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うろほろぞ
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いつもの青空、いつもの風。
いつものメイシップ、いつもの少女。
ただ何時もと違うのは今日が2月14日である、ということと、少女-メイが白いレース付きのエプロンにやはり白い三角巾を付け、いるはずのない場所-厨房にいることくらいだ。
2月14日、それは女の子にとっては特別の日。
彼女の愛しのジョニーは今日は夜遅くまで戻ってこないらしい。
計画を実行する絶好のチャンスだった。
手に山のようなチョコを持ちつつ高らかに宣言する。

「今年はジョニーに手作りチョコを!というわけで、リープさん。厨房一日貸し切るね。」

張り切っているメイとは裏腹にリープは心底心配そうな表情である。
瞳が如実に語っている、「メイ、あなたちゃんと作れるの?」と。
それでも彼女が自分の決めたこと(特にジョニーに関して)には、絶対に曲げないというのも分かっていたし、またどのくらいジョニーを好いているかも理解しているつもりだったから
結局こう言うしかないリープだった。

「ご飯の支度の時は退いておくれよ。」
「おっけーおっけー。」

そんなリープの心配もつゆ知らず、メイはチョコを台の上に置いてパタパタと手を振った。
この軽さが更にリープの心配をあおったりはしたのだが、ボク1人で作るから、と追い出されてしまっては仕方ない。
後ろ髪を引かれつつ厨房を出た。
リープが出ていったのを確認した後メイは早速チョコ作りに取りかかる。

「・・・さてと、先ずはチョコを溶かすんだよね。」

ばりばりと包みを剥いて鍋にチョコを突っ込んでみるがどうにも大きい。
もう少し細かくした方が都合がよいらしい。

(・・・・・・・うーん。)

メイは暫く思案していた後、

「・・・よっと。」

愛用の碇を取り出した。
また板の上にチョコを置いて一気に碇を振り下ろす。


どごおおおおっ


厨房に轟音が響き渡った。
もう一度碇を振り上げ第二撃目を加えようとした時

「メイっ!一寸すとおおおおっぷ!」

リープの大声による制止に渋々止める。

「何?」
「何?じゃないでしょ!何やってるの!」
「チョコが大きいから砕こうと思って。」

にこやかに言い切るメイに更にリープは声を張り上げた。

「そんなもん使ったら食べられなくなるでしょ!手で割るか包丁を使いなさい!」
「・・・・・はーい。」

失敗チョコは廃棄され、新しいチョコを手で割り始める。
そして、再びリープは厨房を追い出された。
メイの心にあるのはただ一つ。

(ボク1人で作ってジョニーにあげるんだから。それで少しは認めて貰うんだからっ!)

この手作りチョコと一緒に何度もしている告白の答えを今日こそ貰う。

(ボクだって女の子、なんだからね。)

何時までも子供扱いをしないで、1人の「女性」として見てもらえるように。
小さくしたチョコを鍋に入れ溶かすために火にかける。
後は溶けるまで放っておくだけだ。









焦げ臭いにおいにリープは再び厨房のドアを開けた。
そこには火にかかった鍋と、余ったチョコにパクついているメイの姿。

「・・・・・めい?何やってるの?」
「何って・・・チョコを溶かして・・・・・、ああ!焦げてる!しかも油と分離してる!」

リープは軽い頭痛がした気がして頭を押さえた。

「メイ、チョコを溶かすときは湯煎を使うの。間違っても直接火にかけちゃ駄目。」
「・・・・・・はい。」

焦げて油と分離したチョコを廃棄して再び新たなチョコを割り始める。
割ったチョコを今度はボールに入れ、その下にそれよりも一回り大きいボールに湯を張り
チョコ入りボールを浸からせる。
徐々に溶けだしていくチョコレート。
頃合を見計らって隠し味用のボトルを用意し始めたメイに、リープは待ったをかけた。
温度計を手渡しつつ言う。

「テンパリングはしないのかい?」
「・・・・・・・てんぱりんぐ?」
「表面が白くなったりするのを防ぐ事で・・・・。チョコレートの温度調節をすることだよ。」

詳しい方法としては、


1.18~20℃の冷水(氷水)につけ、チョコレートの温度を下げる。
2.全体にドロッとした状態になり、チョコレートの温度は26~27℃くらいになったら、ボールを冷水から引き上げる。
3.40~45℃のお湯で再び湯せんし、ゆっくりかきまぜる。
4.チョコレートの温度を30~31℃に保つ。


である。
早速メイはテンパリングを始めた。

「温度上げすぎたー!!!!」
「冷やしすぎだようっ!」
「何で上手くいかないかなあ?!」
「・・・・・・・・・むきいいいいいいいいいいいい!」

聞こえてくるのは(当然ながら)そんな叫び声ばかり。
時間だけが刻々と過ぎていく。
リープが何度か「代わろうか?」と手を貸すが彼女は断固として断り続けた。
たった1つの願いのために。
・・・・・どのくらい時が経っただろう?
厨房からはやっとメイの歓喜の声を聞くことが出来た。

「やーっと出来たああ!」

高々とボールを掲げ上げ、晴れやかに笑う。

(よしっ、最後の仕上げ仕上げ♪)

そして、先ほど入れ損なった隠し味用ボトルの中身を全部チョコと混ぜた。
チョコから独特の香りが漂い始めた。
その臭いにリープは硬直し、おそるおそるメイに尋ねた。

「めい・・・・。それは?」

それとは対照的ににこやかにメイは言う。

「おまじないだよ。自分が使ってる香水をチョコに混ぜるとね・・・。」
「そんなもん団長に食べさせる気?!常識を考えなさい!」

・・・・おまじないとは、怖いものである。
何はともあれ、そのチョコはめでたく廃棄、となった。

(効くって噂のおまじないなのに・・・・。ちょっとお腹壊すかもしんないけどさ・・・。ジョニーなら平気だよ・・・。)

まずいだろ、それは。
確かに一瓶は入れ過ぎだったかな、と反省しつつ残ったチョコで三度チョコ作りを始めた。
そして、それは起こった。

「これで型に詰めるだけもつまんないよなあ。」

メイは悪戦苦闘し何とかテンパリングを終わらせたチョコを見ながらごちる。

「そうだねえ、ブランデーでも入れてみるかい?」
「うん!じゃ、入れるよ―。」

そう云うや否や、メイはブランデーをどぼどぼとチョコに注ぐ。
辺りに強烈なアルコールの香りが漂い始めた。

「・・・・・・めいいいいいいい!」
「やっぱ、駄目?」
「あたりまえでしょおおおおお!?」

ついにメイは厨房立ち入りを禁止されたのだった。









「はい、じょにー(はあと)。バレンタインのチョコだよ―。」

深夜、帰ってきたジョニーにチョコを渡す。

「ああ、ありがとな。」

ジョニーはクククと苦笑しながらそれを受け取る。
不器用にラッピングされたそれの中身は市販の板チョコのままであった。
どうしてもチョコを渡したかったからこんな強行作戦に出たのだが。

「今年は手作り、じゃあなかったのかあ?」

失敗だったかもしれない。

「・・・でも、愛は篭ってるの。」
「この失敗しすぎて皺の入った包装紙にそれを感じるさ。」
「・・・・・・一生懸命頑張ったんだよ。」
「厨房のごみ箱を見れば容易に想像がつくさあ。」

相変わらずニヤニヤと笑うジョニーに、メイがついに逆切れした。

「しょーがないじゃん!ジョニーの馬鹿あ!」



ずどどどどどどど



そこ声を媒体にしたのか――――メイの召喚獣(?)イルカが大量に降ってくる。

「馬鹿ああああ!」

メイは叫び声を残しつつ、ジョニーの部屋を去っていった。
難なくイルカを全てよけた後、ジョニーは微笑した。



「まだまだ、子供だよなあ・・・・・。」






書きながら思いました。・・・・・つまんねえ。っつーか、やばいだろ、これキリリクの作品にしちゃ。まあ、そう云う意味ではボツにしたけれど、折角書いたし、まあいっか(はあと)てな感じでのっけちゃってます。だぶーん。






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ギラギラと光る太陽。
降り注ぐ紫外線。
陽炎が立ちこめるアスファルト。
止まない蝉時雨。
絵に描いたような真夏日である。
容赦なく照りつける太陽を睨み付けながら、まだ涼しい木陰でアイスを頬張る少女が2人見受けられた。

「あーつーいーよー・・・・・。」

赤い快賊服を身に纏った少女-メイが唸るように言う。
見るからに暑そうな格好である。
ていうか暑い(笑)。

「当たり前アル。この暑いのにそんな黒いタイツなんて履いてたら、涼しくなるモノもならないネ。見てるこっちの方が暑苦しいネ。勘弁して欲しいアル。」

げんなりとした口調で、もう1人の少女-チャイナ服の紗夢がメイを半眼で睨み付けた。
どんどん溶け出すアイスに悪戦苦闘しつつ、メイは紗夢の幾分か涼しげな格好を眺めた。
やはり注目してしまうのは、惜しみもなくさらけ出している短いスカートからスラリと伸びている綺麗な両足。
高い露出なのに下品ではなく、寧ろ至極健全な色気を振りまいていた。
紗夢はかなりの自信家だが、それに見合うモノを持ち得ている。
さんざん某団長にお子様扱いを受けているメイは彼女が羨ましかった。
メイは溜息をつき、独り言のように言う。

「・・・・紗夢みたいにもっと露出の高い服、着よっかなー・・・・。」
「アイヤー、メイみたいなガキンチョが着ても醜いだけアルよ。」

揶揄される。

(・・・・・・・言ってはならないことを・・・・。)

冷静に手に持った溶けかけのアイスを口にくわえる。
精神を集中する。
ガキンチョの言葉にカチンときたメイは、半ば本気でクジラ召還の準備をした。

「・・・・・紗夢、喧嘩売りに来たの?別にボクは買ってあげても良いけど?」

返事次第で本気でぶっ放しますなオーラ全開である。
そんなメイを紗夢はえらく冷めた瞳で見た。
ただでさえ暑いのに、この上何故戦うなどという更に暑くなることをしなければならないのだ。

(だからガキンチョ言われるネ。)

まあ、こんな風に打てば予想通りの対応が返ってくるような少女だから面白いのだが。
このとき紗夢の中で悪戯心がムクムクと音を立てて芽生えていった。
メイも涼しくなる、紗夢は楽しめる、何とも一石二鳥な戯れを。
事態を想像して思わず笑みがこぼれそうになったが、それをメイに悟られない様隠す。
紗夢はメイの額に軽くでこピンを喰らわすと言った。

「違うヨ。ガキンチョはガキンチョのカッコあるネ。任せるヨロシ。ジョニーもいちころのコーディネートしたげるヨ。」

当然の如く、彼女はそれに食らいついてきた。









ジョニーはその日コレクションの中から一本のギターを取りだし弾いていた。
太陽が照りつけようが、熱風が吹こうが彼にはあまり関係がない。
いたって涼しげな表情で弾き続けていた。

「ギブソンのレスポールか・・・。んー、いい音だ。」

ちょっと悦に入ってみたりする。
そこで彼はよく知った気配を感知した。
トラブルメーカーで、我が儘で、子供っぽくて。
幼いころから面倒を見てきた少女の気配・・・・・プラスα。
そして聞こえてくるパタパタという走ってくる靴の音と、

「じょーにーーーーー!!」

聞き慣れた自分の名を呼ぶ声。
引く手を止めてそちらに視線を持っていった、が。

「なっっっっっっっ!?」

思わず手からギターを落とす。
ゴツッと鈍い音ともに足に落ちた気がするが、今はそんなこと全く問題ではない。
いつもの快賊服を着ていた彼女はそこにはいなかった。
代わりにいたのはいつのも快賊帽を脱いで長い髪をポニーテールにし、上半身には真っ白な綿のシャツ。
そして、やはりいつものタイツは履いておらず、代わりに紺のブルマーに白いソックス、そして運動靴。
誰がどう見てもまがうことなき「体操着」にしかみえない。

