よく吾朗は一馬に絡んでいた。
どうしてかなど、吾朗本人にしか分からない。
だがきっと、一馬との喧嘩が楽しいからだ。
一馬は、そう思っていた。
しかし、気付いたことがあった。
さり気なさ過ぎて、見落としがちな優しさ。
たまに見落としてしまう時もあった。
それほどの小さな優しさだが、吾朗は一馬にそれを与えた。
もちろん、今までと変わらない関係ではあった。
それでも少しだけ、吾朗に変化があるのだ。
いつも通りの吾朗ではあるのだが、どこかがおかしかった。
それが何か、分からなかった。
…気付かされるまで。
今日もいつものように、一馬は町を歩っていた。
絡んでくる輩は相変わらずだ。
だからいつものように、一馬は男達を伸していく。
男達は地に沈み、一馬はそのまま去って行く。
しばらく歩くとカップルの会話が聞こえた。
「凄かったねぇ。」
「あぁ、あれ死んだな。」
「やっぱり、あの人強いねぇ。」
「けど、ありゃ遣り過ぎだろ。」
「でも、あの人恐い人で有名だから。」
その話に、一馬は嫌な予感がした。
「悪い、それどこだ?」
「あぁ?!何あんた?!」
「…あそこ曲がった先。」
「すまないな。」
女の言葉の方向に、一馬は向かった。
「あなたこの町来たばっかだからね。でも覚えた方がいいよ?今の人は、桐生一馬。“堂島の龍”って呼ばれてる人。」
「えっ?!」
「それから、さっきの眼帯の人は、真島吾朗。“嶋野の狂犬”。2人とも有名な人だよ。」
一馬が去った後に、こんな会話がされていた。
一馬が向かった先には、やはり思った通りの人物がいた。
「…兄さん。」
「…どないした?桐生ちゃん。」
振り向いた吾朗の顔は、無表情に近かった。
血塗れで地に沈んでいる男達を伸していた時は、おそらく無表情だったのだろう。
その為、気分が戻りきっていないのだ。
だからいつも一馬に向けている顔ではなかった。
「…兄さんこそ、どうしたんだ?」
「どうもせんわ。」
「なら、この状況は?」
「ただちぃーっと、暴れたくなっただけや。」
それにしては、ひどい有様だった。
もしかしたら、死人がいるかもしれない。
「…最近、よく暴れているみたいだが?」
「暴れたい気分なんや。」
「…何かあったんですか?」
「なんもないで。」
「なら…、」
「ほんまに何でもないわ。ほなな。」
そう言って、吾朗は行ってしまった。
明らかにいつもの吾朗ではない。
いつもなら、絡んでくるはずだ。
それなのに、足早に立ち去ってしまった。
いつもの吾朗らしくない彼に、一馬は戸惑っていた。
そして何故か気になった。
いつもの日常が変われば、気にもなるだろう。
それでも深くは追求しなかった。
きっとまた、いつもの吾朗に戻ると思ったからだ。
しかし戻らなかった。
戻るどころか日増しにひどくなる。
ついには、吾朗の舎弟が泣き付いてくる有様。
そして一馬は、吾朗がよくいるバッティングセンターの前にいた。
看板には『いてはります。真島』の文字。
「…兄さん。」
吾朗の舎弟に泣き付かれ、来てみたものの、一馬に何が出来るというのだろう。
「…理由を聞いて、素直に話す人じゃないしな。」
それ以前に顔を合わせにくかった。
自分でも分からない。
それでも、自分の中の何かがおかしかった。
「あれ?桐生さん!」
ここに立っていれば予想出来ただろう。
吾朗の舎弟が来るかもしれない。
もしかしたら、吾朗が出て来るかもしれないということに…。
「やっぱり来てくれたんスね!」
「…いや、…何でも、ない。」
そう言って一馬は歩き去っていく。
「あ!桐生さん!」
最後の望みが絶たれ、舎弟の1人は肩を落とした。
外で一馬と会った舎弟が中に入ると、吾朗は興味なさそうにバットを振っていた。
的は自分の舎弟達。
手加減されていない吾朗の振りに、舎弟達は地に沈んでいく。
飽きたのか、今度はネタを要求する。
「おもろい話ないんか?」
ドゴっ!!!
吾朗にバットで殴られ、1人沈む。
「ないんかぁ?」
「あ、兄貴!」
「なんや?」
「今、さっき。…き、桐生さんに会いました。」
「ほんまか?」
「はい。でも何だか様子が変でし…」
ドカっ!!、ドゴっ!!!
