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mo8
冒険航空会社モンタナ(モンタナ・ジョーンズ)同人小説
「 故宮の東・西太后の財宝を追え! 」
第8章  北京行

 農家が見えてきたところで、チャンが一人で行くとモンタナの持つ水用タンクを引き取って訪ねに向かった。
 しばらくすると、タンクを引き摺ってチャンが戻ってくる。食料も手に入りそうだと告げ、今一度農家の建物に消えてしまった。
 モンタナとアルフレッドが出番をなくし、傘を持って棒立ちしていると、直にチャンが大きな包みを抱え嬉しそうに戻ってくる。
「この中に食料が入っています。この雨では難儀しているでしょうと、随分気を遣ってくれました」
「有り難ぇ事だな。なら、なるべく濡らさねぇようにして帰らねぇとな」
「わかってるよ」
 モンタナは水の一杯入ったタンクを持ち上げ、アルフレッドとチャンが2人分の傘で荷物を庇い、雨の打つ中を歩き出す。
 雨足は強く、地平線も雨の簾にすっかりと隠れていた。足元が泥だらけの上、曇天と雨の為、周囲はすっかり色褪せている。
 ケティに戻る頃には、3人共に話す気力もなくなっていた。体が冷えきってしまい、血が重い上、頭に空洞を感じる始末である。
 モンタナは、客室の隅に寄せた大鍋に持ち帰った水を移し、簡易コンロに火をいれるとその上に乗せた。
 チャンが荷をとき、食料を客室に広げる。アルフレッドがさっそく濡れた服を脱ぎ、毛布にくるまりながらお茶の準備を始めた。
 スパゲッティと中国茶、そして貰い物の果物で、3人の男は腹を満たし体を暖める。
「おっ、空が明るくなってきたぜ」
 指を鳴らし、モンタナは天候が回復する気配を喜んだ。
「よかった・・・。雨の中を北京まで歩くなんて、ぞっとしてたところだよ」
 カップを手で包み、アルフレッドも窓外に目をやった。
 相変わらずの曇天には違いない。が、雨粒は小さくなり雲の色が薄くなりつつある。
「そろそろ2時になるよ、モンタナ。これからどうする?」
 毛布の端を掴んで、アルフレッドが呟いた。
 チャンが、そっと床にカップを置く。
「農家で、地元の人の話を聞く事ができました。ここから北京まで、徒歩で半日弱はかかるそうです」
「徒歩で半日ィ!」
 それを聞いた途端、アルフレッドが露骨に顔を歪めた。
「半日もかかったんじゃ、往復だけで時間がなくなっちゃうよ。それに僕は・・・」
「半日も徒歩なんて、まっぴらなんだろう?」 歯を剥き出し、モンタナはにやついた。
「だ、だって・・・」
 図星を刺され、流石にアルフレッドとてぐうの音も出ない。
 相棒の肩を、モンタナはそっと撫でる。「何か方法を考えようぜ。歩いて往復しろたぁ、俺だって言わねぇよ」
「あの・・・」
「ん?」
 モンタナとアルフレッドが、囁くようなか細い声に反応する。驚いてチャンを見ると、チャンは窓外をゆっくりと指さした。
「荷馬車が来るようです。北京まで・・・とは行かないと思いますが、途中までなら乗せてくれるかもしれません」
 モンタナは、脱兎もかくやという速度で立ち上がり、窓の1つに突進した。遅れてアルフレッドが全く同じ動作で、別の窓に飛びついて外を眺める。
 確かに、遠くで何かが動いていた。あの辺りに道があるらしい。ゆっくり、ゆっくり、近付いてくる気配がある。
「おかしいよ、モンタナ! 陸地が随分遠くになってる!」
 アルフレッドが呟いた言葉に、モンタナは無言で窓から顔を離す。
「チャンさん、あの方向が北京なんだな?」
「はい、それは間違いありません」
「アルフレッド、チャンさん! 急いで荷作りだ! あの馬車に乗せてもらうぞ!」
 モンタナは、簡易コンロの火が消えているのを確かめ、急ぎ錨を湖に落とすと、ゴム・ボートを客室の外に用意した。7つ道具の入ったリュックサックをボートに落とし、邪魔にならないよう端に寄せる。
 アルフレッドがいつもの鞄から中身を取り出し、空にして小脇に抱える。チャンもなめし皮と二振りの短剣を手持ちの鞄に詰め、ドア横に立った。
 アルフレッドとチャンが、ゴム・ボートに乗るのも忘れ棒立ちになる。
 モンタナが錨を投げ落とした理由もゴム・ボートの意味も、2人はこの時ようやく理解した。
 水嵩が増しているのか、2人は最初そう思った。
 水を持ち戻って来た時よりも、湖の岸辺は確かに遠くなっている。寄せてあった筈のケティは、今や完全に水の上で浮いているのだから無理もない。
「突風があったからな、流されたのかもしれねぇ」
 ゴム・ボートから手招きをしつつ、モンタナは急げと付け加えた。
 雨は、霧雨に変わってきた。風が出てきたのか、モンタナの前髪が、風で時折ふわりと揺れる。
 モンタナは2人をボートに乗せると手を伸ばし、ケティのドアを半分だけ閉めてやった。
 エンジンをかけると、ボートは元気に岸を目指し水をかく。
 やはり、あの姿は荷馬車のようである。ケティの窓から見つけたその影は、今やはっきりそれとわかる程、大きく見える位置に来てしまっていた。
「急いで、モンタナ!」
「わかってる!」
 ゴム製のボートは、賑やかに水面を叩いて騒がせる。エンジンもがんばっているのはわかるのだが、馬の歩みはボート並みに早い。
 焦りが顔に表れているアルフレッドを横目に、モンタナはおかしな事を考えた。逸る気持ちでボートのエンジンを回す事ができたら、どれ程早くなるだろうか。
 岸に乗り上げる前に、ゴム製のボートは停止する。
「先に行きます!」
 泥土をものともせず、チャンが馬車に向かって声を張り上げ走り出した。
 湖で見た馬の横腹は、荷車の後ろ姿に変わってしまっている。
 モンタナはアルフレッドと共に、ゴム・ボートの空気を抜くと、岸辺の人目につかない所へと隠した。
 モンタナはリュック、アルフレッドは鞄を持ち、泥に足を取られながら、チャンの後を追いまず踏み固めた道に出る。
 水たまりはあったが、土でできた道はしっかりとしており歩きやすかった。畦道のように、不慣れな者が歩いても滑る心配が全くない。
 前方では、チャンが馬車を止めモンタナ達に手を振っていた。
「ラッキー!」
 モンタナとアルフレッドが馬車に走り寄ると、チャンが御者をしている若い女性を紹介してくれた。
「彼女は北京まで行ってくれるそうです。乗せてくれるという事なので、お言葉に甘えましょう」
「うっひょう、助かりィ!」
「それはよかった!」
 モンタナとアルフレッドは礼を述べ、荷車の後ろにおさまった。チャンは女性の隣に座り、何やら会話を楽しんでいる。
 女御者が鞭を一つくれてやると、馬はようよう歩き出した。
 モンタナ達と一緒に荷車が揺れる。
 雨は、すっかりやんでしまった。雲は陽射しに引き裂かれるよう切れ切れになり、次第に青空へその場所を譲ってゆく。
 雨上がりの風が吹く中を、馬は黙々と荷車を引いて道を進んだ。真っ平らと表現するしかない景色にも、秋の訪れが木々に畑に感じられる。
 荷車が軋むと、モンタナ達の体が弾む。人間と鞄、リュックの他は瓶だけを乗せ、馬は荷車を引いていた。
 タイミングよく、チャンが後ろへわめいてくれる。
「それにしても、よかったですね。彼女は、近くの町まで油を買いに行くところだったそうです」
「それを、わざわざ北京まで?」
 アルフレッドもまた、声を張り上げた。
「観光客がいつまでもこのような場所にいるものではないと、そのようなところなのでしょう」
「わかりました。チャンさん、彼女によくお礼を言っておいて下さい」
「はい」
 メリッサがいないので、アルフレッドもチャンに通訳を頼む。チャンが、御者に何がしかを話しかけていた。
 荷車に2人の男達を乗せ、馬車は進む。モンタナの口から欠伸が出ても、アルフレッドの尻が痛くなろうとも、馬車は止まらず北へと向かった。雲は東へと逃げ、日は次第に西へと傾きつつある。
「もう、半分はきているそうですよ」
 御者の言葉をチャンが教えてくれた頃から、道の様子が変わってきた。一体何処から、これだけの人々が出てきたのであろう。モンタナ達は余りの変化に目をみはる。
 モンタナの目前に、馬がいた。荷車を引き、やはり黙々と歩いている。馬がずっとこちらを向いているもので、モンタナは間が持たず、つい馬に挨拶をした。
 別の馬車が現れ、荷を弾ませながらすれ違ってゆく。モンタナ達が今しがた来た道を、念壇方面へと進む馬車。
 馬車は荷車をこちらに向けた格好で、次第に小さくなり、別の馬車に隠れ、遂には見えなくなってしまった。
 モンタナの視界の下を、やはり同じようにして背を向けた親子連れが歩いて行く。人通りも随分と盛んになってきた。試しに前方を見てみると、思った通り、チャンの背中よりずっと先に荷車の背がある。
 人と馬車の出入りが激しくなり、疲れた表情のアルフレッドも、周囲の様子に興味を抱くようになってきた。
「いよいよ北京に近付いてきたって感じだね」
「中国の首都なんだろう? 早く故宮っていうのを見てみたいぜ」
「もうすぐだよ」
 アルフレッドがにこりとした。尻は痛いものの、北京に近付いてきたという事で、ようやく元気が出てきたようである。
 人や自転車、そして馬車の行き来は更に激しさを増してゆく。馬車も往来に譲って、立ち往生する事も珍しくなくなった。
 御者の女性は、馬車を道の隅に寄せる。もう馬車での移動はここまでが限界なのであろう。
 モンタナとアルフレッド、そしてチャンが馬車から降りた。
「ありがとう、とても助かりましたよ」
「サンキューな」
 馬を撫でている女性に、2人はそっと礼を述べた。
 言葉がわからない為か、最初はきょとんとしていた彼女も、チャンの通訳とモンタナ達の笑顔で話の内容を理解した。華やかな笑顔でモンタナ、アルフレッドの前を過ぎると、チャンの手前では頬を赤らめる。
「・・・なるほど。サービスがよかったのは、こういう訳ね」
 モンタナの体がよろけて斜めになった。
「しっかりして、モンタナ。僕も疲れてるんだから・・・」
 女性は別れを告げると、馬車を操って元来た道を引き返していった。
「チャンさん」
「はい」
 モンタナは、チャンに近付き耳打ちする。
「ちょっと彼女につれなかったんじゃねぇの?」
「はい?」
 鞄を抱えたまま、チャンが首を捻った。その呆けた様子に、モンタナは肩をすくめ、アルフレッドと連れ立ってチャンに背を向け歩き出す。
 チャンが我に返って、慌てて2人の後についてきた。
「・・・男の敵だ」
 わざと止まらず、モンタナは大股で歩き続ける。
「女の敵かもよ」
 いつもは人の良いアルフレッドが囁いた。
 2人の背中をどんと押し、チャンが2人のジャケットを軽く引っ張る。
「そちらは東寄りの道です。そのまま行くと、市街地を掠め北に抜けてしまいます。こちらの道を行きましょう」
「ん? あ、そうか」


 日はすっかり沈んでしまった。アルフレッドの時計は、既に7時を回ろうとしている。 徒歩で市街地に入った3人は、人の流れに逆らえず、右に左にと蛇行しながら前に進んだ。
