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うろほろぞ
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lo


『夢終庵二号店』ひかげやもり様から相互記念にいただきました!!
真桐ですよ…!感動しすぎて震えが止まりませんよどうしよう!














償いの方法

桐生は懇親の力を込めて真島の顔面に拳を叩きつけた。
どちらかというと華奢な体つきの真島はたやすく吹っ飛ぶが、またすぐ復活して抱きついてくる。
そんな不毛なやりとりが、真島のマンションでさっきから続いていた。

「兄さん!!料理中は抱きついてこないで下さいと何回言えばわかるんですか!!」

魚を捌いていた包丁を握ると、桐生はまだ床に転がった真島を睨みつける。
この男なら刺しても死なない気がするが、掃除が面倒くさい。
だが真島は桐生の気も知らず、殴られた鼻を押さえながらけらけらと笑った。

「そやかて、桐生ちゃんがあんまりかわええ格好しとんのやもん。それで抱きつかんかったら男ちゃうわ」
「…普通の男は、男相手に抱きつきませんけどね」

呆れた桐生に、真島はやはり笑う。

だが、真島の言い分も正しかったりするのだ。
今桐生が着ているエプロンは真っ白でフリルのついた、甘いデザインのものだった。これは、真島が用意したもの。

「そんなかわええ格好…怪我してみるのもんやで」

嬉しそうな真島に桐生は赤面してエプロンを見下ろした。


桐生が真島の家で、しかも真島の選んだエプロンをつけている理由は…一週間ほど前に遡る。

その日も真島は桐生に挑み、返り討ちにあった。
けれどそれはもう毎度のことなので、倒れて動かなくなった真島を捨てて、桐生は帰っていった。
だが、その後がいつもと違っていたのだ。
怪我をしてもすぐさま治るのが真島。
全治三ヶ月と言われても三日で復活してくるのが真島。

それが丸三日間、運ばれた病院で意識を取り戻さなかった。
四日目の朝、あっさりと目覚めた真島だっだ、退院を許されたのは今日で。
しかも、右腕が見事に折られていた。

やった本人である桐生も真島が昏睡状態であるときは死ぬほど心配をし、意識を取り戻してからは怪我を心配し、右腕の骨折は自分の事のように落ち込んだ。

そして、その時、せめて腕が治るまで身の回りの世話をすると言ったのだ。



「だ、だけどやっぱりこれは…!」

真っ赤になってエプロンを脱ごうとする桐生に、真島は慌てて止めに入る。
せめて、もう少しこの役得を味わっておきたい。

「わかった!!もう何もせぇへんから!!な!?」

「……ほんとですか?」

名残惜しいが、真島はガクガク頷いた。

「おう!それより、はよう桐生ちゃんの手料理が食べたいな~」


桐生は真島の笑みにいぶかしげな目を向けていたが…また、まな板の魚と向かいあった。
魚は捌くというよりも、解剖されたに近い状態になっているが、真島は桐生の隣でそれを楽しそうに見ていた。




できた料理はみんな見てくれは悪かったが、真島がついていたため味の方は問題無さそうだった。
テーブルに並んだ食事を前に二人は向かい合わせに座り…真島が機嫌良く口を開ける。


「あーん」

「………俺が、ですか?」

「当たり前やん。ワシ、いま箸持たれへんもん」

ギプスで固められた腕を振られては、桐生が断れるはずもなく。
大きくため息をつきながら、箸をとった。


「どうぞ」

差し出される一口ぶんのおかず。
しかし真島は口を開かなかった。
さっきはあんなに大きく口を開いていたくせに…と、桐生は小さく毒づいた。

「…………あーん」

「あーんvv」

なんだか、犬相手に餌付けしている気分だった。
真島からすればこれは「新婚さん」の行為なのだが…桐生はわざと気付かないよう努めた。

「次はそっち」

「はいはい、これですね」






きっと、

「一緒に風呂入ろか!!」

とか言って強制的に風呂場に連れて行かれたり、

「頭あろて欲しいなー」

と我が儘を言われたり、

「よっしゃ!!ほな寝よか!!」

…と、ベットに引きずり込まれ、抱き締められ、脱がされそうになるのに抵抗しながら一晩明かす事にならなければ。
桐生も真島の世話がまんざらでもなかった。


真島のマンションから桐生が逃げ出すのは、次の日の早朝の事だった。


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「ねぇおじさん、真島のおじさんって結婚してるの?」
「…………は?」