最後まで言う前に、また地に沈める。
「そういうんは、はよ言えや。」
吾朗はそのまま、バットを持って外へ出るべく、出入口に向かう。
広いこの町で、人1人探すのは大変なことだ。
しかし吾朗は気にしない。
「ついてくんなや。」
自分の舎弟達に釘を刺して、吾朗は町に繰り出した。
どのくらい探しただろう。
しかし見つからない一馬に、吾朗はあることを思った。
もしかしたら、あそこにいるかもしれない。
荒れたまま放置されたセレナに…。
そして吾朗はセレナに向かう。
いてほしいという。
僅かな希望を抱き…。
ついた先で、吾朗は慎重に扉を開けた。
中を見渡せば、ソファに放心したように座る一馬の姿がある。
静かに一馬に近寄り、隣に腰を下ろした。
「…なんぞ、あったんか?」
その声に、一馬の身体がビクっとなる。
しかし返事はない。
吾朗は構わずに続けた。
「なんや、おかしいで?」
「いつもの桐生ちゃんやないやんか?」
「どないした?」
「…兄さんこそ。」
今まで黙っていた一馬が、ようやく声を出した。
「…先に様子が変わったのは、兄さんの方だろ。」
「…別に変やないやんか、俺が暴れるんわ毎度のことやろ。」
「兄さん。」
「うん?」
「それでも暴れ方が異常だ。」
「なんや、突然。」
「…何かにイラついてるように見える。」
「…何が言いたいんや。」
「兄さんの舎弟が泣き付いて来たんだ。」
「…なんやと?」
「明らかに様子がおかしいと…。」
「そんなん、」
「俺もおかしいと思う。」
「…だったら、なんや?」
「兄さん?」
「俺の様子がおかしかったら、なんやっちゅーねん。」
不機嫌を隠そうともせず、吾朗は声を低くした。
「そんなん、自分のことや。俺がよぅ知っとる。」
「そやけど、どないせい言うんや?!」
「こんなん、おかしいやないか!そやけど、あかんかったんや!」
そこに、一馬が知る吾朗はいなかった。
何かにイラつき、自分の気持ちを持て余していた。
「…兄さん。」
呼び掛けた一馬の腕を取り、自分の方に引き寄せる。
近づいた一馬の顔に、吾朗は自分の顔を寄せる。
そのまま一馬の耳に唇を近付けた。
「桐生ちゃん、好きなんや。」
その言葉に、一馬は目を見開いた。
「…好、き?」
「せや。男同士やし、おかしいんは分かっとる。せやけど、駄目やったわ。」
「ぁ、俺、を?」
「他に誰がおんねや。」
「だけど…、」
「言わせたんは、桐生ちゃんやで?」
「なっ?!」
そして吾朗はまた唇を、一馬の耳に寄せる。
声を低くして、囁く。
「一馬、愛してるで。」
耳元で囁かれた言葉。
だが何故か嫌な気分ではなかった。
『あぁ、そうか、俺は…。』
そして気付いた自分の気持ち。
「桐生ちゃん?」
「…っ、にぃ、さん。」
「ん?」
今度は一馬が吾朗に近寄り、耳に唇を寄せた。
「俺も、愛してます。吾朗さん。」
「…っ。」
「…兄さん?」
「あかん。反則やわ。」
「え?」
「両想いやったら、なんも問題ないやんな?」
「…何が、」
「責任、取りや?」
「…ぁ。」
耳元に囁かれた艶を帯びた吾朗の声に、一馬は責任の取り方がどんな方法なのか気付いた。
ソファに押し倒され、腰に手を回されて抱き合えば、密着する身体。
隙間なく抱き合えば、一馬の太股に吾朗の下半身が当たった。
押し付けられる吾朗の熱さに、一馬は目眩を感じた。
「桐生ちゃんが、あないなこと言うから、勃ってしもたわ。」
「…にぃ、さ、」
「そやから、責任取り?もう、我慢出来へん。」
「兄さん。」
一馬は了承の意を、吾朗に縋りつくことで示した。
「…一馬。」
「…んっ。」
そして重なる唇。
2人は時間を忘れて抱き合った。
吾朗は何度も一馬を求めて抱いた。
一馬は何度も吾朗に求められて満たされた。
そして同じ分だけ、吾朗も満たされていた。
最後は激しい行為に、気絶した一馬を、吾朗は抱き締めて眠りについた。
朝目覚めて、腕の中で眠る存在に吾朗は目を細めた。
