きっかけは、些細なことだった。
「レオナ、お前の名前って、なんだっけ?」
「少なくとも、アニーとかベロニカとかクリスじゃないわ。それが?」
「そりゃ、俺がここ3ヶ月で口説いて振られた女の名前じゃねえか――って、すまん。俺の訊き方が悪かった」
どう聞いても間が抜けた質問に、冗談こそ交えたが真顔で答えた律儀な部下に向かって、ラルフは苦笑いしながら訊き直した。
「名前って言うか、あれだ、ファミリーネームの方」
レオナというのはコードネームで、彼女の本名ではない。それは前から知っていた。
こういう稼業では、人に恨まれることも少なくない。だから皆、素性を隠すためにコードネームを持っているし、部隊の中ではほとんどそれで呼び合っている。もちろん書類もそれで通る。顔が売れ過ぎて偽名も意味をなくして、それならいっそと本名で仕事をしている、ラルフやクラークの方が珍しいのだ。
だから今まで、レオナの本名を訊く機会もなかったし、そのことを気にもしていなかったのだが。
「お前の苗字って、なんだったっけか?」
数日後に控えたレオナの誕生日に、ケーキでも注文してやろうと、ラルフが世話焼きの本領を発揮したのがきっかけだった。
ケーキにお名前をお入れすることができます、お誕生日の方のフルネームは? 注文の電話口でそう訊かれ、そう言えばレオナの苗字を知らなかったということに、ラルフは今更ながらに気付いたのである。
「ないわ、特に」
ぽかん。そう表現するのがぴったりな表情とタイミングで、ラルフは口を開ける。その口から再び、まともな言葉が出るまでに掛かった時間は、たっぷり数十秒を数えた。
「……えーっと、何だよそりゃ。名無しのレオナさんって訳か?」
「一応、偽造のパスポートの名前は『レオナ・ハイデルン』になってる」
「それは偽名だろ?」
彼女の義父である、ハイデルンのその名も本名ではない。これもコードネームだ。
「ええ、そうよ。でも、名前といったらそれしかないもの」
「それしかないって、お前、本名ってもんがあるだろうよ。戸籍に載ってるやつ」
「戸籍は、持ってない」
「はぁ?」
唖然とするラルフの手の中の受話器から、お客さん、お客さんどうされました?とケーキ屋の声が聞こえてくる。そういえばまだ、電話が繋がっていたままだ。
「すまん。また掛け直す」
やや乱暴にそう伝えて、ラルフは電話を切った。電話口でケーキ屋を待たせるには申し訳ないぐらい、長い話になるだろうと思ったのだ。
「戸籍がないって、お前それ、いつからよ?」
「生まれてからずっと。出生届を出さなかったそうだから」
「――ああ、そっか」
レオナの両親が娘の出生届を出さなかった、その理由はラルフにも理解できる。
血の宿命を背負って生まれた娘を、その呪われた力を求める者達の目から隠すために、レオナの両親は長い逃亡生活を続けていたという。
娘の出生届を出さなかったのは、追手の目を少しでも遠ざけるためだろう。戸籍を持っていれば、移動の度にどうしても痕跡が残る。逆に、書類の上では存在すらしない人間を探すのは、なかなかに難しい。
「それきり、そのまんまなのか」
「そう。特に必要もなかったし」
その後、ハイデルンに引き取られたレオナは、その存在をひた隠しにして育てられた。彼女の父母が恐れたのと同じ理由と、彼女の義父が敵の多い男だったためである。
ハイデルンのような立場の人間は、自分の命だけではなく、その縁者までもが狙われることが少なくない。実際にその悲劇に遭ったハイデルンが、戸籍の上でも義娘の存在を隠したことも、ラルフには理解できる。
だが、まさか今の今まで、そのままだったとは。
「そうだよなあ。最初の勤め口がここなら、戸籍のあるなしなんて問題にならなかったもんなあ――ってお前、KOFの時はどうしてたんだ? パスポートとかビザとか」
「偽造で済ませてる」
「そっか、さっきもそう言ってたっけ。でもそれじゃお前、身分証明書もねえんじゃねえか? そんなことじゃ銀行の口座ひとつ、いやレンタルビデオ屋の会員カードも作れないだろ? そういうのはどうしてたんだ?」
「作ろうとしたことがないからわからないわ。必要ないもの」
「給料はどうしてるんだよ。貯金箱に入る額じゃねえだろう?」
「必要な額だけ残して、後は教官に預かってもらってる」
「お前ねえ……」
ほとほと呆れ果てたという口調で、ラルフは溜息と一緒に呟いた。あまりに呆れたせいで、いつものように大声で怒鳴る気力もない。
「ここにいる間はそれでもいいけどよ、ちょっと問題だぞ、それは」
「そう?」
「考えても見ろよ。この稼業以外で、戸籍もない人間を雇ってくれるようなところがあると思うか? 稼がなかったらメシも食えないんだぞ?」
「……そうね」
「同業他社に転職するとしても、この国にはもう、うちしかねえからな。一昔前ならもう幾つかあったんだが――まあ、お前の腕ならどこに行ってもやっていけるだろうが、そこまで行くのにだって、パスポートがいるんだぞ? 戸籍がなきゃ、それだって作れないんだからよ」
「そうね」
「そうね、ってお前」
レオナはと言うと、少し首を傾げて青い髪を斜めに落とし、思案顔ではあるが、何を考えているかは皆目見当も付かない。表情の乏しさはいつものことなのだが、こういう時には、こいつは何を言われているのか本当に認識できているのだろうか、と言う気分にさせられて、ラルフは頭を抱えたくなった。
「――とりあえずお前さ、この機会に戸籍作れ。ちゃんとしたやつ。そうじゃなきゃお前の場合、物理的に親離れすることもできやしねえ」
「親離れ?」
「そうだよ。今のままじゃお前、ずっとここでしか生きていけないだろうが。『教官の作った世界』の中でしか」
今はいい。それでもいい。だが、いずれそれでは済まない時が来るだろう、とラルフは思う。そして、その時が来てからでは遅いのだと思う。
「そこから出る出ないはお前の自由だけどよ、ともかく、出られないままにしておくのは感心しねえよ、俺は」
親と子で話ができるうちに――どちらがいつ、物言わぬ姿になって戻るかわからない世界で生きているのだから、それができるうちに、形にした方が良いのだと思う。
「そう……そうなのかしら?」
「そうなんだよ――おい、ちょっと待ってろよ」
そう言い放つと、ラルフはもう一度電話に向かった。しかし、掛けた先はケーキ屋ではない。
ハイデルンの秘書役を務める情報士官に連絡を入れ、その電話を切ったかと思うとまた別の部署に電話を掛け、と猛然と電話を掛けまくる。その勢いに、レオナは口を挟む間もない。
奮戦すること約10分、ふふんどうだと言わんばかりの顔で、向き直ったラルフは開口一番、
「2時間後に教官のスケジュール、30分空けたからな」
これにはレオナの方が、僅かではあるが驚きの表情を浮かべた。
分刻みのスケジュールに日々追われるハイデルンに、仕事以外で30分の時間を取らせる。それがどれだけのことであるかは、レオナにも良くわかる。むしろ、驚異的な戦果と言っていい。
