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うろほろぞ
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ポットとティーカップに湯を注ぎ暖めているうちに、棚から紅茶の入った缶を取り出す。
ラベルには英国で有名なとあるショップのロゴが入っている。イギリスに住んでいる友人が送ってくれたものだ。
ポットに入っている湯を捨て、茶葉を入れて湯を注ぎ、ポットをティーコージーで包む。
買ってきたスコーンを皿に載せ、オーブンで少しだけ温める。
もう習慣と言ってもいいだろう。何年も繰り返し、癖のように身についてしまった動作だ。
茶葉が開くまで数分待つ、この時間もゼロは好きだった。FOXの正式編成に関する残務のせいでろくに部屋にも帰れぬ日々が続いている今ではなおのことだ。
「あら、いい香りですね。今日はどんな紅茶ですか?」
仕事の合間に給湯室で紅茶を入れているゼロに、パラメディックが声をかけた。どこか他の部署に足を運んだ帰りなのか、両手には沢山の書類を抱えている。ゼロは簡易キッチンに備え付けられた安っぽい作りの戸棚を閉めながら言った。
「今日はディンブラだ」
ディンブラはゼロの一番好きな紅茶だった。花のような華やかな香りを持っているにも関わらず、味わいもこくがあるのに爽やかで、奥深い。バランスの取れた紅茶だ。
「君も執務室に戻るのか?」
「ええ、少佐もですか?」
書類の束を抱えなおしながら、彼女は笑みを唇に浮かべた。そのどこか少女めいたあどけない表情に、ゼロもつられて顔が緩む。
「丁度いいな。たまには一緒に飲もう」
ティーカップから湯を捨て、ポットや温めていたスコーンと共にトレイに載せて執務室に戻ると、空気を入れ替える為に開け放たれていた窓から紅葉した葉が何枚か、部屋の中に入ってしまっていた。
スネークイーター作戦からもう数週間経つ。執務室から見える見慣れた景色もすっかり秋色に変わっている。ゼロはあることを思い出し、窓を閉めて紅茶をカップに注ぎながらパラメディックに声をかけた。
「そういえば、ジャックは元気でやっているか?」


長期休暇中の彼がパラメディックの家に厄介になっている事は、ゼロと彼女のみの秘密だった。パラメディックは小さな顎に華奢な手を添え、少し考えるような仕草をしながら答えた。
「最初はどうなるかと思っていましたけれど、最近は明るい表情も見せてくれるようになりました……ただ、映画はあまり見たがらなくて、出かけるよりも散歩や部屋でのんびり過ごす方が好きみたいですけれど」
不思議そうに話すパラメディックを見て、ゼロは内心でスネークに同情した。あまり映画を見たがらないのはパラメディックの見たがるマニアックなSF映画が彼の趣味に合わないせいに違いない。
あの作戦を経て深く傷ついた様子のスネークをパラメディックが自宅に受け入れると急に言い出した時には驚いたものだが、特にトラブルもなく二人で暮らしているようだ。
「それなら心配ないな。彼ももうすぐ復帰か……復帰後は君の家から通うのか?」
「……そこまで甘やかすつもりはありません」
長期間いい年をした男女が同居をしていればより親密な仲になるのも不思議ではない。そう思って自然と口から出てきた言葉だったが、訊かれた当人にとってはまだ抵抗のある内容だったようだ。形の良い唇をきゅっと引き結び、やや不満そうな顔をして反論した。
「悪かった」
失礼な物言いをした侘びにと紅茶を注いだカップを渡すと、パラメディックはそれを受け取って一口飲み、その味わいにほっと溜息をついた。
「おいしい……」
「だろう?」
薦めたものが相手にいい評価をされると嬉しいものだ。ゼロもパラメディックに続き、窓から見える景色を眺めながら一口飲む。
調和の取れた味わいと香り、そして冷えた体が温かくなる感覚に、仕事の疲れを忘れてリラックスする。
「とっても華やかなお茶なんですね……ちょっと女性的なイメージで」
「そうか?」
そんな事、今まで考えた事もなかった。パラメディックの意見を訊きながらもう一口紅茶を飲み、ゼロはふと、ある女性の事を思い出した。
よく、「美とはバランスである」と聞く。
華やかさと深い味わいの均衡が見事に取れたこの様子は、あの女性に似合うのではないだろうか……そう考えながらゼロは執務室の窓から東の空に目を向けた。
秋晴れの綺麗な青い空だ。スネークとゼロだけが知っている、彼女が眠る場所がその空の先にはあった。
「愛国者」と書かれた墓碑の下には彼女の亡骸は無いが、安らかに眠れるようにとスネークが選んだ場所だった。
国を売った不名誉な軍人を表立って埋葬するわけにもいかず、その墓碑と彼女を結びつける記録は何も残していない。スネークとゼロにしか意味の無い墓がそこにある。
「スネークが復帰したら、出かけたい場所があると伝えておいてくれないか」
パラメディックはゼロの言葉を聞き、不思議そうな顔をして尋ねた。
「どちらに行かれるんですか?」
彼女は墓の存在を知らないはずだ。ゼロはやや自嘲的な笑みを浮かべて言った。
「古い友人を偲びに行くと言えば、たぶん分かるだろう」
今後も軍人として責務は全うするつもりだが、彼女についての思い出を忘却するには、もう少し時間が要るようだ。
愛国心が無いわけではない。彼女のやった事に対しては強い怒りも感じている。
だが友人としての愛情は、まだ小さな炎として胸に燻っていた。
この想いはいつか消えるかもしれないが、今はまだ、その時ではない。
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mmn
体に這う暖かい唇の感触に、思わず体が震えた。
裸のままの柔らかい乳房が体に押し当てられ、小さな指先が悪戯をするように耳朶と顎を撫でている。
手を取り導かれた脚の間は、既に熱い蜜で十分過ぎるほど潤っていた。
スネークは下半身が熱くなるのを感じ寝返りを打って彼女の手から逃れようとしたが、彼女の体も追いかけるように重なり、それはかなわなかった。
シルクのような滑らかな唇が唇へと重なり、スネークは観念して目を開けた。

目を開けると、枕元に置いている目覚まし時計がけたたましい音を立てて鳴っていた。
ベルを止めて隣を見ると、スネークに悪戯をしていたはずのパラメディックは気持ちよさそうな顔をして寝ており、悪戯は全て、夢の中の出来事であった事を理解した。
起きたばかりという事もあるが、夢の中でされた過剰な愛撫に、足の間にある物はすっかり元気になってしまっている。
パラメディックの子供のように安らかで無邪気な寝顔が今は恨めしい。半ば八つ当たりに近い感情を胸に、スネークは裸のままのパラメディックの肌に指を這わせた。
尻から腰へと手を這わせる。うっすらと脂肪ののった肌は柔らかく、手に吸い付くような気持ちよさがあった。そのまま脇腹を撫でると、ふっくらとした唇から喘ぐような声がかすかに漏れた。
触れられている感触が、彼女の夢に良くない影響を与えているようだった。スネークは人の悪い笑みを唇に浮かべ、シーツの中に潜り込んで彼女の胸の先端にある膨らみを口に含み、舌を使ってその場所を弄んだ。
そこに与えた刺激に対する彼女の反応は、驚くほど素直なものだった。眠りが深いのか、音を立てて強く吸っても目を覚まさない。直接的な刺激を受けて恥じらうように膝を閉じ、身じろぎしながら甘い喘ぎを漏らす。閉じられた脚の間に指を差し込むと、そこはうっすらと濡れていた。
このままもっと先に進んだら、彼女はどうなるのだろうか……そんな不埒な妄想をしているうちに、パラメディックは目を覚ましてしまった。
「スネーク……!」
「……おはよう」
悪戯の最中に目を覚まされてしまっては、言い逃れのしようもない。スネークの唇も指先も、彼女の許しがないままデリケートな場所に触れてしまっている。
「寝ているうちに変な事するなんて……」
綺麗な茶色の目で咎めるように見上げられ、スネークは肩をすくめた。
「先にけしかけたのは君だぞ? 俺の隣で色っぽい声を上げて、寝言も相当なものだった……一体どんな夢を見ていたんだ?」
嘘も方便と思って口に出してみたが、思ったよりも効果があった。悪戯をされていた事によって淫夢を見ていたとは気づいていないのだろう。恥ずかしそうに目を反らした。
「……相手は俺か?」
「ばか……」
小さな膝頭を両手で掴み、脚を大きく開いたが、もはやパラメディックは抵抗しなかった。濡れそぼったそこはいつでも男を受け入れる事ができるように見えた。
「スネーク、もう朝よ?」
これからしようとしている事に気づき小さな声で制止を促したが、潤んだ目で見上げてそんな言葉をかけても効果は無いも同然だ。
「君は休みなんだろう?」
スネークは柔らかく開かれていたパラメディックの指に指を絡め、そのまま体を重ねた。
午前五時。スネークが次の任務に出かけるまで、時間はまだまだ余裕があった。
-3
湯上がりの彼女の体は程よく火照り、何ともいい香りが漂ってくる。
ベッドに腰掛けたバスローブ一枚のパラメディックの隣で、スネークは悶々としていた。
「その…スネークも入ってきたら」
パラメディックの言葉もうわの空に、スネークは彼女の肩に手をかけた。
そして顔を近づけると、彼女に軽く口付ける。
「いや。……いいか?」
「う、うん…私は…構わ…ない」



