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おじさんとボク (6)






お父さんにお母さんの写真を見せてもらったのは

ロボが完成するちょっと前のことだった。




ボクのお母さんはボクが生まれてすぐに、お父さんのロボット研究の事故で死んじゃったんだ。お父さんが目にケガしてるのはその事故のせいで・・・ううんこれはいいや、お父さんあんまし話さないから。つまりすぐに死んじゃったから・・・だからお母さんがどんな人だったのか、顔とか声とかボクは何にも覚えて無い。

「これがボクのお母さん?」

「そうだよ、もうこの写真一枚しか残っていないけどお前の母さんだよ。いつかお前に見せようと思っていたんだ・・・」

「ふうん・・・」

だからなのか・・・お父さんにその日初めておかあさんの写真を見せてもらったとき「この人がお母さんなんだ」ってくらいしか思わなかった。

「お前が生まれたとき、もちろん私は嬉しかったけどお母さんは綺麗な涙を流して喜んでいてね。その顔を見て・・・お前が生まれてきてくれて本当に良かったって思ったんだよ」

「そうなんだ」

でもお母さんを知らなくても、お父さんのその言葉はお母さんを好きにさせてくれた。それにボクにとってうれしいような、身体がムズムズしてはずかしいような・・・胸をはって「えっへん」って威張りたくなるようなとても・・・何て言っていいのかわかんないけどそんな気持ちでいっぱいにしてくれたんだ。









「ねぇねぇセルバンテスのおじさん」

ボクはこの前見せてもらったお母さんの写真を、お父さんの財布からこっそりとってきた。セルバンテスのおじさんにも見て欲しくって、ロボを作ってる「かくのうこ」って言うところにいたからそこで見せてあげたんだ。

「ほぉ、この人が大作君のお母さんなのかね?とても綺麗な女性だねぇ」

でしょ?えへへ

「お母さんが抱っこしてる赤ちゃん、ボクなんだよ」

「うん、わかるよ。だって大作君にそっくりだ」

「えーボクこんな真っ赤なお猿さんみたいな顔してないよ?」

「はははは、すまなかったね。でもそっくりだと思うよ?ふふふ」

おじさんにお父さんから言われたことを教えてあげた。
お母さんがとっても喜んでくれてお父さんも喜んでくれて
それを知ったボクが「えっへん」っていう気持ちになったってことも。

「それは羨ましい・・・そう思えることは、とても貴重で幸せなことなんだよ大作君」

きちょう?

「欲しくてもどこにも売ってないってことだ」

ふうん

「大作君、その気持ち・・・忘れてはいけないよ」

「うん」

ボクに言い聞かせるように言うおじさんは、ちょっとだけ遠くを見てるような顔だった。でもいつもの笑顔で「こっそり持って来たんだろう?無くさないように返してきたまえ」って写真をボクの手に丁寧に返してくれた。

そうなんだ、この写真こっちに来る時お父さんがたった一つだけ持って来たモノなんだ。だからどれだけ大切にしてたかってボクにもわかる。ボクはズボンのポケットに入れて、れんらくつうろを走って大急ぎで部屋に戻った。そして机の上にあるお父さんの財布の中にもどそうとしたんだけど・・・


「あ・・・あれ?」








「おや?大作君、どうしたんだいそんなところで。かくれんぼかね?」

あ・・・おじさん・・・。

「かくれんぼならおじさんも得意だよー?・・・え?違う?」

ボクはおじさんに写真をどこかに落としちゃってなくしたことを言った。どこを探してもぜんぜん写真が見つからないんだ、どうしよう!あれ、お父さんがとても大切にしてるのに!たった一枚のボクのお母さんの写真なのに!

どうしよう!どうしよう!どう・・・しよう・・・

「大作君泣かなくてもいいからね、よし私も一緒に探してあげよう」

「ほんと?おじさんありがとう・・・・」

おじさんボクの頭をなでてくれた。よかった・・・おじさんに言って。

それからおじさんはボクといっしょになって写真を探してくれることになった。ロボをつくってる「かくのうこ」からボクが住んでいる「きょじゅうく」まではそんなに離れて無いんだけどつうろがいっぱいあって、機械もたくさん並んでるからすごくゴチャゴチャしてるんだ。それに、つうろって言っても高いところにある網のみたいなところもあって・・・もし風で飛ばされたりしてたら・・・

「ううーん・・・ここにも無いねぇ・・・うおわ!ゴ、ゴキブリ!」

おじさんはあの真っ白なクフィーヤっていう布が汚れるのもかまわないで床にペタってなってすきまをのぞきこんだり、高いところにジャンプしてクモの巣を頭につけたり。本当にいっしょうけんめいボクのために写真を探してくれた。