だが、戦果はそれだけではなかった。
「隊の中の書類は今日中に書き換えられるとさ。戸籍そのものにも、今週いっぱいありゃ手を回せるらしい。どこの国籍でも、どこの生まれでもなんとでもなるってよ」
ラルフはすでに、そこまで手を回していたのだ。
「だから、あとは教官とお前が、話をするだけだ。30分しかねえが、名前のこととか、教官の正式な養女になるかどうかとか、ちゃんと話し合って来いよ」
そう言ってから、ラルフは一番大切なことを言い忘れた、という顔でこう付け加えた。
「あと、苗字が決まったら、すぐに教えろよ。そうじゃなきゃケーキが注文できねえ」
名前など、何でもいいと思っていた。
義父に保護された時には記憶を失っていて、両親が付けてくれた名前さえ思い出せなかった。だから、初めてレオナという名で呼ばれた時にも違和感はなかったし、それが自分の名前であることに疑問を持つこともなかった。
少なくとも、自分の周りの狭い世界――この部隊の中では、自分は「レオナ」でしかない。それ以外の名前で自分が認識されることはないし、自分でもそう認識している。
記憶が戻ってからも、本当の名前は遠い記憶の中のものでしかなく、それが自分の本名かというと不思議には思うものの、実感はなかった。
口の中で、その名を呟いてみる。古い言葉で「神は私の光」という意味を持つ名前に、父の姓。
その響きは嫌いではなかったし、どこか懐かしく優しい音でもあったが、しかしそれが自分の本当の名前かと言うと、少しだけ違うと思った。
「話は聞いた」
執務室の窓からは、南半球の夏の日差しが差し込んでいる。しかし、部屋の印象は、いつでも東欧の冬の凍てつく冷気だ。それは、レオナがこの部屋の主と過ごした日々が、ほとんどその国でのものだったがゆえの錯覚かもしれないが、その冷たさをレオナは心地よく思う。
「ラルフがまた、か」
ハイデルンは、あるかなきかの微かな苦笑を口元に浮かべていた。
ラルフの世話焼きは有名で、部隊のものなら皆、一度や二度はその対象にされている。それも、そのために憎まれることを厭わないタイプだから(むしろ嫌がられるのを楽しんでいる風さえある)、かなり突っ込んだ部分にまで踏み込んで、時にはトラブルを起こすことも少なくない。
だが、それが後まで続く遺恨にならないのは、ラルフも一応踏み込むタイミングを考えていると言うべきか、それともそれが人徳なのだろうか。ハイデルンの慧眼を持ってしても、付き合いの長いクラークから見ても、それはわからないのだと言う。
「ともかく、私に異論はない。後は、お前がどうしたいかだ」
「私……私は……」
レオナは少しだけ、言葉に詰まった。口に出したら、何かと決別することになる。そんな気がして、少しだけ躊躇った。
躊躇いながらも、続く言葉ははっきりと声になった。
「レオナ・ハイデルンと名乗りたいと思います」
少女の義父は、一瞬虚を突かれたような顔をした。
ハイデルンという名は本名ではない――つまりそれは、レオナがハイデルンの戸籍に入らないことを選んだと言うことである。
戸籍がないために、今までもそうだった。血の繋がりも、戸籍の繋がりもない、形だけの親子。だが、もしレオナがそれを望むなら、もちろんハイデルンは正式な養女として受け入れるつもりでいた。
それと同じように、レオナが本当の名前――実の父母が付けた名を選ぶことも、ハイデルンは想定していた。
それも良いと思っていた。記憶は戻り、彼女の呪われた血を狙う悪夢が再び封印されたことで、彼女が身を隠す理由はなくなった。もう、偽りの父の元で、偽りの名を名乗る理由はない。
だが、レオナはそのどちらも選ばなかった。
「あなたの正式な養女であろうとなかろうと、私はあなたを父だと思っています」
血の繋がりがなくても、戸籍に記録が残らなくても、この9年、間違いなくハイデルンはレオナの父であり、レオナはハイデルンの娘であった。姓が違っても、その絆が消えるわけではない。
「そして、本当の名前を名乗ろうと名乗るまいと、あの人たちが私の父母であることには変わりません」
記憶を失おうと、名前を変えようと消えない罪があるように、血の絆で結ばれた父母が、名前ひとつで他人になる訳でもない。
だから、レオナはこの名を選んだ。レオナ・ハイデルン。
ハイデルンの最初の贈り物であるレオナという名と、彼女が知る唯一の義父の名である、ハイデルンという姓を。
「では、そう手配しておこう」
「ありがとうございます」
レオナが頭を下げると同時に、机の上で電話がなった。30分の猶予が終わるにはまだ時間があったが、それを待てないほど世界は目まぐるしく動いているらしい。
2人が話している間にも、ハイデルンのコンピューターからは何度もメールの着信音が鳴っていたし、おそらく情報仕官の元にはFAXの山ができている。感傷に浸って、無為な時間を過ごす時間の余裕はなさそうだった。また、そういうことに慣れた2人ではない。
1人で過去を振り返ることはできても、人とそれを共有できるほど、器用ではないのだ。その不器用さがラルフにしてみれば、血の繋がりはなくとも良く似た親子に見えるのだが。
「では、私はこれで」
「待て」
すっ、と一分の隙もない敬礼をして、執務室を去ろうとしたレオナを、ハイデルンが呼び止める。
「父親として、お前の新しい名を祝わせてくれ――レオナ」
祝福の鐘の音には少々けたたましい電話のベルが、もう10回目のコールを鳴らそうとしている。その中で、ハイデルンは初めて、娘が選んだ彼女の名を呼んだ。
「……ありがとう、おとうさん」
数日後、届いたケーキには、チョコレートでその名と19歳の誕生日を祝う言葉が記されていた。
「レオナ、お前の名前って、なんだっけ?」
「少なくとも、アニーとかベロニカとかクリスじゃないわ。それが?」
「そりゃ、俺がここ3ヶ月で口説いて振られた女の名前じゃねえか――って、すまん。俺の訊き方が悪かった」
どう聞いても間が抜けた質問に、冗談こそ交えたが真顔で答えた律儀な部下に向かって、ラルフは苦笑いしながら訊き直した。
「名前って言うか、あれだ、ファミリーネームの方」
レオナというのはコードネームで、彼女の本名ではない。それは前から知っていた。
こういう稼業では、人に恨まれることも少なくない。だから皆、素性を隠すためにコードネームを持っているし、部隊の中ではほとんどそれで呼び合っている。もちろん書類もそれで通る。顔が売れ過ぎて偽名も意味をなくして、それならいっそと本名で仕事をしている、ラルフやクラークの方が珍しいのだ。
だから今まで、レオナの本名を訊く機会もなかったし、そのことを気にもしていなかったのだが。
「お前の苗字って、なんだったっけか?」
数日後に控えたレオナの誕生日に、ケーキでも注文してやろうと、ラルフが世話焼きの本領を発揮したのがきっかけだった。