いつもと同じ様に二人で作った夕食を食べながら、その日にあった出来事を遥から聞いていた桐生は、いきなり振られたその話題に、思わず間の抜けた声を出してしまった。

「今日ね、事務所でみんなが<理想のタイプ>のお話ししてたの」

遥の言う"事務所"とは、真島建設の事務所の事だ。
時々仕事で帰りが遅くなる桐生は、一人で留守番をする遥を心配して、常々どこか信用の置けるところに預けるべきではないかと考えていた。
しかし今まで起きた事件の事を思うと、下手な所に預ける訳にはいかない。遥の身の安全を考えると、預ける先は極端に制限されてしまう。
そんな時、真島が「だったらウチに預けたら良いがな」と、いつのも人の悪い笑顔で立候補してきたのだ。
確かに、真島の元ならこれ以上なく安全だろう。
社長の真島を始め、従業員は皆元・真島組の構成員だ。腕に覚えのある男たちばかりなのだから、今までの様に簡単に遥が攫われてしまう事は無いはずだ。
だが、できるだけ遥を極道世界から離して育てたい桐生は、真島の申し出を素直に受け入れる事ができなかった。
最終的には本人の「真島のおじさんの所が良い」という一言に折れる形で、遥の真島事務所行きが決まったのだが、最近遥の言葉の端々に真島たちの影響が見え隠れして、桐生としては気が気ではない。
今日のこの話題にしても、年端もいかない子供の前でする話ではないだろう。
まったくあの男は何を考えているんだ。次に会うときにきつく言っておかないと。
そう思っていた矢先に先程の言葉だ。
桐生は口元まで運んだ箸を下ろしもせず。ポカンと遥を見つめていた。

「そしたら真島のおじさんが『世界中の女が束になってかかってきても、ワシのカミサンには適わへんで!』って」

遥はピヨちゃん柄の箸とお揃いのご飯茶碗を持ったまま話し続ける。

「《カミサン》って奥さんの事だよね?」
「…………あ、ああ」

何とか返事を返した桐生は、遥の言葉を頭の中で反芻する。
真島に。
あの真島に”奥さん”がいる?

「すっごく嬉しそうに奥さんの事話してたよ。聞いてる私たちが恥ずかしくなっちゃう位」
「そう、なのか」

遥はその時の様子を思い出したのだろう。ほんのりと頬を染めている。
桐生はというと、”真島の奥さん”という言葉が相当衝撃的だったのか、そんなかわいらしい遥の表情に気づきもせずに呆然としていた。
11年、いやそれ以上前から事あるごとに自分に付きまとってきた真島。
どれだけ邪険に扱っても、ヘラリとした顔で「桐生チャン、好っきやで~」と纏わり付いてきたあの男に”奥さん”がいると言う。

今だって町で顔をあわせれば、薄気味悪い程の素早さで自分に絡み付いてくるくせに。

毎週週末になると、酒を持参で桐生と遥のアパートに転がり込んでくるくせに。

遥が眠った頃を見計らって、自分にちょっかいを出してくるくせに。


”奥さん”がいると言う。


「真島のおじさん、奥さんがいたんだねぇ。おじさんは会ったことある?」
「いや、初耳だ」
「ふーん、そうなんだ。どんな人なんだろうね」
「さぁ、な」

いろんな意味で付き合いの深い桐生でも会った事の無い”真島の奥さん”の話はそれで終わり、遥の同級生の失敗談に話題が移った後も、桐生の脳裏には”真島の奥さん”の事で一杯で。
せっかく遥と二人で作ったハンバーグを味わう余裕もなくなってしまっていた。






翌日、またしても仕事で遅くなった桐生は、遥を迎えに真島建設の事務所に来ていた。
できることなら昨日の今日で真島の顔を見たくは無かったのだが、遥を預けたままには出来ないのだから仕方がない。
しかし一体、どんな顔をして真島に会えば良いのだろうか…
真島が”カミサン”と言い切る位なのだから、おそらく遊びではない筈だ。
ならばここは自分が身を引くべきなのだろう。

…いや、ちょっと待て。

《身を引く》なんて、まるで自分が真島に惚れている様ではないか。
自分は真島が余りにもしつこく言い寄ってくるものだから、ちょっと、その、絆されてと言うか流されてと言うか、まぁ、そんな感じで相手をしてやっていただけなのだ。
だから別に、真島にそういう相手がいても、別に全然関係ない。
そうだ。全然関係ないし、痛くも痒くもなんとも無い。
事務所の前で1時間ほどウダウダと思い悩んでいた桐生はようやくそう思い切ると、安いプレハブ建ての事務所のドアノブに手をかけた。

『せやから何べんも言うとるやろが!世界中の女が束になってかかってきても…』
『『『《ワシのカミサンには適わへん》』』』

何とも運の悪い事に、どうやら事務所内では、またしても真島の”カミサン”の話題になっているようだ。
せっかく思い切ってドアノブに手を掛けたのに、桐生はそれ以上動く事が出来ないでいた。

『なんや、解っとるやないか』
『でも親父、そないな風に言われたかて、その《カミサン》について具体的な事、いっこも教えてくれはらへんや無いですか』
『アホか!そんなん勿体無くてお前らなんぞに教えられるか!』
『いやでも、親父の奥さんだったら俺らの姐さんになる訳ですし、少し位教えてくれはってもええのんとちゃいますか?』

入り口前で立ち往生している桐生に気付く訳も無く、真島建設の面々は、真島の”カミサン”の話題で盛り上がり始めている。
ここは何気ない振りをして中に入り、遥を連れてさっさと帰るのが一番だろう。
真島がどんな態度を取るか気になる所だが、そんな事は知った事ではない。
再びドアノブを握る手に力を込めると、今度は遥の声が聞こえて来た。

『私も真島のおじさんの奥さんの事聞きたーい!』
『なんや、嬢ちゃんまで』

そうだ、遥。
何だってお前はそんなに真島の”カミサン”について知りたがるんだ…

『だってこの間桐生のおじさんに聞いてみたんだけど、桐生のおじさんも聞いた事無いって言ったたんだもん』
『おいおい、嬢ちゃん、桐生チャンに聞いてもうたんかいな???』

