劇場を出てからは、二人は映画の感想を語り合う。
特にパラメディックにおいては言葉がとどまる事を知らず、ああいう演出はどうだとか、女優は賞をとれるかどう
かだとか、矢継ぎ早にスネークに言い聞かせたものだ。
一方でスネークは口を挟むことなく、パラメディックの言う事を全て聞き終えると自分の拙い感想をゆっくりと紡
ぎだす。努めて、彼女に合わせようとしたのである。
それからというもの、街を行く二人の会話は、不思議なほど弾んでいた。お互いの心の隔たりが取り去られた
ように、隠し所無く、時に笑い、時に喋り過ぎに気がつきはっとした彼女に、横から嫌味を囁いてみたり。傍から
見れば恋人のような、そんな時間がとても大切なものに思えていた。
少し早めのディナーの席でも、最近のお互いの事や、過去の話、そしてこれからのお互いの事。ワインを手に、
そんな互いの在り方を一つも漏らすことなく受け入れると、二人の距離が狭まっていく。
いつしか時間が経つのも忘れ、二人は会話に没頭していった。
店を出た頃には既に街の灯りが人々を照らし出していた。街の夜の始まりである。
あるものは今日一日の仕事を終え、ほんの少し小走り気味に、帰りを待つ家族のもとへと急いでいる。また
あるものは、仲間達と共に活気を見せ始めた夜の街へと楽しそうに消えていくのだった。
昼間とは少し違った、もう一つの街の様子が明るみになる。
お互いに帰路時期は何となく予測は立てていたもので、夕食を終えた後はこのまま帰していいものかと、スネークは
心の中の葛藤に苛まれていたものである。
それは、彼女も同じであったのかもしれない。
間が空いた会話の様子が、二人の思いを物語っていた。
「…家まで送ろう」
悩んだ挙句結局はそう告げると、店を出たスネーク達は街中をゆっくり歩き始める。
パラメディックは何も言わない。つい先程の日向に花開いたような笑顔は何処へ行ったものか、
無言で少し陰りのある表情を地面に向けながら、スネークの後をゆっくりついていく。
昼間の二人の様子とは異なる。振り向けはそこに顔があるような距離で並んで歩いた二人ではない。先導
するスネークの程なく離れた後ろを、どことなく重い足取りで彼女は歩を進めた。
スネークが、歩幅を彼女に合わせる。
同時に彼女も歩く速度を落とす。
逆に早めれば、彼女もまた歩く速度を戻していく。一向に並んで歩こうとはしない。
「…」
「……スネーク」
「…どうした。急に静かになったじゃないか」
「…なんでもない。ごめんね」
やはり言った方が良い。スネークは、後ろを向く事無く彼女に問いかける。
「…まだ、帰りたくない。……そうだろ」
「…違います」
「君はそう思ってる」
「違うってば!」
急に歩く勢いを増して、そのままスネークを抜き去る。その後ろでスネークは肩を竦めると、先程と変わらぬ速
さで歩き始めた。
「…思ってるさ」
車のドアを開け、パラメディックが乗り込むのを確認するとエンジンを再び唸らせ、照らし出された街中を走り出していた。
隣に座る彼女の横顔は昼間のような勢いは無く、どこか元気の見られない表情で窓の外を見つめている。
理由は、スネークにもわかっていた。だが、敢えて今はその事を口にはしない。
窓に映りこんだ幾つもの街灯の明かりは、走り出した車に合わせて次々に加速していく。パラメディックの瞳に
映し出されたそんな光は無数の粒となり、彼女の瞳の奥に吸い込まれていった。
車内は沈黙を保ったまま、夜の都を抜け出すと住宅街に差し掛かる。ここまで来るとさすがに交通量は減り、
時折ヘッドライトがすぐ横を通り抜けていくが、後はそれぐらいのものであった。
坂を上り詰めた辺りで、スネークは路の隅に車を停める。
行き交う車の姿はもうどこにもなかった。
エンジンを切ると、もう何も聞こえない空間が車内を支配する。
突然のスネークの行動にも、パラメディックは沈黙を保ったままであった。何でここで停めるのか、そんなことが
問題でも無いかのように。寧ろ、彼女には想像出来ていた。
スネークの、この行動が。
「パラメディック」