「なーんてカッコしてるんだ、お前さんは!」

思わず叫ぶジョニーにメイは何も気づいていないのかケロッと答えてくる。

「涼しくて良いよ、このカッコ。」

・・・・・・そおいう問題じゃあないんだよ・・・・・。
涼しいとか、動きやすいとか、ナウなヤングに馬鹿受けとかじゃなくって。
(一部の人間は)泣いて喜ぶ体操着、なのだ。
心拍数が倍ほどに上がった。

「・・・・・・じょにー?」

固まって動かないジョニーをメイは訝しげに下から見上げた。
白いシャツの胸元は微妙に曲線を描いている。
小振りながら形の良い胸が容易に想像できた。
普段は隠されている太股はあくまで白く、付け根から伸びていた。
重い碇を扱う所為か各所はしっかりと引き締まっておりストイックさが滲み出ている。
ジョニーを仰ぎ見るその上目遣いの視線にすら煽られているような気がして。
限界。
クルッと回れ右をするとジョニーは異様な早さで逃げ去っていった。
残されたのは落とされたギターと、地面に落ちた紅い液体。

「・・・・・ジョニーてば、暑さでやられちゃたのかなあ。せっかく着替えたのに・・・。ねえ、紗夢?」

不満顔でメイは紗夢を見たが、彼女は彼女で腹を抱えて笑いすぎで痙攣を起こしていた。
そんな紗夢をやはり不思議そうな顔で見たメイであった。






筆者は別にブルマ好きなわけではありません(笑)。さらに別に「ちち、しり、ふとももー!」と興奮するような奴でもありません(笑)。・・・・鼻血なんてそう簡単に吹き出ないよね。ドリームな話だから起こることだよね。・・・・・・でも鼻血がドリームってのはちょっと嫌。格好悪いジョニーでごめんなさい・・・・・。








「ディズィーは良いなあ・・・・・。」

灯りに照らされているディズィーをジッと見乍ら、メイはぼやいた。
メイシップのメイの私室。
メイとディズィーは同じ船内にいるのに変な言い方だが「お泊まり」をしていた。
必需品のお菓子にジュース、そしてパジャマでの夜の語らい。
寝台近くのライトの明かりを灯し、二人して仰向けに布団に潜り込んでいる。
ディズィーはこの雰囲気を楽しむようにメイに尋ねた。

「何がですか?」

ディズィーのその返事にメイは彼女を鋭く見やると、唐突に、彼女の胸に両手を据える。

「きゃあっ。」

当然の如く真っ赤になってディズィーは声を上げた。
しかしメイはそんなことを気にも止めず、そのままその手を腰、尻へと下げていく。
ここまでくるともはや羞恥よりも呆れてしまう。
ディズィーは仕方なしにメイの困った顔のまま行動の終わりを待った。
メイは触りながらどんどん表情を険しいものへと変えていく。
そして、一通り触り終わってから恨めしそうに云った。

「胸が大きい、腰が括れてる、お尻が引き締まってる・・・・・・・。身体のラインが整ってるんだよ!!」

ずるい、と騒ぐ。
ディズィーにしてみればメイの外見年齢から察するに、完全に成熟しきるのはまだ先であるからずるいと言われても困るばかりである。
しかも小振りながらも着実に大きくはなっていそうだし、腰もどちらかと言えば細すぎるくらいだ。
とてもあんな大きな碇を振り回してるとは思えない華奢ぶりである。
その彼女の魅力を彼女自身に気づかせていない人物はこの世に一人しかいない。

「・・・・ジョニーさんに何か言われたんですか?」

きっと、云われたのだろう。
ここの団長はこの少女をからかう事を半分趣味としている感じが否めない。
何処までもフェミニストを装っているのに、メイに関してだけはそれが無い。
その意味をこの少女が分かっているかは甚だ疑問ではあるのだが。
案の定、

「・・・・・・ジョニーに何も言われない日なんて無いよ。うがー!絶対綺麗になってやるんだからあ!と、言うわけでディズィー、身体交換しよっ♪」

分かっていないのだろう。
ディズィーは苦笑する。

「メイ・・・・。無茶苦茶ですよ、それは。」

ぶう、とメイは口を尖らせた。

「だって!無茶とか苦茶とかしないとジョニーは振り向いてくんないんだもん。」

ここまで分かっていないと逆に面白い。
隠す方が上手なのか、分からぬ方が鈍感なのか。
教えることは容易いが、それは自分を救ってくれた団長に対して恩を仇で返すようなものだ、と思う、なんとなく。
だから、含んだような云い方でしか返せなかった。

「そう・・・・ですか?」

メイは上半身を起こしてバンっと枕を叩く。

「そうっ!ボクはディズィーみたいにになりたいなあ・・・・。そしたら即ジョニーに色仕掛けするのに・・・・。」
「・・・・メイ(汗)。」

それはジョニーさんが色々と可哀想な気がするから止めた方が、と心の中で忠告をする。
しかし、彼女の無邪気さは何にも勝る色仕掛けな気がするのは、気のせいではないはずだ。
兎に角、きっかけそんな冗談のような話だったのだ。
・・・・・そう、ちょっとしたもしも話だったのだ。
突然ディズィーの左肩辺りから髑髏顔が現れる。
地の底から聞こえるような声でそれは云った。

「ダッタラ変ワッテヤロウカ。」

メイはとっさの出来事に対応しきれなかった。

「え?」

疑問符だけを飛ばす。

「ネクロっ!止めて!」

ディズィーは自分の一部が又ろくでもないことをしようとしているのを察し、止めに入る。
しかし、白い閃光が走るのと同時に意識はネクロに乗っ取られ、深くへと沈んでいった。









『チリリリリリリリリ』



けたたましく目覚ましがなった。
朧気な意識のままメイは目覚ましを止める。
いつもはうんと手を伸ばさなければ届かない場所に置いてある目覚ましに、何故か今日は軽々届く。
きっと、位置をずらしたんだろうとさして気にも止めなかった。
・・・・・・・ベッドがいつもよりも狭い。
そこで思い出すのは、ディズィーが昨夜から泊まっていることであった。
目覚ましの音にも気づかなかったのか、まだ隣からは規則正しい寝息が聞こえた。
当然彼女も起こさねばなるまい。

「ん・・・・・・ん。ディズィー、朝だよー・・・。」

声をかけるだけでは起きる気配がなかったので、身体を揺することにする。
彼女の姿を発見して、違和感、と言うか、何かが間違っていた。

「あれ・・・・・?ボクが目の前にいる・・・・?」

そこにいたのはディズィーではなく、メイ本人だった。
昨日の話を思い出し、まさか、とは思いつつも自分の姿を確認していく。
肌の色、髪の色、顔の造形、そして体格。
全てがメイのものと異なっていた。
飛び起き鏡で確認する。
・・・・・・まうごとなきディズィーの姿であった。
一気に意識が覚醒する。

「な!!!ディズィー!ディズィーってば!起きてよう!」
「・・・メイ?・・・・私?」

おきたてで、ぼーっとしている彼女に無言で鏡を突きつけた。
それを暫くぼえっと見入っていた彼女だが、事の重大さに気づいたらしくメイから鏡を引ったくると何回も何回も確認をする。
そして、青くなって鏡を落とした。
理解したらしい。

「夢じゃない、んだよねえ?」

夢であって欲しかった、と言外に含ませつつメイは云った。
自分一人だったら夢、だの、おかしくなった、だので誤魔化せたかもしれないのだが二人して認識してしまったら、無理であろう。

「・・・・そう、みたいですね・・・・・・。」

ディズィーも同意する。
その後暫く何やら考え込んでいた彼女だったが、確信めいた結論に思い当たったらしく真っ青になって頭を下げた。
意識を失う前に聞こえた声、そしてその後に起こったこと。

「ごめんなさい。多分、ネクロの所為です。どうしよう・・・・。本当にごめんなさい。」まさか。身体が入れ替わってしまうなんて。

しかしメイは手をパタパタと振って云った。

「やだなー、そんな深刻になっちゃ駄目だよっ。それに、ディズィーになってみたかったし♪ こんな機会、滅多にないじゃん。だったら。」

さっき迄の焦ったのは何処へやら、にんまりと上目遣いでディズィーを見るとメイは云った。

「楽しまなきゃ、損だよっ。」

気を使ってくれたメイの気持ちが嬉しかった。
それでも現実は変わらないけれど。
ディズィーの表情(といっても、今はメイの顔だが)は、暗い。

「・・・・メイ・・・・。」

そんな彼女の頬をメイはピチッと叩く。
自分にそんな顔は似合わないのだ。

「暗い顔、しない!ボクが暗い顔してるの見るのは、違和感感じるよ。さあ、行こっ!」
「行くって・・・。」

こんな状況はきっと二度と無い。
そして、この先どうなるかわからなくっても、グジグジ悩んでいるのは性に合わない。
メイは先ほどの科白をもう一度云った。

「楽しまなきゃ、損だよ。誰に会っても入れ替わったことは内緒だよ?」

あくまで楽しげなメイにつられ、ディズィーも笑っって返事をすることが出来た。

「はいっ!」

そうして二人してメイの部屋を出た。
さあて、誰が気づくかどうか。

(ジョニーは、どういう対応をとるのかな?)

メイは心の中で笑う。
楽しもう、この状況を。

「ディズイーは今日何の当番だっけ?」

通路を歩き乍ら、メイは訊いた。
ジェリーフィッシュ快賊団はその日によって担当する仕事が違ったりする。

(料理じゃないといいなあ・・・・。)

料理は苦手である。
ディズィーも得意なわけではないのだが、失敗の仕方がまるで違うので(メイは食べられそうにないものを作る、ディズィーは力加減を間違えてものを壊す)バレてしまうだろう。
うーん、と口元に手を持っていて悩んでいると、ディズィーは返事を返してきた。

「今日は、ディズィーは掃除当番だよ。」

その口調はまるでメイそのものであったためメイが面食らっていると、彼女は小声で云う。

「メイ、バレないように、ですよね?」

そして、悪戯っ子のように笑った。
メイはチロッと舌を出して自分の失敗を認める。
今度は約束に乗っ取って話をした。

「ああ、そうでした。メイは確か洗濯当番、でしたよね」
「うん、じゃあディズィー。又後でねっ。」

ええ、と云って手を振りディズィーと別れた。・・・・・・・・・・・。
振っていた手を下ろす。
今すぐジョニーに会ってみたかったがディズィーはそんなことで仕事をサボる子ではないだろう。
メイは仕方なしにモップを取りに行った。









「やあ、ディズィー。」
「ジョニー・・・さん。おはようございます。」

モップで甲板を拭いていると運良くジョニーが通りかかった。
直ぐさま飛びつきたい衝動にかられたが、今は『メイ』の姿ではない。
案外不便なものだ、と思う。
ディズィーもジョニーに抱きつく習慣があれば良いのに、なんてメチャメチャなことを考えたが、それはそれで困った事態だから駄目かと一人で納得をした。
考え込んでいたメイにジョニーは声をかけてくる。

「ディズィー、どうしたんだ?可愛いレディーはいつでもスマイルでいることさあ。」
「・・・・・・・・・・・(怒)。」

(僕にはそんなこと一言も云わないクセに、ジョニーの馬鹿っ!)

口を開けば、我が儘、お子様、胸がない、6歳児の方がまだ色気があるなどと言われている(そこまでは云われていない)。
なのに、この男は他の女性に対してはこの態度だ。
メイは自分が一番ジョニーの近くにいると思っている。
そして、自分が一番ジョニーのことを理解していると自負している。
けれど、彼はこのことにそれに感慨を覚えることもなくメイをからかい続ける。
はっきり言って、不満である。
不満なんて言葉では言い表せないほど、不満である。

(ジョニーは、ボクの気持ちなんかてんで分かっちゃいないんだからっ!)

ここに来てそれが爆発をした。

「ジョニーは一体ボクのこと何だと思ってるのさっ!」

思わず地のままで質問を投げかけたが、既に時遅し。
言葉は口から出てしまっている。
しまったなあ、どうやって誤魔化そうと思案していたが、彼は気づいていないのか特に疑問も持たずに答えてきた。

「ディズィーのことか?・・・・・・・・愛してる、なんてのはどうだ?」
「!!」

愛してる。
アイシテイル。
聞きたかった言葉は、自分に向かって放たれたものではない。
今の自分の器、ディズィーに向かって放たれたものだ。
ショックだった。
いや、ショックはショックなのだが長い時間一緒にいた自分よりも最近知り合ったディズィーに盗られた事実の方がショックだった。
これくらいで負けるメイではなかった。
もとより勝ち目の薄かった色恋沙汰である。
今更こんな事云われたからといって、変わるものなど、何もない。
ジョニーをキッと睨み、心の中で誓う。

(負けないんだからあっ!)