なんとなく慌てた様子の真島の声に、桐生の気分は更に下降した。
やはり自分には内緒にしていたのだ。
いや、別に、落ち込んでなどいない。
落ち込んでいる訳ではないが、なんとなく、心の奥に大きな石を抱え込んだような、そんな気持ちになっただけだ。
そうだ、別に落ち込んではいない。

『うん。でもおじさんも知らないって』
『しゃぁないなぁ…ほんじゃちぃとだけ教えたるわ』
「!!!!!」

真島自身が語る彼の”カミサン”。
聞きたくは無いが、いっその事聞いてしまった方が重たい気持ちもスッキリするのではないか。このままではモヤモヤとして気分が悪いだけだ。
そしてその"カミサン"の話を聞いたら、一切真島との付き合いを絶とう。
遥は寂しがるかもしれないが、こればっかりは譲れない。
桐生はそう決意をすると、事務所内の様子に耳をそばだてた。

『解っとるやろうけど、それ聞いて岡惚れでもしようもんなら、お前等皆殺しやで?』
『『『………………………う、ウィッス』』』
『で、真島のおじさんの奥さんってどんな人なの?』
『せやなぁ…まずはスタイル抜群や。背は高めで、巨乳でなぁ。尻もバーン!と張ってんねん。あれはまさに安産型やな』

そうか、真島は巨乳が好きだったのか。
まぁ同じ男としては解らなくも無い。

『デルモっすか?』
『さすが親父や!』
『アホか。そんなチャラチャラしたもんとちゃうわ。』

真島の答えと共にバキッと何かが折れる音がした。
おそらく棒状のもので誰かが殴られたのだろう。

『一見近寄りがたい雰囲気を全身から醸し出しとんのやけど、話してみると結構真面目での。一本筋の通った、真っ直ぐな人間なんや』
『ほほぉ』
『でな、厳つい顔しとるくせに子供が好きやねん。小さい子ぉと話す時は自分がしゃがんでちゃんと目線を合わせたるんや』

真島は”狂気”などと呼ばれている割りに、そういう常識的な人間を好む傾向がある。
彼らしい人選ではあるな、と桐生は小さく息を吐いた。

『っかぁ~!完璧やないですか!』
『一体どこでそんな上玉と知り合うたんですか。馴れ初めも教えてくださいよー!』
『お前等、調子に乗りすぎやぞ…まぁ今日は気分も良えしの。特別に教えたるわ』

嫌そうな口調ではあるが、その声色は間違いなく楽しそうで。
そんな風に”カミサン”について話す真島の様子に、桐生は胸の奥が更に重たくよどむのを感じた。

『ワシとカミサンが初めて会うたのはもう20年以上前やったかのう』
『結構古いお付き合いなんですね』
『あの頃のカミサンはまだまだ子供でなぁ、初めの頃はワシも大して興味を惹かれへんかった』

20年以上前といえば、桐生が初めて真島と出会った頃と重なる。
当時の自分は中学を卒業して堂島組に入ったばかりで、右も左もわからずに必死で使いッ走りをしていた。
その頃に真島はその”カミサン”と出会ったのか。

『それが日に日に大人になっていくのを見るうちに、なんや、こう、沸々と胸にこみ上げるものがでてきてのお』
『わかります!』
『大人の階段を昇る過程ってのは、危うい魅力がありますもんね!』
『そやねん!お前、よぉ解っとるやないか!』

ドゴォ!
今度は何か重たい物がぶつかる様な音がしてきた。
真島という男は、舎弟が口を滑らせても上手い事を言っても、結局は何かしらの暴力で対応する傍迷惑極まりない人物なのだ。

『まぁそん時はワシも嶋野の親父の組におったし、向こうは風間のオッサンの秘蔵ッ子でな、下手にちょっかいもだせんかったのよ』
『あー、風間の叔父貴のお知り合いやったんですか』
『街中で会うても挨拶くらいしかできんくてのぉ。向こうも恥ずかしがりなんか知らんけど、いっつもツれない態度ばかり取りおったんや…あの頃は切なかったでぇ』

結局その”カミサン”について聞いたところで、モヤモヤとした気分が晴れる訳も無く、こんな事なら最初から立ち聞きなどするのではなかったと、桐生が後悔し始めた頃、聞き捨てなら無い名前が真島の口から飛び出した。
聞き間違えでなければ、真島は今”風間のオッサン”と言わなかっただろうか?
風間の親ッさんの関係者なら、自分も会った事ががあるはずだ。
まさか真島の”カミサン”がそんな近くにいたとは。
桐生は手を掛けたままだったドアノブを思わずギリ…と握り締めた。









『でもそんな状態でよくモノにできましたね』
『そらお前、おしておして、押し捲ったのよ』
『マジっすか!』
『さすが親父、情熱的っすね!』
『当たり前やっちゅうねん!極上の相手モノにしよう思たら、恥も外聞もかなぐり捨てなあかんのや!!お、ワシいま、物凄いえぇ事言うたな。お前等、ちゃんとメモしとき』
『ウィッス!!!』
『…初めてカミサンと寝た夜は、そっらもう感動的やったでぇ。忘れもせん、15年前の冬や』