 仕事を終えた人々が、往来に大きな流れを作る。その懐を宛てにした商店が、店の明りを灯し人々の目を引いていた。
 店頭で作りながら食べ物を売る店、靴屋、薬屋、中には人の間を縫いながら物売りをする姿もある。煮物の匂いと油の臭いが一緒になってしまい、人いきれも手伝って空気は少し澱んでいた。
 通行人は、自分の懐具合に合わせ店を選んでは商品を念入りに吟味している。
 それにしても、人の数が多い。
「ここが北京の中心なのか?」
 陽気な雰囲気に共感しながら、モンタナはチャンにわかるようぐるりを示した。
「いえ、この通りは商業地区なので、店が密集しているのです。大きな通りは、もっと整然としていて道幅もあります」
「そこに、中央省庁もあるんですね?」
 アルフレッドが、店の並びに気を取られ気持ち半分で問う。
「はい。まず、ここで夕食を手配してから、夜がふけるのを待つのがよいかと・・・」
「なるほど」
 アルフレッドに代わり、モンタナが返事をした。そわそわと気ぜわしく動く目、アルフレッドは、心ここにあらずという風体である。
 モンタナはアルフレッドの様子で、彼の心中について大方の見当をつけた。
 いつもの癖で、本屋と骨董品の店を探しているに違いない。雑踏の中、アルフレッドは、向かいあった店の中へ1件1件独特の勘を忍ばせているのである。「アルフレッド! お前の買い物は後回しだ。まず、飯を買い出してから、故宮に入る方法を考えようぜ」
 襟首を掴まれ、アルフレッドが不愉快そうに口を曲げる。知的好奇心を満足させる喜びなど、冒険家を自負するモンタナにはわかる筈もない。
「わかったよ、モンタナ。・・・んっもう・・・」
「仕方ないだろう、明日の朝までだぞ。時間がないんだ」
「・・・まず、食料か・・・」
 店頭で饅頭を蒸している店があったので、3人は味を選びその幾つかを購入した。
 暖かい饅頭を頬ばりながら、故宮を囲む外壁に沿って歩いてみる。
 外壁を越えるのは無理と諦めるしかなかった。高さは目算でも、優に14・5メートルはある。夜は4つの門総てが閉ざされてしまい、観光客などは入る事ができなくなっている。
「こりゃ、正攻法はとても無理だな」
 饅頭を飲み込んでから、モンタナは真顔になってそう呟いた。
「じゃあ、どうするんだよ? 明日の朝までには戻らなきゃならないのに」
 アルフレッドが、食べかけの饅頭を握りしめ不満を唱えた。見上げる程高い外壁を眺めた途端、食欲は何処かへ飛んで消えてしまったかのようである。
「何処かに、故宮の中に入れる秘密の入り口とかはねぇのかな・・・」
「うーん・・・」
 アルフレッドが唸りながら歯形のついた饅頭をモンタナに寄越す。そして、胸のポケットから写しとったメモを取り出し明りの近くへ晒してみた。
「この見取り図には、何も印らしいものはないんだけど・・・」
「まだ見落としてるものがあるんじゃねぇのか? なめし皮を見りゃ、何かわかるかも・・・」
「モンタナ!」
 頬を膨らまし、アルフレッドが声を荒げた。
「僕は、これでも専門家だよ! そんな初歩的なミスは絶対しないよ! ・・・それより、黄色い線を写しとったモンタナこそ、何か見落としてるんじゃないの?」
 そこまで言うか。他意はなかっただけに、モンタナもつい、かちんときてしまう。
「俺だって、パイロットやってんだぜ! そうそう見落としなんてするもんかよ!」
「どーだか。ケティにしても車にしても、脇見運転なんてしょっちゅうじゃないか!」
「それで事故った事なんて、1回もねぇだろう? そのおかげで、お前だって、今こうしてぴんぴんしていられるんじゃねえか! 礼位は、言ってもらいてぇもんだな」
「君に?」
「そう、俺にだよ」
「安全運転というものを知らない、闇雲に走ったり飛んだりするだけの、君に?」
「・・・んにゃろォ!」
 モンタナの両目が吊り上がった。
 大層慌てたチャンが、体をはって2人の間に割り込んでくる。
「待って下さい、2人共! ここで騒ぎを起こすのは・・・」
 アルフレッドを、そしてモンタナを、チャンが穏やかに窘める。
「あ、ああ・・・。ちぃと、大人げなかったかもな。済まないな、チャンさん」
「いえ・・・」
 モンタナとアルフレッドは、そこでようやく気がついた。2人の声に驚いたのか、地元の人々が4・5人集まり、モンタナ達を遠巻きにし様子を伺っているではないか。
「見せものになってるよ、僕達」
 頭にのぼらせた血で、アルフレッドが赤面する。
「ああ、そのようだな。・・・何でもない、何でもないよォン!」
 努めて明るく、むしろわざとらしい位の陽気さで、モンタナはアルフレッドの肩を抱く。そしてチャンの後について、一時その場を足速に退散した。
 幸い、ついてこようという物好きは現れる気配がない。
 角を幾つか曲り、人影がいないのを確かめてから、3人は肩を落とし、同時に大きな息を吐いた。
「危ねぇ、危ねぇ・・・。こんな所で有名人になっても、ギルト博士は喜ばねぇよな」
「そりゃあ、そうだよ。・・・僕達、ちょっと軽率だったね」
 モンタナは、アルフレッドの肩を軽く叩く。
「ん」
 笑顔を取り戻し、アルフレッドも頷いた。
「よし、もう1度考え直してみようぜ。故宮に入る方法が、何かあるかもしれねぇ」
「うん」
 アルフレッドが故宮の見取り図を再び広げ、3人でそれを囲み見る。
「外、外、と・・・。何も印はねぇよな」
 モンタナの指が、見取り図の外周を一回り撫でる。
「もしかしたら、本当に僕がヒントを見落としているのかもしれない」
「そんな事はねぇよ。・・・自信はあるんだろ?」
「ああ、そのつもりなんだけど・・・」
「ここに書かれていたものといったら、故宮の見取り図と、東暖閣の絵と、それから文字のかけら・・・」
 モンタナは、上目使いに頭の中でおさらいをする。
「それだけだよね」
「東暖閣の絵は、故宮の絵と重なるようにして書いてあったよな。文字のかけらは2つあって、1つは神武門の左上、もう2つは東華門の右上に・・・」
 モンタナの両目が、限界までに開かれる。
 アルフレッドが「それだ!」と叫んだ。
「チャンさん。神武門の北西と、東華門の北東には、何かありますか?」
 アルフレッドの息は荒い。
「東華門の北東は商圏のある所で、余りよくは・・・。しかし、神武門の北西には、昔の川の名残があって、中洲に北海公園があります」
「それだァ!」

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険航空会社モンタナ(モンタナ・ジョーンズ)同人小説
「 故宮の東・西太后の財宝を追え! 」
第7章  2つの短剣

 雨足が強くなる頃、3人はケティ号に辿り着いた。まずは濡れた体を暖める為に、雨を吸った上着を脱いで毛布を羽織る。その間にアルフレッドが簡易コンロで残りの水を沸かし湯を作った。
 3人で簡易コンロを囲んで、なけなしの暖を取る。ストーブのようにはいかなかったが、秋半ばの降雨は思った以上に体を冷やす。コンロの火を見ているだけで、3人は安堵感を覚えていた。
 操縦室にいると、キャノピーを叩く本降りの雨を目の当たりにする事になる。3人は居場所を客室に選んだ。
 空模様が空模様なだけに、客室の暗さは夜にも似ていた。昼だというのに、窓から陽光が差し込む事はない。
 簡易コンロの火だけでは心もとないので、ランタンを灯し、3人はコーヒーカップを呆然と眺めていた。
「何て最低なんだ、今日は。モンタナ、見てよ。コーヒー豆もきらしてる」
 底にサラサラと音を立てる缶を回し、アルフレッドがぼそりと呟く。
「湯は少ないっていっても、それじゃあちぃと足りな過ぎるな。・・・っくそう、あの曲芸熊もどきめ」
 前髪についた泥を取りながら、モンタナはコーヒーではなく風呂の事を考えていた。
「あ・・・あのう・・・」
 自分のバッグを手探りし、チャンが小さな紙の包みを差し出してくる。
 アルフレッドが包みを開いた。紙の上で、香りを昇らせ転がる小さなものがある。乾燥した手触りに、アルフレッドが破顔した。
「これは、中国茶の葉ですね!」
「お嫌いでなかったら、使って下さい。紅茶のようにはいきませんが、甘くして飲む事もできます」
「ありがとう! それじゃあ遠慮なく使わせていただきます」
 アルフレッドがティポットを用意し、その中にチャンから分けてもらった茶の葉を入れた。乾燥した軽い音が、ポットの中から聞こえてくる。
「飲むかい、モンタナも?」
「当ったりめぇだろ、白湯がお茶になるんだ。早いとこ体を暖めて、一息つこうぜ」
「ああ」
 ティ・ポットにできたばかりの湯を注ぎ、アルフレッドがカップに分けた。湯気と共に立ち昇る香ばしい匂いに、誰からともなく溜め息が漏れる。
 3人が3人、それぞれにカップを両手で包み込んだ。中身は、カップに半分ばかり。それでも、体の中に温もりがたまってゆく一瞬が、誰にとっても快感この上ない。
「もう2・3杯は飲みてぇ気分だな」
 真っ先にカップを空けたのは、モンタナであった。
 土や砂が水を吸ったばかりに、まだ体から泥の臭いが上がってくる。しかし、風呂はないのだから諦めるしかない。中国茶の湯気を見てから、モンタナは風呂の事を忘れる事にした。
 モンタナの持論によると、きれい好きでは冒険家はつとまらないのである。
「急かしたくはないんだが、そろそろ短剣の謎解きの事を考えようぜ」
 モンタナは、アルフレッドに龍の短剣を出すよう手で催促した。
「昼過ぎには、動き出すのかい?」
 懐を探りながら、アルフレッドが真顔になった。
「ああ、明日の朝までしか時間がねぇんだ。夜になってから北京に移動するんじゃ、明日の朝までには戻ってこれねぇんでな」
「そうだね」
 黄色い布で無造作に包まれたそれを、アルフレッドがモンタナに手渡す。
 茶を飲み干すのを止め、チャンがまんじりともせずにモンタナの方へと身を乗り出した。
 長い時間をかけた探し物を見るチャンの目は揺れている。モンタナは、チャンに龍の短剣を差し出した。
「これは本来、あんたのものだ。自分の手で、例の地図を調べてみねぇか?」
 モンタナは意味深長なウィンクをする。チャンが喜々として、短剣を受け取った。
「ありがとうございます、モンタナさん」
 モンタナとアルフレッドが息をつめて見守る中、チャンがすらりと短剣を抜き、鞘からなめし皮の部分だけをそっと取り外した。
 なめし皮には、やはり濃い塗料の跡がある。これだけでは意味のわからない幾何学模様が、随分と沢山描かれていた。
 慎重に目を凝らすと、濃い塗料の他に、鳳凰の短剣で見たものと同じ黄色い塗料の跡もある。
「やっぱりな。アルフレッド、例のものも出せよ」
 モンタナは、従兄弟である考古学者の肩を小突く。
「あ、ああ」と、アルフレッドが胸のポケットから、眼鏡ともう1つのなめし皮を取り出した。
 チャンが鋏と針で、巧みに縫い目を解きほぐす。
「できましたよ」と広げるなめし皮に、アルフレッドが鳳凰の短剣にあったものを同じ高さへ掲げてみた。