精一杯の眼差しでメイは(ディズィーの姿だが)ジョニーを睨んでいるのに、彼はそれを受け止め、寧ろ楽しそうにしている。
そして表情をフッと崩し、メイの頭を軽くひと撫でした。

「?」

メイはその行動に何処か違和感を感じジョニーの手をパタパタと振り払った。
何かが違う。

「じょに・・・・。」

違和感の正体を探るべくかけた声はジョニーの笑みによって遮られる。
彼は此方を見つめていた。
メイはそれを見返す。

「団長!なにボーっとしてるんです。後方から一隻の飛行船がこちらを追ってきています。多分賞金稼ぎと思われますが、どうなさいますか?」

突然かかった声にメイは半硬直状態から抜け出した。
人の気配が読めない自分の心理状態を叱咤する。
声をかけてきたのは片目のジュライだった。
ジョニーはいたっていつもの調子で云った。

「逃げられそうかあ?」
「・・・・・逃げられますが、飛行船の様子から相手は有名な賞金稼ぎの『エスティン』と思われますが。」

エスティンとはここらの上空では一寸ばかり悪い方に有名な賞金稼ぎである。
賞金稼ぎとは名ばかりで、実際は悪質な詐欺行為、窃盗行為、殺人行為紛いのことを繰り返している。
ジョニーの表情がスッと変わる。

「ほーお、あの悪名高きエスティンねえ・・・・。奴さんの船に横付けだ。あとはメイを・・・・・いや、何でもない。とりあえず船の移動を。」
「了解です。」

ジュライは操舵主のエイプリルの方へと伝えにいった。
それを見送ってからジョニーはメイの方に向き直った。

「ディズィー、君は中で待機をしてくれ。」
「大丈夫です。ボ・・・私も戦えます。」

いつも隣で戦ってきたのだ。
今更置いてけぼりは、嫌だった。
しかしジョニーはそれを許さない。

「いーや、危険だ。君は一応死んでいることになってるんだぜ?あまり姿を見せない方が良い。」

アンダースタンド?と訊く。
分かりたくない。

「嫌です。」
「ディーズィーーー?頼むよ。」
「い・や・で・す。」

不毛な言い争いは続く。
そうしている間にも、船は接近していった。
そしてがたんという衝撃と共に、止まる。
船から縄が掛けられ相手の飛行船に乗り移ることが可能となった。

「だんちょーーー!こっから先はくい止めますから早く中へ・・・・!」

再びジュライが声をかけてきた。
そして、その隣にはメイの器を持ったディズィーがいた。

「ジョニー!行くよー!」

両手をぶんぶん振り回し喋ってくる。

「一寸待てって、メイ。・・・・ディズィー、兎に角来ては、駄目だ。」
「なっ・・・!」

それだけ言い残し、ジョニーは声の方向へと去っていく。
メイの早くしないと行っちゃうよー、というノーテンキな声が響く。
・・・・・・何時だって一緒に(ジョニーがいるときは)戦ってきたのだ。

(ディズィーの姿だから、駄目なのかな・・・。)

いや、ディズィーが入団してから彼女だって参加していたこともあった。
・・・・じゃあ、何故?
考えても分からない。
分からないものは分からない。
仕方がないのでメイは考えるのを放棄して飛行船へと向かうことにした。
正攻法で向かうのはきっとジョニーの根回しにより無理であろう。

(うー、羽でもはえてればなあ・・・て、生えてるじゃん!)

この身体はディズィーの身体だったのだ。
といっても元の自分にそんな神経は通ってないから、動かし方は分からない。

(動いてーーーー!)

試しに動くように念じてみる。



パタパタパタパタあっけなく飛ぶことが出来た。



メイは挑発的な表情で前を見据える。

「よっし、いっくよーーーー!」

渦中へと突っ込んで行った。


少々不安定ながらもメイは敵飛行船上にたどり着くことが出来た。
ジョニーが相手をおちょくりながら戦っているのが見える。
それをムキになって追いかけていく男-エスティンだろう-が見受けられる。
ディズィー(メイ)は慣れない碇を振り回し、そこそこ善戦を繰り広げていた。
戦況はどう見てもジェリーフィッシュ快賊団が優勢であった。
手助けは、必要ない。
しかしメイにとってはそんなことは問題ではなかった。
彼にずっとついていくこと、いけること。
誰よりも側にいること、いられること。
隣で何時いかなる時でも、例えそれを必要とされなくてもサポートし続けること。
1つの願いを胸に秘め、メイはふわあっと地面に降り立った。

「ディズィー?!」

真っ先にジョニーがメイを見つけ、罵倒する。

「来るなといったろう!?」
「私だって、お手伝いできます!」

そういって、ここまで飛んできたときと同じように、念じた。
ディズィーはネクロ、ウンディーネの力を使って所謂飛び道具を出すことが出来る。
ここまで飛んで来られた、だから、大丈夫。
同じように、出来る。



(お願い!)

「止めろ!それはお前さんに扱えきれるものじゃあないんだッ!」

何処か遠くにジョニーの声を聴き乍ら、メイは集中を続ける。
視界が黒く染まる。
意識が白濁する。
そして、奥底の、声。

久々ニ暴レラレル

(あ・・・・あ・・・・・・・・・。)

無理矢理に意識を奥へと引き込まれ、身体を違うモノが支配した。

「ネクロっ!」

ディズィー(今はメイ)が叫んだ。
深い緑の肌、緑の衣、髑髏の顔、ディズィーの身体はネクロに乗っ取られていた。

「だから来るなと云ったんだ。メイ・・・いや、ディズィー!」

ジョニーはメイに向かってそう云う。
ディズィーは吃驚してジョニーを見た。
この人は、全部分かっている。

「何時、気が付いたんですか?」
「今はそんな場合じゃあない。」

そう云ってジョニーはメイの方を見て軽く舌打ちをした。
ネクロは、暴走している。
しかし、それはネクロであってネクロではない。
メイと意識を、身体を共有しているのだ。
即ちネクロが起こした行動というのは、メイの起こした行動に他ならない。
それが、殺人とかいうきな臭いのもでも。
そんなことで彼女を汚したくなかった。
そうしている間にも、ネクロは側にいた人物-エスティンに鋭い攻撃を浴びせさせる。
ジョニーは心の中で舌打ちをした。

「男を助ける趣味はないんだがなあ。」

そう言いつつもエスティンを蹴飛ばし、ネクロの攻撃範囲から外す。
転がったそれの襟首を掴み、メイシップ向かって投げた。
誰かしらが受け止めるであろう。
それでもネクロは暴れ続ける。
埒があかない。
戻す方法があるはずだ。
ジョニーはディズィーを見やる。
視線の意味をディズィーは察してひとつの解決策を提案した。

「メイの意識は内側からこの情景を『視て』います。そこから表に出るには、ネクロという意識を意識的に追い出す事です。只、初心者には少し難しい作業かもしれません。意識して意識を表に出すなんて事はあまりしないでしょうから。それが駄目となると後は、メイという意識を無意識的に表に引っぱり出す事です。」
「・・・無意識的にねえ・・・・・。嫌ーな事しか思いつかないんだが。」
「頑張って下さい。多分ジョニーさんにしか出来ませんから。」

ジョニーはもの凄く嫌そうな顔でネクロを睨んだ。
そして、もう一度ディズィーを見る。

「せめてディズィーの姿には戻らないか?」
「無理です。」

ジョニーは諦め、大きく溜息をついた。
そのまま徐にネクロに近づいていく。
ネクロの出してくるパンチをすり抜け、その首根っこを掴んだ。
ジョニーは地球が滅びたような不幸な顔を携え、そのままキスをした。
時が止まった、ように感じた。
ネクロはディズィーの姿に戻っている。
目を見開いて瞳いっぱいにうつる人の顔を見ていた。
ゆっくりと唇が離れていった。
ディズィー(メイ)はそのまま呆けたようにジョニーを見続けている。
ジョニーは意図的にその視線から、逃げた。

「じょに・・・・・。」

メイの信じられない、という思いは声にも現れていた。
ジョニーは相変わらずそっぽを向いたままである。
その閉じた空間を破ったのは、

「ネクロ。」

厳しいメイ(ディズィー)の声色だった。

「いい加減にして。」

反応はない。

「ネクロっっっっ!・・・・・分かりました。ジョニーさん、殺っちゃって下さい。」

その声に反応してジョニーは腰の刀に手をかける。
2人とも目が笑っていない。
そして、やっと左肩辺りから髑髏顔が現れた。
白い閃光が走る。
光から目が回復し、ジョニーは倒れているメイとディズィーを確認することが出来た。

「まだ早かった、んだがなあ・・・・。」

苦々しい顔で彼は一人ごちた。









悪徳賞金稼ぎエスティンにそれなりの指導を施した後、ジョニーは自室で本を読んでいた。
内容自体はまるで頭に入ってこなかったが、何かしていないといまいち落ち着かない。これはいずれ起こりうることだったのかもしれないが、彼はそれを起こす気は甚だなかったし、それでも何時かはやっぱり限界が来てしまって起こるのだろうと予測はしていた。
そこまで考えドアの前の気配に気づき本を閉じる。
そしてドアの向こう側にいる相手に向かって声をかけた。

「ディズィー、気が付いたか。」

ドアが開く。
そこには俯きかげんで佇むディズィーがいた。

「なかなかアンビリーバブルな体験が出来て楽しかったぜ。」

笑いながらジョニーは云った。
謝ろうとした矢先に笑われ尚かつ楽しかったと、例え嘘でも云われてしまうと二の句が継げない。
暫くディズィーは失語した。
そんな彼女を部屋の中へと誘った。
コーヒーを入れ、クッキーを出しもてなす。
ディズィーは出されたそれの苦さに少し顔をしかめつつ、やっと言葉を吐いた。

「すみません、でした。うちのネクロが・・・・・。ジョニーさんに嫌な役やらせちゃいました。したくなかったのでしょう?まだ。」
「まだって・・・・。一生する気はなかった・・・・・無理かな。まあ、お前さんが気にする事じゃあないさ。こっちこそ悪かった。身体は、入れ変わっていたわけだし。」

いいえ此方こそ本当にごめんなさい、とディズィーは返しす。
ジョニーは楽しかったからいい、と笑う。
これ以上は無意味と察し、彼女は話題をずらした。

「何時気が付いたんですか?入れ変わっていると。」
「初めからさ。」
「何故分かったんですか?普通に考えたらまず起こりえない事だと思うんですけれど。」
「この場合俺は経過を考える前に結果が分かった。そしてその結果が確かなモノである、と確信出来る以上経過は無意味なモノとなった。というのがジーニアスな俺の判断だった、と言う訳さ。あれがメイ、と確信できたのは・・・・言葉じゃ言い表しにくいなあ・・・・、纏っている空気とでもいうかな。それがメイだ、と自己主張していたから。」

俺のカンは絶対さ、と笑う。
にわかに信じがたいモノであったが、きっとそうなのだろう。
彼にとってメイという女の子は、そういう存在なのだ。
少々乱暴な言い方をしてしまえば、器など問題ではない、その彼女の精神、という中身が必要なのだ。
彼女が幼きころからその内面を見続け、見守ってきたからこそ分かったのだ。
そう思った。
だから今回のことは本当に、困った事態なのだろう。
求めていながら側に置かなかったのを、一歩引き寄せる形となってしまったのだから。