もう、だめだ。
15年前といえば、自分が真島と関係を持った頃と重なる。
背中に入れたばかりの刺青から発熱し、朦朧としていた自分を介抱してくれた真島の思いもよらない一面を見たのと、それまでに散々好きだの惚れただの言われていたのとに絆されて、関係を持ったのが15年前の冬の事。
つまり真島は、自分に言い寄っていたのと同じ様に、他にもそういう相手がいたのだ。
普段ならば「遥がいるのに、そんな話をするな」と、事務所内に乗り込んでいく所なのだが、いまの桐生はうめき声すら出せず、ただ氷のように冷たくなったドアノブを握り締めているだけだった。

『カミサンの背中に入れたばかりの龍が汗に塗れてえらい艶かしくてのぉ』








「……………え?」








ちょっと待て。








背中の…………………………………龍?








『り、龍…でっか?』
『そうや、名匠と言われたあのうた…』
「兄さん!」

桐生は事務所のドアを蹴破ると、突然の出来事に呆然としている真島の舎弟たちに見向きもせず、そのまま事務所の最奥の社長机にふんぞり返っている真島の元へ足音も荒く近づいていった。

「あ、桐生のおじさん」
「おう、桐生チャン、今日は随分ゆっくりなお迎えやな」

明らかにいつもの様子と違う桐生に気を止めることも無く、普段どおりに接する遥はやはり只者ではないのかもしれない。一方真島はと言うと、ニタリと人の悪い表情を浮かべて、ワザとらしく桐生へ笑いかけた。

「あんた…一体なに話してるんですか!!!」
「何って、馴れ初めやないかい、ワシと、桐生チャンの」
「な…!!!!」

その言葉に事務所内の空気が一気に凍りつく。
今まで自分たちは”親父のカミサン”について聞いていたのではなかったか?それがなぜ”親父と桐生の馴れ初め”になるのだろう…

つ……………つまり……………?

真島の舎弟たちは必死になって思い当たってしまった”その事”から考えを逸らせようと必死だった。
殺される。それに気付いたと桐生にバレたら間違いなく殺される。
桐生の全身から噴出している怒気と殺気に動じないのは、神室町広しと言えども遥と真島くらいのものだろう。
それなのに、真島は桐生を引き寄せると、気持ちが悪いほど全開の笑顔で言うのだ。

「ま、丁度ええ。今更紹介するのもなんやけどな、コレがワシの可愛い可愛いカミサ…ンーーーーー?!?!?!?!?」
「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇーいっ!!!!!!!!!!」

真島が最後まで言い切る前に、桐生は真島の体を抱えあげると、2階建ての事務所の窓から外へと放り投げた。ぶち破られたガラス窓の破片と、2階から投げ落とされた衝撃で、いかに不死身な真島といえども、重傷は免れないだろう。
突然の事態に、桐生の殺気にあてられて凍り付いていた舎弟たちも窓際へ駆け寄り、階下の真島を心配そうに覗き込んだ。
…さすが真島だ。
全身の切り傷から血を吹き出させていても、まだ何とか蠢いている。

「お、親父ぃぃぃーーーーー!!!!!!!!!」

親父、頼むから起き上がってくれ!
自分たちではキレた桐生の叔父貴の相手なんて絶対に無理だ!!!
そんな切実な願いも虚しく、背後に迫ってきた桐生の気配に舎弟達は再び凍りついた。

「………テメェら………」

地を這うような桐生の声に、舎弟たちはもう生きた心地もしない。

「「「は、ハイッッッ!!!!!」」」
「今の話…他所でしたらどうなるか、わかってんだろうな…?」
「「「ハハハハハハハハハイィーーーーッ!!!!!!!!!!」」」

これ見よがしに拳を作り、パキパキと骨を鳴らす桐生の姿に、舎弟たちは直立不動で返事を返した。怖いもの知らずの武闘派連中でもやはり怖いものは怖いのだ。
真島がいない今、鬼の如き形相の桐生に勝てるものなど誰もいやしない。

「…真島のおじさんの奥さんって…」
「!!!!!!!!!は、遥………」

いや、一人だけいた。

「桐生のおじさん、だったの?」

小首をかしげて尋ねる遥に、桐生から発せられた殺気はなりを潜めた。
そして物凄く気まずそうに遥から目を逸らし、もごもごと口の中だけで返事をする。

「…ちがう」
「だって真島のおじさんが言ってたのって…」
「絶対に違う。真島の兄さんは、ちょっと、その、アレな人なんだ」
「えー、でも…」
「絶・対・に・違・う!!」

遥に手を引かれて事務所を出て行く桐生の後姿を、息を詰めて見ていた舎弟たちは、そっと振り返ってウィンクをした遥の様子に、天使を見たとか鬼を見たとか。
そしてこの日以来、遥は”真島のおじさんの奥さん”について話をすることは無くなり、桐生もそれについて全く触れようともしなかった。
ただ、真島についてはずいぶん長い間桐生家への出入りが禁じられていた様だ。
その出入り禁止が解かれたのにも、遥が一枚噛んでいた様で、真島建設内ではまことしやかに「お嬢最強説」が流れて行くのだった。