そう言ってスネークの顔を見上げると、じっと瞳を見つめられているのに気がつく。
「あっ…」
目を逸らせない。スネークの顔が徐々に近づいていく。
再び唇を重ねられると、今度は首筋に顔を埋められる。吐息を吹きかけられると、上半身から下半身へとぞくぞくと震えが走った。
「んん…っ」



スネークは背中に回した手で彼女の背をなぞり上げながら、首に何度も口付けする。それからゆっくりと彼女の
喉もと、鎖骨と、下を目指す。目の前にはバスローブ越しの、彼女の胸のくぼみが広がる。
一息ついて、少しずつ顔を沈めていくと、ふにっとした何とも柔らかな感触にみるみる包まれていく。彼女は少しだけ吐息を口



から漏らし、僅かに顎を逸らせてベッドに手をついた。



「…あっ……あん……」
手をついた事で出来たパラメディックの両脇の隙間から、スネークはすかさずもう片方の腕も彼女の体に回すと、その
細い体を優しく抱き寄せた。両の乳房がスネークの顔により深く、強く押し当てられ、徐々に彼女の口から溜息が漏れ始める。
「はあ…ん…っ………や……んっ…」



パラメディックの顎は先程よりも大きく逸らされ、顔は天井に向けられる。




彼女は押し倒されそうになる体を、ベッドについた手で支えた。指先はベッドシーツに皺をつくり、手に力が込もる。
彼女の胸の中は湯上りの香りと共に温かで、目の前に広がる雪のような白い肌が揺れる様子は煽情的で



あり、またその途方もなく柔らかな乳房の感触はスネークの欲情をより高みへと誘う。



…彼女の体を見たい。



「ああ…」
ゆっくりとバスローブに手を掛けると、彼女は紅く染めた表情をスネークに向けた。
静かに、肌蹴させる。
先ずは彼女の形の良い乳房が。次に臍が、そして、彼女の秘めたる部分がスネークの前に露になった。
胸は特出して大きな訳でもなく、何よりも綺麗な丘陵を描き、その頂点にはほのかに色づいた突起がちょこんと
位置していた。また、もともと細い彼女の体ではあるが、ウエストは更に細くくびれており、なだらかな体のラインを浮き
上がらせている。腰に手を回せば、簡単に彼女を捕まえられるだろう。



視点を下に移す。臍から少し下った所には髪の色と同じ薄い茂みが、更に下へいけば彼女の秘部が。
座ったままのパラメディックはスネークから視線を逸らさず、真っ直ぐに彼の目を見つめる。
そのまま軽く息をつくと、ベッドについていた手を伸ばし今度は彼女がスネークの服を脱がせ始めた。
上着を脱がせ、シャツを引き上げると、片方の手でベルトに手を掛け器用に脱がせていく。



スネークもまたパラメディックから視線を逸らす事無く、服を彼女に任せたままに彼女の頬に手を添える。そこ



から首筋へと指を這わせると、やがて乳房にたどり着いた。指を引くと、沈み込んだ部分が指の移動に合わせて、再び
元の形へと戻っていく。やがて頂点に辿り着くと、いたずらに突起を少し押しつぶしてみる。パラメディックは
その度に体をぴくっと動かすものの、手は止めなかった。



両手の平で脇腹を包み込む。実際に添えてみての様子は、彼女の体の細さを如実に物語っていた。擽ったそうに
体を捩じらせる彼女の仕草が堪らず、スネークの興奮を昂らせていく。そうしてようやく辿り着く、彼女の



茂みを軽く撫でる。徐々に下方へと掌を移動させ、彼女の股間を包み込む。





「…んっ」
条件反射のように彼女はきゅっと太腿を閉じた。その太腿の感触を堪能しながらも、掌に伝わる陰部の感



触もしっかりと感じ取る。割れ目に沿うようにじっくり時間をかけて動かすと、口を閉めた彼女の表情のなかに



恍惚感が浮かび上がる。
そのうちパラメディックの手伝いもあり、スネークは衣服を全て脱ぎ終える。
お互い生まれたままの姿になった所で、スネークとパラメディックは互いを見つめあった。



パラメディックはスネークの胸元につうっと指をなぞらえると、スネークも彼女の頬に手を当てて、その抵抗の無い
肌触りをじっくり感じ取る。
彼女の目がゆっくりと細められ、もう片方の手で頬にあてられた彼の指をつかまえる。
そうしてお互いに息を一つつくと、スネークはゆっくりと彼女の体をベッドに押し倒していった。



軽く、ベッドが軋む。
両手が頭の脇に置かれる。彼女は彼の姿を捉えたまま視線を逸らさず、脱力に努めて彼を待った。
スネークはその姿をひととおり眺め回すと、自分もゆっくりと彼女の体の上へ覆いかぶさる。
手を伸ばすと、パラメディックのその胸元へと狙いを定め、彼女の乳房を両手で包み込んだ。



「ふあっ…」
パラメディックの体が何か急激な温度変化を感じ取ったかのように、ぴくっと体を縮こませる。
スネークはまたそんな彼女の反応を堪能しながらも、彼女の柔らかな感触による快感を楽しんでいく。



包み込んだ両手で、円を描くようにゆっくり、極力やさしく胸への愛撫を開始する。
その上擦った感覚に、パラメディックは体の緊張がゆっくりと解れて目を静かに閉じると、口からは溜息にも似



た喘声を漏らしてしまう。



「あっ、ん……くふ…ぅ…ん……はあ……っ」




手の動きに合わせて彼女の乳房が形を変え、手を一瞬だけ離すとぷるん、と震えつつ元の形を取り戻す。
スネークのその屈強な体に似合わず、触れるか触れないかその境目程の力加減で行われる彼の優しい愛



撫は、彼女の表情をたちまち恍惚に変える。
手先から足先まで力が抜け、時折全身の神経がむずがゆさを走らせると、彼女は目を閉じて吐息と共に顔を左右させる。
「やっ、あ……んんっ…」
この感覚が堪らなく、ずっと続けて欲しいと彼女は思う。
やがてスネークの掌が、彼女の小さな突起を擦るように動き始める。彼女の全身に、甘い刺激が駆け巡った。
「はっ…!や、っ……うあっ」
彼女の反応を見ながら、スネークは掌に加えて指で弄んだり、押しつぶしてみたり、軽く摘んでみたりと趣向を凝らして愛撫を続けていく。
「あうっ…はっ……ふあ……」
…いい反応だな。
耳に心地よい彼女の声に、彼は続けた優しい愛撫の手を休め、パラメディックの背に手を回すと彼女の胸元