スネークが静かに口を開くと、それに合わせてパラメディックもぽつりと呟きだす。
「…ねえ」
「…」
「スネークは、どう思うの」
「何がだ」
「今回の作戦……それから……EVAの事」
「…プライベートでの仕事の話はしないようにしてるんだがな。特に君と…」
「好きだったの、彼女の事」
「…楽しく過ごしている間は、核だの冷戦だの」
「お願い!」
「…………パラメディック…」
「お願い、真面目に、…答えて」
「……気になるのか?」
「真面目に、…答えて」
「…悪かった。わかってたさ。……何もなかったわけじゃない」
肩が少しだけ震えると、再びパラメディックは言葉を紡ぎ出せなくなる。
それを見たスネークは彼女の肩を両手で掴むと、正面に向き直らせた。
「…パラメディック」
「………やだ…」
見つめる彼女の目に、うっすらと涙が浮かぶ。
「……もう言おう。俺は」
「……駄目……やめて言わないで!」
掴まれた肩を振りほどこうとするパラメディックを、力任せに押さえ込む事は造作も無かった。
…卑怯者だ。俺は。
「んっ……!離して!」
「…俺は、お前の事しか頭に無い」
「嫌あ!……何で……何で、今そんな事……!」
彼女の髪の甘い香りが、ふわっと鼻の奥に流れこむ。
…そして君も、俺と同じなんだ…
「……君が好きなんだ。俺は」
必死に抵抗するパラメディックの体を抱き寄せると、半ば強引に唇を奪った。
「んっ!…んくぅっ……!むぐぅ……っ…」
激しく抵抗をみせた彼女の体が、スネークの腕の中で徐々に勢いを失い、やがて互いに唇を重ね合わせたまま
ぴたりと動きが止まる。
互いの呼吸音が空間に広がる。そしてまた、体を激しくよじらせた。今度はスネークを突き放すためではない。
彼の胸に、自ら体を埋めるために。
パラメディックは突然のキスに驚く事は無かった。自分も彼も、そう望んでいたのかもしれない。
スネークの頭に手を回すと、彼女からも唇を求める。
「ん……」
スネークは彼女と口付けたまま、体重をかけてパラメディックを勢いよくシートに押し倒した。
そのまま彼女の髪を乱すと、息も吐かせぬほど口内を貪る。まるで獣のように激しく体をすり合わせ、本能のままに
二人は乱れあう。
歯を舐め、歯茎を塗りつぶし、唾液を味わい、舌の裏に自分の舌を滑り込ませると、彼女の舌を弄んだ。
「むっ…ん……ふう…ぅ……っ!……く…ぅ……んんっ」
パラメディックの体がふるふると震える。感覚が一気に押し上げられ、声が上擦っている。彼女が舌を絡めてくると、
自分もそれ以上をもって応えた。
車が二人の動きに合わせて激しく揺れる。
パラメディックの顎に、つうっと唾液が零れ、線を引いた。乱れた彼女の服の隙間から白い肌が伺える。そこに
片方の手を強引に滑りこませると、そのまま背中に手を回し、もう片方の手を彼女の後頭部にあてがった。
頭を引き寄せると、更に体をぴったりと密着させて力強く唇を求める。彼女が苦しそうに時折顔を捩らせ、
空いた隙間から酸素を求める。が、すぐに覆いかぶせるように唇を合わせ、逃がさない。離さない。
「ふあっ、はむ……っ…!ん、…ん…ふ……っく…む…うぅっ…」
水音と吐息、それにパラメディックの色を帯びた声が響く。鼓膜に焼付け、その彼女の荒がった暖かい吐息を
胸一杯吸い込むと、再び唇に吸い付く。
「…んっ……」
パラメディックはスネークの腕の中で悶える。
自分を求めるスネークの接吻は、あまりに激しかった。だが、彼女はそれでも構わなかったのだ。
微かな明かりの中、二人の手は荒々しく互いを模索し始める。自分の手よりも一回りも大きなスネークの手が、
スカート越しに臀部を弄る。やがてその手が股下を這い回ると、唇の隙間から発せられた声が上擦る。
「あ……ふあうっ…」
彼女はその手を離すまいと、太腿をきつく閉じてスネークの手のひらを締め上げた。
それに応えるように自らもスネークの髪をかき乱し、舌を絡み合わせていく。呼吸が苦しい。唇と唇の隙間に
時折出来る隙間から、僅かな酸素を求める。
それも一瞬のうちで、結局はスネークが許さず再び隙間を埋められていく。何度も、何度も。
