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「料理はできた方が絶対に良い」

そう言ったのはカワラザキ。



包丁を持てるようになった年齢になったので早い花嫁修業というわけでもないがたしなみの一つとしてサニーに料理のイロハを教えるよう樊瑞に勧めたのであった。当然樊瑞は料理などできない、そこでカワラザキが「あの男に任せればいい」とイワンを推挙したので彼に任せることにした。

そのためサニーは最近イワンと一緒にアルベルトの屋敷の厨房に立つようになった。

ちなみに、実の親であるアルベルトは「好きにしろ」の一言で済ませ、縁を切った娘が我が屋敷に出入りするようになったことに対して、それ以上何も言わなかった。




---話はそれる

イワンはアルベルトの部下であるB級エージェント。
部下といっても部下の領分を超えてアルベルト個人の身辺サポートも兼ねている。
本来BF団では「個人の私兵」は固く禁じている。派閥による内紛や反乱、また一枚岩でなければならない組織内の二次勢力形成を恐れたからである。そのためこのイワンの扱いは問題視されるかと思われた・・・が。

しかし彼は私兵というわけでもなく、またアルベルト自身イワンを「私兵」という意味で扱っているわけでもない。そもそも彼は「私兵」などを必要とする男でもなかったからだ。そんなアルベルトの性格を誰もがよく知っているからこそ、特に問題になるわけもなくBF団でも暗黙の了解のうちに「衝撃お気に入りのB級」という形になっていた。

このイワン、なかなか器用な男で本来の複雑な機械・機器類を容易く扱う優れた能力でB級の座であるのだが、ピアノは弾けるしどこで覚えたのかバーテンダーよろしくシェイカーも振れるらしい。そして料理はプロ級、いやそのままホテルのシェフとなってもおかしくない腕前。貴族の出である舌の肥えたアルベルトを満足させる男でもある。さらに

「私ごときB級が十傑集であられますアルベルト様のお側で使っていただけるだけでも・・・」

と、本来の性格なのか目上に対して非常に腰が低い。そして自分を良くわきまえ誠実に、忠実に主人に尽くす。いわばアルベルトという男にとって最も最適な部下とも言える。

---本題。



B級からすれば雲の上の存在でもある大幹部の十傑集、しかもそのリーダーたる男からの直接の頼みでイワンは当初は困惑していた。アルベルトの娘に料理指導ということだが、あくまでもB級エージェントである自分よりもBF団内の料理番に・・・と恐る恐る言ってみたが十傑集リーダーに「任務の合間だけでいい、頼む」と頭を下げられてしまった。





サニーは野菜の単純なカットならできるようになった。
味付けを教わってシンプルなスープも作れるようになる。
それをたまに私邸へと戻ってくるアルベルトの食卓に出してみた・・・

「サニー様が作られたスープです」

アルベルトは何も言わず黙々とスープを口にする。
特に感想は述べない。

「アルベルト様はご不満がある時だけその旨を仰られます、きっとお口に合うのですよ」

イワンは何も言わないアルベルトに不安げな顔になったサニーに苦笑まじりに言った。




そうして数週間後。




「イワン、わたしオムレツを作りたいの、作り方教えて欲しい・・・」

そう言いだしたのは卵を綺麗に割れるようになってからだった。

「オムレツは簡単そうに見えますが、とても難しいのですよ?」

「・・・でも作れるようになりたいの」

イワンは卵料理が、とくにシンプルなオムレツがアルベルトの好物であることを思い出す。サニーは以前、セルバンテスからそのことを聞いて(『食事の風景』参照)知っていたのだった。

「わかりました・・・でも本当に難しいのですよ?頑張れますか?サニー様」

「うん・・・じゃなかった、はい、がんばるわ。ありがとうイワン」


その日からサニーの猛特訓が始まった。
積み重なる卵の殻。
味付けはイワンに教えてもらったとおり。
難関はオムレツの「焼き」だった。

焦げ付いたり、硬すぎたり、ボロボロに崩れたり。

サニーはイワンの言う「とても難しい」の意味がよくわかった。
簡単そうに思えたのに、作れば作るほどその難しさを実感していく。
それでも何とか「それなりのカタチのオムレツ」を作ってみた。

「うーん・・・たぶんアルベルト様はお口になされないでしょう」

「・・・・・・・」

カタチはそれなりでもいびつで色にムラがあり、そしてへたれていた。
サニーは俯いていたが再び卵に手を伸ばした。




1ヶ月が経った頃、ようやくイワンからお墨付きをもらえるオムレツを作れるようになった。


「ここまでよく上手にオムレツを作れるようになりましたね、ご立派です」

イワンはサニーが作ったオムレツを食べ強く頷く。
ふっくらとした卵のボリューム、バターとの滑らかな舌触り。
100点満点とは言わなくても、それはアルベルトのいる食卓に出せるくらいには十分な出来ばえだった。