「つながりそうか?」
「んんっと・・・」
 チャンとアルフレッドがそれぞれの向きを変えながら、2つを幾度も並べ直してみる。
「こうだ!」
「そのようですね!」
「どれどれ・・・」
 ようやく納得のいく形に整えた2人の方へ、モンタナは引き寄せられるようににじり寄る。
 外郭の線が1本の直線として、上下共きれいに繋がっていた。皮を縫い合わせていた部分は流石に塗料が薄くなってしまっているが、全体を見るのに不便はない。
「やっぱり地図・・・いや見取り図だぜ、こりゃ!」
「間違いないよ、おそらくこれが故宮の・・・」と言いかけて、アルフレッドがチャンへちらりと伺いを立てる。
「ええ、きっとそうです」
 チャンも殊の外大きく首肯し、アルフレッドと同様に目を輝かせた。
「この見取り図が、財宝を探す為のヒントなんだよ! ここに描かれている故宮の何処かに、必ず西太后の財宝が眠っているんだ!」
 アルフレッドの声が震えている。頬が紅潮し、いささか興奮ぎみのようだ。
 気持ちがわからなくもないが、モンタナはモンタナで、早く次の秘密に挑んでみたくて仕方がない。
「おい、アルフレッド。まだ黄色い線の謎が解けちゃいないだろ?」
「ああ、わかってるよ。いつだってモンタナは急かせるんだから・・・」
 ぶつぶつと不平を唱えながら、アルフレッドはなめし皮を客室の床に置き、いつものノートへ見取り図の様子を書き写し始めた。
 外郭を示す四角の辺一本づつに、それぞれ門と思しき印がある。
 チャンが門の印を指した。
「御存知の通り、故宮は紫禁城とも呼ばれ、1406年から1420年にかけて造営されました。明・清両時代の皇城として使われ、現在は中国の古代芸術品などを展示する博物館として公開されています。・・・この4つの門は、東のものを東華門、西のものを西華門、北のものを神武門、そして正門たる南のものを午門と言います」
「と、いう事は、この見取り図は、このでっかい門を南に見ればいいんだな」
 モンタナはアルフレッドの了解なしに、2つの見取り図の向きを変えた。ランタンが午門寄りになったので、ランタンは昼の太陽を表す位置に来た事になる。
 納得したアルフレッドが、怒る代わりに「なるほど」と呟きメモを続けた。
「小さな四角が沢山あるな」
 モンタナの指が、見取り図に描かれた長方形をざっと指して回る。
「これは、1つ1つが宮殿を表しているのだと思います。ほら、北の神武門と南の午門を結んだ直線を中心にほぼ左右対称に建物が建てられているでしょう」
「なるほど…。このデッカイ建物は?」
 見取り図中央の大きな3つの長方形を、モンタナは突いた。
「神武門寄りが保和殿、午門寄りが太和殿、保和殿と太和殿に挟まれた建物が中和殿です。保和殿は、皇帝が催した宴や殿試を行った所。太和殿は、皇帝の即位や年中行事の重要なものを行っていた所。そして中和殿は、太和殿に向かう前に皇帝がここで重臣の朝拝を受けていた所とされています」
「故宮でも、特に重要な建物って事だな」
「はい」
「チャンさん、ズバリ・・・財宝がここにある可能性は?」
 見取り図へ屈み込み、チャンが短く唸った。
「可能性がないとは言えませんが・・・」
「ちぃと目につき過ぎるか・・・」
 両手を頭の後ろに回し、モンタナは客室へ横になった。
「アルフレッドぉ、まだ見取り図は書き取れないのか?」
 欠伸混じりに、モンタナは天井を眺め回す。
「っと・・・。待たせたね、ようやく終わったよ」
 その返事を聞きつけた途端、モンタナはがばっと飛び起きた。
「よし、黄色い線の方だ! やってみようぜ!」
「うん」
 半々になったなめし皮を再び引き離すと、ああでもないこうでもないと、新しい組み合わせを探り出しにかかる。
 モンタナ、アルフレッド、チャンと大の男3人がかりで並べ変えを試みるが、ランタンの明りも手伝って作業は容易にはかどらなかった。
 黄色い線は故宮の見取り図程、判別がつきやすいものではない。やがて、目を凝らしているうちに痛みを覚えたか、アルフレッドが眼鏡を外し目頭を手で押さえ出した。
「ちょっと休むか?」
「いいかい?」と言うやいなや、アルフレッドが後ろにごろりと転がった。
「よし、ちょっくら俺に貸してくれねぇか?」
 2つに分かれたなめし皮を持って、モンタナはふと立ち上がる。
「何処に行くの?」
「おそらく、ランタンの明りじゃ黄色が強過ぎるんだ。雨が降ってても、外の方がよく見えるに違ぇねぇ」
「そうか!」
「ついでだから、俺がメモしてやる。書くものを貸してくれ」
 アルフレッドが上体を起こし、先程まで自分が使っていた筆記用具をモンタナに差し出した。
「じゃ、ちょっくら前行ってくらぁ」
「頼んだよ、モンタナ」
 毛布を脱ぎ捨てると、モンタナは客室の隣にある操縦室に足を運んだ。大粒の雨がキャノピーを叩く中、自分の指定席に座り空模様を眺める。
 本降りの雨が、いつやむとも知れぬ勢いで空から落ちてきていた。湖面は雨の為に光沢を失い、畑に舞っていた鳥達も何処かへ飛んでいってしまったようである。
 モンタナは、ケティ号のキャノピーへなめし皮を貼りつけるようにして並べ、あれこれと組み合わせに工夫を凝らした。
 思った通り、薄暗い雨模様の空でも、ランタンの明りよりは黄色い線をくっきりと浮かび上がらせてくれる。
 程なくして、それらしい組み合わせを発見する事ができた。
 椅子と思しき調度品と、その両側に一対の飾りらしい塔が描かれている。更にその後ろは、縦の線が何本も平行に描かれ、壁に類するものを表現しているようであった。
 何処かの室内を表現しているであろう事は、モンタナにも見当がつく。
 しかし、図案は随分と簡略化してあるので、この絵だけを頼りとし場所を限定するのには無理が多かろうという気がした。
「ん・・・」
 まだ、見落としているものでもありはしないか。モンタナはなめし皮の端にも目を通し、ランタンの明りでは見つからなかったものを探してみようと努力した。
「ん?」
 黄色い図案の右下、故宮の見取り図では神武門の左上に当たる所へ、黄色い塗料が散りばめてある。一見すると短い線が無造作に集まっているので、職人の試し書きと受け取れない事もない。 が、モンタナの勘には、それが妙に引っかかった。
「皇帝に納める最高の品物だ。試し書きを残す職人もいねぇだろうよ・・・」
 大雑把な絵で黄色い線の図案をメモすると、今度は慎重に右下の黄色い線を書き取った。
 もしやと思い、もう片方のなめし皮の端を見ると、やはりあった。合わせ目の右上にも、同じような黄色い塗料の痕跡がそれとわかるように残してある。
 モンタナは、にやりとした。以前の謎解きでも、重大なヒントに手が届いた瞬間は、これに似た手応えを常に感じていた事を思い出す。
 帽子のつばの下で、スリルを楽しむ男の眼が鋭い光を帯びる。アルフレッドではないが、次第に気分が高揚してきた。 急いで客室内に取って返すと、収穫のメモをアルフレッドとチャンに披露する。
「すごいよ、モンタナ!」
「やってみろよ」と、モンタナはアルフレッドを促した。
 アルフレッドがチャンに、モンタナの記したメモを渡す。
「これを、ランタンの手前に翳していて下さい」
 言われるままに、チャンが両手でメモを持ち、明りが透けるようにランタンの手前にしっかりと翳す。
「もしやそれは」と口に昇らせ、チャンが止めた。
 アルフレッドは、モンタナのメモの一部、あの右下にあった黄色い塗料の記録部分を静かに破る。そして、もう1か所の塗料の跡へ、明りが透けるように重ね合わせた。
「やっぱりそうだ!」
「文字じゃねぇか!?」
 チャンも、上からそっと覗き込む。
 浮かび上がったのは、縦書きの漢字数文字だった。3文字、そして3文字、合計6文字が崩れた形ながら白い紙に黒く透けているではないか。
「チャンさん、この文字は?」
 アルフレッドの声が上ずっている。
「・・・・・養心殿 東暖閣、とあります」
「ってぇ事は?」
 さも愉快そうに、モンタナはチャンに結論を催促した。
 チャンが、持っていたメモを下に置き、先程アルフレッドが記録した故宮の見取り図を開くとその一角をすっと指す。
 迷いのないチャンの仕種に、確かな足取りの末この結論に辿り着いたのだと、モンタナは確信した。
「養心殿とは、これ。故宮の敷地の中では、やや小さい宮殿になります。中心にある太和殿などよりも北西寄りの宮殿で、西太后とは特に縁の深い建物です」
「東暖閣ってぇのは?」
 チャンが、モンタナとアルフレッドに自信の笑みを伺わせた。モンタナ達が初めて見る、チャンの力強い表情がそこにある。
「養心殿の中にあります。西太后が垂簾聴政、つまり簾越しに摂政としての仕事をした場所の事ですよ」
「やったァ、それだ!」
 モンタナは口笛を吹き、アルフレッドはモンタナにしがみついて収穫の手応えを喜んだ。
「後は、現場に行って探し出すのみってか! 夜の来るのが待ち遠しいぜ!」
「お見事でした、モンタナさん、アルフレッドさん!」
 2人の手を取り、チャンがそれぞれを激励した。
「いや、大した事はありませんよ」
 優しい笑顔で、アルフレッドがチャンを労う。
「我々は偶然、なめし皮の秘密を説き明かしたのに過ぎません。・・・あれは、短剣を分解するつもりで検分しないとわからないものでした。預かりものを大切に扱おうとしたチャンさんの姿勢は、素晴らしいものです」
「いえ・・・」と、チャンが頬を赤らめて目を細めた。
「ギルト博士やロンさんが、あなた方を大切に思う気持ちを、私もよく理解する事ができました。・・・ありがとうございます」
「いえ、御力になれたようで、僕達もとても光栄です」
 チャンがアルフレッドの手を、そして次にはモンタナの手を熱く握っては重ねて礼を述べた。
「いいって事よ。俺達は、宝探しと冒険と、困った人を助けるのが趣味なんだ」
 褒められて気分がよくなったのか、モンタナはチャンの肩に右腕を回し、左手で大きな半円を描いて見せた。
 それを聞いたアルフレッドが、意地悪げに腕を組む。
「だったらモンタナ、ママの手伝いもサボっちゃ駄目だよ。モンタナはよく、ママとチャダを困らせるんだから」
「おいおいおい・・・、そういう事を言うか、普通?」
「冒険しか、しない従兄弟にはね」
「ううっ・・・」
 モンタナは帽子のつばを持ち上げると、アルフレッドの右手を持ち上げ、時間を確かめる。
「大体合ってんだろう、アルフレッド?」
「ああ、そうだよ」
「ちょうど12時ってとこか・・・。そろそろ昼飯の心配をしねぇか? 水がなくて、スパゲッティが茹でらんねぇんだけどよ」
 上手く話をかわしたなと、アルフレッドがモンタナの目を覗き込む。モンタナは、それを承知でわざとそっぽを向いた。
「腹、減ってんだろう?」
 訴えかけるように、モンタナは半眼を作った。「スパゲッティ、スパゲッティ」と、モンタナは連呼する。
「そりゃそうだけど、水が・・・」
「だから、その水を調達に行こうぜ。今、腹ごしらえをしておかねぇと、夜、北京で目ぇ回す事になるぞ」
