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mo7
険航空会社モンタナ(モンタナ・ジョーンズ)同人小説
「 故宮の東・西太后の財宝を追え! 」
第7章  2つの短剣

 雨足が強くなる頃、3人はケティ号に辿り着いた。まずは濡れた体を暖める為に、雨を吸った上着を脱いで毛布を羽織る。その間にアルフレッドが簡易コンロで残りの水を沸かし湯を作った。
 3人で簡易コンロを囲んで、なけなしの暖を取る。ストーブのようにはいかなかったが、秋半ばの降雨は思った以上に体を冷やす。コンロの火を見ているだけで、3人は安堵感を覚えていた。
 操縦室にいると、キャノピーを叩く本降りの雨を目の当たりにする事になる。3人は居場所を客室に選んだ。
 空模様が空模様なだけに、客室の暗さは夜にも似ていた。昼だというのに、窓から陽光が差し込む事はない。
 簡易コンロの火だけでは心もとないので、ランタンを灯し、3人はコーヒーカップを呆然と眺めていた。
「何て最低なんだ、今日は。モンタナ、見てよ。コーヒー豆もきらしてる」
 底にサラサラと音を立てる缶を回し、アルフレッドがぼそりと呟く。
「湯は少ないっていっても、それじゃあちぃと足りな過ぎるな。・・・っくそう、あの曲芸熊もどきめ」
 前髪についた泥を取りながら、モンタナはコーヒーではなく風呂の事を考えていた。
「あ・・・あのう・・・」
 自分のバッグを手探りし、チャンが小さな紙の包みを差し出してくる。
 アルフレッドが包みを開いた。紙の上で、香りを昇らせ転がる小さなものがある。乾燥した手触りに、アルフレッドが破顔した。
「これは、中国茶の葉ですね!」
「お嫌いでなかったら、使って下さい。紅茶のようにはいきませんが、甘くして飲む事もできます」
「ありがとう! それじゃあ遠慮なく使わせていただきます」
 アルフレッドがティポットを用意し、その中にチャンから分けてもらった茶の葉を入れた。乾燥した軽い音が、ポットの中から聞こえてくる。
「飲むかい、モンタナも?」
「当ったりめぇだろ、白湯がお茶になるんだ。早いとこ体を暖めて、一息つこうぜ」
「ああ」
 ティ・ポットにできたばかりの湯を注ぎ、アルフレッドがカップに分けた。湯気と共に立ち昇る香ばしい匂いに、誰からともなく溜め息が漏れる。
 3人が3人、それぞれにカップを両手で包み込んだ。中身は、カップに半分ばかり。それでも、体の中に温もりがたまってゆく一瞬が、誰にとっても快感この上ない。
「もう2・3杯は飲みてぇ気分だな」
 真っ先にカップを空けたのは、モンタナであった。
 土や砂が水を吸ったばかりに、まだ体から泥の臭いが上がってくる。しかし、風呂はないのだから諦めるしかない。中国茶の湯気を見てから、モンタナは風呂の事を忘れる事にした。
 モンタナの持論によると、きれい好きでは冒険家はつとまらないのである。
「急かしたくはないんだが、そろそろ短剣の謎解きの事を考えようぜ」
 モンタナは、アルフレッドに龍の短剣を出すよう手で催促した。
「昼過ぎには、動き出すのかい?」
 懐を探りながら、アルフレッドが真顔になった。
「ああ、明日の朝までしか時間がねぇんだ。夜になってから北京に移動するんじゃ、明日の朝までには戻ってこれねぇんでな」
「そうだね」
 黄色い布で無造作に包まれたそれを、アルフレッドがモンタナに手渡す。
 茶を飲み干すのを止め、チャンがまんじりともせずにモンタナの方へと身を乗り出した。
 長い時間をかけた探し物を見るチャンの目は揺れている。モンタナは、チャンに龍の短剣を差し出した。
「これは本来、あんたのものだ。自分の手で、例の地図を調べてみねぇか?」
 モンタナは意味深長なウィンクをする。チャンが喜々として、短剣を受け取った。
「ありがとうございます、モンタナさん」
 モンタナとアルフレッドが息をつめて見守る中、チャンがすらりと短剣を抜き、鞘からなめし皮の部分だけをそっと取り外した。
 なめし皮には、やはり濃い塗料の跡がある。これだけでは意味のわからない幾何学模様が、随分と沢山描かれていた。
 慎重に目を凝らすと、濃い塗料の他に、鳳凰の短剣で見たものと同じ黄色い塗料の跡もある。
「やっぱりな。アルフレッド、例のものも出せよ」
 モンタナは、従兄弟である考古学者の肩を小突く。
