某スレの怒チーム組み合わせ話から、そういやそんな小ネタがメモ帳に入れっ放しだったと思い出し、引っ張り出してリライトしたもの。組み合わせはレオナ→ハイデルン。追加要素にアデルくん。全年齢OK。
私の書くレオナは本当にとことんハイデルンが好きで、私が書くハイデルンはとことんヘタレだなあと思った次第。本物のハイデルンはこんなんじゃないやい。
「All That I'm Living For」
それはラルフの役目だったはずだ。だからそれを後ろから見守っている自分に違和感があった。
最初は、ハイデルンがその役目を果たそうとした。
「私がいく、手を出すな」
そう言ってハイデルンが踏み出したのを、とっさに肩を掴んで止めたのはラルフの直感だった。やばい気がする。これを黙って行かせたら、きっと自分は後悔する。
「手を離せ。私がいく」
ハイデルンは静かにそう言った。だがラルフは首を振る。今度は直感ではなく確信だった。
「行く」ではなく、「逝く」に聞こえたのだ。
目の前に敵として立った青年は、ハイデルンの妻子を殺した男の息子だった。
数年前に、ハイデルンは男への復讐を遂げている。それはつまり、青年から見るハイデルンが父の仇になったということだった。そうして今度はあの青年・アーデルハイドが復讐を遂げようとしている。
まともな勝負なら十中八九、ハイデルンが勝つとラルフは見ていた。アデルも父譲りの才能には恵まれているようだが、まだ経験が足りない。ハイデルンにはとても及ばないだろう。
しかしきっと、ハイデルンはアデルを殺せない。アデルは生かされて、また復讐の機会を伺うだろう。技という刃を研ぎ、そこに執念という毒を塗って、その日をじっと待つだろう。
それは振り返れば空しい時間だ。ハイデルンはそのことを、誰よりも良く知っている。復讐は何も生みはしない。費やした時間はただ虚ろな抜け殻となって残る。
ハイデルンはそれを止めようとしている。そのためにここで死ぬつもりだ。あの青年のために死ぬつもりだ。ラルフはそう確信していた。
元よりハイデルンの人生は、とうの昔に終わっていたのだ。愛する者たちと共に生きるという、ささやかな望みを失った時点で。そしてその復讐を遂げた時点で。その後の生は、彼にとって余禄に過ぎない。
その余禄の時間を手放すことで、それであの青年が空しい時を費やさずに済むのなら。そんなハイデルンの心情が、ラルフは手に取るように分かる。
「手を離せ。これは命令だ」
だがラルフはそれに抗う。ハイデルンの心中を察しているからこそ命令に逆らう。
「離せるかよ! 分かってて離せるかよ!! あんたはそれでいいかもしれないが――」
そう叫んで、いっそぶん殴ろうかと思った時、ラルフの手が妙な衝撃を感じた。それはハイデルンの体を通して、ラルフの手に伝わる衝撃だった。
それはラルフの役目だった。だからとっさに肩を掴んで止めた。怒鳴ってでも、ぶん殴ってでも、2人の間に割って入ってでも止めるつもりだった。
それより前に、ハイデルンの鳩尾に容赦ない一撃を入れたのは、青い髪の少女だった。
信じられない、という顔でハイデルンがレオナを見た。それはラルフも、クラークですら同じだった。本来なら不意打ちでも、レオナの一撃などハイデルンは軽く受け止めただろう。だがそれを不覚にも受けてしまったのは、ハイデルンの意識がラルフに向かっていたせいか、それともレオナだけは自分に逆らうはずがないという油断があったのか。
「いかせません」
改めて宣言するまでもない。不意打ちで鳩尾だ。さしものハイデルンも、しばらくはまともに動けないだろう。むしろ胃の中身をぶちまけずに済ませた、その鋼の肉体を流石と言うべきかも知れない。
「……命令違反だぞ」
ハイデルンが苦しい声で言うが、それをレオナは聞かない。たぶん、最初で最後の命令違反だ。
「それでもいかせません」
そしてレオナはアデルの前に出た。それはラルフの役目だったはずの立ち位置だ。
だが、アデルはレオナを見ない。
「どきたまえ」
若き貴公子が言い放つ。
「君には関係のないことだろう」
「いいえ」
青い髪の少女は首を振る。
「血の繋がらぬ父親ではなかったか?」
「ええ」
「血の繋がらない父のため、命を賭けるのか」
「そうよ」
「なぜ、そこまで」
「まだ、この人といきたいからだと思う」
充分すぎる理由だ、とラルフは思った。結局のところ、自分も同じ理由でハイデルンを止めたのだ。
アーデルハイドは静かにうつむき、それから再び顔を上げて、レオナに向かって身構えた。相手になろう、という無言の答えだ。
レオナも構えを少し直して、それに応えた。
「レオナ・ハイデルン――」