「・・・それは困るよ」
 アルフレッドが渋々、さも億劫そうに生乾きのジャケットを体にひっかける。
「メリッサ、何か食わせてもらってんのかな・・・」
 モンタナが客室のドアを開けた時、アルフレッドとチャンの表情が凍りついた。
「そんな顔をするなよ」
 ドアに手をかけ、モンタナは努めて明るく振り返る。
「メリッサを必ず助け出すさ。そして、財宝も奴等には渡さない。・・・やってやろうぜ、俺達でな」
 釣り目ぎみの冒険野郎は、次第に声を低くしながら、2人の学者を前にそう豪語した。
 モンタナの背中には、根拠のない自信が漲っている。普段なら呆れてしまいそうなアルフレッドも、逆境の中、この不敵な自信を見ると、呆れるのを通り越し、感心さえしていた。
 付き合わされるのは不本意な時も多いが、モンタナの側にいると、こんな自分もまだ何かしなくてはという気分で、重い腰が上がる。
 命のスペアがない分、冒険には不安が付き纏う。
 が、いつだってモンタナは難問を克服し、可能性を確かなものに変えてきた。遺跡に仕掛けられた数々の罠も、ゼロ卿の妨害も、モンタナは決してものともしない。
 降雨を背景に、アマチュア冒険家は2人に向かって親指を立てた。格好をつけるその仕種が、この状況下で、嫌になる位頼もしく見える。
「僕らも手伝うよ、勿論」
 アルフレッドが、客室の奥から雨傘を3本引っ張り出した。傘を配り、雨の中を連れ立って3人は外へ出る。
 予備の水用タンクを抱え、モンタナは先に立って歩き出す。傘に落ちた雨が、頭上でしきりと軽い音を奏でた。

mo6
冒険航空会社モンタナ(モンタナ・ジョーンズ)同人小説
「 故宮の東・西太后の財宝を追え! 」
第6章  ゼロ卿一味現る

 テーブルをどんと叩くと、満を辞してモンタナは立ち上がった。
「いくら何でも遅過ぎるぜ」
 チャンが水を貰いに出かけてから、既に2時間は経過している。雲は空一面を覆いつくし、地上は朝よりもずっと暗くなった。湖面は鉛色で光を失い、荒涼とした周囲の風景にすっかり溶け込んでしまっている。
 雨が降るのかもしれない。収穫を終えた畑には、この時間になっても人影の現れる気配は全くなかった。ケティ号を発見される心配はなさそうだが、戻ってくる筈の人影もないとなると、無人の畑に不安は募る。
「何かあったのかしら」
 空のコーヒー・カップから目を離し、メリッサの美しい顔が眉をひそめる。
 モンタナは無言のまま、帽子を取って席を離れた。
「何処に行くの、モンタナ?」
 簡易コンロの番をしていたアルフレッドが、引き寄せられるように立ち上がってモンタナの背中に問う。
「後を追ってみようと思う。ゴタゴタに巻き込まれたのかもしれねぇからな」
「ゴタゴタって?」
 モンタナは、歩みを止めた。振り返ると、何かを言いたげなアルフレッドの顔がある。メリッサも真顔そのもので、いい加減な返事で納得する様子でもなさそうだった。
「…ゼロ卿達でない事を祈ろうぜ」
 モンタナは努めて平静を装い、かぶりを振った。
「ゼ、ゼロ卿!」
「もう、ここまで追って来たって事!?」
 ほぼ同時に顔を見合わせ、アルフレッドとメリッサがモンタナを注視する。
 短く首肯し、モンタナの目が僅かに細くなった。
「ボストンで振り切られた位で、諦めるような連中じゃねぇだろう。・・・畜生! こんな事なら、チャンさんを1人で行かせるんじゃなかった」
「僕も一緒に行くよ!」
「私も!」
 アルフレッドが帽子に手をやり、メリッサが着替えをする為ケティに戻る。 思えばそもそもこの事件は、チャンがアメリカに持ち込んだものだった。ゼロ卿一味がチャンを追っていたのは知っていたし、モンタナ達を巻き込んでいる点について、チャンはとても気に病んでいる様子だった。3人の誰しもが、共に出かけるべきであったとの思いは強い。
 空模様を眺めてから、モンタナは先に立って畦道に降りた。5分、10分と、3人はチャンが歩いたと見られる畦道をとぼとぼと進む。
 時折、空から鳥の群れが舞い降りては畑でしきりと何かをついばんだ。収穫の手を逃れた作物の種でも落ちているのだろう。人も家畜もいない畑で、鳥だけがあくせくと働いている。
 ケティを離れ、20分も歩いた頃であろうか。モンタナは、地平線を睨みつけると急に立ち止まった。
「2人共、ここでストップだ!」
「どうしたの、モンタナ? 雨が近付いているの?」
「それどころじゃねェぞ。あれを見ろ!」
 モンタナは、アルフレッドとメリッサにもわかるように地平線を指した。
「え?」
 メリッサとアルフレッドは、咄嗟に雨の簾を想像した。ここで雨に降られてしまえば、作物のない畑は一面の泥土と化してしまう。装備がないだけに、それはそれで有り難くはない。
 しかし、モンタナの指は雲を指してはいなかった。
 雨がしたたり落ちそうな灰色の空の下、モンタナの指し示す先で、畑から砂煙が舞い上がっている。つむじ風の悪戯というより、トラクターの暴走によく似ていた。地面で何かがバウンドしているのがよくわかる。
 砂煙は段々と大きくなるので、3人は身を固くした。見間違いでなければ、こちらに近付いて来る気配がある。
「様子がおかしいな・・・」
「・・・止まると思う?」
 アルフレッドが苦笑した。
「俺がゼロ卿なら、止まらねぇだろうな」
「わかっているなら、ねぇちょっと・・・!」
 ハイヒールを脱ぎ、メリッサが左手に両方の靴を持った。
「逃げるっきゃないか!」
 モンタナは踵を返し、メリッサの右手を引いて走り出す。
「ああ、僕も!」
 遅れをとったら、後ろには砂煙が迫ってくる。アルフレッドも慌ただしく、元来た道をケティに向かって駆け出した。
 三人の後ろからは、砂煙が追いかけてくる。それも、ロード・ローラーもかくやとばかりの重低音が、3人の耳を驚かせた。
 メリッサの手をしっかりと握ったまま、モンタナは頭を上げるように後ろを見る。
「いっ!」
 案の定、砂煙の中に赤い物体を見て取る事ができた。カバ、いや熊のようでもあるが、金属製の熊などそうお目にかかれるものではなかろう。
 後ろで肩を弾ませたアルフレッドが、モンタナの思いを口にする。
「あれって・・・ニトロ博士の・・・メカ・ローバー・・・!」
「イヌじゃねェのか。太り過ぎの」
「熊じゃ・・・ないかな」
「曲芸がやりたきゃ、サーカスに行きゃあいいのによ!」
「何を言ってるのよ!」
 手を引かれながら、メリッサが呑気なモンタナを窘めた。
 メカ・ローバーは、熊のような前足と後ろ足で、それぞれ1つづつ巨大な黒い球を転がしている。おそらくは、2つの球を操る玉乗り動物を模しているのであろう。
 かわいい姿と、見えない事もない。
 が、それはあくまで、もっとサイズが小さければの話である。玉乗りの球、そしてメカ・ローバーもまた、あれだけ巨大で硬質な輝きを帯びていると、製作者の殺意を読み取らずにはいられない。
 その上、操縦者の性格を、モンタナは嫌という程よく知っていた。
 金属製と思われる黒い球の直径は、2メートル近く。メカ・ローバーの頭部は、見上げる空の遥か上にある。
 トラックに追いまくられるとは、こんな恐怖を味わう事なのかもしれない。モンタナは、おかしな事を考えた。
 メカ・ローバーはわざと蛇行しながら、モンタナ達の尻を追い立て走っていた。
 蛇行しながら走るのは、3人を抜く気がない為であろう。スピードを誇示しつつも、追い抜くでもすぐに轢き殺すでもないからである。
 メカ・ローバーの中でさも楽しげに笑うある男の顔を、モンタナは想像する。途端にむっとして、「ゼロ卿らしいぜ」と顔を歪めた。
 モンタナの後ろで、アルフレッドの息が荒く弾む。元々が、運動不足の考古学者。全力疾走を強いられては、そう長く走っていられそうにない。スカート姿のメリッサにしても、大した違いはない筈であった。
 折角のサファリ・ルックから動きづらいスカートに着替えてしまったメリッサへ、モンタナは男なりの同情をする。
 盛んにバウンドを繰り返し、メカ・ローバーがじりじりと距離を詰めてきた。そろそろ、追いかけっこにも飽きてしまったらしい。
「がんばれ、アルフレッド! メリッサ! もうすぐケティが見えてくるぞ!」
 アルフレッドの返事はなかった。モンタナは心配になって、腰から体を捻り後ろの従兄弟を確認する。
 アルフレッドが両手を上げ視界下へ消失する瞬間を、モンタナは目撃した。足が縺れたのか、アルフレッドが驚いた様子で地面にぼてっと膝から落ちる。
 モンタナは、メリッサの手を引き寄せた。
「しっかりつかまってろよ」と言い含め、その体を右手でしっかりと抱きしめてやる。腕に力を入れると、メリッサの両足が宙に浮いた。
 アルフレッドは顔面を硬直させ、ようやく自力で起き上がった。
「モンタナ…」
 アルフレッドの向こうに、メカ・ローバーが操る黒い球が迫っている。距離は、最早10メートルもない。
 モンタナはメリッサを包み込むと、アルフレッドにわかるよう左方向へと顎をしゃくった。
「飛べ、アルフレッド!」
 アルフレッドが渾身の蛙飛びをする。ほぼ同時に、モンタナもまたメリッサを抱きしめ横に転がった。
 メカ・ローバーの轟音が、頭の横を通り過ぎる。
 埃を巻き上げ、アルフレッドが剥き出しの土くれに無造作な着地をする。抱き合った2人は、一緒になって土の上を転がる。モンタナが手を放すと、2人は別々になった。
 咄嗟にモンタナが上体を起こし、メカ・ローバーの動きを警戒する。
 と、メカ・ローバーは次第に速度を落とし、やがて離れた場所へと停止した。
 モンタナ達がジャンプした跡には、鉄球の痕跡がしっかりと重なっている。ぶるっと、モンタナは身震いをした。
 舌打ちをするゼロ卿の姿が、目に浮かぶようである。
「大丈夫か、メリッサ?」
 丁重にメリッサを助け起こし、モンタナは彼女の無事を確かめる。
「ええ、何とか・・・」
「アルフレッド! アルフレッドは大丈夫か?」
「ぼ、僕も、何とか・・・」
 立ち上がるなり、余程気になるのか、アルフレッドが体についた埃を手で落とす。
 メリッサもまた、しきりと白い手で服の汚れを取り払っていた。
「お洋服のお洗濯代、ゼロ卿がもってくれないかしら・・・」
 靴を履き直し、メリッサが玉乗りメカ・ローバーを睨みつける。
「僕らのも、そうしてもらいたい位だよ。・・・チャダがかわいそうだ」
 帽子の被り具合を確かめ、アルフレッドが愚痴を零した。
「おいおい、2人共・・・」
 モンタナは、メカ・ローバーと呑気な2人を見比べずにはいられない。
 敵はまだそこにいるというのに、この落ち着きようは何処から来るのか。半ば呆れ、半ば感心さえした。
 モンタナの髭が、ピクリと動く。メカ・ローバーが方向転換をしている事に気がついた。
 頭をこちらに向け直し、再び接近しつつあるではないか。
「メリッサ! アルフレッド!」
 警戒を呼びかけ、モンタナは素早くメカ・ローバーと対峙する。相手の動きを見極める為の動作だった。
