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うろほろぞ
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ある朝、アシェラッドはトルフィンを探していました。
さあこれから北進と思っていたのですが、行軍の行く手にどうやら野盗の一団がいるらしく、いつものようにトルフィンを便利に使って邪魔者を蹴散らすつもりでした。
本当にトルフィンは営業社員における携帯電話のように便利な存在です。
「おーい、トルフィーン」
 犬を呼ぶように両手でメガホンを作って呼んでみました。トルフィンは出てきません。
「トルフィーン!おいしいごはんだよー」
「トルフィーン!散歩だよー」
 いろいろと台詞を変えてみましたがやはり姿を見せません。五回目ぐらいの呼びかけで「はーい」と誰かが野太い声でふざけたので、もう呼ぶのはやめました。
「とうとう、あいつ逃げたかな。」
 アシェラッドはふむ、と興味なさげに禿頭を掻きました。
「いや、今のタイミングはおかしいな」
 荒ぶる猛者が集く(すだく)傭兵団に加わり、負けても負けても負けても負けても諦めず目をらんらんとさせて決闘を申し込んでいたあのトルフィンが、特に状況が変わったところがあるでもなし、このタイミングで逃げ出すのはおかしいのです。
 そう、傭兵団の状況にさしてかわったところはありません。
では変わったとしたら、トルフィンに何かあったのでしょうか。 昨日までみたところ、特に変わったところはないように思えたのですが。 アシェラッドは駐屯地の外れまで来て川を見ながらうーん、と首を傾げました。 そのときがさ、と草が揺れる音がしたのです。

 川べりに、蒲の穂で身を隠すようにして小柄な背中がうずくまっていました。
ああ、なんだここにいたのか、とアシェラッドは思いました。長いクソだな、とも思いました。
「おい、トルフィン、仕事…」
 と声をかけるとトルフィンはびくっと身体を揺らしました。でも、こちらを向きませんでした。
「後で聞く」
 それだけ言って彼はそこを動かないのでした。トルフィンが無愛想なのはいつものことですが、このときはその無愛想さも少し違って見えました。
「わかった。すぐこいよ」
 アシェラッドは回れ右しました。と、見せかけて、そおっと蒲の穂を掻き分けトルフィンに近づき肩をがしっとつかんだのです。
「うわあああ」
 珍しくトルフィンが慌てふためいて身をくねらせました。
「お前、こんなところで、センズリなんかしてんじゃねえーよ」
 はねのけられて痛む手を押さえながらもアシェラッドはくっくっくと、馬鹿にしたように笑いました。
「違う!そんなの、してない、したこともない」
 トルフィンは何かをあせって隠しながらアシェラッドにし、し、と追い払うしぐさをしました。 そんなことをしてもこのおじさんには逆効果です。
「何隠したんだ、ん?」
 アシェラッドはトルフィンの後ろに手を回し、彼がつかんでるものを取り上げようとしました。
「くっ…」
 トルフィンは足でアシェラッドの腹をけると、それを川に放り投げてしまいました。 よほど見られたくなかったようです。
 しかしそれはうまく川の流れに乗らず、よどみに嵌って水草にひっかかりました。
「下着?」
 アシェラッドは逃げようとするトルフィンの襟を捕まえたまま目を凝らしました。
「川で下着洗ってたのか」
「……」
「今、生装備か、お前」
 はっはっは、とアシェラッドは笑いました。行軍に着替えなどもって行きません。必要になったらその場その場で略奪するだけです。
「どうしたんだ、この年でおねしょしたわけでもあるまい。むしろお前の年ならきっと別の…」
「うわああああ」
 それ以上いうな、とばかりトルフィンは大声を出しました。アシェラッドはこの錯乱した子犬のような少年を少し可愛いなと思い始めました。
「いい夢でも見たのか、そうだろ」
 アシェラッドはトルフィンを摘み上げてうれしそうです。 トルフィンは顔を真っ赤にしていましたが、無理にぶっきらぼうな表情をつくると「違う」と答えます。そして何かを思い出したのか、威嚇するように精一杯の意地悪な笑みで
「ある意味、いい夢だが、お前の考えてるような夢とは違う」
 その瞳の殺意に気づいたアシェラッドは、おや、とでもいうように眉を開き、トルフィンに続きを促します。「殺したんだ、お前を」
「ほう」
「お前を殺す夢を見た」
「せめて夢だけでも勝ちたいものな」
「正夢だ。一撃のイメージは掴んだからな」
 口角をあげて毒づきますが、襟は猫のようにつかまれたままのトルフィンです。
「そうか、トルフィン」
アシェラッドはトルフィンに顔を近づけて年季の入った冷笑を見せました。
「お前は俺の夢を見て、夢精したんだな」
「聞き違いをするな、お前の死体だ」
せっかくの強がりも、この総領の前では氷解してしまいます。次の瞬間、トルフィンの視界が一回転しました。気づくと地面にうつぶせに押し付けられているのでした。
「な、何を…」
トルフィンは逃れようとしましたが、後ろ手に絡め取られて、動くことができません。ふと、自分の尻が外気に触れる感じがしました。気づくとズボンを下ろされているのです。何が起きるのかわからず、トルフィンは頭を打ったわけでもないのに目がちかちかしました。蚯蚓のように身体をくねらせて抵抗する少年を押さえつけながら、その中年は教え諭します。
「夢精は、自慰がきちんと出来てないからしてしまうんだ」
いちいち、下着を捨てていてはキリがないだろう。そんなことをアシェラッドは言ったような気がしますが、トルフィンはまったくパニックになっていて答えられません。
「俺がお前に方法を教えてやるよ」
アシェラッドは自分のズボンのベルトをはずそうとしましたが、すぐに思い直して、蒲の穂をひとつぶちっと折り取りました。
「この後、お前には仕事をしてもらうからな。今日はこれで我慢してやる」
 これからお前は俺を殺す事じゃなくて犯されることを思い出しながらズったらいいじゃないか。 下品なことを言いながら、アシェラッドの手に持ったものがトルフィンの尾?骨にぴたぴたとあてがわれました。