「あ、ああ」と、アルフレッドが胸のポケットから、眼鏡ともう1つのなめし皮を取り出した。
 チャンが鋏と針で、巧みに縫い目を解きほぐす。
「できましたよ」と広げるなめし皮に、アルフレッドが鳳凰の短剣にあったものを同じ高さへ掲げてみた。
「つながりそうか?」
「んんっと・・・」
 チャンとアルフレッドがそれぞれの向きを変えながら、2つを幾度も並べ直してみる。
「こうだ!」
「そのようですね!」
「どれどれ・・・」
 ようやく納得のいく形に整えた2人の方へ、モンタナは引き寄せられるようににじり寄る。
 外郭の線が1本の直線として、上下共きれいに繋がっていた。皮を縫い合わせていた部分は流石に塗料が薄くなってしまっているが、全体を見るのに不便はない。
「やっぱり地図・・・いや見取り図だぜ、こりゃ!」
「間違いないよ、おそらくこれが故宮の・・・」と言いかけて、アルフレッドがチャンへちらりと伺いを立てる。
「ええ、きっとそうです」
 チャンも殊の外大きく首肯し、アルフレッドと同様に目を輝かせた。
「この見取り図が、財宝を探す為のヒントなんだよ! ここに描かれている故宮の何処かに、必ず西太后の財宝が眠っているんだ!」
 アルフレッドの声が震えている。頬が紅潮し、いささか興奮ぎみのようだ。
 気持ちがわからなくもないが、モンタナはモンタナで、早く次の秘密に挑んでみたくて仕方がない。
「おい、アルフレッド。まだ黄色い線の謎が解けちゃいないだろ?」
「ああ、わかってるよ。いつだってモンタナは急かせるんだから・・・」
 ぶつぶつと不平を唱えながら、アルフレッドはなめし皮を客室の床に置き、いつものノートへ見取り図の様子を書き写し始めた。
 外郭を示す四角の辺一本づつに、それぞれ門と思しき印がある。
 チャンが門の印を指した。
「御存知の通り、故宮は紫禁城とも呼ばれ、1406年から1420年にかけて造営されました。明・清両時代の皇城として使われ、現在は中国の古代芸術品などを展示する博物館として公開されています。・・・この4つの門は、東のものを東華門、西のものを西華門、北のものを神武門、そして正門たる南のものを午門と言います」
「と、いう事は、この見取り図は、このでっかい門を南に見ればいいんだな」
 モンタナはアルフレッドの了解なしに、2つの見取り図の向きを変えた。ランタンが午門寄りになったので、ランタンは昼の太陽を表す位置に来た事になる。
 納得したアルフレッドが、怒る代わりに「なるほど」と呟きメモを続けた。
「小さな四角が沢山あるな」
 モンタナの指が、見取り図に描かれた長方形をざっと指して回る。
「これは、1つ1つが宮殿を表しているのだと思います。ほら、北の神武門と南の午門を結んだ直線を中心にほぼ左右対称に建物が建てられているでしょう」
「なるほど…。このデッカイ建物は?」
 見取り図中央の大きな3つの長方形を、モンタナは突いた。
「神武門寄りが保和殿、午門寄りが太和殿、保和殿と太和殿に挟まれた建物が中和殿です。保和殿は、皇帝が催した宴や殿試を行った所。太和殿は、皇帝の即位や年中行事の重要なものを行っていた所。そして中和殿は、太和殿に向かう前に皇帝がここで重臣の朝拝を受けていた所とされています」
「故宮でも、特に重要な建物って事だな」
「はい」
「チャンさん、ズバリ・・・財宝がここにある可能性は?」
 見取り図へ屈み込み、チャンが短く唸った。
「可能性がないとは言えませんが・・・」
「ちぃと目につき過ぎるか・・・」
 両手を頭の後ろに回し、モンタナは客室へ横になった。
「アルフレッドぉ、まだ見取り図は書き取れないのか?」
 欠伸混じりに、モンタナは天井を眺め回す。
「っと・・・。待たせたね、ようやく終わったよ」
 その返事を聞きつけた途端、モンタナはがばっと飛び起きた。
「よし、黄色い線の方だ! やってみようぜ!」
「うん」
 半々になったなめし皮を再び引き離すと、ああでもないこうでもないと、新しい組み合わせを探り出しにかかる。
 モンタナ、アルフレッド、チャンと大の男3人がかりで並べ変えを試みるが、ランタンの明りも手伝って作業は容易にはかどらなかった。
 黄色い線は故宮の見取り図程、判別がつきやすいものではない。やがて、目を凝らしているうちに痛みを覚えたか、アルフレッドが眼鏡を外し目頭を手で押さえ出した。