 玉乗りメカ・ローバーが、眼前で止まった。これ以上、攻撃してくるつもりはないらしい。
 モンタナはゆっくりと近付いて、恐る恐る黒い玉にそっと手を置く。
「モンタナ!」
 後ろから、アルフレッドの声がした。
 黒い球の直径は、やはりモンタナの背と同じ位はあった。金属製と見たモンタナの判断も誤りではないようである。
 前足と後ろ足には皿状の円盤が取りつけられ、それが鉄球を両側から挟み込む格好になっている。足回りがよく、タイヤを使用するよりきれいなS字を描くのも、このニトロ博士の工夫がものを言っていた。
 性能は、まんざらでもないところが見られる。しかし、メカ・ローバーは熊よりも頭が大きく、玉乗りをしている熊を再現している訳ではなさそうであった。
 何より、動物など生き物に拘るマシン・デザインが笑わせてくれる。
「でっけぇ熊もどき・・・」
 モンタナが呟くと、メカ・ローバーから罵声が飛んだ。
「ジャイアント・パンダじゃい!」
「これが・・・パンダだって・・・!?」
 モンタナの独り言に腹を立てたのか、メカ・ローバーが突然1メートルばかり前進する。
 危うく轢かれそうになり、モンタナは慌てて横に避けた。
「ふーっ、危ねぇ危ねぇ・・・」
 メカ・ローバーから金属音がし、四つん這いをしている熊の胸が開いて仰々しいタラップが現れる。
 モンタナがアルフレッドとメリッサを庇いに戻ると、メカ・ローバーの中からは、いつものように白いマントとシルクハットの気障な男が姿を見せた。
「口は災いの元だ。まだわからないのかね、モンタナ君」
「てめぇに説教されたかぁねェな、ゼロ卿のおっさんよ!」
 モンタナは、大声でうそぶいた。
「フン、減らず口を」
 そんなモンタナを鼻で笑い、ゼロ卿が畑に降りるとメカ・ローバーの乗員にわかるよう手招きをする。
 1人、2人と、男達が降りてきた。スリムとスラム、そしてスリムの腕の中には縄で縛り上げられたチャンがいる。
 目が合った途端、顔を曇らせた青年に、モンタナは声もなく拳を握った。
 スリムの手には、チャンに向けられた銃がある。
「また会ったな、ギルトの弟子諸君。こちらには人質がいるのだ。大人しくしていただこう」
「汚ねぇぞ、ゼロ卿!」
「世界の考古学的遺産は、総て我がゼロ卿のコレクションに。大切なのは結果なのだよ、モンタナ君」
「その為になら、何でもするつもりだってか?」
「当然だ」
「・・・偉いと言おうか、馬鹿げてると言おうか・・・」
「何とでも言いたまえ。西太后の財宝は、この私を待っているのだよ」
 苦汁に塗れた表情をする3人の前で、ゼロ卿が1人勝鬨を上げる。
 マントをさばく仕種、ステッキの扱い、何をとってもゼロ卿の動きにはそつがない。成金とみまごう傲慢さを身につけ、世界の何処へ行っても人を見下して回る。しかし何よりモンタナは、勝ち誇ったこの高笑いが一番嫌いであった。
 さも得意げに、ゼロ卿が何がしかをわめいている。が、モンタナは最早耳を貸していなかった。
「モ、モンタナ・・・」
 ジャケットの袖に、アルフレッドがしがみついてくる。
 スラムが銃を抜き、銃口をモンタナに向けてきたのだ。
「鳳凰の短剣を渡せってか?」
 腰に手をやり、モンタナは白けた半眼を作る。
 ゼロ卿が、ステッキの先をくるりと回した。
「そう・・・と言いたいところだが、今回は特別面白い趣向を用意してみた。謎解きを得意とする君達に、私からのプレゼントだ」
「何だ、そりゃ?」
 モンタナの勘に、ちくりと刺さるものがあった。ろくな話ではなかろう。モンタナは、げんなりと口の端を曲げる。
「さては、龍の短剣の謎解きに飽きたな?」「当たりィ!」とにこやかに笑うスリムを、ゼロ卿が一睨みする。スリムが慌てて口を噤み、その手に捕らえているチャンにさえ呆れられた。
 図星を刺してしまったようである。
「なるほどね、そういう事か・・・」
「自分達では、何もわからなかったって事ね」
 アルフレッドとメリッサが失笑すると、2人の足元で地面が音を立てた。
 アルフレッドとメリッサが、踊るように飛び上がる。
「ボスのお話の途中だ。黙ってな!」
 銃を構え直しながら、スラムがまくしたてた。
「やめろ、ゼロ卿!」
 両手を広げたモンタナの抵抗を一蹴し、ゼロ卿はそしらぬ顔で自分の懐を探る。そして、黄色い包みを取り出すと、包みごとモンタナに投げつけた。
「それは、一時君達に預けておく。勿論、お宝が見つかった暁には、宝共々返していただくがな」
「・・・って、いう事は!」
 急ぎ、モンタナは包みを開いた。曇天の下、鮮やかな金属の装飾が目を奪う。
 鳳凰の短剣と、大きさと形もほぼ同じ。鍔の部分には彫金で龍が描き出され、龍の目には青い宝石が埋め込まれていた。
 ゼロ卿でなくとも、この輝きを見てしまったからには胸ときめかせずにはいられまい。
 黄金と宝石でできた、清の皇帝所縁の短剣。これだけでも財宝と呼ぶには充分過ぎる品物であった。
「龍の短剣だ!」
「まぁ、きれい! 鳳凰の短剣とそっくりよ!」
 モンタナの両脇に立って、アルフレッドとメリッサがそれぞれの言葉で息を吐く。
「なぁ、ゼロ卿」
 短剣をアルフレッドに渡し、モンタナは作り笑いで向き直った。
「何だ」と、ゼロ卿が流石に気味悪がる。
「折角だから、チャンさんも置いてってくれ。もし、そのまま帰ってくれると、尚ありがたいんだけどな」
「ば、馬鹿者が!」
 ステッキを振り上げてからゼロ卿が怒りを堪え、したり顔に切り換える。
「ギルトの弟子共、彼はお宝と交換だ。君達はこれから故宮に行って、西太后の財宝を探し出してこなければならない。お宝を持ち帰ってきた時、お宝と短剣を我々に提供してくれるのなら、この青年は返してやろう」
「何だと!」
 前に乗り出したモンタナを、アルフレッドが咄嗟に制止する。
「僕に任せて」
 アルフレッドが、小声で呟いた。
「何をぼそぼそ話しているのだ、アルフレッド先生?」
 小細工でも気にしているのか、ゼロ卿がけげんそうな目つきをし、ステッキの先でチャンを指した。
 縛られているチャンの両目が、恐怖の為見開かれる。
 アルフレッドが、わざと大きく肩をすくめた。
「つまり、ゼロ卿。僕達は北京の事を何も知らないという事だよ」
「どういう事かな、アルフレッド先生?」
「チャンさんがいないと、北京に入ってから何もできなくなってしまうんだ。僕の専門は考古学で、現在の中国については余り知識がないからね。・・・ほら、地元のガイドがいないと困るっていう、あれだよ」
 いかにも尤もらしい事をアルフレッドが言う。演技か本音か、いつになくアルフレッドの態度が堂々としていた。
 それが幸いしたのか、ゼロ卿も真顔になって顎に手をやり眉をひそめて考え込む。
「うーん、しかしこいつは・・・」
「それに、ゼロ卿」
「まだあるのか」
「チャンさんでなければわからない短剣の秘密も、きっとあると思うよ。・・・わかったろう? 僕達には、彼が必要なんだ」
「しかし・・・」
 ゼロ卿が、尚も低く唸る。
「チャンさんを返してくれ」
「・・・止むを得ん」
 ゼロ卿が、スリムにチャンを解放するよう命令する。
 アルフレッドがモンタナにほくそ笑んだ時、ゼロ卿もまたスリムに一言耳打ちをした。
 縄を解いたところで、ゼロ卿がチャンを乱暴に突き飛ばす。
 よろけて転ぶ青年を、モンタナが急ぎ助け起こす。そのモンタナの耳に、突如女の悲鳴が届いた。
「お前じゃないんだよ」とアルフレッドを突き放し、スリムがメリッサを連れ去り縄をかける。
「ゼロ卿! 貴様って奴は、どこまで汚ねぇんだ!」
 モンタナはスリムに掴みかかろうとしたが、スラムの銃でぐうの音も出せなくなった。銃が相手では、分が悪過ぎる。
「メリッサ・・・」
「モンタナ・・・」
 見つめ合う2人の視界で、飾りのついたステッキが揺れる。
「それでは、アルフレッド先生。お望み通り、チャンをお返ししよう。但し、その代わりにこちらではお嬢さんを預からせてもらう。明日の朝、お宝と交換してくれるまでな」
「・・・てめぇ、ゼロ卿・・・!」
 モンタナが肩を震わせ、声を荒げた。ゼロ卿を睨み据えたが、厚顔無恥な悪党には視線の槍など武器にはならない。
 ゼロ卿はさも得意げに、自慢のちょび髭を弄んでいる。
「スリム、スラム、宝探しは我々のボランティアがしてくれる事になった。食事に戻るぞ!」
「ボランティアだと! てめェの!?」
 我慢も限界に達し腕を振り上げたモンタナを、アルフレッドが後ろからしがみついて止める。
「抑えて・・・、モンタナ、メリッサが危なくなるよ」
「くぅっ」
 歯がみをし、やがてモンタナは項垂れた。
「じゃあね、バイバーイ!」
 スリムとスラムが意地悪く手を振りながら、メカ・ローバーの中へと消えて行く。
 スリムの体に隠れ、メリッサの姿はすぐに見えなくなってしまった。
「ギルトの弟子共! 明日の朝、もう一度ここに来い! 勿論、財宝を持参でな!」
 メカ・ローバーのハッチが閉まってから、マイクの声がしつこく念押しをする。
「へーい、わかったよ。泥棒大将」
 モンタナの返事で納得がいったのか、鉄の球が動き出し、パンダ型と称するメカ・ローバーが弧を描きつつ方向転換を始めた。
 チャンとアルフレッドを庇うモンタナの前を、ごろごろと大きな2つの鉄球が転がってゆく。トラックのような真っ赤なパンダが尻を向け、再び砂煙を巻き上げる。と、軽快な玉捌きで視界から遠去かってしまった。
 すさまじい土の礫に、3人が思わず顔を覆う。
 嫌がらせのつもりなのであろう。メカ・ローバーが、わざと土くれがぶつかるよう尻を向けているのに違いない。
 玉乗りパンダの姿は、曇天も手伝ってすぐに判別がつかなくなった。先程見たあの後ろ姿が殊更浮かれ弾んでいるようで、思い出すだに腹が立つ。
 モンタナは特大のくしゃみをし、鼻をすすった。後ろにいる2人の分も砂を浴びてしまったので、鼻や口の中にまで土と砂が入り込んでいる。
「えーい、畜生!」
「大丈夫ですか、モンタナさん」
「鼻がムズムズすらぁ。でも、大した事ぁない。・・・俺の事より、チャンさんこそ」
 チャンは首を横に振って、軽く腕をさする。
 おそらくは、縄の当たっていた場所なのであろう。メリッサの身を案じているので、自分の事は口にしない。チャンとは、そういう男である。
「私がいけないんです。このような事件に巻き込んだ上、メリッサさんを私の代わりに・・・」
 眉をひそめる青年に、モンタナは優しく指を振った。
「チャンさんがいけない訳じゃねぇのさ。あの泥棒野郎を、まともに考えちゃいけねぇ」
「これからどうするの、モンタナ?」
 アルフレッドが、縋る眼差しで近づいてくる。困惑ぎみのその顔には、何を一番心配しているかがはっきりと書いてあった。
「やるっきゃないだろう、宝探しをよ」
「まずメリッサを助けなくっちゃね。・・・でも悔しいよ、モンタナ。メリッサの為とはいえ、ゼロ卿に折角の財宝を渡さなくちゃいけないなんて・・・」
「俺だってそうさ。だから考えようぜ、メリッサを助け出せて、財宝も渡さずに済む方法をよ」