「殲滅してきた…」
トルフィンが汗だくの血まみれになりながら帰って来、傭兵たちは「待ちかねたぜ」とばかり進軍の準備を始めました。一方、アシェラッドは少し不服そうに
「ちょっと時間がかかったじゃないか」と口を窄めました。
「貴様、誰のせいで…っ」
「わかった、わかった。決闘してやるよ、今度」
 アシェラッドはトルフィンを宥めすかすと、「それともあっちのほうがいいか」といらんことを言ってまたトルフィンの激昂を買うのでした。
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早起きしすぎた早朝に。


ビョルンは今朝、少々早起きしてしまった。
休息の合間の乗っ取った村で雑魚寝するビョルンは、こんな日に、こんな朝焼けも少ししか見えていない時間に起きたことを真っ先に後悔した。
今朝は窓の縁び霜があるほど際立って寒く、まるで凶戦士のキノコを食べた時のような顔で起きたのもそのせいだ。顔のみばっちり見開いて、身体はどうにも凍り付いたように身動きがとれない。どうにもできないので、かれこれ二十分彼はそうしていた。
やっと日が出て来た頃に、身動ぎする音がした。自分は動けないから、やっと誰か起きたのだと、ビョルンは幾分ほぐれた見開いた目を、音の方へ向ける。
朝日に輝く神々しい額、あれはアシェラッドだ。
起き上がった彼は可哀相にも寂しい額に布団を頭に被せ、じっと寒さから耐えている。きっと一番額が冷たいに違いない。


――涙をそそる場面に出くわした――。
しかし彼のことだから、下手に動けば貴重な布きれという名の防寒具を奪われるかもしれない。そう思って息を潜めていると、予想通り向こうに動きがあった。不幸にも標的にされたのはだれか──と見ていれば、彼が近付いたのはトルフィンがいるほうだ。子供の布団を奪うとは流石極悪非道のドS顔だ。ビョルンも子供をだしにしてトールズを殺すネタにした身だから人のことは言えないが、そこは割愛。
まあ、などと感心していると、彼は予想外の動きを見せた。
彼はごく慎重に、いかにもノミの恰好の住処である無精な犬の毛のようなトルフィンの髪に手を入れ、かきまぜ、撫でた。まさに犬を撫でるようにだ。
よほど子供体温とあいまって暖かいのだろう。あのドS顔で、至福の表情をとると言うべきか、とにかくそれだった。


果たしてこの状況をどうすればいいのか。


見てはいけない場面を見てしまったような気が多大にしたビョルンは、とっさに目を背けた。
下手に真面目に早起きなんざするもんじゃねえな、どうせ凍えて声の出ない口で彼は教訓を呟き、最後に夢と思い込むことに決めた光景を今一度見ておこうと目線を戻すと、件の人は自分の脇で屈んで立っている。
「なあ、どうして“早起きなんざするもんじゃねェ”んだ?ビョルンよゥ」
「………聞こえてたのか?」
「おう」
彼は普段のあのドS顔で笑みをたたえて問い質す。
本当に慣れないことはするもんじゃないと、ビョルンはつくづく思うのだった。



終わり
VS、トルフィンとアシェラッド。
ちびっこトルフィンが兵団に混じってしばらく後あたり。





 空には雲が厚くかかっていた。今年初めての雪は、恐らく近い。
「今年もそろそろ切り上げ時か」
「そうだなァ」
 アシェラッドの呟きに、ビョルンが同意した。
 雪が降れば、出稼ぎのできる季節も終わりだ。積もって陸上での活動に制約が生じる前に、本国に戻るのがセオリーだった。
「今夜はこのあたりで夜営だ。明日にはデンマークに向けて出発。船出の準備を怠るな。以上」
「あいよ」
 ビョルンの指示で、兵たちは適当に固まって煮炊きの用意を始めた。略奪の季節の終りは皆わかっているので、どこか空気がゆるんでいる。今年はそれが殊更だった。実入りが良かったからだ。
 一番大きかったのは、ヨームのフローキからの依頼だった。奇妙な仕事だったが、美味しい仕事だったと兵たちには認識されている。人的被害なく報酬を得、その上新しい船まで手に入れたのだから。
 船にはおまけがついて来ていて、目下アシェラッドはその扱いに少々頭を悩ませていたりしたのだが、そんなことは些細なことだ。
 気が付くと、アシェラッドはそのおまけに睨み上げられていた。
 眼光は大人もたじろぐほどの強さだが、その目はアシェラッドの腰ほどの高さにある。
 トールズの子トルフィン。船にくっついてきたのは、兵団に混じるには早すぎる、見たところまだ十にもなっていない子供だった。
 無言で、トルフィンはアシェラッドを睨みつけている。どうやら、アシェラッドが進行方向を塞いでいたらしかった。
 トルフィンは両手に桶を下げていた。子供の手には重いだろうに、両方になみなみと水が汲まれている。
 勝手についてきたトルフィンを、アシェラッドは追い払いも殺しもしなかったが、誰かに世話をするように命じるようなこともしなかった。放っておいてしばらくで、トルフィンは水汲みや武器の手入れといった雑用と交換に食事や寝床を得ることを覚えていた。
 それでも、大人の行軍についてくるのは子供には酷なことだっただろう。トルフィンは薄汚れて痩せた子供になっていた。眼光ばかりが目立つ。いつか殺してやる。言葉にこそ出さないが、その目がそう言っている。
「……退けよテメエ」
「おメーが避けろチビ」
 トルフィンの腕は、桶の重みに耐えかねて震えていた。しかし意地でもアシェラッドを避けて進む気はないようだ。
 子供の腕の震えは徐々に大きくなり、ついには水がこぼれ始める。ここで桶を下に置くのも、彼にとっては負けになるらしい。
 さて、どうするつもりやらこのガキは。
 腕が限界なのか怒っているのか両方なのか、顔を真っ赤にしているトルフィンを見下ろしながら、アシェラッドは手持ち無沙汰な掌を擦り合わせた。
 雪はまだ積もりはしていないが、風は冷たくなった。手袋を嵌めるほどではない。しかし指先は冷える。それくらいの寒さだった。
 ふと、子供の体温は、大人のそれよりも高いと聞いたことがあるのを思い出した。
 そして、すぐ手の届くところに、子供の肌がある。
 耳の下、太い動脈の通った一番温かいところに、アシェラッドは冷えた手を押し付けてみた。
「……っぎゃ!!」
「おー、温い温い。こりゃいいな」
 素っ頓狂な悲鳴が上がったが、アシェラッドは構わず襟首の中にまで手を突っ込んだ。
「何しやがる!!」
「暖取ってんだよ。ガキは温いって本当だったんだな」
 トルフィンはじたばたと暴れるが、桶を手放すまいとするばかりにろくすっぽ逃げられないで居る。
 それをいいことに、アシェラッドは思う存分手を温めた。
 せめてもの抵抗か、トルフィンはアシェラッドを罵りつづけている。部下たちの言葉がうつったのか、随分と口が悪くなった。
 そうこうするうちに、汲んで来た水はほとんどこぼしてしまっていた。トルフィンはそれに気付いて、やっとのこと桶を放り出した。
「放せ畜生!」
 ぱかん、と間の抜けた音を立てて、桶がアシェラッドの鎧に当たる。
 桶を拾うと、トルフィンはアシェラッドに背を向けた。汲み直して来るつもりだろう。
 水汲みを命じたのであろう男に遅いと小突かれていたが、それでも泣き言一つ言わずに駆けて行く後姿を見送り、ふむ、とアシェラッドは顎を撫でた。
 身体は丈夫なようであるし、頭も悪くはなさそうだ。状況を計る能もある。何よりも、意思が強い。
 小さすぎるのが惜しいといえば惜しいが、子供なら子供なりに、
「……使いようがあるか」
 さてどうする。
 アシェラッドは思案した。
 顎に触れた指先は、吸い取った子供の体温を残して温かかった。