「今夜はセルバンテス様もご一緒になるそうです、サニー様のオムレツをお2人に食べていただきましょう」

サニーは俄然やる気が湧いてきたのか満面笑顔になってエプロンを腰に結んだ。そして手馴れた手つきで自分とイワンの分も含め4つのオムレツを作り出す。それは今まで何度も何度も何度も練習したおかげで、4つとも同じ綺麗な形の黄金色のオムレツだった。





「いやーサニーちゃんの手料理を食べられる日が来るなんてねぇ、ついこの前までこんなに小さかったのにサニーちゃんも大きくなったということかな、はははは」

セルバンテスはニコニコしながら食前酒のワインを口にする。
囲まれる食卓に並べられ行くサニーの自信作のオムレツ。

「おお!これサニーちゃんが作ったのかね?凄いよオムレツはとっても難しいって聞いたけど随分と練習したんじゃないのかい?レストランでもこんなに綺麗なオムレツは出ないよ?とっても美味しそうだ」

嬉しい感想を口にしてくれるセルバンテス、サニーは少し得意な気持ちになる。
しかしアルベルトの表情を覗うが変わらずいつもの仏頂面があり、ワインを飲むばかりで先ほどからずっと無言のまま。

「いただきまーす!」

真っ先にセルバンテスはオムレツにパクついて「美味しい」を連呼。
セルバンテスの皿はあっという間に綺麗になった。

そしてアルベルトはというと・・・黙々とオムレツを口に運んでいる。
サニーはドキドキしながら父親が何か言ってくれるのではないかと期待してみていたが・・・彼は半分ほど食べてフォークとナイフを置いてしまった。

「・・・・・塩が足りん、ひとつまみほどだ」

そう言って半分残したまま席を立ち奥の書斎へ引っ込んでしまった。
サニーの瞳からボロボロと涙がこぼれる。

「サ、サニー様・・・」
「ひっどいやつだなアルベルトは、サニーちゃんが一生懸命作ったのに・・・」

声をあげて泣くサニーに2人はオロオロするばかりだった。




少し落ち着いてサニーは2人に囲まれて厨房にいる。

「しかし、おかしいですね、味付けはいつも私が作るものと同じのはず。アルベルト様にご不満は無いはずなのですが・・・」

「私も結構グルメなんだけど、サニーちゃんのオムレツはとてもおいしかったけどねぇ、彼は歳で味覚がおかしくなっちゃったんじゃないのかね」

同い年であるはずのセルバンテスがカラカラと笑う。

「・・・そ、それはわかりかねますが味だけお言葉があるということは『焼き』自体に問題はないはずですし・・・サニー様?」

サニーは再び卵を手に取っていた。

「わたし、言われたとおりもう一度作る」

父親譲りの意志の強さが発揮されたのかサニーはへこたれてはいなかった。
一回大きく深呼吸してから手慣れた手つきで卵を割る。そしてイワン直伝の味付けに・・・アルベルトの注文どおり塩をひとつまみ。慎重にバターが溶けたフライパンに流し込み、大きなフライパンをヨイショとひっくり返す。

2人が目を見開く前で新たに作り直されたオムレツは、見た目にはさっきのと何ら変わりは無い。まさしく黄金色の輝くオムレツ。

「お父様の所へ持っていくわ」

心配そうに見送るしかできない2人だった。





一度大きく深呼吸。
オムレツを落さないように慎重に左手でアルベルトのいる書斎の扉をノックする。
「入れ」と一言聞こえ、恐る恐る中に入るとアルベルトは机に向っていた。

「言われたとおり・・・塩をひとつまみ加えました・・・その・・・」

鋭い目つきを前におずおずと作り直したオムレツを差し出す。
アルベルトは何も言わずそれを受け取りフォークだけで口にした。

「・・・・・・・」

サニーはダメ出しが出れば再び作り直す気でここにいる。
何度でも作り直す気でここにいる。

しかし、結局何も言われないまま皿は綺麗になった。

「あ・・・・」

サニーは父親の顔を思わず見る。
アルベルトは真っ直ぐサニーの目を見て



「いいか、この味をよく覚えておけ」



そう言ったきり机に向きなおした。






厨房で待っていた2人に笑顔で綺麗になった皿を見せる。

「いやーサニーちゃん、やったじゃないか」
「サニー様、安心いたしました!」

2人から頭を撫でられながら綺麗になった皿を見てサニーは最高の気分だった。

「しかしいつもの味であるのに、何の不満があったんだろうねアルベルトは」
「さあ・・・サニー様をお試しになられたのでは?」
「そうかね~そんなことする男じゃないと思うよ?」
「それでは・・・」
「うーん・・・サニーちゃん申し訳無いのだけどもう一度作ってもらえないかな」

サニーは頷いてオムレツをつくる、塩をひとつまみ加えた味のオムレツを。

それを半分づつイワンとセルバンテスはフォークで食べた。
味を噛み締めるように、そして確かめるように。
イワンは首をかしげる。
セルバンテスも首をかしげる。
しかしどこかで食べた事のある味だった、それもすいぶん昔のような気がする。
セルバンテスは目を閉じオムレツの味の記憶をたどる。



「ああ、なるほどね」

目を開けセルバンテスは笑う。








「これ、サニーちゃんのお母さんの味だよ」







END






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