に顔を近づけ、直接唇で右の突起を吸い上げた。
先程までとは違い、力強く彼女を吸い上げる。肌を吸い上げる音が彼女の耳にも届くと、パラメディックは一



際高い嬌声をあげる。
「きゃうっ!あああっ……!」
全身に痺れに似た快感が残る。彼の唇を逸らそうと思わず体をベッドに沈み込ませるが、逃れられるわけも



無く、結果、体を横にずらそうとするも、スネークの回された手が体をがっちりと固定し、彼女の動きを止めていたのだ。動きようがない。
様子を伺い、もっと彼女を味わおうとスネークは意地悪に、彼女の突起を口内の舌で弄ぶ。口内にふくまれ



たその温かな快感に、彼女は必死で体を悶えさせる。
「や、あんっ!スネー……ク、…うぅぅっ…!?」
押し寄せる快感をどうにかしたかったパラメディックは、両手でスネークの頭を押さえ込む。気にも止めず顔を



胸に這いまわし、乳頭に止まらず乳房全体を隈なく味わいながら今度は左胸へと目標を変えて蠢く。
「く…ふうぅ……っ!いや、あっ、……はう……っ!」




上唇と下唇で左の突起を咥えると、軽く歯を立てる。彼女の背がベッドから浮いた。
「あうっ!」
と、可愛らしい声で声を漏らすパラメディックをもっと攻め立ててみたくなる。
一旦顔を胸元から引き上げると、軽く息を整えたのち三度彼女に覆いかぶさる。パラメディックはその隙に何



とか身構えを整えたかったものの、スネークが顔を離してから数秒も経たぬ内に愛撫を再開したものだからた



まらない。
たちまち彼女は喘いでしまうと、その艶色の帯びた彼女の仕草にスネークの興奮は一層昂りを見せ、
激しく彼女を求め出したのである。
「…ひ…あっ…!…んん…ああんっ……!?」
細く引き絞られたその瞳がうっすらと潤い、きつく抱きしめられた腰から上の上半身は、スネークの力強い腕力



によりベッドを離れ、宙で支えられていた。舌を強く押し当てられると、痺れにもにた感覚が彼女の自由を奪った。
背中が弓の如く撓(しな)り、力なく微かに動く脚は、シーツに深い皺を描き出す。



「あ……んん………」
スネークの顔が、漸く愛撫を抑える。掌はパラメディックの腹部に下ろされたままに、ゆっくりと体を起こしてベッドに
横たわる彼女の白く華奢な肢体を見下ろしていく。パラメディックは少し息の切れた呼吸で肩を僅かに上下させ
ながら、その表情は横を向き、快楽に犯された瞳を力なくまばたきさせていた。
「……ほお…」
その光景に暫らく見とれていると、スネークは思わず溜息を漏らしてしまう。視線を下半身に移していくと同時に、
静かに添えた手を下腹部へと這わせていった。弾力のある肌が指に合わせて沈み込むと、パラメディック



の体がぴくっ、ぴくっと小刻みに震える。
スネークの指先が彼女の茂みに触れた。撫で回して弄びながら彼女に覆いかぶさり軽く口付け、指は更に下



方を目指す。”そこ”に位置した秘部に指先が辿り着くと、焦る気持ちを抑えまずは陰唇を縁取った。何度も



焦らす様に指の腹を上下させると、彼女は切なそうに吐息を漏らす。




「…ん…」
彼女の唇が訴えかけるようにスネークの唇を甘噛みする。それを合図に、スネークはその陰唇の奥に指を侵入させた。
二本の指でくつろげると、綺麗に色づいたそこは微かに水気を帯び、スネークの侵入を待ちわびていたのである。
パラメディックは神経を研ぎ澄ませた。スネークの指先の動きを感じ取りながら、懸命にそのときを待ち構える。
呼吸を一瞬止める。スネークの指が、彼女の奥底にゆっくり浸かって行く。
喉を反らせた。甘い感触が彼女の秘肉を押し分け、全身に侵食を促す。
スネークは彼女の喉に唇を当てつつ、入り込んだ中指を更に内部へと埋めていく。根元辺りまで飲み込ませ



ると、関節を曲げて内部で静かに円を描いていく。悦びを感じ取れるように何度も、何度も。
「あっ」
スネークの優しい動きが何とも心地よい。脱力に努め、脚を少し開くと、後はスネークに身を任せるだけ。
少しずつ奥底で存在を大きくさせる、じわじわとした快感に歯の裏がもどかしく感じる。スネークの頭に手を回



したくて、両手が宙を彷徨う。様子を見て首を下げてくれたスネークの頬をつかまえると、自分の顔に彼を引



き寄せた。彼の匂いを吸い込むと、抱えるように押し付けていく。
…スネークの指の動きが変わる。
円運動から、前後に動くようになった彼の指は内部を擦り、角度を変えて下腹部を突き上げるように動き出



す。快楽が頭を擡(もた)げて、指の差し込まれた蜜壷からはじわりと、愛液が滲み出す。
彼の指に絡みつくと、よりスムーズな抽送がパラメディックを高みへと導いていく。指で突かれるたびに、彼女は肩を揺らしながら喘いだ。
「やっ、あっ、……ふっ…う…あんっ!」
更に反らされた彼女の喉元を舌でなぞり上げてやる。上擦った声を、悶える体を頭に焼き付けて、且つ侵攻



の手を休める事は無く、彼女の動きに合わせ徐々に勢いを増していった。
恥骨の辺りを指を曲げて刺激してやる。くるっと反転させると、今度は奥のほうへと指を伸ばした。与えられる



快感にたまらず、きゅうきゅうと指を締め付ける彼女の感触が堪らなく良い。
更に動きを早めると、穏やかだった彼女の濡れ方が急速に変化していった。




「ふあぅっ!んく……っあああっ!」
水音が徐々に激しさを増し、スネークの指を濡らす。構う事無く指の抽送を続けていくと、彼女は腰をくねらせて体を横に倒すものの、
スネークには大した抵抗でも無く、横を向いた彼女の後ろから首に舌を這わせながら、今度は後ろから彼女を悶えさせた。



はっ、はっ、と彼女の呼吸が荒さを増し、力の抜けた体はがくがくと揺れ動く。大分高まりを見せているようだと、
後ろからスネークは様子を伺っていた。それを機に、スネークは一旦指をゆっくり引き抜く。はあっ、とパラメディックが
一息つくと、スネークは光を受けててらてらと光る指をちらつかせながら、彼女から体をはなして距離をつくる。
何故途中で止められたのか、分からない様子のパラメディックを見つめたまま、今度は静かに体を彼女の下半身へと
移動させると、上半身を屈めていった。視界から消えたスネークの行方を追い、パラメディックは首を擡げて
自身の下半身を見やると、スネークの頭が見える。その頭はちょうど彼女の股間に位置していたのである。



「…やっ……うう…ん…」
その光景を目にしたパラメディックの体にぞくぞくと鳥肌が立つ。途端頭をベッドに落とすと、諦めたかのように虚ろな
表情で横を向いてしまう。
「…ねえ…そんなに見ないで」
頬を染めてつぶやくと、彼もまた静かに口を開く。
「…君は許してくれてるだろ?」
「違…………馬鹿っ」
表情を見られないようにばふっ、と枕に顔を埋めると、どぎまぎとしながらもスネークが動くのを待ちわびていた。
了承を得ると、スネークは彼女の太腿を持ち上げて、内側から舌を這わせて線を描きはじめる。
枕に押し付けられた目を閉じると、恍惚とした表情で震える息を吐き出す。
「あ……はあっ……」
そのまま内股へと舌を伸ばしていき、そこで止める。彼女の体と同軸に彼の顔が並ぶと、秘部に近づいていく。
そこから発せられる彼女の甘酸っぱい香りは鼻腔の奥深くを刺激する。大きく吸い込むと、彼女のそこに息を吹きかけた。
「んんん……っ!」