ケーキにお名前をお入れすることができます、お誕生日の方のフルネームは? 注文の電話口でそう訊かれ、そう言えばレオナの苗字を知らなかったということに、ラルフは今更ながらに気付いたのである。
「ないわ、特に」
ぽかん。そう表現するのがぴったりな表情とタイミングで、ラルフは口を開ける。その口から再び、まともな言葉が出るまでに掛かった時間は、たっぷり数十秒を数えた。
「……えーっと、何だよそりゃ。名無しのレオナさんって訳か?」
「一応、偽造のパスポートの名前は『レオナ・ハイデルン』になってる」
「それは偽名だろ?」
彼女の義父である、ハイデルンのその名も本名ではない。これもコードネームだ。
「ええ、そうよ。でも、名前といったらそれしかないもの」
「それしかないって、お前、本名ってもんがあるだろうよ。戸籍に載ってるやつ」
「戸籍は、持ってない」
「はぁ?」
唖然とするラルフの手の中の受話器から、お客さん、お客さんどうされました?とケーキ屋の声が聞こえてくる。そういえばまだ、電話が繋がっていたままだ。
「すまん。また掛け直す」
やや乱暴にそう伝えて、ラルフは電話を切った。電話口でケーキ屋を待たせるには申し訳ないぐらい、長い話になるだろうと思ったのだ。
「戸籍がないって、お前それ、いつからよ?」
「生まれてからずっと。出生届を出さなかったそうだから」
「――ああ、そっか」
レオナの両親が娘の出生届を出さなかった、その理由はラルフにも理解できる。
血の宿命を背負って生まれた娘を、その呪われた力を求める者達の目から隠すために、レオナの両親は長い逃亡生活を続けていたという。
娘の出生届を出さなかったのは、追手の目を少しでも遠ざけるためだろう。戸籍を持っていれば、移動の度にどうしても痕跡が残る。逆に、書類の上では存在すらしない人間を探すのは、なかなかに難しい。
「それきり、そのまんまなのか」
「そう。特に必要もなかったし」
その後、ハイデルンに引き取られたレオナは、その存在をひた隠しにして育てられた。彼女の父母が恐れたのと同じ理由と、彼女の義父が敵の多い男だったためである。
ハイデルンのような立場の人間は、自分の命だけではなく、その縁者までもが狙われることが少なくない。実際にその悲劇に遭ったハイデルンが、戸籍の上でも義娘の存在を隠したことも、ラルフには理解できる。
だが、まさか今の今まで、そのままだったとは。
「そうだよなあ。最初の勤め口がここなら、戸籍のあるなしなんて問題にならなかったもんなあ――ってお前、KOFの時はどうしてたんだ? パスポートとかビザとか」
「偽造で済ませてる」
「そっか、さっきもそう言ってたっけ。でもそれじゃお前、身分証明書もねえんじゃねえか? そんなことじゃ銀行の口座ひとつ、いやレンタルビデオ屋の会員カードも作れないだろ? そういうのはどうしてたんだ?」
「作ろうとしたことがないからわからないわ。必要ないもの」
「給料はどうしてるんだよ。貯金箱に入る額じゃねえだろう?」
「必要な額だけ残して、後は教官に預かってもらってる」
「お前ねえ……」
ほとほと呆れ果てたという口調で、ラルフは溜息と一緒に呟いた。あまりに呆れたせいで、いつものように大声で怒鳴る気力もない。
「ここにいる間はそれでもいいけどよ、ちょっと問題だぞ、それは」
「そう?」
「考えても見ろよ。この稼業以外で、戸籍もない人間を雇ってくれるようなところがあると思うか? 稼がなかったらメシも食えないんだぞ?」
「……そうね」
「同業他社に転職するとしても、この国にはもう、うちしかねえからな。一昔前ならもう幾つかあったんだが――まあ、お前の腕ならどこに行ってもやっていけるだろうが、そこまで行くのにだって、パスポートがいるんだぞ? 戸籍がなきゃ、それだって作れないんだからよ」
「そうね」
「そうね、ってお前」
レオナはと言うと、少し首を傾げて青い髪を斜めに落とし、思案顔ではあるが、何を考えているかは皆目見当も付かない。表情の乏しさはいつものことなのだが、こういう時には、こいつは何を言われているのか本当に認識できているのだろうか、と言う気分にさせられて、ラルフは頭を抱えたくなった。
「――とりあえずお前さ、この機会に戸籍作れ。ちゃんとしたやつ。そうじゃなきゃお前の場合、物理的に親離れすることもできやしねえ」
「親離れ?」
「そうだよ。今のままじゃお前、ずっとここでしか生きていけないだろうが。『教官の作った世界』の中でしか」
今はいい。それでもいい。だが、いずれそれでは済まない時が来るだろう、とラルフは思う。そして、その時が来てからでは遅いのだと思う。
「そこから出る出ないはお前の自由だけどよ、ともかく、出られないままにしておくのは感心しねえよ、俺は」
親と子で話ができるうちに――どちらがいつ、物言わぬ姿になって戻るかわからない世界で生きているのだから、それができるうちに、形にした方が良いのだと思う。
「そう……そうなのかしら?」
「そうなんだよ――おい、ちょっと待ってろよ」
そう言い放つと、ラルフはもう一度電話に向かった。しかし、掛けた先はケーキ屋ではない。
ハイデルンの秘書役を務める情報士官に連絡を入れ、その電話を切ったかと思うとまた別の部署に電話を掛け、と猛然と電話を掛けまくる。その勢いに、レオナは口を挟む間もない。
奮戦すること約10分、ふふんどうだと言わんばかりの顔で、向き直ったラルフは開口一番、
「2時間後に教官のスケジュール、30分空けたからな」
これにはレオナの方が、僅かではあるが驚きの表情を浮かべた。
分刻みのスケジュールに日々追われるハイデルンに、仕事以外で30分の時間を取らせる。それがどれだけのことであるかは、レオナにも良くわかる。むしろ、驚異的な戦果と言っていい。
だが、戦果はそれだけではなかった。
「隊の中の書類は今日中に書き換えられるとさ。戸籍そのものにも、今週いっぱいありゃ手を回せるらしい。どこの国籍でも、どこの生まれでもなんとでもなるってよ」
ラルフはすでに、そこまで手を回していたのだ。
「だから、あとは教官とお前が、話をするだけだ。30分しかねえが、名前のこととか、教官の正式な養女になるかどうかとか、ちゃんと話し合って来いよ」
そう言ってから、ラルフは一番大切なことを言い忘れた、という顔でこう付け加えた。
「あと、苗字が決まったら、すぐに教えろよ。そうじゃなきゃケーキが注文できねえ」
名前など、何でもいいと思っていた。
義父に保護された時には記憶を失っていて、両親が付けてくれた名前さえ思い出せなかった。だから、初めてレオナという名で呼ばれた時にも違和感はなかったし、それが自分の名前であることに疑問を持つこともなかった。
少なくとも、自分の周りの狭い世界――この部隊の中では、自分は「レオナ」でしかない。それ以外の名前で自分が認識されることはないし、自分でもそう認識している。