義父の与えた名を確かめるように口にして、それから「いきます」と。
それは高らかな宣言だった。
私の書くレオナは本当にとことんハイデルンが好きで、私が書くハイデルンはとことんヘタレだなあと思った次第。本物のハイデルンはこんなんじゃないやい。
「All That I'm Living For」
それはラルフの役目だったはずだ。だからそれを後ろから見守っている自分に違和感があった。
最初は、ハイデルンがその役目を果たそうとした。
「私がいく、手を出すな」
そう言ってハイデルンが踏み出したのを、とっさに肩を掴んで止めたのはラルフの直感だった。やばい気がする。これを黙って行かせたら、きっと自分は後悔する。
「手を離せ。私がいく」
ハイデルンは静かにそう言った。だがラルフは首を振る。今度は直感ではなく確信だった。
「行く」ではなく、「逝く」に聞こえたのだ。
目の前に敵として立った青年は、ハイデルンの妻子を殺した男の息子だった。
数年前に、ハイデルンは男への復讐を遂げている。それはつまり、青年から見るハイデルンが父の仇になったということだった。そうして今度はあの青年・アーデルハイドが復讐を遂げようとしている。
まともな勝負なら十中八九、ハイデルンが勝つとラルフは見ていた。アデルも父譲りの才能には恵まれているようだが、まだ経験が足りない。ハイデルンにはとても及ばないだろう。
しかしきっと、ハイデルンはアデルを殺せない。アデルは生かされて、また復讐の機会を伺うだろう。技という刃を研ぎ、そこに執念という毒を塗って、その日をじっと待つだろう。
それは振り返れば空しい時間だ。ハイデルンはそのことを、誰よりも良く知っている。復讐は何も生みはしない。費やした時間はただ虚ろな抜け殻となって残る。
ハイデルンはそれを止めようとしている。そのためにここで死ぬつもりだ。あの青年のために死ぬつもりだ。ラルフはそう確信していた。
元よりハイデルンの人生は、とうの昔に終わっていたのだ。愛する者たちと共に生きるという、ささやかな望みを失った時点で。そしてその復讐を遂げた時点で。その後の生は、彼にとって余禄に過ぎない。
その余禄の時間を手放すことで、それであの青年が空しい時を費やさずに済むのなら。そんなハイデルンの心情が、ラルフは手に取るように分かる。
「手を離せ。これは命令だ」
だがラルフはそれに抗う。ハイデルンの心中を察しているからこそ命令に逆らう。
「離せるかよ! 分かってて離せるかよ!! あんたはそれでいいかもしれないが――」
そう叫んで、いっそぶん殴ろうかと思った時、ラルフの手が妙な衝撃を感じた。それはハイデルンの体を通して、ラルフの手に伝わる衝撃だった。
それはラルフの役目だった。だからとっさに肩を掴んで止めた。怒鳴ってでも、ぶん殴ってでも、2人の間に割って入ってでも止めるつもりだった。
それより前に、ハイデルンの鳩尾に容赦ない一撃を入れたのは、青い髪の少女だった。
信じられない、という顔でハイデルンがレオナを見た。それはラルフも、クラークですら同じだった。本来なら不意打ちでも、レオナの一撃などハイデルンは軽く受け止めただろう。だがそれを不覚にも受けてしまったのは、ハイデルンの意識がラルフに向かっていたせいか、それともレオナだけは自分に逆らうはずがないという油断があったのか。
「いかせません」
改めて宣言するまでもない。不意打ちで鳩尾だ。さしものハイデルンも、しばらくはまともに動けないだろう。むしろ胃の中身をぶちまけずに済ませた、その鋼の肉体を流石と言うべきかも知れない。
「……命令違反だぞ」
ハイデルンが苦しい声で言うが、それをレオナは聞かない。たぶん、最初で最後の命令違反だ。
「それでもいかせません」
そしてレオナはアデルの前に出た。それはラルフの役目だったはずの立ち位置だ。
だが、アデルはレオナを見ない。
「どきたまえ」
若き貴公子が言い放つ。
「君には関係のないことだろう」
「いいえ」
青い髪の少女は首を振る。
「血の繋がらぬ父親ではなかったか?」
「ええ」
「血の繋がらない父のため、命を賭けるのか」
「そうよ」
「なぜ、そこまで」
「まだ、この人といきたいからだと思う」
充分すぎる理由だ、とラルフは思った。結局のところ、自分も同じ理由でハイデルンを止めたのだ。
アーデルハイドは静かにうつむき、それから再び顔を上げて、レオナに向かって身構えた。相手になろう、という無言の答えだ。
レオナも構えを少し直して、それに応えた。
「レオナ・ハイデルン――」
義父の与えた名を確かめるように口にして、それから「いきます」と。
それは高らかな宣言だった。
PR