でもやっぱり、いくら探しても見つからないんだ。

もし・・・このまま見つからなかったらどうしよう・・・・。
きっとお父さん怒るだろうな・・・ううん、怒るけどがっかりして悲しむだろうな・・・。
ボクのせいだ、ボクがかってに持ち出したから・・・。

「もういいよ・・・ごめんねおじさん、それにありがとう」

「大作君・・・」

ボクはお父さんにあやまろうって決めたんだ。あやまるのすっごく恐いけど、でも・・・これはちゃんとあやまらないとダメなんだって思ったから。

「うん、そうだね。エライぞ大作君。でも、もう少しおじさんに探させてくれないかね?お父さんもまだお仕事中だし、終わるまで時間があるだろ?それからでも良いと私は思うのだがね」

ホコリで真っ黒になっちゃったスーツのおじさんは機械のすきまに手をつっこみながらそう言った。ボクは・・・そんなおじさんの姿を見てたら「まだ探さなきゃ」って思っておじさんといっしょに写真を探すことにした。




けっきょく・・・夕方になっても写真は見つからなくって
ボクとおじさんは体中真っ黒になって、つかれてつうろに座った。おじさんはとても申し訳無さそうな顔して「見つけてあげられなくて・・・すまないね」ってボクにあやまってきた。

「・・・おじさんさ、どうしてボクにいっしょうけんめいになってくれるの?」

だって、真っ黒なおじさん見てるとそう思ったんだ。

「ん?・・・大切なお母さんの写真だろう?それにおじさんは暇人なんだよ、ははははは」

もう、また笑ってごまかした。ボクわかるんだからね、ちゃんと答えてないって。

「まいったな、大作君には適わないよ。そうだねぇ、おじさんには子どもがいないから・・・大作君が可愛くて仕方が無いんだろうね」

だから?うーん・・・よくわかんないんだけど。

「わからなくてもいいんだよ」

ボクについたホコリを大きな手で払いながら、おじさんは最後にボクの頭をクシャクシャとなでまわした。うん、よくわからない。どうしてなのか理由が。

でも

「写真が無くなってもお父さんは怒らないと、私は思うね」

「え、とっても大切にしてたんだよ?」

「確かに大切にしていたのなら少しがっかりするかもしれないけど、大丈夫だ」

「そうかなぁ」

「本当は写真がある無い自体に価値はそれほど無いのだよ。写真が無くてもお父さんとお母さんとの間にできた大作君がちゃんといるじゃないか。そんな一番大切な大作君が胸を張りたくなる、誇らしい気持ちでいられるのだから・・・仮に私が大作君のお父さんだったら写真が無くなっても問題無い」

その時のおじさんの笑顔が

「だから、大丈夫だ」

ボクを「えっへん」って気持ちにさせてくれてた。








お父さんのお仕事が終わったのはその後すぐで、ボクはおじさんにいっしょに付いててもらいながら「かくのうこ」へあやまりに行った。「ここで見ていてあげるから」って少しはなれた場所におじさんを残してボクはお父さんに・・・

「ごめんなさい・・・お父さん」

ゲンコツがとんでくるかなってビクビクしてた。けどおとうさんの溜め息が聞こえただけで、見上げたらちょっと残念そうな・・・少しさびしそうな顔があった。それ見てボクはすっごく・・・すごく悪かったなぁって思って泣きたくなった。お父さんほんとうにごめんね。

「そうか・・・無くなってしまったのなら仕方が無い。でも大作、随分と一生懸命探してくれたんだな」

え?あ・・・・うん。洗濯物ふやしちゃったかも・・・。

「写真が無いのは少し寂しいが」

しゃがんでボクの目をまっすぐ見て

「お前を見れば写真が無くても幸せそうなお母さんを思い出せる」

そう言ってくれたお父さんに、ボクは言ってあげなきゃって思ったんだ

「あのさ、お父さん。ボクが生まれてきた時のお母さんの話してくれた時、ボク「えっへん」って気持ちになったよ!」

「そうか・・・ありがとう大作」

お父さんは力いっぱいボクを抱きしめてくれた。
うん、ボクは「えっへん」って気持ちになる。
その気持ちでボクはいっぱいになるんだ。
それはとってもきちょうで幸せなことだって・・・そうだ・・・

「おじさんもいっしょに探してくれたんだよ。ねぇおじさ・・・・」

あれ?

さっきまでいたはずのおじさんは、いつの間にか・・・・いなくなってた・・・。







お父さんに抱きしめられながらボクは上を見た。
あと少しで完成するロボを見ながら
今度セルバンテスのおじさんに会ったら言おうって決めた。


ボクの「えっへん」って気持ちは

お父さんとお母さんと、そして

おじさんがいてくれるからだって。








END






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