誰よりも愛しい恋人。
失いたくない大切な存在。
「…ん。」
腕の中で、一馬が起きる気配がした。
「起きたんか?」
「…に、ぃ、さん。」
「身体、平気か?」
「平気、だ。」
そうは言うものの、一馬の声は擦れていた。
「無理、させたなぁ。」
「…っ、いい。」
「なんや、照れてんのかいな?」
「…っ、」
そう言いながら、吾朗は一馬の頬を撫でた。
一馬は目を閉じて、それに身を委ねる。
愛しい人との時間は、こんなにも穏やかな気分にさせる。
「桐生ちゃん、好きやで。」
「分かってる。」
「誰にも渡さへんし、離さへんで。桐生ちゃんは俺のもんや。」
「だったら、兄さんは俺のものだな。」
「そやな。俺は桐生ちゃんのもんやで。」
どちらともなく、口付けを交わす。
深くではなく、何度も軽く交わされるキス。
まるで約束を交わす儀式のような光景だ。
「そやけど、桐生ちゃんとは喧嘩もしてたいわ。」
「言うと思った。」
「えぇんか?」
「駄目だと言っても、絡むつもりだろう?」
「分かってるやないか。」
そして2人は笑い合った。
「桐生ちゃん。」
「なんだ?」
「喧嘩するのもえぇけど、それ以上に愛したるからな。」
そして、吾朗は再び一馬に口付けた。
一馬はキスを受け取り、いつしか深いものに変わる。
そうして、吾朗に再び火がついた。
「マズイわ、またヤリとぅなってきた。」
「っ、兄さん?!」
「駄目か?」
「…ぁ。」
耳元に囁かれた声に、一馬は身体を震わせた。
吾朗が身体を密着させれば、一馬に当たる吾朗の猛った熱。
そのまま吾朗は、再び一馬の身体を貪り始める。
一馬も抵抗することなく、吾朗を受け入れた。
2人は今幸せの真っ只中にいる。
そしてそれから、吾朗の態度は元に戻ったと言う。
end
どうしてかなど、吾朗本人にしか分からない。
だがきっと、一馬との喧嘩が楽しいからだ。
一馬は、そう思っていた。
しかし、気付いたことがあった。
さり気なさ過ぎて、見落としがちな優しさ。
たまに見落としてしまう時もあった。
それほどの小さな優しさだが、吾朗は一馬にそれを与えた。
もちろん、今までと変わらない関係ではあった。
それでも少しだけ、吾朗に変化があるのだ。
いつも通りの吾朗ではあるのだが、どこかがおかしかった。
それが何か、分からなかった。
…気付かされるまで。
今日もいつものように、一馬は町を歩っていた。
絡んでくる輩は相変わらずだ。
だからいつものように、一馬は男達を伸していく。
男達は地に沈み、一馬はそのまま去って行く。
しばらく歩くとカップルの会話が聞こえた。
「凄かったねぇ。」
「あぁ、あれ死んだな。」
「やっぱり、あの人強いねぇ。」
「けど、ありゃ遣り過ぎだろ。」
「でも、あの人恐い人で有名だから。」
その話に、一馬は嫌な予感がした。
「悪い、それどこだ?」
「あぁ?!何あんた?!」
「…あそこ曲がった先。」
「すまないな。」
女の言葉の方向に、一馬は向かった。
「あなたこの町来たばっかだからね。でも覚えた方がいいよ?今の人は、桐生一馬。“堂島の龍”って呼ばれてる人。」
「えっ?!」
「それから、さっきの眼帯の人は、真島吾朗。“嶋野の狂犬”。2人とも有名な人だよ。」
一馬が去った後に、こんな会話がされていた。
一馬が向かった先には、やはり思った通りの人物がいた。
「…兄さん。」
「…どないした?桐生ちゃん。」
振り向いた吾朗の顔は、無表情に近かった。
血塗れで地に沈んでいる男達を伸していた時は、おそらく無表情だったのだろう。
その為、気分が戻りきっていないのだ。
だからいつも一馬に向けている顔ではなかった。
「…兄さんこそ、どうしたんだ?」
「どうもせんわ。」
「なら、この状況は?」
「ただちぃーっと、暴れたくなっただけや。」
それにしては、ひどい有様だった。
もしかしたら、死人がいるかもしれない。
「…最近、よく暴れているみたいだが?」