 モンタナは、力づけるつもりでアルフレッドの肩を叩く。
「私も謎解きを手伝いましょう。北京の案内も任せて下さい」
 チャンがモンタナの手を取り、潔い笑いを浮かべた。
「チャンさん・・・」
 アルフレッドも、チャンの手の上に自分の手を重ねる。
 メリッサの為に、チャンは財宝を諦めようとしているのかもしれない。アルフレッドには、そんな気がし胸が熱くなった。
 あのゼロ卿の思う通りに、事を運ばせてなるものか。一泡吹かせてやりたいという気持ちは、一つだった。
「アルフレッド、まずはいつもの謎解きだ」
「うん、そうだね」
「…雨が降り出しそうだな。急いで戻ろう」
 アルフレッドとチャンの背中を押しながら、モンタナはケティ号のいる湖のほとりにUターンを始めた。
 アルフレッドの手には、龍の短剣が光っている。
 東洋では、龍は水を司る神とされていると言う。アルフレッドが短剣を懐におさめた頃、ぽつりぽつりと堪えきれなくなった雨の滴が地上にしたたり落ちてきた。

mo5
冒険航空会社モンタナ(モンタナ・ジョーンズ)同人小説
「 故宮の東・西太后の財宝を追え! 」
第5章  囚われたチャン

 客室にメリッサが、そして操縦席に男3人が無理矢理詰まって朝を迎えた。
 操縦席で足を投げ出し寝ていたので、腰と背中がやたら痛い。モンタナはキャノピーから外を眺め、辺り一帯の景色に思わず感嘆の口笛を吹いた。
 水を満々とたたえた広大な湖を想像していたのだが、周囲に広がるのは畑、そしてケティ号が着水した湖だった。
 人家がないのは、単なる幸運だったようだ。湖といっても、視界一杯に広がる程のものではなく、湖の向こうに描かれた太い地平線が湖と空を分けている。大きく見積もっても、さし渡し2・3キロというところだろう。
 天候が今ひとつな為、湖も空も鉛色で、地平線がなければ両者の境界線は見定める事が難しいかもしれない。
 秋の収穫は終わったのか、田畑には実りをつけた作物がほとんど残っていなかった。来たるべき冬に備え、人間と同様大地も準備に怠りないといったところのようだ。
 しかし、勘を頼りに着水した湖は、夜目で見るよりも遥かに狭く感じられた。目測を誤れば、取り返しのつかない事になっていた可能性もある。夜間の離着陸が如何に恐ろしいかを、モンタナはあらためて思い出した。
 副操縦席ではアルフレッドが、髭をひくつかせながら眠りについている。夕べは謎解きに夢中になって、モンタナがランタンを取り上げるまで、なめし皮の鞘にかかりきりだった。その後も目がさえていたのか、アルフレッドの眠りは若干浅そうだ。
 アルフレッドの後ろ、蓄音機の横に据えつけたシートでは、スーツの上着を毛布代わりにチャンが寝息を立てている。冒険慣れしていないか細い印象の青年だが、気持ちに焦りもあるのだろう。モンタナの組む強行スケジュールにも、不平一つ言いはしない。
 チャンとモンタナ、本来は接触する事もないであろう、全く別の生きざまを選んだ男だった。
 モンタナは、平凡な生活に埋没してしまう毎日をよしとしない男である。血沸き肉踊る冒険、胸たぎらせる危機感との同居なくして、何を楽しいと言うのだろう。
 アルフレッドも愚痴を零すが、専門家としての好奇心にはいつも忠実に行動している。メリッサは、退屈嫌いな点を思うと、アルフレッドよりはむしろモンタナに近い価値観を持っていた。
 勿論、冒険を終えてボストンに帰るという時の、あの2人の喜色を前にするとモンタナは理解に苦しんでしまう。2人は、優雅なものとは無縁のモンタナを「本当の贅沢を知らない」と言いきってはばからないが、モンタナはむしろ、贅沢というものを必要としていなかった。
 愛機ケティ号との、生死を賭けた冒険。前人未到なるものに挑戦し、悪党共を打ち払い、目的を達し満足感を得る。これ以上の贅沢など、モンタナにとっては紙一枚程の価値もない。
 他人の理解などはいらなかった。が、他人を巻き込むのはかなり好きな方だった。旅も冒険も、道連れがいないと面白さが半減してしまうと、モンタナは思っている。
 愛機ケティは、今日はここに残してゆく。些か心残りがなきにしもあらずだが、今日の北京行きを思うと既に高揚感で背筋に走るものがあった。
 アルフレッドのあの様子では、鳳凰の短剣の謎解きもそう遠い話ではなさそうだ。ならばこそ、そろそろゼロ卿から、盗まれた龍の短剣を取り戻す事を考えなくてはならない。
 こちらが鳳凰の短剣を持っている事を、奴等は既に掴んでいる。短剣欲しさに、ゼロ卿ならきっと向こうから現れるだろう。モンタナはそう読んでいた。
 一晩ですっかり固くなってしまった体をほぐしたくて、モンタナは操縦席横で柔軟体操を始める。冒険者にしては少々細身の印象がある腰が、柔軟の動きにみしりとついてゆく。
「っつぅ、痛ぇ・・・」
 操縦席の寝心地は、やはり最低だった。頭はすっかり冴えているものの、体の筋肉がまだ自由にならない。
 良心の呵責に耐えながら、モンタナはアルフレッドとチャンの耳元で朝が来た事を告げた。続いて、客室に続くドアを大きく叩き、メリッサにも起床を促す。
「おはよう、モンタナ・・・」
 半ば目が閉じた状態で、アルフレッドがむくりと起き出した。
「おはようさん、少し柔軟をした方がいいぞ。シートの形に体が固まってらァ」
「あ・・・」
 腰の痛みに、アルフレッドが尻の上に手を回す。
 チャンも目をぱちぱちしばたかせながら、ゆっくりと立ち上がった。
「チャンさんもやりませんか、柔軟?」
 モンタナは、腕を真上に上げ上体を右に左にと規則正しく捻る。
「私も」と言いかけたチャンだったが、3人もの男が起き出すと、操縦室はいきなり手狭になった。
「こりゃ、お嬢サマに早いとこ起きていただかないとな」
 モンタナは再び、客室へのドアを幾度も叩く。
「メリッサ、メリッサ! 朝が来てるぜ! 起きて下さいよ、メリッサお嬢サマ!」
 今度は、向こうからドアを叩き応えてきた。
「もう起きてますってば! ドンドンとしつこいわよ!」
 メリッサの声は、余り機嫌のよさそうな感じではなかった。
「起きてるなら、開けていいか? 外の空気を吸いに出ようぜ」
 モンタナの呼びかけに対し、ドアは向こうから開いた。
「そこじゃ狭いんでしょ。・・・いいわ、外に出ましょう。おいしい朝の空気を沢山吸って、食事にしませんこと?」
 ドアの端を支え、メリッサがにこやかに微笑んでいた。サファリ・ルックはそのままだが、どうやらメイクはし直したらしい。勿論、そうでなければメリッサは自分からドアを開けてはくれなかったろう。
「賛成! スパゲッティは僕に任せて!」
 モンタナの後ろで、アルフレッドがスパゲッティ入りの鞄を持ち上げる。
「少し体を動かさないと、頭が目を覚まさないからね」
「それじゃあ、簡易コンロだけ仕込んどいてやるぜ」
「ありがと、モンタナ」
 モンタナは、チャンとメリッサを伴い、夕べしまった簡易コンロと鍋をもう一度持ち出した。鍋に水を張り、火にかけておく。
 アルフレッドがスパゲッティを茹でている間、モンタナは彼に代わりなめし皮の鞘を検分する。
「ん?」
 見間違いかと疑い、更に目を凝らしてみる。夕べはわからなかったが、こうして日に晒すと尚の事判別しやすくなる。
「やっぱりな…」
 これが、何故夕べのうちに発見できなかった理由は簡単だ。明りとして頼りにしていたランタンが、赤から黄色に近い光を放っていたからだ。
 青いネオンの下では、青い色は発光しない。それと同じ原理で、ランタンの光がこの線を夜目に浮き上がせる事ができなかったのだろう。
 しかし、黄色というより白光に近い日光の下では、夕べ見えなかったものも白日の下に晒し出す。
 鞘には、夕べ発見した色の濃い染料で描かれた直線の他、黄色の塗料で描かれたものが別にあった。やはり不規則な直線の組み合わせで、小さな鞘一杯に線が走っている。
 モンタナは急ぎその鞘を、他の3人に回して見せた。
「凄いよ、モンタナ!」
「私も夕べは気づきませんでした!」
 アルフレッドとチャンが、一緒になってぴょんぴょんと飛んだ。軽く弾む程度のチャンとは対照的に、アルフレッドのステップには飛び出た腹の上下動がついて回る。
 鞘を囲み、4人の気持ちは最早一つだ。
「そのなめし皮の鞘を開いてみましょう」
 メリッサが自ら名乗り出て、裁縫用の小さな鋏を使い、なめし皮の縫い目部分を丁寧にほどき始めた。皮を縫いつけている太い糸だけに、なかなかしつけを解くような訳にはいかない。
 メリッサも我慢をしていたのだが、その指先には段々と赤い血流が浮き上がってきた。端正な顔がふと歪み、痛々しい指先が次第に休憩を望むようになる。
「私が代わりましょう、メリッサさん」
 見ていられなくなったのか、チャンがメリッサから鞘と鋏をそっと取り上げた。
 はぁと息を吐き、メリッサが片方づつ指先を反対側の手で包み込む。
「きれいな縫い物にも色々あるのね。いい勉強になったわ」
「・・・できましたよ」
 チャンが、二つ折りになっていたなめし皮をそっと広げた。
「ああっ!」
「これは!」
 モンタナやアルフレッドのみならず、指先に気をとられていたメリッサも、我を忘れてなめし皮に釘づけとなる。
「何てこった! こりゃ地図じゃねぇのか!?」
 モンタナの独り言に、口を挟む者は誰もいない。モンタナの判断も至極もっともなものだった。
 黒い塗料で描かれた模様は、ほぼ左右対称な図面を構成している。小さな長方形は、皆横長に配置され、更にもう一回り大きな四角形に囲まれていた。それらは必ず四面を成す直線のどこか一部が欠けており、そこが門であると考えると都合がよい。ならば、小さな長方形は、建物一つと考えるのが妥当だった。
「これが故宮の地図って奴か!」
 しかしその地図は、完璧ではない。上半分か下半分か、とにかく外周を成す直線は、なめし皮の断面で絶たれている。
 アルフレッドが、しょぼくれた。
「でも、半分だけだよ。もう半分は・・・」
「あのゼロ卿が持っている」
 憤懣やるかたない思いで、モンタナは砂を蹴った。
「黒い線が地図なら、この黄色い図面の方は何かしら?」
 白い指で線を辿り、メリッサがアルフレッドをつと見上げる。
「・・・ちゃんと写し取らないとわからないけど、ほら、この四角の中の区切り方、壁で仕切って道具を置いて・・・部屋の見取り図にも見えないかな」
「なーるほど!」
 モンタナは、ぽんと右手の拳を左手に打ちつけた。
「その黄色い図面は、その黒い地図にある建物のどれかを拡大したものなんだな! な、そうだろ、アルフレッド!」
「おそらくはね」
「こうなったら、こっちから乗り込んででもゼロ卿の居所をつきとめねぇとな」
 血気にはやるモンタナは、腰に手をやり毅然と言い放つ。
「ゼロ卿は、もうこの謎に気付いているのかしら?」
 悪党共の行動が気掛かりで、メリッサの表情も冴えない。
「あいつらの事だ、その心配はないと俺は見てる。ただこっちも、奴等が持っている龍の短剣がないと地図が完成できねぇ。そろそろ向こうさんから御登場いただかねぇとな」
