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神室町に平和が戻った。まだ建設途中の神室町ヒルズから、無事生還した桐生は、自分がどうやって戻ってきたのかは覚えていない。
それもそのはず、あの爆弾のカウントダウンが終わった直後、爆発しなかった事に安堵した桐生は気を失ってしまったのだから。
そのまま病院へ直行となり、桐生はクリスマスをベッドの上で過ごす事になった。

冬の日は落ちるのが早い。冬至を過ぎたばかりの街は、どんどん暗くなっていく。
そんな中を、遥は一人歩いていた。周りは華やかなクリスマスカラーに彩られ、イルミネーションが休み無く輝いている。待ち行く人たちは皆、とても幸せそうに見えた。
(あーあ。クリスマスは無しか)
手をつないで歩いていく恋人たちを見て、遥は心でため息を吐く。去年のクリスマスは、それどころではなかった。だから、今年はと思っていた。大好きな桐生と過ごすクリスマスを、楽しみにしていたのに。
意識こそ回復したが、桐生はまだ安静を求められている。今の遥に出来る事は、毎日ヒマワリから見舞いに行く事だけだった。

病院は、面会の人で混んでいた。休憩室の小さなツリーが可愛らしい。
面会者名簿に名前を書いて、いつものようにナースルームから二つ隣の病室へ行く。
個室の、常に全開になっているドアを軽くノックして、遥は顔を覗かせた。
「おじさん」
小さく声をかけてから、衝立の向こうに回りこむ。桐生は、ベッドを起こして、雑誌を読んでいた。
「おじさん、具合はどう?」
遥は丸椅子を引き寄せて、ベッドの側に座る。桐生は雑誌を脇において
「ああ。もう大丈夫だ。それより、ヒマワリには馴染めたか?」
桐生が心配するのは、常に遥のことだけだ。心配をさせてはいけないと笑顔で
「うん。たった一年だもん。みんな知ってるしね」
「そうか」
息の多い、静かな声に安堵が含まれていた。毎回、桐生は遥の安否ばかり口にする。そんなに心配しなくても、とも思うが、くすぐったいような嬉しさもあった。
だが、今日は違う。12月23日の今日を、本当ならあの家で、あの部屋で過ごしたかったという思いがどうしても首を持ち上げてしまう。
「おじさん。今日、クリスマスイブイブなんだよ」
そんな言い方をすれば、桐生は目を細め
「そうだな。もう、そんな時期か」
ため息の入る言葉に、遥は思わず口を尖らせた。
「今年は、おじさんと二人で過ごすクリスマスだったのにな」
そんな事を言っても仕方ないのに、と分かっていても、口に上ってしまう言葉。こぼれた瞬間、桐生は目を閉じ、項垂れて
「すまない」
小さく言われて、遥はしまったと思った。こんな事を言うつもりじゃなかったのに、もう取り返しがつかない。
「そんなつもりで言ったんじゃないの。おじさん、ゴメンね」
「遥・・・」
見つめてくる深い色の瞳に、遥は精一杯の笑顔を浮かべた。
「プレゼント、もらえるかな?って思ってたから。ヒマワリだとプレゼント無いでしょ?だから期待してたの」
えへっと、子供っぽく舌を出す。桐生の目が優しくなった。
「遥は、プレゼント、何が欲しかったんだ?」
「え?」
遥は言葉が止まった。そもそも、欲しいプレゼントなんて無い。モノじゃなく、桐生の時間が欲しかった。遥はしばらく考えて、あることを思い出した。確かにこれならお金はかからない。でも、頼むのは怖い。
「言ってみろ」
桐生が顎で促してくる。遥は一瞬視線を外し、それからもう一度桐生を見た。
「じゃあ、おじさん。私にキスして」
「え?」
今度は、桐生が聞き返す。驚きのために見開かれた目に、遥は硬く手を握り、勇気を出して言葉を紡いだ。
「私ね、神室町ヒルズの上におじさんがいた時、ヘリコプターに伊達のおじさんと乗ってたの。その時見ちゃった。おじさんが薫さんとキスしてるの」
「なっ!」
桐生が息を飲む。一瞬にして顔色が真っ青になり、次に耳まで真っ赤になった。
「見てたのか?」
「うん。見ちゃった」
あの時、桐生は寂しげにヘリを見上げていた。そして両腕に抱いていた狭山薫と、キスをしたのだ。
でも、と遥は思う。薫より、自分の方がずっと桐生を好きだと。自分の方がもっと近くにいて、もっと大切に想っていると。だから、自分にもキスして欲しい。
「ねえ、おじさん。別にお金がかからないから、いいでしょ?」
自分の気持ちを、冗談で誤魔化そうと遥は言う。
「遥。そういう問題じゃないだろう?」
眉間に皺をよせて、桐生が答えた。
「でも、薫さんとキスしたんでしょ?」
遥は更に問い詰める。
「いや、まあ・・・んん・・・」
口ごもる桐生は、俯いてしまった。こういう時は、もう一押しだと遥は経験からわかっていた。だから
「おじさん。私にも、キスして」
ね?と最後に言葉をつけて微笑むと、桐生は大きくため息を吐いて
「わかった。じゃあ、目を閉じろ」
低く甘く響く声に言われて、遥は姿勢を正すと目を閉じた。両肩に、桐生の熱い大きな手が添えられて、遥は心臓が早鐘を打つのを聞いた。こめかみが痛いほどドキドキして、膝の上に置いた手で、膝を強く掴む。ゆっくりと近づくタバコの香りと体温に、身を硬くする。
「!」
感じたのは、右の頬だった。一瞬、柔らかいものが触れて、すぐに離れていく。
「おじさん」
遥は目を開けて、桐生を見た。桐生は少しだけ笑って
「そういうのは、もっと大人になってから、本当に大切な人とするんだ」
「・・・うん」
遥は静かに頷いた。それから笑顔で
「もっと大人になったらね」
今はこれだけだけど、もっと大人になったら、本当に大切な、大好きなおじさんにキスしてもらおうと、心に誓った。




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