「ちょっと休むか?」
「いいかい?」と言うやいなや、アルフレッドが後ろにごろりと転がった。
「よし、ちょっくら俺に貸してくれねぇか?」
 2つに分かれたなめし皮を持って、モンタナはふと立ち上がる。
「何処に行くの?」
「おそらく、ランタンの明りじゃ黄色が強過ぎるんだ。雨が降ってても、外の方がよく見えるに違ぇねぇ」
「そうか!」
「ついでだから、俺がメモしてやる。書くものを貸してくれ」
 アルフレッドが上体を起こし、先程まで自分が使っていた筆記用具をモンタナに差し出した。
「じゃ、ちょっくら前行ってくらぁ」
「頼んだよ、モンタナ」
 毛布を脱ぎ捨てると、モンタナは客室の隣にある操縦室に足を運んだ。大粒の雨がキャノピーを叩く中、自分の指定席に座り空模様を眺める。
 本降りの雨が、いつやむとも知れぬ勢いで空から落ちてきていた。湖面は雨の為に光沢を失い、畑に舞っていた鳥達も何処かへ飛んでいってしまったようである。
 モンタナは、ケティ号のキャノピーへなめし皮を貼りつけるようにして並べ、あれこれと組み合わせに工夫を凝らした。
 思った通り、薄暗い雨模様の空でも、ランタンの明りよりは黄色い線をくっきりと浮かび上がらせてくれる。
 程なくして、それらしい組み合わせを発見する事ができた。
 椅子と思しき調度品と、その両側に一対の飾りらしい塔が描かれている。更にその後ろは、縦の線が何本も平行に描かれ、壁に類するものを表現しているようであった。
 何処かの室内を表現しているであろう事は、モンタナにも見当がつく。
 しかし、図案は随分と簡略化してあるので、この絵だけを頼りとし場所を限定するのには無理が多かろうという気がした。
「ん・・・」
 まだ、見落としているものでもありはしないか。モンタナはなめし皮の端にも目を通し、ランタンの明りでは見つからなかったものを探してみようと努力した。
「ん?」
 黄色い図案の右下、故宮の見取り図では神武門の左上に当たる所へ、黄色い塗料が散りばめてある。一見すると短い線が無造作に集まっているので、職人の試し書きと受け取れない事もない。 が、モンタナの勘には、それが妙に引っかかった。
「皇帝に納める最高の品物だ。試し書きを残す職人もいねぇだろうよ・・・」
 大雑把な絵で黄色い線の図案をメモすると、今度は慎重に右下の黄色い線を書き取った。
 もしやと思い、もう片方のなめし皮の端を見ると、やはりあった。合わせ目の右上にも、同じような黄色い塗料の痕跡がそれとわかるように残してある。
 モンタナは、にやりとした。以前の謎解きでも、重大なヒントに手が届いた瞬間は、これに似た手応えを常に感じていた事を思い出す。
 帽子のつばの下で、スリルを楽しむ男の眼が鋭い光を帯びる。アルフレッドではないが、次第に気分が高揚してきた。 急いで客室内に取って返すと、収穫のメモをアルフレッドとチャンに披露する。
「すごいよ、モンタナ!」
「やってみろよ」と、モンタナはアルフレッドを促した。
 アルフレッドがチャンに、モンタナの記したメモを渡す。
「これを、ランタンの手前に翳していて下さい」
 言われるままに、チャンが両手でメモを持ち、明りが透けるようにランタンの手前にしっかりと翳す。
「もしやそれは」と口に昇らせ、チャンが止めた。
 アルフレッドは、モンタナのメモの一部、あの右下にあった黄色い塗料の記録部分を静かに破る。そして、もう1か所の塗料の跡へ、明りが透けるように重ね合わせた。
「やっぱりそうだ!」
「文字じゃねぇか!?」
 チャンも、上からそっと覗き込む。
 浮かび上がったのは、縦書きの漢字数文字だった。3文字、そして3文字、合計6文字が崩れた形ながら白い紙に黒く透けているではないか。
「チャンさん、この文字は?」
 アルフレッドの声が上ずっている。
「・・・・・養心殿 東暖閣、とあります」
「ってぇ事は?」
 さも愉快そうに、モンタナはチャンに結論を催促した。
 チャンが、持っていたメモを下に置き、先程アルフレッドが記録した故宮の見取り図を開くとその一角をすっと指す。
 迷いのないチャンの仕種に、確かな足取りの末この結論に辿り着いたのだと、モンタナは確信した。
「養心殿とは、これ。故宮の敷地の中では、やや小さい宮殿になります。中心にある太和殿などよりも北西寄りの宮殿で、西太后とは特に縁の深い建物です」