 彼女の問いに、モンタナは独り言のように呟いた。
「北京で待ち伏せてるって事はないかな?」
 眼鏡越しに地図を調べながら、アルフレッドが真顔になる。
「その可能性もないとは言えないが・・・」
 モンタナは急におし黙った。メリッサが額に手をやり、アルフレッドもフォローをしない。
「えへへ、腹の虫が鳴っちまった。・・・まずは朝飯にしよう。これからの事は、その後だ」
 殊更明るくモンタナは、食事を宣言した。話が途中で断ち切れてしまった事にはほとんど触れず、他の3人をメリッサが手掛けた俄か作りの食卓へ招く。
 湖のほとりで取る朝食。赴きはあったものの、冷めかけたスパゲッティにはチーズがなかなか絡まなかった。4人は今一つ物足りない食事を終え、物足らない溜め息を吐く。
「コーヒーでも作りましょうか」と立ち上がったメリッサに、水の不足が追い討ちをかける。タンクには、水が4分の1程も残っていなかった。このような事は珍しい。
 口直しができないとなると、食卓には途端に気まずい沈黙の帳が降りる。
「このままじゃ、水筒に入れたらお終いよ」
「残念、コーヒーはお預けか・・・」
 アルフレッドが、一際情けない声を発した。食事に対するこだわりは、メリッサとアルフレッドが秀でている。コーヒー1杯が食後に用意できないだけで、アルフレッドはこの世が終わるかのような嘆きをする。
「それでは、私が水を貰ってきましょう」
 すっと立ち上がったのは、チャンだった。
「俺も行こう、チャンさん」
 モンタナは立ち上がって、ウィンクをする。
「いえ、私1人の方が目立たないかと。私は中国人ですから、近くの農家も不審には思わない筈です」
「うーん・・・」
「水を分けてもらって、それと思うところから古着も調達してみましょう。北京に夜着くように行動しても、目立ってしまうのは危険ですからね」
「それも一理あるけどな・・・」
「どうする、モンタナ?」
 チャンを1人で行かせるのは忍びなく、アルフレッドも言葉に詰まる。
 しかし、チャンは大丈夫だとの豪語を繰り返すのみだった。
 双方譲らない議論では、埒があかない。やむを得ず、モンタナは搬送用のタンクをチャンに預け、ゼロ卿一味が近くにいるかもしれないと注意を促して送り出した。
 右手にタンク、左のポケットには心ばかりの中国貨幣を持ち、チャンが畑の畦道に割って入る。
「いい人ね・・・」
 メリッサが呟いた。
「だから、心配なんだけどな」
 チャンの後ろ姿はとぼとぼと心細げで、どう納得させようとしても不安に苛まれてしまう。畑の畦道を通る人影は、湖のほとりを離れ曇天の中に消えていった。


 チャンが後ろを顧みると、モンタナのケティ号は鉛色の湖で翼を休めていた。木が縦横無尽に生い茂っている森林地帯とは訳が違うので、ケティの機体は隠しようもない。が、近くに人家がないのが、せめてもの幸いだった。
 畦に残る家畜の足跡を頼りに、人家のありそうな方向へと歩いてゆく。人家が近くなってくれば、直に家畜の声がしてくるだろう。農家の人々は早起きだが、それ以上の早起きは農作業を手伝う家畜達だ。
 のどかな畑の景色を満喫しているチャンが、視界の隅で動くものを捕らえ身を固くした。
 慌てて後ろに気を遣うが、ケティの機影は既に随分と小さくなり、鈍く光を反射する水面と一体化している。
 チャンが空を天を仰ぎ、ふと雨を請うた。しとどに雨が降りしきれば、畑は一日無人になる。ケティが人目に触れ、発見される確立が下がろうというものだ。
 チャンの見た影が、また動いた。
 1、2、やはり畦道を歩いている。それもこちらへ来るようだ。
 中国人ではあるものの、チャンとてこの地域の人間ではない。不信感を取り除くべく、チャンが自分から声をかけた。
 50メートル程先にいる人影らしいものが、立ち止まる。チャンが、もう一度朝の挨拶をした。
 2人がぴょこんと飛び上がり、途端にチャンの方へと駆けてくる。余り友好的な雰囲気ではないかもと、チャンは右手のタンクの持ち手を固く握り締める。
 1人はひょろりとした背の高い男、そしてもう1人は背が高い上にどっしりとした体躯の男。2人はチャンに詰め寄ると、顔を見合わせてから指を突きつけてきた。
「チャン・チョンペイ!」
「はい、そうですが・・・」
 返事をしてから、もしやまずかったかもと、チャンが後悔の臍を噛む。
「スラム、すごいね! 食べ物探しに来て、チャンを見つけちゃったよ!」
「こりゃあ、ボスに特別ボーナス位は貰わねぇとな」
 笑み満面のスリムと目をぎらつかせているスラムが、ほとんど同時にチャンへ飛びかかってきた。
 チャンは慌てて、右手のタンクでスラムの顔面を力任せに横へと払う。
 よけるという事を知らないのか、スラムはチャンが思い描いた恰好で、頭から畦道にめり込んだ。
 が、巨漢のスリムはスラムを相手にするようにはいかない。返す刃のタンクで頭部を狙うが、逆に後ろから腰に抱き着かれた。
「うわっ!」
 突如、腰に重りが巻きついて、足に力が入らなくなる。膝が砕ける恰好で、チャンは地面に引き摺り下ろされる。
「スラムぅ! オイラ、チャンを掴まえたよ!」
 スリムが体重をかけ、砂煙を飲み込んでしまったチャンの肩を畦道に押しつけた。
「っつぅ・・・。痛ぇなあ、もう・・・」
 服についた埃を払いながら、兄貴分のスラムが背を伸ばす。
 チャンは声を荒げた。
「さてはお前達は、ボストンにいた悪党共だな!」
「当たりィ!」と、スラムがチャンの前に膝を突く。
「ボスが探しているんだ。一緒に来てもらうぜ」
 不愉快そうに、チャンが横を向いた。
「短剣なら、もう私は持っていないぞ。信頼のおける人達に預けてあるのさ。悪だくみなど諦めて、さっさとアメリカへ帰れ!」
「やなこった」
 白い歯を見せ、スラムが一蹴する。
 スリムが若者の腕を捩じ上げ、無理矢理立たせた。縄をかけると、スラムが落ちていたタンクを勢いよく蹴り上げる。
「ま、言いたい事があるのなら、ボスに直接言うんだな。・・・行くぞ、スリム」
「合点だよ、スラム」
 大柄なスリムが後ろからチャンを小突くと、チャンも歩かない訳にはいかず、渋々スラムの後に従う。一向はスラムを先頭に、湖を背に畑の畦道を歩いて進んだ。
 チャンの後ろで、ケティ号が更に遠くなってゆく。人知れず、チャンが無念の唇を噛んだ。
 歩いていると、何を思ったのか、スリムが鼻をひくつかせながら呟く。
「オイラ、おなかが空いてるからわかるんだ。・・・今朝食べたの、スパゲッティでしょ」
 思いもかけぬとぼけた台詞に、チャンが目を丸くした。
 何と緊張感のない悪党であろう。このような連中に振り回されている自分が情けなくもあり、チャンはモンタナ達にも深い同情を覚えた。
 雲は厚みを増し、相当な水分を蓄え満天にあった。或いは、本当に雨が降り出すかもしれない。
 チャンが空気中に含まれる湿り気を敏感に感じ取り、一かけらの希望を空に託す。
 せめて、天候くらいはモンタナ達の味方であるように。スラムの背中を眺めつつ、チャンはそう祈らずにはいられなかった。

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冒険航空会社モンタナ(モンタナ・ジョーンズ)同人小説
「 故宮の東・西太后の財宝を追え! 」
第4章  短剣の謎

 息せききって走って来たスラムが、スリムを路地裏に引き摺り込み殊の外どやしつけた。
「何で、ボーッと見送っちまうんだよ!」
「えー? だって・・・」
 のんびりとしたスリムの返答は、要領を得ない。スリムの前でスラムがばりばりと頭を掻いた。
「だーっ! 全く、しょーがねぇな!」
 2人は再び別れ、スリムが裏通りに隠れ通信機を取り出している間に、スラムは自動車をちょろまかしに行く。
 気がすまないものの報告を怠る訳にもいかず、スリムは無線機で作戦が失敗した旨をゼロ卿に知らせる。
「この大馬鹿者めが!」
 無線機がわめいた第一声は、スリムが予想した通りの罵声だった。
「チャンという男は、ギルトの弟子共と合流したというのか!?」
「そうだよ、ボス」
 無線機がしばし沈黙した。
「それで奴等は何処に行った?」
「うーんとね、ちょっとわからない。車で逃げちゃったよ」
「車だと? 後を追わなかったのか!?」
「だって、モンタナがクラクションを・・・」
「だっても、あさってもない! 全くお前らは話にならん!」
「ごめんなさい。・・・どうします、ボス?」
 無線機から、低く呟く男の声がする。
「奴等、一体何処へ行くというのだ。いや・・・おそらく、目的地は中国の筈だ。それしか考えられん。鳳凰の短剣一つを持って、北京に先回りしようというのか」
「ボス?」
「すぐに帰って来い。最早ボストンに用はないのだ」
「はーい!」
 スイッチを切ってから、スリムが大きな溜め息を吐いた。怒られるのには慣れてしまったが、あの怒鳴り声を聞くと憂欝な気分になってしまう。首尾よく任された仕事がこなせればそもそも怒られやしないのだろうが、それができれば苦労はしない。
 大通りから、クラクションの音がする。短く1回、2回、そして長く3回目。
「あ、スラムだ」
 耳を押さえながら、スリムは盗難車両の助手席に大きな体を押し込んだ。
 バックミラーに警察官が映っている。舌打ちをし、スラムが車のアクセルを踏んだ。
 通行人と警官が、たちまち視界から消えた。スラムの運転はかなり荒っぽい。タイヤが軋む音を響かせながら、車はブロックの角という角を猛烈なスピードで擦り抜けてゆく。
「スリム、ボスは何て言ってた?」
 前方を注意しながら、スラムが尋ねる。
 暴走車を避けようと、2人連れの男女が路上で転倒するのがミラーに映った。スラムが口の端で笑う。
「ボスってば、すっごく怒ってたよ」
「やっぱりな」
「それから、すぐに戻ってこいって」
「また、こき使うつもりなんだろ。ボスは人使いが荒いからな」
「ねえねえ、スラムぅ」
「何だよ」
「オイラにも、それ、やらせて」
 スラムが止める間もあらばこそ、スリムがクラクションに手を伸ばしてきた。
 最初は短く鳴らすだけだったが、やがて面白くなって、かけた手を離さなくしてしまう。
 2人の乗った盗難車は、サイレンのようにクラクションを鳴らしながらボストンの町を走り、人々の注目を浴びた。
「やかましいんだよ、スリム!」
「モンタナの真似」
「真似なんかしなくっていいんだ!」
「奴等、頭がいいよね。こうやってプップーって鳴らしながら逃げて行ったんだよ。オイラなんか、耳が痛くて動けなかったんだから」
「俺も耳が痛くて仕方がねぇよ!」
 スラムが、無理矢理スリムの左手をクラクションからもぎ取った。
「ああ、まだ耳鳴りがすらぁ」
「ごめんね、スラム」
 警察の追跡を振り切り、2人は車を市郊外の空港付近で乗り捨てた。
 空港には、モンタナのケティ号よりも二回りは大きい双発の輸送機が、腹を開いて待機している。機体横には紋章らしいものが描かれ、個人所有の飛行機である事を物語っている。