「全く…ウチのカミサンは照れ屋やのぉ…」




「ワシは桐生ちゃんのこと、好きやで」
目の前の真島は煙草の紫煙を目で追いながらなんてこともないように切り出した。

今日がエイプリルフールということも、しかしその言葉が嘘ではないことも桐生は分かっていた。
自分は試されているのかもしれないと桐生は思う。
しかし今日なら自分の言葉は全て嘘だったとごまかせる。
非生産的で背徳の。恋愛なんて甘い響きに似ているけれど、ただそれだけではなくて衝動的な破壊欲や征服欲を含んでいる。本能的なだけに危険なのだと、やはり本能が訴えている。

桐生はこのまま流されたらば真島の虜になることが目に見えているからこそ、嘘を吐かなくてはならないのだと言い聞かせる。
今日だけ。
今日だけは素直になって、そして嘘だと言ってしまえばいい。
嘘をつくの日に嘘だと嘘をつく。

苦しくてもこの先自分達に明るい未来なんてものが人並みにあるとは言えなかった。
「…俺も好きです。いや、好きというよりなくてはならない存在です」
それは欠けてしまった自分のような。求めずにはいられない存在。
「ほんま?」
「ええ」
「嬉しいなぁ」
真島が実に嬉しそうな表情を見せたものだから、桐生は胸が痛む。子供のようなこの笑顔を曇らせてしまう。
人を苦しませるような嘘はつきたくなかったが。これが最後の嘘であればいい。
「やったらワシら両想いやんなぁ。ほんま、嬉しい。桐生ちゃんからそないな殺し文句言われる日が来るとは思わんかったなあ」
目を細めて呟くその姿に狂犬の牙はない。
長引けば長引くほど辛いから、と桐生は切り出した。
「…兄さん、今日が何の日か忘れたんですか?」
桐生の言葉に真島は首を傾げた。
「嘘に・・・決まっているでしょう」


自分は上手に嘘を吐けただろうか。桐生は思う。
声がわずか震えていた。
真島は気付いただろうか。
気付いてくれたらいい。
気付かなければいい。

さまざまな気持ちが入り交じって心の中に重く沈んでいく。
桐生は真島の顔を見ることができなかった。ほんの少しの沈黙。しかし、桐生にはひどく長い時間に感じられるのだった。

「アホやなあ、桐生ちゃん」
桐生が顔を向ければ真島はへらへらと正体不明の笑みを浮かべていた。
「エイプリルフールは昨日やで」
「え?」
指し示された時計はすでに12時を超えていた。


「さっきの言葉、嘘やないんやろ」
そう言われた瞬間桐生は耳まで赤くなる。
「桐生ちゃん」
「…」
「おおきに」
何に対しての礼かは分からなかったが、抱き寄せてくれた真島の手と言葉がいつもよりずっと優しかったので、桐生は黙って目を閉じた。

本当に、大切に想っています。

変なところだけ妙に勘の鋭い真島のことだ。
きっと分かっていたのだろう。それに分かっていなくてもいい。桐生は難しく考えすぎてしまったことを心の中で笑った。





「あんな、5分だけ進ませておいたんや」
「は?」
「時計や時計」
「ってことは…」
「せや、さっきの桐生ちゃんの愛の告白はまだエイプリルフール中やったってことやな」
「何でアンタは…」
呆れるばかりで桐生は言葉もなく、自分の迂闊さを呪った。
「桐生ちゃんはそうでもして追いつめんとほんとのこと言うてくれへんやんか。それにワシも嘘ついとかなな。エイプリルフールやし」
あんたはいつだって嘘をついてるじゃないかという言葉を桐生はなんとか飲み込む。
「じゃ…さっきの取り消します」
「もう無理や。桐生ちゃんの気持ちは受け取ってしまったからな」
真島は実に憎たらしい表情をして笑った。
「それに…エイプリルフールの日かて別にほんまのこと言うてもええん違うの?」
「ま、そうですけど」
「なら、別にかまへんやろ?」


ああ、本当に。
敵わないのだ。

嘘をついたって、ほんとのことを言ったって結局敵わないのだ。

桐生は観念して、真島の言葉に騙されるために身をゆだねた。




 花嫁の控え室は、梅雨の晴れ間の日差しを受けて明るい。その日差しの中で、
白いドレスに身を包んだ遥が桐生を見上げている。
「嫌だった?」
「いや……」
 主語のない遥の問いに、桐生は首を振る。
 花嫁の手を取って花婿の元に送り届ける父親役に、遥は桐生を選んだのだ。
 最初、桐生は嫌というより困惑した。
 嬉しいとは思った。遥が自分をそういう風に慕ってくれている。それが嬉しかった。
 寂寥感もあった。大事な由美の娘だ。ずっと大切に育ててきた。その遥が自分の元を
離れていく。何ともいえない寂しさが、ちくちくと胸を刺している。
 良かった、とも思う。正直に言えば、段々由美に似てくる遥を見ているのがつらい時も
ある。自分が愛した女そっくりに育ち、自分を慕う少女に、いつか妙なことを考えて
しまうのではないか。その怯えがいつも桐生の中にあった。何事もないまま巣立って
いくなら、それが一番良い。
 だが、何よりも桐生が気にしたのは自分の身の上だ。足を洗ったとは言え極道者である。
そんな男が、せっかくの門出を祝っていいものか。かえって汚すことになりはしないか。
 それでもやがて、桐生は思い至った。遥には他に誰もいないのだということに。
 それで桐生は父親役を引き受けたのだ。
 遥はカンのいい娘だ。桐生が口に出さなかった煩悶にも気付いていたらしい。それで
時々、こんな風に聞いてくる。
「ごめんね、おじさん。でも私、ずっとこうしたかったの」
「こうしたかった?」
「おじさんのこと、一度でいいから『お父さん』にしてみたかった」
 ふふ、と遥が笑う。実の父親に邪魔者扱いされ、殺されかけた少女が、父親という
言葉を口にして笑う。