記憶が戻ってからも、本当の名前は遠い記憶の中のものでしかなく、それが自分の本名かというと不思議には思うものの、実感はなかった。
口の中で、その名を呟いてみる。古い言葉で「神は私の光」という意味を持つ名前に、父の姓。
その響きは嫌いではなかったし、どこか懐かしく優しい音でもあったが、しかしそれが自分の本当の名前かと言うと、少しだけ違うと思った。
「話は聞いた」
執務室の窓からは、南半球の夏の日差しが差し込んでいる。しかし、部屋の印象は、いつでも東欧の冬の凍てつく冷気だ。それは、レオナがこの部屋の主と過ごした日々が、ほとんどその国でのものだったがゆえの錯覚かもしれないが、その冷たさをレオナは心地よく思う。
「ラルフがまた、か」
ハイデルンは、あるかなきかの微かな苦笑を口元に浮かべていた。
ラルフの世話焼きは有名で、部隊のものなら皆、一度や二度はその対象にされている。それも、そのために憎まれることを厭わないタイプだから(むしろ嫌がられるのを楽しんでいる風さえある)、かなり突っ込んだ部分にまで踏み込んで、時にはトラブルを起こすことも少なくない。
だが、それが後まで続く遺恨にならないのは、ラルフも一応踏み込むタイミングを考えていると言うべきか、それともそれが人徳なのだろうか。ハイデルンの慧眼を持ってしても、付き合いの長いクラークから見ても、それはわからないのだと言う。
「ともかく、私に異論はない。後は、お前がどうしたいかだ」
「私……私は……」
レオナは少しだけ、言葉に詰まった。口に出したら、何かと決別することになる。そんな気がして、少しだけ躊躇った。
躊躇いながらも、続く言葉ははっきりと声になった。
「レオナ・ハイデルンと名乗りたいと思います」
少女の義父は、一瞬虚を突かれたような顔をした。
ハイデルンという名は本名ではない――つまりそれは、レオナがハイデルンの戸籍に入らないことを選んだと言うことである。
戸籍がないために、今までもそうだった。血の繋がりも、戸籍の繋がりもない、形だけの親子。だが、もしレオナがそれを望むなら、もちろんハイデルンは正式な養女として受け入れるつもりでいた。
それと同じように、レオナが本当の名前――実の父母が付けた名を選ぶことも、ハイデルンは想定していた。
それも良いと思っていた。記憶は戻り、彼女の呪われた血を狙う悪夢が再び封印されたことで、彼女が身を隠す理由はなくなった。もう、偽りの父の元で、偽りの名を名乗る理由はない。
だが、レオナはそのどちらも選ばなかった。
「あなたの正式な養女であろうとなかろうと、私はあなたを父だと思っています」
血の繋がりがなくても、戸籍に記録が残らなくても、この9年、間違いなくハイデルンはレオナの父であり、レオナはハイデルンの娘であった。姓が違っても、その絆が消えるわけではない。
「そして、本当の名前を名乗ろうと名乗るまいと、あの人たちが私の父母であることには変わりません」
記憶を失おうと、名前を変えようと消えない罪があるように、血の絆で結ばれた父母が、名前ひとつで他人になる訳でもない。
だから、レオナはこの名を選んだ。レオナ・ハイデルン。
ハイデルンの最初の贈り物であるレオナという名と、彼女が知る唯一の義父の名である、ハイデルンという姓を。
「では、そう手配しておこう」
「ありがとうございます」
レオナが頭を下げると同時に、机の上で電話がなった。30分の猶予が終わるにはまだ時間があったが、それを待てないほど世界は目まぐるしく動いているらしい。
2人が話している間にも、ハイデルンのコンピューターからは何度もメールの着信音が鳴っていたし、おそらく情報仕官の元にはFAXの山ができている。感傷に浸って、無為な時間を過ごす時間の余裕はなさそうだった。また、そういうことに慣れた2人ではない。
1人で過去を振り返ることはできても、人とそれを共有できるほど、器用ではないのだ。その不器用さがラルフにしてみれば、血の繋がりはなくとも良く似た親子に見えるのだが。
「では、私はこれで」
「待て」
すっ、と一分の隙もない敬礼をして、執務室を去ろうとしたレオナを、ハイデルンが呼び止める。
「父親として、お前の新しい名を祝わせてくれ――レオナ」
祝福の鐘の音には少々けたたましい電話のベルが、もう10回目のコールを鳴らそうとしている。その中で、ハイデルンは初めて、娘が選んだ彼女の名を呼んだ。
「……ありがとう、おとうさん」
数日後、届いたケーキには、チョコレートでその名と19歳の誕生日を祝う言葉が記されていた。
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この国では停電は珍しい話ではない。
だから基地内の電源が全て落ちた時も、誰も驚きはしなかった。テレビでサッカーの試合中継を見ていた誰かが舌打ちしたぐらいだ。
だが、問題はその後だった。なかなか予備電源に切り替わらない。予備電源が作動しても、電力が足りないのか弱々しい非常灯しか点かない。
焦ったのは電源関係全般のスタッフたちだ。
「ええい、何が原因だ? おい予備電源の担当!」
「げ、原因不明です!」
「5分で調べて来い! それで、電圧はどれぐらい確保できてる?」
「通常の10%にも足りませんッ」
「何が何でも医療機器と通信回線とメインコンピューターの電源は落とすなよ!? は? 優先順位だと? 今言った通りだ、医療、通信が最優先だ!」
「メインコンピューターは?」
「コンピューターなんざなくても四半世紀前は戦争やれてたんだ、後回しでいい! 他に何か問題起きてるか?」
「エレベーター停止、何人か閉じ込められている模様。エレベーター内の緊急マイクに電源回します……繋がりました!」
「馬鹿野郎、軍人なら階段使え階段! 足腰弱るぞっ!」
『了解、今後は気を付けるようにしよう』
スピーカーから戻ってきた陰鬱な低い声が、主任担当者の魂もろとも部屋中の空気を凍りつかせるまでに一瞬もかからなかった。
『こちらハイデルン。状況を報告せよ――どうした、状況を報告せよ』
「すいません、2時間……いや、1時間で必ず復旧させますんで!」
結局、察しのいいラルフが駆けつけるまで、部屋の空気は凍りついたまま溶け出さなかったらしい。
スピーカー越しのラルフの声の向こうには、クラークの大声が聞こえる。何か指示を飛ばしているのだろう。たぶんその更に向こうでは、技術者たちが走り回っている。
「……スケジュールに1時間余裕ありますかね、教官。なけりゃ電力そっちに全部回すなり人力なりで、意地でもその檻、動かしますが」
「余裕はないが、後回しに出来ないものでもない。緊急事態が起きればその限りではないが」
「了解。それじゃ、最低限の空調と通信回線残して電源落としますよ。ちっと休憩ってことで頼みます」
「了解した」
ふっと非常灯が落ち、エレベーターの中は闇に包まれる。ハイデルンはひとつ溜息を吐くと、闇を良く透かす目で隣に立つレオナを見た。父と狭い空間に閉じ込められた養女は、直立不動の姿勢で上官の指示を待っている。