「くは……ふ、ぅうん…っ…む…うっ…んん…」
頭が真っ白に染まっていく。頬が色づく。息が熱を帯びる。力が抜ける。何も考えられない。
…いや、何も考えなくてもいいのだ。今は。この時間だけは。
ふいに、二人の唇の間に光る唾液の糸が引かれ、顔が離れる。スネークは彼女を抱きすくめたまま、パラメディックは
彼に抱かれたまま、乱れた息で何かを探るように注意深く互いの瞳を見つめあう。そして確認が済むと
、いつ終わる事無く二人は唇を重ねあった。
───どれだけの時間が過ぎたのか。
そこに停めてあった車は、いつしか揺れ動く事を止めていた。
窓ガラスはほんの少しだけ白く曇り、中の様子はよく見えない。
車内は沈黙していた。
暗がりの中、二人は静かに唇を離すと、パラメディックは僅かな先に映る隻眼の男に残された瞳を覗き込む。
ゆっくり、再び確かめるように。
乱れた呼吸を少しずつ整えていく。
頬に添えられた大きな手から、確かな温もりが伝わってくる。そして細められたその瞳は、吸い込まれそうな程
大きく感じられ、同時に自分も、そして誰も知らない彼の内に隠されたものが、時折姿をちらつかせた様な…
そんな気がしたのである。
視線を逸らせなかった。今逸らしたら、それを見逃してしまうかもしれない。
彼の、彼の中の、その”何か”を。
「…パラメディック」
スネークが言葉を紡ぎ出す。暖めておいた、その気持ちを乗せて。
「君を送るとは言ったが…俺がこの後どうするかは言ってないよな?」
「……え」
「…俺はこの後、君の部屋に行く……と言ったら?」
顔を真っ赤に染めて、パラメディックがこくりと頷くのを僅かな笑顔で確認する。
「…了解」
スネークはパラメディックの頭を軽く撫でるとシートに座りなおし、再び車のエンジンを唸らせて、夜の道を走り出した。
パラメディックは窓の外を見つめる。そっと、ガラスの上に手を重ねた。
ガラスの中に映りこんだ、彼の頬に手を添えるようにして。
特にパラメディックにおいては言葉がとどまる事を知らず、ああいう演出はどうだとか、女優は賞をとれるかどう
かだとか、矢継ぎ早にスネークに言い聞かせたものだ。
一方でスネークは口を挟むことなく、パラメディックの言う事を全て聞き終えると自分の拙い感想をゆっくりと紡
ぎだす。努めて、彼女に合わせようとしたのである。
それからというもの、街を行く二人の会話は、不思議なほど弾んでいた。お互いの心の隔たりが取り去られた
ように、隠し所無く、時に笑い、時に喋り過ぎに気がつきはっとした彼女に、横から嫌味を囁いてみたり。傍から
見れば恋人のような、そんな時間がとても大切なものに思えていた。
少し早めのディナーの席でも、最近のお互いの事や、過去の話、そしてこれからのお互いの事。ワインを手に、
そんな互いの在り方を一つも漏らすことなく受け入れると、二人の距離が狭まっていく。
いつしか時間が経つのも忘れ、二人は会話に没頭していった。
店を出た頃には既に街の灯りが人々を照らし出していた。街の夜の始まりである。
あるものは今日一日の仕事を終え、ほんの少し小走り気味に、帰りを待つ家族のもとへと急いでいる。また
あるものは、仲間達と共に活気を見せ始めた夜の街へと楽しそうに消えていくのだった。
昼間とは少し違った、もう一つの街の様子が明るみになる。
お互いに帰路時期は何となく予測は立てていたもので、夕食を終えた後はこのまま帰していいものかと、スネークは
心の中の葛藤に苛まれていたものである。
それは、彼女も同じであったのかもしれない。
間が空いた会話の様子が、二人の思いを物語っていた。
「…家まで送ろう」
悩んだ挙句結局はそう告げると、店を出たスネーク達は街中をゆっくり歩き始める。
パラメディックは何も言わない。つい先程の日向に花開いたような笑顔は何処へ行ったものか、
無言で少し陰りのある表情を地面に向けながら、スネークの後をゆっくりついていく。
昼間の二人の様子とは異なる。振り向けはそこに顔があるような距離で並んで歩いた二人ではない。先導