あからさまな動きこそ無いものの、陰部の動きだけは彼女も隠せなかった。ひくひくと蠢くそこを軽く舌で突く。
陰唇の周りに沿うように舐め上げ、愛液の滲む内部へと舌を潜り込ませていった。
「あ…駄目…っ」
溢れ出た愛液を啜り上げ、味わいつくす。蜜壷の入り口付近を一周すると指での愛撫同様に前後に動かし、ひたすらに舐め回す。



先程の昂りが未だ冷め遣らぬ彼女は、そのじわりとした舌の感触に気だるさを覚え、顔を左右に動かした。
「うあ…っ……く…う……っ」
たくたくと音を立てて彼女を攻めるその音が嫌でも彼女の耳に残り、自分はそこを舐められているのだと目を
閉じても意識してしまうと、恥辱と快楽が複雑に混じり、蜜壷からは更に溢れ出す愛液が止まらなかった。



「ね…え、…もう…」
途切れ途切れに言葉を紡ぐも、甘い痺れが頭の中を混濁させ、それが内心思っている事であるのか、それと
もそうではないのかすら彼女にはよくわからなくなってきている。舐め啜られる、そこにある彼の顔を見る事が出
来ないままでいる。
そうこうしている内、彼の舌が上方にある突起に興味を示し始めていた。舌先で軽く擦ると、今までには無い
凄まじい刺激が、表面から内部にかけて一気に彼女の体を襲ったのだ。



「あうっ!?」
執拗にそこを貪るスネークの舌は巧みに動き、口に含んだそれを下で弄びながら、思い切り吸い付き、渇えたように
うねりとなって容赦なく快感が襲い掛かる。
彼女は焦燥感に駆られた。意識は朦朧とし始め、ぐらりと景色が歪む。必死に抗おうと瞼に力を込めようと
するが、うまく力が入らない。裏返ったような声で叫んだ。
「ひゃうっ!やああっ!」




そんな反応をしてしまった事が逆に彼の悦びとなり、一層行為を助長させている事がその時にはわからなかっ
たのである。感覚に埋もれ、瞳に映る景色は涙でぼやけて。それでもなおスネークは彼女の臀部を掴むと、
パラメディックの股間を引き寄せて丹念に貪っていく。



「ううう……ん…くふ…う……」
首を振っても、もう声が出そうに無い。次々と押し寄せる感覚に崩れていきそうだった。
動きは愚鈍に近づき、力を振り絞ってみても、抗えるほどの蓄えは残っていなかったのである。
…抵抗する必要なんてないじゃない。このまま、上り詰めてしまえばどうなるか。
目を閉じて、彼の動きに体を揺さぶられる。
「あ……あ…」
飽く事無く続けられる愛撫の合間、パラメディックは漸くスネークの顔を見上げる事が出来た瞬間であった。



自分の視界を意識する事が始めてのように感じる。何て事も無いごく自然にこなして来た仕草が、頭の中から
ぽっかりと抜け落ちたように、彼女は目を凝らした。
ふと気がつくと、スネークの顔が目の前にあった。
辺りは暗がりで、サイドテーブルのライトが自分達を映し出しているのが伺える。
彼は心配そうに自分の顔を眺めている。体は密着し、息はまだ戻っておらず、心音が弾む。
「…大丈夫か?」
意識を失っていた訳では無さそうだ。どうやら少しの間、呆けていたらしい。
「…あ…うん」
間を置いて、自分の体が正常である事を確認するように言葉を発した。別段おかしな所は無いようだ。



彼女は視線を移すと、スネークの手の行き先を追う。
右手をパラメディックの左手に落とすと、指を絡ませる。パラメディックからも指を組み合わせると、関節をなぞり、
指を折り曲げたりさせ彼に応えた。




視線は合わせたまま、数秒が過ぎていく。その数秒は本当に”数秒”であったかどうかはわからないが、彼女の
表面に流れる時間は刻々とし、その僅かな時間がとても長い間であるとパラメディックに錯覚を植え付けた。
「…スネーク…私…」
「…ああ」
一言漏らすスネークの寡黙ぶりが、”長い間”を経て落ち着きを見せたパラメディックの口元に笑みを作り上げた。



手には、煮詰まった興奮を受けて激しく膨張した彼の陰茎が包まれ、スネークは間をおいた今まさに彼女の
股間の割れ目に沿うよう、陰茎を擦り合わせてきている。



「んう…」
彼の陰茎に愛液が丁寧に塗され、これから始まるであろう抽送の準備が整う。秘部を擦る陰茎は一度形を
曲げ、彼女から離れると同時にぴん、とバネの様に跳ねる。まるで生きているかのような陰茎の動きは卑猥
なものではあったが、その光景と甘い刺激が彼女に与えたものは決してそんなものではなかった。
彼女は、スネークの首に手を回した。
徐々に体勢を沈ませていくと、スネークは狙いを定めて挿入を試みる。ずっ、ずっ、と彼女の体に進入すると
、彼女のそこは指同様に陰茎をきつく締め付けた。ただでさえ膨張していた彼の陰茎はその外部からの力と
パラメディックの内部の感覚にさらに高められる。口元を締めなおし、スネークは彼女の内部深くに辿り着い。
「ふ…う……っ」
辿り着いたスネークはその感触を楽しみながら、ゆっくりと内部で蠢く。隅から隅まで探索すると、居心地が
良い住処であるようにしなやかな己を揺らす。
深い深いそこから、ゆっくりと這い出した赤子の様に二人はベッドの中心にどっぷりと浸かり、誰にも知られる
事の無い行為に没頭する。
…もっと、奥まで。
身を捩じらせ、抽送を開始する。耳元で聞こえる彼女の喘声が堪らない。頬に縋り、唇の後を残していく。
時に優しく、時に力強く。一定のリズムをもって腰を彼女の肌に打ち付けた。
乾いた音に混じる抽送の液音。合わせてベッドが軋むと、パラメディックは腰を落とし、力いっぱい彼を抱きしめた。




「あっ、ふあっ、うっ……や…はあっ!」



快楽が津波の様に襲い掛かってくる。彼女はスネークの腕の中で幸せを感じていた。
積極的に自分を求めるスネークの腕の中で、彼女は震える。まだ十分に乾ききっていない髪の毛が乱れ、
頬にへばり付くが、そんなものは気にならない。
体を突かれるたび、その陰部から走る快感が徐々に彼女の思考を犯していく。支配されていく、その感覚だけはそのままに。
「きゃ、ああん!ひぁうっ…あっ、ああっ!」
「ふっ…」
湯上りの自分の熱と覆いかぶさった彼の熱が合わさり、汗が二人の全身に広がっていく。度々の口付けで口
元には唾液が零れ、彼の荒々しい息が吹きかけられる。
自分を押さえつける彼のごつごつした手が、筋骨隆々とした無駄の無いその体が自分を貫く。
そんな彼の男としての逞しさが、彼女の背筋をぞくぞくと震わせ止まらなかった。
彼のスピードが落ちる。ゆっくりと彼女の片脚を持ち上げると、自分の肩に乗せる。体を横に倒してその体勢
のまま再び彼女を求めていく。



愛液で溢れたその音がより鮮明に飛び込んでくる。彼女は枕を握り締めて歯を食いしばった。
「うう…!く…っ…ふ……!ううーっ!」



ここからの眺めであると、彼女の体が隈なく見て取れた。動きに合わせ、乳房がぷるん、ぷるんと揺れる。
何とも官能的な眺めにスネークは欲望を益々募らせ、ひたすらに彼女を突き続けた。更に乳房に手を伸ばし、
揉みしだく。
彼女が握った枕がくしゃっと形を変えていった。




彼に触れられるたびに走る、体が溶けてしまうような感触。脊髄から全身に鳥肌が立つような感覚。
パラメディックの喉が鳴る。閉じた瞼の裏に光る白さが、その勢いを増していく。