「聞いてのとおりだ、1時間は動かん。その間に休息を取るように」
「了解」
ハイデルンがエレベーターの床に腰を下ろすのを見て、レオナもそれに倣った。レオナも夜目が良く利く。そういう風にハイデルンが育てた。
「私は少し仮眠を取る。お前も少し寝るといいだろう。ここから出たら、この1時間分以上にあれこれ仕事が増えているはずだからな」
原因の追究、担当技術者の責任、ひいてはその上官の責任――軍では部下1人叱責するにも、手順が多くてややこしい。ハイデルンが直接叱り飛ばせる、ラルフやクラークは例外中の例外だ。
今夜ベッドに入るのは予定の3時間遅れだな。そんなことを思いながら、ハイデルンは上着を脱ぎ、エレベーターの壁に体を預けて座ったまま眠る姿勢を取った。
その腕が、小さく引かれた。
「……座位での30分以上の睡眠は、却って疲労を溜めます」
「横になれ、と?」
こくり、とレオナが頷く。
長い軍隊生活で、座っていようが立っていようが、眠り体力を回復させる術ぐらい身に付けてはいる。だが、確かに横になった方が楽には楽である。
幸い基地のエレベーターは、乗せる人数とその体格に合わせて充分以上に広い。実際ハイデルンの長身が横たわっても、まるで問題のないサイズだった。
自分の腕を枕に、今度こそと目を閉じたハイデルンの腕が、また小さく引かれた。顔を上げると、闇の中でもまだ鮮やかな青い髪を揺らして、レオナが戸惑いながらこちらを覗き込んでいた。
それは部下ではなく、娘としての顔のようにも見えた。
一通り技術者たちに指示を飛ばし、電気関係の得意な整備班の連中やら傭兵たちやらを応援に行かせて、ラルフはとりあえず一息ついた。
これから自分自身も応援に行くつもりだ。クラークはとっくに行っている。少なくとも2人とも電子回路制御の爆薬の設置・解体ぐらいはできるわけだから、全くの素人というわけではない。充分戦力である。
それじゃあ俺も参戦するらここを離れますよ、とエレベーターの中の2人に呼び掛けようとして、ラルフは出掛かった声を飲み込んだ。
万が一に備えて電源を回されていた、エレベーター内の監視カメラのモニタには闇ばかりが映っている。だがその、一見闇に塗りつぶされた映像から、不幸な当事者2人の輪郭を見るぐらいは出来た。なにしろラルフも夜目が利く。
そしてラルフは、無言のままモニタのスイッチを切った。事故は事故だが貴重な「親子水入らず」の時間だ。邪魔をするのは野暮じゃないか、と。
エレベーターの中ではハイデルンが眠っている。レオナだけに見せるその寝顔は穏やかで、かつて彼を苦しめた悪夢からは縁遠い。
それもそうだ。愛する娘の膝が枕なら、悪夢も寄る辺がないだろう。
娘の膝枕で、死神と呼ばれた男が1時間だけの穏やかな夢を見る。
だから基地内の電源が全て落ちた時も、誰も驚きはしなかった。テレビでサッカーの試合中継を見ていた誰かが舌打ちしたぐらいだ。
だが、問題はその後だった。なかなか予備電源に切り替わらない。予備電源が作動しても、電力が足りないのか弱々しい非常灯しか点かない。
焦ったのは電源関係全般のスタッフたちだ。
「ええい、何が原因だ? おい予備電源の担当!」
「げ、原因不明です!」
「5分で調べて来い! それで、電圧はどれぐらい確保できてる?」
「通常の10%にも足りませんッ」
「何が何でも医療機器と通信回線とメインコンピューターの電源は落とすなよ!? は? 優先順位だと? 今言った通りだ、医療、通信が最優先だ!」
「メインコンピューターは?」
「コンピューターなんざなくても四半世紀前は戦争やれてたんだ、後回しでいい! 他に何か問題起きてるか?」
「エレベーター停止、何人か閉じ込められている模様。エレベーター内の緊急マイクに電源回します……繋がりました!」
「馬鹿野郎、軍人なら階段使え階段! 足腰弱るぞっ!」
『了解、今後は気を付けるようにしよう』
スピーカーから戻ってきた陰鬱な低い声が、主任担当者の魂もろとも部屋中の空気を凍りつかせるまでに一瞬もかからなかった。
『こちらハイデルン。状況を報告せよ――どうした、状況を報告せよ』
「すいません、2時間……いや、1時間で必ず復旧させますんで!」
結局、察しのいいラルフが駆けつけるまで、部屋の空気は凍りついたまま溶け出さなかったらしい。
スピーカー越しのラルフの声の向こうには、クラークの大声が聞こえる。何か指示を飛ばしているのだろう。たぶんその更に向こうでは、技術者たちが走り回っている。
「……スケジュールに1時間余裕ありますかね、教官。なけりゃ電力そっちに全部回すなり人力なりで、意地でもその檻、動かしますが」
「余裕はないが、後回しに出来ないものでもない。緊急事態が起きればその限りではないが」
「了解。それじゃ、最低限の空調と通信回線残して電源落としますよ。ちっと休憩ってことで頼みます」
「了解した」
ふっと非常灯が落ち、エレベーターの中は闇に包まれる。ハイデルンはひとつ溜息を吐くと、闇を良く透かす目で隣に立つレオナを見た。父と狭い空間に閉じ込められた養女は、直立不動の姿勢で上官の指示を待っている。
「聞いてのとおりだ、1時間は動かん。その間に休息を取るように」
「了解」
ハイデルンがエレベーターの床に腰を下ろすのを見て、レオナもそれに倣った。レオナも夜目が良く利く。そういう風にハイデルンが育てた。
「私は少し仮眠を取る。お前も少し寝るといいだろう。ここから出たら、この1時間分以上にあれこれ仕事が増えているはずだからな」
原因の追究、担当技術者の責任、ひいてはその上官の責任――軍では部下1人叱責するにも、手順が多くてややこしい。ハイデルンが直接叱り飛ばせる、ラルフやクラークは例外中の例外だ。
今夜ベッドに入るのは予定の3時間遅れだな。そんなことを思いながら、ハイデルンは上着を脱ぎ、エレベーターの壁に体を預けて座ったまま眠る姿勢を取った。
その腕が、小さく引かれた。
「……座位での30分以上の睡眠は、却って疲労を溜めます」
「横になれ、と?」
こくり、とレオナが頷く。
長い軍隊生活で、座っていようが立っていようが、眠り体力を回復させる術ぐらい身に付けてはいる。だが、確かに横になった方が楽には楽である。
幸い基地のエレベーターは、乗せる人数とその体格に合わせて充分以上に広い。実際ハイデルンの長身が横たわっても、まるで問題のないサイズだった。
自分の腕を枕に、今度こそと目を閉じたハイデルンの腕が、また小さく引かれた。顔を上げると、闇の中でもまだ鮮やかな青い髪を揺らして、レオナが戸惑いながらこちらを覗き込んでいた。
それは部下ではなく、娘としての顔のようにも見えた。
一通り技術者たちに指示を飛ばし、電気関係の得意な整備班の連中やら傭兵たちやらを応援に行かせて、ラルフはとりあえず一息ついた。