「ジョニーさん、どうするんですか?」

その返事は苦笑い、だった。
ぴこぴこという足音と共に、新たな来訪者の気配がした。
ジョニーの顔に一瞬緊張が走る。
バンッ
ドアが乱暴に開く。

「ジョニーーーーーーー!!」

早々に怒鳴る声。
彼女は怒っているのは明白だった。

「ああ、メイ。えー、わる、かったな。」
「うん悪いよ、じょにー!なんでディズィーに手えだすのさっ。」

・・・・・・・・・・・・・。
辺りを気まずい沈黙が包む。
話がかみ合わない。
今の事を言うならば、ただ一緒にお茶をしているだけだ。
さすがにそれを「手を出している」と言われたら堪らない。
ジョニーは出会った女性のほぼ全てに手を出していることとなる。
ジョニーとディズィーは互いに顔を見合わした。

「は?」

吟味しても答えが出ず、結果疑問符を出す。

「ボクが何も知らないと思ってるんだね。でも知ってるんだからあ!ジョニーがディズィーに愛の告白をして更にキスまでしたことを!!」

・・・・・・・・・・・・・・。

「わはははははははは。」

又しばらくの沈黙の後、ジョニーは堪えきれずに大笑いした。
ィズィーも僅かに肩を震わせて笑いを堪えている。
メイは何も気づいていなかった。
彼女はジョニーの行動が全てディズィーに向けられたモノと勘違いしていた。
入れ変えに気が付いていることに気づいていなかった。
あの愛の告白まがいが、メイをからかうためのモノであったことも、キスが、ディズィーの身体にされたモノだがメイに向けられていたことも。
双六で前に進んだと思ったら同じ数だけ戻された時のように、思考はすべて戻った。

「何が可笑しいのさっ!2人ともっ!」

メイは真っ赤になって怒るが、ジョニーの笑いは止まらない。
ああ、まだ大丈夫だった。
彼女を完全に自分という檻の中に閉じこめていないのだ。
外に送り出すことはきっと可能なのだ、と。
内に巣くう小さな黒い塊を無視しながら。






なんか当初の予定から大幅にずれちゃいました。メイもジョニーも全くといっていいほど思い通りに動いてくれない(泣)。賞金稼ぎなんて出す予定すらなかったんですが。メイ(もといネクロが)が暴走してくれなくって。メイの意識が裏に回ることを前提としたからなあ・・・・・。何やっても立ち直っちゃうんだもん。だらだら書いた割につまんい話だよなあ(だらだら書いたからか)。

















「じゃあ、ジョニー。ちょっと出るね。」
「ああ、早めに戻ってこいよ。」

いってきまーす、と元気に手を振り挨拶をして、メイは外に出ていった。
久々に地上から空を見上げる。
潮の匂いのする空気をいっぱいに吸い、深呼吸をした。

船のメンテナンスの関係上、とある港町に来ているジェリーフィッシュ快賊団ご一行様である。
メンテナンスだけが目的の停泊だったので、大人しく待っていれば良かったのだが、そこを待たない(待てない)のがメイである。
あちこちから御用されている身分にも関わらず、外へ出たい、とジョニーに話してみたところ意外なほど簡単に「行って来い」とか言われてしまって。
逆に「僕のことが心配じゃないのー?!」と暴れたのはここだけの話。
そんなメイを、「信用しているのさ」の一言で済ませてることが出来るジョニーもどうかと思うが。
と、そんな騒動もあったりしたが、メイは街に出たのだった。

ジョニーがメイの出ていった出口を見つめ一言。
柔らかな表情で。

「・・・やっかい事を持ち込んでこなければ良いんだけどな。」

そして、こんな時の自分の予感が良く当たることも知っているジョニーだった。





「うーん。久々の地面の感触だー!」

ぽてぽてと港の商店街を歩きながらメイは独り言を言った。
空には少し眩しい太陽。
香る潮。
カモメの鳴き声。
どれをとっても気分が良く自然と遠出になっていく。
・・・ただ、一つ後悔したことといえば。

(なーんでジョニーと一緒に来なかったんだろ・・・。)

いくらラブラブコールを送っても笑ってかわすジョニー。
それでも。

(ぜーったい、振り向かせてやるんだからあ!)

拳を握りつつ堅く心に誓う。
しかし。
そんな熱い想いも商店街を歩いていれば3秒で霧散する。
メイの興味は目の前のドングリ飴の詰め合わせに向いていった。

「どれが美味しそうかなー♪」

色とりどりの飴を前に楽しそうに顔を綻ばせる。
いちご、メロン、バナナ・・・。

「ああ~迷っちゃうよー。」
「ここのお店は、バナナ味がすごく美味しいわよ?」

いきなり話しかけられ、そっちを振り向くと20歳くらいの女の人が1人、微笑んで立っていた。
ブロンドの髪を肩までのばしており、とても綺麗な瞳を持っていた。
そして。

(・・・おっきー胸・・・。)

一言で言うならば、ジョニーの好みのタイプ(体格)ってところだろう。
絶対にジョニーには会わせまいと思いつつ、メイは笑顔で返事をした。

「バナナが美味しいの?そっかー、ありがと!早速買うね。」

その女の人に見送られながらレジへと向かった。
そんな日常のひとこま。
しかし、その時にそれは起きた。

「きゃあああ!止めて下さい!」

会計をしてもらっているときに、突如聞こえた悲鳴。
しかも、声の主はさっきの女の人だと声で分かった。
気配で、悪っぽい奴らが何人か店の中にいるのが分かる。
見ると、彼女は店の外へと連れ出されている。
事情は分からない。
分からない、が。

(女の人には優しくしなきゃいけないんだから。・・・だよね、ジョニー?)

とりあえず助けること決定。
そうと決まってからのメイの行動は早かった。

「・・・ごめんね!!」
そう店の店員に言い切ると会計をせずに飴を持ち、走って店を出る。

「お客様!お金!」
そんな見送りの声を聴きつつ。





連れていかれているだろう場所は、殺気をたどっていけば容易に辿り着くことが出来た。
男4人がかり彼女を取り押さえている。
必死に抵抗をする彼女だが、どうやら叶いそうにないらしい。

(ボクの出番だね。)
「こらあ!多勢に無勢だなんて、卑怯だぞ!」
片手に飴の袋を抱えたまま仲裁に入った。

「ああ?何だ、テメエは。死にてえのか?」
睨みをきかせてくる男。

「ガキはかえんな。」
小馬鹿にしたように言ったまま相手にしない男。

ただ。
「ガキ」という言葉が一気にこの場の展開を見せた。

「・・・・誰がガキなのさ!怒ったよお!!」
メイはそう言って精神集中に入る。

「ガキだからガキって言ったんだよ。」

ゲラゲラゲラ

そんな男達の嘲笑も、今は耳には入らない。
大人しくなったメイを見て、男達はとりあえず害はない、と判断し再び彼女に向かう。

「止めて下さい!」
「さっさと寄こせば良いんだよ!」

そんなセリフが入り交じる中、メイのその声は異様なほど綺麗に響いた。
小脇に飴の袋を抱えつつ高らかに叫ぶ。

「・・・・やーまーだーさーーーーん!!」






しゅごごごごごごごご






メイの召還、それによりでっかいピンクのクジラが男めがけて体当たりをかます。

「どごああ!」
「くじらあああ?」

おかしな悲鳴をあげて吹っ飛ぶ男達。

「・・・今のうちだよ!早く!」
「は、はい!」

突如現れたピンクのクジラを呆然と眺めていた女の人の手を取り、さっさとその場を離れることにした。
・・・ここで乱闘をしてしまった以上、とりあえず港にいない方が良いだろう。
義賊といえども、あまり見つかると都合が悪いのだ。

(・・・となると・・・・。)
いくところは一つしかない。

あーあ・・・

メイはため息をついた。





「メーイ?ずいぶんと派手にやったみたいだなあ。」
「うっ。」

船につくなり入り口でジョニーがお出迎えだった。
ジョニーはニヤニヤと笑っているが、これからさんざん怒られる、もとい、これをネタにからかわれること必須である。

「えーと、仕方なかったんだよ!」
目線を逸らしつつ反論を試みる、が。

「クジラ、飛んでたなあ・・。」
撃沈。

「・・・人助けだったんだよ、ね?」

そう言うなり、メイは女を自分の前に盾のように出し隠れる。
いきなり前に出された彼女は戸惑いつつも、会釈をしジョニーに挨拶をした。

「え・・・。はい、この子に助けて貰ったんです・・・。ありがとうございます。」
そう言うなり下を向いてしまった。

「ね?ボクは正当防衛をしただけだってば。」

メイは後ろからそれ見たことか、と腰に手を当て澄まし顔。
それを見てジョニーは笑い、一言。

「過剰防衛って知ってるか?」
「うっ!」

再びメイ固まる。
ジョニーは声を押し殺してさらに笑い、そして女の方を見た。
いまだ彼女は下を向いたままである。

(何かあるな、これは。)
そう判断し、女の手を取り言うのだった。

「何か困ったことでもあるみたいだな。良かったらこの俺に話してみないか。レディのためだったらどんな尽力の惜しまないぜ?」


その女性はジョニーの言葉に一瞬顔を上げ、驚いた顔をしたがすぐに再び表情を曇らせ下に向きなおった。

「見ず知らずの方に、そこまで世話していただくわけには、いきませんから。」

そう言って、さり気なくジョニ-の手を外す。
その様子にジョニーは苦笑いを返した。
そして、

「見ず知らず、か。確かにそうだがこっちとしてもこの無鉄砲な姫さんが迷惑をかけてしまったお礼がしたいんだがね。どうかな?」

メイの手を引っ張り、自分の前に持ってきて言う。

(・・・迷惑はかけてないもん。・・・多分。)

メイはそんな不満を持ったが、ジョニーの考えていることが分かっている以上その反論は出来ない。



ぎゅむ



とりあえずその場はその女性に分からないようにジョニーの足を思いっきり踏んづける事で、自分を納得させた。
流石、と言うべきかジョニーには全く反応が見られなかったが。
しかし、女性は黙ったままである。

「バナナ。」
「えっ?」

メイが発したその場にそぐわない発言に女性は顔を思わず上げる。
その様子にしてやったりと勝利の笑みを浮かべながらメイは続けた。

「飴、美味しいって教えてくれたじゃん。その、お礼。ね?」
「お礼を言われるようなことは・・・。」

都合の言葉を最後まで言わせず、更に畳み掛けるように言う。

「山田さん見たし。」
「・・・あれは!」

助けて貰って何だが頼んだワケではないのも事実で。
女性は「貴女が勝手に見せたんでしょう?」と言いかけたが、やはりメイの言葉によって遮られる。

「そんなに、ボクのことが嫌い?」

今度は泣き。
ボロボロと目の前で涙するメイを見て

(私そんな事言ってないのに・・・。)
とか思う。

自分は悪くない、悪くない筈だ。
なのに

(この罪悪感は何?!)