「東暖閣ってぇのは?」
 チャンが、モンタナとアルフレッドに自信の笑みを伺わせた。モンタナ達が初めて見る、チャンの力強い表情がそこにある。
「養心殿の中にあります。西太后が垂簾聴政、つまり簾越しに摂政としての仕事をした場所の事ですよ」
「やったァ、それだ!」
 モンタナは口笛を吹き、アルフレッドはモンタナにしがみついて収穫の手応えを喜んだ。
「後は、現場に行って探し出すのみってか! 夜の来るのが待ち遠しいぜ!」
「お見事でした、モンタナさん、アルフレッドさん!」
 2人の手を取り、チャンがそれぞれを激励した。
「いや、大した事はありませんよ」
 優しい笑顔で、アルフレッドがチャンを労う。
「我々は偶然、なめし皮の秘密を説き明かしたのに過ぎません。・・・あれは、短剣を分解するつもりで検分しないとわからないものでした。預かりものを大切に扱おうとしたチャンさんの姿勢は、素晴らしいものです」
「いえ・・・」と、チャンが頬を赤らめて目を細めた。
「ギルト博士やロンさんが、あなた方を大切に思う気持ちを、私もよく理解する事ができました。・・・ありがとうございます」
「いえ、御力になれたようで、僕達もとても光栄です」
 チャンがアルフレッドの手を、そして次にはモンタナの手を熱く握っては重ねて礼を述べた。
「いいって事よ。俺達は、宝探しと冒険と、困った人を助けるのが趣味なんだ」
 褒められて気分がよくなったのか、モンタナはチャンの肩に右腕を回し、左手で大きな半円を描いて見せた。
 それを聞いたアルフレッドが、意地悪げに腕を組む。
「だったらモンタナ、ママの手伝いもサボっちゃ駄目だよ。モンタナはよく、ママとチャダを困らせるんだから」
「おいおいおい・・・、そういう事を言うか、普通?」
「冒険しか、しない従兄弟にはね」
「ううっ・・・」
 モンタナは帽子のつばを持ち上げると、アルフレッドの右手を持ち上げ、時間を確かめる。
「大体合ってんだろう、アルフレッド?」
「ああ、そうだよ」
「ちょうど12時ってとこか・・・。そろそろ昼飯の心配をしねぇか? 水がなくて、スパゲッティが茹でらんねぇんだけどよ」
 上手く話をかわしたなと、アルフレッドがモンタナの目を覗き込む。モンタナは、それを承知でわざとそっぽを向いた。
「腹、減ってんだろう?」
 訴えかけるように、モンタナは半眼を作った。「スパゲッティ、スパゲッティ」と、モンタナは連呼する。
「そりゃそうだけど、水が・・・」
「だから、その水を調達に行こうぜ。今、腹ごしらえをしておかねぇと、夜、北京で目ぇ回す事になるぞ」
「・・・それは困るよ」
 アルフレッドが渋々、さも億劫そうに生乾きのジャケットを体にひっかける。
「メリッサ、何か食わせてもらってんのかな・・・」
 モンタナが客室のドアを開けた時、アルフレッドとチャンの表情が凍りついた。
「そんな顔をするなよ」
 ドアに手をかけ、モンタナは努めて明るく振り返る。
「メリッサを必ず助け出すさ。そして、財宝も奴等には渡さない。・・・やってやろうぜ、俺達でな」
 釣り目ぎみの冒険野郎は、次第に声を低くしながら、2人の学者を前にそう豪語した。
 モンタナの背中には、根拠のない自信が漲っている。普段なら呆れてしまいそうなアルフレッドも、逆境の中、この不敵な自信を見ると、呆れるのを通り越し、感心さえしていた。
 付き合わされるのは不本意な時も多いが、モンタナの側にいると、こんな自分もまだ何かしなくてはという気分で、重い腰が上がる。
 命のスペアがない分、冒険には不安が付き纏う。
 が、いつだってモンタナは難問を克服し、可能性を確かなものに変えてきた。遺跡に仕掛けられた数々の罠も、ゼロ卿の妨害も、モンタナは決してものともしない。
 降雨を背景に、アマチュア冒険家は2人に向かって親指を立てた。格好をつけるその仕種が、この状況下で、嫌になる位頼もしく見える。
「僕らも手伝うよ、勿論」
 アルフレッドが、客室の奥から雨傘を3本引っ張り出した。傘を配り、雨の中を連れ立って3人は外へ出る。
 予備の水用タンクを抱え、モンタナは先に立って歩き出す。傘に落ちた雨が、頭上でしきりと軽い音を奏でた。

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