…ああ、



辺りは静かだったが、鼓膜では無く、頭の中で様々な音を感じ取れたような気がする。
自分の吐息、早鐘となって打ち続ける心臓の鼓動音、自身の股間にあてがわれたスネーク自身が潤いを得る音、
スネークの、息遣い。



…スネーク、



再び彼の体が正面に向き直り、そしてお互いの体を抱きしめる。唇に触れる彼の感触。絶頂が近い。
胸の中の心臓をわし掴みにされたような切ない感情がこみ上げて、瞳からは雫が浮かび、口はしきりに彼の名を呼び続けた。



…スネーク。



「パラ…メディック…!」
「あ…う……あっ、ふあああああっ!」
双方の瞼に閃光が走る。何も無い。そこに存在するのは二人だけ。
そこはとても静かで、自身混沌に陥ったかと思うほどに全ての柵(しがらみ)から解き放たれ、きれいになった互
いをいつまでも見つめていた。



もう、離れなれない。いつまでもこうしていたい。
彼女は彼の腕の中で最後に身を震わせた。彼に愛されて、彼を愛して、どこか温かさに包まれて。彼の名をつぶやいた。



「…スネーク…」
呼吸で揺れる肩を落ち着かせながら、スネークはパラメディックに穏やかに微笑んだ。



424




サイドテーブルに置いてあった時計がけたましく鳴り響く。
カーテンの隙間からは朝日が差し込み、静かな風の音が部屋に流れ込んだ。
差し込んだ光は、床に脱ぎ捨てられた服を橙に染め、木目に沿うように線を這わせる。
その横の皺になったベッドの上で、二人は身を摺り寄せて眠っていた。



スネークの目が開く。すぐ目の前の彼女の可愛らしい寝顔を暫らく見つめ、サイドテーブルの時計に手を伸ばした。
手探りで色々と試行錯誤するが、どうもアラームの止め方がわからない。
横から、手が伸びた。彼女の細い手がスネークの上を通って、時計の後部のスイッチを切る。
「お早う」
彼女は枕に肘をついて、スネークに微笑みかけていた。



「…君がいて助かったな」
パラメディックはくすくすと笑う。スネークもまた綻んだ顔で、彼女に口付けする。



「…お早う」




───身を寄せ合う。



部屋に、呟くような二人の会話が響く。



そしてお互い沈黙すると、息を吸い込み再び唇を重ねた。
いつまでも続けば良いと願い、そんな想いもまた二人を引き寄せた証拠なのだと。

-2
劇場を出てからは、二人は映画の感想を語り合う。
特にパラメディックにおいては言葉がとどまる事を知らず、ああいう演出はどうだとか、女優は賞をとれるかどう



かだとか、矢継ぎ早にスネークに言い聞かせたものだ。
一方でスネークは口を挟むことなく、パラメディックの言う事を全て聞き終えると自分の拙い感想をゆっくりと紡



ぎだす。努めて、彼女に合わせようとしたのである。



それからというもの、街を行く二人の会話は、不思議なほど弾んでいた。お互いの心の隔たりが取り去られた



ように、隠し所無く、時に笑い、時に喋り過ぎに気がつきはっとした彼女に、横から嫌味を囁いてみたり。傍から
見れば恋人のような、そんな時間がとても大切なものに思えていた。
少し早めのディナーの席でも、最近のお互いの事や、過去の話、そしてこれからのお互いの事。ワインを手に、
そんな互いの在り方を一つも漏らすことなく受け入れると、二人の距離が狭まっていく。
いつしか時間が経つのも忘れ、二人は会話に没頭していった。



店を出た頃には既に街の灯りが人々を照らし出していた。街の夜の始まりである。



あるものは今日一日の仕事を終え、ほんの少し小走り気味に、帰りを待つ家族のもとへと急いでいる。また



あるものは、仲間達と共に活気を見せ始めた夜の街へと楽しそうに消えていくのだった。
昼間とは少し違った、もう一つの街の様子が明るみになる。



お互いに帰路時期は何となく予測は立てていたもので、夕食を終えた後はこのまま帰していいものかと、スネークは
心の中の葛藤に苛まれていたものである。
それは、彼女も同じであったのかもしれない。



間が空いた会話の様子が、二人の思いを物語っていた。




「…家まで送ろう」
悩んだ挙句結局はそう告げると、店を出たスネーク達は街中をゆっくり歩き始める。
パラメディックは何も言わない。つい先程の日向に花開いたような笑顔は何処へ行ったものか、
無言で少し陰りのある表情を地面に向けながら、スネークの後をゆっくりついていく。
昼間の二人の様子とは異なる。振り向けはそこに顔があるような距離で並んで歩いた二人ではない。先導



するスネークの程なく離れた後ろを、どことなく重い足取りで彼女は歩を進めた。



スネークが、歩幅を彼女に合わせる。
同時に彼女も歩く速度を落とす。
逆に早めれば、彼女もまた歩く速度を戻していく。一向に並んで歩こうとはしない。



「…」
「……スネーク」
「…どうした。急に静かになったじゃないか」
「…なんでもない。ごめんね」
やはり言った方が良い。スネークは、後ろを向く事無く彼女に問いかける。
「…まだ、帰りたくない。……そうだろ」
「…違います」
「君はそう思ってる」
「違うってば!」
急に歩く勢いを増して、そのままスネークを抜き去る。その後ろでスネークは肩を竦めると、先程と変わらぬ速



さで歩き始めた。



「…思ってるさ」




車のドアを開け、パラメディックが乗り込むのを確認するとエンジンを再び唸らせ、照らし出された街中を走り出していた。



隣に座る彼女の横顔は昼間のような勢いは無く、どこか元気の見られない表情で窓の外を見つめている。
理由は、スネークにもわかっていた。だが、敢えて今はその事を口にはしない。
窓に映りこんだ幾つもの街灯の明かりは、走り出した車に合わせて次々に加速していく。パラメディックの瞳に



映し出されたそんな光は無数の粒となり、彼女の瞳の奥に吸い込まれていった。
車内は沈黙を保ったまま、夜の都を抜け出すと住宅街に差し掛かる。ここまで来るとさすがに交通量は減り、
時折ヘッドライトがすぐ横を通り抜けていくが、後はそれぐらいのものであった。



坂を上り詰めた辺りで、スネークは路の隅に車を停める。
行き交う車の姿はもうどこにもなかった。
エンジンを切ると、もう何も聞こえない空間が車内を支配する。
突然のスネークの行動にも、パラメディックは沈黙を保ったままであった。何でここで停めるのか、そんなことが



問題でも無いかのように。寧ろ、彼女には想像出来ていた。
スネークの、この行動が。




「パラメディック」
スネークが静かに口を開くと、それに合わせてパラメディックもぽつりと呟きだす。
「…ねえ」
「…」
「スネークは、どう思うの」
「何がだ」
「今回の作戦……それから……EVAの事」
「…プライベートでの仕事の話はしないようにしてるんだがな。特に君と…」
「好きだったの、彼女の事」
「…楽しく過ごしている間は、核だの冷戦だの」
「お願い!」




「…………パラメディック…」
「お願い、真面目に、…答えて」



「……気になるのか?」
「真面目に、…答えて」
「…悪かった。わかってたさ。……何もなかったわけじゃない」
肩が少しだけ震えると、再びパラメディックは言葉を紡ぎ出せなくなる。
それを見たスネークは彼女の肩を両手で掴むと、正面に向き直らせた。
「…パラメディック」
「………やだ…」
見つめる彼女の目に、うっすらと涙が浮かぶ。
「……もう言おう。俺は」
「……駄目……やめて言わないで!」
掴まれた肩を振りほどこうとするパラメディックを、力任せに押さえ込む事は造作も無かった。