これから自分自身も応援に行くつもりだ。クラークはとっくに行っている。少なくとも2人とも電子回路制御の爆薬の設置・解体ぐらいはできるわけだから、全くの素人というわけではない。充分戦力である。
それじゃあ俺も参戦するらここを離れますよ、とエレベーターの中の2人に呼び掛けようとして、ラルフは出掛かった声を飲み込んだ。
万が一に備えて電源を回されていた、エレベーター内の監視カメラのモニタには闇ばかりが映っている。だがその、一見闇に塗りつぶされた映像から、不幸な当事者2人の輪郭を見るぐらいは出来た。なにしろラルフも夜目が利く。
そしてラルフは、無言のままモニタのスイッチを切った。事故は事故だが貴重な「親子水入らず」の時間だ。邪魔をするのは野暮じゃないか、と。
エレベーターの中ではハイデルンが眠っている。レオナだけに見せるその寝顔は穏やかで、かつて彼を苦しめた悪夢からは縁遠い。
それもそうだ。愛する娘の膝が枕なら、悪夢も寄る辺がないだろう。
娘の膝枕で、死神と呼ばれた男が1時間だけの穏やかな夢を見る。
某スレの怒チーム組み合わせ話から、そういやそんな小ネタがメモ帳に入れっ放しだったと思い出し、引っ張り出してリライトしたもの。組み合わせはレオナ→ハイデルン。追加要素にアデルくん。全年齢OK。
私の書くレオナは本当にとことんハイデルンが好きで、私が書くハイデルンはとことんヘタレだなあと思った次第。本物のハイデルンはこんなんじゃないやい。
「All That I'm Living For」
それはラルフの役目だったはずだ。だからそれを後ろから見守っている自分に違和感があった。
最初は、ハイデルンがその役目を果たそうとした。
「私がいく、手を出すな」
そう言ってハイデルンが踏み出したのを、とっさに肩を掴んで止めたのはラルフの直感だった。やばい気がする。これを黙って行かせたら、きっと自分は後悔する。
「手を離せ。私がいく」
ハイデルンは静かにそう言った。だがラルフは首を振る。今度は直感ではなく確信だった。
「行く」ではなく、「逝く」に聞こえたのだ。
目の前に敵として立った青年は、ハイデルンの妻子を殺した男の息子だった。
数年前に、ハイデルンは男への復讐を遂げている。それはつまり、青年から見るハイデルンが父の仇になったということだった。そうして今度はあの青年・アーデルハイドが復讐を遂げようとしている。
まともな勝負なら十中八九、ハイデルンが勝つとラルフは見ていた。アデルも父譲りの才能には恵まれているようだが、まだ経験が足りない。ハイデルンにはとても及ばないだろう。
しかしきっと、ハイデルンはアデルを殺せない。アデルは生かされて、また復讐の機会を伺うだろう。技という刃を研ぎ、そこに執念という毒を塗って、その日をじっと待つだろう。
それは振り返れば空しい時間だ。ハイデルンはそのことを、誰よりも良く知っている。復讐は何も生みはしない。費やした時間はただ虚ろな抜け殻となって残る。
ハイデルンはそれを止めようとしている。そのためにここで死ぬつもりだ。あの青年のために死ぬつもりだ。ラルフはそう確信していた。
元よりハイデルンの人生は、とうの昔に終わっていたのだ。愛する者たちと共に生きるという、ささやかな望みを失った時点で。そしてその復讐を遂げた時点で。その後の生は、彼にとって余禄に過ぎない。
その余禄の時間を手放すことで、それであの青年が空しい時を費やさずに済むのなら。そんなハイデルンの心情が、ラルフは手に取るように分かる。
「手を離せ。これは命令だ」
だがラルフはそれに抗う。ハイデルンの心中を察しているからこそ命令に逆らう。
「離せるかよ! 分かってて離せるかよ!! あんたはそれでいいかもしれないが――」
そう叫んで、いっそぶん殴ろうかと思った時、ラルフの手が妙な衝撃を感じた。それはハイデルンの体を通して、ラルフの手に伝わる衝撃だった。
それはラルフの役目だった。だからとっさに肩を掴んで止めた。怒鳴ってでも、ぶん殴ってでも、2人の間に割って入ってでも止めるつもりだった。
それより前に、ハイデルンの鳩尾に容赦ない一撃を入れたのは、青い髪の少女だった。
信じられない、という顔でハイデルンがレオナを見た。それはラルフも、クラークですら同じだった。本来なら不意打ちでも、レオナの一撃などハイデルンは軽く受け止めただろう。だがそれを不覚にも受けてしまったのは、ハイデルンの意識がラルフに向かっていたせいか、それともレオナだけは自分に逆らうはずがないという油断があったのか。
「いかせません」
改めて宣言するまでもない。不意打ちで鳩尾だ。さしものハイデルンも、しばらくはまともに動けないだろう。むしろ胃の中身をぶちまけずに済ませた、その鋼の肉体を流石と言うべきかも知れない。
「……命令違反だぞ」
ハイデルンが苦しい声で言うが、それをレオナは聞かない。たぶん、最初で最後の命令違反だ。
「それでもいかせません」
そしてレオナはアデルの前に出た。それはラルフの役目だったはずの立ち位置だ。
だが、アデルはレオナを見ない。
「どきたまえ」
若き貴公子が言い放つ。
「君には関係のないことだろう」
「いいえ」
青い髪の少女は首を振る。
「血の繋がらぬ父親ではなかったか?」
「ええ」
「血の繋がらない父のため、命を賭けるのか」
「そうよ」
「なぜ、そこまで」
「まだ、この人といきたいからだと思う」
充分すぎる理由だ、とラルフは思った。結局のところ、自分も同じ理由でハイデルンを止めたのだ。
アーデルハイドは静かにうつむき、それから再び顔を上げて、レオナに向かって身構えた。相手になろう、という無言の答えだ。
レオナも構えを少し直して、それに応えた。
「レオナ・ハイデルン――」
義父の与えた名を確かめるように口にして、それから「いきます」と。
それは高らかな宣言だった。
私の書くレオナは本当にとことんハイデルンが好きで、私が書くハイデルンはとことんヘタレだなあと思った次第。本物のハイデルンはこんなんじゃないやい。
「All That I'm Living For」
それはラルフの役目だったはずだ。だからそれを後ろから見守っている自分に違和感があった。
最初は、ハイデルンがその役目を果たそうとした。
「私がいく、手を出すな」
そう言ってハイデルンが踏み出したのを、とっさに肩を掴んで止めたのはラルフの直感だった。やばい気がする。これを黙って行かせたら、きっと自分は後悔する。
「手を離せ。私がいく」
ハイデルンは静かにそう言った。だがラルフは首を振る。今度は直感ではなく確信だった。
「行く」ではなく、「逝く」に聞こえたのだ。
目の前に敵として立った青年は、ハイデルンの妻子を殺した男の息子だった。
数年前に、ハイデルンは男への復讐を遂げている。それはつまり、青年から見るハイデルンが父の仇になったということだった。そうして今度はあの青年・アーデルハイドが復讐を遂げようとしている。
