた。
包丁で首を切り付け。
でたらめに刺して、骨を断つ。
ドンっ!という音がした。
そして少年の足元に転がる、人の頭部。
吹き上げた血を頭から被り、全身が紅く濡れていた。
そしてようやく止めた時は、部屋は血の海だった。
興味を無くし、見下げた視線の先には、原型を留めていない人の身体。
首から下がない頭が2つあるそれは、男と女のもの。
身体に加えられた行為に違いはあるが、2人ともに首は切り落とされていた。
只の肉塊となったその犠牲者は、少年の両親だった。
壁一面に紅く広がる血痕。
ドス黒く変色している血。
存在するのは血の海と、立ち尽くす少年だけ。
『そのまんま飛び出して、親父に拾われたんやったっけ。』
まるでたいした思い出でもないように、吾朗は昔を懐かしむ。
血塗れの少年を見て、嶋野は何を思ったのか…。
吾朗は嶋野に拾われた。
嶋野はきっと、知っていたのだ。
出会ったあの瞬間、吾朗の中に眠る獣の存在を…。
だからこそ手元に置き、極道の世界に身を置かせた。
その時から吾朗は、自分の狂気を抑えることはしなくなった。
もっとも最初から抑えることなどしていなかった。
そのおかげで彼の両親は、その餌食になったのだ。
だからこそ、吾朗はこの世界で有名になった。
たとえ仲間や舎弟だろうが、気に入らなければ殴る。
やり過ぎて死なせた仲間は数知れず。
それでも何故か舎弟は吾朗に付いた。
そして吾朗の狂気を満たしてくれる龍は、彼にとって唯一の楽しみ。
思いきりやり合える相手。
本気で命のやり取りが出来る相手。
吾朗の中に眠る存在が、唯一歓喜する相手。
『ほんま、楽しいわ。』
『俺がこない楽しめるんわ、桐生ちゃんだけやで。』
龍はこれからも、吾朗を満たす存在。
『これからも、俺を楽しませたってくれや。』
『そやないと、退屈でしゃーないわ。』
『なぁ?桐生ちゃん。』
知らず、吾朗は口元に笑みを浮かべた。
そしてこれからも変わらない。
吾朗の狂気は絶えることなく、彼の中に存在し続ける。
狂犬と呼ばれる、男の中に…。
end