…卑怯者だ。俺は。



「んっ……!離して!」
「…俺は、お前の事しか頭に無い」
「嫌あ!……何で……何で、今そんな事……!」
彼女の髪の甘い香りが、ふわっと鼻の奥に流れこむ。



…そして君も、俺と同じなんだ…



「……君が好きなんだ。俺は」
必死に抵抗するパラメディックの体を抱き寄せると、半ば強引に唇を奪った。




「んっ!…んくぅっ……!むぐぅ……っ…」
激しく抵抗をみせた彼女の体が、スネークの腕の中で徐々に勢いを失い、やがて互いに唇を重ね合わせたまま
ぴたりと動きが止まる。
互いの呼吸音が空間に広がる。そしてまた、体を激しくよじらせた。今度はスネークを突き放すためではない。
彼の胸に、自ら体を埋めるために。
パラメディックは突然のキスに驚く事は無かった。自分も彼も、そう望んでいたのかもしれない。
スネークの頭に手を回すと、彼女からも唇を求める。
「ん……」



スネークは彼女と口付けたまま、体重をかけてパラメディックを勢いよくシートに押し倒した。
そのまま彼女の髪を乱すと、息も吐かせぬほど口内を貪る。まるで獣のように激しく体をすり合わせ、本能のままに
二人は乱れあう。
歯を舐め、歯茎を塗りつぶし、唾液を味わい、舌の裏に自分の舌を滑り込ませると、彼女の舌を弄んだ。
「むっ…ん……ふう…ぅ……っ!……く…ぅ……んんっ」
パラメディックの体がふるふると震える。感覚が一気に押し上げられ、声が上擦っている。彼女が舌を絡めてくると、
自分もそれ以上をもって応えた。



車が二人の動きに合わせて激しく揺れる。
パラメディックの顎に、つうっと唾液が零れ、線を引いた。乱れた彼女の服の隙間から白い肌が伺える。そこに



片方の手を強引に滑りこませると、そのまま背中に手を回し、もう片方の手を彼女の後頭部にあてがった。
頭を引き寄せると、更に体をぴったりと密着させて力強く唇を求める。彼女が苦しそうに時折顔を捩らせ、
空いた隙間から酸素を求める。が、すぐに覆いかぶせるように唇を合わせ、逃がさない。離さない。



「ふあっ、はむ……っ…!ん、…ん…ふ……っく…む…うぅっ…」
水音と吐息、それにパラメディックの色を帯びた声が響く。鼓膜に焼付け、その彼女の荒がった暖かい吐息を



胸一杯吸い込むと、再び唇に吸い付く。




「…んっ……」



パラメディックはスネークの腕の中で悶える。
自分を求めるスネークの接吻は、あまりに激しかった。だが、彼女はそれでも構わなかったのだ。
微かな明かりの中、二人の手は荒々しく互いを模索し始める。自分の手よりも一回りも大きなスネークの手が、
スカート越しに臀部を弄る。やがてその手が股下を這い回ると、唇の隙間から発せられた声が上擦る。
「あ……ふあうっ…」
彼女はその手を離すまいと、太腿をきつく閉じてスネークの手のひらを締め上げた。
それに応えるように自らもスネークの髪をかき乱し、舌を絡み合わせていく。呼吸が苦しい。唇と唇の隙間に



時折出来る隙間から、僅かな酸素を求める。
それも一瞬のうちで、結局はスネークが許さず再び隙間を埋められていく。何度も、何度も。
「くは……ふ、ぅうん…っ…む…うっ…んん…」
頭が真っ白に染まっていく。頬が色づく。息が熱を帯びる。力が抜ける。何も考えられない。
…いや、何も考えなくてもいいのだ。今は。この時間だけは。
ふいに、二人の唇の間に光る唾液の糸が引かれ、顔が離れる。スネークは彼女を抱きすくめたまま、パラメディックは
彼に抱かれたまま、乱れた息で何かを探るように注意深く互いの瞳を見つめあう。そして確認が済むと



、いつ終わる事無く二人は唇を重ねあった。




───どれだけの時間が過ぎたのか。
そこに停めてあった車は、いつしか揺れ動く事を止めていた。
窓ガラスはほんの少しだけ白く曇り、中の様子はよく見えない。




車内は沈黙していた。
暗がりの中、二人は静かに唇を離すと、パラメディックは僅かな先に映る隻眼の男に残された瞳を覗き込む。



ゆっくり、再び確かめるように。
乱れた呼吸を少しずつ整えていく。




頬に添えられた大きな手から、確かな温もりが伝わってくる。そして細められたその瞳は、吸い込まれそうな程



大きく感じられ、同時に自分も、そして誰も知らない彼の内に隠されたものが、時折姿をちらつかせた様な…



そんな気がしたのである。



視線を逸らせなかった。今逸らしたら、それを見逃してしまうかもしれない。



彼の、彼の中の、その”何か”を。



「…パラメディック」



スネークが言葉を紡ぎ出す。暖めておいた、その気持ちを乗せて。
「君を送るとは言ったが…俺がこの後どうするかは言ってないよな?」
「……え」
「…俺はこの後、君の部屋に行く……と言ったら?」
顔を真っ赤に染めて、パラメディックがこくりと頷くのを僅かな笑顔で確認する。



「…了解」
スネークはパラメディックの頭を軽く撫でるとシートに座りなおし、再び車のエンジンを唸らせて、夜の道を走り出した。



パラメディックは窓の外を見つめる。そっと、ガラスの上に手を重ねた。
ガラスの中に映りこんだ、彼の頬に手を添えるようにして。
-1
開け放った窓からはうっすらと朝の陽が差し込み、すぐ下方に位置するベッドシーツを彩ると、
ふわふわと備えられたカーテンを靡かせる。
部屋に聞こえる物音は一切無く、そしてまた時折深深としながらも耳に空気の音が響き、
そして余韻が残ると、再び静寂が訪れるのだ。



良く晴れた空を、鳥の群れが気持ち良さそうに泳いでいく。



その部屋の壁に据えられた机の椅子……それに向かい合わせたパイプ椅子にはそれぞれ
二人が腰を下ろしていた。男は女に背を向け、女はその背中の様子を目で追っている。会話は無い。



上半身は裸であるその隻眼の男は、幾つもの戦いで負った数え切れぬ傷跡を、自分の体を、残った片方の目で確認すると、
正面の壁を見据えて息を吸い込んだ。
部屋のドアの向こうからはこの病院に勤めるものか、或いは患者のものか。廊下を歩く足音がすたすたと聞こえてくる。




お互いに黙々とし、時間が過ぎていったのである。






───スネークイーター作戦。



冷戦下の錯綜の最中、歴史に記される事無く、表情勢のその影で秘密裏に行われたこの作戦。
ゼロ少佐率いる米国の隠密部隊「FOX」の一員である”スネーク”は、FOXの発起に当たる前作戦、
バーチャスミッションにおいてソ連側に偽装亡命を果たしたかつての彼の師”ザ・ボス”と二度目の対峙を向かえ、
結果、彼女を葬る事になったのである。



───とても言葉では言い表す事が出来ない───



彼自身が語ったように師弟関係を超越した二人の関係の崩壊は、スネークの心を変えるには
十分過ぎる程に大きなものであり、同作戦に参加していたゼロ少佐を始めとするメンバー達は、
何も語ろうとはしないスネークの様子を見、気遣ったが、スネークはそれをことごとく避けてしまうのであった。



そうしてようやく彼が落ち着きを見せた頃に、彼女はスネークに連絡をとりつけたのだ。



当時の傷は完全に癒えた…とはいわないものの、スネークがこの治療室を訪れた理由としてはまさに
彼女からのそれである。



とある州の都心からわずかな距離をおく郊外の、広大な敷地を有した総合病院に足を踏み入れると、
そこら近辺の病院と比べより近代化が進み、機器が充実している事が伺えた。患者やここに勤務している医師、それに看護婦などで
ロビーはごったがえしている。さらに奥へと足を踏み入れると、病院特有の匂いが鼻をついた。