「私ずっとね、ママとおじさんの子供になりたいって思ってたの。ママのことが大好き
だったおじさんの子供になりたい、って……そんなの無理だって分かってたけど、でも
今だけ、今日だけは私、おじさんの娘になりたい」
 その瞬間、桐生の中で何かが弾けた。
「おじさん!?」
 太い腕を伸ばし、ぎゅっと遥を抱きしめる。
 由美、由美よ、見てるか――桐生は胸の奥で呼びかける。由美よ、お前の娘が嫁ぐぞ。
こんなに大きく、立派になって、好きな男に嫁ぐんだ。お前の言ったとおり逃げずに
生きて、ちゃんと幸せを掴んだんだ。見てるか由美!
「おじさ……」
 ややおいて、遥の腕もおずおずと桐生を抱き返した。
「お父……さん」
 教会の鐘が聞こえる。花嫁の幸せを祝って。
 だが、遥は唐突に桐生の分厚い胸から顔を上げた。その表情は、先程とは打って
変わって暗い。
 どうした、と桐生が訊こうとした時だった。
「ごめんね、おじさん」
 止める間もなかった。遥の唇が、桐生のそれを覆う。
 いや、そんな可愛らしいものではなかった。唇を抉じ開け、歯列を割り、舌で舌を
愛撫する。どこで覚えたのか、それは濃厚な口付けだった。
 正気に返った桐生が遥を押しのけた時、2人の唇の間を唾液の糸が繋いだ。
 目を白黒させる桐生に、遥はまた笑って見せる。
「ごめんね。でも私、やっぱり逃げたくない。ママが言ったとおり、逃げちゃ駄目なんだ
と思うから」

「遥、お前……?」
「おじさん、やっぱり気付いてなかったんだ」
 子供の頃から変わらない笑い顔。桐生に何かねだる時、遥は必ずこんな顔で笑う。
それに勝てずに、桐生はずいぶんと色々な「お願い」を聞かされたものだ。
「私、ずっとおじさんのこと好きだったんだよ。あの街で出会った頃からずっと。
お父さんって呼びたかったのも本当だけど、私、ずっとおじさんに恋してた」
「遥……」
「おじさんが好きな人はママだから、って諦めようとして、おじさんにちょっと
似てる人と付き合ってみたりしたし、そういう人と結婚して、全部忘れちゃおうと
思ってた。でもやっぱり駄目――私、もう逃げないよ。おじさんが好きってことから
逃げない」
 遥が笑う。笑う目元が最近由美に似てきたが、違う。
 由美は由美、遥は遥だ。ここに至って、やっと桐生はそれに気付いた。
 遥はずっと、大切な存在だった。愛した由美の娘だから、というだけではない。
由美に似ているから、なんてことは理由にもならない。
 遥が遥としてそこにいる。それがどれだけ、自分にとって大切なことだったか。
それを失うことに、自分がどれだけ苦しんでいたか。
 胸を刺す痛みは、神室町に置いて来たはずの恋心だった。
「……遥」
 二度目の口付けは、桐生からだった。

 ドレスのままだし、狭い控え室の中では横たわる場所もない。椅子に腰掛けたままの
遥の上に身を屈め、桐生はその唇へも耳へも首筋へも、何度も口付けを落としてやる。
愛撫とも言えないようなもどかしさだったが、その度に遥は声を押し殺したまま
ひくひくと体を震わせた。
 何をやっているんだ、と桐生の頭の中で自問自答の声が回る。何をこんなに焦って
求めているんだ。きちんと全ての話を付けて、それからだっていいはずだ。
 そんなに俺は、こうしたかったのか。こんなにも俺は、遥を求めていたのか――
もう2度と、愛するものを手に入れる前に失いたくなかったのか。
「おじさん、ねえ、もう……」
 もどかしさに焦らされたのか、遥がねだる。頷いて、桐生はドレスの裾に手を掛けた。
 白いドレスは、まるで白い布地の海のようだ。手繰っても手繰っても先が見えない。
悪戦苦闘する桐生を見て、遥が笑う。
「おじさんって、意外と不器用だよね」
「こういう時におじさんはやめろ」
「どうして?」
「なんだか妙に悪いことをしてる気分になる」
 憮然とする桐生を見て、遥が悪戯っぽく舌を出した。
 ようやく現れたガーターもショーツも、ドレスと同じ白だった。その中で、ショーツの
飾りレースだけが淡く青い。式の日、花嫁が何か青いものを身に着けていると幸せに
なれる。いつだか由美がそんな昔話をしていたのを思い出した。
 そのショーツの上から遥に触れてやる。そこは布地の上からでもわかるほど湿り気を
帯びて、花弁の形をうっすらと透かしている。
 それをなぞるように指を這わせてやると、ついに押し殺していた声が溢れた。
「や……」
 声と一緒に蜜も溢れる。薄い布地の上からそれを吸う。吸っても吸ってもそれは奥から
溢れてきて、桐生の口元を汚した。