+++++++++++++++++++++++++++++++


ちびっこトルフィンは、どうやって生活してたんだろうなーという妄想。
いや最初は戦働きは無理だろうし、雑用でもやってたんじゃないかしらと。
ところでトールズさん死亡の頃のアシェラッドは、まだハゲてないですよね。というわけでトルフィンにハゲ呼ばわりさせるのはやめておきました。
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Unknown

ドスッとベッドの上に放り投げられ、トルフィンは思わず息をのんだ。
ぎしぎしと鈍い音を立ててベッドが軋む。少し埃っぽい。
揺れる頭を抱えながら、トルフィンはキッと男を睨み付けた。

「どういうつもりだ、アシェラッド!」

掛けられる怒声に、ベッドサイドに飄々と立つ男、アシェラッドは笑って片眉を上げた。
そんな動作が妙に腹立たしく、トルフィンは眉間の皺を深くし、ざけんな、と悪態をつく。
相手をしてやる、見返りを求めた自分にそう彼は言ったが。なぜこんなことを。

「おじさんもう年だからねェ」

そんな考えを読みとったように、アシェラッドは笑った。
だから毎回決闘じゃ身がもたないだろ、たまには変わったのもいいじゃねーか。
口でそう言いながら、じりじりとその距離を縮めていく。またギシッとベッドのスプリングが鳴った。

「近寄んじゃねーよ!」
「キーキーわめくなよ。女じぇねーだろうが」

間近で見下ろされて警戒を強めたトルフィンが更に睨みをきかすが、
そんなものはアシェラッドにとってなんの効果もあるはずはなかった。
身体を後ろに引こうとした時には、すでに手首は拘束されていた。

「アシェラッド!!」

捕まれた手首が痛い。組み伏せられ、互いの布の擦れる音が部屋に響き渡る。

「やめろ・・・・っ!!」

咎める様な口調のトルフィンをそのまま引っ張り、アシェラッドは強引に唇を合わせる。
侵入を拒むかのように堅く閉じられた口に、チっと舌打ちしたアシェラッドはトルフィンの鳩尾に
軽く一発入れた。ウッと呻き開いたその隙間にするりと舌を滑り込ませる。
その途端、トルフィンの目が見開かれ全身で抵抗されるが、アシェラッドにとってはそれは
取るに足らない程度だった。

「ッ・・・ふ・・・っ!」

激しく口腔を貪られる。舌を絡められたと思うと吸われ、痺れるほど荒く犯される。
息苦しくなって、トルフィンの両の指が縋り付くように相手の服の背に皺をつくっていく。
そんな様子に、ある種の興奮を覚えたアシェラッドは、そのまま空いた方の手を滑らせ、
細いその腰のあたりをぐっと掴んだ。
すると、あっ、とくぐもった声を出して、トルフィンは小さく身体を震わせた。

(ほーう)
生意気言ってる割に可愛いとこもあるもんだ。
思ったよりも具合が良さそうな身体に口の端が上がる。腰から内股へと更に進んで、
明確な意図を持ってゆっくりと撫で下ろしていく。

「・・・って、・・・やめろ・・・」
「そんな風に嫌がんねーでもいいじゃねーのォ、お前。気持ちいいだろ」
「アッ!」

辿り着いた先、まだ未熟な性器を布地の上からキュっと握ってやる。
トルフィンが息を呑む。
アシェラッドは薄い唇でニヤッと笑った。
とっさに足を閉じ、逃れようとトルフィンは身を捩ったが、それよりも一瞬早く、アシェラッドの
身体が両脚の間に割り込み、力任せに足を開かせる。