今なお泣き続けるメイを前にしてオロオロする。

「え・・と、泣かないで、泣かないでね?」
頭を撫で撫でしてみたり。

「・・・話してくれる?」
瞳をウルウルさせてそう訊ねてくる姿を見たらもう、承諾するしか出来なかった。

「分かったわ。話すから、泣きやんでね?」

すると、メイの瞳から流れる涙はぴたり、と止まり、口の端が微かにつり上がる。
「その言葉、撤回なしだからね。」

・・・嘘泣きだった。
呆然とたたずむ女性。
そして。

「ははははははは。」
ジョニーの笑い声が響いた。

「笑わないで下さい!」
女性は怒鳴る。

目の端に溜まった涙を指で擦り取りつつジョニーは言った。

「お嬢さん、君の負けだよ。まあ、犬にでも噛まれたと思って諦めてくれ。それで・・・・。込み入った話なんだろう?」

船の奥へと誘導した。







その女性の名前はナディア、といった。
今までごく普通な人生を送ってきた彼女だったが、両親が突然の事故で亡くなってからその生活は一変する。
遺産相続の時に税理士に騙されて財産どころか、彼女の住んでいた家すらも権利書と共に持っていかれてしまったのだ。
本当に身一つとなったしまった彼女だったが、抗議するにもその税理士の周りを黒服の男達が囲んでいたのでは何もできなくて。
結局、泣き寝入り、となった。
仕方なしに住み込みの仕事を見つけ、生活をしていたのだが。
再び彼女の生活は脅かされることとなる。
彼女のある所有物を巡って。

「これ、です。」
そう言って彼女が出した物は手作りと思われるお守りだった。

「それが?」

メイは思わずそんな言葉を口にした。
単なるお守りにしか見えないソレにどんな価値があるというのか。
しかし、彼女はおもむろにお守りのくちを開き、中身をとりだした。
それは金色に輝く鍵、だった。
それだけでも価値がある物とは思われるが、それだけで狙われる原因とは思われない。

「・・・このお守りは私の両親が生前にくれた物なんです。困ったときに開けなさい、と。そして、どうやらこの鍵が・・・・遺産の安置場所を示すまさに鍵、なんだそうです・・・。・・・私は別に遺産なんか要らない。ただ、私の両親の思い出の詰まった物は、これしかないから。手放したくないんです。彼らの手に渡ったら、きっと、もう返ってこないでしょう。私、どうすれば・・・・!!」

そこまで言って、泣き崩れてしまった。

「悪いニンゲンもいるもんだね、ジョニー。」
メイはジョニーの方を向いて言う。

「ああ、そうだな。」
ジョニーはメイの方を向く。
二人の視線は重なり、そして、頷きあった。

「ナディア、君のその悩みはそうだな・・・明日には解決する。だから、今は笑顔を見せてくれ。」
ハンカチを取り出し、涙を拭う。

「でも・・・・。」

まだ、不安そうなナディアにジョニーは、
「困っている女性を助けないっていうのは、俺のポリシーに反するからな。」
と、軽くウインクをして言った。







「やあ、今日もいい天気だ。」

ジョニーは空を見上げ言った。
雲一つない青空の下、ナディアとジョニーは何処へともなく歩いていた。
あれから一晩開けた。
安全を考えてナディアには昨日、船に泊まっていってもらうことになった(メイは少し不満、というか心配そうだったが)。
ナディアは着替えを持っていなかったので、団員のセーラーを。
そしてジョニーはいつもの格好とはうって変わってTシャツにジーンズというラフな格好をしていた。

「あのう・・・。」
彼女は躊躇いがちにジョニーに話しかける。

「どうしたんだ?」
「・・・私、狙われているので、一緒に外に出るのは危険、だと思うのですが・・・。」

昨日は仕方なく事情を話し、さらに取り乱す、といった失態をかましてしまったが。
きっと、自分を追っている組織は大きい。
町中で襲われていても皆我関せず、といったふうに助けは入らないのだから。
解決する、といってくれたが無理だろう。
それどころか、巻き込んでその命を失わせるだけかもしれないのだ。
そんな気持ちを知ってか知らずか、ジョニーは笑顔で答えるだけだ。

「なーに、大丈夫さ。メイの攻撃のが危ないからな。」

昨日のピンクのクジラを思い出し一瞬納得しかけるが。
「・・・でも、本当に危険なんです。」
町の人の噂から良くない事はたくさん聞いているのだ。

「だから、何とかしなくちゃならんだろう?」
彼の答えに下を向くことしか出来なかった。

「ところで。」
歩きながらジョニーが再び話しかけてくる。

「・・・・。」
ナディアは何も答えなかったがジョニーは続けた。
「君には、その両親の他に家族はいないのかな?」

「・・・・・・。皆、お金がないと分かると、親戚は離れていきました。きっと、やっかい事を抱えたくなかったんだと思います。・・・・でも。」

下を向いたまま、続ける。

「最後まで両親の結婚に反対して疎遠だった祖母が、この間初めて事故のことを知ったらしく連絡をくれました・・・・。」

祖母は祖母なりに心配をしていたのだろう。
そして、最後まで許してやれなかったことを後悔しているのかもしれない。
初めて聴く祖母の声は優しかった。
親戚中にそっぽを向かれた自分に、まだ信じられる物がある、と思わせてくれた。
でも。

「・・・・こんな状態じゃ、一緒に暮らすなんて、とても、出来ませんから・・・・。」

流れてくる涙。
その傍で彼はずっと、肩を抱いてくれた。

(優しい、ヒト。)

その温もりに暫し身体を預けながら、涙を流し続けた。







どれくらい歩いただろう。
気がつくと周りは閑静な住宅街だった。
ナディアの状況を考えると、昼間、とはいえ危険な場所である。
はたくその場を離れた方が良い、と思った彼女はジョニーに言う。

「あの、こういうところは・・・。」

その瞬間だった。
あっという間に周りを黒服の集団に囲まれる。

「!!ジョニーさん!」

しかし、あれよあれよという間に縛られジョニーもろとも傍に控えてあったトラックに詰め込まれどこかへと連れていかれる。
そして、薬をかがされ意識は闇の中へと落ちていった。


ナディアは冷たい床の感触に意識を取り戻した。
天上から吊された裸の電球を何度か瞬きをして見る。
だんだんと意識が覚醒していきここに至るまでも経路を思い出させた。
拉致られた。
思い出すとほぼ同時に勢い良く体を起こす。
周りをきょろきょろと見渡すと、ここは酷く殺風景な部屋の中であることが分かった。
6畳くらいの大きさの部屋で灰色の壁に囲まれている。
窓らしき物は1つもあらず、出入り口は端のほうに見える頑丈そうな鉄の扉だけであった。
部屋にある物といえば、隅のほうに追いやられた古ぼけた机一つのみだった。
そして

「やあナディア、気が付いたかい?」

これまたひどく、まるで現状を分かっていないかのように明るく話しかけてきたジョニー。
よく見るとジョニーの周りにはぶちきられた縄の残骸が転がっている。
さらにナディアの周りにも同じ物があるのが見受けられた。
その視線に気づいて、ジョニーは笑っていう。

「ああ、レディーを縛るなんて、とんでもないことをする輩がいるもんだな。解かせてもらったよ。・・・痕にはなっていないようだな・・・。」

手を取りチョックをし、痕がないことが判明すると安心したようにその手を離した。
その行為をぼおっと見ていたナディアだったが、思い出したようにいきなり頭を下げ捲したてた。

「あ、あの、ごめんなさい!!私の所為でジョニーさんまでこんな目にあってしまって・・・・!」

現状がナディアの鍵を狙った輩が招いたことは間違いないだろう。
ナディアと一緒にいたがためにこのようなことに巻き込まれてしまったことは、分かりすぎるくらい分かってしまった。
それに気が付いて平謝りを繰り返すナディアにジョニーは申し訳なさそうな顔した。

「こっちの都合で・・・・。・・・いや、ナディア。気にしちゃあいけない。むしろ俺がついていながら悪かったな。」

そう言って大きな手をナディアの頭に乗せ、髪をなで回す。
そのやさしい動きに妙に照れてしまい俯く。
きっと顔は真っ赤になっているだろう。
更にジョニーはおもむろに手をギュッと握ってきたので、流石にナディアは驚いて身を固くする。
そんな様子に顔を緩ませながらのジョニーは手を離す。

(・・・・・?)

手に何かものの感触がある。
離された手に何か持たされたようだ。
それを見ると、ナディアの「お守り」だった。

「・・・・あの・・・、これ・・・。」
「奴らは今頃フェイクな代物で頑張ってるはずさあ。」

そう言って軽くウインクをする。

「あ・・・りがとう・・・ございます。」

しかし、よく考えてみると何かがおかしい。
偽物を用意した、ということは盗られることを警戒した、とも考えられるが、盗られることを予定していた、とも考えられる。
ナディアの現状が分かっていての、まるで相手を誘うように静かな場所に行ったこと。
何よりジョニーがいっこうに焦っている様子を見せないこと。
もしかしたら、もしかしたら・・・・・。

(ジョニーさん、スベテこれを計画済みだったの?)

思わずハっと目を見開いてジョニーを見てしまったが、彼はやはり笑っているだけ。
その表情からは何も読みとることが出来なかった。
仕方なしに言葉で直接聞いてみようとナディアが口を開きかけたとき、ジョニーは、急に真剣な眼差しでナディアを見つめ、

「ナディア。」

呼びかける。

「・・・な、何でしょう?」

ジョニーの変わり様に圧倒されつつも言いかけたことを飲み込んで返事をする彼女。

「これから、きっと少々デンジャラスな場所を通過することになる。しかし、絶対に君には傷一つ負わせないつもりだ。・・・・俺を、信じてくれるかい?」

真剣なジョニーの様子に彼女はこくん、と頷いた。
そうすると、ジョニーは暖かい微笑みを返してくれる。
その笑みに、ナディアの中で衝撃が駆け抜ける。

(・・・・私は・・・・。)

浮かんできた一つの結論をうち消すように彼女は、ジョニーに努めて自然に見えるように話しかける。

「え・・・と。これからどうしましょう・・・。此処から出る方法を考えなくてはいけないですよね・・・。」
「ああ、大丈夫さあ。もうすぐ援軍が来る。」

その言葉とほぼ同時に



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



上空を何かでかいモノが通る音と、



ドゴオオオオオオオオン



地響きと共に破壊音が響き渡る。

「来たな・・・。」

ジョニーは短くそう言うと立ち上がり、ナディアに手を貸し彼女も立ち上がらせる。
しかし、彼女は何が起きたか全く理解が出来なかった。

「あのっ、一体何が・・・?」

ジョニーはどうやら事情が分かっているようなので訊ねてみると、笑みと一緒に答えは返ってくる。

「援軍さ。さて、ナディア。さっきも言ったとおり此処からはちょいと危なくなる。しかし、君には怪我一つさせない、ジェリーフィッシュ快賊団の名にかけて、だ。」

また一つウインクをする。

「ジェリーフィッシュ快賊団って・・・・!」

彼女はその名を知っていた。
ジェリーフィッシュ快賊団のジョニー。
有名な義賊、だった。
どうやらもの凄い人と知り合ってしまったらしい。
驚きを隠せない彼女にジョニーは苦笑を返す。

「そんなに驚かないでくれ。なあに、唯のいっかいの快賊さあ。それよりも、少し急がないと敵が増える・・・。」
「は、はい。」

彼女は鉄の扉に駆け寄るとそのドアノブに手をかけドアを開こうとするが、当然の如く押しても引いても横にスライドさせてみても、ドアは開かない。
困ったようにジョニーを振り返ると、彼は少し離れていろ、としぐさで伝え彼女をドアから離れさせた。
そして、足を思い切り振りかぶり、ドアに向かって蹴りを放つ(俗に言うケンカキック)。



ドゴオッ



鉄の扉は呆気なく開いた、もとい、吹っ飛んだ。

「さて、お姫様。脱出の時間さあ。」

少々青ざめてその様子を大人しく見守っていたナディア軽々とを抱え上げ、扉から続く道を出口へと向かって進み始めた。

「あの、1人で歩けますからっ!」

真っ赤になって抗議を試みるが、

「怪我を負わせない、と誓ったからな。」

と微笑まれて、口をつむがざるをえなかった。
その、胸に耳を当てると鼓動が聞こえる。
しばし、うっとりと聞き入っていたが、突然の銃声に現実へと引き戻される。

「ジョニーさん!!」

彼を仰ぎ見ると、大丈夫、と言うように力強く頷くと銃を持つ敵のほうへと突っ込んでいった。

「じょにーさあああああん!」

さすがに顔面蒼白になって彼女は叫ぶが、銃弾は二人に当たることはなかった。
横に移動し、ギリギリの間合いで銃弾を避ける。
そして、再び敵がうったとき今度は跳躍によってよけ、真上から敵に向かって蹴りを振り下ろした。
蹴りはクリーンヒットし、相手は崩れ落ち動かなくなった。

(・・・・・すごい・・・・。)

もう感心するしかなかった。







それから何回もの攻撃を避けていく。
そして、何人もの敵を、ナディアを抱えたまま足技のみで言葉通り蹴散らしていく。



どごおおおおん



どごおおおおん



破壊音は近くなる。
援軍との距離が縮まっている証拠だろう。

(船まで戻ったらここから降りなきゃいけないのね・・・。)

彼女がそんな感傷らしきモノに浸っていると、彼はぼそっと独り言をもらし、いきなりスピードを上げた。
彼女にきっと聞かせる言葉じゃなかったのだろうけれど、聞こえてしまった。