 こうなるともう、ショーツは邪魔なだけだった。桐生がそれを取り去ろうとすると、
遥は腰を浮かせてそれを手伝った。
 遥の花弁は優しい薄桃色で、自らの雫に濡れて震えている。その奥からは、今は桐生が
触れていないのにも関わらず、とろとろと蜜が溢れ続けていた。
「凄いな、遥のここは」
「やだおじさん……そんなこと言っちゃやだ……」
「何でだ?」
「だって恥ずかしいよ……おじさんの意地悪」
「遥がいつまでも人のことを『おじさん』って苛めるからな。お返しだ」
「おじさんってば、ひど……んんっ!」
 抗議の声は、途中で嬌声に変わった。桐生が遥の花弁を、無骨な指でそっと押し開いた
のだ。その奥の敏感な花芯に、桐生の指が直接触れる。
「やっ……そこやだぁ……っ」
 強烈過ぎる刺激に遥が仰け反る。
「おじさん、だめ……そこは私、だめなのっ」
「そうか、遥はここが弱いのか」
 遥が不器用だと笑った指が、遥の一番敏感な場所を時に優しく、時に激しく愛撫する。
その巧みな動きに、あっという間に遥は追い詰められた。
「やだっ、そんなにしたら来ちゃう、来ちゃうってばあっ……あああああっ!!」
 快楽の波に飲まれて、遥の体が一瞬強張る。
 水の中で強張った体は浮かばない。沈んで溺れるだけだ。遥はどこまでも快楽の波に
沈んでいく。

 流石にここでこれ以上は、と身を離そうとした桐生の腕に、遥が縋った。
「お願い……最後までして……」
「最後までってお前……」
「こうしたらできるよね……だから、して?」
 遥は椅子を立って、壁に背を付けてもたれかかる。確かにそれでできないことはないが、
長身の桐生相手では遥に負担がかかりすぎだ。無茶を言うな、と桐生は止めようとしたが、
遥は首を振る。
「……お願い、おじさん」
 その言葉に、やはり桐生は勝てない。
 遥の腰を抱え上げるようにして位置を合わせ、桐生自身を入り口にあてがう。
 そのまま、貫いた。遥の足はほとんど爪先立ちで、自分の体重を支えきれていない。
遥自身の重さで、いきなり一番奥まで貫かれた格好だ。
「あっ、はあああっ ああああああっ……!」
 遥の中が小さく震える。入れられただけで軽い絶頂を迎えて震えている。それが収まる
のを桐生は待てなかった。久しぶりの行為だというのもあったが、それ以上に遥への
愛しさが桐生を獰猛にさせた。
「……動くぞ」
「や、やだっ そんなにすぐ動いたらまた来ちゃうっ」
 桐生の動きがそのまま快楽の波になる。一突きされる度に押し寄せる波が遥を揺さぶる。
「ひあっ、やめっ……深くてもう……深すぎてだめなのっ……おじさ……あっ いやあっ!」
 爪先立ちの足が震える。まともに立っていられない。だが、体を桐生に預ければ預ける
ほど、遥の奥まで桐生が届く。
 花嫁の控え室は、低い喘ぎと快楽の熱に満ちていた。
 お互い、限界が近かい。遥は小刻みの痙攣を繰り返し、その震えが桐生の背筋を伝って
駆け上がる。

「遥ぁっ……」
「いいよおじさん、このままで……」
 くぅ、と喉から掠れた声を上げて桐生が放ったものが、遥の奥で弾ける。その熱が、
もう一度遥の波を呼んだ。
「――――ッ!!」
 もう声にもならない。波が遥の何もかも全てを飲み込み、押し流して行く。痙攣する
下腹と、桐生を抱きしめる腕以外、どこにも力が入らない。ずるりと崩れそうになる
遥の体を、桐生は慌てて支えた。
 花弁の奥から零れた白濁が、白いドレスを汚していく。

 その後は大騒ぎだった。
 花嫁とその父親役がなかなか控え室から出てこないと思ったら、出てくるなり結婚を
やめにすると言い出したのだ。花婿の母親は卒倒するし、父親は茫然自失。孤児である
遥との結婚に難色を示していた親戚一同は真っ赤になって怒り出す、という有様である。
 ただ1人、一番の当事者であるはずの花婿が「それが遥の選んだ道なら仕方がないよね」と
優しい口調で、しかし毅然として言い切った。
 流石は遥が選んだ男だ、と桐生は奇妙に誇らしかった。

 傷だらけの男に手を引かれ、花嫁は教会に背を向けた。
 それでも祝福の鐘は鳴り続ける。



fff
あの人は昔から暴れるのが好きだったけど、暴走するのも得意な人だ。


・・・いろんな意味で。



「桐生チャ~ン!遊びにきたでぇ」
「・・・兄さん、もう寝る時間です」
突然の来客は、遥が寝ている時間にも関わらず桐生に逢う為にやってきた。
そりゃあ確かに堅気になる以前は夜の生活など当たり前に過ごしていた桐生だったが、遥と堅気の生活をしていく内に身体が夜型から昼型へと変化していき、今では真夜中の1時という時間は休息の時間となっている。
だが対する真島は東城会を抜けて真島建設なるものを立ち上げたにも関わらず相変わらずの夜型体質。
それ故どうしても快く迎えることが出来ないのが現状だ。