「暴れたい気分なんや。」
「…何かあったんですか?」
「なんもないで。」
「なら…、」
「ほんまに何でもないわ。ほなな。」
そう言って、吾朗は行ってしまった。
明らかにいつもの吾朗ではない。
いつもなら、絡んでくるはずだ。
それなのに、足早に立ち去ってしまった。
いつもの吾朗らしくない彼に、一馬は戸惑っていた。
そして何故か気になった。
いつもの日常が変われば、気にもなるだろう。
それでも深くは追求しなかった。
きっとまた、いつもの吾朗に戻ると思ったからだ。
しかし戻らなかった。
戻るどころか日増しにひどくなる。
ついには、吾朗の舎弟が泣き付いてくる有様。
そして一馬は、吾朗がよくいるバッティングセンターの前にいた。
看板には『いてはります。真島』の文字。
「…兄さん。」
吾朗の舎弟に泣き付かれ、来てみたものの、一馬に何が出来るというのだろう。
「…理由を聞いて、素直に話す人じゃないしな。」
それ以前に顔を合わせにくかった。
自分でも分からない。
それでも、自分の中の何かがおかしかった。
「あれ?桐生さん!」
ここに立っていれば予想出来ただろう。
吾朗の舎弟が来るかもしれない。
もしかしたら、吾朗が出て来るかもしれないということに…。
「やっぱり来てくれたんスね!」
「…いや、…何でも、ない。」
そう言って一馬は歩き去っていく。
「あ!桐生さん!」
最後の望みが絶たれ、舎弟の1人は肩を落とした。
外で一馬と会った舎弟が中に入ると、吾朗は興味なさそうにバットを振っていた。
的は自分の舎弟達。
手加減されていない吾朗の振りに、舎弟達は地に沈んでいく。
飽きたのか、今度はネタを要求する。
「おもろい話ないんか?」
ドゴっ!!!
吾朗にバットで殴られ、1人沈む。
「ないんかぁ?」
「あ、兄貴!」
「なんや?」
「今、さっき。…き、桐生さんに会いました。」
「ほんまか?」
「はい。でも何だか様子が変でし…」
ドカっ!!、ドゴっ!!!
最後まで言う前に、また地に沈める。
「そういうんは、はよ言えや。」
吾朗はそのまま、バットを持って外へ出るべく、出入口に向かう。
広いこの町で、人1人探すのは大変なことだ。
しかし吾朗は気にしない。
「ついてくんなや。」
自分の舎弟達に釘を刺して、吾朗は町に繰り出した。
どのくらい探しただろう。
しかし見つからない一馬に、吾朗はあることを思った。
もしかしたら、あそこにいるかもしれない。
荒れたまま放置されたセレナに…。
そして吾朗はセレナに向かう。
いてほしいという。
僅かな希望を抱き…。
ついた先で、吾朗は慎重に扉を開けた。
中を見渡せば、ソファに放心したように座る一馬の姿がある。
静かに一馬に近寄り、隣に腰を下ろした。
「…なんぞ、あったんか?」
その声に、一馬の身体がビクっとなる。
しかし返事はない。
吾朗は構わずに続けた。
「なんや、おかしいで?」
「いつもの桐生ちゃんやないやんか?」
「どないした?」
「…兄さんこそ。」
今まで黙っていた一馬が、ようやく声を出した。
「…先に様子が変わったのは、兄さんの方だろ。」
「…別に変やないやんか、俺が暴れるんわ毎度のことやろ。」
「兄さん。」
「うん?」
「それでも暴れ方が異常だ。」
「なんや、突然。」
「…何かにイラついてるように見える。」
「…何が言いたいんや。」
「兄さんの舎弟が泣き付いて来たんだ。」
「…なんやと?」
「明らかに様子がおかしいと…。」
「そんなん、」
「俺もおかしいと思う。」
「…だったら、なんや?」
「兄さん?」
「俺の様子がおかしかったら、なんやっちゅーねん。」
不機嫌を隠そうともせず、吾朗は声を低くした。
「そんなん、自分のことや。俺がよぅ知っとる。」
「そやけど、どないせい言うんや?!」
「こんなん、おかしいやないか!そやけど、あかんかったんや!」
そこに、一馬が知る吾朗はいなかった。