まともな勝負なら十中八九、ハイデルンが勝つとラルフは見ていた。アデルも父譲りの才能には恵まれているようだが、まだ経験が足りない。ハイデルンにはとても及ばないだろう。
しかしきっと、ハイデルンはアデルを殺せない。アデルは生かされて、また復讐の機会を伺うだろう。技という刃を研ぎ、そこに執念という毒を塗って、その日をじっと待つだろう。
それは振り返れば空しい時間だ。ハイデルンはそのことを、誰よりも良く知っている。復讐は何も生みはしない。費やした時間はただ虚ろな抜け殻となって残る。
ハイデルンはそれを止めようとしている。そのためにここで死ぬつもりだ。あの青年のために死ぬつもりだ。ラルフはそう確信していた。
元よりハイデルンの人生は、とうの昔に終わっていたのだ。愛する者たちと共に生きるという、ささやかな望みを失った時点で。そしてその復讐を遂げた時点で。その後の生は、彼にとって余禄に過ぎない。
その余禄の時間を手放すことで、それであの青年が空しい時を費やさずに済むのなら。そんなハイデルンの心情が、ラルフは手に取るように分かる。
「手を離せ。これは命令だ」
だがラルフはそれに抗う。ハイデルンの心中を察しているからこそ命令に逆らう。
「離せるかよ! 分かってて離せるかよ!! あんたはそれでいいかもしれないが――」
そう叫んで、いっそぶん殴ろうかと思った時、ラルフの手が妙な衝撃を感じた。それはハイデルンの体を通して、ラルフの手に伝わる衝撃だった。
それはラルフの役目だった。だからとっさに肩を掴んで止めた。怒鳴ってでも、ぶん殴ってでも、2人の間に割って入ってでも止めるつもりだった。
それより前に、ハイデルンの鳩尾に容赦ない一撃を入れたのは、青い髪の少女だった。
信じられない、という顔でハイデルンがレオナを見た。それはラルフも、クラークですら同じだった。本来なら不意打ちでも、レオナの一撃などハイデルンは軽く受け止めただろう。だがそれを不覚にも受けてしまったのは、ハイデルンの意識がラルフに向かっていたせいか、それともレオナだけは自分に逆らうはずがないという油断があったのか。
「いかせません」
改めて宣言するまでもない。不意打ちで鳩尾だ。さしものハイデルンも、しばらくはまともに動けないだろう。むしろ胃の中身をぶちまけずに済ませた、その鋼の肉体を流石と言うべきかも知れない。
「……命令違反だぞ」
ハイデルンが苦しい声で言うが、それをレオナは聞かない。たぶん、最初で最後の命令違反だ。
「それでもいかせません」
そしてレオナはアデルの前に出た。それはラルフの役目だったはずの立ち位置だ。
だが、アデルはレオナを見ない。
「どきたまえ」
若き貴公子が言い放つ。
「君には関係のないことだろう」
「いいえ」
青い髪の少女は首を振る。
「血の繋がらぬ父親ではなかったか?」
「ええ」
「血の繋がらない父のため、命を賭けるのか」
「そうよ」
「なぜ、そこまで」
「まだ、この人といきたいからだと思う」
充分すぎる理由だ、とラルフは思った。結局のところ、自分も同じ理由でハイデルンを止めたのだ。
アーデルハイドは静かにうつむき、それから再び顔を上げて、レオナに向かって身構えた。相手になろう、という無言の答えだ。
レオナも構えを少し直して、それに応えた。
「レオナ・ハイデルン――」
義父の与えた名を確かめるように口にして、それから「いきます」と。
それは高らかな宣言だった。
「世界が愛を語る日に」
Category : 小説
1日遅れのバレンタインなのに、憂鬱な感じのレオナ→ハイデルン片想いネタ。しかもハイデルン本人は登場せず、ラルフとレオナが喋くってるだけの暗い話になってます。
++++++++++++++++++++
世界が愛を語る日に、彼は亡き妻の墓を訪ねる。
休暇のために基地を後にするハイデルンを見送ったラルフは、その後姿が見えなくると、隣に立つレオナの背を乱暴に叩いた。
「なんて顔してやがる」
「……そんなにひどい顔?」
「鏡があったら見せてやりたい」
「そう」
レオナは確かめるように、自分の頬に手をやった。感情の起伏をほとんど表さないレオナの顔は、知らないものが見たら冷静そのものだ。
だが、この数年間ずっと間近でレオナを見てきたラルフにはわかる。ひどい顔だ。今にも泣き出しそうなほど。
泣けるのかな、こいつ。ラルフはふと、そんなことを思った。
毎年この日、ハイデルンは妻の墓を1人で訪ねる。世界が愛を語る日、彼はただひとり愛したひとに花を手向けに行くのだ。
ハイデルンの心のひとかけらは、その墓の下に妻の亡骸と一緒に永遠の眠りについている。
養父に恋をした少女にはつらい日だ。義父の心は絶対にこちらを向くことはなく、恋敵は永遠に相手の目の前にいて離れない。それを再認識させられる日。
せめてまともに焼餅でも焼けりゃあ違うんだろうな。そう考えたラルフはすぐに首を振った。
恋敵が死者では相手が悪い。今は亡き人の思い出は美しく、下手な嫉妬はその思い出を汚すようにも見えて嫌悪されるだけだ。それにレオナも大切な人たちを喪った身だ。ハイデルンの喪ったものに対して、例えそれがどんなささやかなものであっても負の感情をぶつけることはできないだろう。
恋敵を振り払うことも、その存在に嫉妬することもできない恋。
レオナがもう少し歳を重ね、こういうことにも手馴れていたなら、なんとか気持ちの折り合いをつけることができたかもしれない。だがレオナはまだ18で、しかもこれが初めての恋だ。
「お前さあ、せめて恋敵と喧嘩できるような相手を選べよな」
それでも、最悪の初恋を抱えた少女は、至極真っ当な助言をした上官に小さく首を振る。
「そういうことの良し悪しで、相手を選べるものだと思う?」
「そりゃそうだ。俺が悪かった」
今度はラルフが首を振る番だった。
確かに、なんとかなるものならとっくに誰かがそうしている。どうにもならないから、レオナはこんな顔をしているのだ。
「でも、ありがとう」
そのひどい顔のまま、レオナがぽつりと言った。
「なにが?」
「あなただけだわ。「やめておけ」という時に、年の差だとか義理の親子だとか、そういう理由を持ち出さないでくれるのは」
「そんなの言うだけ無駄だろ。それを一番良くわかってるのはお前自身なんだし」
「そうよ。良くわかってる――わかってるわ」
そう言うと、レオナはその場でうつむいた。その顔を見る気にはなれず、ラルフはレオナとは逆に天を仰ぐ。
世界が愛を語る日に、少女が恋した男は亡き妻子の墓を訪れる。その後姿を、養女がどんな顔をして見ているかも知らずに。
それすら承知でレオナが選んだ恋を、ラルフはただ、見つめるしかない。
Category : 小説
1日遅れのバレンタインなのに、憂鬱な感じのレオナ→ハイデルン片想いネタ。しかもハイデルン本人は登場せず、ラルフとレオナが喋くってるだけの暗い話になってます。
++++++++++++++++++++