 スラムとスリムは、その飛行機の腹に消えた。
「遅い、遅いぞ、2人共!」
 スラムとスリムは、同時に一歩退く。
 ステッキを持った中年の紳士が、白いマントを翻し2人をやぶ睨みした。取り出した懐中時計の蓋を閉め、優雅に懐へとしまう。
「何分待たせるのだ。すぐに戻って来いと言った筈だ」
 コツコツと神経質そうにステッキで客席の床を叩く。しかし、暖簾に腕押し、無駄な事に時間を費やすのが馬鹿らしくなり、紳士は「すぐ出発だ」と、スラムに操縦席を示した。
「行きますぜ、ボス!」
 ふんと、紳士は鼻を鳴らす。
 すらりとした長身に、黒い山高帽と白いマント、仕立てのよい上下のスーツは黒の上、コンビの靴という出で立ち。1930年代にあっても、紳士のこの服装はかなり古風なものだった。着こなしは悪くはないのだが、嫌味な程優雅な仕種をする。これでは、紳士の人を食ったキザな印象はぬぐいようもない。
 スリムとスラムは、彼をボスと呼んでいた。ゼロ卿と呼ぶ事を許されているのは、ゼロ卿お抱えの自称天才科学者ニトロ博士、一人である。
 機体腹のハッチを閉めると、輸送機はゆっくりと鈍重な動きを開始する。
 機が離陸をしてから、ゼロ卿は客席でニトロ博士を呼んだ。
「何用ですかな、ゼロ卿」
 白衣に袖を通した小太りの男が、髭をもじゃつかせて現れる。
「わかっている筈だ、ニトロ博士」
 ゼロ卿はいらいらと、ステッキの頭を初老の科学者の顔前に寄せた。
「龍の短剣を調べて、もう何日になる?」
「そうは言われましても、その・・・」
「何だ」
「ですから・・・」
 ニトロ博士が、持っていた黄金の短剣を鞘から抜いた。
 白刃の輝きは目を奪う程で、鍔には雲龍文様が繊細な細工で描かれている。龍の目には、青い宝石が埋め込まれ、怪しい輝きを放っていた。
「刀身には文字らしいものもなく、鍔には龍、鞘の彫り物も植物の模様が描かれているだけですじゃ。本当にこれが手掛かりなんですかの」
「間違いない。私の情報網を疑うというのか?」
「ここまで何も出ないとなると・・・」
 ニトロ博士が、蓄えた長い髭を揺らした。肩を竦めた途端、くたびれた白衣のポケットでドライバーが音を立てる。
「それにワシは科学者じゃ。謎解きなんぞ、ギルトの弟子共にでもやらせたらよかろうて」
 聞きたくもない口答えに、ゼロ卿の頭へさっと血が昇った。しかし、ステッキを握り直したところで、それも妙案と一人納得する。
「・・・それはいい手だ、ニトロ博士」
 ゼロ卿の手で、ステッキがパチンと鳴った。
「使い勝手のきかない科学者よりも、お節介な冒険者共に謎解きはしてもらおう。故宮で奴等が財宝を見つけ出した時がチャンスだ」
「使い勝手のきかない科学者だと? 科学者の苦労も知らないで・・・」
 ニトロ博士が、口の中でもごもごとゼロ卿への不平を唱える。
「何か言ったか、ニトロ博士?」
「いえ、何も・・・」
 両手を振り、ニトロ博士がお茶を濁した。
「さて、そうと決まれば、この龍の短剣を如何にしてギルトの弟子共に渡すかだが・・・、ただ渡すのでは芸がない」
 ゼロ卿は、自慢のちょび髭を一擦りした。
「・・・いい手を思いついたぞ」
 ひとりごちていたゼロ卿は、急に何を思いついたのか、立ち上がってマントを翻し操縦席に足を運んだ。
 残されたニトロ博士が「御苦労の一言も言えんのか」と、一人憤慨する。
「スラム」ゼロ卿は、操縦桿を握るスラムに低く呼びかけた。
「はい、何でしょうボス?」
「奴等のオンボロ飛行艇を探し出して、上陸前に頭を押さえろ。きっと奴等はいつもの東回りで、中国に向かっている筈だ」
「わっかりやした!」
 スラムが舌なめずりをし、さも楽しげに高度をとり始める。
「モンタナの野郎、思い知りやがれ・・・」
 呪詛を唱えるその様子に、スリムが「今日は楽ちんな方だよね」と感想を添えた。メカ・ローバーの動力係が頻繁なので、操縦室詰めは仕事が少なく居残りたい程体が嬉しい。
「スリム、手持ち無沙汰でいい身分だな・・・」
 ゼロ卿は、そんな呑気なスリムの背後に怪しい影を落とす。
「あ、あの・・・ボス・・・」
「お茶の支度だ、5分以内に!」
「は、はい! 只今!」
 虫の居所を察し、慌ててスリムが客席に逃げた。
「ったく、気のきかない奴だ。どいつもこいつも・・・」
 客席に睨みをきかせてから、ゼロ卿はステッキの先を手の平で受けパチンと鳴らす。
「お楽しみはこれからだ、ギルトの弟子共。北京に眠る西太后の財宝は、このゼロ卿が戴く。しっかりと働いてくれたまえ、このゼロ卿の為に・・・」
 輸送機はケティ号を探しながら、ロンドン他数か所を経由しつつ中国へと向かった。しかし、モンタナが今回北極海経由の進路を選んだなど、ゼロ卿が知る筈もない。
 一行は中国上空に入っても尚、ケティの影さえ捕らえる事ができなかった。


 ケティ号が湖の端に着水したのは、現地時間で真夜中だった。人目につく事を恐れたモンタナが到着時間を逆算し千歳を出たのが、幸いしている。
 周りを見渡しても、人家の明りはひとつもない。湖は静かで、ケティの揺れはほとんどなかった。
 ここから北京までは、ほぼ20キロ。舗装もされていない陸路を、これからひたすら移動しなければならなくなる。
「これ以上飛行機で行く事はできません」
 申し訳なさそうに、チャンが頭を垂れた。
「見つかれば、逮捕か」
「はい。今、反米意識がとても強いので、万一逮捕される事にでもなれば、もう帰国は難しいかと…」
「うひょーっ! そいつぁ、おっかねぇな」
 エンジンを止め、モンタナは客席に向かう。後ろから、アルフレッドとチャンが続いた。
「これから歩きづめなら、今のうちに腹ごしらえといこうじゃないの」
 モンタナはスパゲッティ用の鍋を用意し、ケティの外へ持ち出した。桟橋がないので、ブーツぎりぎりまで足が水に漬かる。
「これじゃあメリッサは、外に出るのが大変だ」
「えーっ!」と不平顔のメリッサを、モンタナは抱えて岸まで連れてゆく。
 アルフレッドがいつもの鞄から乾燥スパゲッティを出すと、モンタナは湖のほとりに石を集める。石で作ったリングの中央に簡易コンロを据え付け、愛用のライターで火を入れた。こうしておけば、風に火が煽られる心配がない。
 火番をアルフレッドに任せ、モンタナはチャンとランタンの明りを頼りに短剣の吟味にかかった。
「今まで1・2回、調べる機会はあったのですが、私の目では何も発見できませんでした」
「どれどれ・・・」
 モンタナは、鳳凰の短剣を鞘から抜いてみた。刃の先に、ランタンの明りが鋭く映える。
「文字らしいものは、何処にもないな」
「はい」
 刀身の調査を諦め、モンタナは次に鞘を逆さにして振ってみる。
「やっぱ、何も出てこないか・・・」
「それ、私に貸してくれない?」
 モンタナが顔を上げると、綺麗に整えられたテーブルを背景に、メリッサがこちらを観察していた。
「いいけど、ホレ!」
 モンタナはメリッサに鞘を差し出す。
「待って、今そっちに行くから」
 メリッサはハイヒールで、でこぼこの地面をこちらに歩く。が、おぼつかない足取りに、モンタナがひやりとするものを覚える。
「俺の方から」と立ち上がった直後、悲鳴と共にメリッサの体勢が思いきり崩れた。
 前のめりになったメリッサが、モンタナに向かって倒れ込んでくる。咄嗟にメリッサを抱き止めようとし、大きく両手を広げたが、上手くいかなかった。
 メリッサはモンタナの右手にぶつかってくる。鞘が弾き飛ばされ、黄金の弧を描いて宙に舞う。
「メリッサ!」
 慌ててモンタナは胸に飛び込んできたメリッサを抱き起こしたものの、彼女のスカートはすっかり砂にまみれていた。
「ああん、もうっ!」
「着替えるしかねぇよな、そこまで汚れちゃ」
 ぱたぱたと服を叩くメリッサを横目に、モンタナは闇夜に解けた黄金の鞘を探し始める。
「着替えなんて・・・」と言いかけ、メリッサがケティ号に走って戻った。
 モンチナはひとりごちる。「ありますよぉ、君のサファリ・ルックなら。洗濯屋から戻ってきた状態で、積んであるってば」
 ランタンを掲げながら、モンタナは前進する。と、ランタンの光を弾く物体を砂の間に見出だした。
「あったぜ!」
 モンタナは丁寧に砂を払い、黄金の鞘とランタンを手にチャンの隣へ座り直す。
「済まないな、チャンさん。ちょっと汚れちまったかもしれない」
 チャンが鞘を受け取ると、チャンのみならずモンタナも驚いた。
「チャンさん、これ!」
「ええ!!」
 モンタナは、ランタンの明りにもう一度鞘を翳してみた。
 鞘は、刀の鍔とぶつかる部分の金具が外れ、下にあるなめし皮の部分が少しばかり、表面を飾る黄金の装飾部分から顔を覗かせている。ちょうど缶の中に敷きつめた防湿用の袋が缶の口からはみ出すように、二重になった鞘が、外側・内側と別々になりかけた状態で、モンタナの手の上にあった。
「チャンさん、なめし皮の表面に・・・」
 チャンがモンタナに向かって、力強く頷く。モンタナは、慎重な手つきで、なめし皮だけそっと引っ張り出してみた。
 袋状になったなめし皮の鞘に、ごちゃごちゃと何本もの線が描かれている。
「アルフレッド! アルフレッド! ちょっと来てくれ!」
 火番のアルフレッドが鍋を揺する。
「スパゲッティができたばかりだよ!」
「そいつぁ後だ! 早く!」
「もしかして・・・何か見つけたんだね!」
 火の消えた簡易コンロに鍋を戻し、アルフレッドが走り寄る。
「僕にも見せてよ」
 アルフレッドが、ポケットから愛用の眼鏡を取り出した。
「ほら、これだ。なめし皮の表面に直線が沢山描かれている。こいつぁ装飾とは関係ねぇぞ。何かのしるしの可能性大だ」
「成程・・・」
 アルフレッドが、なめし皮の鞘をそっと受取り眼鏡越しに吟味する。
「確かに・・・今までは、これを覆っていた黄金細工の紋様で、なめし皮にまで気が回らなかった。もしかしたら・・・或いはこの模様こそが宝の手掛かりかもしれない」
「だろぉ!」
 発見者然として、モンタナはとても得意げだった。
「この模様を書き写してみる事にするよ。何かわかるかもしれない」
 すっかり乗り気になったアルフレッドが、さっそく手帳にメモを始めようとする。
「おいおい! スパゲッティが茹で上がったんだろう? まずは食事にしようぜ。これから俺達は、20キロもの道程を歩いて北京まで行くんだぞ」
「あっそうか・・・」
 モンタナは、後ろからアルフレッドとチャンの肩を押した。
「まずは腹ごしらえ、腹ごしらえ。なっ! チャンさんも、アルフレッド自慢のスパゲッティをどうぞ!」
 アルフレッドとチャンが半ば強引に、メリッサの用意したテーブルへと招かれる。
 まだ湯気の昇るスパゲッティを分けるのは、アルフレッド。汚れた服とハイヒールを脱いだメリッサもサファリ・ルックで食事に加わり、一同は暖かいイタリア料理に舌鼓を打ち、その夜もふけた。

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