スネークは、昔からこの鼻腔に染み入る匂いが不快で堪らなかった。



彼女はもともとこの病院の医師ではないのだが、会うついでに体の傷の経過を見てみたいからという理由に加えて
立地も待ち合わせには都合がいいからと、彼女が計らったものだ。事実、ここへ来るまでの道程は確かに好都合であり、
インターステートハイウェイを車で飛ばしてくるぶんには実に容易なものであったのだ。
長い廊下を進んだ先にある階段を上り、二階の角を曲がった先にある待ち合わせ先…その治療室のドアを開けると、
彼女が笑顔で出迎えてくれる。スネークもそれに軽く手を挙げて応えた。
つい十数分前の事である。





「あれから、特に異常は無いの?」
スネークの傷跡に塗(まみ)れた背中をじっと見つめつつ、彼女はスネークにそう告げた。
「ああ、もう何とも無い」
微動だにする事もなく、正面に俯いたままただ一言、背後から語りかけるパラメディックにそれだけ呟く。
「君こそ」
「え、私?」
「医師免許剥奪、…なんて目にあわずに済んで良かったじゃないか」
「ふふ…まあね」
彼女は軽く息を吐き出すと、患者を診る目つきからうって変わり、何ともほぐれた表情で答える。
久しぶりの会話に硬さは無く、いつものように彼女の明るい声が響き渡った。
「本当、たいした体ねえ。戦車に轢かれても平気なんじゃない?」
「かもな」
「何よ…意地悪」
「…悪かった。で、俺を呼んだ理由はこれだけでも無いんだろう?」
「ええ。まあ、ね」
「検診の次は俺のメンタル・ケアか?」
「ふふ……まあ、そんなトコかな。当たりよ」
ぎい、とスネークが向き直ると、彼女は両膝に手をつき微笑んだ。
彼女の顔を見るのは久しぶりだった。まして、こんな穏やかな笑顔など。
俺を気遣うのならそんな必要はない、俺はそんな女々しくない…と、そう言おうとしたものだが、
そんな彼女の笑顔を目にしてしまうと、思わず言葉を飲み込んでしまう。



おしゃべりな彼女に何も言わせないというのは少し可哀想でもある。
…ここは一つ、彼女に任せてみようか。
頭の中で言葉を模索する。もともと人と話すのはそんなに得意でもない方なものだから、次に何と口を紡いでいいものか。
ぱっと浮かぶものが無く、結果苦笑いを浮かべて返す自分が情けなく思えた。





「…と思ったけど、やっぱりやめた!」
そうこうしている間に、パラメディックが肩を浮かせて言った言葉は意外なものだった。
「うん?」
「考えれば、あなたがここに来てくれたって事は、もうそんな必要は無いって事よね。…それに、私が口を挟む事は
出来ないって。そんな気がしたの。」
「…」
「……御免なさい。本当なら切り出すべきじゃ無かったんでしょうね…この話。けど、忘れないでね。もしあなたがそれで
少しでも楽になれるのなら、もし私があなたの力になれるのなら…その時はいつでも待ってる。
どれだけの事が私に出来るかわからないけれど…ね」
「……何だ」
「…え?」
「…いや、いつもの調子で機関銃のように説教されると思って、こっちは身構えていたんだがな」
「もう…!失礼ね」
二人の間に笑いが浮かぶ。どちらからともなく、自然に笑いが部屋の中に響いてやがて消えていった。
「…その笑顔が証拠。安心したわ。…本当は少しだけ、不安だったの」
パラメディックはスネークの顔を見つめると、つぶやくようにそれだけ口にする。
「…パラメディック」
「何?」
「ここじゃなんだ、どこか街のほうにでも行かないか。この病院独特の雰囲気がどうも駄目なんだ、俺は」
早々とスネークが腰をあげると、パラメディックは上目遣いで口元を緩ませる。
「…それって、デートのお誘いかしら?」
「そうとってくれても構わない」
残った左目で同じく微笑を返すと、彼女もゆっくり腰を上げた。
「あなたからのお誘いだもの。…断る女性がいる?」
「…決まりだな。車は表に停めてある」
スネークはシャツと、掛けてったジャケットを羽織ると、ドアに向かって歩き出す。
ふと顔を後ろに向けると、同じく身支度を整えてスネークの後に続く彼女が首を少



しだけ傾け、スネークに微笑みかけるのだった。



行きましょう、と。




軽快な排気音を唸らせながら、車はよく舗装された一本道を走り出した。
窓に移り行く景色はとても自然に満ち溢れていて、先程までいた木に囲まれた病院がもう、ミラーに小さく、遠ざかっていくのが見える。
外に視線を移すと、木々が覆い茂り、車の加速につれてあっという間に過ぎ去っていく。そして急に視界が開
けると、一面の草原が広がっていた。
パラメディックの瞳の中の次々に移り変わる自然の景観は、彼女の目を愉しませるにはそれだけで十分な程美しかったのだ。
再び彼女は視線を戻す。愛車マスタングのハンドルを握る、彼の顔へと。
その眼帯に隠れた顔からは彼の表情は伺い知れなかった。…が、先程の彼からの提案、それに態度から見ても、
きっとその表情穏やかな筈だと。憶測だとしても彼女にはそう思えていたのである。



彼と会うときには、彼の心を気遣おうと努めて明るく振舞おうとしたものだ。
そんなパラメディックの意識からか、傍目には大袈裟に映ったのかもしれない。そんな彼女を見てスネークは苦笑し、
逆に彼に諭されてしまった事を覚えている。今思えば、何とも恥ずかしい。
…私、何やってるんだろう。スネークの方がよっぽど落ち着いてるじゃない。
そう思うとパラメディックはついつい居心地が悪くなり、視線を逸らしてしまう。
…何か会話が欲しい。



「ねえ、どこに行くの?」
車の騒音に負けないよう声を大きくして、とりあえず思いついた一言を彼に切り出してみる。
「君はどこに行きたいんだ?」
同様にスネークも、排気音と風の音にかき消されぬように少しだけ声の調子を上げて尋ねた。
「私?そうねえ…」
パラメディックは顎に人差し指を軽く当てると、上を見上げる。
「…映画、か」
「あ、それはいいかも!もうスネークったら、映画の話題何も知らないんだもの。…理解を深める、いいチャンスじゃない?」
「まあそうだが…君はその、何だ…”怪物もの”だとかが多いからな」
「そんな事ないわよ!恋愛ものだとか、ミステリーものだとかもいつも見てるもの」
「そうか。じゃあ今日は君に一つ、ご教授願いたいものだな」




「勿論!私に任せなさい。じゃあまずはあれとこれと……そうだ、あの映画も外せないわよね…」
「おい…幾つ見るんだ」
「?全部」
「…だんだん頭が痛くなってきたんだが」
「冗談よ。じゃあ、今日は一つね」
「当たり前だろう。……大体一度にそんな」
「…スネーク!あなたが」
「わかった!…わかった。いや、君のおかげで映画が好きになりそうだな」



続けて話しだそうとしたパラメディックの口が、そこで止まる。そのまま俯くと、スネークには見えないように微笑を



零していたのである。



横の彼女が急に黙りこんだのが気がかりになったスネークは、フロントガラスと交互にちらちらと横目でパラメデ



ィックの様子を伺う。
自分は何かマズイ事を口にしただろうか、と狼狽した。



「どうした」
スネークの言葉にパラメディックはゆっくり顔を上げると、調子を弾ませて彼に答える。



「ううん、なんでもない。絶対映画好きになるわよ」



一台、対向車が通り過ぎていく。
遠く見えなくなるまで続いた、緑の茂る内陸の舗装道を、二人の乗った車は走り抜けていった。





都心の劇場で車を降りたときには、娯楽を求めてやってきた人々で劇場内は既に賑わっていた。



現在のプログラムは今人気の恋愛ミュージカルで、主演の女優も同じく人気が高いから混みあっているのだと、
パラメディックは背を伸ばし、隣のスネークにそう耳打ちする。
劇場内に足を踏み入れると、場外と同様に席には多くの客で溢れかえっており、どこか空きは無いものかと、スネークは辺りを
見回した。そんな彼の横にいたパラメディックがスネークのジャケットの袖を引っ張る。
指差した先は、場内後部の片隅。御誂え向きに二つ並んで空いた座席が伺えた。
彼女は嬉しそうに彼の腕を掴むと、スネークをぐいぐい引っ張って人を掻き分け、二人並んで腰を下ろしたのであった。