「・・・っ・・・・なっ!!」

同時に、トルフィンの髪をぐいっと後方へ強く引っ張った。
痛みにトルフィンが仰け反り、呻く。

「今夜は楽しめそうだぜ。なぁ」

歌うようなアシェラッドの声に。
殺してやる、とトルフィンの絞り出すように綴った声は低く掠れ、怒りと痛みとを透かしていた。

My Sweet Darlin'  3




 その願いが通じたものか。

 数日すると、蜉蝣の熱は微熱ていどにおさまってきた。

「よかった~~~~!! よかったよ、まじで!!」

 泣きそうに喜んだのは蜉蝣本人じゃなく、なぜか疾風のほうだった。

 例によって食事介助をしながら。

 粥だけじゃなく、固形物も多少なら食べられるようになっていた。

「でもまだ油断すんなよ。絶対安静って先生も言ってたしな」

「わかってる」

「とか言って、おまえ、すぐ無理しちゃうからなあ……。目が離せねえぜ」

 疾風が蜉蝣の汚れ物を洗濯に行っているあいだ、書物をひもといて読んだりしていたのだ。布団の中で横になってはいたが、疾風に取り上げられた。

「そういうことは完治してからやれ!!」

 と。

「そう言われてもな。退屈なんだよな……」

 蜉蝣はこぼす。熱が下がれば薬の量も減らしていいので、そうしょっちゅうは眠くならないのだ。

「んじゃ、俺のことでも考えてろ!!」

 疾風の言葉に、蜉蝣は不思議そうに眉を寄せた。

「おまえのこと? こないだの宴会の裸踊りとかか?」

 アホなことしか思いつかないらしい。無理もないが、疾風としてはせつない。

「それでもいいよ。とにかく俺のこと」

「? ? ?」

 蜉蝣にはわけがわからないようだ。疾風は業を煮やす。

(あーもう抱きしめたろかこいつ!!)

 と思ったら止まらなくなった。考えるより先に体が動くタイプでもある。

 疾風はぎゅうっと蜉蝣に抱きついてみた。

「!? おい?」

 蜉蝣はびっくりしたようだ。

 かまわず頬をすり寄せると、ここ数日お手入れをしていないせいで、無精髭が顔に当たる。蜉蝣はまだ混乱しているようだが、疾風はパッと離れた。

「待ってろ!!」

 言い置いて、すごい勢いでたらいとかみそりを持って戻る。

「チョビ髭は自分でやったほうがいいだろ。その他の無精髭は俺が剃ってやる」

 と、髭剃りタイムに入った。

「昔はよくこうやって剃りあったもんだよなー」

「どっちがたくさん髭生えるか、なんて競争したりな。今から思えば馬鹿みたいだな」

 ふたりして思い出し笑いでなごむ。

「下の毛は俺のほうが早かったっけ?」

「いや、私だ」

「えー、俺だろ」

 不毛な闘いにもなりかけるが、それすらも楽しい。

 チョビ髭のお手入れは自力でさせてやって、疾風は髭剃りセットを片付けた。

「食後の薬、飲んだか?」

「ああ」

「んじゃ、ちょっとは眠くなれんだろ」

「だといいが……」

 蜉蝣はなにか言いたそうだった。さっきの抱擁についてだろうか。

「おまえ……」

「なによ」

「おまえのことでも考えろって」

「ウン」

「おまえには感謝してる。感染する危険をおかして、世話を焼いてくれて」

「そりゃーね。俺とおまえの仲だからね」

「いや。幼なじみだからって、ここまでできないだろう。私の下帯を洗ってくれたり……。ほとんど親子か夫婦みたいだ」

 蜉蝣はなにげなくそう言ったんだろう。そうに違いない。しかし疾風は真っ赤になった。

(夫婦って言うな!!)

 と思ったのだ。「アレ」に限りなく近い単語だからだ。

 いきなり赤面した疾風に、蜉蝣は蜉蝣で驚いたようだ。

「ど、どうした!?」

「どうもしねえ!!」

「発熱か!? もしやいまごろ感染したか!?」

「まぬけなこと言ってんな!! 感染するならとっくにしてる!!」

 それもそうだ。蜉蝣は頷いた。

「たしかに……」

 頷き、なにか考えているあいだに、疾風はたらいを抱えて蜉蝣の部屋から飛び出した。

 恥ずかしくて照れくさくて、それ以上、蜉蝣と一緒にいることに耐えられなかったのだ。





 事件が起きたのは夕刻近くだった。

 昼過ぎ、なんとか落ち着きを取り戻した疾風は、蜉蝣の昼食介助をおこなった。

「俺、午後から出っから。なんかお魚が大量に獲れちまってよう。忍術学園に持って行こうと思って」

「おまえがか? 若手は?」

「お留守番の若手ふたりは受付と草むしりがあるしな。散歩にちょうどいいし」

 疾風としては少し外の空気を吸って、なにやらもやもやするこの「アレ」関連の気持ちをすっきりと整理したかったのだ。

 ところが、それが仇になった。

 忍術学園までは往復で半日はかかる。疾風不在の水軍館に、不埒な輩が訪れたのだ。

「おうおう。買ってくれるまではここを動かねえぜ、にいちゃん」

 押し売りらしい。巨大な風呂敷包みをひらいて、安っぽいかんざしや髪ひも、帯じめなどの小間物を展示する。

 来客応対役の若手は、すぐに草むしり役の若手を呼んだ。しかし若いふたりではおおいにナメられた。

「買うのか買わんのか。はっきりしろい!!」

 と、いかにもな威勢のよさで押し売り。その声は蜉蝣の私室にも届いた。

「…………?」

 蜉蝣は、ちょうど午睡から覚めたところだった。というか押し売りの声で目が覚めた。なにごとかと聞き耳をたてると、困ったような若手たちの応対する声が聞こえてきた。

「てめえらじゃ話になんねえな。上のモンを出せ!」

 とまで押し売りは叫ぶ。しかし上の者は出払っていていないのだ。その旨、若手が伝えると、押し売りは勢いづいた。

「野郎ども!! 出てこい!!」

 と、仲間を呼びつける様子。これはまずい、と蜉蝣は判断した。

(はじめからそのつもりだったんだろう)