「兄さん、仕事忙しいんだから偶には夜くらい寝たらどうですか?」
流石にこのまま玄関先で話すのも近所迷惑になるので一先ず家の中に真島を入れると、桐生は欠伸を噛み殺しながらソファに座る。
正直眠くて仕方がない。
「ん?桐生チャンと一緒やったら寝るでぇ♪」
一応遥を起こさないよう気を使っているのか、真島は小声で話しながら桐生の隣に座りさり気なく腰に手を回してくる。
その声が何だか秘め事をしているようで、鼓動が少し早くなった。
「・・・丁重にお断りします」
このまま真島に付き合っていたら何だかこっちまで妙な気を起こしそうになってくる。
一応明日も仕事があるし、それだけは避けねばと桐生は腰に回った手をパシッと遠慮なく叩くとソファーから立ち上がった。
しかしながら諦めが悪いのが真島だ。
そう簡単に「はい、わかりました」なんて言う筈もなく、立ち上がった桐生の腕を掴むと下から縋るように見上げてくる。
「そんな冷たいこと言わんと、な?」
「駄目です」
「・・・どうしても駄目か?」
「・・・・・・・・・駄目です」
やばい。
これ以上の真島との会話は限りなくやばい。
ここ暫く真島と触れ合っていない日が続いていたから、余計に触れている手から熱が伝わって身体が欲求不満を訴えてくる。



別に真島とそういう行為をするのは嫌な訳じゃない。
ただ加減というものを知らない人だから、やるからにはそれなりの覚悟が必要なのだ。
「・・・そっか、解ったわ」
「兄さん?」
随分と物分りがいい真島の反応に、桐生は不審に思い思わず聞き返す。




・・・すると、行き成り腕を掴まれて口を塞がれた。
「んんっ!!?」
驚く桐生の身体を強引に引き寄せて、開いた口の隙間から舌を割り込ませる。
無意識に逃げ出そうとする頭を後頭部から押さえ込んで口腔を思う存分に味わい、桐生の意識がそちらに向いている隙に真島の手が桐生のズボンの中へと忍び込むと、既にそこは反応の兆しを見せていた。
「ッ!?んーっ!!」
突然の下半身の刺激に漸く桐生もその事態に気付き慌てて抵抗しようと試みるが、真島に先手を打たれてしまってはどうにもならない。
徐に下着ごと前を握り込まれ、やんわりと上下に撫上げらるとそれだけで桐生の身体は熱を帯び始め、これから来るであろう快感への期待に無意識に打ち震えた。
「ハァッ、ハァッ、に、兄さッ、あっ!」
「・・・桐生ちゃん」
次第に抵抗していたはずの手はジャケットにしがみ付くようになり、真島指が動く度にビクビク震える。
ここまでくれば最早桐生に抵抗する術はなかった。
「や、そんな擦らなッああん!」
静寂なリビングにグチュグチュと淫らな音と甘い喘ぎ声が響く。
最早立っていられない桐生は真島の首にしがみ付き、必死に声を抑えようとジャケットに噛み付き耐える。
しかしそれでも洩れる声はどうにもならず、それが余計に真島の理性を煽る結果となった。
「兄さ、もッやめっ」
これ以上ここでは駄目だ。
桐生が残りの気力を振り絞って何とか真島を説得しようと耳元で口を開くと、それを遮るように真島がぼそっと何かを呟いた。
「に・・・さん?」
「わしは・・・」
「?」




「わしは桐生ちゃんと寝るんやぁっ!!」




「寝るの意味が違うだろッ!!!」






くわっ!と目を見開いて叫んだ真島に思わず桐生の突っ込みが入るが、結局桐生の訴えが聞き入れられることはなくそのまま寝室へと運ばれてしまうのであった。





・・・チュンチュン



「おはよう、おじさ!・・・あれ?真島のおじさん?」
朝、目を覚ました遥が挨拶しようと寝室のドアを開けようとすると、勝手にドアが開いて中から何故か真島が姿を現した。
何故真島が桐生の部屋から出てくるのだろうと不思議そうに首を傾げると、真島は二カッと笑って遥の頭を撫でる。
「よう!おはよう嬢ちゃん。桐生チャンはまだ夢の中やで」
「おじさん、いつ来たの?」
「ん~、昨日の夜や。遥ちゃん寝てしもうたから寂しかったでぇ」
「ごめんね。私早く寝る習慣ついてたからどうしても夜起きていられなくて」
「子供はそれでええんやで!寝る子は育つ言うやろ」
「うん!あ、それじゃあご飯おじさんの分も作るね」


遥はにっこりと笑うとパタパタとキッチンへと向かう。
その後姿にヒラヒラと手を振って見送った真島は、時計に目をやると大きな欠伸をして寝室へと戻っていった。


あともうちょっとだけ、恋人との甘い時間を味わう為に。





end





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