やがて場内が徐々に静まると、上映を告げるブザーが鳴り響く。
横に座ったパラメディックが、スネークに一言呟く。
「ちゃんと見ててね」
その言葉にスネークはふと、彼女の方を何気なく見やる。
彼女はどのように映画を楽しむのか。パラメディックの話し振りからすれば、この時間が彼女にとっては嬉しくて



仕方が無いに違いない───などと、思考をめぐらした後に彼女の表情を見ておきたかったのかもしれない。



───スネークは、息を呑んだ。



…今から始まるであろう映画を、目を輝かせながら見つめる彼女の横顔はまさに少女のように純粋であり、そんな姿を見た
自分の中でどこか心を燻(くすぶ)られている事に気がつくと、スネークは何となく視線を背けてしまった。
(いかん、いかん…)
何だか体がむずむずして堪らない。どうも最近気持ちにゆとりが出来たからなのか、異性を見ると欲求が昂ってしまう
自分が再び情けなく思えた。EVAとの一件以来ずっと性交から遠ざかっていたのだが、こんな彼女の顔を見つめていると
どうしてもよからぬ想像を頭の中で巡らせてしまう。どうにかして振り払いたい。今は、彼女との映画を楽しまなければ、と。
(何を考えているんだ、俺は…)
額に手を当てて、深い吐息を吐き出す。





…馬鹿だな、俺は。だが…



だが、気になる。俺は彼女にどう思われているんだろうか。柄にも無い事で考えをめぐらせるものだなと、普段



の自分であれば考えていたのかもしれない。だが、この時ばかりはそうはいかなかった。
…本気で考えているのか。



───いつしか、自分は彼女に惹かれ始めていたのかもしれない。
そう考えれば、胸の内の通りがすこぶる軽くなった。



…そうか。そうだな。
俺はまだ彼女に、何も返していない。応えていないんだった。



屈託無く自分に話しかけてくれる彼女。
ふと、作戦中のパラメディックの言葉を思い出す。
敵地にたった一人で降り立ち、孤独な戦いの最中、彼女は自分にアドバイスを、そして励ましの言葉をよく



かけてくれたものであった。
…時に、怪しげな情報もあったものだが。今となってはいい経験だ。



誰の助けも無く任務を遂行しなければならない寂しさと恐怖を、いつも彼女の声によって紛らわす事が出来た。
助けられたのだ。
勿論、スネーク自信根をあげるような事は無いし、積み重ねられた戦闘経験、エージェントとしてのプライドも



ある。鍛え上げられた屈強な肉体、決して折れる事のない精神の前には少しも揺らぐ事は無い、という確信



にも似た思いもまた自らの誇りであった。




だが、どんなに訓練によって鍛え上げても、心の底で拭っても拭い去る事の出来ぬ「恐怖」が、彼の心の内で



度々脅威となり、確かな形を以て彼を脅かし続けたのである。



人を殺めた。
目の前で人が死んだ。助けられなかった。
見つかれば死か。



経験、体験、訓練、知識。
そんなものには埋められない。
それはあまりにも本能的な、最も確実で、最も現実味を帯びた「死」という恐怖。




そんな場面に出くわす度に、何度も己に巣食うそれが、自分を試すのだ。
だが同時に、そんな自分を和らいでくれていたのが彼女の声だったのだと。
きっとそうだったのだと。
…俺は、君に助けられたのかもな。



今日という機会があったのは、本当に感謝したいと心からそう思えた。



今日は、今日こそは、彼女に応えてあげなければ。




「ねえ、スネークったら」



「…ああ」
間を置いて答えた彼の目の前で、スクリーンが光を放つ。
暗い場内を照らし出すその光は、確かな気持ちをも照らし出していた。





───劇場の前で少女は、とある男と出会う。
その男に応えるように、少女は美しく変身を遂げ、そして輝いていった。



スネークはそんな映画の内容よりも、パラメディックの横顔をぼーっと見つめていた。
シーンの度に表情が目まぐるしく変わりゆく彼女の顔は飽く事が無く、見ていて楽しかった。



…彼女は、何を考えて眺めているんだろうか。例えば…




…そうね、これが私とスネークだったり。



登場する人物に重ね合わせてみようとするのはパラメディック。
そんな考えを頭の中で巡らせてるうちに、二人の姿が頭に浮かぶとどうしても笑いが漏れてしまう。
女優と男優の役柄を浮かべながら。



…あ、でも私は貧乏でもないし、ましてスネークが学者なんて…想像できないかも…



何がそんなに面白いのかと、不思議そうにスネークは突然の笑いを隠せぬパラメディックを見つめる。
少し、拍子抜けした感が否めなかったのもある。



…そうね、スネークはどんな…



ふとパラメディックは、スネークの方を見てしまう。そこで彼女は初めて気づいた。
「えっ」




二人の視線がぴったり重なる。はっ、と目を背けると、ぼっ、と頬が赤くなるのが自分でもわかった。
何となくむずがゆさを感じたスネークも同様、前に向き直る。
(何でかな…)
子供じゃないんだから。ただ目が合っただけだ。それなのに…
それなのに胸の鼓動が早くなる。いつもと何も変わらない。これくらいの事でそんな動揺もしないはず。そのはずなのに。



…ひょっとして、ずっと見られてた?私…




…しまった…



俯いてしまうパラメディックの様子を見ると、それまで釘付けだった彼女の関心に水を差してしまったように感じて、
スネークはばつの悪い表情を滲ませた。
悪い事をしてしまったなと、何だか頭と歯の裏ががむず痒くなり、手のやり場に戸惑う。結局、席に肘をついた所で落ち着いた。



視線を下に逸らすパラメディックと、頬杖をついて映画を眺めるスネーク。
…二人の間に、何とも不思議な空間が形成されたのである。



(何で…そんなに意識する事ないじゃない!馬鹿!)
普通に振舞ってればいいじゃない。普通に笑っていればいいじゃない。
ああ、スネークも絶対気づいてる…!今更どんな顔で接したらいいのかわからない。
どうしよう。恥ずかしい。彼の方に振り向けない。



静かな場内で隣同士、もしかしたら心臓の鼓動が聞こえるんじゃないかと思うくらいに、彼女の緊張は高まっていた。
膝についた手のひらに、きゅっと力がこもる。



…でも…




ちらっと横目でスネークの表情を確認すると、彼は既に正面に向き直っていた。
一人緊張している自分が、何だか間が抜けたように思える。そして平然としたスネークの態度が、彼女にとっては
少しだけ気に入らなかった。
むすっ、と口を僅かにくの字に結ぶと、横目でちらちらスネークの様子を伺った。



…スネークにとっては、何も変わらないのかな。私を見ても、何も思わないのかな。
心がもどかしさを感じる。変なの、こんな気持ち。



…そうなのかな。



…私は、スネークが好きなのかな。
会ったときから、それは何となく思っていたのかもしれない。気遣おうとした私を、心配はかけさせないようにと



逆に気を使ってくれた事が嬉しかった事もある。どこか行かないかと口にしてくれた事も嬉しかった。
興味を持ってくれていた事が嬉しかった。
一緒にいられるのが、嬉しかった。



…何だ。……私は……



いっつもスネークの事、考えてる───きっとそうなんだ。
私は、スネークの事が、好きなんだ。



映画が終焉を迎える。
いつのまにか、彼女の表情は最後の変化を見せていた。
映画のせいか他の何かか。理由は、誰にもわからない。



彼女の瞳が、潤いに溢れるそのひとしずくが頬を濡らした理由を。
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