 押し売りと称した窃盗団だろう。母港に船がないのを見計らって、警備が手薄だと狙われたのだ。天下に名だたる兵庫水軍、どんなお宝があるかわからないとアホな見込みを持っているのだろう。

(じっさいはお宝なんてありゃしねえんだがな……)

 思いつつ、蜉蝣は無意識のうちに正面玄関に向かっていた。足元が少しふらつくが、そんなことを言っている場合じゃなかった。

「あ、蜉蝣兄貴……!!」

「お体は? だいじょうぶなんすか?」

 若手ふたりは天の助け、といったように蜉蝣を見る。反面心配そうでもある。なにしろ重病隔離中だ。

 窃盗団は親分らしき押し売りを入れて4名。すばやく見てとって、蜉蝣は言った。

「お気に召すようなものはねえぜ。さっさと帰りな」

 うんとドスを効かせて言ってやった。しかし夜着とやつれた病人顔でナメられたのだろう。窃盗団の皆さんは帰ってくれなかった。

「てめえら、やっちまえ!」

 と、親分らしき男の掛け声とともに、乱闘となった。

(あーしょーがねえな。素人さんはこれだから……)

 蜉蝣は仕方なく応戦した。若手ふたりも善戦してくれた。それぞれひとりずつ手下を片付けてくれた。

 蜉蝣はまず、夜着のすそをさばいて回し蹴りで親分のみぞおちにヒット。これでは倒れてくれなかったので、続いてニーキックで股間を蹴り上げる。

「ぐう」

 と体をまるめるので、とどめとばかりにうなじに手刀。親分は倒れた。

背後から別の手下に肩をつかまれるが、ふりむきざまに右肘を入れ、続けて左クロスでたじろがせたところを一歩下がってフロントキックで昏倒させた。

「ふー……」

 これだけで息切れがする。廊下にへたりこんだ蜉蝣に、若手ふたりが駆け寄ってくる。

「兄貴!」

「お怪我は!?」

 そう言われて気づいた。窃盗団は刃物を持っていた。小刀だが刺されれば痛い。

(気づかなくてよかった……)

 体育会系肉体派の兵庫水軍では、相手が素手なら基本的に刃物は使わない。おのれの肉体のみで勝負するのが彼らのポリシーだ。

「おまえたちこそ。怪我はねえか」

 若手たちも無傷だった。威勢のわりにたいしたことのない窃盗団だったらしい。

「悪ぃがそいつら、浜に放り出しといてくんねえか」

「押忍!」

 若手ふたりが駆け出してゆく。入れ替わりに、入ってきたものがある。

 すれ違いざま、若手があいさつした。

「あ、疾風兄貴!! お帰りなさいっす!」

「おう、今帰ったぜ……。って、なんじゃあこりゃあ!!」

 倒れ伏す窃盗団と、廊下にへたりこんだ蜉蝣を交互に見て。

「お、お、お、おまえ……!!!!!!!」

 このおしゃべりな男には珍しい。言語中枢がどうかしたようだ。

 どもりながらも若手に状況報告させた。

「まじで、蜉蝣兄貴が出てきてくださらなかったら、俺たち殺られてたかもしんないす!!」

「そ、そうかよ……」

 窃盗団の手にある刃物に、疾風も気づいたようだ。

「おまえなあ~~~~~!! その体で!! ヤッパ持ってる奴とケンカすっかふつう!!」

「仕方ないだろう……。大切な若手のピンチだ」

「ああもう!! だからおまえって奴は!!」

 疾風は頭をばりばりとかきむしる。さまざまな感情が交錯して、どうにもならないらしい。

「無理すんなって言ってんのに!!」

 叫びながら火事場の馬鹿力か、へたりこんでいる蜉蝣を肩にかつぎあげる。

 そのまま部屋へ連行した。布団の上にどさりと放り投げた。蜉蝣もされるままになっていた。疾風がいきどおるのも無理もない、と思ったからだ。

 さぞやでかい声でお説教を食らうのだろう、と予想した。

 ところが、疾風はそうはしなかった。

 布団の上に座りこんだ蜉蝣の前に、ひざまずくようにして。

 ぎゅーーーーっと抱きしめてきながら、無言だった。

「…………」

 これはおかしい。疾風らしくない。蜉蝣には不思議だった。

「おい……。どうした?」

 たずねると、なんと疾風は涙声だった。

「どうもしねえよ……。ぐすっ」

 泣きながらいっそう強く蜉蝣を抱きしめてくる。

「お、おまえが、無事で……。よかった……」

「疾風……」

 そのまま疾風はしばらく泣いていた。この男が涙を見せるなんて、何年ぶりだろうか。もしかしたらはじめてかもしれない。子供のころから負けん気が強くて、人前で泣いたりしないのは疾風も蜉蝣も一緒だった。

(なんなんだ……。この気持ちは……)

 疾風は泣き顔を見られたくないらしい。ごしごしと容赦なく蜉蝣の夜着で涙を拭いている。それでもあとからあとから涙がこぼれて仕方ないらしい。蜉蝣はおずおずと、その背中に腕を回してやった。

(変だ。変だぞ私!!)

