(驍宗×李斎)
*****
慣れとは恐ろしいものだと李斎は思う。
誰がこんな日を想像しただろうか。
本来、李斎は自分の身の回りの事は自分でしてきたし、そうするのが当たり前だった。
ほんの時折、人に身支度を手伝って貰う時があったが、それは、一人では着付けるものが難しいものだったり、普段しない化粧をする為だったり、とにかく、特別な時だけだった。
だが、今。
片手を人に預け、磨いてもらっている。
伸びた爪を切り、やすりで切断面を整え、表面を磨く。
そうして、ついでとばかりに手荒れをふせぐ薬を塗って貰っている。
「こんなものでいいか」
独り言のように呟き、驍宗は李斎の手を離した。
気分転換になってよい、と言って驍宗は時折、李斎の片方しかない手の手入れをする。
驍宗にとって気分転換になっても、李斎にはそうではない。ただ、緊張するだけ。
それがいつの間にか、慣れてきて、今では、驍宗の行動を見ていられるようになった。
慣れとは本当に恐ろしいもの。
ああ、でも。
昔ほど緊張はしなくなったけれど、昔以上に。
大切に想っている。
李斎は指輪を眺めた。
指に納まっているのは、金色の指輪だ。その指輪に埋め込まれているのは赤い石。柘榴のように赤く、かの人の瞳の色を思い出させた。
赤といえば、二人を連想させた。
一人は、東の国の若き女王。
美しく聡明で、年下だというのに、尊敬出来る女性だ。
もう一人は、この指輪をくれ、指に嵌めてくれた人。
怖い位に綺麗な紅の瞳の持ち主。
指輪を持つ事事態初めてで、傷をつけやしないかビクビクしているのだが、それでも外そうという気にはなれなかった。
大事にしまいこまれているよりも、こうして嵌めてくれていた方が嬉しいと言われた所為もあるけれど。
こうして指輪を嵌めていると、もう一つの指で触れる事は叶わない。それを寂しいと思うけれど、まだ嵌める事の出来る指があるだけましなんだとも思う。
飽きもせず、じっと眺めては、ほんのりと頬を熱くする。
指輪一つでこんなにも幸せになるなんて。
初めて知った。
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拍手5
交換日記
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交換日記
*****
(驍宗×李斎+泰麒)
*****
「ねえ、李斎。こんなものを見つけたんだけど……」
泰麒はそう言って、一冊の書物のようなものを卓に乗せた。
古びたそれは表紙に題名もなにもなく、一見すると何がなんだか分からないものだ。だが李斎はそれを見るとぱっ、と顔を少し赤らめた。
「まあ、懐かしいですね。てっきりどさくさに紛れて失くしてしまったと思っていました」
そう言って愛しそうに表紙を撫でた。
「中身、お読みになりましたか?」
「……う、うん。何がなんだか分からなくてつい……」
「ふふ。本当に懐かしい……」
表紙を愛しげに触れ、一枚一枚、捲っていく。
「ねえ。李斎」
「はい、なんでしょう」
「これって何?」
「これはですね……」
「ほう、懐かしいな」
男の声が割り込んだ。
「主上」
李斎は微笑んでその冊子を驍宗に手渡した。
「そうでございましょう。私、もうてっきりあのどさくさで失くしてしまったと思っていました」
「私もだ」
「なんだか嬉しいですね。こうして残っているなんて」
「ああ、そうだな。……また、始めるか?」
「ええ、喜んで」
「……あのぅ、結局それって何なんですか?」
繰り広げられる会話についていけなくて、泰麒は声をかけた。
「交換日記だ」
「蓬莱にはそういうものってなかったですか?」
泰麒は心の中で叫んだ。
交換日記というものは普通、嬉し恥ずかし、二人の愛の日記でしょう!
どうして育児日記になっているんですか!
その日記には、泰麒の成長記録のようになっていた。
育児日記より先に、愛の交換日記をやってください!
