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「世界が愛を語る日に」
Category : 小説

 1日遅れのバレンタインなのに、憂鬱な感じのレオナ→ハイデルン片想いネタ。しかもハイデルン本人は登場せず、ラルフとレオナが喋くってるだけの暗い話になってます。


++++++++++++++++++++



 世界が愛を語る日に、彼は亡き妻の墓を訪ねる。

 休暇のために基地を後にするハイデルンを見送ったラルフは、その後姿が見えなくると、隣に立つレオナの背を乱暴に叩いた。
「なんて顔してやがる」
「……そんなにひどい顔?」
「鏡があったら見せてやりたい」
「そう」
 レオナは確かめるように、自分の頬に手をやった。感情の起伏をほとんど表さないレオナの顔は、知らないものが見たら冷静そのものだ。
 だが、この数年間ずっと間近でレオナを見てきたラルフにはわかる。ひどい顔だ。今にも泣き出しそうなほど。
 泣けるのかな、こいつ。ラルフはふと、そんなことを思った。
 毎年この日、ハイデルンは妻の墓を1人で訪ねる。世界が愛を語る日、彼はただひとり愛したひとに花を手向けに行くのだ。

 ハイデルンの心のひとかけらは、その墓の下に妻の亡骸と一緒に永遠の眠りについている。

 養父に恋をした少女にはつらい日だ。義父の心は絶対にこちらを向くことはなく、恋敵は永遠に相手の目の前にいて離れない。それを再認識させられる日。
 せめてまともに焼餅でも焼けりゃあ違うんだろうな。そう考えたラルフはすぐに首を振った。
 恋敵が死者では相手が悪い。今は亡き人の思い出は美しく、下手な嫉妬はその思い出を汚すようにも見えて嫌悪されるだけだ。それにレオナも大切な人たちを喪った身だ。ハイデルンの喪ったものに対して、例えそれがどんなささやかなものであっても負の感情をぶつけることはできないだろう。
 恋敵を振り払うことも、その存在に嫉妬することもできない恋。
 レオナがもう少し歳を重ね、こういうことにも手馴れていたなら、なんとか気持ちの折り合いをつけることができたかもしれない。だがレオナはまだ18で、しかもこれが初めての恋だ。
「お前さあ、せめて恋敵と喧嘩できるような相手を選べよな」
 それでも、最悪の初恋を抱えた少女は、至極真っ当な助言をした上官に小さく首を振る。
「そういうことの良し悪しで、相手を選べるものだと思う?」
「そりゃそうだ。俺が悪かった」
 今度はラルフが首を振る番だった。
 確かに、なんとかなるものならとっくに誰かがそうしている。どうにもならないから、レオナはこんな顔をしているのだ。
「でも、ありがとう」
 そのひどい顔のまま、レオナがぽつりと言った。
「なにが?」
「あなただけだわ。「やめておけ」という時に、年の差だとか義理の親子だとか、そういう理由を持ち出さないでくれるのは」
「そんなの言うだけ無駄だろ。それを一番良くわかってるのはお前自身なんだし」
「そうよ。良くわかってる――わかってるわ」
 そう言うと、レオナはその場でうつむいた。その顔を見る気にはなれず、ラルフはレオナとは逆に天を仰ぐ。
 世界が愛を語る日に、少女が恋した男は亡き妻子の墓を訪れる。その後姿を、養女がどんな顔をして見ているかも知らずに。
 それすら承知でレオナが選んだ恋を、ラルフはただ、見つめるしかない。
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