 抱きしめながら胸がおかしい。病とは関係ない。なぜならば。

(か、かわいい……)

 と思ってしまったのだ。疾風を。

 この髭のある三十男で酒好き女好きでお調子者で得意な芸は裸踊りという、アホな幼なじみを。

(そういやこいつ、私の看病をしているあいだ、一度も夜遊びに出なかったな……)

 容態が急変してはいけないと、同じ部屋に寝てくれた。熱で朦朧としていたが、規則正しい疾風のいびきを聞くと、安心して眠ることができた。

(とにかく落ち着け。私)

 冷静な蜉蝣らしく、自分に言い聞かせる。

 疾風にも言った。

「ちょっとだけ……。離れてくれないか」

「ヤダ」

「そう言わずに。今、私、変なんだ」

 正直に蜉蝣は言った。長年のつきあい、嘘もごまかしも通じない間柄だ。

 すると、疾風は顔を上げた。

 案の定、涙と鼻水でぼろぼろの髭ヅラを見ても、蜉蝣の胸のときめきは変わらなかった。

(やっぱりかわいいぞ……。私は変だ!)

 いっそう混乱する。

「なにが変だって? 具合悪くなったか?」

 心配そうに聞かれる。蜉蝣はかぶりをふる。

「いや。そうじゃない。そうじゃなくて、そのう……」

 なんと答えたらいいのか。いまさらなんの言葉があろうか。

「……おまえには、わけがわからんだろうが……。私自身にもわけがわからんのだが……」

 と、前置きしておいて。

 あくまで冷静な蜉蝣は、現状をありのままに伝えた。

「おまえのことを、かわいいと思ってしまった」

 おおまじめに真剣に、蜉蝣は言った。

「!!」

 疾風の反応は意外だった。笑ったり茶化したりしなかった。

涙をふいて、蜉蝣の顔をのぞきこんでくる。

「マジで!? 冗談じゃなくて!? 熱のせいじゃなくて!?」

 言いながら額にさわってくる。

「平熱に近い微熱だ。熱のせいじゃねえな……」

 と、ぼうぜんとする様子。蜉蝣は相変わらず真剣だった。

「心配かけてすまなかった。まさか、おまえがそんなに私のことを心配してくれていたとは……。思わなくて……」

 最後のほうは、またしても抱きついてきた疾風に言葉を奪われた。

「そうだよ心配だったよ!! 今のケンカもそうだけどよ!! ふだん病気なんてめったにしたことのねえおまえが、いきなり南蛮風邪だろ!! 年寄りや子供や弱ってる奴は死ぬこともあるって先生言ってたんだぜ!! おまえが死んだらどうしようって……。生きた心地しなかったよ!!」

「疾風……」

「おまえが死んだら俺も死ぬ!! だから勝手に死ぬな!!」

 むしろ勝手なのは疾風のほうなのだが、熱い告白に蜉蝣の心は激しく動揺した。

(こ、これは、もしや……)

 そして疾風と同じ結論にゆきつくのだ。

(つまりアレか!? 若ぇ奴らがいろいろモメたりヨリを戻したりしてるようなアレか!?)