何かにイラつき、自分の気持ちを持て余していた。
「…兄さん。」
呼び掛けた一馬の腕を取り、自分の方に引き寄せる。
近づいた一馬の顔に、吾朗は自分の顔を寄せる。
そのまま一馬の耳に唇を近付けた。
「桐生ちゃん、好きなんや。」
その言葉に、一馬は目を見開いた。
「…好、き?」
「せや。男同士やし、おかしいんは分かっとる。せやけど、駄目やったわ。」
「ぁ、俺、を?」
「他に誰がおんねや。」
「だけど…、」
「言わせたんは、桐生ちゃんやで?」
「なっ?!」
そして吾朗はまた唇を、一馬の耳に寄せる。
声を低くして、囁く。
「一馬、愛してるで。」
耳元で囁かれた言葉。
だが何故か嫌な気分ではなかった。
『あぁ、そうか、俺は…。』
そして気付いた自分の気持ち。
「桐生ちゃん?」
「…っ、にぃ、さん。」
「ん?」
今度は一馬が吾朗に近寄り、耳に唇を寄せた。
「俺も、愛してます。吾朗さん。」
「…っ。」
「…兄さん?」
「あかん。反則やわ。」
「え?」
「両想いやったら、なんも問題ないやんな?」
「…何が、」
「責任、取りや?」
「…ぁ。」
耳元に囁かれた艶を帯びた吾朗の声に、一馬は責任の取り方がどんな方法なのか気付いた。
ソファに押し倒され、腰に手を回されて抱き合えば、密着する身体。
隙間なく抱き合えば、一馬の太股に吾朗の下半身が当たった。
押し付けられる吾朗の熱さに、一馬は目眩を感じた。
「桐生ちゃんが、あないなこと言うから、勃ってしもたわ。」
「…にぃ、さ、」
「そやから、責任取り?もう、我慢出来へん。」
「兄さん。」
一馬は了承の意を、吾朗に縋りつくことで示した。
「…一馬。」
「…んっ。」
そして重なる唇。
2人は時間を忘れて抱き合った。
吾朗は何度も一馬を求めて抱いた。
一馬は何度も吾朗に求められて満たされた。
そして同じ分だけ、吾朗も満たされていた。
最後は激しい行為に、気絶した一馬を、吾朗は抱き締めて眠りについた。
朝目覚めて、腕の中で眠る存在に吾朗は目を細めた。
誰よりも愛しい恋人。
失いたくない大切な存在。
「…ん。」
腕の中で、一馬が起きる気配がした。
「起きたんか?」
「…に、ぃ、さん。」
「身体、平気か?」
「平気、だ。」
そうは言うものの、一馬の声は擦れていた。
「無理、させたなぁ。」
「…っ、いい。」
「なんや、照れてんのかいな?」
「…っ、」
そう言いながら、吾朗は一馬の頬を撫でた。
一馬は目を閉じて、それに身を委ねる。
愛しい人との時間は、こんなにも穏やかな気分にさせる。
「桐生ちゃん、好きやで。」
「分かってる。」
「誰にも渡さへんし、離さへんで。桐生ちゃんは俺のもんや。」
「だったら、兄さんは俺のものだな。」
「そやな。俺は桐生ちゃんのもんやで。」
どちらともなく、口付けを交わす。
深くではなく、何度も軽く交わされるキス。
まるで約束を交わす儀式のような光景だ。
「そやけど、桐生ちゃんとは喧嘩もしてたいわ。」
「言うと思った。」
「えぇんか?」
「駄目だと言っても、絡むつもりだろう?」
「分かってるやないか。」
そして2人は笑い合った。
「桐生ちゃん。」
「なんだ?」
「喧嘩するのもえぇけど、それ以上に愛したるからな。」
そして、吾朗は再び一馬に口付けた。
一馬はキスを受け取り、いつしか深いものに変わる。
そうして、吾朗に再び火がついた。
「マズイわ、またヤリとぅなってきた。」
「っ、兄さん?!」
「駄目か?」
「…ぁ。」
耳元に囁かれた声に、一馬は身体を震わせた。
吾朗が身体を密着させれば、一馬に当たる吾朗の猛った熱。
そのまま吾朗は、再び一馬の身体を貪り始める。
一馬も抵抗することなく、吾朗を受け入れた。
2人は今幸せの真っ只中にいる。
そしてそれから、吾朗の態度は元に戻ったと言う。
end
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