「なあにやってんだ、あいつは。」

その言葉の意味は分からなかった。
しかしジョニーは猛スピードで廊下を駆け抜けそして、1人のライフルを持った敵に思い切り蹴りをくらわす。
さほど遠くない場所から「いるかさん!」と言う聞いたことある声が聞こえていた。
それからは彼はスピードを元に戻し、見えてきた援軍のほうへと進んでいく。

「ああああ!ジョニー!!お姫様だっこしてる!」

ひときわ早くジョニーに気付いたメイが歓声の(または非難の)声をあげた。
ジョニーは笑うだけ。
そのジョニーにまたメイがふくれる。

「じゃあ、メイ。俺は彼女を連れて行くから、後は頼んだぞ?」
「・・・しょうがないなあ、任されたよ!」

メイが了解し、「バリバリ~♪」と叫びながら敵陣へと突っ込んでいく。
そのメイの様子にジョニーが一瞬顔をしかめたのをナディアは見逃さなかった。
それから、こころなしか急いでいる様子で、ジョニーは少々瓦礫等の転がる廊下らしきものを進んでいく。
すんなりと船につくと背中に羽の生えた少女が待っていた。

「ディズィー、彼女を頼む。」

そう言って当然の事ながらナディアを降ろし、ディズィーに引き渡した。

「はい、分かりました、ジョニーさん。それではナディアさん、こちらに。」

と、彼女の手を引く。
ジョニーは、再び敵地へと向かっていく。

(行っちゃう・・・。)

思わずナディアはジョニーのTシャツの裾を掴んでいた。
驚いたようにジョニーが振り返った。
自分のした行動に真っ赤になり下を向きながら、小さな声で、ナディアは頼んだ。

「一緒に、いて、下さいませんか?」

ジョニーは優しく微笑むと彼女の頭に手を置き、

「一緒にいたいのはやまやまなんだが・・・。」

それだけ言うと手を離し、裾を掴んでいる手を外させ再び、今度は走って向かっていった。

(せっかく任されたんだから、何かしなきゃ駄目だよね!)

メイは勝手にそう判断を下し、敵陣を撃破しつつ館の周りを探索して回ることにする。
悪役の一般常識上、わかりやすいところにヤバめのものは置いてないだろう。
長年の快賊としての感から、ピコピコとテキトウに進んでいった。

(どぉーーーせジョニーはナディアの世話で手一杯だろうし?)



バキィッ



目の前の敵を碇で殴りつつ、先ほどの『お姫様だっこ』を思いだし一人唇をとがらせた。
この、わざと捕まって敵の本拠地を知り根こそぎ潰す作戦は、夕べ二人で考えたモノではあったのだが。
・・・・最後まで反対はしたのだ。
仕方がないとはいえ、(女ったらしの)ジョニーを女の子と二人きりになんてしたくなかったのだ。

「イルカさんっ。」

遠隔操作で影にいる敵を混沌させる。
したくなかったが、「お前さんには、危険だ。」というジョニーの頑固な意見に押されて納得せざるをえなかった。

(そんなにボクて、信用無いのかなあ?)

・・・・何時か、絶対に言わせてやるのだ。
お前がいないと困る、と。



パンっ



こちらに向かってくる銃弾を状態をそらしてよけつつ目の前の扉を開ける。
そこには山のように積み上げられている、あるモノ。

「ふーーーん、なるほど。こんな事までもしちゃってるんだあ。これはジョニーにしらせなきゃねえ。」

懐から小瓶を取り出し、蓋を開け中の液体を「あるモノ」に振りかける。
そしてマッチを取り出し、振りかけたところに火をつけた。



ごおおおお



火は瞬く間にそれを覆い尽くす。

「作業、完了♪」

思わぬ収穫に、早くジョニーに知らせたい一心から

「やーまーだーさーーーーん!」



しゅごごごごご



でっかいピンクのクジラを召還し、道を強引にあけた。









(ったく、メイの奴何処まで行ったんだあ?)

思ったよりも彼女が中枢には入り込んでいることに軽く舌打ちをしつつ、進む。
こういうとき、彼女が通った跡というのは分かりやすい。
得体の知れないモノを見たような(きっと実際に見たのだろうが ex山田さん)驚愕の表情を浮かべたまま気絶している。
そしてその攻撃を運良く喰らわなかった者たちも、まだ少女とよべる歳の女の子に巨大な碇で昏倒させられたのだろう。
その光景が目に浮かぶようでジョニーは思わず口元をほころばせたが、直ぐさま、気を引き締め直す。
どんなに彼女が強くても失敗はあり得るのだから。

(なにしろあの姫さんは、おっちょこちょい、だからな。)

少女の姿を描き、そんな自分に苦笑した。
月日と同じスピードで大人になっていく『少女』。
親の欲目かもしれないが格段に綺麗になった。
・・・依存させて生きていく年齢でもそろそろあるまい。
望まれなくとも×××なくとも、『自分』という『檻』から解放すべきなのかもしれない。
彼女を快賊団の外へと連れ出す為に。



ばこおっ



「あ痛!」

その時、背中をどつかれた感触にジョニーは思わず声を上げた。
事態を半ば予想して振り向くと、案の定彼女-メイが両手を腰に当てて立っていた。

「ジョニー?どしたの?」

珍しく此処まで接近するまで気づかれなかったことに驚きつつ、メイは言った。
自分の不覚を悟られないように何時も通りを装いつつ、ジョニーは答える。

「どうしたの?じゃないだろう、メイ。後は頼んだ、とは言ったが誰も独りでつっこんで行け、なんて言ってないぞ?」

始まった説教にメイは一瞬たじろいだが、直ぐにプイと横を向いて抗議する。

「そんなこと言ってると、良いこと教えてあげないよーだ。」

子供のようなメイの返事。
心の何処かで安堵感を覚えつつ、それにジョニーは気づかないふりをした。
メイの頭に何時も通り手を乗せ、撫でる。
そのジョニーの行動にメイは気をよくして、話をした。

「あのねえ、偶然部屋に入ったときに見つけたんだけど。例の白い粉。」
「それは、デンジャラスだな・・・。」

白い粉、所謂「麻薬」である。
人を廃人となす事の出来る兵器に近い代物。
処理については敢えてつっこむ必要はない。
彼女はその辺も理解している。

(いや、覚えさせた、と言うべきかな・・・。)

やや自嘲気味にジョニーがそんなことを考えているとはつゆ知らず、
メイは得意げに胸を張って言った。

「ちゃんと火をつけて燃やしてきたからね!」

その顔には「誉めて欲しい」と書いてあるようだった。
ひどく分かりやすい。

「ああ、良くやった。」

ジョニーは笑いながら更に彼女の頭を撫でる。
メイは擽ったそうにその行為を受け入れた。
一通りなで回すとジョニーはメイの背中をポン、と押し言った。

「さあて、此処の大将にお目にかかるとするか。」
「ボクも行く。」

彼女らしい行動に再び苦笑しつつ、最低限の約束だけを取り付ける言葉を言った。

「その代わり、戻れ、と言ったら戻るんだぞ?」
「オッケーオッケー♪」

メイはVサインをしながら承知した。









ガンッガンッガンッ、ドゴオオオオオン



「な、何だ?!」

ナディアの持っていた遺産の鍵を手に入れて、諸手を挙げて喜んでいたのも束の間。
知る人ぞ知るジェリーフィッシュ快賊団に襲われ、思わぬ事態に陥っていた此処の組織のボスは悲鳴のような声を上げた。
更に、沢山のガードマンと呼べる人間が警備をしていたこの部屋の扉を蹴破って侵入してきた輩。
侵入してきた人間は2人。
一人は赤い衣装を身にまとい大きな碇を担ぐ、まだ幼さの残る少女。
それを護るかのように前に出て余裕の笑みを称えているTシャツ・ジーンズの男。
男の方には見覚えがあった。

「お、おまえはっ!!」
「やあ、ボスさん。組織をまとめる者にしちゃあ、ちょいと知恵が足りなかったみたいだなあ。」

ナディアと一緒に捕らえた男だった。
男は悔しさのあまり震えだし、口から唾を飛ばしながら喚き散らす。

「誰か!誰かいないか!」
「無駄だよー。」

メイは笑いながら言う。

「だって、みんなオネンネしちゃってるからね!」

彼女は前に飛び出し、碇を振り上げ男を昏倒させようと、狙う。

「ストーーップ。」

しかし、突然の静止の声に言葉通りピタっと止まる彼女。
そして、静止の声を上げた方に不機嫌そうな顔で後ろを振り返った。

「お前さんは・・・っと。」

声を上げた男-ジョニーはごく当たり前のように男の方に歩み寄り、突き飛ばしその側にあった金庫をいとも簡単に開けた。
そこには幾つかの書類、お金。
金はいっさい無視して書類だけを持ち出すと、メイに投げて寄越した。

「ナディアの遺産に関する権利書だ。お前さんはこれを持って『戻れ』。」
「何で!!」

当然と言わんばかりにメイは抗議の声を上げた。
対するジョニーは、静かに一言言葉を発するだけだった。

「・・・・メイ。」

その一言で、全てが決着ついた。
しばらくは「う゛ー」と、唸っていたメイもやがて、

「分かったよ・・・。」

と、書類を手に壊された扉の外へと出ていった。
その姿を、やはり自嘲気味な表情で見送っていたことにメイは気がつかない。
確実に彼女の気配が消えたところで、ジョニーは頃合、とばかりに男の方へと向き直った。
手には抜き身の剣。

「さて・・・・。ちょっと、貴様はやりすぎた・・・・。おっと、何が、ナンテ返事は、なしだぜ?」

突き飛ばされた男は、頭を打ったらしく未だ立てずにいる。

「・・・・そろそろ、幕を閉める時間さあ・・・。」

これから自分のみに起こるであろう事を悟って、男は顔面蒼白で命乞いを始める。
それを訊いてか訊かずか・・・、ジョニーは剣を振り上げた。
そしてその部屋には一人の男だけが残った。

ディズィーに奥へ、と誘われたがナディアは入り口でジョニーが戻ってくるのを待っていた。
他に此処には誰もいない。
ジョニーの去っていた方向を見つめる。
ここの暗黙の了解のようなものらしい。(暴走した)メイを迎えに行くのはジョニーであるということが。
それを察して彼女は何だか複雑な気分になった。
メイは、ジョニーに甘えすぎているのではないか。
・・・・・いや、それでは何かが違う。
見た感じはまるで娘と父親の様だ。
しかし、この2日間一緒にいただけでもジョニーがメイのことをいかに大事にしているかが分かった。
まるで・・・・の様に。
ナディアでは2人の間に入り込めなんかしないだろう。
ジョニーは何処までもナディアに優しかったが、優しいだけじゃ駄目なのだ。
きっと、そういうことなのだろう。
そんなことを思っていると、彼の去っていった方向に1つの人影を発見した。
赤い快賊服の少女、メイだと分かった。

「メイちゃん!ジョニーさんは?会わなかったの?」

船に戻ってきたメイを発見するやいなや、ナディアは声をかけた。
ジョニーはメイを迎えに行った。
当然戻ってくるのも一緒だと思っていたのに、彼女は今、独りである。
そんな様子のナディアの方にメイは視線を持っていった。
いつもの無邪気さの無い瞳を。
その瞳にナディアは一瞬止まった。
そんなナディアのことをさして気にした様子もなくメイは近づいて来る。
目の前まで来ると、手に持っていた書類をナディアに向かって突き出す。

「はい、遺産の権利書のたぐいだよ。」
「これって・・・・?!私が頂いてもいいの?」
「良いのって、元々ナディアのじゃん。もう、変な奴らに追われる心配もないからねっ。」

いきなり突き出されたそれを多少面食らいながらナディアは受け取った。
それにしても、と思う。

「本当にジョニーさんはどうしたんですか?」

そう尋ねると、メイはふと視線を逸らして答えた。
その目は少し大人びて見えた。

「後から来るよ・・・。」
「何故、独りにしてしまっているの?危ないんじゃないの?」
「ジョニーは・・・・、ボクが見ていない方が都合が良いことがあるから。」
「・・・え・・・?」