 と。つねに冷静でクールで、判断力にすぐれた彼にとっても、青天の霹靂だった。

 くどいようだがこんなにも身近に、「アレ」があっただなんて。

 おたがいに髭まで生やしたいい年だ。四功で幹部だ。それでもいやおうなく「アレ」はやってくるのだと、蜉蝣もはじめて知った。




My Sweet Darlin'  4




「あまりに身近にいすぎて、気づかなかったんだな……」

 自分自身に言い聞かせるように、蜉蝣はつぶやいた。

 疾風にはわからないようだ。

「なにが?」

 まだ鼻声だ。蜉蝣は言いよどんだ。

「だから……。おまえには気持ち悪いかもしれんが……。これで私たちの友情や仕事の関係がまずくならないように祈るしかないんだが……」

 「アレ」を説明するのに、蜉蝣も困っていた。ダイレクトに言えればいい。しかしそれほど若くない。ふたりとも、本当に、いい年なのだ。

 けれども、疾風はなんとなく察したようだ。

「もしかして、『アレ』か? 『アレ』だろ?」

 おそるおそる、といった様子でたずねてくる。蜉蝣は少しびっくりする。

「なぜわかる。たしかに『アレ』だ」

「そりゃ、幼なじみだし……。長年のつきあいだし……」

 長い長い時間を経て、ようやっと気づいたのだ。おたがいに、なくてはならない存在だということに。

「せーの、で言うか?」

 真顔で疾風。蜉蝣も頷く。

「んじゃ、せーの」

「す……。好きだ、疾風」

「好きだ! 蜉蝣~~~~!!」

 声のでかさは疾風のほうが勝っていた。照れるのか、また蜉蝣の胸に顔をうずめる。蜉蝣だって照れていた。おたがいに強く抱きしめあって、気持ちを確認する。

「俺は油断してた。おまえ、堅物だから。浮いた噂ねえし」

「私もだ。おまえは浮いた噂もあったがな。もし本気の相手ができたら、私に相談するだろうって思ってた」

 それがこんなことになってしまうとは……。

 抱きしめる腕をゆるめて、みつめあう。どちらからともなく苦笑がもれる。

「だめだあー。やっぱこの割れアゴの髭のオッサンじゃねえと。俺はヤダ」

「私もだ。いい年してやんちゃな髭ヅラのおまえじゃねえと」

 苦笑しながら、どちらからともなく目を閉じた。

 そっと唇を合わせた。

 おたがいの髭の感触が、くすぐったかった。

 積極的に出たのは、疾風のほうだった。蜉蝣の唇を割って、舌を押し込んできた。

 いやらしく舐めまわされて、蜉蝣も平常心ではいられなくなる。疾風の肩をやさしく押しやって、彼は言った。

「ちょ、ちょっと待て……。私は病み上がりだぞ」

「できねえ? どれ、さわらせてみな」

 こうなると疾風のほうが優位だった。あれよあれよと股間に手をつっこまれ、

「う!」

 と、蜉蝣は反応する。

「おっ立つじゃん。だいじょーぶ、できるよ♪」

 楽天的に疾風は言う。ぱっぱと着物を脱いでしまうのだ。その傷だらけの裸体に、見慣れたもののはずなのに、蜉蝣も発情した。

「病み上がりだからな。俺がサービス♪」

 と、疾風は蜉蝣の夜着を脱がせた。ついでに下帯もとられた。布団の上に押し倒されて、またくちづける。

 ねっとりと甘かった。今までのふたりの歴史が、ここにきてやっと花開いた感じがした。

「わ、私が下なのか?」

 少々戸惑って蜉蝣。どちらでもそれなりに経験はあったが。

 疾風はまた苦笑した。

「おまえ、下、苦手だろ」

「なぜわかる……」

「ガキんとき、よく逃げてたじゃん。兄貴たちにつかまりそうになるたびに」

 今でもさらさらつやつやの黒髪だが、大人になって割れアゴになるまでは、蜉蝣はたいそうな美少年だった。もとからやんちゃなタイプの疾風より、年上人気は高かったのだ。

「俺はどっちでも平気だから。あ、ちょっと待ってろ」

 素っ裸のまま部屋を出て、しばらくして戻ってくる。

 なにやら手にしてきたのは、香油の小瓶か。

「某若手のとっから拝借してきた☆」

 軽く言ってのけるところが疾風だ。そのまま蜉蝣にのっかったまま、全身を舐めてくる。傷跡はとくに執拗に舐められた。蜉蝣もじっとしていられなくて、疾風のしなやかな背中を撫で回した。

「そういや、さわりっこしたよな。ガキんとき」

「不思議だったよなあ。でかくなるんだもんなあ」

 第二次性徴も同じころだったのだ。こすりあったりして擬似セックスはしたことがあった。

「でも単純に好奇心だったんだよな。あんときは」

 という疾風に、真顔で蜉蝣は答えた。

「今は違うぞ」

 両手で顔をとらえて、じっと目を見据えて。

「私は固い男だからな。覚悟しておけよ」

 疾風はうれしそうに微笑した。

「夜遊びできなくなっちまうな」

 できなくなるのがうれしい、という表情だった。

 キスをしながらこすりあった。おたがいの性器を握って、愛撫すれば頭の芯が蕩ける。

「き……。気持ちいい……」

 うっとりとあえぐ疾風。蜉蝣の上で背筋をそらせてのけぞる姿が、オヤジなのに美しい。

 とぎれとぎれに彼は言った。

「おまえ……。上手いじゃん……」

「まあな」

「そんなに……。遊んでるようにも……。見えねえのに……。あっ」

 先端をくすぐってやったら、疾風はびくりと跳ねた。

「もう濡れてるぞ」

 からかうように蜉蝣。疾風は少しふくれっつらをした。

「だって……。うれしいんだもん」

「いい大人が『だもん』はねえだろう……」

「おまえも気持ちよくなってよ」

 と、疾風は体勢を入れ替えた。蜉蝣の股間に顔を伏せて、くわえこんだ。

 根元からしごかれて、蜉蝣も感じた。

「う……」

 音をたててくまなくしゃぶられる。裏も表もだ。下品なくらいに疾風は上手かった。さすが遊びこんでいる証拠だ。

「も、もういい」

 顔をあげさせると、疾風は感心したようにひとり頷く。

「MAXだとこのでかさか。俺のデリケートなあそこに入るかしらん♪」

 などとほざくので、蜉蝣は苦笑した。

「塗ってやるよ。某若手には申し訳ないがな」

 香油の小瓶を手渡され、疾風の秘部に塗りつける。それだけでも感じてしまうようで、疾風は声を殺していた。

「んっ……」

 ゆっくりと指を入れてみた。疾風は息を詰めた。

「っ……」

「だいじょうぶか? 痛ぇか?」

「そこ使うの、ひさしぶりだからな……。やさしくしてね☆」

☆マークが出るあたりだいじょうぶだろう、と、蜉蝣はふんだ。性器をしごいてやりながら、空いた片手では抜き差しを繰り返す。ゆっくりと時間をかけて指を増やし、ゆるめてやった。疾風は感動したようだった。