……でも、泰麒はそれを言えなかった。
楽しそうに二人が語り合っていたからだ。
*****
慣れとは恐ろしいものだと李斎は思う。
誰がこんな日を想像しただろうか。
本来、李斎は自分の身の回りの事は自分でしてきたし、そうするのが当たり前だった。
ほんの時折、人に身支度を手伝って貰う時があったが、それは、一人では着付けるものが難しいものだったり、普段しない化粧をする為だったり、とにかく、特別な時だけだった。
だが、今。
片手を人に預け、磨いてもらっている。
伸びた爪を切り、やすりで切断面を整え、表面を磨く。
そうして、ついでとばかりに手荒れをふせぐ薬を塗って貰っている。
「こんなものでいいか」
独り言のように呟き、驍宗は李斎の手を離した。
気分転換になってよい、と言って驍宗は時折、李斎の片方しかない手の手入れをする。
驍宗にとって気分転換になっても、李斎にはそうではない。ただ、緊張するだけ。
それがいつの間にか、慣れてきて、今では、驍宗の行動を見ていられるようになった。
慣れとは本当に恐ろしいもの。
ああ、でも。
昔ほど緊張はしなくなったけれど、昔以上に。
大切に想っている。
李斎は指輪を眺めた。
指に納まっているのは、金色の指輪だ。その指輪に埋め込まれているのは赤い石。柘榴のように赤く、かの人の瞳の色を思い出させた。
赤といえば、二人を連想させた。
一人は、東の国の若き女王。
美しく聡明で、年下だというのに、尊敬出来る女性だ。
もう一人は、この指輪をくれ、指に嵌めてくれた人。
怖い位に綺麗な紅の瞳の持ち主。
指輪を持つ事事態初めてで、傷をつけやしないかビクビクしているのだが、それでも外そうという気にはなれなかった。
大事にしまいこまれているよりも、こうして嵌めてくれていた方が嬉しいと言われた所為もあるけれど。
こうして指輪を嵌めていると、もう一つの指で触れる事は叶わない。それを寂しいと思うけれど、まだ嵌める事の出来る指があるだけましなんだとも思う。
飽きもせず、じっと眺めては、ほんのりと頬を熱くする。
指輪一つでこんなにも幸せになるなんて。
初めて知った。
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拍手5
交換日記
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交換日記
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(驍宗×李斎+泰麒)
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「ねえ、李斎。こんなものを見つけたんだけど……」
泰麒はそう言って、一冊の書物のようなものを卓に乗せた。
古びたそれは表紙に題名もなにもなく、一見すると何がなんだか分からないものだ。だが李斎はそれを見るとぱっ、と顔を少し赤らめた。
「まあ、懐かしいですね。てっきりどさくさに紛れて失くしてしまったと思っていました」
そう言って愛しそうに表紙を撫でた。
「中身、お読みになりましたか?」
「……う、うん。何がなんだか分からなくてつい……」
「ふふ。本当に懐かしい……」
表紙を愛しげに触れ、一枚一枚、捲っていく。
「ねえ。李斎」
「はい、なんでしょう」
「これって何?」
「これはですね……」
「ほう、懐かしいな」
男の声が割り込んだ。
「主上」
李斎は微笑んでその冊子を驍宗に手渡した。
「そうでございましょう。私、もうてっきりあのどさくさで失くしてしまったと思っていました」
「私もだ」
「なんだか嬉しいですね。こうして残っているなんて」
「ああ、そうだな。……また、始めるか?」
「ええ、喜んで」
「……あのぅ、結局それって何なんですか?」
繰り広げられる会話についていけなくて、泰麒は声をかけた。
「交換日記だ」
「蓬莱にはそういうものってなかったですか?」
泰麒は心の中で叫んだ。
交換日記というものは普通、嬉し恥ずかし、二人の愛の日記でしょう!
どうして育児日記になっているんですか!
その日記には、泰麒の成長記録のようになっていた。
育児日記より先に、愛の交換日記をやってください!
……でも、泰麒はそれを言えなかった。
楽しそうに二人が語り合っていたからだ。
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