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荒野の白き



最後に会ったのは確か、俺が軍を辞めたときだったか―――代王とし
て玉座に座ったクシャナはそりゃあ綺麗なもんだった。


「…ま、先王と比べりゃ当然か」
「は?」
預かり書に署名しながら呟くと、目の前で輸送代の折半分を数えてい
た男がその丸い顔を上げた。
「―――いや、なんでもねえ。じゃあ確かにこの荷物、俺が預かったぜ」
「ああ、よろしく頼むよ。途中腐海もあるがあんたなら安心だ」
「腐海…ねぇ、ほいじゃまあ気ぃつけて行くとしますか」
俺はそう言って袋の中身を確かめると、キャノピーを開けシップに乗った。


あの後―――つまり俺が辺境派遣軍参謀の肩書きを持っていた頃に
起きた諸々の出来事の最後、ヴ王は禅譲を宣言し、トルメキア帝国
の王位は第四皇女であるクシャナが継承する事になった―――いや、
なるのだと誰もが、勿論この俺も、思っていた。
だから帝都に戻ったクシャナが、『王位は継がぬ』と言ったときはちょっと
した混乱が起きたんだが、『王制を廃し共和制への転換を』ってえクシ
ャナの考えにこれといった対案を見つけられなかったお偉方は、渋々な
がらも共和制への移行を認めざるを得なかった。
クシャナは共和制旗揚げの評議会議員選出を最後に国政から身を
退くつもりだったらしいが、そこはクシャナのあの人気だ。民草がそれを
認める訳もなく、クシャナ自身もユパ殿の最期の言葉を忘れていなか
ったんだろう。とりあえず代王として新体制が整うまで残る事になった。

『なにかの冗談かと思ったのだが、こうしてここにおまえが来たという事は
どうやら本気で除隊を願い出た様だな、クロトワ』
『殿下の―――失礼、代王の共和制移行のお言葉を聴いたときは
自分もなにかの冗談かと思いましたよ』
『は!まあいい、下らん言葉遊びはこのくらいにして理由を聞かせて貰
おうか、何故だ?』
『参りましたな、理由が必要ですか』
『おまえに密使としての話を持ちかけた父上や兄上達はもういないのだ、
その身に危険が及ぶ事はまずなかろう。となるとおまえの除隊理由にま
るで見当がつかん』
『いやなに、殿下が代王として軍籍を離れられたのが思いの外堪えた、
それだけの話ですよ』
俺がそう言って口端を上げると、クシャナは軽くその手を振り、わかった、
無理には訊かん、と小さく笑った。


「理由か…今考えてもなにも出てこねぇな」
クシャナの言うとおり、もうそっちの心配はねえって事はわかっていた。そ
してあのまま巧く立ち回ってりゃそれなりな肩書きと保障が約束された
だろうって事も、勿論わかっていた。
ただなんてえのか―――漠然とした不安みたいなものは確かにあった。
恐らくそれまでの自分には無かったなにか、微妙に変わった自分の中
のなにかが下らん躊躇を誘う事を、無意識に恐れたのかも知れねえ。
「―――余計なもんを見過ぎちまった、ってヤツか?」
まあいいさ、こうして自由気ままに空飛んでるのも嫌いじゃないしな、そ
う言い訳じみた台詞を洩らして座席から身体を起こすと、その視界の
端にちらりと一つ、影が揺れた。
「…なんだ?蟲―――じゃねえな…人間か?それにしたってこんな荒
地のど真ん中で―――」

俺がキャノピーを開けて顔を出すと、影の主は日除けに掲げていたその
手を下ろして口端を持ち上げた。
「殿下―――いや、代王。こんな所で…しかもお一人で、一体なにな
さってるんです」
「貴様こそ軍を辞めてなにをしているのかと思えば…これはおまえのシッ
プか、クロトワ」
「はあ。まあ小型じゃありますが、多少の無理がきくもんで―――」
「そうか。なら丁度いい、乗せてくれ」
「―――は?」
俺が間の抜けた声を上げると、クシャナは肩に担いでいた荷物を後部
ハッチに投げ入れながら、金は払う、案ずるな、と笑った。
「いえ、金の事は―――まあ折角なんで頂きますが、そうじゃなくて、代
王ともあろうお方がそんな軽装で供も連れずにどこへ行くってんですか」
「そう次から次へと質問するな、順に答える。まず今の私は代王ではな
い。だから私が一人どこでなにをしようと問題はないだろう。あとは『こん
な所でなにをしているか』だったか?簡単だ。ここから三刻程北で乗って
来たシップが動かなくなった、それだけだ。他にまだなにかあったか?」
「…『どこへ行くってんですか』が、残ってますな」
両手を上げ肩を竦めてそう言うと、タラップに足をかけていたクシャナはこ
っちを振り返って、あの娘に会いに風の谷まで、と答えた。

クシャナがあの頃の様に操縦桿を握る俺の後方の座席に身体を据え
たのを見て、俺は小さく喉を鳴らした。
「どうした」
「いや、懐古趣味なんてガラじゃないんですが…俺も歳取ったって事で
すかね」
「なんの話だ」
「だからあの除隊理由もまるで出まかせって訳じゃなかったって話ですよ」
背中越しにそう言うとクシャナは、だからなんの話なのだ、と繰り返した。


ちらりと目をやったその肩には、あの頃と同じ白いマントが掛かっている。
それは玉座に座したクシャナのそれと比べると随分みすぼらしい物だっ
たが、それでもこの荒野でその姿を見つけるのには、十分な代物だった。



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