「蜉蝣、やさしい……」

「私はもともとこうなんだ」

「だれにでも? 妬ける……」

 またふくれっつらをするのも愛しい。安心させるように、蜉蝣は言った。

「言ったろ。私は固い男だからな。もうおまえに決めたんだ」

 すると、疾風は驚いたような顔をした。

「決めたって……。決めたのか!?」

 おおまじめに頷いてやる。

「ああ」

「うれしい!! 大好き、蜉蝣!!」

 あそこに指が入っているにもかかわらず、ふたたびキスしてくる。

「俺がこれ以上オッサンになっても、爺さんになっても?」

「そのかわり、おまえもだぞ」

 蜉蝣は相変わらず真剣だ。

「私がこれ以上オッサンになっても、爺さんになってもだ」

「もちろん!!♪」

 疾風は感激のあまりか、蜉蝣の髪をかき回してきた。蜉蝣も疾風の髪の結び目を解いた。

そっと指を抜いて、

「たぶんだいじょうぶ……。だと思うが」

 確認する。疾風も頷く。

「うん。ちょっとじっとしてろ」

 蜉蝣の先端を探し、静かに腰を沈める。

「つ……」

 苦しげな表情もそそるが、蜉蝣は言った。

「無理すんなよ」

「だいじょうぶ……。おまえじゃねえんだから……。ちょっと痛ぇだけ……。最初はどうしてもね……」

 香油が効いたか、根元までなんとか入れることができた。疾風は大きく息をついた。

「よかった……。入った……」

 蜉蝣はそれどころじゃなかった。疾風の秘部は狭かった。ダイレクトに伝わる快楽に、息が乱れる。

「おまえの……。熱いよ……。やっぱまだ微熱があんだな……」

 言われても、答えられない。疾風は意地悪そうに微笑んだ。

「はやく動いてほしい?」

 ムッとしたので蜉蝣は行動で示した。ぐいと腰を突き上げてやったのだ。

「!!」

 疾風はぎゅっと目を閉じた。しかし、これが引き金になったらしい。疾風も腰を使いはじめた。

「っ……。はぁ……っ」

 疾風が感じはじめるのに、たいして時間はかからなかった。はじめはおそるおそる、という感じだった動きが、だんだんに激しく獰猛なものになる。

「っ! いい……!!」

 蜉蝣の手を握って、上下に腰をふって。揺らされるたび蜉蝣も歯を食いしばった。そうしていないと正気がどこかへ吹き飛んでしまいそうだった。

「か……げろ……」

 せつなげな目をして蜉蝣をみつめてくる。潤んだ瞳に熱情を感じる。こんなにも大切なものが、いちばんそばにあったのだ。蜉蝣も握った手に力をこめた。

「好きだ。疾風……」

 疾風らしく最後は精悍な抜き差しだった。全身を使って蜉蝣の性器を愛撫するようだった。握っていた手を離し、揺れる性器をいじってやると、いやいやをするように首をふって悶えた。

「わっ! よせって……!! 出る……!!」

「いいぜ。私も……出そうだ……」

 戸惑ったようなあどけないほどの表情で、疾風は射精した。反射的に締める秘部に、蜉蝣もたまらずぶちまけた。

「~~~~!!」

「…………!!」

 荒い息を繰り返して、それでも疾風は蜉蝣の上から、なかなかおりられないようだった。

「抜くのもったいねえ……」

 などとつぶやく。蜉蝣には愛しくてたまらない。

 だるかったが、なんとか上半身を起こした。胸は疾風の精液で濡れたまま、くちづけた。

 長い長いキスをした。途中で何度も息継ぎをして、それでも離れがたかった。





 身仕舞いを終えると、さすがに病み上がりか、蜉蝣はぐったりと横になった。

「寝ていいぜ。疲れただろ」

 疾風に言われるまでもない。本当はひどく眠かったが、眠りたくなかった。

「眠るのがもったいないな……」

 添い寝する疾風の髪に指を絡めて、もてあそんで。

「完全に復活したらまたやろ♪ 今度はおまえが上な♪」

「おう。もちろんしてやるぞ。何度でも」

 頼もしい蜉蝣の返答に、疾風も身をすり寄せてきた。

「お頭に報告しねえとダメかなあ……」

 などと言うので、蜉蝣は苦笑する。

「秘密にしていたってどうせバレるだろ。おまえのことだから」

 しあわせいっぱいな精神状態を隠すことは、この無邪気な疾風には不可能だろう。

「若手たちにしめしがつかんしな。大々的に発表して、公認の仲にしてもらおう」

 と、冷静な蜉蝣はすでに計画を練っていた。

 そして翌日、蜉蝣も平熱に戻り、船は無事帰港した。

 出迎えたのは若手ふたりと、ラブラブカップル☆ と化した蜉蝣と疾風だった。

 またしても打ち上げの大宴会、蜉蝣も無事参加することができた。

 酒が進んで宴もたけなわになったころ、ついに疾風が我慢できなくなったようだった。

「みなさーん! ここで発表したいことがありまーす!♪」

 お立ち台と化したテーブルの上、ひらりと飛び乗って。

「こっちこっち!」

 と、蜉蝣を手招きするのだ。

「い、今か!? 今なのか!?」

 これは蜉蝣の計画にはなかった。まずはお頭にこっそり……などと作戦を考えていたのだ。多少はびびる蜉蝣だが、疾風の性格を考えると無理もない。仕方なく疾風の横に立つ。

 疾風はでかい声で叫んだ。

「俺たち、デキちゃいました~~~~♪」

 しかし周囲のリアクションは思ったほどサプライズではなかった。

「いまさらなに言ってんすか?」

「えー!? とっくにデキてると思ってた」

 という野次まで入る。

(そうだったのか……。そんなふうに思われていたのか……)

 と、愕然とするのは蜉蝣だけで、疾風はいっこうに気にならないらしい。

「こいつは俺のマイ・スイート・ダーリンだからね☆ 奪おうとしたら殺すよ☆」

 片目をつぶってさらりと恐ろしいことを言う。そのまま蜉蝣の首に飛びつき、キスしてきた。

「ん~~~!!」

 さすがにクールで冷静な蜉蝣には、衆人環視は恥ずかしい。ところが疾風には羞恥心がない。舌までぐいぐい入れてくるのだ。

 髭オヤジふたりの濃厚なキスシーンに、はじめはあっけにとられていた構成員たちも、徐々に正気を取り戻してきたようだ。

 どこからかパラパラと拍手が上がると、全員が合わせてくれる。

「よっ!! おめでとう!!」

 第三協栄丸のお許しが出た。

 ここでまた、新たな『兵庫水軍公認カップル』が誕生したのだった。





                              END





やりました!やりましたよ蜉疾!うれしいなあ。いつかやりたいと思っていたのですが、クールで美人な攻にキュートでやんちゃな受でしょ?(え?違います?)野大とキャラかぶってますよね。だからもちっと技術が上がってから書こうと考えてました。でも野大と蜉疾には最大の違いが!野大はライバルだけど蜉疾は親友(え?違いました?)。おかげさまでいい話になりました。(自分で言うか)病に倒れるはかなげな蜉蝣兄貴を書けてうれしかった。ちなみに背景とタイトルは、オッサンふたりのラブラブ話にふさわしく、キュートでポップ(?)なものをセレクトしました。公式設定については、知らないフリをしています(笑)。蜉疾はもう、鬼義と違って一生テンション高くラブラブでいてくれそうでいいですね!また続編とか書きたいです♪










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