疑問の言葉を投げかけたが、それに対する答えは返ってくることは無かった。
そのかわり、メイはいつもの調子に戻って、ナディアに手を差し伸べ笑顔を作って云う。

「何でもないよっ。ナディア、疲れたよね?パンを焼いておいて貰えるように頼んだんだよっ。ボク、お腹が空いちゃったよ。行こう。」

半ば強引に手を引かれ、船の奥へと連れて行かれた。









「・・・・・っジョニーだ!」

船の入り口がにわかに騒がしくなって、メイは食卓から離れた。
一緒にパンを食べていたナディアも悪いとは思ったが置いていく。

「メイちゃん、待って!」

その声を後目に通路を駆け抜けていった。
戻ってきたジョニーが真っ先に向かう場所は分かっている。
そこを目指して、急ぐ。
そして通路の曲がり角、彼の姿を発見する。

「ジョニーーーーー!!」

避けられるだろう事を予想しても、いつも通りその背中に飛びつこうとした。
案の定、ジョニーは避ける。
メイは無様にも、地面に顔面をぶつける羽目となった。

「じょにーーーーーー?!」
「ああ、悪い悪い。レディーに汗の臭いなんて嗅がせちゃあ、バッドだからなあ。」

片目を瞑りつつジョニーは云う。
だからメイも返す。

「ジョニーの香りだったら何でも良いんだもん♪それよりもっ!遅いよ、ジョニー!一緒に食べようと思ったパン、食べちゃったからねっ。」

そして、「ふ-んだ」と、そっぽを向く。
ジョニーはそんなメイの頭を一撫でする。
メイは擽ったそうに下を向いて笑った。
そうして、ジョニーは

「じゃあ後でな。」

と、去っていく、その先のシャワールームへと向かって。
僅かな血の臭いを消し去るために。
ジョニーの消えるまでメイはその方向を見つめ続けた。
大量の薬物まで抱え込んでいたアイツを、ジョニーは許しはしなかっただろう。
アイツには反省、とか、後悔、とか、そんな感情は見られなかった。
だから戻れ、と言ったのだ。
救いきれないモノを、この世から消すために。
彼は、本当はそんなことはしたくないのはメイにも分かっている。
それでもそういった元凶を絶たなければいけないときがあるのも分かっている。
だったらせめて、その人を消す苦しみを一緒に持てあげたかった。
だから、着いていったのに。

(・・・・・・・何時になったらその苦しみを半分、ボクに預けてくれるのかなあ?)

拾われてこの快賊団の一員となってからずっと、ジョニーはメイを庇護し続けている。
何時からだろう。
こういった時、希に彼から血の臭いが感じられたのは?
その時からそれについては何も言えなかった。
ジョニーが気づいて欲しく無さそうだったから。
ジョニーだって、気づいていることは分かっているだろう。
しかし、その上でやはり隠そうとする、それには触れるなと云わんばかりに。

(ボクだってもう子供じゃないんだから・・・。)

頼って欲しい。
今まで、メイが甘えてきた月日と同じくらいに。

メイシップに居られるのが最後の夜、ナディアはジョニーを尋ねた。
・・・・・彼に言いたいことがある。
ジョニーの部屋の前で落ち着かせるために深呼吸をする。
そして、意を決してドアをノックしようとしたときだった。
突然目の前のドアが開く。

「・・・きゃっ・・・。」

思わずナディアは短く声を上げた。
勿論そこにいたのは黒い快賊団の格好をしたジョニー、その人だった。
にこやかに笑い片手を上げつつ彼は声をかけてくる。
まるで、彼女がそこにいるのが当然、と言わんばかりに。

「やあ、ナディア。」
「吃驚しました。」

今だ動悸の治まらぬ胸を押さえつつ彼女は云う。
そのまま下から軽くジョニーを睨む。
たった1日かそこらで虜になってしまった人を。
そんな彼女の想いを知ってか知らずか・・・・、ジョニーはいつもの調子で続ける。
全て知ってるというように。

「何となく君が来る気がしてね。話したいことでもあるんだろう?ここじゃ何だな・・・。甲板へ行こう。さあ、お嬢さん。」

そうして手を差し伸べる。

「・・・・・・・。」

おずおずと、ナディアはその手を取った。
ジョニーは優しく、笑う。
顔は、きっと赤い。
触れた手が自分のモノじゃないように熱を持つ。

(こんな私の変化に彼は気づいているかしら・・・・。)

ちらりと盗み見ても答えは見つからず・・・・・、ナディアは彼女の鼓動だけがこの場に響いている錯覚に陥りながら、ジョニーに手を引かれ歩いていった。









空を見上げると幾千もの星が見えた。
時間が時間なだけに人の気配は全くない。
引かれていた手はとうに離され・・・・、彼女はその手を胸の前でギュッと押さえる。
ジョニーはジョニーで黒服を風に揺らされながらそんなナディアを見ていた。
その視線に気づき、彼女もジョニーをそっと見上げる。
何億光年もの星の光にさらされながら、ナディアはジョニーと向き合っていた。
甲板には風が、吹き抜ける。
ナディアは揺れるブロンドを押さえながら口を開いた。

「ありがとうございました。これで、私も落ち着いて暮らせます。」

頭を下げてお礼をしたナディアにジョニーは悪戯っ子の様な笑みを浮かべながら云う。

「なあに、こっちもこの件ではちょいと儲けさせて貰ったから気にすることはない。後は君が祖母と平和に暮らしていければ、何も言うことはないな。」

それでも最後科白は真剣そのものだった。
彼女の幸せを、願っている。
祖母との暮らしは、きっと穏やかなものとなるであろう。
ゆっくりと現実へと回帰していく。
しかし、ジョニーという人を知ってしまった今では、もう日常には戻れない。
否、戻りたくない。
その事を伝えるために再び彼女は口を開いた。
ジョニーなら迎え入れてくれる、きっと・・・・。

「その事なんですけれど、私・・・・・。」
「・・・・その先は言わない方が良い。」

けれど、予想に反して彼はナディアの言葉を遮った。
彼女のいわんとする事を察して。
何かが、崩れていく。
予感を感じながら、彼女は願いを唱えた。

「・・・・・。私も快賊団に入団させて頂けませんか?」

ジョニーは嘆息するとゆっくりと言った。

「・・・・・・・。ナディア、君には無限の可能性がある。ここでそれを使ってしまうのは世に対する冒涜というものさ。」

軽い口調で、されど真剣な眼差しで。

(そんな言葉、納得できない。)

ナディアは食い下がる。
ジョニーに縋り付き、云う。

「そんなこと無いです。私、貴方の、側に居たいんです。いえ、居させて下さい。」

ジョニーの腕は彼女を受け止めない。
彼は彼女を悲しそうに見据え、彼女を否定し続ける。

「君には思ってくれる肉親がいる。それなのに君をここに留まらせてしまったら、俺はその人に顔向けが出来なくなってしまう。」
「そんな・・・・。。」

そんなこと無い、と彼女は言いたかった。
しかし、ジョニーの瞳に、悲しそうな表情に、何も言えない。
その表情を変えることなく、彼は云う。
ナディアに、気づいて欲しい。

「君はまだ解っていない。何よりもかけがえのないモノを持っているのに、気づいていない。」

自分を思ってくれる「肉親」の何よりの大切さを。
それを失ったときの、悲しみを。

「でもっ・・・!私、貴方のことが好きです。だから、側に・・・っ!」

一向に彼女は納得しようとしない。
「好き」という感情は時として何よりにも勝るものだ。
しかしそれ故に、それが消えたときの失ったモノの大きさは計り知れない。
彼女にはその感情のまま動いて、後で後悔をして欲しくない。
だから、否定し続ける。
自分からナディアを引き離し、背を向ける。

「・・・・・ナディア。恋、というのは大抵はまやかしにすぎないんだ。こういう一過性の場合は特にな。自分を窮地から引き上げてくれた人間には、無意識の内に特別だ、という感情を持ってしまうんだよ。でもな、それはニセモノなんだ。」

(ニセモノ、か。)

自分の出した結論にジョニーは被虐的な気持ちになる。
それは、ナディアでなくても言えることだ。
例えば、自分をずっと慕っている少女にも。
例えば、場違いな恋心を抱いている自分にも。
けれど、ナディアがジョニーのそんな気持ちに気づくことは無かった。
それどころか、その考え自体がジョニーの「闇」と思う。
人への感情を否定する人。
ナディアは悲しくなった。
自然と瞳から大粒の涙を流す。

「どうして、そんなこというんですか?!」
「君に後悔させたくないのさ。」

しれっとジョニーは言い切る。
ナディアはジョニーの前に回り込み畳み掛ける。

「じゃあ、ジョニーさんは、メイちゃんが後悔してるとでも言うんですか?!あの子は貴方のこと凄く献身的に思ってます。それは分かっているのでしょう?」

痛いところを突かれる。
ずっと、そうなることを恐れている。
まだ、周りの事をあまり理解していなかった彼女を側に置いたのは・・・・・自分だ。
いつか。

「後悔か。・・・・・・そうだな。」

それは現実となる気がして。

「嘘です!メイちゃん幸せそうです!貴方のその理論で言うと、彼女だって貴方の側に、居ない方が良くなってしまいます。彼女こそ、きっと無限の可能性を秘めているのだから。」

恋心。
後悔。
可能性。
闇の、未来。
それが訪れる前に。

「ああ、だからメイはいずれ此処から降ろすさ。・・・・・・兎に角、ナディア。君にはこれからの生活が待っている。ねがわば俺のことも忘れないでいてくれると嬉しいんだがな。」

じゃあな、片手を上げジョニーはその場を去っていく。
ナディアは広い甲板に独り、残される。
云ってはいけないことを言ってしまった。
そして、聞いてはいけないことを聞いてしまった。
ジョニーは、メイを。
それなのに、彼の結論は・・・・・。

「・・・・・・そんなのおかしいです。」

ナディアは彼のために涙を流した。









次の日、ナディアは去っていった。
ジョニーは見送りはしなかった。
きっと、お互い辛くなるだろうから。
船尾上甲板で独り煙草を吹かす。
ふと、周りの空気が変わった。
ジョニーは苦笑する。

(アイツは俺が何処にいても探し当てるんだろうなあ。)

そんな考えと同時に、ぴこぴこという靴音。

「じょにーーーー!」

よく知っている声。

ガシッ

背中の重み。

「・・・・メーイ?また太ったかあ?」
「そんなこと無いよっ!ジョニー!それはレディーに対して失礼だよ!」

案の定、背中からはがれ落ち、食らいついてくるメイ。
メイの頭を撫でながら、笑う。

「ぶーーー。そうだ、ジョニー。本当に良かったの?ナディア、此処に残りたがってたんじゃないの?」
「ああ、良かったのさ。彼女は此処にいない方が幸せになれる。」

また、目の前の彼女もきっと。
そう思い、メイから視線を逸らしたジョニーをメイは訝しげに見入る。
そして、ジョニーの腕にぶら下がり言うのだった。

「ボクのことは、ボクが決めるよ。ジョニー。勝手な憶測は、嫌だよ。」

ジョニーは危うく動揺で煙草を落としそうになった。
彼女と彼の心の鍵が開かれるのは、まだ先。











『目的物奪取!全員引き上げ!』

ジョニーの声が通信機を通して響いた。
しかし、ボクは出口とは逆方向に向かって走り続ける。
前を走って行く人物を追って。





ボク達ジェリーフィッシュ快賊団は今日も善行に励んでいた。
悪徳領主から莫大な財産を根こそぎ奪うこと、これが今回の目的だった。
メイシップのクルーは敵の撹乱が仕事だった。
そして、ボクも奪取を行う本体から離れてその仕事を行っていた。
なるべく本体から敵を引き離そうとしたのが幸運だったのか。
ボクを追いかけていた奴に、ここの領主がいたのが幸運だったのか。
時間稼ぎをするため、たまたま物陰に隠れたのが幸運だったのか。
聞いてしまったのだ、呟きを。

「・・・・クソッ!快賊団め!忌々しい・・・。・・・私の富が、減ってしまうではないか・・・。しかし、隠し部屋の金庫には気付くまい・・・。」
そう言って、その金庫が気になったのか、その場を足早に去っていく。

正直、ボクは悩んだ。
ボクはその隠し部屋金庫の話をジョニーから聞いていない。
・・・ジョニーにそんな手落ちがあるとも思えない。
・・・・それでも。
もし、この男の話が本当で。
隠し部屋があって。
金庫があって・・・。
そして、ボクがそれを1人で盗ることが出来たら。
ジョニーは、ボクのことを認めてくれるだろうか?
そんな打算が働いてしまった。
意を決して男を追いかける。





『全員撤退!』

ジョニーの声は響き続ける。
団長の命令に、ジョニーの仕事中の命令に逆らうのは多分今回が初めて、だと思う。
走りながらマイクを口元に持っていき、通信した。

「ジョニー。」
『どうした?メイ。』

大好きなジョニーの声。
認めて欲しい、ただそれだけ。

「ボク、まだする事があるから。先に行っちゃってて。」
『・・・だーめ。早く戻ってこい。』

承諾がとれるとは思っていない。
だから。

「スベテが終わったらまた連絡するよ。じゃ!」
『ちょっとま・・・。』

何かを言いかけてるジョニーを無視して、電源をオフにする。
目標は前を走る男のみ!
待っててね、ジョニー!