するスネークの程なく離れた後ろを、どことなく重い足取りで彼女は歩を進めた。
スネークが、歩幅を彼女に合わせる。
同時に彼女も歩く速度を落とす。
逆に早めれば、彼女もまた歩く速度を戻していく。一向に並んで歩こうとはしない。
「…」
「……スネーク」
「…どうした。急に静かになったじゃないか」
「…なんでもない。ごめんね」
やはり言った方が良い。スネークは、後ろを向く事無く彼女に問いかける。
「…まだ、帰りたくない。……そうだろ」
「…違います」
「君はそう思ってる」
「違うってば!」
急に歩く勢いを増して、そのままスネークを抜き去る。その後ろでスネークは肩を竦めると、先程と変わらぬ速
さで歩き始めた。
「…思ってるさ」
車のドアを開け、パラメディックが乗り込むのを確認するとエンジンを再び唸らせ、照らし出された街中を走り出していた。
隣に座る彼女の横顔は昼間のような勢いは無く、どこか元気の見られない表情で窓の外を見つめている。
理由は、スネークにもわかっていた。だが、敢えて今はその事を口にはしない。
窓に映りこんだ幾つもの街灯の明かりは、走り出した車に合わせて次々に加速していく。パラメディックの瞳に
映し出されたそんな光は無数の粒となり、彼女の瞳の奥に吸い込まれていった。
車内は沈黙を保ったまま、夜の都を抜け出すと住宅街に差し掛かる。ここまで来るとさすがに交通量は減り、
時折ヘッドライトがすぐ横を通り抜けていくが、後はそれぐらいのものであった。
坂を上り詰めた辺りで、スネークは路の隅に車を停める。
行き交う車の姿はもうどこにもなかった。
エンジンを切ると、もう何も聞こえない空間が車内を支配する。
突然のスネークの行動にも、パラメディックは沈黙を保ったままであった。何でここで停めるのか、そんなことが
問題でも無いかのように。寧ろ、彼女には想像出来ていた。
スネークの、この行動が。
「パラメディック」
スネークが静かに口を開くと、それに合わせてパラメディックもぽつりと呟きだす。
「…ねえ」
「…」
「スネークは、どう思うの」
「何がだ」
「今回の作戦……それから……EVAの事」
「…プライベートでの仕事の話はしないようにしてるんだがな。特に君と…」
「好きだったの、彼女の事」
「…楽しく過ごしている間は、核だの冷戦だの」
「お願い!」
「…………パラメディック…」
「お願い、真面目に、…答えて」
「……気になるのか?」
「真面目に、…答えて」
「…悪かった。わかってたさ。……何もなかったわけじゃない」
肩が少しだけ震えると、再びパラメディックは言葉を紡ぎ出せなくなる。
それを見たスネークは彼女の肩を両手で掴むと、正面に向き直らせた。
「…パラメディック」
「………やだ…」
見つめる彼女の目に、うっすらと涙が浮かぶ。
「……もう言おう。俺は」
「……駄目……やめて言わないで!」
掴まれた肩を振りほどこうとするパラメディックを、力任せに押さえ込む事は造作も無かった。
…卑怯者だ。俺は。
「んっ……!離して!」
「…俺は、お前の事しか頭に無い」
「嫌あ!……何で……何で、今そんな事……!」
彼女の髪の甘い香りが、ふわっと鼻の奥に流れこむ。
…そして君も、俺と同じなんだ…
「……君が好きなんだ。俺は」
必死に抵抗するパラメディックの体を抱き寄せると、半ば強引に唇を奪った。
「んっ!…んくぅっ……!むぐぅ……っ…」
激しく抵抗をみせた彼女の体が、スネークの腕の中で徐々に勢いを失い、やがて互いに唇を重ね合わせたまま
ぴたりと動きが止まる。
互いの呼吸音が空間に広がる。そしてまた、体を激しくよじらせた。今度はスネークを突き放すためではない。
彼の胸に、自ら体を埋めるために。
パラメディックは突然のキスに驚く事は無かった。自分も彼も、そう望んでいたのかもしれない。
スネークの頭に手を回すと、彼女からも唇を求める。
「ん……」
スネークは彼女と口付けたまま、体重をかけてパラメディックを勢いよくシートに押し倒した。
そのまま彼女の髪を乱すと、息も吐かせぬほど口内を貪る。まるで獣のように激しく体をすり合わせ、本能のままに