世界が愛を語る日に、彼は亡き妻の墓を訪ねる。
休暇のために基地を後にするハイデルンを見送ったラルフは、その後姿が見えなくると、隣に立つレオナの背を乱暴に叩いた。
「なんて顔してやがる」
「……そんなにひどい顔?」
「鏡があったら見せてやりたい」
「そう」
レオナは確かめるように、自分の頬に手をやった。感情の起伏をほとんど表さないレオナの顔は、知らないものが見たら冷静そのものだ。
だが、この数年間ずっと間近でレオナを見てきたラルフにはわかる。ひどい顔だ。今にも泣き出しそうなほど。
泣けるのかな、こいつ。ラルフはふと、そんなことを思った。
毎年この日、ハイデルンは妻の墓を1人で訪ねる。世界が愛を語る日、彼はただひとり愛したひとに花を手向けに行くのだ。
ハイデルンの心のひとかけらは、その墓の下に妻の亡骸と一緒に永遠の眠りについている。
養父に恋をした少女にはつらい日だ。義父の心は絶対にこちらを向くことはなく、恋敵は永遠に相手の目の前にいて離れない。それを再認識させられる日。
せめてまともに焼餅でも焼けりゃあ違うんだろうな。そう考えたラルフはすぐに首を振った。
恋敵が死者では相手が悪い。今は亡き人の思い出は美しく、下手な嫉妬はその思い出を汚すようにも見えて嫌悪されるだけだ。それにレオナも大切な人たちを喪った身だ。ハイデルンの喪ったものに対して、例えそれがどんなささやかなものであっても負の感情をぶつけることはできないだろう。
恋敵を振り払うことも、その存在に嫉妬することもできない恋。
レオナがもう少し歳を重ね、こういうことにも手馴れていたなら、なんとか気持ちの折り合いをつけることができたかもしれない。だがレオナはまだ18で、しかもこれが初めての恋だ。
「お前さあ、せめて恋敵と喧嘩できるような相手を選べよな」
それでも、最悪の初恋を抱えた少女は、至極真っ当な助言をした上官に小さく首を振る。
「そういうことの良し悪しで、相手を選べるものだと思う?」
「そりゃそうだ。俺が悪かった」
今度はラルフが首を振る番だった。
確かに、なんとかなるものならとっくに誰かがそうしている。どうにもならないから、レオナはこんな顔をしているのだ。
「でも、ありがとう」
そのひどい顔のまま、レオナがぽつりと言った。
「なにが?」
「あなただけだわ。「やめておけ」という時に、年の差だとか義理の親子だとか、そういう理由を持ち出さないでくれるのは」
「そんなの言うだけ無駄だろ。それを一番良くわかってるのはお前自身なんだし」
「そうよ。良くわかってる――わかってるわ」
そう言うと、レオナはその場でうつむいた。その顔を見る気にはなれず、ラルフはレオナとは逆に天を仰ぐ。
世界が愛を語る日に、少女が恋した男は亡き妻子の墓を訪れる。その後姿を、養女がどんな顔をして見ているかも知らずに。
それすら承知でレオナが選んだ恋を、ラルフはただ、見つめるしかない。
れが案外希少だと気づいたのはいつだったか。
「さっきのヤツどう思う?」
たった今後にした村で、一番か二番目に大きい家の息子だった。
ニ日の滞在でガラシャと仲良くなったらしい。別れ際に花を一輪差し出した、ませたガキだ。ガラシャは左手に持っていたその花に目を落とした。
「やさしかった」
「…俺には優しくなかったけどな」
村にずっといてほしい、と言う少年に、いくら乱世とはいえ明智家の息女がこの村にずっといれるわけないと知っている孫市は傍観に徹していたが、ガラシャが「孫が行くからわらわも行く」と返したので、おいおい俺のせいかよと思ったら案の定、きつい視線を向けられたのだ。
少年よ、それは告白を流された八つ当たりというものだぜ。
「孫は、理由にされて嫌だったか?」
流した当の本人はその事実を分かっているのかいないのか。
「別に嫌じゃねぇよ。だからそんな顔すんな」
額をぴんと弾いてやると口を尖らせた。ぎゅう、と握りこまれた花がなんとなく、本当になんとなく不満で、孫なんて嫌いじゃとぶつぶつ言うのを無視してその花を掠め取る。
「なに」
「いいから」
取り返そうと伸びる両腕を片手で押し留めて、手にしたそれを少し迷ってから、髪飾りのそばに挿す。ガラシャの文句はぴたりと止んだ。白い花は驚くほど彼女の赤に映えた。
うし、いい仕事した俺、と孫市は満足げに頷く。ガラシャが花のある辺りへと手をさまよわせるので、「ここだ」とその手を持っていってやれば、孫市を見つめる大きな目がふ、と細められた。
「やっぱり孫は好きじゃ」
そう、花のように笑う。その言葉が両親以外に使われるのは自分くらいだということに気づいたのはいつだったか。懐かれたなぁと思った。案外、こういうのも悪くない。
「褒めても何も出ないぜ」なんて、冗談を言うと案の定、ガラシャは首を振って否定した。
「わらわが好きと言いたいだけなのじゃ」
あ、やっぱり悪い。
不意打ちはダメだろう。前触れなく襲う理屈じゃないその感じを、俺は確かに知っている。
「さっきのヤツどう思う?」
たった今後にした村で、一番か二番目に大きい家の息子だった。
ニ日の滞在でガラシャと仲良くなったらしい。別れ際に花を一輪差し出した、ませたガキだ。ガラシャは左手に持っていたその花に目を落とした。
「やさしかった」
「…俺には優しくなかったけどな」
村にずっといてほしい、と言う少年に、いくら乱世とはいえ明智家の息女がこの村にずっといれるわけないと知っている孫市は傍観に徹していたが、ガラシャが「孫が行くからわらわも行く」と返したので、おいおい俺のせいかよと思ったら案の定、きつい視線を向けられたのだ。
少年よ、それは告白を流された八つ当たりというものだぜ。
「孫は、理由にされて嫌だったか?」
流した当の本人はその事実を分かっているのかいないのか。
「別に嫌じゃねぇよ。だからそんな顔すんな」
額をぴんと弾いてやると口を尖らせた。ぎゅう、と握りこまれた花がなんとなく、本当になんとなく不満で、孫なんて嫌いじゃとぶつぶつ言うのを無視してその花を掠め取る。
「なに」
「いいから」
取り返そうと伸びる両腕を片手で押し留めて、手にしたそれを少し迷ってから、髪飾りのそばに挿す。ガラシャの文句はぴたりと止んだ。白い花は驚くほど彼女の赤に映えた。
うし、いい仕事した俺、と孫市は満足げに頷く。ガラシャが花のある辺りへと手をさまよわせるので、「ここだ」とその手を持っていってやれば、孫市を見つめる大きな目がふ、と細められた。
「やっぱり孫は好きじゃ」
そう、花のように笑う。その言葉が両親以外に使われるのは自分くらいだということに気づいたのはいつだったか。懐かれたなぁと思った。案外、こういうのも悪くない。
「褒めても何も出ないぜ」なんて、冗談を言うと案の定、ガラシャは首を振って否定した。
「わらわが好きと言いたいだけなのじゃ」
あ、やっぱり悪い。
不意打ちはダメだろう。前触れなく襲う理屈じゃないその感じを、俺は確かに知っている。