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「―――自分が、ですか」
「そう言ったつもりだが。おまえにそう聞こえなかったのなら、私の言葉が
足りなかったのかも知れんな―――」
「とんでもない、ただ本国への報告程度ならなにも俺でなくても事は足
りるんじゃあないかと思いましてね」
「『ただの報告』にはならんだろう。なにしろ本国のあの連中、下らん矜
持とやらを後生大事にしている様な馬鹿共ばかりだからな」
「…まあ、否めませんがね―――いえ、自分はそのような評を下す立
場にはありませんので、なんとも」
「…はは!だから貴様のような狸が相手で丁度いいのだ、クロトワ!」
「…そりゃ…自分にゃあ勿体ないお言葉で、殿下」


往復二日、報告に三日―――五日間に及ぶ任務を、クシャナ言うと
ころの『馬鹿共』相手にこなすのはやはりそれなりの激務だった。
「…あのジジイ共」
まったく、思い出してもむかっ腹の立つ。
結局のところ奴等も、現況報告とそれに基づいてクシャナが決定した
事項について文句のつけ様などないことはよくわかってるんだろう。
そう、わかっている。わかっていてそれでも、勿体ぶった態度で、礼儀上
だけはまだ奴等の同意を得なきゃならねえこっちの事情を盾に、ああだ
こうだと口をはさむ―――しかも最後は奴等お得意の嫌味付きで。
『あの方も我等の同意を求めるならば自ら足を運ぶのが道理であろう』
『このような所にわざわざおいで下さる程お暇ではないということでは?』
『ああなる程。それ故古参の参謀殿を遣わされたのだな』
『だが肩書きだけで使者の人選をなさるとは…まったく殿下らしい!』
『おや、それでは我等が彼の出自を問うている様ではありませんか』
『いやこれは済まぬ。どうかお気を悪くなされるな』
『いえ―――本来ならば、自分の様な平民出はこのような宮中深くへ
足を踏み入れること許されぬ身。それをこうして快くお迎え下さった閣
下のお心遣い、誠に痛み入ります』
そうして深く頭を下げた俺を見ると奴等は満足そうな笑みを浮かべた。

俺自身、ああいう事にはもう慣れて別段どうとも思わなくなっちまった。
それでもあんな胸の悪くなる様な顔を見ながら高価な酒を飲むよりゃ、
宿営地への帰途、どこかの店でいい女と談笑しながら飲む安酒の方
がよっぽど美味いだろう。
「―――ああクソ、今日はどこまでもついてねぇな」
俺があたりをつけていたその小国は、どうやら腐海に沈んだらしい。
「…ついてねぇのは、この国の連中か。まあこればっかりはどうにもならね
えからな」
眼下に広がる亡国の跡地に一瞥くれて、俺はそこを後にした。

「―――これは参謀殿!帰営は明晩の予定では?」
「まあいろいろあってな」
曖昧に返して窓のむこうに目を向けると、クシャナの部屋に灯が見えた。
「殿下はまだお休みではないのか?」
「はっ!先程食事を終えられ、今はお部屋で古文書をお読みです」
「そうか。ならば帰営のご報告だけでもしておこう」
部下にそう告げ廊下を進む内に、本国での三日間で腹の底に溜まっ
たどす黒い澱の様な物がふいにその存在を消した。
懐かしの我が家、か…俺は喉の奥で小さく笑って部屋のドアを叩いた。
「殿下、おくつろぎのところ失礼します」
返事のないそのドアに首を捻りながらもう一度それを繰り返すと、今度
は微かに返事らしいものが耳に届いた。
「殿下―――ああ、お休みでしたか。じゃあ明日また出直して―――」
「…クロトワか」
クシャナは背もたれに身体を預ける格好で、うすく目を開けそう呟いた。
「この馬鹿者…あの程度の連中を言いくるめるのにどれだけかかってい
るのだ」
「これでも殿下の仰った期日には間に合わせたつもりなんですがね…」
「おかげでこちらは普段おまえが片手間に揮う人事の采配に要らぬ労
を費やして、ほとほと疲れた…」
「そりゃあ申し訳ありませんでした」
苦笑いしながら椅子の前に進み出ると彼女は、どうかしているな、と言
葉を継いだ。
「は?」
「その程度の事でこうしておまえの夢…幻、を…みるとは」
「―――殿下、ちょっと失礼しますよ」
そう断って身体を屈めると、クシャナは目を閉じて規則正しい寝息をた
てている。
「やっぱりな…眠ってやがらぁ。ハッ!道理で随分可愛らしい事言ってく
れると思ったぜ」
声を殺して笑いながら屈めた身体を起こそうとして、ほの白いその肌が
目の端に留まった。
「なにも…外で安酒ひっかけてくることはねぇな。ここに帰ってくりゃそれな
りの酒と―――ちょっと見ねぇ様ないい女が揃ってらあ」
そう言って、椅子の横の小さな机に置かれた酒を一杯煽る。
無意識に、自分の右手がクシャナのその顔に伸びているのに気がつい
て、俺は薄明りの中暫く、それを他人の手でも見るようにみつめていた。

「―――おい!さっきのおまえ、ちょっと来い!」
「は!なんでありましょうか、参謀殿!」
「いいか、今日俺が帰営したことは誰にも言うな―――つまり今夜俺
はここに居なかったってことだ。わかったな」
「…は?」
「俺は当初の予定通り、明晩帰営する。わかったな?復唱してみろ」
「は…『参謀殿は予定通り、明晩帰営される』…で?」
「よし、それでいい。それとさっきのシップを出しておけ。直ぐに出る」
「は…承知、しました…」


不思議そうな顔で下がったそいつの後姿を見送って俺は天井を仰いだ。
「まったく―――『どうかしてる』のは俺の方だぜ…」






畏れ多くも、風の谷のナウシカで『クロトワとクシャナ殿下』を。
冷静に考えてみるとこの二人に胸が高鳴らなかったいままでの私が
おかしい。(冷静に考えてそれですか)
クロトワの「なにがあったんだか知らねえが…可愛くなっちゃってまぁ」は、
なんとも優しくていやらしくて最高です。
補足すると、もちろんクロトワは殿下に手を出したりはしてません。
ただ自分の中にそういう感情もあったということに驚いてるだけです。



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