二人は乱れあう。
歯を舐め、歯茎を塗りつぶし、唾液を味わい、舌の裏に自分の舌を滑り込ませると、彼女の舌を弄んだ。
「むっ…ん……ふう…ぅ……っ!……く…ぅ……んんっ」
パラメディックの体がふるふると震える。感覚が一気に押し上げられ、声が上擦っている。彼女が舌を絡めてくると、
自分もそれ以上をもって応えた。
車が二人の動きに合わせて激しく揺れる。
パラメディックの顎に、つうっと唾液が零れ、線を引いた。乱れた彼女の服の隙間から白い肌が伺える。そこに
片方の手を強引に滑りこませると、そのまま背中に手を回し、もう片方の手を彼女の後頭部にあてがった。
頭を引き寄せると、更に体をぴったりと密着させて力強く唇を求める。彼女が苦しそうに時折顔を捩らせ、
空いた隙間から酸素を求める。が、すぐに覆いかぶせるように唇を合わせ、逃がさない。離さない。
「ふあっ、はむ……っ…!ん、…ん…ふ……っく…む…うぅっ…」
水音と吐息、それにパラメディックの色を帯びた声が響く。鼓膜に焼付け、その彼女の荒がった暖かい吐息を
胸一杯吸い込むと、再び唇に吸い付く。
「…んっ……」
パラメディックはスネークの腕の中で悶える。
自分を求めるスネークの接吻は、あまりに激しかった。だが、彼女はそれでも構わなかったのだ。
微かな明かりの中、二人の手は荒々しく互いを模索し始める。自分の手よりも一回りも大きなスネークの手が、
スカート越しに臀部を弄る。やがてその手が股下を這い回ると、唇の隙間から発せられた声が上擦る。
「あ……ふあうっ…」
彼女はその手を離すまいと、太腿をきつく閉じてスネークの手のひらを締め上げた。
それに応えるように自らもスネークの髪をかき乱し、舌を絡み合わせていく。呼吸が苦しい。唇と唇の隙間に
時折出来る隙間から、僅かな酸素を求める。
それも一瞬のうちで、結局はスネークが許さず再び隙間を埋められていく。何度も、何度も。
「くは……ふ、ぅうん…っ…む…うっ…んん…」
頭が真っ白に染まっていく。頬が色づく。息が熱を帯びる。力が抜ける。何も考えられない。
…いや、何も考えなくてもいいのだ。今は。この時間だけは。
ふいに、二人の唇の間に光る唾液の糸が引かれ、顔が離れる。スネークは彼女を抱きすくめたまま、パラメディックは
彼に抱かれたまま、乱れた息で何かを探るように注意深く互いの瞳を見つめあう。そして確認が済むと
、いつ終わる事無く二人は唇を重ねあった。
───どれだけの時間が過ぎたのか。
そこに停めてあった車は、いつしか揺れ動く事を止めていた。
窓ガラスはほんの少しだけ白く曇り、中の様子はよく見えない。
車内は沈黙していた。
暗がりの中、二人は静かに唇を離すと、パラメディックは僅かな先に映る隻眼の男に残された瞳を覗き込む。
ゆっくり、再び確かめるように。
乱れた呼吸を少しずつ整えていく。
頬に添えられた大きな手から、確かな温もりが伝わってくる。そして細められたその瞳は、吸い込まれそうな程
大きく感じられ、同時に自分も、そして誰も知らない彼の内に隠されたものが、時折姿をちらつかせた様な…
そんな気がしたのである。
視線を逸らせなかった。今逸らしたら、それを見逃してしまうかもしれない。
彼の、彼の中の、その”何か”を。
「…パラメディック」
スネークが言葉を紡ぎ出す。暖めておいた、その気持ちを乗せて。
「君を送るとは言ったが…俺がこの後どうするかは言ってないよな?」
「……え」
「…俺はこの後、君の部屋に行く……と言ったら?」
顔を真っ赤に染めて、パラメディックがこくりと頷くのを僅かな笑顔で確認する。
「…了解」
スネークはパラメディックの頭を軽く撫でるとシートに座りなおし、再び車のエンジンを唸らせて、夜の道を走り出した。
パラメディックは窓の外を見つめる。そっと、ガラスの上に手を重ねた。
ガラスの中に映りこんだ、彼の頬に手を添えるようにして。
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