細い道をくねくねと曲がる。
階段を下り、どんどん地下へと潜っていく。
・・・・なんか、本当に隠し部屋っぽくなってくる雰囲気。
頭の中でこれからの情景が浮かぶ。



『ジョニーが気付かなかった物、見つけたよ!』
『悪いな、メイ。まさかそんなところにもあったとはなあ。』
『すごいっしょ。だからジョニー、もうボクのこと子供扱いしちゃ、駄目だからね?』
『分かった分かった。』



・・・・。

(・・・あれ?何かやっぱり子供扱いされてる?)

そんな自分の想像に、頭を悩ませる、が。
考えていてもしょうがない。
今の行動が、何かを変えてくれることを祈って・・・・。
ジョニーに、少しでも女の人、として意識して欲しい。
ボクがジョニーを好きな気持ちの何分の一で良いから。
・・・・ジョニー・・・。


そうこうしているうちに、男はつきあたりの壁を動かしてその内側へと消えていった。
どうやら其処が隠し部屋らしい。
ボクは碇を構えて軽く深呼吸をした。
そして、これからの行動計画をざっと立てる。
中に入ったらまず、領主をぶちのめして、金庫を破壊。
それが駄目なら、男に開けさせる。
それでも駄目なら・・・意地でも金庫ごと持って帰る!
まとまったところで、碇を持ち直し壁に手をあてた。
これも、愛のため、彼のため。

(ジョニー、頑張るからね・・・。)
壁は音もなく静かに動いた。

「いるかさん!」
更に用心のためいるかさんを召還して中に入った。

しかし。
待っていたのは残酷な真実で。

「きゃああ!?」

部屋に入った瞬間に目の前に広がる気体。
(って、これ、しびれ薬じゃん!!)

色、匂いからそのモノの正体は分かるものの既に気体は大量に肺の中へと取り込まれていく。
立っていられなくなって片膝をつく。

ゴトリ

手から落ちた碇が地面とぶつかって音を立てた。
集中力が途切れ、召還が無効になる。

(じょにー・・・。なーんかヤバそうな罠に引っかかっちゃったみたいだよ・・・。)

通信機の電源を切ってしまったことに今更ながら悔やむ。
いや、たとえ電源が入っていたとしてもジョニーの助けは借りる気はしなかったが。
自分で招いたことだから。
頭をフル回転させてこの状況を打破する方法を考える、が。

(何も浮かばないよ~ジョニー・・・。)

その時、正面から男の声。
「ようこそ、お嬢さん。こうも簡単に引っかかってくれるとは、思いもしませんでしたよ。」

同時に回りに1人・・・2人・・・10人?くらいの人の気配。
完璧に囲まれた。

(・・・誘い込まれちゃってた、てワケか・・。やっちゃったーv。)

ジョニーの調べはやはり正しかったのだ。
・・・別に疑っていたわけではないが、欲を出してしまったコトに後悔する。
男は話し続ける。

「あなた方快賊団が来たときに、盗られることを阻止することは不可能、と判断いたしました。しかし、貴女を見たときに取り返す方法を思いついたのですよ?ねえ、ジェリーフィッシュ快賊団ジョニーの娘さん?」

カチャ

銃弾をセットする音が、やけに響く。
しかし。

(なんで、ボクがジョニーの娘なワケ?!ぜんっぜん違うよ!!ボクはジョニーの恋人候補だってばー!)
抗議したいがしびれて口が上手く回らない。

「さすがのあのジョニーとはいえ、自分の娘を盾に取られたら言うことは聞くでしょう?」

大いなる誤解をしたまま話は続く。
誤解とはいえ、優しいジョニーのことだ。
簡単に相手の言うことを聞いてしまうだろう。

(・・・・このまま足手まといでなんか、いらんないよね。)

とりあえずは、この薬の効果が切れるタイミングをはからなければ。
動きさえすれば簡単に今ならのすことが出来るだろう。
試しに指先を動かしてみる。
微かだが、動く。

(よし!いける・・・!)
落としたい碇を持とうとして。

(!!)

背中に激痛が走り、視界が歪む。
更に受け身をとれずに顔から地面に叩きつけられる感触。

コン・・コンコン

通信機が外れ床に転がる音。
顔面からは冷たい床の感触。
動かせない身体。

「まったく・・・。流石娘さん、油断も隙も無いですね・・・。」
背中の方から、声。

(ああ~、バレて蹴っ飛ばされちゃったんだ・・・。やばいなあ・・・。)

そのまま首元を捕まれ持ち上げられる。
息が、出来ない。
「・・・・・・っ!」

その時男は転がった通信機に気付いた。

「・・・おや、通信機ですか。これで連絡を取れるのですね・・・。貴女にも聞こえるように外部スピーカーに通してあげますよ・・・。」

僕を壁に向かってほおりなげ男は落ちた通信機を拾い操作を始める。

ガッ

壁に頭を強打する音。
朦朧とする意識の中。

『あー、こちらジェリーフィッシュ快賊団本部、だ。』

スピーカーからジョニーの声が聞こえだした。




(ジョニー・・・。)

今こんなところで倒れている自分が情けなくって。
馬鹿みたいで・・・・。
ジョニーに迷惑かかっちゃったな・・・。
嫌われちゃうの、かな。
そう思ったら知らずうちに、涙があふれてくる。
泣いている場合じゃないのに。
何とかしなくちゃいけないのに・・・。

「ジェリーフィッシュ快賊団の、ジョニー、ですね?」
男はゆっくりとスピーカーに向かって話し始めた。

『呼ばれざるお客が応答をしているようだな?確かに俺がジョニーだが。何かようでもあるのかな?』

いつもの調子の声が響く。
それが無性に悲しかった。

「君の所の娘さんをこちらで預かっているのだが?」
『娘?俺に娘はいないなあ。』
「・・・・赤い快賊団の衣装を身に纏っている子なのだが。気のせいならこちらで処分するが?良いのかな?」

ジョニーの返事が、怖い。
そんなことないって思ってるけど・・・。

(処分して良い、なんて言わないよね?)

『あーあ。うちの姫さんのことか。なかなか手がつけられんだろう。だが、損害手当は出ないぜ?』

(・・・・何か、ひどい事言われてる気がするんだけど・・・・。)

相手もジョニーの態度に苛ついてきたのか、不機嫌な様子を隠さず話を進める。

「・・・・取引、といこうじゃないか。私達はこの娘を返す、君は私達から奪った物をそうだな・・・、10倍にして返す、というのは。」
『ずいぶんとぼってるねえ。欲の出しすぎは身を滅ぼすぜ。』
「・・・受けてくれるね?それでは24時間時間を与えよう。それまでに金を用意してくれ。」

取引が、まとまった。

(ごめん・・・ジョニー。)

再び涙が流れ出る。
しかし、その時スピーカーから思わぬ言葉が流れた。

『24時間後?それは無理なんだなあ。』
「・・・娘がどうなっても良いと?」

「いーや?」

そのジョニーの声はスピーカーからは聞こえてこなかった。
そして


ドガッ 


何かがぶつかる音


ガラガラガラ


正面の壁の壊れる音。
その渦中にいたのは



「もう迎えにきてしまったんでね。」



日本刀を構え、黒い服を身に纏ったジョニー。

「なっ!」

男達が驚いている間に、ジョニーは周りの約10人をなぎ倒す。
悲鳴を上げる間もないまま倒れていく彼ら。

「メイ、生きてるかー?」

(大丈夫だよ~!)
痛む身体に鞭をうって僕は何度も頷いた。

その様子を見てジョニーは満足そうに微笑むと、ボクの方へと歩み寄ってきた。
その時。

「じょにいいいいいいい!!」

狂ったような目を向けて。
残った男-領主がボクの方に向かって銃を突きつけてきた。

「動くなああああ!お前は金を持ってくりゃあ良いんだよおお!」

ジョニーはそれを一瞥する。
白銀の軌跡。
その瞬間。


「うぐああああああ!」


男の銃のトリガーを握っていた方の手首から下が床に落ちた。
手首を押さえてうずくまる男に日本刀を構えながら近づくと。




「そういうデンジャラスな行動は。」




Jの字を書くように相手を切り裂いて。




「寿命を、縮めるだけだぜ?」




刀を鞘にしまうと同時に相手が切り裂かれたところから起爆し、倒れ込んだ。

「まったく・・・。たてるか?メイ。」
ジョニーが壁に寄りかかっている状態の僕に向かって、手をさしのべた。

「う・・・うん。」

まだ多少のしびれと、激突のダメージから体を動かすのは辛かったが。
ボクはその手を取って立ち上がった。

「戻ってこいと言ったろ?」

優しく咎めるジョニー。
その優しさに、また、涙が流れた。

「だってー。ジョニーに、ジョニーに認めて欲しかったんだもん~!」

そのままジョニーのコートに顔をうずめて泣き続けた。
そんなボクの頭を撫で続けてくれる大きい手。
・・・ボクは、何時になったらジョニーに女の人、として見てもらえるようになるんだろうか?

「・・・メイ。俺はちゃんとお前さんのことを認めているんだがな?」
ジョニーが苦笑し、そう答える。

(違うの!)

顔を上げて、ジョニーをしっかりと見上げて。
「ボクはこんなにジョニーが好きなのにい!ジョニーは何時も子供扱いして、ボクはジョニーのなんなのさ!」

今、一番聞きたい答。
お父さんじゃなく。
お兄さんじゃなく。
ボクを1人の人として扱って欲しいから。
ジョニーは膝をついてボクと目線が合う高さになる。
手は、今だ頭の上に乗っけたままで。

「メイ。今はまだ保護者、じゃ駄目なのか?」
「駄目。」

言い切ったボクの答えにやっぱり笑っているジョニー。
いつでもこの余裕な態度を崩さない。

「お前さんがもう少し大きくなったらな。」




それでも。




「充分大きいもん!」
「・・・じゃあ、あと3年。3年たったら・・・。」




その余裕を、いつか崩してみたい。




「なんで今じゃ駄目なのさっ!」




ボクのことで、余裕が無くなるジョニーを見たい。




「・・・秘密♪」
「ジョニー!」

やっぱり笑っているだけなジョニー。
この人の考えがスベテ分かる日は来るのかな?

「ほら、もう帰るぞ。」

そう言って、ボクをおんぶする。
背中が暖かい。
でも。

「・・・・お姫様だっこがいい・・・。」
もっとジョニーの顔を見ていたいから。

「我が儘な姫さんだ。」
笑ってボクを前に抱え直す。

その隙をついて、ボクはジョニーの頬に自分の唇を押しつけた。
しっかりと瞳をぶつけて、言う。

「諦めないんだからあ!」





いつか・・・・きっと。






はい。というわけで真面目に書いてみたジョニメイです、が。ひどい出来だ・・(泣)ジョニーの口調がわからんは、話はすすまんは、書きたかった場面は文章力がおっついてないは・・・。抗議メール、とか貰っちゃいそうだな・・・。しかし、なんでジョニメイの話ってネット上であんまり見かけないんでしょう?沢山あれば、書こう、なんて思わなかったかもしれないのに(泣)。













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